魔界の風の直後に流されて来たのは、沢山の幸せを届けようと、沢山の手紙を抱えた風の妖精。魔界からも、天界からも、このラウンジには幾つもの風が流れ着く。そして、流れつくのは風だけでなく、時には水の妖精さえも間違えて流れ着くのだった。
心地よい風は、風を動力源とした自立型ドライバの活動を活発にした。そう、動力源は風、機体の色は緑。だけど、しかれた警戒態勢は青。その場で動力源の増幅を可能にする環境に頼ることなく、自立進化をした青い自立型ドライバが忍び寄る。
代わり代わり姿を見せる乙女達。風の吹くラウンジ:ジュピターには、風に愛された乙女が。助けを求めるかのような潤んだ瞳が、眼鏡の奥に見え隠れしていた。そんな乙女を慰めるかのように、水に愛された乙女が、笑顔で手招きをしていた。
ちょっと立ち寄ったラウンジで一休み、風の悪魔はいつものガスマスクを外し、心地良い風に吹かれていた。そう、心も体も休ませていた。そんな彼女の前に姿を見せた来訪者に、焦るがあまり、風の剣を向けるのだった。全ては照れ隠しの為に。
暖かな優しい光が溢れるラウンジ:ビーナス。金星でもあり、また女神の名でもあるその空間は、母のゆりかごの様な優しさに満ち溢れていたはずだった。溢れ過ぎたその光にまぎれ、悪意のある光が増え続けた時、その優しさは厳しさへと姿を変えた。
優しい光をスポットライトに、ステージへと昇ったのは光のアイドル妖精。無数の光に酔いしれた歌姫は、この場所が自分の居場所であるかのように、最高の時間を過していた。ただ、その歌は、ラウンジでの休息を許さないほどのものだと気付かずに。
優しい光を切り裂き、休息のひと時を引き裂いたのは紫色の鎌だった。両隣に従えたのは斧を模した自立型ドライバ。3機が揃って、初めて警戒態勢の色の意味が解る。だけど、理解した時には既に、新たな悪意ある鎌が振り下ろされているだろう。
トラブル発生中のラウンジ:ビーナスに、大精霊の親衛隊長でもある光の妖精もまた居合わせていた。ラウンジに出現する乙女の霊の調査依頼、それが彼女がここに訪れた理由。ただ、彼女には、その霊の正体が何なのか、調べなくても解っていた。
マイハニーを追いかけて、ラウンジに現れたのは軽い光の処刑人。昇格試験よりも、なによりも、光の乙女を手に入れる為に。ただ、彼が訪れた時にはもう、光の乙女は姿を隠していた。慌て追いかける彼は、その道を遮る者全てに剣を向けた。
光溢れるラウンジとは反対に、心地良い暗闇に覆われたラウンジ:サターン。そこは不安な闇とは違い、誰もが安心出来る闇に覆われていた。眩しさに疲れてしまった人々が休息に訪れるその場所には、眩しさに疲れた魔物の群れもまた、訪れていた。
闇に紛れて悪戯を繰り返していたのは、進化を遂げた闇の悪戯妖精だった。暗闇から忍び寄り、そして繰り出される正義の拳。自らがこの、闇のラウンジのチャンピオンに君臨すべく、足を踏み入れた者全てに、その右ストレートを叩き込むのだった。
ラウンジに配備されていた3機の自立型ドライバが稼働を開始した。重厚な金属音が鳴り響いた暗闇、ひと時の休息は終わりを告げる。いや、初めから休息などなかったのかもしれない。開かれた扉の先へと辿り着くまで、休息など許されなかった。
惑わし乙女と、昇りし乙女の邂逅、それは闇の中で。お互いがお互いに興味なく、このふたりの間に会話はなかった。だけど、会話がなくても、そんな一緒にいる時間がお互いにちょっとだけ心地よかったのは、きっとお互いに興味がなかったから。
常界<テラスティア>での一仕事を終え、暗闇のラウンジで一休みをしていたのは正統派処刑人の魔物の男。ほんの一休みのはずが、心地良い暗闇に心奪われ、ついつい長居を。だけど、偶然にも通りかかった罪人に、自らの闇の鎌を振り上げた。
心を無にする事の出来る、素敵な癒しのラウンジです。そんなコンセプトでオープンしたのが、このラウンジ:アース。仕事に学校に、恋に遊びに、そんな日常に疲れてしまった人が、思考を停止したい人が訪れるラウンジには、無が広がっていた。
