でも、ボクは後悔してないよ。それこそがボクの存在理由さ。きっと、世界は混乱する。それは常界だけじゃなく、神界も。アーサー、キミはいったいどんな役割を担うつもりなんだい。ボクはそれが知りたい。それさえ知ることが出来ればいいんだ。
これでボクの話はお終いさ。だから、キミの話を聞かせてよ。ううん、違ったかな。そうさ、キミの物語を見せてよ。一番の特等席で。だから、安心してね。いつだってボクはキミのすぐ側にいるんだから。ずっと、いつまでも、きっと、終わる刻も―。
15年の果て、夕日に溶けたふたり。一瞬の隙に逃亡を図ったアツヨシ。だが、今年こそはと再び赴いた約束の桜の下。遠くからでも香る甘さ。待ち焦がれていた女。いざ、真剣勝負。引き抜いた刀。そんな刃物に臆することなく走りよる少女。そして転ぶ。決まったダイレクトアタック。こうしてふたりは結ばれました。
聖魔王の指示の下、水魔獣士を常界へと案内した水波卿。それにしても長年の潜入任務お疲れさま。で、巡り巡って、また彼女の下に派遣されるわけだね。かつての教祖であり、現聖常王である者の下に就いていたのは聖魔王直々の命令。まぁ、キミが一番の適任だね。そんなこと、言われなくても誰よりわかってるさ。
聖常王と共に残った四大従者。対して、神界へと向かうアカネ、アオト、ミドリ、ヒカリ、ユカリ、ギンジ。ライル、リオ、三魔獣士、旧教団員。少ない戦力であり、大きな覚悟。そして彼らとは別に、また別の動きを始めた者たちも存在していた。
辿り着いた神へと抗う塔。違う、ここはあのときの塔じゃない。そう、かつての塔とは様変わりしていた。そして、アイツもいないみたいだ。見当たらないギルガメッシュの姿。みんな油断するなよ。開かれた塔の扉、そこには無数の怨念が蠢いていた。
踏み入れた塔。灯されていた明かり。僕はこの場所を知っている。アオトが口にした言葉。あぁ、よく似ているな。口を挟んだのはショクミョウだった。ただ静かに辺りを見回すサフェス。そう、かつての教団を模していた内部。気をつけろ、誰かいる。
直後、明かりに照らされたのは横たわった人影だった。どうも先客がいるみたいだ。油断と警戒、切り替わる感情。そして、無数の人影は起き上がる。腕が折れようと、足が折れようと、ただ意志もなく起き上がる。どうやら教団員が地に堕ちたようだ。
虚ろな目で襲い掛かる無数の教団員たち。すべては終教祖の為に。虚ろな瞳、そこに意志は存在しない。コイツらの後始末は俺たちがする、だからオマエらは行けよ。ショクミョウとサフェスは、かつての同胞たちへ終わりを与える選択をしたのだった。
無数の教団員が蠢くフロアを抜けたアカネたちは息をついていた。それはライルも同じだった。そして、ついた息の意味を誰よりも理解していたリオ。そんな瞳で、俺を見るんじゃねぇーって。あなたのいつもらしくない顔が、ただ珍しかっただけよ。
でも、安心するのはまだ早いんじゃないかしら。その言葉が意味していたのは、塔へと侵入していた先客。近づく足音。一つ、五つ、九つ、十。そして最後の足音。計十一の影。やっぱり、先客はあなたたちだったのね。ふたりの嫌な予感は的中した。
姿を表したのはアーサーへの忠誠を貫き通した十一人の騎士たちだった。これが僕たちの選択だ。次々に起動されるドライバ。君たちが彼の敵になるのであれば、僕たちは君たちの敵になる。僕たちの王は、いまも、昔も、これからも、彼ひとりだけだ。
対峙する想い。話をするだけ無駄よね。ミレンが天高く掲げた槍。各員に告ぐ。それぞれの想いをぶつけなさい。訪れる緊張。大丈夫、私たちは強い。だって、あの人が選んだ私たちなんだから。王を守る騎士として、恥じない戦いをすればいいだけよ。
君の相手は僕がするよ。ライルが大剣を構えると同時に目にも止まらぬ速さで薙いでみせたアサナ。一度アンタとは、戦ってみたかったんだ。体勢を崩しながらも、その攻撃を弾いたライル。アンタの話は聞いてたよ、随分と古い付き合いなんだってな。
