かつて、光と闇がぶつかり合ったように、再びぶつかり合う闇と光。どうにか、持ってくれよ。ヴラドが気にかけたのは、仮初の時間。だが、その願いは散る。オベロンの放つ衝撃。それを受け止め切れず、ヴラドの体は地へと打ちつけられたのだった。
くそっ、こんなときに。それでもすぐに立ち上がるヴラド。そんなヴラドの瞳に飛び込んできたのは、ただ上空のオベロンを見つめる、天界、魔界の両軍勢だった。そして、ヴラドはその眼差しがなにを意味していたのか、すぐに理解したのだった。
ヴラドを地へと堕とすほどの圧倒的な力。そう、オベロンへ向けられたのは賞賛ではなく、ただの恐怖だった。そして、天界、魔界の両軍勢は同じときに、同じことを想う。互いに協力し、滅ぼすべき相手は、禁忌の血を引くオベロンではないのか、と。
兵の間に伝染する恐怖。そして、各々が構えた武器。向けられた先は、ただひとり上空に浮かぶオベロン。そして、それを止める女王も、参謀長もそこにはいない。誰かが命令を口にすることなく、ただ自然に、オベロンへと向けられていたのだった。
上空へと放たれた一撃。続くニ撃。止まらない三撃、十撃、百撃。数え切れないほどの刃。炎、水、風、光、闇、無。そのすべてが放たれる。そして、そのすべての攻撃が止んだとき、上空に浮かんでいたのは、そのすべてを受け止めたヴラドだった。
オベロンはただ、傷だらけのヴラドを見つめる。ヴラドはかすみ始めた瞳でオベロンを見つめる。そして、そっと問いかける。どうして避けようとしなかったんだ、と。すると、オベロンはこう答えた。俺は、生まれたときから、世界の敵なんだ、と。
再び上空へと向けられる無数の刃。だが、吹き抜けたのは突風。ちょっと、道を空けてもらうよ。そして、生まれた一本の道。お疲れさま、は、まだ言わない。だから、行ってらっしゃい。ミドリは、ふたりの小さな女王の背中を見送ったのだった。
ただ真直ぐに、堂々と胸を張り、ふたりの王の真下へと辿り着いたふたりの女王。誰の許可を得て、王に刃を向けているのかしら。大きく払われた右手。約束を弾いた左手が繋いだ右手。空へと伸びた左手。違うよ、あなたは世界の敵なんかじゃない。
ふたりの女王の叫び声、静まり返る天界。だが、飾りであるふたりの女王の言葉に耳を傾ける者は多くなかった。少しずつ、少しずつ、また刃が上空へと向けられる。オマエらは、自分らの王のことが信じられないのか。その言葉は再び静けさを呼んだ。
静けさを呼んだ正体、裏古竜衆を引き連れた紅煉帝ヴェルン。聖戦の最終局面、またしても訪れた第三勢力の介入。かつての聖戦の事情を知る者は、口を揃え、予期せぬ邪魔者へ非難の言葉を浴びせるのだった。だが、ヴェルンはその言葉にこう返した。
邪魔してんのは、いったいどっちだ。そしてヴェルンは天高く掲げた手を、地へと突きつける。揺れる天界、奪われる重心。民共はさっさとひれ伏して、黙って見届けろよ。そして、ふたりの女王の言葉は、しっかりとふたりの王へ届いていたのだった。
なぁ、聞こえたか。それでも、ただヴラドを見つめ続けるオベロン。あいつら、あの頃のオレ達よりも全然幼いんだぜ、なのに大したもんだよな。小さいながらも、女王であろうとしたふたりの女王。なのにさ、オレ達はいったい、何してんだろうな。
あの小さな女王はいま、オマエを「守る」選択をした。だったら、オマエがとるべき選択は、あの日のままでいいんだよ。そうさ、このオレと「戦い」、そして勝利すればいいんだ。それは、ヴラドが初めから決めていた「聖戦の結末」だった。
これ、あとで気が向いたら読んでくれ。そしてヴラドは一通の手紙を差し出す。オレからの、降伏文書だ。そして、ヴラドは天界全域に聞こえるよう、声高らかに宣言する。たったいま、この時をもって、オレは天界の王であることを辞めることにした。