無に出来た心、全ての思考から解放されたこのラウンジに、主だったサービスなど何も無く、その干渉しないというサービスこそが、人気の秘密だった。だけど、それは落ち着いたこの空間を壊してしまう、招かれざる悪戯妖精が現れるまでだった。
物静かなラウンジに、いくつもの回転音が鳴り響いた。無という癒しを壊してしまうほどのその音は、予期せぬ客にだけ向けられた、ラウンジ唯一のサービス。そして、その予期せぬ客は、その音が消えた時、その存在が無かったことにされるだろう。
ふわり、ふわり、浮かんでいたふたりの乙女。静けさを取り戻したその空間の居心地の良さに、ふたりはいつまでも昇れずにいた。いや、例え居心地が悪くなろうとも、そのふたりはきっと、昇ろうとはしないだろう。昇ることに、興味などなかった。
極東国<ジャポネシア>からの帰り道、精神を統一する為に訪れた無の正義の処刑人は、この何も無い空間で、ただ目を閉じていた。思い出すのは誠を背負いし者達の背中。越えるべき相手を見つけた彼は、刀を握る拳に力を込め、そっと目を開いた。
流れ着いたプラネタラウンジで、休息する暇もなく、遂に辿り着いたのが最後のラウンジ:ムーン。求めていたはずの休息は叶わず、求め始めたのはこの場からの脱出。だけど、そう簡単には抜け出させてくれないのが、このラウンジ:ムーンだった。
仲良しだけど、仲の悪い、だけど本当は仲良しの3色の悪戯妖精達は、最後のラウンジでさえも悪戯を繰り返していた。交わった世界により、更なる力を得てしまったその力は、もはやただの悪戯では済まされないことに、気付いてはいなかった。
小さな4つの風は、大きな波を生んだ。その波は、風により更に勢いを増す。ただ、小さければ心地良い風も、漂うことが出来れば気持ち良い波も、その全てが混ざり合うことにより、脅威へと変わる。もう、このラウンジにも、休息はない。
光の自立型ドライバに照らされ、浮かび上がったのは闇の悪意。一時の休息と引き換えに、訪れた予期せぬ客へと向けられたその悪意は、ライトアップされ、より一層と眩い輝きを放っていた。まるで、今から行われる行為を、正当化するかのように。
流れ着いた者を餌にする、アリ地獄の様なこのラウンジの調査の為に舞い戻ってきたのは、ふたりの小悪魔を従えた戦う乙女。月に照らされた夜、この7つのプラネタラウンジ最期の闘いが始まる。その先に待っているのは、休息か、次なる戦いか。
遥か彼方に浮かぶ理想郷<アヴァロン>で待つ男がひとり。世界へ向けた聖剣、浮かべた笑み、自らこそが聖暦の王だと名乗りを上げた。少し伸びた前髪から覗く、揺るがない瞳、果たすべきは、王の責務。常界最強の男と共に、開かれた扉のその先へ。
ガラスの城の舞踏会、それは魔界で最も華麗な夜、フィナーレに選ばれるのは新たな黄の王。綺麗なドレスに憧れて、ガラスの靴に想いを馳せる、そんなシンデレラは自立型ドライバ【トゥエルブ】と共に、掃除に洗濯に大忙し。だけど、彼女の前に現れた魔法使い、輝く世界、煌めく夜、少女は大人の階段を上り始める。
12時の鐘が鳴り響き、舞台の幕は降ろされる。けれどひとり、置き去りの少女。それはガラスの靴に選ばれし新たな王。降ろされた幕は再び開かれる。新たな時代の、黄の女王シンデレラの時代の幕開け。12は0へと意味を変え、【トゥエルブ・ゼロ】と共に新しい時代を。華麗な夜、女王は舞台の階段を下り始める。
終わりを告げた華麗な舞踏会、そして生まれたのは、ガラスの靴に選ばれし新たな黄の女王。黄の城から湧き上がる歓喜、始まる0時、それは新しい時代の、新たな女王の時代の幕開け。眩い光に照らされた舞台の階段を下り始めた女王を、いざ迎えに。
魔界<ヘリスティア>の竹林、月御殿で夜涼みをするカグヤ。ドライバの【ミタラシ】と共に、月を頼りに歌を詠む。それは遠き故郷、月への想い歌。いずれ訪れる十五夜、逃れ得ぬは恐怖と不安、曇らせる心。やがて明け始める空を見上げ、彼女は再び歌を詠む。どうか夜よ明けないで。願い虚しく、沈み始める月と空。
