もう止めとけよ、ベイベ。お前の方こそ。無数の傷口に染み入る風。漢には引けない戦いってヤツがあるんだぜ、ベイベ。奇遇だな、俺も引けない戦いってヤツなのさ。風が泣いているか、笑っているか、それはふたりが命を張るに十分な理由だった。
そして、互いに纏いし風の果て、倒れたふたりが最後に見上げたのは空。そこには相変わらずの風が吹いていた。そんな風がふたりの頬を撫でたとき、ふたりはひとつの答えに辿りつきながら瞳を閉じる。あぁ、風は泣きながら笑っていたのだ、と。
仇をとりたかったんじゃないのか。それはライトブレードがシャイニィの隣にいる理由。だけど、どっか行っちゃったみたい。いつの間にか姿を消した光神。だからさ、俺をハニーに会わせてくれよ。ライトブレードの視線の先にはライキリがいた。
なんだよ、小僧同士の喧嘩か。シャイニィはふたりを見守っていた。どうしたんだ、裏切り者の俺を、始末しないのか。真っ直ぐな瞳のライトブレード。ただ立ち尽くすライキリ。訪れた静寂。そして、その静寂を終わらせたのは、一発の銃声だった。
みんな死ねばいい。魔物への怒りを顕にしたクラウディ。あんたらの女王だって、付き添う闇精王だって、みんな大嫌い。杖から発せられた闇が形を成したのは大鎌。私がすべてを切り裂いてあげるのよ。そこには残された力すべてが込められていた。
私はこのときを待っていたの。振り下ろされた大鎌が貫くムラマサの体。崩れる残された片方の足。私の勝ちよ。口角を上げたクラウディ。だが次の瞬間に変わる表情。ムラマサ流、抜刀術。怨みは私の好物よ。そして、ふたりの戦いは終わりを迎えた。
それでこそ俺の弟子だ。偽の一文字を背負ったナキリは愛弟子を褒め称えた。違う、私は誠を背負うんです。だが、その想いは虚しくも散る。立ち上がることの出来ないムミョウガタナ。太刀筋が語ってるぜ、俺と戦い、そして越えてみたかったってさ。
やっぱり師匠は全部お見通しなんですね。ムミョウガタナが見た誠、自分へ正直な生き方。ある意味テメェは正直者さ。ナキリは少し悲しそうな笑顔を浮かべた。これが漢の生き様だ。そして、スノウィへと向られた刃。そういうの、僕は嫌いだから。
まさか、あなたが直々に乗り込んで来るとはね。ええ、みんなが道を作ってくれたのよ。ファティマが辿り着いた美宮殿。そして、そんなファティマに対し、ヴィヴィアンは落ち着きをみせていた。さぁ、私達は私達の戦いの続きを始めましょう。
あの棺は、あなたの仕業なのね。ファティマは問う。例え否定してたとしても、あなたはそれを信じるかしら。それがヴィヴィアンの答え。私としたことが、愚問だったわね。そう、誰かが私達に口実を与えてくれた、それだけで十分だったのよ。
だから私は、ずっと機会を伺っていた。もう一度、あなた達と戦争をすることを。その為に女王様を逃がしてあげたんだから。そして、私達は新たな女王を受け入れた。本当はそれで十分だった。だけどね、人質が欲しかったのよ。そう、王様よ。
すべての駒が揃った。だけど、それをあなたは壊した。それは堕魔王の復活だった。ねぇ、どうしてかしら。どうして彼はあなた達と一緒にいるの。だから、私が正してあげるのよ。あの日の彼は王様だった。だから私は、あの日の続きを始めるの。
美宮殿の玉座にひとり残されていたヒカリの元へ現れた訪問者。そして、ヒカリはその訪問者と初対面であるにも関わらず、それが誰なのか瞬時に理解した。そして吐き出されたのは、ふたりの体に流れる血を肯定する言葉。はじめまして、お姉さん。
そのすべてを受け入れたような顔、気に入らないわね。玉座のヒカリへと近づくモルガン。当然、知っているのよね。それはふたりの体に流れる妖精王の血。私はあの男が生まれる前に、創られた。そして、私は兄が生まれた後に創られたんだよね。
