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『俺は俺のためにギターを弾く、それが俺の信じるロックだね』なぜかギターに夢中になってしまったランスロット。愛器は金色のギターであり、実は育ての母から譲り受けたものだが、恥ずかしくて内緒にしている。実はタンバリンも得意であり、タンバリンを指で回す技術も育ての母ゆずりであることは内緒である。
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『テンポイント? ミリオンポイントの間違いじゃないかしら』その日、統合都市国際球技場は大歓声に包まれていた。それは、たったひとりの少女が起した奇跡。試合終了三分前、カナンはリストバンドを外した。ここからが本番よ。学生であり竜界選抜のエースは概念を超越した。ゆれるゴールネット、コールド勝ち。
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『もう少しだけ、ボクの遊びに付き合ってもらっていいかな』 そして、理事長であるロキは両手で指を鳴らした。卒業っていうのは、旅立ちのときなんだ。だから、ボクからみんなにエールを送るよ。ボクの遊びに付き合ってくれてありがとう。そして、これでもうボクらとはサヨナラさ。いつかまた、会えたらいいね。
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『そうだ、いいことを思いついた。学園に住めばいいんだな』 そして聖学に開かずの間が増えた。風紀委員室のすぐ隣り、倉庫として使用されていた部屋に掲げられた「サンタクローズの家」という謎の表札。届けられる朝ごはん、昼ごはん、夜ごはん。こうして、釘バットによる聖学取り壊しの危機は免れたのだった。
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『聖学には俺たちがいるってこと、忘れないでもらえるかな』 聖学に存在する様々な派閥。そのひとつに武闘派集団の紅煉愚連隊が存在していた。そして、紅煉愚連隊の切り込み隊長であるファブラ。だが、切り込み隊長であるにも関わらず、愚連隊で隊列を組むときは必ず前から3番目だった。背の順が存在していた。
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『……この制服はなんでしょうか、ちょっとよくわかりません』紅煉愚連隊の一輪の花、ニズル。なぜ一輪の花と呼ばれたのか。それは地面にひきずるほどの長いスカートが由来していた。そしてこの制服を与えた人物がいた。なぜ彼はこの制服を与えたのだろうか。愚連隊の背の順、その先頭はスケバンスカートだった。
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『フンっ、フンっ、フンっ、……フンっ、フンっ、フン、フ!』ウロアスが手にした100kgの鉄アレイ。いつなんどきも、総長を守るために体を鍛えておくのは当たり前のことだ。紅煉愚連隊、背の順4番目の筋肉。その筋肉は総長のためではあるが、実は総長に少し引かれていることを、彼はまだ知らないのだった。
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『ふぁっくゆーだぜ、このやろうども、おれさまはむてきだ』 誰にでも幼き日が存在するように、のちに紅煉愚連隊の総長になる男にも幼き日は存在していた。そう、聖門学園小等部の伝説に名を残した生徒ヴェルン。口を開けばスラング。だが、幼き日の彼は気づいていなかった。立てるべき指を間違えていることに。
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『これでオレは自由だ、自由からの卒業だ、マリッジブルー!』ついに迎えた小等部の卒業式。色々と間違えていることに気がつかないまま、ヴェルンは小等部を卒業することになった。彼はすぐに中等部が待っていることを知らない。束の間の春休み、自転車に跨り旅に出た。やがて沈む夕日、お腹が空いて帰宅した。
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『制服と言や、学ランに決まってんだろ、上等だぜコノ野郎』 聖門学園中等部へと進学を果たしたヴェルン。だが、なんのこだわりか、用意された制服ではなく、自分で用意した学ランに袖を通していた。そして、当然のように向かった屋上手前の踊り場。今日からここが俺サマの城だ。そして、ついに物語は動き出す。
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『あぁ、かかってこいよ。俺サマは逃げも隠れもしねぇから』 ヴェルンに戦いを挑み、敗れたファブラは配下となった。また、スポーツ万能のウロアスもヴェルンに敗れ、道を踏み外した。答案用紙を盗むことに長けた知能犯であるニズルもまた、ヴェルンに気に入られた。こうして、紅煉愚連隊は生まれたのだった。
