そっか、彼女は頑張ってくれたんだね。萌森乙女アルラウネは聖戦でぶつかり合った風の戦いを翠妖精へと報告していた。それじゃあ、私も償わなきゃいけないね。都合の良い犠牲により、引き裂かれた友情。そして、後悔し続けていた翠妖精。これからは、私に協力してもらえるかな。未来の為に、過去は清算しなきゃ。
やっぱり、あなたって悪い女ね。妖精でありながら、真妖隊に属することとなった極悪乙女サキュバス。なんの話かな、私がここにいるのは隊長さんが気になるからなのに。同性へと向けられた興味。それは、真妖隊の将が、同性である実姉への愛をつらぬいていたからだった。女性を愛するその気持ちを知りたいだけよ。
ふわふわ。浮霊乙女ゴーストは目を覚ますと浮かんでいた。彼女は自分がいままでどこにいたのか、なにをしていたのか。その記憶は定かではない。が、そのことを大して気にしていなかった。そんな彼女が気にしていたのは、極東国の枯れない桜の木の下、誠の文字を背負いし、頭に尻尾を生やした男のことだった。
晴れ空の下で行われた授業。語られたのはサニィの幼い日の話。照りつける太陽の下で、元気いっぱいで遊んでいた時代。きっと、あの頃の私がいまの私を形成しているんだと思います。だから、家で勉強ばかりしてないで、お外で遊ぶことも大切です。
心が晴れたからといって、それは決して正しいことではない。サニィが否定したのは自分自身。曇りや雨があるからこそ、晴れを嬉しく思うんです。それが人間の感情だと云う。彼ら、彼女らは、私たちとはまた別の価値観で生きているんです。
講師から伝えられたのは、精霊士官学校入学から卒業までの出来事。名前を失うことの不安。名前を得ることの名誉。それはひとりの妖精ではなく、兵として生きることを選んだからこそ。正しいかどうか、あのときの私はまだわかりませんでした。
天候術を使うときには、その天候と同じ気持ちにならなくてはならないと云う。だから、私は戦場で泣くことは許されない。それは感情を殺すのと同義。晴れ渡る心の裏側、そこでは、その天候とは程遠い感情を押し殺さなけばならないのだった。
私は私を殺し、そして出会うことが出来ました。授業を再開したサニィ。隣には、本来いるはずのない魔物がいた。今日は、特別講師に来てもらっちゃいました。聖戦を終え、晴れ渡った空の下で、自分の道が正しかったと笑うサニィがいたのだった。
レイニィは幼い日から雨の降る日が好きだった。子供ながらの可愛さとはかけ離れていた。どうして私は雨が好きなんだろう。外で遊ばないで済むから。心が落ち着くから。そのとき、答えに辿り着くことは出来なかった。だから、私は探しました。
その濡れた心は、ある種の才能であると士官学校への進学を勧められたレイニィ。迷いながらも、理解することの出来ない幼い日からの感情と向き合う為に、名前を捨てる道を選択した。そして、私の居場所は生まれたのでした。私は、私と出会う為に。
少し、横にそれますね。話し始めたのは水を司る友人たちの思い出。私を遊びに誘ってくれるときは決まって雨が降りました。自嘲交じりの告白は自分が雨女だということ。だけど、私が本当に伝えたいのは、それでもそばにいてくれた友への感謝です。
雨に関する天候術の講義で伝えられた大切なこと。心の雨を受け入れると、頬を伝う涙を見失ってしまうんです。そして、どんどん自分がわからなくなる。悲しい、その感情を忘れてはいけない、わかっているはずなのに忘れてしまうことがあるんです。
私は聖戦で沢山の涙雨に打たれました。そして、ようやく辿りつけました。雨がもたらす安らぎ。私は温かさを感じていたんです。そして、降り続ける雨のなかで笑顔を見つけることが出来ました。だから、私は真雨精将として胸を張らせてもらいます。
Ah あの日の出会いを覚えているかい 君は唐突にオレの頬を撫でたね Ah いまでもすぐに思い出せるぜ 触れた心 ロンリーウルフ ダイナマイト Wow Wow Wow Yeah! Wow Wow Wow Baby!
Ah あの日の出会いを忘れてないかい 君はいつもワガママだったね Ah いまも居心地は変わらないさ 揺れた瞳 ストレイウルフ ナイスバディ Wow Wow Wow Yeah! Wow Wow Wow Baby!
