あなたにはディバインゲートが見えていたのね。母は大切にしまっていた甲型ドライバ【イグナイト】をアカネに手渡した。やっぱり、親子ね。それじゃあ、行ってらっしゃい。そして炎の少年のディバインゲートを目指す長い旅路は始まったのだった。
少年は真実を拒み続けていた。ディバインゲートが見えたという事実さえも。だが、そんな少年に気がついた男がいた。そして水の少年は刀型ドライバ【ワダツミ】を受けとる覚悟を決めたとき、ディバインゲートを目指す長い旅路が始まるのだった。
少女は信じていた。ディバインゲートへ行けば、もう一度会うことが出来ると。だってあの日、私にはディバインゲートが見えたんだから。風の少女は棍型ドライバ【フォンシェン】を手に、ディバインゲートを目指す長い旅路を走り出したのだった。
お守りのように大切にしていた剣型ドライバ【リュミエール】が放つ光。そして、少女には見えた。その眩い光の果てのディバインゲートが。この光を辿れば、いつか。そして光の少女は、ディバインゲートを目指す旅路へと光に導かれたのだった。
少女の最古の記憶、それは目の前のディバインゲート。そして手にしていた鎌型ドライバ【アビス】から感じる懐かしさは、更に古い記憶である気がしてならなかった。その答えを知る為に、闇の少女はディバインゲートを目指す旅路を始めたのだった。
ディバインゲートが見えたかもしれない。だがそんなことは少年にとって、どうでもいい話だった。道端に転がっていた斧型ドライバ【ヤシャヒメ】を振り回す毎日。無の少年がディバインゲートを目指す旅路、それはやり場のない思いの行き先だった。
ほら、お前にお届けものだよ。その日、ジンソクはいつものように配達をしていた。ふんっ、呑気な奴だな。そんな言葉を返したのは同胞でもある神、ダンテ。そして、この時ジンソクはまだ知らなかった。自分の身に訪れていた完全なる不幸を。
度重なる仕事を終え、家路を辿っていたジンソクは、ふと立ち上る煙に気がついた。なんだ、焼き芋か。それか、焼き鯖だな。食べ物のことで頭はいっぱいだった。そして、この時ジンソクはまだ知らなかった。自分の身に訪れていた完全なる不幸を。
ついにジンソクは気がついた。なんだ、あの煙は俺ん家の方じゃん。珍しいな、BBQなんて。そう、まだジンソクの頭の中は食べ物のことでいっぱいだった。そして、この時ジンソクはまだ知らなかった。自分の身に訪れていた完全なる不幸を。
ようやく辿り着いた自宅。だが、そこは家と呼ぶには変わり果て過ぎていた。なんでだ。ジンソクには崩壊した教団本部という現実を受け入れることが出来なかった。そして、この時ジンソクは知ることとなる。自分の身に訪れていた完全なる不幸を。
目深にかぶりなおした帽子。俺の服が、俺の飯が、俺の寝床が。そこには何も残ってはいなかった。溢れ出る涙を、帽子などで隠せるわけもなかった。そして、この時ジンソクは実感することとなる。自分の身に訪れていた完全なる不幸を。
自分の部屋だった場所で膝を抱えるジンソク。どうしたらいいんだよ。いつもより風通しがいい、いつもの居場所。そう、風を遮る壁など残ってはいなかった。だが、そんなジンソクの背後から声が聞こえた。ここは風通しがいい部屋だな、ベイベ。
お前には、ここが部屋に見えるのか。ジンソクは振り返らずに問いかける。風が教えてくれたぜ、お前の思い出をな。二人の間を流れたのは心地よい風。一曲歌わせてくれないか、ベイベ。かき鳴らすギター、響き渡る歌声、廃墟はステージへと変わる。
観客は一人。だが、それでも風のバラードを歌い上げたウィンディ。だから元気だせよ、ベイベ。そんな歌に笑顔を取り戻したジンソク。なんとかなりそうな気がしてきた。オレの歌はどうだい、ベイベ。そしてジンソクは笑顔で答えた。へたくそだな。
起きてもらえるかな。起きてます。寝てるよね。寝てません。もう、立ちなさい。立ってます。終わりのない押し問答。横たわったままのイッテツ。その隣で呆れ返る精参謀長。こうなったら、奥の手を使うしかないわね。そして部屋に咲き誇る蓮の花。漂う目覚めの香り。わかったってば。そして二人の会話は始まった。