僕はただ、彼に幸せになってほしいだけです。それはアーサーの幼き日を知っているからこその想い。杖に集積された風は荒れ狂う。だったら、俺は俺の幸せのために、アイツを殺すだけだ。ライルを縛り続ける鎖、それがいまも彼のすべてだった。
続く攻防。力任せに振られる大剣をいなした風。そして、風が解いた大剣を握るライルの右手。僕の勝ちです。振るわれる杖。次の瞬間、流れ出す赤い血。悪いな、武器はこれだけじゃないんだ。アサナの体を貫いたのは、ライルが手にした銃輪だった。
ここは日差しの温かな聖導院。僕の名前はアサナ。少年は少年へ手を伸ばした。君の名前は。見た目とは裏腹に、少し緊張した面持ちの少年。俺の名前はアルトリウス。そして握り返した手。もしわからないことがあったら、僕に何でも聞いて下さいね。
アサナは聖導院の職員から、アーサーの事情を聞かされていた。僕が力になってあげないと。それは心からの善意。少し年上のアサナなりの距離感、それは少し遠くから見守ることだった。また、その距離はアーサーにとっても心地の良いものだった。
少し危なっかしく、ついつい目が離せなくなる。アーサーはそんな子供だった。そして、アサナはいつも優しく見守っていた。怪我をしたら手当てをした。わからなければ勉強を教えた。それはアーサーが常界へ向かってからも、変わることはなかった。
評議会入りしたアーサーの活躍は天界のアサナの耳にも届いていた。そして、いつしかアーサーはアサナにとっての憧れにも近い存在となっていた。だが、そんなアサナにアーサーは言った。俺にとって君は君だけだ。いまも昔も、きっと、これからも。
僕は君に、生きる強さを教えてもらった。同じ天涯孤独の身でありながら、それでも強く生きるアーサーの姿。だから、僕は君の力になりたい。そして、アーサーが与えたマーリンというコードネーム。君は俺の部下じゃない。だけど、俺たちは仲間だ。
リオの前、立ち塞がったミレン。やっぱり私とあなたは、同じ道を歩むことは出来ないみたいね。無言で太ももの小刀に手を伸ばすリオ。さぁ、最後の戦いを始めましょう。この戦いは彼の為であり、彼の為じゃない。そうよ、彼を想う私たちの為に。
リオが周囲へと投げた小刀、そして展開された亜空間フィールド。そして生まれたいくつもの人影。そのすべてがリオの姿へと変わる。そして複数のリオは一斉にミレンへと襲い掛かる。私を誰だと思ってるの。あなたの戦い方は、すべて把握してるわ。
でも、腕をあげたわね。そこに存在していた無数のリオ。削られるミレンの体力。次で最後にしましょう。あえて受けた一撃。見つけたわ、本当のあなたを。一撃を受けていたのはリオも同じだった。どうして、わかったの。副官として、当然じゃない。
ミレンの右手が扉を4回鳴らした。失礼します。開かれた扉の先、そこは机がふたつだけ置かれた小さな執務室だった。本日からお世話になります、ミレンと申します。近づく人影。伸ばされた右手。そして、その手を握った右手。始まりは右手だった。
アーサーとミレン、ふたりだけの部署。宛がわれる仕事は小さなものばかりだった。だが、仕事に大小は関係ない。いつだってアーサーは真剣だった。そんなアーサーを支えるミレン。二人三脚の日々が育む信頼関係。そして小さな右手は、王の右腕へ。
アーサーが与えたコードネーム、トリスタン。アーサーがなぜ特務機関という組織を発足し、各員にコードネームを与えていたのか。そこには職務上の都合もあった。だが、ミレンは気づいていた。組織という家族を、名前を与える意味の本当の想いを。
ボスであるアーサーが前線へと赴き、トリスタンが執務室で指揮を執ることも多々あった。そして、トリスタンが思うことはいつもひとつ。どうか、みんな無事で帰って来ますように。そう、アーサーと選ばれし12人の居場所を守りたいと思っていた。