竹を揺らす風、わずかな葉音だけが響き渡る静寂の夜、欠けた月が満ちる頃。受け継がれた紫の王衣に袖を通した彼女が【ミタラシ・ゲッコー】と共に詠みはじめる歌。月下に舞い踊る願いの言の葉。今宵、十五夜に紡ぎ出された歌、それは、満ちたての月が照らし出した、紫の女王カグヤの、はじまりの歌。
生い茂った魔界の竹林の中、月夜に照らされた月御殿、故郷の月へと想いを寄せ、詠みはじめた歌。それは新たな紫の女王のはじまりの歌。十五夜のお月様が照らす言の葉を頼りに、満ちた月が欠けるより早く、生まれたての女王の、すぐ傍へと。
7匹の自立小型ドライバ【ピグミーズ】と共に暮らす少女、シラユキ。くだらない女の嫉妬が彼女をひとりにした。吐き出す毒はせめてもの反抗。復讐の夜、阻害された過去を、過ごした孤独の足跡を消しさるよう、深々と白い雪が降り積もる。すぐに消える小さな足跡、そしてすぐ生み出される、迷いのない深い足跡。
鏡よ鏡、この世界で最も美しい女性は誰かしら。亡骸と化した女王の間で、満面の笑みを浮かべた少女は問いかける。7つの鏡に7人の、1人の幼い新たな女王を映し出した【ピグミーズ・ミラー】。復讐を遂げた朝、晴れ渡る空、輝く白銀、刻まれる新たな足跡。白の女王シラユキが刻む足跡を消す雪はもう、降らない。
交わってしまった世界、残された富を独占したのは権力者。自らこそが解放の導き手と名乗りを上げたユライは、力による支配へ反旗を翻した。全ては弱き者を、自分と同じ持たざる者達を理不尽な弾圧から守る為に。何も持たざる者が、唯一手にした短刀型ドライバ【タトラ】は、彼を義賊から英雄へと導けるだろうか。
権力者により統制された情報は悪意すらをも隠した。そして、無実の罪により囚われ、冷たく重い手錠をはめられたユライ。そんな不遇の塊を打ち砕いたのは、持たざる者達の願いが集められたドライバ【タトラ・ケッテ】だった。風を纏った刃で聖暦の闇を切り裂いた時、義賊皇として奉られ、新しい時代の風が吹いた。
7つ立ち並んだ楼閣の守り人、イナリはひとり下を向いていた。今も降り止むことのない世界の悲しみを受け止めるには小さ過ぎた赤いから傘を片手に。人々を導く炎となれ、天界<セレスティア>から与えられた使命を果たすのが先か、それとも、孤独に震え、降り止むことのない悲しみにその灯を絶やすのが先か。
やっと自分を見つけてくれた、その喜びに笑顔をみせたイナリ。もたらされた炎と炎の共鳴<リンク>は狐の少女を巫女へと導いた。次は自分が導く番だと、9つの尻尾が先陣をきって歩く。まだ、降り続ける悲しみは止まない。だけど、少しの悲しみでも受け止めたいと、小さ過ぎる傘を閉じようともしなかった。
辺り一面白銀世界、だけど、雪は降り止んでいた。まるで、新たな一歩を踏み出し、開かれた扉へと向かおうとする、ひとりの少女の足跡を消さない為かのように。遂げた復讐、鏡が映した新たな姿、それは小さいながらも、新たな白の女王だった。
遂に二等悪魔へと昇格を果たし、炎刑者の二つ名を名乗ることが許されたフレイムタン。罪人を焼き尽くすのは魔界<ヘリスティア>の悪しき炎。瞳に映る赤は、彼が追い求めていた真紅の赤。卒業試験まであと少し、最後に課せられた課題は自らを666回殺すこと。死刑執行人は罪人を殺すと共に、自らを殺し続ける。
昇格試験、6回殺すべき相手に選んだ青い瞳の男は、すでに罪人ではなくなっていた。罪人以外を殺めてはならない、それが死刑執行人学園の規則。追い続けた目標を失くしたアイスブランドの心は更に冷たく、そしてその冷たい心はいとも簡単に罪人を6日以内に6人、6回殺め、氷刑者の二つ名を背負うこととなった。
二等悪魔に昇格しようともマスクを手放せないでいたのは、まだまだ人見知りで恥ずかしがり屋なウィンドピア。そんな彼女も今や風刑者を名乗り、穏やかな風すらも罪人を切り裂く刃に変える風の死刑執行人<エクスキューショナー>となった。卒業まであと少し、優しい彼女は自らを666回殺すことが出来るか。