で、ワシになんの用だ。受け答えを始めたイッテツ。あなたの後輩たちも、持ち場に着きはじめたわ。その一言は、彼の意識を引くのに不十分だった。じゃあ、みんなに任せよう。呆れた精参謀長は部屋を後にした。そして、来客の去った部屋で、彼は一人立ち上がる。が、すぐに座った。やっぱり、みんなに任せよう。
イコかな、ネヌかな。それはただの好奇心。うーん、でも、どっちでもいいや。水聖人の興味の対象は、すぐに違うものへ移り変わっていた。だけど、せっかくだから手伝ってよ。そして、彼女は助手として迎え入れられた。やっぱり、助手といえばワトソンだよね。だが、それが勘違いであることに気付いていなかった。
そっか、助手じゃなかったんだね。だが、それはどうでも良かった。着々と改造が施される大きな尻尾。これは機械かな、それとも尻尾かな。それもまた、どうでもいいことだった。先生、最近働きすぎですよ。心配の絶えないワトソン。だが、水聖人は楽しそうだった。だってほら、戦争には新兵器が必要になるでしょ。
行動をすれば、そこには必ず隙が生じる。そして、男はとある結論に達した。それなら、動かなければよいのではないか、と。始まった引き篭もり生活、衰える体力。いや、ワシは力を温存しているだけだ。それは、ただの引き篭もりの言い訳だった。
ハッピーバレンタイン。それは一年に一度、ヒカリにとって大切な日。そんな日をみんなで過ごそうと、チョコ作りにいそしんでいた。きっと、私は幸せなんだ。少女がこぼした一言。それは純粋な言葉であり、そして誰かに似た一言だった。私はみんなを連れて行きたい、幸せな世界へ。たとえ、絶望が待っていても。
天界に響き渡る警戒音、発せられた避難勧告。だが、その勧告が届き渡ることなく、辺境の街は終わりを告げた。燃え上がる炎が消えたとき、そこに伸びた影は赤い頭巾。戦場に現れたのは、民を引き連れた女王ではなく、兵を引き連れた将だった。私は私の日常を取り戻す。そう、そこには紅炎魔将アカズキンがいた。
私があなたを止める。紅炎魔将の前に立ち塞がった美炎精将ヘレネ。そして、彼女が説くのは解消された歪な平和と、いまの天界の在り方。だが、そんな言葉は届きはしない。私たちの女王の考えは、理解出来ないでしょうね。じゃあ、なんのために。動き出した聖戦、その裏にはいくつもの思惑が存在していたのだった。
しばらくウチに泊まりな。竜神と共に訪れた竜界、風咎棍士はキャリバンの道場に身を寄せていた。伝えられたのは聖王奪還の失敗、魔界から天界への進軍、各世界の往来手段の封鎖。だけど、私がここにいたら。想いを馳せたのは離れ離れの友達。だが、その想いを遮った一言。いまのキミに、なにが出来るのかな。
世界と世界の争いに、民は口を挟めない。風咎棍士が気づかされた己の無力さ。キミはどちらかを選べるのかな。詰まる言葉。だけど、ウチの王様は不在なんだ。だから探してきてよ、出来損ないのアイツの本当の姿を。告げられた希望。それに、彼女ももう一度会いたいみたいだしさ。そこには、懐かしい笑顔があった。
差し出した一通の封書。坊ちゃんは誰の差し金だ。その問いに答えることもせず、男は姿を消した。文通なんざ、趣味じゃねぇっての。その封書を開くことなく破り捨てた男。そして、そんな姿を見届けたデオンは再び夕闇へと溶ける。やっぱりあなたって人は、そういう人なんですね。その言葉は喜びにも似ていた。
無事に届けてくれたのね。魔参謀長から受け取った報酬。これは仕事だから。そんな言葉を残し、不夜城を後にした密者デオン。その足で向った屋敷。で、奴の様子はどうだった。伝えた一部始終。それでこそ、王の秘密機関だ。サングラス越しの瞳、葉巻を咥えた口元、そんな彼もまた、満足気な笑みを浮かべていた。
竜道閣はかつて、竜界の脅威と恐れられた綴られし存在が封じられし場所だった。だが、綴られし存在に罪があるのだろうか。それは後任の竜王が説いた優しさ。そしてまた、その裏の真意は、竜王家でもごく僅かな者にしか伝えられていなかった。