すべては禁忌の血の研究の為。そして、その研究の為に生まれたふたりに、禁忌の血が受け継がれることはなかった。だから私は必要とされなかった。そして父を憎むことで自分の存在を肯定したモルガン。あなたは、いったいどう思っているのかしら。
私は、ありがとう、と伝えたい。だから、私はいまここにいる。父が目指した世界を創る為に。それは堕ちた妖精王への肯定。父がいたから私が生まれ、沢山の友達と出会えたんだもん。そして、そんなヒカリに会いに、「友達」がやってきたのだった。
俺に出来ることなんて、初めから決まってたんだ。ヒスイはただ天界でひとり、そのときを待っていた。そして、そのときは訪れる。やっぱり、君が邪魔をしに来たんだね。いいや、違う。オマエらが邪魔をしに来たんだ。今も、そして、あのときもな。
勘違いしないで、あれはボクの仕業じゃないよ。ロキが否定した在りし日の聖戦を左右した神の悪戯。もっと大きな意志が働いたのさ。竜でありながら、神の血を引く君ならわかるだろう。すべてはそう、ボクたちの創醒の聖者の気の向くままに。
ねぇねぇ、私達を敵に回したいのかな。ロキのすぐ側には、シャルラ、マダナイ、スフィア、ロプトの4人がいた。誰からでもかかって来いよ。棍を構えたヒスイ。どうして、そんなにムキになるのかな。俺はただ、あのふたりの邪魔をさせたくない。
それはヒスイが抱いていた後悔。不本意な形でついてしまったかつての聖戦の決着。だから俺は、思う存分、あいつらに好き勝手戦わせてやりたいんだ。世界の行く末なんか、そんなのどうでもいい。それがヒスイのたったひとつの願いだった。
足手まといなら言ってね。懐かしい声。一緒にいてくれるだけで、嬉しいよ。ミドリは満面の笑みで返す。もう、戦うことは出来ないかもしれない。だけど、まだ彼にこの命の恩返しが出来てないんだ。ふたりは竜王家の力が眠る祠を目指していた。
ドロシーは長い眠りから目を覚まし、竜王家に伝わる伝承を追い続けていた。竜界のどこかにあると伝わる祠に滴る最古の竜の血。その血が決める未来。もし伝承が真実なら。踊る胸。だが、ふたりの長い旅路の果てに、俯いた少女がいたのだった。
よっし、ここにも設置完了だぴょん。慌しく常界を駆け回っていたのは助手兎を連れて天界を離れたカルネアデスだった。助手君、助手君、次はどこへ行ったらいいぴょん。子供の落書きのような地図を辿り、二羽はぴょんぴょん行脚を続けるのだった。
ここで最後ぴょん。二羽のウサギが地図に記されたバツ印に辿り着いたとき、もう一羽のウサギもその場所へ辿り着いていた。こそこそ隠れて、なにしてるのかしら。杵を振り上げたコスモ。常界でもまた、妖精と魔物が争いを始めたのだった。
黒い兎と白い兎、互いに生まれた世界とは異なる世界の為に戦う二羽。ウサギは幸せの象徴なんだぴょん。それなら私は、その裏側の不幸を届けてあげるわ。表裏一体の世界と戦い。だけど、いまこの戦いは僕に預からせてもらえないかな。
二羽のウサギの戦いを制止したのはデオンだった。王の秘密機関が、こんな場所でいったいなんの用かしら。取引をさせてもらいたい。それは王の為であり、王ではない男から与えられた任務。きっと、君たちは彼を必要としているんじゃないかな。
デオンの呼び声と共に現れたのは、口を布で覆った男だった。久しぶりだな。カルネアデスへ、懐かしい声をかけたサフェス。かつて互いに教団にいた者同士。そして、そんなサフェスが連れていたのはもう一人の懐かしい男、シュレディンガーだった。
あの日の私たちの王様は正しかった。私はこの戦争に勝って、それを証明する。そして、いまの彼は間違っていると証明する。今も昔も、ファティマの心はかつての魔王の姿に縛られていた。だから、鞘を探していたのね。ヴィヴィアンはそっと呟いた。
ファティマが鞘の力を使い、再生させたかったのは、かつての魔王そのものだった。だが、それを待たずして蘇った堕魔王。そして、そのヴラドの体も、命も、すべて仮初に過ぎなかった。私の手で、彼を蘇らせるのよ。そう、気高き魔界の王として。