続くヴラドの言葉。オマエらはいったい、なにを見て、なにを信じてきた。ざわめき立つ天界の両軍勢。やっぱりオレに、天界は似合わなかったみたいだ。そして、最後の言葉。だってここに、誰よりも天界を愛した、本当の王様がいるんだからな。
戦争なんてどうでもいい。古神殿に残った竜界の姫。私は真実を知りたい。向かったのは竜道閣。幾重にも連なった綴られし間を越え、辿り着いたのは最後の頁。やっぱり、ここに辿り着く資格を持っていたのは、あなただったんですね。聞こえた声。だから私は、成すべきことを。そして、紫陽将カナンは生まれた。
王として創られた男は、そのすべてが個の為に捧げられていた。そう、だって俺はその為に生まれたのだから。だが、そんなオベロンのことを、王でありながらも、友として接してくれたふたりの友がいた。迫る決断の日と、今も出せない答え。それは王でありながら、友を手にしてしまったがゆえの弱さと優しさだった。
王は個でなく、全である。それは魔王ヴラドが貫いた覚悟。そうさ、オレは友である前に、王なんだ。自ら下した苦渋の決断。民を守る為に、友を殺す。だが、どうしてだろう。天界への進軍前夜、真っ赤な月が滲む夜。王の瞳に溢れた想い。頬を伝うことはオレが許さない。そして魔王は、固く瞳を閉ざしたのだった。
あぁ、再び目醒めの刻が訪れてしまったのですね。アルルは天へ祈りを捧げる。どうして、みな争いを繰り返すのでしょうか。それは繰り返された聖戦を意味していた。あのときも、あのお方は争いを止める為に力を貸したに過ぎないというのに。創醒の聖者の血がもたらしたのは、かつての聖戦の終結だった。
ようやく、見つけた。常界の始まりの地、ただ天へと祈りを捧げる聖巫女アルルの元に現れたのは炎咎甲士だった。よく、この場所がわかりましたね。友達が力を貸してくれた。そして、彼女がここに連れてきてくれたんだ。彼のとなりに寄り添っていたのは神威狐。だから俺は、俺のすべきことをするんだ。
神に逆らうなど、愚かな行為だ。ナルルはただ悲劇を傍観していた。どうして、父であり、母であるあのお方を悲しませるようなことを。彼女の役割もまた、創醒の聖者の為にあった。再び訪れようとしている目醒めの刻。その刻が訪れてしまえば、すべてのものごとは、意味をなさなくなってしまうというのに。
常界の始まりの地、聖巫女ナルルもその場所にいた。そして炎咎甲士が聞いたのは、すべての血の繋がり。創醒の聖者の血を引く堕精王。だから彼は、あの方の子なの。その堕精王からその血を受け継いだ聖神。その血の繋がりがもたらす悲劇に、炎咎甲士は怒りを隠せずにいた。親子って、そういうもんじゃないだろ。
もう、刻の流れは止められない。繰り返し争う統合世界の歴史。ユルルはただ、その事実を悲観していた。だからこそ、聖なる扉は正しく使う必要があったのです。そのために、聖なる扉は生まれたのですから。そして、聖なる扉はひとつとは限らない。そうです、あなたが壊したのは欠片のひとつに過ぎないのですから。
そして、聖巫女ユルルは続けた。それが扉の形をしているのか、それとも人の形をしているのか、そもそも形をなしているのか、そのすべてをあなたは知らないでしょう。もし、すべてを知ってしまったら、あなたは帰ることが出来ないかもしれない。それでも、聖なる扉のすべてを知りたいというのでしょうか。
それがいつ生まれたのか、どう生まれたのか、どこで生まれたのか。そのすべてが明らかにならなくとも、いまそこにそれが存在しているという事実は、そのすべての肯定だった。そして、その絶対の存在の血がもたらした数多の悲劇。その血がなぜ禁忌とされたのか。聖なる扉にまつわる物語は、ひとつに集約される。