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『俺サマたちこそが、この学園のテッペンに相応しいんだ!』 無事、4人揃って聖門学園高等部に進学を果たした紅煉愚連隊。そして入学式、一番に目指したのは屋上の踊り場。だが、そこには衝撃が存在していた。この学園、屋上への出入りが自由だと。その理由は屋上でいつも泣いている養護教諭がいたからだった。
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『紅煉に燃ゆる夕日に誓おう、俺サマたちの永遠の青春を―』 青春は短い。春が告げる始まり、夏が運ぶ喜び、秋に気づいた切なさ、冬の雪の明かり。やがて訪れた聖門学園の卒業式。前代未聞の、全学年、全生徒、全教員の卒業。俺サマたちは、ここで終わりだ。いつかまた、会えると信じているぜ。グッバイ、青春。
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なにをしてるんだい。ロキは夢中で鉛筆を走らせる神才へと声をかけた。やっぱりモノを作るのは楽しいね。神才が書き上げた一枚のイラスト。せっかくだから、君にもあげるよ。そして、あっという間に出来上がったパーカー。キミにはボクがこう見えていたのかな。パチン。悲しい顔のピエロは、とたんに笑いだした。
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もぉ、勝手にデザインいじらないでよね。マクスウェルは口を尖らせながらもオリジナルデザインのパーカーに袖を通した。うんうん。鏡の前、満足げな笑顔。神のみぞ知る、いい言葉だ。そして、神才は勝手にいじられたデザインのもうひとつに気がつく。神はキミを愛してる、って、本当に君は趣味が悪いんだから。
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金色の光が止んだとき、アカネは自分が生まれ育った家にいた。暖かな縁側、台所から響く包丁の音。そして、アカネが自分の死を直感したのは、目の前に懐かしい男が現れたからだった。久しぶりだ、アカネ。そこにいたのは、炎才パブロフだった。
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縁側に並んだ親子。ここはどこなんだ。きっとここが再創された世界、誰しもが幸せになれる世界……から、外れた例外の世界だろう。アーサーが下した世界の決定、それはディバインゲートを使用し、世界を再び構築すること。じゃあ、なんで俺は。
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なぜ、アカネが例外の世界に存在していたのか。それはきっと、オマエが知ったからだろうな。アカネが常界の始まりの地で知ったディバインゲートの真実。そう、扉そのものでもあるアイツが、オマエをこの世界へ隔離したんだ。次の季節の為へと。
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俺はそんなこと、望んじゃいない。俺たちは一歩ずつ、それでも前に進んできた。道を踏み間違えることだってあったよ。だけど、俺たちはイマを生きたいんだ。扉がもたらす未来なんか知らない。俺たちの未来は、俺たちが作っていくもんなんだから。
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パブロフが突き出した拳。派手に壊してこいよ、そのオマエの拳で。アカネが突き出した拳。あぁ、当たり前だ。茜色に燃える夕日が照らしだしたのは、親子によって交わされた最後の約束。これで、本当にお別れだ。アカネ、オマエはイマを生きろ。
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神は人々を愛している。ボクはボクなりに愛しているつもりなんだけどね。ニヤリと笑う右側の面。そう、愛の形はそれぞれである。そんな想いが込められたグレーのパーカー。どうだい、似合ってるだろ。そんな姿を見て、左側の面は呆れていた。
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すべては神のみぞ知る。そうさ、私は全部知ってるし、人間は全部知らないの。余裕の笑みを浮かべた左側の面。どうして右側の面が泣いてるのかって。単純で簡単な疑問。そんなの、デザインバランスに決まってるじゃん。神才はいつもの神才だった。
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キーンコーンカーンコーン。金色の光が止んだとき、鳴り響いたのは放課後を告げるチャイムだった。雨上がりの校庭に立っていたアオトとアリトン。いったい、僕たちは……。そして、そんなふたりに走り寄る少女。久しぶり。そこにはロジンがいた。