だとしたら、やっぱり負けるわけにはいかないね。ヴィヴィアンはファティマの理想を否定した。いつかは、こうなるってわかってた。だけどね、私にもね守らなきゃいけない子たちが沢山いるの。だから、いまこそすべての因果を断ち切らせてもらう。
もし魔界が敗北し、今度こそ完全なる敗北が訪れたら。それは、統合世界における古から続く争いの終結であり、平穏へと繋がる。だから、私達にけしかけさせたのね。ヴィヴィアンの無言が意味した肯定。きっと、あの日の彼もそれを望んでいたから。
開かれたのは王の間の扉。一歩ずつ、一歩ずつ、響き渡る足音。うつむくことなく、ただ真っ直ぐに前を見つめ、紫色のストールだけが揺れる。久しぶりね。うん、久しぶり。こうして、ふたりの女王の再会は、ひとしれず静かに果たされたのだった。
単刀直入に言うわ、いますぐ負けを認めなさい。ヒカリを見つめる視線。断るわ。ユカリを見つめる視線。交わったふたつの視線の間に生まれる緊張。言葉で分かり合えないのなら、することはひとつしかないわね。ユカリは大鎌を構えるのだった。
私はユカリちゃんの本当の想いを知りたいの。ヒカリが取り出した大剣。私の想いなんて、私の中には存在しない。そう、私の中に存在するのは、女王としての想いだけよ。ユカリを締め付けるのは、大好きだったひとりの小さな女王の想いだった。
私は女王として、いまここにいる。それなら、私も同じだよ。そこにいたのはまぎれもなく、幼いながらも、女王としての責務を全うしようとするふたりの女王だった。だから、お互いのすべてをかけて争いましょう。どちらの女王が、正しいのかを。
その大口、いつまで叩けるかな。マダナイの研がれた爪が狙う首。余計な仕事を増やさないでくれ。スフィアが奪った手足の自由。食べちゃっていいよ。手綱を離したシャルラ。さぁ、我々は進みましょう。ロプトはロキの進むべき道を示すのだった。
さすがの竜神も、これだけの数が相手じゃ惨めなものだね。だが、それでも立ち上がるヒスイ。だから、誰も邪魔するんじゃねぇって。なに言ってるんだい、邪魔をしているのは君じゃないか。そうだよ、これも世界の決定のひとつなんだから。
誰が世界を決めるのか、それは個の意志であり、また全の意志である。どうせ掌の上なんだから。明日を創るのは、いつだって神様なの。ロキが踏みにじるヒスイの心。だから、君は退場してよ。それじゃ、オヤスミ。だったら、ワシも眠らせてくれよ。
ったく、ワシの寝室の隣でドンパチせんでくれ。そこに現れたのはイッテツだった。いいんだよ、わざわざ起きてこなくて。こんな状況で誰が寝れんだよ、ボケが。イッテツが引き抜いた刀。目を見りゃわかる、ワシが斬るべき敵は、おぬしらの方だな。
ねぇ、どうしてそんな顔をしているの。ミドリが声をかけたのは、ただ立ち尽くしていたカナン。そして、カナンはただ首を横に振る。途切れた希望。オマエら、ずいぶん懐かしい御伽噺を知ってんだな。そこには、更なる招かれざる客がいたのだった。
探したぜ、久しぶりだな、お姫様。現れたヴェルンはカナンを見つめる。棍を構えたミドリの背後、突きつけられたファブラの刃。安心しろ、危害は加えねぇよ。俺達は連れて行って欲しい場所があるだけだ。だから、少し道案内をしてくれねぇかな。
ちゃんと説明してもらえるかしら。コスモはそこにいなかったはずの登場人物を睨んでいた。その説明なら、もう必要ありません。デオンが咄嗟に構えた刃。だって、今から刈られるのですから。そして、ベオウルフは六人の画伯を残し消えたのだった。
デオンの前に立ち塞がったレオナルド。この筆の前では、未来は意味をなさない。レオナルドが左へ払えば左を向く。右へ払えば右を向く。身動きのとれないデオン。だけど、あなたが縛っているのは過去の僕に過ぎません。神の力を過信し過ぎるな。