机がふたつだけ置かれていた執務室は気がつけば13人座れる円卓が収まるほどの広さへと。そして、その円卓に集いし王と12人の騎士。アーサーは告げる、ディバインゲートへ向かうと。行われた晩餐、それが13人全員が揃いし最後の晩餐だった。
じーさん、俺たちがアンタらと戦う意味はねぇ。だから引いてくれ。ギンジはブラウンと対峙していた。あの頃の、力まかせの少年が嘘のようだ。随分と大きくなったのだな。少し嬉しそうなブラウン。だがな、私たちには君たちと戦う理由があるんだ。
剛と柔。ぶつかるふたつの力。己の力を過信するな。それはかつての教え。そして、劣勢なのはギンジだった。どうして、俺が押されるんだ。答えるブラウン。私には迷いがない。君には迷いがある。戦場に迷いを持ち込むな。それがいまの教えだった。
なにを迷っている。防戦一方のギンジ。わかってる、わかってるよ。やりきれない想い。君が正しいと思うのなら、私を倒し、そして進めばいい。武器を手にしたのならば、その覚悟をみせてみろ。戦場に迷いを持ち込むな、それは最後の教えとなった。
昼時を過ぎ、人のいなくなった世界評議会の食堂、窓際の席、そこはアーサーの特等席だった。ただ注文された料理を作るブラウンと、ただ注文した料理を口にするアーサー。ふたりのあいだに会話はない。そんな関係こそが、ふたりの始まりだった。
何者かの推薦による評議会入りのアーサーが妬まれるのは当然のこと。彼を良く思わない者もいた。そしてある日、食堂で起きた小競り合い。アーサーに非はない。だが黙って殴られるアーサー。そんな小競り合いに割って入ったのはブラウンだった。
老いぼれが出しゃばんな。矛先はブラウンへ。だが、元警備局のブラウンの腕は確かだった。一瞬にして静まる食堂。ブラウンはアーサーへ問う。なぜ抵抗しなかった。そこで初めてアーサーは口を開いた。小競り合いなど進む道の妨げにしかならない。
そしてアーサーは少年のような笑顔を浮かべた。あと、もうひとつ。俺の進む道に、じーさんが必要だ。アーサーはブラウンの一撃を見逃さなかった。だが、私は若者の未来の為に。だったら、その腕で未来を示せ。その一言がブラウンの人生を変えた。
与えられたコードネーム、ガレス。料理の腕は特務機関入りしたあとも健在だった。ディバインゲート遠征前の晩餐、用意した心温まる料理。いつかまた、このスープが飲みたいな。そんなアーサーの言葉から、ガレスは覚悟を感じ取っていたのだった。
いつかのように、ぶつかり合う炎と炎。あなたは私にとって、ライバルであり、友でした。アカネと対峙したレオラ。そして、最後は敵です。だけど、俺はいまでも。アカネの言葉を切り裂く銃剣。私は、私の想いを信じる。さぁ、全力で勝負です。
覚悟の宿ったレオラの瞳。そしてアカネは説得を止めた。レオラの剣圧が圧倒する。やっぱり、強くなったんだな。だが、返されたレオラの言葉。あなたの炎はそんなものじゃないはずです。そう、確かにアカネの火力はいつかと比べ格段に落ちていた。
だが、その理由を語ることなく応えるアカネ。これが本当の俺だ。だが、その言葉は嘆きではなかった。それでも俺はここへ来た。だから、ここで引くわけにはいかないんだ。生じた大きな爆発。煙が止むと、そこには地に膝を着いたレオラがいた。
そこまで。試験官の声が響いた。だが剣を止めることのないレオラ。そこまで。再び強い声が響いた。我に返るレオラ。また、やってしまいました。レオラは中等部にも関わらず、確かな剣技を持っていた。だが集中すると周りが見えなくなるのだった。
何度目かの評議会採用試験。試験官としてレオラと対峙したアーサー。ただ、一途に想いをぶつけるレオラ。アーサーは一太刀一太刀を丁寧に受け止める。だが、アーサーが太刀を受けずにかわすと、レオラは場外へ足を踏み出してしまったのだった。
張り出される合格者の番号。そこにレオラの数字はなかった。それは当然だった。やっぱり、私は向いてないのでしょうか。地面を見つめるレオラ。視界に入る革靴。見上げるとアーサーがいた。これから宜しく頼む。おいつかない思考。試験は合格だ。