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この世界は、あったかもしれない世界だと思うんだ。仲良く歳をとり、仲良く学校へと通う双子の青年。そしていま、世界はそんな幸せの世界への再創の道を辿っているよ。いま、私たちが、ここで、こうしているあいだも、世界は終わろうとしている。
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破壊と再生、それは幾度となく繰り返されてきた歴史が証明していた。そして、君たちは選ばれた。再生された、再創された新しい季節を託したいと。そして、アオトは口を開いた。あの人はいつも自分勝手だ。僕たちは、そんなことを望んじゃいない。
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僕のせいで、弟の人生は壊れた。だけど、僕は壊してしまった昔の僕を否定したりしない。あぁ、だから僕は君に出会うことが出来た。そして、僕たちはともに過去を償う道を選んだ。やっぱり、ふたりは一緒だったんだ。もう、私が言うことはないね。
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人はやり直すことは出来ない。だけど、変わっていくことは出来るんだって、僕たちが証明してみせる。止まない雨がないように、いつか晴れ空は広がる。行こう、イマの世界へ。僕たちの生きてきた世界で、僕たちの足で、扉の向こう側へ行くんだ。
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ミドリの目の前に広がった金色の光景、それは竜界の幸せな日常だった。世界を統べる王がいて、王を支える家臣がいて、そして普通に暮らす竜たちがいる。そう、その当たり前の光景こそが、金色に輝く幸せであり、失われてしまった時間だった。
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ただ幸せな景色に心を奪われていたミドリを現実に引き戻した声。ねぇ、どうしてあなたが。そこにいたのはヴェルンだった。これが、世界の決定だなんて、粋なヤツだな。ヴェルンの口から語られる統合世界のイマ。あなたも、決定者だったんだね。
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俺たちは、幾度となく世界の崩壊と再生を目の当たりにしてきた。そうなるように動いてきた。だが、今回の世界は違った。だから俺は裏切ったんだ。俺たちが間違ってたんじゃないか、って。だから、人間のオマエに問いたい。イマの世界は好きか。
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そりゃね、やっぱり喧嘩もするし、争いごとだって起きるよ。でもね、そうやって私たちは生きてきた。沢山の人と出会った。みんな、一生懸命に生きていた。後悔だってするよ。でもね、その分きっと強くなれる。だから私は好きだよ、イマの世界が。
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不思議だな、そんな簡単な言葉に救われるなんて。ヴェルンがこぼした本音。だが、案外そういうもんかもしんねぇな。そしてヴェルンは背中を向けた。早くそっから出て来いよ、俺様はひと足先に行ってるからな。もう、ちょっと待ってくださいよー。
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晴れ渡った青空、色鮮やかな花が咲き乱れていたのは天界の美宮殿の空中庭園。流れてくる耳に心地良い音楽。そんな庭園の中心にヒカリはいた。そして、そんなヒカリへと歩み寄る三人の男女。そろそろ、お昼にしましょうか。そこには幸せがあった。
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紅茶を注ぐオベロン。料理を広げるティターニア。我先にとフルーツに手を伸ばしたモルガン。さぁ、みんなで食べましょう。存在しなかった家族の時間。ねぇ、なんでかな。なんでみんな気づかないの。そう、ヒカリは大きな違和感に気づいていた。
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どうして彼はここにいないの。もうひとりの血の繋がった兄、アーサーはその場にいなかった。そして、違和感を口にすると同時にオベロンとモルガンは姿を消した。これがきっと、彼の知る幸せなんです。そう口にしたのはティターニアだった。
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彼はあなたに次の世界を託したかった。だから、こうして隔離した。そして、優しい夢を見せた。ティターニアは語る。でも、それって……。ヒカリは気づいていた。そうです、きっと彼は、最後にあなたに選ばせたかったんでしょう。どうすべきかを。
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ヒカリの答えは決まっていた。私、何度も考えたんだ。いったい、幸せってなんなんだろう、って。きっと、幸せの形っていっぱいある。でもね、ひとつだけ確かな答えを見つけたよ。幸せは自分の手で、自分たちの手で掴まなきゃいけないんだ、って。