さぁ 共に羽ばたこう 翼なんかいらないさ オレが君の翼 さぁ 共に走り出せ 風に乗った俺のハイスピードディストラクション テンション アテンション コングラッチュレイション Love Me!
Dear my wind 風の行方 so sweet 少しだけほろ苦いぜ Dear my wind オレの行方 so sweet 本当は甘いぜ オレにだけは 聞こえる風の声 静かに Shake it! Shake it!
Dear my wind 風の涙 so sweet だから泣き止めよ Dear my wind オレの涙 so sweet 君の為に流し続けよう 『DEAR MY WIND』 作詞・作曲・編曲:ウィンディ
正の感情か、負の感情か。目が眩むというのは、ふた通りの意味をはらんでいた。目の前の欲に目が眩む。それは誰しもに訪れる感情。大切なのはその先さ。シャイニィが説く教え。そして、決して目を逸らしちゃいけねぇ。ありのままを見つめるんだ。
目の眩む幸せな天界と、目の眩むほどの崩壊を。それはかつての聖戦の始まりと終わり。俺たちはあの日、目を逸らしちまったんだ。天界を支配した歪な平和。そう、俺たちは、目の前の平穏に目が眩んじまったまま、長い年月を歩むことになったのさ。
精霊士官学校の成り立ちの背景には、かつての聖戦が関係していた。発起人はひとり残された美しき妖精王。私たちが、あの人を守れる強さを持っていたら。そして、その考えに賛同したシャイニィも、精霊士官学校の立ち上げに協力していたのだった。
俺たちは遠回りをしすぎたみたいだ。明日へ手を伸ばし、明後日を見失う。それが天界の在り方だった。きっと、目が眩む未来が待っているだろう。逸らしたくもなるだろう。そういうときは、一度目を閉じればいい。そして、思い浮かべればいいんだ。
眩しいほどの未来。そんなものは存在しないかもしれない。だが、手を伸ばさなきゃ掴むことも出来ない。シャイニィは小さな光が歩むべき道になるべく、その教えを説く。これからの俺たちは、肩を並べて歩くんだ。決して、目を逸らすことなく。
雨が降るわけでもなく、晴れ渡るわけでもない、そんな中途半端な空模様。私が生まれたのはそんな中途半端な日だった。そして、私という中途半端な存在が生まれてしまったの。曇り空の下、クラウディは伏目がちに小さな声で講義を始めたのだった。
天界の長い歴史の中で、闇の力は妖精たちから異質だと思われていた。そう、闇は相反する魔界の象徴だからと。なにも、私は望んでこの力を得たわけじゃない。クラウディが持っていた資質。私のような血筋の存在は、生きづらい世界だったのよ。
私は無理しながら普通に生きることは出来なかった。だから、仕官学校に入った。ここでなら、私のような存在でも、力さえ手にすれば生きていけるから。誰かを怨むでもないクラウディは、自らの資質を怨み、そして、その怨みを力へ変えたのだった。
いつまでも晴れなくていい、雨も降らなくていい、このもやもやした感情を抱えて生きていく。それがクラウディの選んだ道。それに、曇り空はどっちに転がるかわからないの。次は晴れるかもしれない、雨が降るかもしれない、そういうものなのよ。
聖戦が終わったいま、クラウディに訪れた心境の変化。私は晴れなくていい、雨も降らなくていい、ずっと曇り空でいい、そう思ってた。だけど、いまはどっちに転んだとしても、別に構わないわ。その心境の変化は彼女なりに成長した証だった。
一年のほとんどが雪に覆われている街で生まれ育ったスノウィは、その純白の景色が当たり前になっていた。どこまでも白は続き、そして煌びやかな街並みに鳴り響く鈴の音。だけど、大人になるにつれて、みんな染まってしまう運命にあるんだ。
幼き日から、あまり感情を表に出すことのなかったスノウィ。彼の心に積もり続けたのは真っ白とは異なる感情。どうして、彼らはあんなに楽しそうなんだろう。どうして、彼らは変わらずにいられるんだろう。並んだ三つの雪だるまを眺めていた。