止まることを知らないマイハニーへの想い、咥えたバラは求愛の証。種族を超えた愛が、立ち塞がる壁が彼を夢中にさせた。自らを高め、二等悪魔への試験も一発合格。だけど、光刑者の二つ名を得たライトブレードは知らない。追い求めていたマイハニー、光の妖精が求めていたのは、性別を超えた愛だということを。
次なる昇格試験の真意に触れた時、その手は震えていた。一つ、対象の心を殺す、二つ、対象の世界を殺す、三つ、対象を殺す、四つ、対象を知る者を殺す、五つ、対象の記録を殺す、そして、六つ、対象を殺した者を殺す。完了する6回の殺し。自らの命を6回絶つことと引き換えに、ダークサイズは闇刑者となった。
罪人へ無の刑を与えることこそが自らの正義と信じ、そして貫いた武士道は彼を無刑者へと、二等悪魔へと導いた。だけど、卒業試験の束の間の休息、訪れた極東国<ジャポネシア>の京の都の鴨が泳ぐ川の隣、石畳が続く街の片隅で、枯れることなく咲き誇る桜を前に、聞こえてきたのは諸行無常の響きだった。
ねぇ、どこにいるの。私をひとりにしないで。ずっと一緒だよって、約束したじゃない。魔界の最果ての地、初めての友達を探して彷徨う少女がひとり。友達とお揃いの、紫色したストールを握りしめて。出会いは突然に、そして、別れも突然に。ヴァルプルギスは【サヴァト】と共に、初めての友達を探し続けていた。
なんで、私がわからないの。私のこと、忘れてしまったの。ずっと一緒だって、嘘だったの。友達なら、私がいるよ。私だけの、友達でいてよ。そっか、みんな、殺しちゃえば、いいんだ。そしたら、世界は、私と、あなたと、ふたりだけの世界ね。ヴァルプルギスは【サヴァト・メア】と共に、魔女王の力を暴走させた。
魔界<ヘリスティア>の最果ての地、そびえ立った不夜城ナイトメアの子供部屋、泣き疲れた少女がひとり。探していた友達との再会は、少女を失意の底へと突き堕とした。暴走した魔の女王は、常界<テラスティア>へ向け、大切なストールを翻した。
出会ってしまった炎と炎、彼は言った、大きく育ちやがったな。少年へと向けられた義腕型ドライバ【エルプション】は、59回目の起動実験の末の爆発事故の傷跡。炎に包まれた研究施設、死んだとされた彼は生きていた。そう、世界評議会の一員として、そして、パブロフという天才の名前を背負い、生きていた。
全ては計算通りだった。炎才は息子ですらも利用した。進化を遂げた【エルプション:ホムラ】の前に崩れ落ちるひとりの少年。男だったら、必ずやり返しに来いよ。炎才は、再会の言葉と、茜色のピアスを1つだけ残し、姿を消した。それが、少年の空いていた右耳を飾り、そして、再び立ち上がる力になると信じて。
言葉を発することに意味はあるのか。所詮、他人同士が通じ合うことなど出来やしないのに。猫背が故にシュレディンガーと呼ばれた天才は、義口型ドライバ【ディラック】でその口を塞いだ。丁度雪が降り始めた季節、言葉を超越した交流に覚えた初恋。それは、刃と化した水が踊り舞う悲劇のクリスマスの始まり。
一夜にして666人の人間が殺された。2年前の冬、あまりにも悲惨な出来事は「蒼のクリスマス」と呼ばれた。シュレディンガーが覚えた初恋、交流という名の大量虐殺。逮捕された水才は【ディラック・ポール】で言葉を、口を閉ざした。そんな彼が再び姿を現したのは、世界評議会主催の新型ドライバ発表会だった。
折れた翼、傷ついた背中、それは天界からの追放の烙印。罪状さえも告げられぬまま、少女は空に堕ちた。加速する度に遠のく意識、あぁ、翼を下さい。そんな彼女を受け止めたのは、柔らかな衝撃。月日は流れ、想いは形を成し、義翼型ドライバ【エール】が完成されると共に、彼女は聖暦の天才・ラプラスと呼ばれた。
風の妖精達が立て続けに行方をくらませていた。そして、その裏で噂をされたひとりの少女。全ての記録から抹消されたひとつの名前、それは昔、有り余る才能が危険分子認定され、不遇にも追放を余儀なくされた悲劇の少女の名前。妖精は、時として悪魔になる。風才ラプラスは【ディアブル・エール】で天界を翔けた。