生まれながらに王である男に、幼い日の記憶はなかった。雨に打たれながら、泥にまみれながら、それでも遊び続けた記憶も、友人も存在していなかった。だが、そんな男に出来た友人。だけどもう、友ではいられないんだ。ありがとう、さよなら。
生まれながらに王である男に、幼い日の記憶はなかった。雨に打たれながら、泥にまみれながら、それでも遊び続けた記憶も、友人も存在していなかった。だが、そんな男に出来た友人。だけどもう、友ではいられないんだ。ありがとう、さよなら。
在りし日の魔王の苦渋の決断。それは王故の決断。もし、自分が王という存在でなければ。争いは起きなかっただろう。だが、自分が王という存在でなければ。出会えなかっただろう。あぁ、そうさ、オレたちは初めから、こうなる運命だったんだ。
そして、ヴラドが解放した竜の力。オレこそが、天界にとっての恐怖だってこと、教えてやるよ。手を振り払うたびに吹き飛ぶ大地。荒れる天候。そうさ、オレは魔王なんだ。あぁ、天界なんか滅ぼしてやるさ。オマエの家族を、そのすべてをな。
滅び行く天界を前に、オベロンの脳裏をよぎるのはかつての温かな思い出。止めろ、止めてくれ。あぁ、それでいいんだ。満足げな笑みを浮かべたヴラド。そう、オレは魔王で、オマエは妖精王なんだから。そしてオベロンは最後の一撃を放つのだった。
地へと堕ちた堕魔王。訪れたのは静寂。魔界の王でありながら、最後は天界を守る為に戦ったオベロン。では、いったいどちらの世界の勝利なのだろう。その静寂を終わらせたのはヴィヴィアンの一声。私達の王が帰ってきた。だから、私達の勝利です。
湧き上がる歓声。それは在りし日の恐怖の糾弾ではなかった。幕を閉じた最終決戦。勝者は堕精王オベロン。そう、天界を守る為に戦った、かつての妖精王だった。地へと降りたオベロンへと駆け寄るヴィヴィアン。そして、大粒の涙を溢したのだった。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。何度も呟く後悔の言葉。ただ、ヴィヴィアンを見つめるオベロン。そして、オベロンはそんなヴィヴィアンを見て、すべてを理解したのだった。あぁ、牢獄の鍵を壊してくれたのは、君だったんだね、と。
ファティマはヴラドの元へ駆け寄り、そっと抱きかかえる。お帰りなさい、魔王様。一番に駆け寄ってくれるだなんて、やっぱりいい女になったじゃねぇか。作られたのは無理した笑顔。オマエのやり方は認めることは出来ない。だが、よく頑張ったな。
私はあの日から、ずっと間違えていたみたいです。これが本当のあなたの選択なんですね。ヴラドが選んだのは、王としての責務を全うすることではなく、たったひとりの友を救うことだった。だからオレは、王失格だ。失望してくれて構わないぜ。
その言葉をそのままお返しいたします。私は、なにもわかっていなかった。王の臣下失格です。こうして、ファティマが奏で続けた幻想は終わりを告げた。そう、あの日のファティマが想い描いた魔王など、初めから存在していなかったのだった。
オレはじきに朽ちるだろう。だから、あとのことは頼んだからな。だが、そんなヴラドの言葉は否定される。随分と、身勝手な魔王様ね。ふたりの元に訪れたユカリ。自分の言葉に、責任を持ちなさいよ。あなたは、魔王として、妖精王と戦ったのよね。
ヴラドへの肯定。そう簡単に死なせるわけにはいかない。あなたは魔王として戦い、そして敗北した。だから、その責任をとってもらわなきゃね。ユカリの掛け声を合図に、魔王の元に集まったのは傷だらけの十一人の将。だから、早く立ちなさい。