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私はここを知っている。魔界の深い深い森の奥、ふたりだけの特別な場所。だけど、どうして私はここに。その答えはすぐにわかった。ユカリ、一緒に遊ぼう。ユカリの許へ現れたのは、幼き日のヴァルプルギスだった。私たちだけの、特別な場所よ。
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お揃いの紫色のストールが包み込んだのはふたりだけの特別な時間。触れ合う手のひら。だが、決して感じることの出来ないのは温もり。私は、この世界にしか存在出来ないみたいなんだ。そう、優しすぎた時間は、残酷すぎる時間でもあったのだった。
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だから私は、最後にユカリにお願いをしたいの。ヴァルプルギスの言葉に黙って頷くユカリ。ねぇ、いまのユカリには、ユカリのことを大切に想ってくれる人がたくさん出来たよ。だから、そんな人たちのために生きて欲しい。私のためじゃなくて、ね。
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私はね、もう過去の存在なんだよ。思い出なんだ。だから、もう私のために涙や血を流さないで。それでも行くと言うのなら、ユカリはユカリの人生を生きて欲しい。ユカリを大切に想うみんなを大切にしてあげて。それが、私からの最後のお願いだよ。
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思い出は永遠であり、色あせることのない金色。そう、私はユカリの一番の宝物。それだけで、私は幸せだから。ヴァルプルギスは笑顔だった。ありがとう、私の宝物。さようなら、私の宝物。そしてまた、ユカリも笑顔で幼き自分へと別れを告げた。
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そこにはなにもなかった。空っぽだった。ギンジは立ち尽くしていた。だが、灯った小さな炎。あぁ、俺はオマエから真っ直ぐってやつを教えてもらったんだった。なにもない俺に火をつけてくれたのはオマエだったんだ。そして、ギンジは歩き始めた。
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歩き始めたギンジを打ち付けた雨。だが、決して動揺することのないギンジ。優しさってやつは、オマエがいたから備わったのかもしんねぇな。そこには誰もいない。だが、ギンジには見えていたのだろう。共に歩んできた、大切な友と呼べる存在が。
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歩き続けるギンジを吹きつける風。知ってるぜ、いつだって動かなきゃなにも始まらないって。行動力はオマエが教えてくれたんだ。そしてギンジは走り出す。こんな場所で、道草くってる場合じゃないんだ。少しでも前に、それがいまのギンジだった。
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そして、走り続けるギンジの前、眩しい太陽が昇る。ありがとな、オマエの笑顔にはいつも救われてた。そうだ、楽しいときは笑えばいい。辛くたって、笑えるなら笑えばいい。俺のことだって、笑いたきゃ笑えばいいさ。俺は恥じたりなんかしないぜ。
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やがて太陽は沈み、夜が訪れる。だが、不安がギンジを襲うことはなかった。冷静さは、オマエがいたからか。ギンジが振り返った大切な仲間たち。みんな、すぐそっちに戻るからな。あぁ、そうさ、俺はみんなと一緒に、イマを生き抜きたいんだ。
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そこには6つの扉があった。結局、アタシはこっち側よね。クランチは扉に手をかざした。アタシが開くのは錠だけ。出てくるかどうかは、彼次第だから。えぇ、それで構わない。だって、きっと彼だもの。ガチャ。ほら、言ったじゃない。ね、アカネ。
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私も彼を信じています。コーラスが錠を外した扉。えぇ、アタシも信じてるわ。そして開かれた扉。だけど、思ってたよりもずっと早かったみたいね。ただいま。アオトとアリトンの帰還。いま、世界は……。ちょっと待ってなさい。もうすぐ、揃うわ。
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フランジャが開けた錠。ただいま。間もなくして出てきたミドリ。って、この人たちは。初めてみる調聖者たち。私たちは託されたのよ、アンタらのよく知る神様に。そしてジャンヌは代弁する。アンタたちを信じてた神様、覚えてるかしら、観測神よ。