アーサーの独断により、レオラは評議会入りを果たし、ベディヴィアの名前を与えられた。そして、ベディヴィアの人生は変わった。あるときはアーサーの剣となり、あるときはアーサーの盾となる。ベディヴィアの胸は、アーサーでいっぱいだった。
ベディヴィアはアーサーの側でアーサーを想い続けていた。自分の恩人だから。頼れる上司だから。だが、どれもしっくりこない。最後の晩餐のときも、その答えはわからなかった。だが、それでもベディヴィアはアーサーのことを想い続けていた。
この者が侵入を試みた反逆者です。王の間、拘束されたサトスは目の前の聖精王への殺意を剥き出しにしていた。あんたは私がこの手で殺す。それは最愛を奪われた悲しみ。そして、聖精王はこう応えた。許してくれとは言わない。だが、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ。嘘偽りない瞳は小さな復讐劇の幕を下ろした。
せっかくなら、可愛い子がよかったな。アミラスが溢したため息。安心しろ、たっぷり可愛がってやるからな。ローガンが放つ砲撃。始まった戦い。いくら火力が高くても当たらなきゃ意味ないって。アミラスは半目のまま、その砲撃をかわしてみせた。
止まることなく吐き出される砲撃。アミラスはローガンの間合いに踏み込むことは出来なかった。随分と必死だね。アミラスの挑発。仕事に私情を挟むなんて、ナンセンスだよ。ローガンはこう答えた。これは仕事じゃない、俺の意志で戦っているんだ。
意志の強さは強い。だが、それでも覆すことの出来ない純粋な力強さ。悪いね、こうみえても僕、君の何倍も生きているんだ。覆すことの出来ない実力差。でも、ここまでてこずると思わなかったよ。ちょっとだけ、見直した。だけど、もう終わりだよ。
飛び交う銃弾と悲鳴。世界評議会の反対派の過激勢力による無差別テロ。ローガンは評議会の提携先である民間軍事会社からその現場に派遣されていた。そして、ローガンに下された命令は、人質を気にせずに殲滅せよ、という無慈悲な命令だった。
首を縦に振ることの出来ないローガンは気づいていた。人質の事実は隠蔽され、テロ鎮圧に成功とだけ報じられる未来を。慎重にテロリストだけを狙撃する。人質に傷ひとつつかないように。そんなローガンの背後から聞こえた声。命令と違うようだな。
声の正体はアーサー。そして、アーサーは言う。俺が人質を解放する。だからオマエは俺を援護してくれ。返事を待たずに先陣を切ったアーサー。夢中で援護をするローガン。アイツは誰なんだ。彼は私たちのボスです。ベディヴィアはにこりと笑った。
無数の犠牲を出しながらも、テロは鎮圧された。そして、当然のごとく民間軍事会社へ退職届けを叩きつけたローガン。すがすがしい気持ちでオフィスを出ると、そこに待っていた4人。俺たちがオマエを歓迎する。さぁ、もうひとりを迎えに行こう。
最後の晩餐、パロミデスのコードネームを与えられたローガンは豪快に酒を飲んでいた。今日という日を楽しもう。明日のことは忘れて。パロミデスはすでに覚悟を決めていた。それは、新しい居場所を、新しい自分を与えてくれたボスへの忠誠だった。
ここはお遊戯会じゃないんだ。フェリスを前に、アストは槌を構えようともしなかった。私は確かに子供だよ。そして変わるフェリスの表情。だけどね、私だって騎士のひとりなの。振り上げた大きな銃斧。だから、覚悟するのはあなたの方なんだよ。
フェリスの一撃は、油断していたアストの体勢を崩すには十分だった。前言撤回だ、全力でやらせてもらう。体勢を立て直したアストが構えた鎚。ぶつかるたびに響きわたる重厚な金属音。フェリスはその小柄な体を活かし、アストを翻弄するのだった。
だが、それでもフェリスは幼い少女。乱れる息、流れる汗、もつれる足。もう止めておけ。アストが差し出す掌。オマエは十分に戦った。だが、その手を取ろうとはしないフェリス。まだ、戦える。それなら、ちょっと眠ってな。アストの拳は放たれた。
