背中に感じたのは追い風、巻き起こるのは高揚感。今はもう、振り返らない。昨日は置き去りのまま、新しい自分で、新しい君と、未だ見ぬ明日の中、正面から向き合う為に。引かれていた後ろ髪を振りほどき、諦めた夢と共に、聖なる扉へと。
何も持たない者だからこそ、何者にでもなれる可能性、それは同時に、存在の否定でもあり、肯定でもあった。このまま何も無かったことに、無に帰したとしたら、自分は。だけど、少年に迷いはなかった。初めて手にした何かと共に、聖なる扉へと。
少女がみせた嘘偽りのない笑顔は皆に笑顔をもたらした。人間だとか、妖精だとか機械だとか、そんなこと、少女にとってはカフェラテとカフェオレくらいの違いにしか感じていなかった。沢山の仲間達と手をとり、きらきら笑顔と共に、聖なる扉へと。
神と竜が繰り返し争い続けていたのは遥か古。そして、それは遥か上位なる世界での話。そこで生じてしまった誤算、上位なる存在へと捧げるはずの【ナノ・ニーズヘッグ】は、異なった上位なる存在、古の竜エジプトラの手へと届けられてしまった。あぁ、どうかお許しを。一人の天才は痛むことのない胸を痛めていた。
結ばれた聖王の勅令と真意。あの時の嫌な予感の正体に気づいた頃にはもう、銃剣に込める弾は尽きていた。だけど、果たせていた勅令。そして、聖なる闇は自らを否定してまで、最期の光を発した。全ては、もうひとつの鍵となる小さな光の為に。二人は、闇明竜エジプトラと【テラ・ニーズヘッグ】の闇へと消えた。
深い夜に包まれた宮殿、それは繰り返される終わりの毎日だった。願うべき星も、想いを馳せる月も、たった一つの光も届かない宮殿で、永遠に繰り返される終わりの中で、古の竜は何を思っていたのだろうか。訪れない明日を、求めていたのだろうか。
少しだけ知ることが出来たのは、探していた過去。だけどまだ、不確かな記憶、それは幼き日を共に過ごした友達との約束。堕ちたからこそ、出会うことが出来たのに、それでも少女は、未来へと向かう。愛らしい抱いた闇と共に、聖なる扉へと。
心のどこかでは気がついていた。きっと全ては、自分の為だったんだと。決して埋めることの出来ない離れ離れだった時間、だけど、幼き日からいつも傍に感じていた様な暖かさの正体を確信した時、燃える大きな背中への憧れと共に、聖なる扉へと。
まもなくこの統合世界に幕が下ろされるでしょう。そして、新たな幕が開かれると共に、次の季節が訪れます。春でも夏でも、秋でも冬でもない、新しい季節が。さぁ、夢より素敵な魔法をおかけします、再創<リメイク>をご覧になって下さいませ。
飼い慣らされた古の竜は自らに牙を向けた【ナノ・ウロボロス】を飼い慣らし、そして、統合世界という檻の中で飼い慣らされた者達へと終焉を突きつける。そこに自由などは存在していなかった。竜の力を持った混種族<ネクスト>の訪れ、無才にだけ聞こえていた声は、統合世界全土へ聞こえる声へとなり響き渡る。
泣き崩れた少女は、壊れた宝物を抱きしめていた。最後の忠誠を誓った男は、聖王の宝物を抱きしめていた。無情にも遂行される終焉の序章、放たれた【テラ・ウロボロス】はその場の全てを無に帰した。そして、残されたのは、無明竜メソポティアただ一人と、消えかけた葉巻と、笑顔のままのピンクのポーチだった。
この古宮殿はいつから存在していたのか、また、何の為に存在していたのか、その事実は知る者など、この宮殿の主である古の竜以外には存在していなかった。いや、存在はしていたのかもしれない。だが、今は確かに存在などはしていなかった。
研究の結果が導きだしたひとつの答え、人工的に造られたドラゴンの誕生。そして、ニトロと名付けられた人工ドラゴンには、ありとあらゆる化合物が投与された。それは全て、このドラゴンの誕生を無かったことにする為に。止まらない暴走、訪れる恐怖、研究工程での誤算はひとつ、抹消方法の検討不足だった。
投与され続けた化合物でさえその体内に取り込み、成長を続けたニトロは化合竜へと進化を遂げた。その身体がどのような要素で成り立っているのか、どのような過程で成長を遂げたのか、それらの経過を書き記す暇もなく、続けられた投与実験。この研究が終わりを迎える時には、この研究所も終わりを迎えていた。
神々しいほどの輝きを放つ六つの光の出現に戸惑う常界<テラスティア>に舞い降りたのは、美を司る大精霊ティターニア。差し伸べた手は、光を宿した少女へと。これ以上、聖なる扉<ディバインゲート>に近づいてはなりません。それはまるで、幼子を叱る親の様。彼女は誰よりも、少女自身の平和を想っていた。