どこまでも白くならなければ、僕は僕でいられないんじゃないか。そして、名前を捨て、士官学校への入学を果たした幼き日のスノウィ。僕は彼らとは違うんだ。彼らのようになってはいけない。だから、もっと白く。どこまでも、白くならなきゃ。
だが、スノウィは自分で気づいていた。自分がつまらない存在になろうとしていることに。違う、僕は正しいんだ。そんな彼の耳に入り続けるのは、染まることなく生き続ける同郷の三人の存在。彼らこそ、幼き日から染まらずに生きていたのだった。
様々な感情がぶつかり合った聖戦。僕はなにが正しかったのかはわからない。だが、誰かの感情にゆれ、そして誰かの為に染まる。その事実を前向きに受け入れ始めていた。みんなはどうなるのかな。そんな新しい想いに染まり始めていたのだった。
それじゃあ、みんな最後に手を伸ばしてみようか。サニィは晴れ空へと手を伸ばしてみた。私たちはこの晴れ渡る空に感謝を伝え、そして力へと変える。だから、どんなに辛いときでも、心を晴らしていきましょうね。きっと最後は、晴れるはずだから。
降り続く雨は、決して悲しみだけじゃありません。静寂を包む雨音、その音色は心を落ち着かせた。だから、心に降る雨を大切に。無理に晴らす必要はないんです、私たちは私たちらしく、それが私たちの心模様なんです。それを肯定してあげましょう。
きっと、そう遠くないうちに、オマエらは戦場へと出ることになるだろう。シャイニィは静かに語り始める。沢山の輝きに出会うだろう。だが、決して目を逸らしちゃいけねぇ。俺たちは変わっていく、そう、ひとりひとりが変わらなきゃいけないんだ。
どう転ぶかわからない、私たちの曇り空。だけど、私たちはそれでいいのよ。無理に晴らさなくていい、無理に悲しまなくていい。もやもやとした感情。言葉で言い表せない感情。私たちはそれでいいの、だって私たちは、初めからそういう存在だもの。
これは僕の言葉じゃないよ、教えろって言われたから。スノウィが講義の最後に残した言葉。僕たちはもう一度歴史を始める。真っ白なページに刻んでいくんだ、って。過去を否定するわけじゃない、すべてを受け入れて、新たに刻むんだ、ってさ。
集められた六聖人。それじゃあ、今回の件のそれぞれの見解を聞こうか。ダンテが口にしたのは、世界の均衡について。たったふたつの世界が強く結ばれようと、我々はただ、来るべき日を待てばいいだけだ。それが、この席についた俺の仕事だからな。
ひっくり返った椅子の上、あぐらをかいていたヨハンは、口をあけたまま斜め上を見つめていた。だから、僕は興味ないんだって。争いの果てを見たいだけ。それより、各世界の郷土料理を混ぜ合わせたらさ。そこでヨハンの番は打ち切りとなった。
各世界の代表が不在のいま、意思をひとつにまとめるのは難しいでしょう。ですが、初めからひとつになどなっていなかった私たちからすれば、なにも変わりません。ただ世界の決定に従い続けてさえいれば、災厄は回避出来るんじゃないでしょうか。
もう、本当に議論になんないわね。ジャンヌは各者の変わらない顔色を伺おうともしなかった。もし、世界の決定が覆ったとしたら。それは誰かの裏切りを予期しての言葉。アタシらの中で、誰も裏切らないなんて保証は、どこにもないんだからさ。
未だに竜界の正式な王は不在です。だが、古神殿の玉座には紅煉帝が腰を下ろしていた。彼らの真意は計りかねますが、もしあの両世界に加担したとしたら、それは世界の決定が覆ることになりかねません。シオンは妹として、複雑な想いを抱いていた。
そして、議長が最後に問いかけたのは無聖人。君が一番危ない存在だって、皆気づいてるんだよ。だって、彼は君の。だが、その言葉を否定する無聖人。俺はすべてを捨て、この席にいる。そう、俺には息子も娘もいないんだ。世界の決定は覆らない。
元気にしてるか。ヒスイが訪ねたのは弟弟子の病室。兄さんは、彼を受け入れるつもりじゃないよね。開口一番にそれかよ、可愛くねぇな。詰まる言葉。言ったろ、俺は俺らしくやらせてもらうって。張り詰めた空気。だから、あとのことは上手くやってくれよ。創竜神ヒスイの去りゆく背中は、いまも大きなままだった。