直後、レオナルドの首筋に突きつけられた対の短刀。我らが王の秘密機関をあなどらない方がいい。あなた達は神へと屈した。だが、僕らの王は、神へと反旗を翻した勇敢な王様なんだ。デオンが仕える王は、立場が変われど、ヴラドただ一人だった。
こんにちは、先輩。シュレディンガーへ向け、陽気にお辞儀をしてみせたマルク。僕が探した過去に先輩はいたよ。だけどね、僕の描く未来に、先輩は必要ないんだ。そう、もう先輩は過去の登場人物なんだよ。だから、早く退場してもらえないかな。
シュレディンガーの戦意は失われていた。自分がなぜここにいるのか、自分がなにをすべきなのか、そのすべてが抜け落ちていたのだった。ほらほら、先輩。もっともっと、いたぶってあげるからね。そんな二人の間に割って入ったのはサフェスだった。
だけど、王様を追放したのはあなたたち自身じゃない。賞賛を浴びることなく、堕ちた妖精王。そうする以外に、方法がなかったの。あの日のヴィヴィアンはすべて気づいていた。オベロンが天界を愛し、そして天界の為に戦っていたということを。
だから、私達は嘘をついた。嘘をつき続けることで、彼の守りたかった平穏を守ってみせた。彼には、もうすべてを忘れて、ただ静かに生きて欲しかった。なのに、あなた達がまた彼を戦場へ連れ出した。だから私達が勝利を掴み、そして彼に平穏を。
繋がる過去と今。互いに否定するのは今。そして、肯定するのは過去。想いが交わることはなく、交わるのは刃ばかり。いくら血を流そうが、いくら骨が折れようが、一歩も引くことのないふたり。だが、ひとつだけふたりが共にする想いがあった。
それは、例え自分が今に散ろうとも、過去が肯定されるならそれでいい、と。あがる息と熱を持つ傷口。きっと、次が最後の一撃。みんな、未来の天界をよろしくね。そして、ヴィヴィアンが込めた最後の願い。だが、それを打ち砕いた一言。待てよっ。
私ね、いまとっても幸せだよ。ヒカリが弾くユカリの鎌。だって、こうしてユカリちゃんとぶつかり合うことが出来たから。ヒカリは自分が飾りであることに気がついていた。だけどね、いまの私は、誰がなんて言おうと、天界を守る女王なんだから。
くだらない話に付き合う気はないわ。ユカリの鎌がさらうヒカリの前髪。ただ私は女王の責任を果たすだけ。ユカリもまた、自分が飾りであることに気がついていた。だから、私は天界を壊す女王になるの。そして、その先の未来で私は―。
ふたりの女王が見つめた未来、それは形は違えど、かつてのふたりの王が目指した未来そのものだった。それじゃあ、ユカリちゃんはやっぱり。だから、私が統合世界を統べるのよ。そして、神へと反旗を翻すのよ。そう、すべてはひとりの少女の為に。
それだけ大切だったんだね。あなたになにがわかるの。わかるよ。わかったようなこと言わないで。だって、私はユカリちゃんが大切だもん。聞きたくないわ。聞いて。嫌よ。どうして。もう、あとには戻れないの、私はあの子が信じた私だけを信じる。
悪い、助かるよ。ワシはただ、ワシの休暇の為に戦うだけじゃ、勘違いすな。変わる風向き。で、ワシに斬られたい奴から頭を差し出せ。だが、次の瞬間。ぐぬっ。なんだ、大したことないね。悲鳴を上げたのは研がれた爪に裂かれたイッテツだった。
おい、大丈夫か。慌てて駆け寄るヒスイ。油断しただけじゃ。明らかに運動不足だった。何人集まろうと、私たちに勝てないんだよ。おどけてみせるシャルラ。それならさ、この数を相手に出来るのか。直後、無数の魔物魂が辺りを埋め尽くしていた。
よぉ、覚えてるか。リイナの挨拶。それはかつての上司の友へ、そして、かつての好敵手へ、ふた通りの意味をはらんでいた。心強いよ。ヒスイが取り戻した活気。知らん。そっぽを向いたイッテツ。おい、それじゃかつての鬼精将の異名も泣いてるぜ。