トレーニングを終え、自室へと戻ってきたギンジの目の前にはケーキが置かれていた。そういや、忘れてたわ。そう、今日は四年に一度のギンジにとって大切な日。だが、少年はすぐに違和感に気がついた。このケーキ、生臭ぇな。そして、ソファの後ろに隠れた人影に気づかないフリをして、そっと呟いた。ありがとな。
進軍、開始。不思議の国の全勢力が従うのは、王という地位を捨て、戦場へと降り立った蒼水魔将アリスだった。それでも彼らが彼女に付き従うのは、地位ではなく、彼女そのものへの信頼。さぁ、パレードを始めましょう。響き渡る歓喜は悲鳴、兵隊が閉ざす退路。閉じ込められた多くの妖精。楽しんでもらえるかな。
蒼水魔将の前へと立ち塞がった美水精将オノノコマチは問う。なぜ、誰も殺さない。天界の辺境の街は氷で閉ざされた。だが、そこに住まう妖精は誰一人、命を落としてはいなかった。それは紅炎魔将が焼き払った街も同様に。そして、その問いへの返答。善悪を生死に重ねる、キミたちがそんな浅はかな考えだからだよ。
魔界のとある街で囁かれていた噂話。それは幸福の羊。だが、その羊はどうみても幸せそうにはみえなかった。三つの炎を灯した燭台。闇夜にまぎれる黒いコート。そして、大きな角の生えた羊の頭。どこからどうみても、悪魔の使いのような姿をしていた。だが、確かに彼は、幸福の羊マトンと呼ばれていたのだった。
脱ぎ捨てられた羊の仮面。そして、ついに明らかになった幸福の羊の素顔。その素顔は何かに怯えていた。自白した噂の真相。生まれつきのアフロ頭と角を隠すための羊の被り物、夜が怖いが為に手に持った燭台。いつも逃げていたのは、極度の恥ずかしがり屋な為。そう、彼に罪はなかった。ただの臆病者だったのだ。
いくつかの区画に整備された神界の一区画では、とある情報が駆け巡っていた。下位なる世界で続く争い、そして、そんな下位なる世界の生まれでありながらも、神界へと招き入れられた一人の男がいる、と。アオイデも、そんな男へと興味を抱いていた。彼の体に流れる血を辿れば、必ず創醒の聖者にたどり着く、と。
芸唱神アオイデがたどり着いた創醒の聖者。そして、その血を受け継ぐ男。だから彼は、この世界に招き入れられた。それと同時に、その男が人間として生きていた頃のことを調べ始めた。どうして、彼みたいな存在が。存在していた相反する思想。そして、彼女は神界にもたらされる災厄に震え、救いの詩を歌い始めた。
自分が自分であるために、そして、自分という存在の肯定のために、自分だけの王を欲した神がいた。そんな神が神界に連れてきたのは王ではなく神だった。自分にすがる王がいない神は、神でいられるのだろうか。ムネーメの興味はそこに向いていた。ってことは、つまり。これから始まるドラマに期待を隠せずにいた。
張り込みを開始した芸憶神ムネーメ。これは素敵なドラマになるっす。だが、あっさりつまみ出された。彼女が考える次の一手。だが、実行に移すまでもなく、彼女の前に現れた神。ボクを追い掛け回しているのはキミかい。そして、すぐに彼女は問う。追い求めた男に、こんな形でフラれるって、どんな気持ちっすか。
メレテが気になる情報は、姉二人と異なっていた。かつて、ひとつの世界を滅ぼしてしまいかねないほどの力を手に入れた男。そんな男が、役目を終えた自分を裏切った世界への、戦争の指揮をとっているという情報。だが、その男はどうして、そのような力を手に入れたのか。事情を知るものはみな、口を閉ざしていた。
芸演神メレテがかつて見た悲しみの記録。それこそが、自分の世界に裏切られた男の記録だった。あの時、彼は自分の世界を守りたかっただけなのに。そして、その深い悲しみは長い時を経て、深い憎しみに変わっていた。彼らの争いに、なんの意味もない。だが、その争いは止まる気配を見せようとはしていなかった。
アンタたち、もうちょっと真面目に仕事しなさいよ。ジャンヌは六聖人の間で言葉を発した。特にアンタ、なに考えてんのよ。その言葉は炎聖人に向けられていた。なにを企んでるか知らないけど、アタシも口を挟ませてもらうよ。言っとくけど、これは異常事態。泳がせるには度が過ぎてるわ。例え世界の決定でも、ね。