オベロンとヴィヴィアンの元に、駆け寄るひとりの少女。はじめまして、ですね。それはヒカリの言葉。私はきっと、望まれて生まれてきたわけじゃない。だけど、一言だけ言わせて欲しい。私にこの世界に生きる命を授けてくれて、ありがとう。
そして、お帰りなさい。ヒカリの後ろ、そこには十一人の将が。私達は、あなたを天界の王として再び迎え入れます。きっと、犯した罪は消えない。だけど、あなたならもう一度、立派な天界の王となり、この世界を愛してくれると信じています。
これで、良かったんだ。ヒスイはひとり、固く結ばれた王と王の右手と左手を、女王と女王の右手と左手を見つめていた。聖戦の終結。そして、新しく生まれた共に歩む道。その道の先には、未来へと進む神々の後姿が浮かび上がっていたのだった。
いいか、よく聞け。不夜城の王の間、響き渡るのは聖魔王ヴラドの高らかな声。オレはオマエらを裏切った。その事実を変えることは出来ない。だが、オマエらはこうして、再びオレを信じてくれた。だから、オレはオマエらを信じる。もう、ひとりで背負い込んだりはしない。だからどうか、このオレについて来てくれ。
それじゃあ、始めよっか。魔界の真焔隊はみな、刀を構える。どっからでもかかってきて。対するは、杖を構えた天界の真晴隊。うん、こっちからいくよ。天界、魔界の合同演習。すべては、来るべき日の為に。そして、誰よりもこの演習を楽しみにしていたのは、真焔隊を率いた大将、真焔魔将ヒメヅルだった。
これで少しはゆっくり出来そうね。少し透けた天蓋の奥のふたつの影。互いに舐め合うのは聖戦により生まれた傷跡。いまだけは痛みさえも愛せるわ。甘い甘いふたりの時間。跨った真蒼魔将ムラサメとその妹、ふたりはそんな時間を永遠のものにする為に、来るべき日の為に、最後の愛の確かめ合いをするのだった。
俺さ、お前らのこと忘れないよ。聖戦に吹き荒れた風が止んだとき、そこを訪れたのは風通神だった。おい、勝手に殺さないでくれよ。冷静な反論。っていうか、どこに座ってんだよ。風通神が腰をかけていたのは、傷だらけの体だった。うわ、クッションが生き返った。こうして、真嵐魔将ヤスツナは生まれたのだった。
鳴り響いた銃声、そして弾丸が打ちぬいた光刑者の胸。覚悟を貫くことが出来ず、友の手を汚し、友を失った。僕は、変わらなきゃいけない。二度と立ち止まらない為に、真閃魔将ライキリは鍛練を重ねるのだった。そんな彼を見守る二つの影。いいのかな、顔を見せなくて。いいんだ、オレのことは黙っておいてくれ。
いつまでも、一緒にいましょう。少し透けた天蓋の奥のふたつの影。互いに舐め合うのは聖戦により生まれた傷跡。いまだけは痛みさえも愛せるわ。甘い甘いふたりの時間。跨られた真妖魔将ムラマサとその姉、ふたりはそんな時間を永遠のものにする為に、来るべき日の為に、最後の愛の確かめ合いをするのだった。
そろそろ、来るころだと思ってたぜ。赤く染まる滝に打たれていた真絶魔将ナキリの元を訪れた無刑者は両膝をついていた。そんな姿、見たくねぇって。そして、言い渡された破門。これでテメェを縛るもんはなくなった。だから、テメェはテメェの道に生きろ。握手を交わさずとも、そこには確かに愛が存在していた。
飾りの施された竜道閣、そこで開催された誕生日会。なんだか、ちょっと照れくさいよ。恥ずかしさを隠し切れないミドリ。大丈夫、だって私が選んだんだから。親友の心強い一言。それじゃ、みんなで待ってるからね。閉ざされていたはずのふたりだけの世界を開いたのは、未だ見つかることのない道化の火竜だった。
日常ってなんだろう。アカズキンは想いを馳せる。そう、私が欲しかったのは決して平穏なんかじゃなかったんだ。笑い合える友達がいる。大変なことがあるかもしれない、だけど、それでも大切な友達が側にいる。それが、私の欲しかった日常なんだ。