俺はオマエを、そんな風に育てた覚えはないぞ。死刑執行人の学園長室、呼び出されていたのはフレイムタンだった。俺は俺の思うがままに動いたまでだ。偉そうに胸張ってんな。学園長の鉄拳制裁。少しは加減しろよ。うずくまる小さな体。だが、今回は特例だ。退学代わりに炎魔刑者は一等悪魔へ昇格したのだった。
古ぼけたストーブにパイプベッド。ボロボロの毛布は投げ捨てられた。こんな日が来るって、わかってた。去りゆく背中へと声をかけた燃恋乙女。もう一度、彼に会いに行くんだよね。氷魔刑者アイスブランドは常界へ。それじゃあ、行ってらっしゃい。そこに不安はなかった。大丈夫、私はあなたを信じているから。
あの、失礼します。風魔刑者ウィンドピアが訪れたのは真嵐隊の隊長室。開かれたドアから吹き抜ける風。本日から研修にやってきました、って、あれ。そこに気配はなかった。いったい、どういうことなんでしょうか。なびくカーテン。風が答えてくれる、ってことさ。乗せられた声。彼女は今後が不安で仕方なかった。
僕は君が大嫌いだった。魔界の共同墓地に揺れる二等悪魔のコート。だけど、君がいたから僕は強くなれた。真閃魔将は亡き友への想いを吐露していた。くっくっ、作戦成功。そんな姿を楽しげに見つめる光愛者ライトブレード。もぅ、いつまでたっても悪戯っ子なんだから。訪れたもうひとりの友。昔の俺は死んだのさ。
よく働いてくれたな。ダークサイズを褒め讃えた学園長。別に、俺はたいしたことしてません。そして与えられた一等悪魔への昇格。オマエが影で働いてたのを俺は知っている。だから、もっと胸を張れって。問題児ばかりの死刑執行人学園で、彼のような生徒は珍しかった。そこで俺から、ひとつ提案があるんだ。
その格好、どうしたのさ。言い渡された破門。こうなることを望んでいたのかもしれません。すでに一等悪魔同等の力を得ていたムミョウガタナ。これからの私は、名もなき浪士です。そして、そんな彼の理解者がいた。それじゃあ、私たちで大義の誠を貫くとしようか。極東国、そこにはふたりの始まりが存在していた。
古神殿の王の間をひとり訪れたヒスイ。なんだ、お別れの挨拶でもしにきたのか。玉座から動くことなく、ヴェルンはヒスイを見つめる。おい、そんな警戒すんなって。その言葉はヴェルンを守るように刃を構えた裏古竜衆へと向けられていた。
弟君を傷つけられた復讐かな。問いかけるファブラ。それはまたいつか、な。歩みを止めないヒスイ。それなら、我らが紅煉帝へと反旗を翻すつもりかな。挑発するファブラ。そんなことして、俺になんの得がある。そして、ヒスイはヴェルンの眼前へ。
早くそこどけよ。ヒスイが睨みつけたのは棍を構えたウロアス。止めとけ、この男は歴代の古竜衆とは訳が違う。制止したヴェルン。あぁ、俺も無駄に争いたくない。だから、聞かせてもらおうか。それは先の聖戦の結末に現れたヴェルンの意図だった。
ニズル、説明してやれ。あのとき、世界を見渡す鏡が映し出したディバインゲートの解放という災厄。そして、それは世界の決定のうえでの出来事だったということ。だから、勘違いすんじゃねぇぞ。俺は、あいつらの為に出ていったわけじゃない。
俺の目的の為、あいつらにはひとつになってもらわなきゃいけなかっただけさ。余裕の表情を浮かべるヴェルン。その目的を言えと言ってるんだ。落ち着いたヒスイ。きっとオマエの思っている通りさ。だが、やり方が違う。そう、これが俺のやり方だ。
自室でひとり、うかない顔をしていたシオン。私は選ぶことが出来るのでしょうか。シオンの脳裏をよぎる世界の決定。そして天秤にかけられたのは故郷であり、兄であり、家族。きっと、私は私を許すことが出来ないでしょう。だから、今回だけは。
俺は認めることは出来ない。それはヴェルンが竜界の王であるということ。だけど、あいつらのことを頼ませてくれ。ヒスイがついた膝と下げた頭。そんな姿、見てもつまんねぇーよ。だから、さっさと行ってこい。こうして、ヒスイは竜界を後にした。