アタシ達はね、旗を振ることしか出来ないの。だから、彼女は光聖人ジャンヌと名乗っていた。その旗すら、まともに振らなくてどうすんのよ。そして、視線を投げかけた先にいた最後の聖人。アンタだって、放っとけないんじゃないの。だが、問いかけられた聖人は微動だにしなかった。ったく、それでも親なのかしら。
幽闇街ドリードで囁かれる噂。夜道に出現する漆黒の羊。だが、その噂話には、ひとつの大きな疑問があった。その羊と遭遇したとしても、その羊は逃げ出してしまう。人を襲うことはなかった。ゆえに、漆黒の羊は、幸福の羊と呼ばれていたのだった。
自分が王から将へと成り代わった事実に、翠風魔将イバラは気づいているのだろうか。寝惚け眼をこすりながら見つめたのは天界の辺境の街。そして、彼女は一言も言葉を発することなく、その街は茨に覆われた。これは、ただの時間稼ぎにしか過ぎないんだから。そして、彼女は再び深い眠りにつこうとしたのだった。
眠られてちゃ、困るのよ。無数の茨を掻き分けながら、美風精将ヨウキヒは姿を現した。ウチらだって、無益な争いをしたいわけじゃない。だが、すれ違い続ける両陣営。勝利の先に、なにを求めるの。その問いへの答え。勝利、敗北、それを語るのなら、私達は敗北で構わない。無益な戦いが、ここでも始まるのだった。
鳴り響く24時の終わりの鐘。これは0時の始まりの鐘よ。定刻通り、黄光魔将は天界への進軍を開始した。そして、そんな彼女の前に立ち塞がる美光精将。ここで私が、食い止めます。それじゃあ、華麗に舞ってみなさいよ。舞踏会の幕はあがる。そうよ、踊り続けなさい。永遠に、永久に、私たちの手のひらの上で。
美光精将カタリナは違和感を感じずにはいられなかった。あなた達の本当の狙いは、なんなのでしょうか。燃え上がる街並み、削られる大地。だが、絶えることのない命。あんたも知ってるでしょ。あの男が聖なる扉を手にしたことを。それでしたら、この争いは。そして、そんな二人の間に、招かれざる神が舞い降りた。
これは戦争が始まる前の出来事。代々魔界の王家に仕えるナルキスは、新闇魔女王のことも、そして堕精王のことも受け入れられなかった。あなた様は、なぜ受け入れられるのでしょうか。問いかけられた魔参謀長。視野は広く持ちなさい。そんなあなたに、いい仕事があるの。そして、彼女が向かったのは竜界だった。
なぜ、私がこのような場所に。竜界へと潜り込んでいた水仙卿ナルキス。そして、追いかける情報。かつて、神竜戦争で暴君と忌み嫌われた竜王家の紅蓮を纏いし竜と、王家を追い出された彼に付き従う三匹の古竜。なんで余所者の君が、裏切り者の彼らを追いかけるのかな。彼女の前に立ち塞がったのは流水竜だった。
ぼ、ボクになんでもお申し付けください。頑張り屋なポタは、いつ、どんなときでも、風聖人の側を離れることはなかった。そして、そんな健気な少年を見つめ、風聖人は他の誰にも見せることのない、優しい笑みを浮かべる。緑茶をお願い出来るだろうか、砂糖は多めで頼む。数分後、湯飲みを載せたおぼんは宙を舞う。
かかる緑茶、こぼれる笑い声。だが、その笑い声は皮肉にも似ていた。私はもう、熱を感じることもないのか。そんな風聖人を見つめ、風衛徒ポタは頬を撫でる。ご無理は、なさらないで下さいね。浮かべた無邪気な笑顔。あぁ、だが、今回ばかりは無理をしないわけにはいかないようだ。そして、一通の封書が残された。
月が欠けた夜を泳ぐ魔女がひとり。そんなユカリに寄り添う一匹の猫。私はね、この日を絶対に忘れないわ。それは、誕生日であり、そして特別な夜が訪れる日だったから。どこにいるのかな。早く、捕まえに行きたい。散りばめられた星へと祈りを込めて。だから、見守っていてね。私だけが大人になる、そんな世界を。
魔王家への愛が憎しみへと変貌を遂げたとき、彼女の中で疑問が生まれた。いつか私への愛も、憎しみへと変わるのだろうか。そして、彼女はまだ気付かない。自分への劣等感こそが、憎しみであることに。故に彼女は、自分を許すことが出来なかった。