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続く帰還。ええっと、ただいま。ヒカリが浮かべた笑顔。観測神が用意をしていた出口。だけど、彼女はいったいどこに。神様たちにも、色々とあんのよ。因縁の戦いってやつじゃないかしら、そう、刻を司る戦いよ。っていうか、ここはどこでしょう。
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ユカリの帰還。あら、みんな早かったじゃない。一瞬生まれる安堵。で、早速説明してもらおうかしら。ジャンヌへと詰め寄るユカリ。もう、わかったわよ。説明を始めるジャンヌ。ここは刻の隙間、観測神のお膝元よ。で、アンタらを待ってたの。
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ジャンヌから伝えられた神々の確執。神界を支配しているのは北欧の神々。その他の神々は肩を持つ者もいれば、中立の者も、対立する者もいるの。ガチャリ。一斉に扉を振り返る。あれ、みんないたのか。そして、全員が帰還を果たしたのだった。
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続けるわよ。で、世界の決定によって、統合世界を壊すという決断が下された。趣味が悪いわよね、ギリギリまで引っ張っておいて、このタイミングでその決定を下すだなんて。まぁ、その方が次の再生された世界はより高いレベルになるでしょうけど。
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って、もう知ってそうな顔ね。そう、アカネたちはすでに知っていた。下された世界の決定を。それじゃあ、いま統合世界は。急に曇り始めたジャンヌの表情。すでに交戦状態よ。主戦場は常界、すでに神々が侵攻を開始している。だから、急ぎなさい。
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アタシがみんなを連れて行くわ。もう準備はいらないわね。だが、アカネたちには理解出来なかった。どうして、アンタが俺たちのことを。そして、ジャンヌは振り返らずに告げる。なんかさ、昔の必死だった頃のアタシのことを思い出しちゃったのよ。
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アタシは死んで英雄になった。そして、妖精の血を得て「聖人」という生き物に選ばれた。そう、滅びと再生の象徴として。だけど、やっぱりアタシだって人間だった。死んで英雄なんて、伝記で十分。さ、昔話はここまで。ほら、それじゃ行くわよ。
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常界を燃やし尽くす竜の炎。暴炎竜フェルノの意志はなかった。ただ、竜の血に支配された哀れな元人間。そうさ、これこそ、次種族<セカンド>のもうひとつの完成形だよ。そうほくそ笑むのは終教祖。キミたちはボクの僕さ。もっと、もっと、もっと、ぎりぎりまで燃やし尽くしてくれ。世界が終わる、そのときまで。
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シュトロムに結末を選ぶ権利は与えられなかった。ただ、外から与えられた結末、それは竜の血に支配されるという結末。それじゃあ、次はそのとなりの街を壊しましょうか。そう指示して見せた執拗竜。気分がいいものですね、竜を支配するというのは。こうして、与えられた結末は、世界の結末への道を辿り始めた。
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壊された発電所、消える街灯、夜に染まる街。常界の夜空を舞う蝶、暴風精クロン。その小さな羽ばたきは竜巻を起こし、悲鳴さえもかき消す。そうさ、神様は悪趣味なんだよ。ちっぽけな命でさえも、僕たちに捧げてもらうよ。でも、僕たちに感謝して欲しいな。そのちっぽけな命に、意味を与えてあげるんだから。
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常界の夜空を舞うもう一匹の蝶、暴光精トニング。行われるパレード。まるで自分が明かりを灯すかのように、放たれる光線。その光の先に沸き起こる悲鳴。美しい景色をありがとう。悲鳴とは反対に、喜びを声にした終教祖。さぁ、夜が訪れるよ。深い深い夜が訪れる、今度こそ、本当の落日を。そして、夜明けを。
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世界に裏切られた少女は、縋った一筋の光にさえも裏切られた。君は悪くないよ、君は思うがままに生きて死んだ。そして、生まれ変わった。だが、その新しい人生を歩むことの出来ない暴闇魔クホール。可愛いお人形さんだよ。望んでいたじゃないか、君は復讐がしたいんだよね。いいんだよ、好きに復讐してごらん。