世界の半分は幸せで出来ている。もう半分は、悲しみで出来ている。ひとりの天才は、繰り返される悲劇を前に、自らの左目を隠し、そして、彼女の世界は半分になった。聖暦のカルネアデスと呼ばれた彼女の右目が映したのは、幸せか悲しみか。左目の義眼型ドライバ【オプタルモス】は、何を見ようとしているのか。
幸せを求めた光才は、新たな刑罰を提唱した。人に悪意を忘れさせるには、罰を与えることではなく、幸せを与えることである、と。幸福刑が施行された第七監獄は、ただ幸せに満ちていた。それが、カルネアデスが右目に映したかった世界。そして、進化を遂げた【ピソ・オプタルモス】は、その裏側を見つめていた。
浴室に住まう光輝く美の妖精に恋破れ、彼の心は穴が空いた。だったらいっそ、心などいらない。ヘンペルと呼ばれた天才は、心の臓を失くした。そして、その空いた穴に、自らが開発した義臓型ドライバ【ヘルツ】を埋め込み、逃避した先は常界<テラスティア>の海岸線。そんな彼に、ひとりの男が手を差し伸べた。
差し出された手、招かれた世界評議会。与えられた研究施設と膨大な開発資金。繰り返されたのは、負の感情による闇の力の増幅実験。闇才となったヘンペルは、それが天界の脅威になると知りながら、あえて外しやすいリミッターを用意した。全ては、上位なる存在の為に。創り物の、【ヘルツ・リューゲ】を捧げた。
天才の出現に、世界が沸いた。予言により免れた事故や天災。彼女が聞いたのは、未来の声。そして、次に予言された聖なる扉。だけど、扉が開かれたその時、彼女は悪魔の子と呼ばれ、痛烈な批判を浴び、世界に裏切られた。後にメビウスの名で人前に現れた時、彼女は義耳型ドライバ【ループ】で耳を閉ざしていた。
彼女はひとり、怯えていた。聞こえなくなった未来の声。迫りくる不安、強化を施した【ループ・ループ】ですら聞こえない未来の声。最後に聞こえたのは、ドラゴンの解放による混血族<ネクスト>の訪れ。無才メビウスは、無数の監視役自立型ドライバと共に、もう一つの第五世代自律兵器型ドライバの開発を始めた。
一途な想いは淡い恋。今はまだつぼみ、花咲くことない叶わぬ願い。薄れゆく希望に、悲痛な顔を浮かべたプチモネ。開かれた扉により、出会えたふたり。始まった審判により、引き離されたふたり。それでも彼女は胸に誓った。いつまでも、あなたを愛すから、と。二度と出会うことのない、緋色の瞳をした最愛の人を。
叶った願いは、彼女に迷いを与えた。向けられた銃口、もう、あの頃には帰れないふたり。再び出会わなければ、素敵な思い出のままでいられたのに。淡い恋は、悲恋へと、その痛みが、ひとりの少女をアネモネへ。緋色の瞳は、真っ赤に咲き誇った花を見つめ、そして、ふたりの関係に、サヨナラを告げようとしていた。
誰にでも屈託のない笑顔を見せる花の妖精プチニカは、水も滴る美女の元で、元気いっぱいに育てられていた。いつの日にか、黄昏の審判に立ち向かうひとりの、水を留めた少年の力になれるようにと、今はまだ、花開く時ではないと。そしてまた、花開く時が、永遠に訪れないことを、切に願われてもいたのだった。
それでは、行ってきます。花開いてしまった妖精、ベロニカは常界<テラスティア>へと向かった。始まってしまった審判に、少しの役にでも立てればと、ひとり意気込む彼女。水を留めた少年に、いくら冷たくあしらわれようと、それでも彼女は忠実に、天界<セレスティア>の平和を願い、笑顔を振りまいていた。
図太そうに見えて繊細なプチゼツランは、いつも悩んでいた。もっとおしとやかでいられたら、あの子みたいにみんなが振り向いてくれるのに。羨みの対象は四つ葉のクローバーを追いかけていた風の妖精。優しさの風よりも、厳しさの風を吹かせる彼女は、自分の持って生まれた力の意味がわからず、花開かずにいた。