ただいま、母さん。そんなアカネに、深くを尋ねない母。やっぱり、あなたはあの人の子供なのね。たくましくなった体に、胸をなでおろす。だけど、今日くらいはゆっくりしていきなさい。用意されていたホールケーキ。いつか、お父さんを追い越すのよ。それは、ただ流れる時間とは別の話。もちろん、そのつもりだ。
先に仕掛けてきたのは、あなた達の方よ。美闇精将を前に、唇をかみ締めていた菫闇魔将カグヤ。彼女が連れてきたのは、蓮の花に包まれ、深い眠りに堕ちた友の想い。待ってよ、わかるように説明して。いまさら、なにを言っているの。すれ違う想いと、行き違う解釈。あなた達はいつだって、知らないフリをするのね。
その戦いは、夜に始まり、夜に終わる。だが、決して倒れることのない美闇精将クレオパトラ。そして、互いの想いを乗せた最後の一撃。そんな二人を天高くから見下ろす男達。そんなに真剣な顔して、なにを見ているんだい。少しだけ、古い友人の雄姿をと思いまして。それを見届けたら、そろそろボク達も始めようか。
とある会議の場、いつも居たはずの二人が姿を消していた。始まった戦争。だが、最高幹部である男は違和感をぬぐえずにいた。まるで、初めから止めるつもりはなかったようだ。そして、その会議の場に現れたもうひとつの違和感。私は、初めからここにいましたよ。とある会議の場、そこにはロプトが存在していた。
誰の差し金だ。男の口をついた言葉。いや、んな質問は要らねぇな。そう、愚者ロプトの姿から、なにかを隠そうとする気は微塵も感じられなかった。私はただ、声なき指令に従うだけ。どうぞお見知りおきを。評議会に入り乱れる思惑。そして、更なる違和感が場を包む。わたくしも、潜り込ませていただきましたよ。
人は、人と意思を通じ合わせる為に言葉を生みだした。だが、人は、意思が通じれば通じるほど、言葉を必要としなくなる。であれば、声なき指令は、最上級の指令なのだろうか。それとも、誰かに悟られないようにと、意思を塞いだ指令なのだろうか。
失われゆく自我。オレはいったい、誰を恨めばいいっていうんだよ。わかりきった自問自答。オレが失敗作なら、最高の失敗作になってやろうじゃねぇか。最後まで、失敗作らしくあがいてやるよ。そして、片翼で始める悪あがき。その日、刻の狭間から天狂獣グリュプスは姿を消した。このオレが、後悔させてやるよ。
失敗に終わった聖王奪還作戦。それでも、僕は彼を信じます。それは、幼き日の聖王を知っているアサナだからこその想い。きっと、彼はいまでも戦っているんです。だから僕たちは、いつか彼が帰ってきた時に、彼が心から安らげる世界を創る為に戦いましょう。そして、円卓の騎士達は各地へと散っていくのだった。
はじめまして、ですよね。無英斧士へと語りかけるのは、広報局員へと立場を変えたマリナだった。わたくしは、来るべき日の為に、ここへと参りました。そんな彼女が広報局員として追いかけるのは、戦争に乗じて常界の各地で起きる暴動を人知れず抑制する存在達。だからどうか、力を貸して頂けないでしょうか。
聖戦はいわば、過去の再来。そして、それは過去ではなく未来。そんな絵を描くのであれば、それを塗りつぶすまでです。神虚狐ヤシロは動き始める。そして、この世界が求めているのは神ではない。彼らの好きにさせてはいけない。友の為にと、ひたすら我慢を続けた無英斧士の元に、心強い協力者達が集い始めていた。
裏切り者だなんて、ずいぶんと酷い言い方じゃないか。水仙卿と流水竜が対峙する最中、間を割るように現れたのは裏古竜衆のファブラだった。君が会いたがってるから、来てあげたんだよ。それは水仙卿への言葉。だけど君は、会いたくなかったみたいだけどね。そして、それは憎悪で顔を歪めた流水竜への言葉だった。
竜王家には、古の時代より仕える古竜衆と呼ばれる部隊が存在していた。だが、かつての戦争を機に、古竜衆の半数は竜王家から離反し、そして離反した者たちは、いつからか裏古竜衆と呼ばれるようになった。光竜将ファブラもそのひとりであり、そして彼が将でいたのはまた、仕えるべき者が存在していたからだった。