そんな名前、聞いたことない。さらにそっぽを向いたイッテツ。まぁ、いいさ。リイナが引き連れた魔物魂がふたりの体を包みこむ。不思議と癒える傷。薬学部特性回復薬、高くつくぜ。だけど、どうして。それは戦争最中のリイナに向けられていた。
私は、それでも諦めない。だから、行ってくるね。ドロシーはひとり奥へと。ミドリとカナンはヴェルン達と共に。そして五人が辿り着いた場所。鳴り響いた避難警報。さっさと道を開けろ、俺様の帰還だ。そこは王も、竜神も不在の古神殿だった。
かつての暴君、ヴェルンの登場に震える古神殿。な、なにをしに来た。立ち塞がるのは、立ち上がることすらままならないリヴィア。怪我人は寝とけって。俺に勝てると思う愚か者がいるなら今すぐ出て来い。古神殿は物音一つ立てず静まり返っていた。
私たちふたりを、ひとりで相手するっていうの。シュレディンガーを守りながら戦うサフェスへと襲い掛かるフィンセント。私はあなた達を許しはしない。その言葉には魔界軍を率いるオベロンも含まれていた。私は、彼のせいで都合の良い犠牲に。
防戦一方、ただ耐えることしか出来ないサフェス。そろそろ、あなたには犠牲になってもらいます。フィンセントが突きつける銃口。っていうか、都合の良い犠牲って、そんなに安いもんじゃないわよ。銃口を塞ぎに、偽りの翼は舞い降りたのだった。
あら、私の相手は裏切り者かしら。カルネアデスのとある装置の設置作業を静止したクロード。私達の彩りを、邪魔してくれたら困るのよね。それは聖暦の画伯が描く未来。あと少しなの。だから、あと少しの間だけ、大人しくしていてもらえるかしら。
もちろん知ってるよ、あなた達の狙いがなにか。笑顔の消えたカルネアデス。この混乱に乗じて、アレを解放するんでしょ。ええ、だから諦めなさい。やーだぴょん。笑顔に戻ったカルネアデス。それは遙か彼方のビヨンドの笑顔を見つけたからだった。
私が欲しいのは富だ。さぁ、互いのすべてを賭けた戦を興じようではないか。髭を撫でたサルバドール。私と賭け事なんて、いい趣味じゃない。カードを開いたコスモ。どうせ、未来は決まっている。互いにベットしたのは、自分が勝利する未来だった。
親子の話に水をささないで頂戴。ファティマの前に割って入ったのはリオだった。その後ろ、ヴィヴィアンを後ろから抱き止めたライル。天界の平和だとか、因果を断つとか、こんなやり方しか出来なかったのかよ。それは怒りであり、悲しみだった。
オレさ、全部知ってたよ。アイツとの出会いも。歳が近いオレを育てたのも、オレに戦い方を教えたのも、すべてはアイツを、誰かの子供を守る為だったんだろ。ごめんね、私の汚れた手で育てちゃって。それこそが、ヴィヴィアンの罪の意識だった。
だけど、最後くらいは世界の為に戦った立派なお母さんでいさせてもらえるかな。そして、ヴィヴィアンが振り払うライルの両腕。もう、頑張らなくていいんだ。えっ。そして両膝から崩れ落ちるヴィヴィアン。今まで育ててくれてありがとう、母さん。
大剣を握り直し、合図を送るライル。約束を忘れないで。共に同じ男を殺すと誓った約束。あぁ、オレは自由になるんだ。消えるリオの影。そして、なぜか目を見開いているファティマ。それはライルの背後に、更なる影が生まれていたからだった。
ひとりの女王は、光り輝く理想を掲げた。それは誰しもが幸せになる世界。誰かが言った。それは現実から目を逸らしているだけだと。だが、それでも理想だけを追い求める女王がいたとしたら。それは誰しもが出来ることではなかった。
ひとりの女王は、闇をはらんだ現実を掲げた。それは誰しもが辛さに耐える世界。誰かが言った。それは理想を諦めてしまっているだけだと。だが、それでも現実だけを追い求める女王がいたとしたら。それは誰しもが出来ることではなかった。
