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ふぁあ、よく寝た。解放されてしまったオベロン。彼は綴られた存在でありながら、神になるという禁忌を犯した妖精であり、そして世界を敵に回した。おはよう、元気だったかい。目覚めた彼の前、一人の仮面の男は現れた。今ね、世界がとても、大変なんだよ。そして返す答え。世界なんざ、生まれた時から俺の敵だ。
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久しぶりの再会に嫌悪を示す堕精王オベロン。目障りだ、消えてくれ。それは仮面の男に連れられたもう一人の男に向けられた言葉。綴られた存在に子供が存在していたとしたら、その子供に前世が存在しないということは、ごく当たり前の事実だった。悪いが、俺は好きにやらせてもらう。開いた掌に咲いた花は散った。
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小鳥のさえずりが聞こえた朝14時、オベロンは目を覚ました。太陽が沈み始める昼15時、昼食。微かな夕暮れ、夜16時、就寝。そんな日々を繰り返すも、彼はいつも眠そうだった。一度癖になってしまった生活習慣はなかなか治らないのだった。
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元凶はあなたなのね。闇魔女王はその事実を知りながらも、堕精王を受け入れた。俺のこと、いつでも殺していいよ。ええ、この戦いが終わったら、そのつもりよ。互いに利用し合う二人。女王は友の復讐の為、王は自分を裏切った世界への復讐の為。
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精魔会合でのひと時。で、最近困ったことはないのか。それは魔王ヴラドの優しさ。ありがとう、大丈夫だよ。妖精王オベロンは優しい笑みで答える。んじゃ今日の会議はこれで終わり。調停役の竜神ヒスイはいつもと変わらないふたりを見守っていた。
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脳裏をよぎるヴラドの言葉。その言葉をかき消した訪問者。まさか、おかしなこと考えてないよね。君の綴られし体は、僕達次第だってこと、忘れないでね。そんな言葉を残したのは、神界からの使者。そして、そんなやり取りを見ていた少女がいた。
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オベロンの苦悩は続く。いつまでも神の手のひらで踊り続けて、そこに未来は訪れるのだろうか。だが、もし、自分が神に反旗を翻したらどうなるのだろうか。そこに存在していたのは、自らの生への固執などではなく、残された者達への愛情だった。
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私達はあなたのことを信じています。魔界への侵攻指示を疑われるオベロンに優しい言葉をかけるティターニアと配下達。あなたはそんなことをするような人じゃない。だって、あなたは私達を、家族のように、大切にしてきてくれたじゃないですか。
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こうして、かつての聖戦は始まった。止まることのない魔界の侵攻。散りゆく天界の者達。だが、天界を統べる王であるオベロンに、立ち止まることは許されなかった。いくら大切な家族が散ろうとも、王は涙を流すことは許されなかったのだった。
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このままでは美宮殿は制圧されます。続く篭城戦。散りゆく大切な家族。もういい、もう戦わないでくれ。それでも世界の為に散りゆく家族達。もういいんだ。この時、オベロンは初めて王の涙を流し、そして神へと懇願する。「戦う力」が欲しい、と。
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始まった最終決戦。禁忌の力を得たオベロンとヴラドの戦いは無の空間に包まれていた。いったい、中で何が起きているのか。それは外から見ることは出来なかった。だが、確かにそこで、自らの愛する世界のすべてをかけた戦いが行われていた。
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戦いが終わったとき、立っていたのはオベロンだった。次の瞬間、沸き起こるはずの歓声はなく、代わりに響き渡ったのは憎悪に包まれたオベロンへの恐怖の糾弾。こうして、世界の為に戦った王は、信じた家族に裏切られ、世界から弾かれたのだった。
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ひとり生き残ったオベロンに生気は残されていない。そして、されるがままにされた幽閉。こうして、いったい何年の月日が流れただろうか。再び聖なる扉が開かれたとき、ひとりの人間が天界の裏側、深い闇が閉じ込められた洞窟へと迷い込んでいた。
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朽ちていた牢獄の鍵。人間の女はオベロンの元へと通い続けた。会話を続けた。元の世界には大切な家族がいたことを。家族という存在の大切さを。そして、次第に開かれるオベロンの心。そんなふたりの間に、新しい家族の命が宿ったのだった。
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ある日を境に、オベロンの元へ人間の女は現れなくなった。だが、数日後、オベロンの元を訪れた足音。それは女のものではなかった。牢獄の鍵が壊れたって、人間の女が情報を売ってくれたんだ。こうして、オベロンは再び家族に裏切られたのだった。