忘れ去られた地、ウェルシュアの古城の一角で世界を見渡すことの出来る鏡を眺めていたニズルは対峙した3人を眺めていた。もう少しだけ、放っておきましょうか。その言葉から滲む余裕。俺たちは、俺たちらしくやろうぜ。返された言葉。だが、その言葉はもう一人の来訪者により、意味を変えることになるのだった。
裏古竜衆のひとり、闇竜将ニズルの主な役割は諜報活動だった。いま統合世界で起きているすべての出来事の裏側を把握していたのだった。こんなときだっていうのに、彼女が動き出しました。鏡に映された白衣の女。きっと、これから訪れる災厄を予期してのことでしょう。アレの解放は、彼女たちに任せましょうか。
古城の玉座、その一番すぐ近くでウロアスは片膝をついていた。そんなに固くなってんなよ、もっと楽にいこうぜ。紅煉帝に救われた命は、紅煉帝のものですから。だったら、ちょっと遊びに付き合ってくれ。始まった遊び。遊びという名の力のぶつかり合いは、抑制された空間でなければ小国が吹き飛ぶほどの熱だった。
やっぱりオマエは俺に相応しい将だ。息ひとつ乱すことのない無竜将ウロアスへの賛辞。準備運動はこのくらいで十分だろ。そして紅煉帝は裏古竜衆の三人をひきつれ、声高らかに宣言をする。さぁ、俺たちの、世界で一番小さくて大きな反乱を始めようか。竜王家を追放された紅煉帝の反乱対象は、竜王家か、それとも。
本気出さなきゃ失礼だろ。その言葉に笑顔を返す光竜将。オマエは帰って、報告でもしてろよ。立つだけで精一杯の水仙卿。で、オマエはひとりじゃ立てないのか。傷だらけの流水竜。早くガキを連れて帰れ。流水竜を抱きかかえていた竜神。俺たちは俺たちらしくやらせてもらう。だからオマエも、オマエらしくやれよ。
常界に発せられた特別警戒体制。天界と魔界の戦争による二次災害を最小限に食い止めるべく、トンビは各地を鎮圧していた。俺っちの仕事、これ以上増やさないでくれよ。それは決してなまけではなく、心からの声だった。いつか、平和が訪れたら、そん時は満天の星空に、でかい花火でも打ち上げて一杯やろうや。
炎救員トンビは、たびたび不可解な出来事に遭遇していた。救難信号を察し、向かった先で、すでに事件は終わりを迎えていることがあるのだ。助けられた人々もまた、誰が自分たちを助けてくれたのかを知らないという。まっ、天の救いってやつだな。その能天気な思考は幸か不幸か、とある計画への幇助となっていた。
炎による災害が奪う人々の幸せ。だから、俺っちがその幸せを守ってやるんだ。自然の摂理に逆らうことが出来ないとしても、抗うことなら出来るんじゃねぇの。だから俺っちは、めげたりなんかしねぇよ。それは災害に苦しむ人の、小さな希望だった。
ったくもう、やってらんないわ。ジャンヌはひとり、たまりにたまった書類を片付けていた。頭でっかちにグルメ変人、脳筋女に不思議少女、どうしたらあいつらで聖人が務まるのよ。それはジャンヌが、みんなの分の仕事までしてくれるからだった。
刹那に生まれしカオスに、想いの果てのシンパシーを。ぼそり呟く独り言。願いは空に、希望は星に。ぼそり続く独り言。私こそがプリティウィッチ。そして独り言は、右手と共に最高潮へ。ピースをあなたへ、ぶいっ。シオンはアニメに夢中だった。
目を覚ましたばかりのヴラドの元に届けられた真っ赤に滴る液体。やっぱり、こういうのが好きなのかなと思って。届けたのは笑顔の少女。おい、嬢ちゃん、あんまり大人をからかうんじゃねぇぞ。だが、ヴラドはニヤリとトマトジュースを飲み干した。
ヒスイは誰もいない草原に、その体を委ねていた。閉じた瞼の裏に浮かぶのはいつかの三人。そこに、優しい言葉など存在していなかった。だけど、俺たちはそれで良かったんだ。三人の間には、言葉にする必要などない想いが存在していたからだった。