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自我を失った暴無魔ダスト。だが、彼は決して悲しそうには見えなかった。そうだよね、君は勝ったんだ、この世界の勝者なんだよ。終教祖がおくる賞賛。そうさ、やっぱりぎりぎりまで攻めたいよね、それが君だよね。足掻かせれば足掻かせただけ、理想の未来は訪れるんだから。まぁ、君とはここでお別れだけどさ。
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常界に鳴り響く雷鳴。ほらほら、もっと怯えなさいよ。ぎりぎりまで、足掻きなさいよ。現れたのは雷鳴竜イヴァン。生まれた多くの恐怖。だが、少なからず生まれた勇気。アタシたちは、その小さな勇気が欲しいの。それがきっと、次の世界をよりよくしてくれるわ。まぁ、アンタらは、ひとりも連れて行かないけど。
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まどろみの淵、そこにはパブロフと子供がいた。俺は俺の人生を生きた。あぁ、知ってる。だが、最後に言わせて欲しい。聞きたくない。子供はわかっていた。その言葉がなんなのか。俺の父さんは世界で一番格好いいんだ。だから、そんな言葉は聞きたくない。それでこそ、俺の自慢の息子だ。それじゃあ、行ってこい。
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最後にまた会うことが出来て嬉しいよ。水溜りに手を伸ばしたロジン。映りこんでいたのは双子の顔。いつまでも、いつまでも見守っているよ。君たちがいたから、君たちがいる。そんなふたりを独り占めしてる、いまの私は幸せ者だね。だけど、私はもう行かなくちゃ。力いっぱいの笑顔。それじゃ、行ってらっしゃい。
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私とあの人は同じ筆先から生まれた。あなたは、そんなあの人から生まれた。そして、ティターニアはいつかの言葉を否定する。あなたは「私の愛した人の娘」ではありません。あなたを「私の愛する娘」と呼ばせてください。子供の頬を伝う涙。子の旅立ちは、親にとって嬉しいことです。だから、行ってらっしゃい。
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そこにはお揃いのストールがあった。暑すぎた日差しを遮る紫。冷たすぎた風を遮る紫。そして生まれた心地良いふたりだけの空間。もう、いいんだよ。私は後悔してないよ。ヴァルプルギスの声。それでも、ユカリは行くんだよね。小さな体が抱きしめたのはひと回り大きな体。ずっとだいすきだよ、行ってらっしゃい。
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父は幼き息子を残し姿を消した。父は父の道を進んだ。そこに後悔はあっただろう。だが、そんな父を唯一肯定してあげられるのは他ならぬ息子ただひとりだった。決して過去を否定せず、イマを肯定し、未来を信じる。それが炎の親子の形だった。
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これはお守りよ。まだ言葉すら話すことの出来ない幼子に渡されたドライバ。いつかきっと、導いてくれるから。託した願い。そして、その願いは呪いでもあった。そして、幼子は常界のとある夫婦へ。あなたが歩む道に、沢山の幸せがありますように。
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ひとりは永遠に子供だった。ひとりは永遠に子供のままではいられなかった。止まった刻と、止まらない刻。だが、ふたりが過ごした刻は永遠だった。だからね、私には嬉しいこともあるんだ。だってユカリのこと、永遠にだいすきでいられるんだもん。
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僕は君で、君は僕。そこにいたのは幼き日にすれ違った双子。そして、そんな双子を再び結びつけたひとりの少女。傘に三人は入れない。だから私はずっとひとりでいいの。だって、最高の現世だったんだから。それにほら、もう、傘は必要ないんだよ。
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常界への帰還を果たしたアカネたちを待っていたのは、瓦礫の山へと果てた光景だった。そして、そんなアカネたちに歩み寄るレディ。すでに各地で戦いは始まっています。そう、イマの統合世界の存亡をかけた戦い。だけど、私たちはひとりじゃない。
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私の剣が、少しでも力になれば。レディと共にいた誠を背負いしムミョウガタナ。そしてアイスブランド。俺は君たちの力を知っている。だから、ここは俺たちに任せて欲しい。それとね、君たちの力になれるのは、決して俺たちだけじゃないんだから。