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魔界の軍勢を率いる王、オベロンの周囲には無数の魔物が配置されていた。それは警護なのか。それとも、監視なのか。それはオベロンにとって、どちらでも良かった。ただ、オベロンは自分が愛していた世界への復讐を果たしたいだけなのだから。
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ヴラドが口にした避難勧告。それがなにを意味しているのか、ファティマは瞬時に理解した。直後、背中越しに感じたのは憎悪の力。それがいまの、オマエなんだな。現れたのは、現魔界の王、堕精王オベロン。こうして、ふたりの王は再会を果たした。
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オマエらも、さっさとここから避難しろ。ふたりの王を前に、自分達ではどうすることも出来ないと悟ったライルとリオ。そして、いまだに言葉すら発することの出来ないファティマ。それじゃあ、始めようか。あの日の続きを、オレ達の戦いを。
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大分鈍ったんじゃねぇのか。オベロンの放つ闇をいとも簡単に弾いてみせるヴラド。そして弾かれた闇が壊す美宮殿の煌びやかな装飾。それじゃ、こっちからいかせてもらうぜ。現れた棺から生まれる無数の光の竜。さぁ、すべてを喰らい尽くしちまえ。
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天界の軍勢も、魔界の軍勢も、ただ上空でぶつかり合うふたりの王を見つめていた。いや、見つめることしか出来なかった。少しでも目を離せば、ふたりの姿を見失ってしまう。そう、ふたりの王の戦いは、目で追うだけで精一杯だったのだから。
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くそっ、こんなときに。それでもすぐに立ち上がるヴラド。そんなヴラドの瞳に飛び込んできたのは、ただ上空のオベロンを見つめる、天界、魔界の両軍勢だった。そして、ヴラドはその眼差しがなにを意味していたのか、すぐに理解したのだった。
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兵の間に伝染する恐怖。そして、各々が構えた武器。向けられた先は、ただひとり上空に浮かぶオベロン。そして、それを止める女王も、参謀長もそこにはいない。誰かが命令を口にすることなく、ただ自然に、オベロンへと向けられていたのだった。
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オベロンはただ、傷だらけのヴラドを見つめる。ヴラドはかすみ始めた瞳でオベロンを見つめる。そして、そっと問いかける。どうして避けようとしなかったんだ、と。すると、オベロンはこう答えた。俺は、生まれたときから、世界の敵なんだ、と。
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ただ真直ぐに、堂々と胸を張り、ふたりの王の真下へと辿り着いたふたりの女王。誰の許可を得て、王に刃を向けているのかしら。大きく払われた右手。約束を弾いた左手が繋いだ右手。空へと伸びた左手。違うよ、あなたは世界の敵なんかじゃない。
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静けさを呼んだ正体、裏古竜衆を引き連れた紅煉帝ヴェルン。聖戦の最終局面、またしても訪れた第三勢力の介入。かつての聖戦の事情を知る者は、口を揃え、予期せぬ邪魔者へ非難の言葉を浴びせるのだった。だが、ヴェルンはその言葉にこう返した。
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なぁ、聞こえたか。それでも、ただヴラドを見つめ続けるオベロン。あいつら、あの頃のオレ達よりも全然幼いんだぜ、なのに大したもんだよな。小さいながらも、女王であろうとしたふたりの女王。なのにさ、オレ達はいったい、何してんだろうな。
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これ、あとで気が向いたら読んでくれ。そしてヴラドは一通の手紙を差し出す。オレからの、降伏文書だ。そして、ヴラドは天界全域に聞こえるよう、声高らかに宣言する。たったいま、この時をもって、オレは天界の王であることを辞めることにした。
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生まれながらに王である男に、幼い日の記憶はなかった。雨に打たれながら、泥にまみれながら、それでも遊び続けた記憶も、友人も存在していなかった。だが、そんな男に出来た友人。だけどもう、友ではいられないんだ。ありがとう、さよなら。
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滅び行く天界を前に、オベロンの脳裏をよぎるのはかつての温かな思い出。止めろ、止めてくれ。あぁ、それでいいんだ。満足げな笑みを浮かべたヴラド。そう、オレは魔王で、オマエは妖精王なんだから。そしてオベロンは最後の一撃を放つのだった。
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生まれながらに王である男に、幼い日の記憶はなかった。雨に打たれながら、泥にまみれながら、それでも遊び続けた記憶も、友人も存在していなかった。だが、そんな男に出来た友人。だけどもう、友ではいられないんだ。ありがとう、さよなら。