ドロシーに手渡された絵本。そこに記されていたのは、温もりを求めた姿かたち様々な四体。この物語に彼は出てこないんだ。だけどね、君たちのそばには大切なお父さんがいたはずなんだ。大勢に嫌われながらも、家族だけは想い続けたオズという一匹の火竜。彼のそばにいてあげられるのは、やっぱり君たちなんだよ。
ねぇ、君はいまどこにいるの。聞こえた悲痛な叫び。ねぇ、君はいまなにしてるの。続ける聞こえないフリ。ねぇ、みんな待ってるんだよ。もどかしい思い。ねぇ、だから早く帰ってきてよ。思い出すあたたかな日々。ねぇ、君がいなきゃ駄目なんだ。
季節が変わるたびに用意されていた洋服。そして、そんな洋服が用意されなくなってから、いったいどれだけの季節が流れただろうか。常界に近づいてきたのは雪降る季節の足音。トトの寝床には、誰かの匂いの染み付いた洋服が敷き詰められていた。
いつも思い出すのは真っ赤に燃え上がった教団崩落の日の炎。あのとき感じた懐かしさ。カカシはただ、新たな居場所を守り続けていた。いつか、誰かが帰ってこられるように。いつか、炎をまとい、帰ってくる魔法使いの為に、守り続けるのだった。
その日、事件は起きた。なんと、修復中も不動間から出なかった炎杖刀が、その場所から姿を消したのだ。だが、なぜ姿を消したのか。それは彼によく似た少女の行動を見れば一目瞭然だった。彼に似たジャージに、彼に似たゴーグル。そして、彼に似た杖刀型ドライバ。そう、ヒナギクが彼を探し回っていたからだった。
えっ、ウチは妹なんかじゃないですよ。火杖刀ヒナギクは語る。小さな頃、命を助けてもらったんです。それで、あの方のように強くなりたくて。あの方は、礼も聞かずに去ってしまいました。そして噂を辿り、入学を果たした精霊士官学校。だが、炎杖刀の活躍など、彼をよく知るもの以外、信じるわけもなかった。
あの日、自らに架した枷。この翼は、空を飛ぶ為ではなく、皆を運ぶ為に使うと。レオンが皆を運びたい先は、家族が寄り添いあっていた、あたたかな日々。だが、レオンは前を見つめていた。過去にすがるのではなく、もう一度、あの日々を求めて。
私にとって、彼らは、彼は本当の家族だった。それはいまも変わらない。みんな、待っているんだよ。だから、ドロシーは探し続ける。みんな、信じているんだよ。だから、ドロシーは探し続ける。いつだって、あなたの居場所は、私たちなんだから。
少し剥がれた塗装。塗りなおしてあげようか。ボームの提案に対し、首を横に振るブリキ。君に心が生まれるなんて、やっぱり彼の魔法は出来損ないなんかじゃなかったんだ。ううん、少し違うね。君たちにとっては、特別な魔法だった、ってことかな。
いまも全員が肌身離さず大切に持っていたのは、何気ないある日の家族の思い出の切り取られた1ページ。そして、いまも全員が肌身離さず大切に持っていたのもまた、小さくて、大きな共通したひとつの想いだった。思い出なんかで終わらせない、と。
ねぇ、まだなのかしら。創水神シグルズが見つめた常界。早く会いたいのよ。染まる頬と、上がる息。あのときよりもね、ずっとイイ男になったのよ。染まる頬。あぁ、楽しみだわ。閉じた瞼に浮かべた光景。そうよ、苦痛に歪む、彼の顔が。今度は、どうしてあげようかしら。磨がれた刃。もう一度、奪ってあげるわ。
未だ各世界の自由移動は解禁されないまま、時間だけが過ぎていく。だが、それでもラスティはとあるルートを経て、常界へと降り立っていた。おさまることのない二次災害。どうして。聖戦は終結したはずなのに。そして、もうひとつの新たな疑問が生まれていた。なぜ、被害は最小限で食い止められているのかしら。
世界を統べる者が不在の常界はいま、世界評議会に残った有志たちにより運営されていた。だからといって、こんなに上手くいくわけはない。水砕卿ラスティが辿る違和感の足跡。これ以上は、知らないほうが身のためですわよ。滴り落ちた雫。あなたは、いったい誰に仕えているのかしら。いまも昔も、変わりませんわ。
天界の深い森がかき消したのは、中に建てられた小さな小屋の扉を叩く音。やっぱり、来るんじゃないかと思ったよ。ニミュエが出迎えたのは、俯いた精参謀長。私はあなたの動きを知ってた。だけど、止めることは出来なかった。そう、彼女達を追放したときのように。だから、私はいまからでも、もう一度始めたいの。