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そして、優しくアカネたちを迎え入れたヤシロ。そんなアカネたちを襲う六つの力。あまりのんびりしている時間はないようですね。それでは、行きましょうか。きっと大丈夫、ここには彼らもいるんですから。さぁ、神々を冒涜するお時間です。
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現れた六つの力、その力のひとつであるフェルノ。俺たちは決して強くない、だけどな、俺たちにだって意地があるんだ。立ち向かうアイン。俺たちは変われた。そしてフェルノへ突き出す拳。だから、オマエらも現実から逃げ出してんじゃねぇよ。
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シュトロムと対峙したツヴァイ。すべてを洗い流すことなんて出来ない。僕は僕を受け入れた。そして、始まったんだ。そんな世界を、君たちに壊させるわけにはいかない。いっぱい、あるんだ。行きたい場所、話したいこと。だから、君は僕が止める。
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私たちはひとりじゃない。ナンバーズの仲間と共に立ち向かうドライ。対峙するのはクロン。そんな偽りの風は、私には通じない。だって、私はもっと強い風の力を知ってる。だから、あなたなんかに負けたりはしない。かかってきなさい、私が相手よ。
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フィアにはわかっていた。対峙したトニングが捨てられることを。だから、私はあなたを放っておくことは出来ない。それは、一度は捨てられたフィアだから。そして、もう一度立ち上がることの出来たフィアだからこその想いだった。全力で止めます。
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クホールが生み出した闇の中、立っていたのはフュンフだった。あなたの心は泣いてる。そして、夜へと逃げ込んだのね。だからってさ、みんなを巻き込むのは間違ってるよ。そんなの子供のすること。夜の果てには光が差す。それを私が教えてあげる。
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ダストと対峙したゼクス。あぁ、俺は世界のゴミだった。だけどな、そんなゴミにも居場所はあったんだ。でもな、俺はあんたみたいなゴミは嫌いだ。現実から逃げてんなよ。ゴミでも、ゴミらしく、輝いてみせろって。まだ、間に合うんだからさ。
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へぇ、案外踏ん張ってんじゃん。雷鳴と共に常界に現れたイヴァン。だけど、滑稽だね、下等な生き物が必死になってんのは。指先を天に掲げるだけで、雷鳴が轟く。ほら、誰もアタシの指先ひとつに敵いやしないのにさ。ほーらほら、抵抗しなさい。
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まったく、趣味が悪い人だ。イヴァンと共に現れたテンゲンとタシン。なに言ってんのよ、アタシらに与えられた仕事は常界を恐怖へと陥れること。そして、少しでも抵抗させることなんだから。せっかくなんだからさ、派手に暴れちゃいましょうって。
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アインたちと抗戦するフェルノたち。まぁまぁ、私たちの出番は、彼らが失敗したときでいいじゃないですか。どうせ、彼らは使い捨てなんですから。高みの見物を続けるイヴァンたち。だが、そんな彼女らに一陣の風が。アンタらにお届け者です。
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突然のジンソクの登場に驚きを隠せないイヴァンたち。っていうかさ、早くハンコくんないかな。重いんだよね、この荷物。ジンソクが担いでいた大きなふたつの袋。あー、もう無理!お前ら、早く降りやがれって!送料払え!こっちも商売なんだ。
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そして、ジンソクが放り投げた袋は突き破られた。配達、どうもありがとな。姿を現した人影。よぉ、俺のこと忘れたとは言わせないぜ。一連の出来事にあっけにとられるイヴァンたち。そう、袋に潜んでいたのはショクミョウ。久しぶりだな、元同僚。
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キマった、とでも言いたげな自信満々のショクミョウの表情。この俺が、道を間違えたオマエらの相手をしてやるよ。魂を燃やす男、ショクミョウ。そして、そんなショクミョウを、袋から頭だけ出した半目のままのサフェスが優しく見守っていた。