きっと、私はあのときに死んだんだ。ヒメヅルの言葉は、あのときのふたりの言葉を肯定する為に。だから、こうして友達になることが出来た。戦いが終わり、手を取り合ったふたり。そして、今度は絶対に負けない。いつかまた、戦えることを願って。
不思議なものね。アリスは紅茶を嗜んでいた。聖戦に負けたはずなのに、晴れ渡っていたアリスの心。それよりも、もっと不思議なこともあるの。ふたつの聖戦を経て、生まれたふたつの世界の絆。いまだけは、この不思議に酔いしれてもいいかしら。
私はただ愛を貫いただけよ。ムラサメの確固たる自信。そして、うちの女王も愛を貫いただけなの。女同士だからこそ、通じ合う心。だけど、いまはその愛を少しだけわけてあげるわ。その手は確かに、天界へと差し出されていたのだった。
すべての戦いが終わったとき、イバラは再び眠りについていた。それは戦いが始まる前と同じ光景。イバラにとって聖戦の前も後も、なにかが変わることはなかった。たったひとつ、イバラのみせる寝顔が、少しだけ幸せそうになっていたことを除いて。
聖戦は終わった。だが、ヤスツナはひとつ気がかりなことが残っていた。結局、ウィンディとの戦いは、どちらの勝利だったのか。そして、ヤスツナが考えに考えぬいて辿りついた一番格好いい答え。ふっ、ここは引き分けってことにしておいてやるぜ。
聖戦から一夜明け、目を覚ましたシンデレラ。そんな彼女の瞳に映し出されたのは、丁寧に塞がれていた傷口と、彼女のすぐ側で座りながら眠るカタリナの姿だった。そして、その姿を目にしたとき、シンデレラはすべての誤解に気がついたのだった。
僕は悔しい。それは、聖戦に敗れたからではなかった。僕は最後まで男になれなかった。かつての友とはいえ、戦場で相手を斬ることをためらってしまった自分を責めるライキリ。だから、僕は僕を殺します。そして、来るべき日を見つめるのだった。
聖戦が終わり、棺に込められた意味を知ったとき、カグヤは走り出していた。それじゃあ、もしかして。友が待っているかもしれない。そう、彼女は長い夢を、私は長い悪夢をみていただけ。新たに生まれた希望を信じ、そして友に会いに行くのだった。
怨みは愛に似ている。愛するが故に、怨みへと転化された感情。だから私は、すべてを受け止めた。とても、美味しかったわ。ごちそうさま。それにね、私が傷つけば傷ついたぶん、お姉さまが優しくしてくれるの。だから、私にとってはご褒美なのよ。
俺は言った。あいつは、俺と戦いたかっただけだと。だが、それは俺も同じだったんだな。ナキリがあのとき感じた喜び。なかなか、いい太刀筋だったぜ。ムミョウガタナの最後の一太刀は、ナキリの体に卒業の証の傷を残していたのだった。
こんなのってあんまりよ。コスモは不服を申し立てていた。なんで、この私が天界に出向かなきゃなんないのよ。天界と魔界の架け橋にと、それは天界の出であるコスモだからこそ選ばれた仕事だった。こうなったら、あいつらから富を巻き上げるわ。
ちゃんと挨拶しろって。デオンの背中を押したリイナ。背中を押されたデオンの前には聖魔王ヴラドが。知らないと思うが、コイツもかつてのオマエに憧れてたんだぜ。だったら、もっと憧れさせてやるよ。その言葉は、デオンの胸に深く響いていた。
リイナが放つ右の拳。それを黙って受けるヴラド。よっし、これでもう俺は気が済んだ。だから、お帰り。リイナはそっと、ヴラドの肩に手を置いた。俺たちは、あの日よりも強くなったんだ。だから、これからは遠慮なく頼ってくれていいんだからな。