天界に忍び寄る魔の手、それは空へと落とされたひとりの悲劇の妖精の悪意。次々と力を失う仲間達を前に、花開く時を迎えたリュウゼツラン。一度咲いたが最後、それが最期になると知りながら吹かせた厳しさの風は、多くの命を救った。厳しさが、本当の意味での優しさだと知った時、彼女はもう、目を閉じていた。
私は、あなただけを見つめているわ。唐突に言い放たれた告白、それは、光の戦乙女へと向けられていた。これは憧れかもしれない、だけどきっと、私にとってはこれが愛なの。真っ直ぐ過ぎるその瞳に、動揺を隠せないでいる戦乙女を見て、花の妖精プチワリは、笑顔を見せることもなく、ただ答えを求めていた。
自分の気持ちに、何の迷いもなかった。恥ずかしがることも、隠すこともないその一途な想いは光輝き、そして、花開いた彼女はヒマワリへと進化を遂げた。今もまだもらえない答え、それでも彼女は、ただひとりだけを見つめていた。そんな一途な想いの邪魔をする光の悪魔に対し、彼女は軽蔑の眼差しを向けていた。
天界<セレスティア>の海岸線、彼女はそっと、耳打ちをした。彼女にとって、それはちょっとした悪戯。だけど、それはひとりの天才の心に穴を空けてしまうほどの悪戯。時に、愛は憎しみへと変わる。まだ、花開くことのない妖精プチオラは、すれ違ってしまった恋によりもたらされる災いを、知る由もなかった。
男女のすれ違いが、こんなことになるなんて。天界<セレスティア>へと向けられた悪意を前に、自らの悪戯を精算すべく、常界<テラスティア>の闇才の元へと急いだのは、少しだけ大人になった花の妖精ビオラ。彼女は自らの悪戯を悔み、そして、大人の男女の恋のすれ違いによる恐ろしさを、この時初めて知った。
私はいったい、誰に仕えればいいのかしら。まだ花開くことのない彼女は、無の大精霊に尋ねた。告げられたのは、聞き慣れたひとりの男の名前。プチユリが花開く時、それは仕えた者の最期の時。そして、それはその者が無に帰す時。彼女はそれが、何を意味するのかもわからず、ただ、告げられた男の元へと向かった。
告げられた名前を手掛かりに、ひとりの男へと辿り着いた時にはもう、遅かった。男が向かった先、それは、触れてはいけない聖なる扉<ディバインゲート>の真実。黒から白の隊服へと着替えたその意味を知り、自ら花開き、シラユリとなった妖精は、会うことの叶わなかった仕えるべき男へ、涙とその身を献げた。
降り出した雪、色めく街並み、恋人や、大切な家族と、各々が愛しき人達と過ごす聖なる夜、スノウマンはひとりぼっちだった。きっと君は来ない、わかっていながらも、用意したプレゼント。目の前を横切る人波に探した後ろ姿、それは、いつかマフラーを巻いてくれた、笑顔の似合う金色の髪した大人の女性だった。
セイントスノウマンになることが許された聖なる夜、今年も渡せないプレゼントを、いつまでも手放せないでいた。手放してしまったら、全てが終わってしまいそうだったから。初めて優しさをくれたあの人に、伝えたかった感謝の想い。そんな時、通りがかった笑顔の少女、感じた面影、15年の想いは、世代を越えた。
きらきら、きらきら、粉雪を照らす星の煌めきの下で、ティンクルは恋焦がれていた。恋人がサンタクローズ、だなんて言うことが出来たら。2年前に姿を消した想い人を、いつまでも想い続ける星の妖精は、既に自分が忘れ去られてしまっているだなんて、考えもしなかった。それでも彼女は、今も想い人を待っている。
乙女にとって、好きな人がいる、たったそれだけが、力になる。聖なる夜、セイントティンクルとなった星の妖精は、今もまだ帰らないでいる想い人を待っていた。今年こそはきっと、自分に会いに来てくれると信じて。そして、20時を越えた頃、鳴り響いたチャイム、それは、隣のおしゃれな妹が待つ家だった。
流れ出したクリスマスキャロル、未だに出せないでいた答え。降り出した粉雪に、消える足跡。それはまるで、自分の存在理由が消されるような感覚だった。頭に乗せたプレゼント、本当にこれでよかったのか。今から行われる裏切り、薄れていく存在理由、ブーツンは未だ、答えを出せず、その場から踏み出せずにいた。