世界評議会の反対派が引き起こしたテロ事件の現場。なにが起きているのか理解が追いつかず、ただ目の前の非現実を見つめていたフェリス。自分が人質のひとりであることすら、理解出来ずにいた。そして、フェリスが捕らわれた建物で爆発が起きた。
爆発は自爆を企てたテロリストによるものだった。間一髪、建物へ飛び込んだアーサー。だが、次々と起こる爆発。どうか、この子だけは助けて下さい。アーサーにフェリスを託した両親。崩れる建物から抜け出せたのはアーサーとフェリスだけだった。
揺れる炎の中、その建物は原型を留めてはいなかった。そして、ただその炎を見つめ泣きじゃくるフェリス。そんなフェリスを優しく抱きしめたアーサー。俺があと少し早ければ。そして、そんなふたりのやりとりを、ローガンも見つめていたのだった。
フェリスを保護し引き取ることに決めたアーサー。もちろん幼い彼女を戦わせるつもりなどなかった。だが、彼女には沢山の家族ができ、みんなと一緒に戦いたいと思うのは自然なことであり、彼女の初めてのワガママをアーサーは受け入れたのだった。
おいで、ガウィ。アーサーはフェリスにもコードネームを与えていた。それは騎士のひとりでありたいという彼女の気持ちを尊重したからこそ。そして、ガウェインは大好きなパパの膝へ。最後の晩餐のときも、そこはガウェイン専用の特等席だった。
女王さまが、前線に立つだなんて立派なもんだな。ロアは鎌を構えながら口にした。あなたたちの王さまだって、前線に立っていたでしょう。対するユカリも鎌を構えていた。あぁ、そうさ。俺たちの王さまは、いつだってその体で戦っていたんだ。
対峙した常闇の死神と目覚めた獅子。ここで会ったからには、俺たちは敵同士だ。互いの鎌が狩りとろうとするのは、互いの想い。これでもね、私は彼を尊敬していたのよ。女王が述べた、かつての王の在り方。だから、いまの彼を許すことは出来ない。
あいつのことがわかるなら、あいつがなにも考えずにあんなことすると思うのかよ。問うロア。思わないわ。否定したユカリ。だけど、彼は神へ加担した。それは揺るがない事実。私はそんなに大人じゃないの。その復讐心は、獅子の咆哮を切り裂いた。
常界に蔓延る麻薬の取引現場に乗り込み、犯人を追い詰めたのは警備局員のロア。そして、怒りに任せて突き出した槍。だが、ロアの槍を伝い流れた血は犯人の血ではなく、犯人に盾にされた友であり同僚の血だった。それは事故だった。命は散った。
提出された退職届けが受理されるのを待たずロアは警備局から姿を消した。ただ自らの手で友の命を奪ってしまったという後悔だけを胸に、死んだように生きていた。そんなロアに退職の話を正式にしたいと、世界評議会から呼び出しがあったのだった。
そんなロアを待っていたのは警備局長ではなくアーサーだった。不機嫌なロアと、上機嫌なアーサー。これを修理しておいた。アーサーが渡したのは、友の形見である鎌型ドライバ。このドライバの新しい名はロディーヌ。これは過去じゃない、未来だ。
想い出が汚された。ロアはそう思い、アーサーへの怒りをあらわにした。あぁ、その顔が見たかった。そして、戦いの果ての勝者はアーサー。友を想うのであれば、もう一度立ち上がれ。そして、アーサーはロアにユーウェインのコードネームを与えた。
最後の晩餐、ユーウェインはいつも通り機関に馴染むきっかけとなった新しい悪友であり同僚である男の隣に腰をかけていた。そして、もう一度立ち上がるきっかけをくれたアーサーと飲み交わす酒を楽しんでいた。あぁ、俺はもう眠ったりしねぇよ。
久しぶりの勝負だな。人差し指を支点に回された二丁の銃。対するは光輝く大剣。対峙したランとヒカリ。お前はなんとも思わないのかよ。ランの挨拶代わりの銃弾。アイツは、お前の兄貴なんだろ。銃弾を弾いたヒカリ。だからこそ、私は止めたいの。