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王として創られた男は、そのすべてが個の為に捧げられていた。そう、だって俺はその為に生まれたのだから。だが、そんなオベロンのことを、王でありながらも、友として接してくれたふたりの友がいた。迫る決断の日と、今も出せない答え。それは王でありながら、友を手にしてしまったがゆえの弱さと優しさだった。
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これは、もしもの話。で、これは一体なんなのかな。それはオレが聞きたい。困惑するふたりの王。今朝起きたら届いてたんだ。そして、片方の王、オベロンはさらに頭を悩ませる。いったい、どっちがどっち宛なんだろう。なんだ、ずいぶんお気楽な悩みだな。そして、もう片方の王は微笑ましく見守っていた。
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オマエはいつだって、優しすぎるんだ。だって、せっかくのプレゼントなんだから着てあげないと。これのどこがプレゼントだよ、ただの嫌がらせだろう。それでも、プレゼントには変わりないからさ。平行線の会話、だが、それも平和な証拠だった。
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美宮殿の王の間。ただ静かに語りだしたオベロン。自らの体に流れる禁忌の血。かつての聖戦の真実。俺は過ちを犯した。沢山の家族を、天界を傷つけた。だから、どうかその償いをさせて欲しい。左手に握られた対のネックレス。右手に抱えられた王の証。いまここに誓わせて欲しい。誰よりも、この天界を愛し抜くと。
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オベロンが握り締めていたのは、降伏文書だと偽られていた、最愛の人からの手紙だった。真実と後悔。そして、覚悟と希望。俺は、あの日選ぶことの出来なかった、もうひとつの道を選ぶよ。だから、共に行こう。これからの俺たちなら、必ず―。
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おかえり。ヒカリを出迎えたオベロン。みんなを連れてきたよ。様子を伺いながら差し出されたドライバ。そして、そんなヒカリを察し、優しい眼差しを返すオベロン。どうもありがとう。だが、オベロンはヒカリの嫌な予感を否定することはなかった。
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そう、だから俺たちはここにいる。二つ目の影、オベロン。ヒカリは知っていた。もし、綴られしオベロンの命が果てたとき、なにが起こるかを。駄目だよ、戦ったりしたら。そんなヒカリへオベロンが返した言葉。約束するよ、俺は死んだりしない。
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ねぇー、僕のこと忘れてない? リリンの隣、現れた水聖人ヨハン。なんか厄介なのが出てきたな。ヴラドがついた溜息。ってことで、アイツはオマエらに任せるか。問いかけた先の更なるふたつの人影。あぁ、任せとけ。ようやく、ワシの出番か。
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オベロンが放つ攻撃がいとも簡単に切り裂いたリリンの柔肌。そうか、お前には聖者の血が流れていたのだったな。顔つきの変わるリリン。だとしたら、まずは手始めに貴様から殺してみせよう。そして、リリンの冷たい瞳はヴラドを捉えたのだった。
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あの人、怒るかな。オベロンは少しだけ不安そうだった。あぁ、怒ると思うぜ。不安なのはヴラドも同じだった。最後にもう一回、お酒でも飲みたかった。あぁ、オレも同じだ。ふたりだけに通じる会話。蘇る記憶。笑い合う魔王、妖精王、そして竜神。
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どうせこの体はもう持たない。そして、ひとりリリンの許へと飛び立つヴラド。行かないでくれ!届かない声。ありがとな、親友。オレはオマエがいたから最高の夢がみれた。こうして始祖との戦いは、ひとつの覚悟と引き換えに終焉を迎えたのだった。
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ヒスイの右側、立っていたのはオベロン。君がいたから、俺たちはここにいられる。だから、最後は共に並ぼう。俺たちは3人でひとつなんだよ。かけられた言葉。お前ら、やっぱり最高だよ。そして、始祖との戦いは常界へと場所を移し、再開された。
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最初の攻撃を放ったのはオベロンだった。その手に集められた光の力。そして、その予想外の行動に、思わず笑みを浮かべてしまったヴラドとヒスイ。オレたちも、負けてらんねぇな。変色したヴラドの左腕。そして、まるで竜のように踊るヒスイの棍。
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オレの身に宿る竜の血よ、オレにあの日と同じ「守る」力を与えてくれ。そう、ヴラドが選んだ「守る」べきイマの世界。そして、覚悟を込めた一撃。すかさず、後を追うオベロン。ううん、ひとりじゃ行かせない。共に行こう。共に「戦う」力を俺に。
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妻と愛した女とともに墓で眠るオベロン。その墓を訪れたひとりの男。ありがとう、父さん。抱きしめられた石碑。父が子を抱きしめることは叶わなかった。だが、そこには父を抱きしめる子供がいた。