各地で発生する二次災害。防波堤の決壊から始まる悲劇。そんなとき、我先にと、災害現場へと向かう世界評議会警備局災害対策部のアデリー。だが、そんな彼の到着を待っていたのは、すでに氷により修復された防波堤だった。君が終わらせてくれたんだ。声をかけた先には、小さな体で大きな銃鎚を構えた少年がいた。
元気になったみたいでよかったよ。安堵の笑顔を見せた水救員アデリー。俺はまだ、終わるわけにはいかない。少し生意気な笑顔をみせた銃鎚の少年。だけどもう、君たちは評議会の所属じゃないのに。俺たちは今までも、これからも、あの人だけの部下だ。そして、そんな二人を遠くから見つめるもう一人の青年がいた。
水は罪さえも洗い流す。だが、ときに希望すらをも遠くへと連れ去ってしまう。だとしたら、僕たちが希望を留めるように、精一杯頑張るだけだよ。水災対策室は、透き通った綺麗な心で、不安な気持ちを抱えた人々の小さな希望であろうとしていた。
すれ違う理想と、ぶつかり合う理念。変革なき平穏を願う天界、犠牲の先の革命を願う魔界。そんな二つの世界を絶対的な力で抑圧する神界と竜界。今こそ、革命の時だ。魔界の王は民の為に立ち上がる。こうして、かつての聖戦は始まった。そして、魔界への対抗勢力の一人に、ヴィヴィアンが存在していたのだった。
カノッサは語る。あなたはもちろん、覚えているでしょう。かつての聖戦が、どのような結末を迎えたのか。戦う力を求め、神の血に近づいた男。守る力を求め、竜の血に近づいた男。そして、そんな二人は、聖戦が終わったとき、自分達が愛した世界に居場所はなかった。今回の犠牲者は、いったい誰になるのかしら。
もし魔界が勝利していたら、私達は危なかったかもしれない。それは魔界の王が、聖戦の先で成し遂げようとしていた理想。今回も、魔界が勝利したら危ないんじゃないのかしら。いいや、今回は指導者が違うよ。彼が成し遂げたいのは、世界への復讐だ。仮面越しに微笑む男。悠久神カノッサは、その笑顔が嫌いだった。
美宮殿に集められた天界幹部。そして、王は魔界への対抗を宣言する。だが、そんな王を真直ぐな瞳で見ることの出来ないヴィヴィアン。だって、あなたは。そんなヴィヴィアンに気付き、優しい視線を返す妖精王。そんなに、悲しい瞳をしないでくれ。
災害現場に一陣の風が吹き荒れる。颯爽と登場ですっ。アルシアが笑顔と共にやってきた。はいはい、順番ですよ。その犬のような笑顔に、傷ついた人たちの心は癒されていた。私でも、少しは力になれていますか。なによ、それ。そんなとき、毒づいた女が一人。お久しぶりですね。そのキャラ、好きじゃないんだけど。
ほれ、二人とも仲良くしなさい。初老の声の方には、いい匂いが漂っていた。いいわね、じーさんは趣味が活かせて。かき混ぜられる大きな釜。冷えた体には、スープが一番だぞ。小さな温もりが、辺りを照らす太陽になることを願い、三人は三人に出来る戦いを続ける。そう、小さくても、それは戦いに違いなかった。
風が吹き荒れるとき、そこには喜びも、悲しみも届けられる。だけど、きっと悲しみを喜ぶ人なんていないんです。それは少女の抱く理想。きっと、その人は、心に傷を負ってしまっただけなんです。だから、私はそんな傷さえ癒せたら、そう思います。
その格好、どうしたの。ただ、失脚しただけさ。だが、互いに浮かべる晴れ晴れとした笑顔。やはり、私は代表の器ではない。だから、私は私のやり方で戦う。その方が、お似合いね。不在となった常界代表。不安を募らせる民。名声と引き換えに失う自由、与えられる束縛。空いた席に、いったい誰が座りたがるかしら。
スフィアが目を通した書類には、地方の暴動鎮圧に乗り出していた元世界評議会所属、元常界代表専属の特務機関の面々が記されていた。彼らは、彼らに出来ることをしているのだな。そう考えれば、なんの変哲もない報告書だった。だが、なぜだ、なにかがおかしい。生まれた違和感。その答えは、既に動き始めていた。
光救員ハヤブサは仮の宿へと戻ると、疲れきった体を休める間もなく、報告書の作成を開始した。あんたらのことは、書いたりしねぇよ。そこには記録に残らない存在が。これが、あんたらの受けるべき罪だ。だが、確かに、そんな存在は、被災者達の記憶には残っていた。そして、これがあんたらの受けるべき賛辞さ。