理想と現実、光と闇。表裏一体。だからこそ、ふたりは同じだった。背中合わせで見つめる未来で繋がる想い。もし、ふたりが手を繋いで歩くことが出来たら。それこそが、誰しもが望む未来。現実から目を逸らさず、そして理想を追い求める未来。
やっぱり、ユカリちゃんには勝てないか。すでに立ち上がることすらままならないヒカリ。だったら、負けを認めなさい。ユカリが突きつける最後の言葉。それでも、私は負けを認めることは出来ない。だって、こんな私でも天界の女王なんだから。
いまここで、アンタを助ける。それが俺なりの、王への忠誠さ。その王が、どちらの王を示しているのか。そんな質問は無粋だった。だったらワシも、王様に恩を売っとくか。そのとき、三人の目的は一致した。誰にもあのふたりの邪魔はさせない、と。
あまり、調子に乗らないほうがいい。スフィアの牽制。これは世界評議会の決定であり、世界の決定の一部なのだから。んなこと、初めから知ってたさ。オマエらの本当の目的は、この混乱に乗じて―。それ以上は、口に出さない方が身の為だ。
ヒスイの言葉を遮ったのはベオウルフだった。順調に進んでるかな。ロキが求めた報告。ええ、予定通りにコトが進めば、恐らくは。内緒話すんなって。そして、ヒスイは答えを告げる。オマエらは、いまからディバインゲートを解放するつもりだろう。
ご名答。響き渡る渇いた拍手。争うふたつの世界、力を抑えきれなくなったふたりの王。そんな力がぶつかり合ったせいで、世界の半分が消し飛びました。誰も疑いはしない話さ。例えそれが、彼らの力ではなくディバインゲートの力だとしても、ね。
満場一致、ってことでいいんだな。そしてヴェルンが腰をかけた玉座。それじゃあ、俺様からの最初の命令だ。いいか、よく聞けよ。ただ、口を閉ざして聞くことしか出来ない古神殿の竜達。いまこの時をもって宣戦布告をさせてもらう。さぁ、戦争だ。
私は勝負に負けるのが嫌いなの。投げられたサイが示した数は6。グッドラック。コスモの杵に宿る最大の力。戦う相手が悪かったね。サルバドールが上書いた未来の数は1。だったら、これでどうかしら。コスモは無数のサイをばら撒いたのだった。
あなたは、私の相手をするです。パブロが構えた筆。だが、すでに泣き出しそうなコガネ。さぁ、行くです。逃げるコガネ。待つです。それでも逃げ続けるコガネ。うーぅ、私は戦いとか苦手なんですよお。迫り来る脅威に、涙を流すしかなかった。
さぁ、これで終わるです。パブロが描いた未来に、コガネの逃げる道はなかった。だが、それでもコガネは満足そうな笑顔を浮かべた。所長、私は最後まで頑張れましたよ。そう、コガネは逃げながらも、最後の起動装置の設置を完了させていた。
都合のいい犠牲を、安売りしないでくれるかな。戦場に舞い降りたラプラス。どうして、君までここに。サフェスに生まれた疑問。どっかの誰かさんが、誰かの為に頑張ってるみたいだからさ。幼き日の友が動かしたのは聖戦の行く末だけではなかった。
早く私に掴まって。ラプラスが手を差し伸べたのは、かつて聖暦の天才と称えられたふたり。だが、そんな簡単に戦線離脱が許されるはずはない。画伯が描く未来、前へ進めば後ろへ進む。なによ、これ。そんな三人の真上に、自律の機体が現れる。
ねぇ、どうしてふたりが争わなきゃいけないの。一歩も引くことのないふたりの女王を見つめる人影。アイツらは、小さいけれど、立派な女王様だってことだよ。だから全部が終わったとき、オマエが慰めてやれよ。いままでお疲れ様、ってな。
きっと、ユカリちゃんなら大丈夫かな。ヒカリが差し出した小指。どういうつもり。私とは、きっと手なんか繋げないよね。だから、指だけ繋いで欲しい。そして、約束をしよう。ユカリちゃんが、この世界のみんなのことを、幸せにしてみせる、って。
だったら、その目論見は外れさ。リイナに届く隠者の報告。そして、同時にロプトへ届く堕闇卿からの報告。そんな、まさか。そして、リイナはヒスイへ告げる。そっちの方は任せとけ。だから、オマエは目の前の邪魔者を、こっから追い出してやれ。