幻想の果てに残った現実。だが、その現実をファティマは少しずつ受け止め始めていた。そして、そんなファティマの心をもう一度立ち上がらせたのは聖魔王の言葉。これは命令だ。もう一度、このオレについて来い。本当のオレの生き様を教えてやる。
私はただ過去をなぞったに過ぎない。だけど、こうして新しい道が生まれた。違う未来が広がり始めた。だから、もう少しだけ頑張ってみようと思う。どうか、最後まで見守っていてね。ユカリはひとり、お揃いのストールを抱きしめていたのだった。
聖戦の果てに生まれた新しい道。それは、天界と手を取り合い、肩を並べて歩く道。そして、オレたちの目的は、あのときも、いまも変わらない。だから、あのときの続きを始めよう。聖魔王ヴラドが睨んだのは神界。これからのオレたちなら、必ず―。
美宮殿の王の間。ただ静かに語りだしたオベロン。自らの体に流れる禁忌の血。かつての聖戦の真実。俺は過ちを犯した。沢山の家族を、天界を傷つけた。だから、どうかその償いをさせて欲しい。左手に握られた対のネックレス。右手に抱えられた王の証。いまここに誓わせて欲しい。誰よりも、この天界を愛し抜くと。
晴れ空の下、行われた合同演習。違う世界に生まれ、違う未来を目指し、そして同じ道を歩むことになったふたり。やっぱり、私の予感は間違ってなかった。ぽつり漏らした真晴精将サニィ。だって、友達になることが出来たんだから。互いに傷つけ、取り合った手と手。それは聖戦があったからこそ、生まれた絆だった。
真雨精将レイニィが訪れたのは、天界の海原にほど近い丘の上。降り出した雨が濡らす頬。愛とは、なんなのでしょうか。見つめたのは大切な人の名前が刻まれた永遠の石碑。強くなる雨音。そして、彼女の頬を濡らしたのは雨だけだった。いまなら、少しだけわかる気がします。そうして小さな笑顔を浮かべたのだった。
その部屋にはちゃぶ台がひとつあった。ちゃぶ台の上にはコンロが置かれていた。綺麗に溶かれた卵のよそわれたお椀が三つ。そして、ぐつぐつと煮立つ甘い匂い。今夜は歌うぜ、ベイベ。真風精将ウィンディが奏でるギターの音色。そんな音色を無視しながら、真嵐魔将と風通神は目の前のすきやきに夢中になっていた。
真眩精将シャイニィが案内したのは綺麗な花々に囲まれた石碑の立つ庭園。ここで、あいつは眠ってるよ。ただ、その石碑を見つめることしか出来ない聖精王。あいつは、あんたの子供を守る為に俺たちを集めたんだ。伝えられた空白。だから、どうか忘れないでやって欲しい。あいつも、最期まであんたを愛してたんだ。
私は彼らとは仲良く出来ない。クラウディが申し出た天候術部隊からの脱退。だが、それを引き止めたのは天界の女王だった。だからこそ私はあなたにいて欲しい。理想の裏側に存在する現実。そう、あなたのような人が必要なの。ひねくれた彼女は、その真っ直ぐな言葉を疑い、真曇精将の役を引き受けたのだった。
どうして、そんなにみんな一生懸命なんだろう。真雪精将スノウィはその役に就きながらも、不満を口にしていた。テメェにも、いつかわかる日がくるさ。そう諭したのは真絶魔将だった。だから、いまは長いものに巻かれたっていいじゃねぇか。そういうものなのかな。それは、真っ白な雪が色づき始める瞬間だった。
小さな火種が大きな争いへと発展することがあれば、小さな火種が争いを終結へと導くこともあった。そう、私は彼に救われたんだ。ヘレネは戦場に現れた小さな火種に感謝の想いを伝えた。だから、私は出来ることから始めよう。少しずつ、一歩ずつ。
サニィは気づいていた。私達は、試合に勝ったけど、勝負には負けたんだ。ううん、試合の勝ちすら、私達の力で成し遂げたものじゃなかった。だから、私達は変わらなきゃいけない。私達なら、変わっていけるよ。そう、生まれ変われたんだから。