悪魔にも似た牙、それは裏切りの代償。聖なる夜、選んでしまったのは、救いの手ではなく、悪魔の手だった。堕ちた心、薄れる意識。だけど、それでも聖女は彼を見放さなかった。悪しき力を浄化する為に、自らを傷つけた聖女。その代償に、戻ることの出来た世界。セイントブーツンのプレゼントは、ようやく届いた。
12月24日、聖なる夜、彼女は鐘型ドライバ【ジングル】を鳴らし、自立型ドライバ【レインディア】と共に、粉雪舞う空へ。蒼のクリスマスから行方をくらませた兄に代わり、恵まれない子供達へプレゼントを運ぶ。今もまだ帰らない兄の無事を想い、イヴは星に願いを込めた。今年こそは、ただそんな気がしていた。
ひとりきりの聖なる夜、不意に鳴ったチャイム、だけど、玄関には誰もいなかった。そして、玄関とは反対の部屋の奥、聞こえてきた物音。【ジングル・ベル】を鳴らし、【レインディア・ホーリー】と共に駆け出す。煙突から転がり落ちた2年ぶりの兄を見て、今までで一番の笑みを浮かべたイヴは、まさに聖女だった。
2年前の聖なる夜、サンタクローズは姿を消した。彼が訪れた民家で、目にしたのは蒼い水の飛沫、聞こえたのは悲痛な叫び。初恋を覚えたひとりの天才を追いかけて、また、その裏に隠された真実を紐解く為、自らの仕事を投げ出した。怒りに震えた彼の袋型ドライバ【プレゼント】には、何が詰め込まれているのか。
2年間、それは決して無駄ではなかった。紐解いた真実、見つけた鍵。後はオマエに任せたから、そう言い残した聖者は、旧友に想いを託し、理想郷に別れを告げた。そろそろ妹の顔でも見に行くか、2年ぶりに思い出した存在、今日は丁度、聖なる夜。解けた【マッド・プレゼント】から溢れた玩具を連れて、家路へと。
連なる極彩監獄へと収監されていた重罪人、ジャックは今日も考えていた。なぜ自分がココにいるのか、なぜ自分がココから出てはいけないのか、そもそもココはどこなんだろう。そんな彼の元へ何者かから内密に届けられたプレゼント、爪型ドライバ【リッパー】を手にした時、看守はひとり残らず姿を消した。
看守はおろか、囚人すらも姿を消した時、ジャックの手には進化を遂げた【リッパー:セカンド】が握られていた。溢れ返った残骸、刻まれた3本の傷。切裂魔は再び考えた。なぜ自分はココから出してもらえなかったのか。その問いに答えることの出来る人がいないとわかった頃、街にサイレンが鳴り響いていた。
降り始めた粉雪、煌めいた街燈、踊り出した街並み。今日は1年に1度の聖なる夜。穏やかに行き交う人々は皆、幸せを浮かべていた。今日こそ、サンタクローズに会えるんだ。ありきたりな願い、だけど、それは少女にとって、心からの願いだった。
今宵もお楽しみのショータイム。コスモは杵型ドライバ【マレット】をステッキに見立て、おどけてみせた。プラネタラウンジに流れ着いた放浪者を持て成す支配人こそが今日は主役。目にも止まらぬ速さで振られるダイス、示された6の数。生き残った6人の勝者と笑みを浮かべる支配人が、全てを物語っていた。
日夜繰り広げられるショータイム、それはただのエンターテイメント。勝者にはこの世の栄光を、敗者にはこの世の絶望を。全てを超越した多元世界のお嬢様は自分こそがルール。【マレット:セカンド】を振りかざすコスモ、今宵、支配人は支配者へ。巻き込まれたデスゲーム、ダイスが決める未来。サイは投げられた。
燃えたぎる炎、それは炎の祝福。火想郷<アルカディア>で紅蓮に包まれたヘレネは、灼熱の炎浴を思う存分楽しんでいた。そんな時、遠く離れた魔界<ヘリスティア>の黒の森から届いた噂、新しい赤の女王の選出。幼き日、一度だけ交えた悪しき炎を思い出し、そして、その悪しき中に感じた正義を思い出していた。
魔界<ヘリスティア>から立て続けに届いた新女王の即位の知らせがヘレネの炎を燃やした。この統合世界<ユナイティリア>で何かが起ころうとしている。祝福を受けた炎の美女は、新しい女王の真意を確かめに、単身魔界<ヘリスティア>へと。そんな燃える彼女の紅蓮の赤色に誘われ、一人の炎刑者が刃を向けた。