どっちが勝つかな。ヒスイは両手を伸ばしていた。どっちでもいいか。ヒスイは両足を伸ばしていた。だからオマエら、好き勝手暴れろ。ヒスイは空を見上げていた。俺は、今度こそ守れたんだ。ヒスイは誰もいなくなった戦場で、瞳を閉じたのだった。
カゲロウの色の無い瞳は、ただカルネアデスを見つめていた。絶体絶命ってやつじゃない。ラプラスの額に滲む汗。ううん、きっと違うぴょん。そして、カゲロウが差し出したデータディスク。そのディスクに書き記されていた言葉。炎才の息子より。
不完全なリブートながら、任務を遂行したカゲロウ。マスターハ、先ニ未来ヘ進ミマシタ。ダカラ、ソノ道作リオ願イシマス。カゲロウの炎は偽りの未来を燃やし、デオンは王への忠誠を燃やす。コガネは所長の為に最後まで立ち続けたのだった。
そろそろ教えてもらえるかしら。画伯の攻撃をかわしながら、サフェスへと詰め寄るコスモ。じきにわかるさ、その時が訪れれば。やっぱり、あんたはくえないわね。だが、そんなコスモも、いまの自分達がここで戦う意味に喜びを感じていたのだった。
みんな、待っていたよ。そこは幸せの白兎研究所の常界支部。そこにはメビウスがいた。偶然か必然か、集いしは聖暦の天才。そして、そこにいない天才が解放したディバインゲート。だが、その解放が予定より数刻遅れたのもまた、聖戦の因果だった。
早く席について。それ以上の説明は必要なかった。モニターに映し出されるのは各地へ設置された起動装置。中央には無数のコードに繋がれたレプリカが。シンクロ率、240%を突破。お願い。対ディバインゲート用守護防壁キュリケイオン発動。
しばらく見ないうちに、随分といい女になったじゃねぇーか。ただその場所で立ち尽くすことしか出来ないライルの側を通り過ぎ、そしてファティマへと歩み寄るのは現れた現天界の王、堕魔王ヴラド。いまでも俺の命令がきけるのなら、すぐ避難しろ。
ヴラドが口にした避難勧告。それがなにを意味しているのか、ファティマは瞬時に理解した。直後、背中越しに感じたのは憎悪の力。それがいまの、オマエなんだな。現れたのは、現魔界の王、堕精王オベロン。こうして、ふたりの王は再会を果たした。
見詰め合うふたりの王。そして、そのふたりの姿を見れば、互いに決めた覚悟は明らかだった。本当のことを、伝えなくていいのか。ライルが開いた口。いまさらコイツに、なにを伝えても、信じてもらうことなんか出来ねぇんだよ。それが天界の罪だ。
オマエらも、さっさとここから避難しろ。ふたりの王を前に、自分達ではどうすることも出来ないと悟ったライルとリオ。そして、いまだに言葉すら発することの出来ないファティマ。それじゃあ、始めようか。あの日の続きを、オレ達の戦いを。
向かい合うふたりの王。元魔界の王、そして現天界の王、堕魔王ヴラド。対するは元天界の王、そして現魔界の王、堕精王オベロン。そんなふたりを大切に想う竜神が守り抜いた、神も竜も、誰も邪魔することの出来ない最後の戦いが始まるのだった。
大分鈍ったんじゃねぇのか。オベロンの放つ闇をいとも簡単に弾いてみせるヴラド。そして弾かれた闇が壊す美宮殿の煌びやかな装飾。それじゃ、こっちからいかせてもらうぜ。現れた棺から生まれる無数の光の竜。さぁ、すべてを喰らい尽くしちまえ。
ひとりの王が攻撃が繰り出すたびに、美宮殿は悲鳴をあげる。激しい音と共に築かれる瓦礫の山。オレ達の舞台にしちゃ、ちょっともろすぎるんじゃねぇか。すでに失われた宮殿の姿。そして、そんな宮殿の上空でふたりの王は変わらず対峙していた。
天界の軍勢も、魔界の軍勢も、ただ上空でぶつかり合うふたりの王を見つめていた。いや、見つめることしか出来なかった。少しでも目を離せば、ふたりの姿を見失ってしまう。そう、ふたりの王の戦いは、目で追うだけで精一杯だったのだから。