命ある者が、いつか果てるのであれば、今を生きる者達は、なにをすべきだろうか。私達は生きて、そして次の世代へと、未来への道を作らなきゃいけない。過去が今と繋がり、そして未来が開かれる。オノノコマチは、そんな未来を夢見ていた。
私が敗北したのはきっと愛の力なんです。それはレイニィの知らない世界。だから、あなたもいっぱい恋をしなさい。オノノコマチの優しい言葉。誰かに出会い、誰かに恋をして、そして誰かの為に生きる。それが女にとっての最高の生き方なんですね。
ヨウキヒに届いたのは悲しいけれど、嬉しい知らせ。そっか、彼女は元気だったんだね。聖戦の裏側でディバインゲートの解放を阻止し、そしてそのまま姿を消したラプラス。大丈夫だよ、いつ帰ってきても大丈夫なように、これからも守り続けるから。
この勝負預けておくぜ、ベイベ。終わりを告げた風の戦い。ふたりの将の言葉を理解できるものはいない。だが、ふたりの実力は、その場の全員が認めていた。そして、その場の全員が思っていたこと。それは、ふたりとも残念な将だということだった。
私は最後まで見届けなきゃいけない。そして、シンデレラに肩を貸したカタリナ。それなら、一緒に見届けましょう。私があなたの体になります。聖戦の終結と共に瞳を閉ざしたシンデレラを天界の医務室へと運び、優しい愛を注ぎ続けたのだった。
これからまた、忙しくなるな。シャイニィはひとり、修復中の美宮殿を眺めていた。ったく、どこまで計算していたんだ。問いかけた先の答え。私達の王が帰ってきた。だけど、私は―。俯いたのはヴィヴィアンだった。嘘なら、最後までつき通せよ。
彼はまた姿を消したのね。クレオパトラの想いが産んだのは、ディバインゲート解放時間のわずかな遅れだった。だけど、いつか帰ってくるでしょう。だって、彼は少し頭が悪いの。だからね、いつか気づいてくれるって信じて待つことにするわ。
やっぱりね、私は彼を王であると認めることは出来ないみたい。聖戦の果て、再び入れ替わった王。不信感を抱くのはごく当たり前の感情だった。だけど、いまだけは従ってあげる。もし、王に相応しくないと思ったそのときは、私が殺してあげるから。
これから、どうなっていくんだろうね。聖戦の終結は新しい道の始まり。きっと、次に流れる血は今回の比じゃないはずだよ。だけど、付き合ってあげる。気になる話も残ってるしね。スノウィが気にしていたのは、王の血を引く同郷の存在だった。
みんな、ありがぴょん。再び散る聖暦の天才達。聖戦の裏側で行われた戦い。阻止することの出来たディバインゲートの解放。これでしばらくは安心だぴょん。そう、しばらくの間だけ。天才達は気づいていた。すべて、時間稼ぎにしかならないことを。
コガネは毛布を取り出すと、机に突っ伏したまま寝息を立てるカルネアデスの肩にそっとかけた。いまだけは、すべてを忘れて休んでください。来るべき日の為に、私ももっと頑張ります。だから、所長ひとりですべてを背負いすぎないでくださいね。
なにをしに来た。不動間を訪れたのはサニィ。お稽古をつけてもらおうかと思いまして。帰れ、ワシは寝る。しばらく食い下がるも、大人しく部屋を出て行ったサニィ。そして、ひとりになったイッテツは隠していた鉄アレイを探し始めたのだった。
どこへ行くつもりですか。天界を去ろうとしていたヴィヴィアンを引き止めたのはヒカリ。あなたのしたことを認めることは出来ません。だけど、私達の王を理解してあげられるのは、あなたしかいないんです。だから、王の側でその罪を償って下さい。
再び姿を消したモルガン、そして禁忌の血を選んだアーサー。私はまだ立ち止まることは出来ない。そして、確実に一歩ずつ歩き出したのは幸せな世界。きっと、これからもっと忙しくなる。だけど、私たちならきっと進めるはずだから。さぁ、行こう。