なにか、事情があってあんなことしたと思う。だから、きっとみんな理解してくれると思うの。ヒカリはアーサー処刑組にいながらも、アーサーを信じていた。世の中、そんなに甘くねぇよ。ごめんなさいで済む話なら、いま俺が立ち塞がってねぇって。
ヒカリを追い詰めるラン。俺は無駄に生死の境を彷徨っちゃいないんだ。距離が離れれば銃弾を撃ち込み、近づけば銃の刃で切りつける。そして、ヒカリのこめかみへと突きつけられた銃口。だけどさ、どこの世界にボスの妹を殺す馬鹿がいるんだよ。
アーサーの執務室へ、トリスタンが案内してきたのはラン。ちっす、今日から異動になりました。元査察局のランです、宜しくおなしゃーす。目を合わせることもなく、適当にうわべを述べる。査察局長は勤務態度の悪いランを押し付けたいだけだった。
だが、アーサーはランを歓迎し、パーシヴァルのコードネームを与えた。パーシヴァルはそんなアーサーを不気味がり、異動に異を唱えていた。案の定、真面目に仕事に向き合わないパーシヴァル。同期のユーウェインと共に仕事をサボる日々が始まる。
しびれを切らしたトリスタンはふたりを呼び出した。どうしてあなたたちがサボっていても、処罰が下されないか考えたことあるの。そう、ふたりが放棄した仕事は、すべてアーサーが片付けていたのだった。ボスは言っていた。それでも信じる、って。
なんつーか、悪かった。謝罪の言葉を述べたふたり。なんの話だか。知らないフリをしたアーサー。執務室をあとにしようとしたふたりへ背中越しの言葉。俺はオマエたちを信じる。そして、ふたりは振り向くことなく手を掲げ、親指を立てるのだった。
最後の晩餐の席でも、アーサーは光り輝いていた。そうさ、眩しいくらいに輝いてくれよ。それはパーシヴァルの冷やかしであり、心からの言葉だった。俺みたいなクズを受け入れてくれるボスなんて、アンタしかいない。ここが、俺の居場所なんだ。
キミみたいな綺麗な女性の相手が出来て嬉しいよ。ポストルがしならせた蛇腹剣。私は嬉しくないわ、いまどきロン毛の男なんて気持ち悪いわよ。ヒルダが引いた弓。ご忠告、ありがとう。一瞬にして詰められた距離。素直なキミのことが気に入ったよ。
誰かみたいなこと言わないで。慌てて身を翻したヒルダは距離をとる。ポストルの蛇腹剣が届かない場所へと。だが、それでも伸び続ける刃。ヒルダの放つ矢はことごとく避けられ、傷を与えることは出来なかった。まだ、逃げる力が残っているのかな。
立ち止まったヒルダ。この声が届きますように。天へ放つ想いを乗せた矢。王への遺言かな。歩み寄るポストル。許して、私の負けよ。ポストルへと抱きつくヒルダ。なんて、私は可愛い女じゃないの。そして天へと放った矢は涙のように降り注いだ。
アーサーたちは警備局と現場が重なることが多々あった。そんな重なった現場にいた警備局員の中にヒルダがいた。誰よりも文句を並べながら、誰よりも働いていたヒルダ。アーサーの瞳には、どこかヒルダがひとりで戦っているように映ったのだった。
アーサーへ臆することなく不満を口にしたヒルダ。あんたの部署の男ども、がさつ過ぎんの。あぁ、うちの自慢のクズ共だ。地位が上がるにつれ、イエスしか言わない存在が増えたアーサーにとっては心地よかった。オマエに、相応しい居場所がある。
もう、あんたにはなにを言っても無駄なのね。そして、異動と共にケイのコードネームが与えられたヒルダ。口の悪さは相変わらずだが誰よりも丁寧に仕事をこなしていた。口の悪さによる喧嘩は一部ではあるものの、それすらも微笑ましい日常だった。
また、ケイの悪口はいつも的を得ていた。鋭い洞察力と少しの思いやり、そして多くの自己主張が心の真ん中へと突き刺さる。君を選んだことに、間違いはなかった。そう、アーサーが求めていたのは、ただの上司と部下の関係ではなかったのだから。
口を開けば食事の文句やマナーの文句ばかり。だが、そんないつものケイの悪口も、最後の晩餐へ色を添えていた。もう、あんたたちといると、本当に疲れるわ。まぁ、飽きないけどね。ケイは肯定した。この円卓こそが自分の居場所だったんだ、と。