火想郷<アルカディア>に位置した燃えたぎる炎に包まれた浴室、閉じたカーテンを開けばそこに、彼女が待っている。炎の美女が求めたのは、これから起きようとしている真実。温かなその手をとり、魔界<ヘリスティア>の新女王連続即位の真意へ。
全てを魅了するのは、わざと乱した着物からこぼれ出る色香、水も滴るいい女、オノノコマチは自らの麗しさに酔いしれていた。だけど、そんな天界の憧れの的はたった一人の、なびく素振りも見せない男への不満に口を尖らせた。そしていつか、その留めた水に自分を映すことを企て、尖らせた口で笑みを浮かべていた。
幼馴染でもあり、また良きライバルでもある水の大精霊と、一人の水を留めた少年をかけた勝負が始まった。どちらが先に、彼を振り向かせることが出来るのか。幼さの残る笑顔か、それとも大人の色気香る微笑か。当の少年の嫌そうな顔は、水の美女オノノコマチにとって、今となってはご褒美の様に感じるのであった。
宝石塔から発見された巨兵型ドライバ【ゴルドラド】は破壊行為だけをプログラムされたかの様に、瞳に映る者全てを駆逐した。全てを破壊し尽くした時、停止した活動、恐る恐る調べられた機構は第零世代とされた。何世代も前のはずの機体に乗せられた最先端技術、それは聖暦の天才の仕業か、それとも神々の悪戯か。
失われた科学技術を蘇らせようと、その独自の機構が解析される最中、第四世代以降にのみ搭載されていたはずの自立進化が始まった。四世代も前から実現されていたことが発覚した自立進化、それはもはや、神の所業。そして、神の巨兵型ドライバ【ドス:ゴルドラド】は自らが審判を下さんと、破壊行為を再開させた。
滴り落ちる雫を辿り、招かれたのは水の美女の待つ浴室。火照った身体を落ち着かせる冷ややかな水の調べと、水も滴るいい女のおもてなし。だけどそれは、飛沫舞い踊る戦い。冷ややかな浴室が熱を帯びた時、浴室はただの戦場へと変わる。
常界、天界、魔界、そのどこにでも突然現れる男は、自らを聖暦に生まれたロキだと名乗った。的を得ない発言、読めない行動、その全てが場をかき乱す。一貫性のないその言動の裏に隠された真実には、触れることすらままならない。聖なる出口<ディバインゲート>なんて存在しないよ、それが彼の口癖だった。
こんなのただの悪戯さ。解除されたリミッター、暴れ出す自立兵器型ドライバ、彼が始めた神々のごっこ遊び。それこそが、黄昏の審判の始まり。悪戯王ロキは慌てふためく統合世界<ユナイティリア>に暮らす者全ての敵となった。聖なる入口<ディバインゲート>なら存在したね、彼はそう言い残し、姿を消した。
数年前の出来ごと、精霊会議にて議決された一人の妖精の天界<セレスティア>追放。反対に票を投じるも、守ってあげることが出来なかった後悔が、今でもヨウキヒを追いつめていた。同じ優しさの風や厳しさの風に吹かれて育った仲間との別れ、彼女は大切な人を失って初めて、天界の作られた歪な平和に気が付いた。
犠牲の上に成り立っていた平和、それは外から見れば喜びに満ちた世界なのかもしれない。だけど、少なからず、都合の良い犠牲は存在していた。天界<セレスティア>の歪な平和の真実を追い求めた風の美女ヨウキヒに、ひとりの天才が囁く。だから私は片目を閉ざした、大切なのはいつも、隠された裏側だから、と。
心地良い風を感じることの出来る浴室に、突如として厳しい風が巻き起こる。天界<セレスティア>の平和の歪さに気付いた風の美女は、平和の裏に隠された全てを解き明かそうと、都合の良い犠牲を守ろうと、新しい風を、現実の風を起こしていた。
極秘裏に開発が進められていた第五世代自律兵器型ドライバ【シラヌイ】は、まるで誰かの戦闘データが蓄積されたAIが搭載されたかのような振る舞いをみせるが、未だ完成には至っていなかった。足りないピース、それは自律の心を動かす力、新たな動力源エレメンツハートの稼働条件。冷たい機械の心に温もりを今。