私は私に出来ることがある。そして、あなたにも、あなたにしか出来ないことがある。翠妖精ニミュエが触れたヴィヴィアンの前髪。だから、少しでも前を向いて。後悔を、後悔で終わらせたらいけない。そんな簡単なことを教えてくれたのは、息子、娘のような存在たち。だから、私たちは大人として、ケジメをつけよ。
天界ののどかな水砕館には、たびたび物騒な依頼が舞い込んでいた。ここに来たってことは、他言無用ということですね。行われた取引。私たちは歪な象徴。だけど、君たちがいなきゃ困る世界だってあるんだ。裏側にも、裏側の想いが存在していた。
聖戦は終わり、少しずつ平穏を取り戻しはじめた統合世界。それは、常界も例外ではなかった。各地の二次災害は鎮火の一途を辿る。だけど、どうしてこんなにすんなりと。そしてまた、その対処と平穏に、不吉な予感を感じずにはいられなかった。
その不安な予感は的中した。突如、発令された避難勧告。常界を襲う複数の災厄。彼らに、緊急対応指示を。各地に散っていた円卓の騎士たちは、その災厄の対処と原因調査へ。きっと、僕も同じ気持ちだよ。最近の平穏に、嫌な予感が止まらないんだ。
常界を襲った災厄の数は六つ。あのときよりも、被害規模が大きいわね。かつて、神才により創られし子たちが引き起こした災厄、常界の被害は三箇所。やっぱり、今回も彼女たちが。だが、その災厄に近づけば近づくほど違和感は大きくなるのだった。
大丈夫、きっとこの災厄はどうにか収まるはずです。マリナには確固とした自信があった。そして、そのときこそ、わたくしがここにいる意味を果たさなくてはなりません。そう、こうなることを望んでいたんです。いまこそ、わたくしたちの好機です。
レオラが向かったのは炎の災厄。ここは私が対処します、住民はすぐに避難して下さい。思い返すのはアカネと再会を果たした日。だけど、今回は違うみたいですね。レオラは辿り着いた災厄の正体に怒りを隠せずにいた。私はこの日を待っていました。
オレはアンタのこと、認めないね。アスルがあらわにした怒り。だから、さっさとくたばれ。力任せに振り回した鎚。生まれた因縁は、ひとりの君主の為に。そして、水の災厄は、離れ離れになっていた二人の水の運命を手繰り寄せようとしていた。
ひとりの男は、ただ見つめていた。起きた災厄と、奮闘する人々を。その男は、ただ耳を澄ましていた。悲鳴と、歓声へ。その男は、ただ感じていた。世界の痛みと、世界の愛を。その男は、ただそこにいた。常界から遠く離れた神界の玉座に男はいた。
あぁ、俺に名前はない。アインが捨てたのは「W」の一文字。だから、もう一度生まれ変わってやるさ。あの日、彼が憎んだのはたったひとり。それと、借りを返さなきゃなんないからな。すっきりとした表情で、災厄へと向かう。そうさ、俺は俺の居場所を見つける。俺は俺という人間だということを、証明してやるよ。
もう、涙は流れない。ツヴァイが捨てたのもまた、「X」の一文字。世界には悲しいことがいっぱいなのかな。だとしたら、僕はそれを受け入れるよ。存在していなかった少年が自覚した存在。僕は僕なんだ。否定された過去と、塗り替えられた現在。僕がここに来たのは、災厄を起す為なんかじゃない。止める為なんだ。
見つめていたのはある日の写真。幼き自分と、兄と、その幼馴染の少女、金髪の少年。そんな四人に優しく寄り添う亡き母は左端に。破りとられた右端。どすん。暖炉から聞こえた賑やかな音。いつも、ごめんな。私は、いつだってお兄ちゃんの味方だよ。聖鐘女イヴは、準備をすました兄を見送ることしか出来なかった。
燃え盛る炎を、さらに燃え上がらせたのは対する炎。そんな炎が消えたとき、立っていたのはあのときと違う笑みを浮かべたアインだった。そして、笑顔を捨てたアインとレオラ、ふたりが共に睨みつけたのは、漆黒の喪服に身を包んだスルトだった。
シグルズへ鎚を振り上げたアスル。だが、そんなアスルを押し戻した流れ。んだよ、邪魔すんな。感謝して欲しいね、君があのまま飛び込んだら、水の刃で串刺しだったよ。そこには、かつての水害を引き起こした張本人であるツヴァイがいたのだった。