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アンタら、あの塔で瓦礫の下敷きになったんじゃないの。フッ、俺たちは大いなる力を得たんだ。多くを語ろうとしないショクミョウ。俺たちを避難させたのはイージスだ。あっさりと答えを話したのは、大きな袋を脱ぎ捨てたばかりのサフェスだった。
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んじゃ、俺は次の仕事があるから。そう言い残し、あっさりと姿を消したジンソク。それじゃあ、始めようぜ。ショクミョウのスイッチは入りっぱなしだった。貴様らは選択を誤った。俺たちについてくればよかったものを。それが賢い生き方なのにな。
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私はいったん避難します。その場を離れようとしたタシン。だが、そんなタシンの背後に音もなく現れたサフェス。言葉を発することもなく、タシンの意識は失われた。アンタは、初めから裏切ってたのよね。怒りを露にしたのはイヴァンだった。
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サフェスへと落ちる無数の雷。アンタの水と、アタシの雷、どっちが有利かは説明の必要もないわね。それは、当たったらの話だ。口を開いたサフェスは無数の雷をすべてかわしてみせた。もうっ、ウロチョロするんじゃないわよ、このチビ野郎。
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その言葉にサフェスが反応を示したのかどうかはわからない。だが、次の瞬間、サフェスが放つ無数の水色の光の玉がイヴァンを取り囲んでいた。そして、そのすべてがイヴァンを襲う。時を同じくして、テンゲンもまた地に膝をついていたのだった。
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ここはどこなんだろうか。真っ暗な空を見上げた傷だらけのギルガメッシュ。その後ろ、真っ暗な地面を見つめていたエンキドゥ。お前は私が間違っていたと言いたいのだろうか。ギルガメッシュは問う。だが、その問いにエンキドゥは答えなかった。
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懐かしいな、こうしてお前とふたりきりになるのは。かつて、神界はいくつもの世界に分かれていた。そして、神界統一戦争の果てに、北欧の神々が神界の統治者となった。お前が奴らに従うなんて考えたくなかった。だが、その問いの答えもなかった。
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そして、答えのないまま返ってきた問い。なぜ人間に加担する。それは、ギルガメッシュの体に流れる半分の人間の血を知ったうえでの問い。私は可能性を見出した。彼らなら、この幾度となく繰り返されてきた崩壊を、止められるんじゃないか、って。
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その加担が、なにを意味するかを知ってのうえで、だな。その問いで察したギルガメッシュ。まさか、こんな優しさをもらうだなんて、考えてなかった。エンキドゥはただ、ギルガメッシュを止めたかった。俺はいまでも君のことを、友だと思っている。
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ありがとう。その言葉に嘘偽りはない。だったら、友として、私のことを見送って欲しい。私は私で選択したんだ、イマの世界で生きると。沢山の人間に出会った。彼らは弱い。ひとりではなにも出来ない。だけど、それでも決して諦めたりしないんだ。
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だから私は、あの日戦いに敗れ、諦めてしまった私の続きを生きたいと思う。ギルガメッシュの心は決まっていた。たとえ神界に歯向かい、処刑されることになったとしても後悔はしないと。私はもう十分に生きた。だから、最後は人として生きたい。
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それでも行くというのなら。立ち上がったエンキドゥ。俺にその覚悟を見せてみろ。掛け声とともに現れる無数の獣たち。今度は油断したりはしない。立ち上がり、無数のドライバを構えたギルガメッシュ。それじゃあ、ケンカを始めよう。子供の様に。
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無数に飛び交う刃と咆哮。生まれては散りゆく無数の欠片。だが、ギルガメッシュは楽しそうだった。世界が大変だっていうのに、私たちはいったいなにをしているんだろうな。そして、それはエンキドゥも同じだった。これが俺たちらしい最後なんだ。