光が照らし出した希望。だが、そんな光の裏側には、必ず闇が存在していた。そんな闇の中で生きる者たちは、いつか自分たちの信じた道が、光に通じると願っていた。そういう生き方だって、いいじゃねぇか。通じ合った心は、密約を交わしていた。
光が照らし出した希望。だが、そんな光の裏側には、必ず闇が存在していた。そんな闇の中で生きる者たちは、いつか自分たちの信じた道が、光に通じると願っていた。そういう生き方だって、いいじゃねぇか。通じ合った心は、密約を交わしていた。
ふふふっ、盛り上がってるじゃない。二人のマネージャーを勤めるデネブは、ステージの裏で満足そうな笑みを浮かべていた。この子達には、もっと稼いでもらわなきゃいけないからね。被災地へ愛を届けたい。そんな純粋な想いの裏側には、芸能界とは切っても切り離せない、ビジネスの話が存在していたのだった。
計画は順調に進んでいるか。デネブの耳元で囁かれた言葉。当たり前じゃない、アタシを、この子達を、誰だと思っているのよ。この調子で、全国を回ってくれ。そこで電話は途切れた。被災地を廻るゲリラライブツアー、それはただの序章に過ぎないのである。わたくしが、しっかりと記事にさせて頂きますね。
暗い朝にも、やがて光が差すように、被災地にも、温かな光が差し込むだろう。ハヤブサは部隊を率いて、今日も災害対処を行っていた。こんな時なのに、評議会はなにをしてるんだ。意志の開きは、天と地ほど。あんたらの方が、よっぽど庶民の味方だな。その言葉を投げた先の人影は、頷くことなく姿を消した。
双子は同じ夢を見る。それを迷信だという人もいる。だけど、私はきっと、同じ幸せな夢を見ているんだと思うな。アオトが左手で握り締めたネックレス。それは二人を繋ぐ思い出。きっと、もう大丈夫だよね。最愛の女性は、優しい瞳で彼を見守る。今日だけはゆっくり休んでね。目を覚ましたら私達も彼の元へ行こう。
シェリドは一人、モニターに向かい合う。いったい、彼女はどこへ消えたというの。暗闇の中、手探りで探す行方。私の推測が正しければ。それは光へ。だけど、最悪の場合は。それは闇へ。入り混じる期待と不安。そんなとき、モニターに示された赤い点。この場所って、まさか。そこは、彼女が位置する真下だった。
幾重にも警備の施された世界評議会管轄の監獄。だが、アラート一つ鳴ることなく、警備網が突破されているという事実。その事実こそが、彼女が侵入したという紛れもない事実だった。だって彼女なら、ここを熟知しているもの。闇救員シェリドが手にした確信。そして、その日の午後、聖無才の脱獄が確認された。
闇は一筋の光さえも奪ってしまう。だが、闇の中でこそ輝くことの出来る、見つけることの出来る光もあるのではないのだろうか。どんなに小さい光であれ、闇の中では輝くことが出来る。そうして人は、そんな小さな光に辿り着くことが出来るだろう。
お勤めご苦労さま。代表の席を外れた彗青眼魔ディアブロにかけられた言葉。話し合いなど、やはり机上の空論に過ぎない。俺も戦場へ行かせてもらう。だったら、あなたは彼について行ってもらえるかしら。そこには、王の椅子から立ち上がった堕精王がいた。そして、その言葉には二通りの意味が込められていた。
ごめんなさい、私が上手く出来なかったせいで。天界へ戻ったロビンはうつむいていた。ううん、あなたのせいじゃないよ。笑顔で迎える光妖精王。あぁ、嬢ちゃんはよくやった。ニヤリと笑みを浮かべる堕魔王。だから、これからもオレ達に協力してくれ。そして、そんな優しさに応える為、巧咲精は武器を手にした。
オレについてきてくれるか。王としての笑みを浮かべた魔王の言葉。その言葉の意味を、在りし日のファティマは頭で理解していた。そして、失って初めて気づく本当の意味。あの日、心の理解がおいつかず、ただ残された後悔。私は、あの日のあなたを否定しない。そして、過去を肯定し続ける生き方を選んだのだった。