すべて世界の決定だ。スルトが放つ炎。人間がいくら足掻こうと、決して覆ることはないんだ。だったらそれを覆したら、俺は人間だって証明になるな。足掻くアイン。これがあの人の意思だっていうんですか。レオラは想いを刃へと乗せるのだった。
うふふ、ふたりとも可愛いわね。シグルズは美味しそうに舌なめずりをした。そんなシグルズに飛び掛るふたり。複数プレイも大歓迎よ。でもね、アタシが会いたいのはアンタたちなんじゃないわ。だから、あの子が来るまでの時間だけ相手してあげる。
私は認めない、これがあの人の意思だなんて認めない。これはなにかの間違いです。だが、レオラの刃が届くことはない。この決断が、本当のあの人なんでしょうか。剣を持つ手は震える。本当にあいつを好きなら、こんなことで動じてんじゃねぇって。
オレが会いたいのも、アンタなんかじゃない。アスルが見つめ続けているのは、たったひとりの王。いま、アイツはどこにいるんだ。そんなこと聞いて、どうするのかしら。んなの決まってんだろ、殺しに行くんだよ。それはまた、別の男の声だった。
隣にはロアがいた。悪い、遅くなっちまった。仲間の応援、剣を握る手に再び力を取り戻したレオラ。俺もきっと、同じなんだろうな。なにを考えているかわからない、そんな俺たちの王サマに恋してたんだ。だからきっと、あいつには理由があるんだ。
交わる二本の剣と大剣。あら、せっかちな子ね。テメェ、いいとこ取りすんなっ。アスルが振るう鎚。ふたりの久しぶりの再会に喜びの声はなく、目的は違えど同じ男を見つめていた。アンタたちと同じで、アタシもアンタたちじゃないのよ。ほら早く。
で、理由ならこいつにもあるみたいだぜ。ロアと共にいたのはアカネ。常界の始まりの地で知った、聖なる扉の在り方。俺は絶対に、お前だけは許すことが出来ない。例え、いまがこの世界の在るべき姿だとしても。その胸には沢山の炎が宿っていた。
もぉ、あの子はまだなのかしら。シグルズは待ち焦がれていた。だって、ここにはあの子の会いたい彼がいるじゃないの。人知れずに解決されていた災害。その対処をした正体。ほら、やっぱり彼に会いに来たのね。そこには二刀を構えたアオトがいた。
人間がいくら束になろうと、神に救いを求めることしか出来ないのだ。スルトの刃が切り裂かんとする未来。俺は壊すんだ、この時計仕掛けの世界を。その為に、聖なる扉を。アカネは、あの頃からひと回りも、ふた回りも大きくなった拳を握り締めた。
みんな、久しぶり。アオトが一瞬みせた笑顔。だけど、再会を喜んでいる暇はなさそうだね。会いたかったわ、アオトちゃん。僕も、君にはもう一度会いたかったよ。だけど、いま僕が会いたいのは君なんかじゃない。だから、僕たちの邪魔をしないで。
アイツはいま、どこにいるんだ。アカネはスルトのさらに後ろを見つめていた。そうか、真実を知ったというのだな。ふたりの間にだけ通じた言葉。いくら足掻こうと世界の決定は覆らない。そして、その裏側ではとある準備が進められていたのだった。
圧倒的な力を見せ付けるシグルズに対抗する四人。互いに一歩も譲らない攻防戦。そして、そんな戦いを遠くから見つめるもうひとりの青年がいた。そろそろ、僕たちの出番だね。変わり始める均衡、それは偽りの王への道へと通じていくのだった。
本当、あなたたちはいつも口だけね。創風神ヘズは退屈そうに槍を放る。こんなんじゃ、目も覚めないわ。そんな彼女の前、立ち塞がった四人は懸命に堪える。どんな理由があろうと、私はあなたを許すことは出来ない。一度引き裂かれた家族の絆。そしていま、あなたがここにいることを、認めることも出来ないの。
やっぱり若いっていいわね。創光神オーディンの槍を弾いた剣。でも、女王さまがこんなところに出てきちゃっていいのかな。もう、大丈夫。天界は、素敵な王様たちが守ってくれるから。そして、あなたを討つことが、彼の為でもあるんだから。いいよ、そういう若い感情大好きだよ。だから、全力でやりあおうよ。