オベロンが握り締めていたのは、降伏文書だと偽られていた、最愛の人からの手紙だった。真実と後悔。そして、覚悟と希望。俺は、あの日選ぶことの出来なかった、もうひとつの道を選ぶよ。だから、共に行こう。これからの俺たちなら、必ず―。
私だって、故郷が嫌いなわけじゃないの。聖戦の傷跡を癒したのは危険な甘さ。みんな、甘いもの好きなのね。ハロウィンの夜、配られたのは様々なお菓子たち。今日だけは、子供に戻っていいのよ。驚き、笑い、そして甘美に溶ける。そう、ひとときの安らぎがもたらす喜び。いいわ、いいよ、好きなだけ甘えなさい。
僕が君に、存在理由をあげるよ。だから、ちょっとだけその体を調べさせてもらえるかな。再び捕まったジャックが連行されたのはとある研究室。大丈夫だよ、ここは普通の人は入れないから。そして施された数多の実験。そうだなぁ、これからは僕の為に戦うべきだね。切裂狂ジャックを従えたのは水聖人だった。
とある小国が陥った貧困。だが、その小国はある一晩の後に富を得ることが出来たという。また、とある小国で流行した疫病。だが、その小国もまた、ある一晩の後に治療薬を得ることが出来たという。統合世界に生まれる数多の奇跡。残されていたのは一通の伝言。奇跡の正体。人々は彼を、さすらいのユライと呼んだ。
神々が暮らすという神界。だが、神とはいったいどのような意味を持つ存在なのだろうか。幾度と繰り返されてきた歴史、その歴史が始まるとき、必ず神々が存在していた。それは聖暦という時代も例外ではなかった。そして、創炎神スルトは新しい時代へと跪く。そう、新しい時代を始めんとする聖神へと跪くのだった。
マハザエルが目を覚ましたとき、それまでの記憶は存在していなかった。だが、それでも二重螺旋に刻まれていた存在理由。それは真教祖の為に生き、そして死ぬこと。そして、前北魔王の首を狩ること。なんだ、そんな簡単なことなのか。聖戦後の統合世界にて、再び、とある教団は動き出そうとしていたのだった。
これで、四つ目の柱も揃いました。執事竜が迎えたのは北魔王マハザエル。完全になれなかった彼らと違い、彼らは完全なる存在となることでしょう。そうだね、彼らは不完全だったんだ、二度と顔も見たくないよ。紅茶を舐めながら、真教祖が下した命令。それじゃあ、手始めに抹殺してもらえるかな、ひとり残らずね。
僕は人形。ドロッセルは、ただ、雪降る街で記録をし続けるだけの存在だった。いつから存在していたのか。いつから体が与えられたのか。そう、体などは器に過ぎない。だから、僕は人形なんです。そんな彼に与えられた命令。ちょっと、くるみを割ってきてもらえるかな。それは無聖人の一声。そう、僕はただの人形。
運命を必然と呼ぶのであれば、ふたりの出会いは運命であり、そして必然だった。どうして出会えたのか、どうして出会ってしまったのか、どうして出会わされてしまったのか。無雪徒ドロッセルはただ記録を続ける。雪降る夜に出会えたふたりを。雪降る夜に出会わされてしまったふたりを。すべては、無聖人の掌に。
体を切り裂く爪もあれば、かじられる爪、磨かれる爪も存在する。そして、ただ見つめられるだけの爪も存在していた。その見つめられた爪が意味するのは、刹那の切なさ。だが、その感情を理解する心など、彼には残されていなかったのだった。
聖戦を終え、氷刑者が帰ってきた家。彼の口からただいまの言葉はない。だが、それでも笑顔で出迎えたのは燃恋乙女エキドナ。愛してる、だなんて言葉はいらない。私のことを愛してくれなくてもいい。ただ、私は側にいたいからいる。それが彼女の決めた生き方。ふたりの関係は、言葉で言い表すことは出来なかった。