ライルという名の孤児がいた。ヴィヴィアンにとって、その孤児は都合の良い存在だった。そして、ライルはヴィヴィアンに引き取られたとき、幼くして運命が決定づけられていた。そう、このときから、ライルはアーサーという鎖に縛られていた。
それでも、ヴィヴィアンは愛を込めて育てた。だが思春期のライルにとって、本当の両親がいないというのは道を逸れるのに十分な理由だった。そして時は流れ、喧嘩、酒、女に明け暮れる毎日。そんな荒くれ者の噂がアーサーへと届けられたのだった。
常界の路地裏、出会ってしまったふたり。そして交された約束。いつか俺がオマエを殺す。あぁ、それまで俺は、誰にも殺されやしない。与えられたランスロットというコードネーム。こうして、危険をはらんだ9人目の円卓の騎士が生まれたのだった。
ランスロットは信じていた。アーサーの大それた言葉に嘘偽りはないと。だからこそランスロットはアーサーに従った。そして知ることになる自分の存在理由。幼き日から自分を縛り続けていた鎖。運命。コイツを殺すのは、俺じゃなきゃダメなんだ。
ヴィヴィアンとふたりで生きてきたランスロットにも居場所が生まれた。馴れ馴れしく接してくる同世代の同僚。無駄につっかかってくる生意気な弟分。その他大勢の仲間。アーサーを殺すと想いながらも、かけがえのない仲間たちが生まれたのだった。
まだまだ、こんなもんじゃないよ。オリナが振り回す二対の棍。私だって負けないんだから。ミドリが振り回す大きな棍。ふたりは戦いの中にいた。楽しそうにも見え、辛そうにも見える。ふたりとも、互いの感情を戦うことで上書きしていたのだった。
ミドリは葛藤していた。アーサーが世界の敵であること。そして、アーサーがミドリの大切な人たちの大切を壊している事実。私だって、アーサーさんを処刑したいわけじゃない。だけど、私たちが止めなきゃ、他に誰がアーサーさんを止められるの。
その言葉が聞けて安心したよ。だが、オリナは知っていた。アーサーのすぐ側で活動してきたからこそ、アーサーの処刑に意味があるということを。だからこそ、アーサーを渡したくはなかった。最後の力を振り絞ってでも、決して渡したくはなかった。
潮風が気持ちのいい極東国の南の離島。オリナは二対の棍を手に、真っ白な砂浜で汗を流していた。いい動きをしている。オリナに話かけたのは査察に来ていたアーサーだった。お兄さん、本島の人かな。これはこの島に伝わる伝統の武器と武術なんだ。
手合わせを頼めるか。アーサーの好奇心。別にいいけどさ、怪我しても知らないからね。純真無垢で迷いのないオリナの拳。そして、その拳を楽しそうに受けとめるアーサー。勝敗が決めたオリナの未来。外の世界には、こんなに強い人がいるんだね。
与えられたラモラックのコードネームと、新しい世界。ラモラックにとってはすべてが新鮮だった。自分よりも強い仲間たちと共に鍛練し、切磋琢磨する日々はラモラックに充実を与えた。そう、ラモラックにとって世界が広がり始めたのだった。
世界が広がれば、視野は広がる。同じ世界評議会という組織に属しながらも、そこには様々な考えが存在していた。存在する足の引っ張りあい。だけど、アタシはボスを信じてるよ。アーサーはラモラックにとって、世界の中心に存在していたのだった。
広がったラモラックの世界の中の小さな世界。それは円卓の席についた仲間たち。少しずつ歳をとる。だが、それでも変わることない関係。この広い世界に、信じ続けられる居場所が出来たよ。気がつけば、そこはラモラックの第二の故郷となっていた。
世界評議会の職員でアーサーを知らない者はいなくなっていた。査察局勤めのリオもアーサーをよく知る存在であり、アーサーをよく思わない存在だった。そんなリオに下されたのが私設特務機関への異動辞令。その裏側には大いなる力が働いていた。