全て、精霊会議での決定です。それでも拒もうとする光を宿した少女へと向けられる強い眼差し。力を解き放ち、妖精王としての姿を露わにするティターニア。もう、時間がありません。強引に差し出された手は、歪な感情を纏っていた。これ以上、都合の良い犠牲を出すわけにはいかない。二人の間に光精王が立塞がる。
ここは、女性が美しさを競い合う美しき闘技場。そして、君臨するのは美しさに祝福されし美の精霊の王。女性だけが持つ力強さは美しさへと、世界で一番美しき戦いが始まる。浴びる眼差し、沸き起こる歓喜、美しさに抱かれた戦いが今、始まる。
鋭い牙に吐き出される炎、覆われた鱗に大きな翼こそが現代に生み出された偶像。誰が竜をこの様な形と提唱したのかは定かではないが、紛れもなく、人と同じ姿形をした竜は存在していた。古の竜アメリカーナは【ナノ・サラマンダー】と共に、統合世界へと降り立った。そう、道化の魔法使いの、種明かしをする為に。
目には目を、火には火を。炎明竜アメリカーナが赤子の様に手懐けた【テラ・サラマンダー】は常界の炎を燃やし尽くした。来るべき日の約束を果たすことなく一途な誓いは散り、眠りについた眠れぬ獅子は二度と会えぬ友に手を引かれた。全ては聖暦の王の責務を果たさんとする君主の、聖なる扉への到達と引き換えに。
今日からここが、君の寝床だよ。はめられた首輪に繋がれた鎖を引きずられ、空一つ見えない部屋に連れて来られたヨウコウ。本当にすまない、あと少しなんだ。わずかな隙間から、いつも時間外の食事を差し出してくれる温かな手に親しみを覚えた頃、59回目の起動実験を開始するアナウンスが鳴り響いていた。
不意の爆発により、偶然にも解放された炎拘獣ヨウコウは炎に包まれた研究施設を見つめていた。優しさをくれたあの人は無事だろうか。後ろ髪引かれる想いを胸に閉じ込め、施設を後にした。そして行き場を無くした彼は優しさの足跡を辿り、巡り会えた優しさの子供に真実を伝えた。全て、君の為だったんだよ、と。
二年前の聖なる夜、被害者となったのは人間だけだった。そう、混種族<ネクスト>であるルリは悲劇を目の前に被害をまぬがれた。ただ、心に負った傷は深いものだった。世界評議会により保護という名の拘束をされた彼女は唯一の目撃者とされ、そして、なぜ人間だけが対象とされたのか、その真実は隠されていた。
それでも僕は初恋を追い求めるよ、そんな走り書きを残して失踪した天才の職務放棄により解放された水拘獣ルリは命からがら逃げ出した。助けを求めたのは水を司る大精霊、だけどその隣りには、見覚えのある姿が。二年前、聖なる夜、あなたをあの場所で見たわ。唯一の目撃者は、水を宿した少年へ、敵意を向けた。
桜舞い散る並木道から外れた路地裏、監獄から抜け出したトキワはひとり、拘束着のまま彷徨っていた。偶然にも通りかかったのは、追いかけていた頭の尻尾を見失い、一人空に浮かんでいた少女だった。ちょっと外して欲しいにゃん。少女が興味を示したのは甘い猫なで声ではなく、お尻から生えた本物の尻尾だった。
ありがとにゃん。風拘獣トキワは少女にお礼を告げ、小銭を片手に焼き魚を求め、定食屋の敷居を跨いだ。ふと向かいのテーブルに目をやると、まるで恋する思春期の様な赤ら顔の少年と無表情の自律兵器の二人が。悪戯に投げる視線、更に赤くなる少年。ただ少年は彼の拘束着が、男を示す黒色であったことを知らない。
ぴょんぴょん。監獄の中庭を飛び跳ねていた一人の少女。ぴょんぴょん。髪の毛を揺らしていた一人の天才。両目を閉ざしたら何が見えるのか。天才の興味はそれだった。結果、何も見えなかった。では、両耳を塞いだら何が聞こえるのか。結果、何も聞こえなかった。コガネにとって、そんな実験もお遊びの一環だった。
ぴょんぴょん。研究室で飛び跳ねていた一人の少女。ぴょんぴょん。手紙を書いていた一人の天才。そのプレゼントは、一体誰にあげるんですか。被検体から助手へ昇格となった光拘獣コガネは尋ねた。にんじん咥えた天才が告げた名前に聞き覚えはなかったが、きっと世界の裏側を知る人なのだろうと彼女は思っていた。
幽閉されていたのは堕ちた獣、キョウ。そんな彼には、自由と引き換えにとある約束が提示されていた。闇を包みし少女を、魔界にそびえ立つ不夜城まで連れて来なさい。提示者は約束された未来のその先の幻を奏でてみせた。既に審判の結末のその先を見据えた者達は動き出していた。そして彼は、約束を交わした。
アンタのこと、連れて来いって頼まれてんだ。闇拘獣キョウは探し求めていた闇を包みし少女へと手を差し伸べた。攻撃姿勢をとったのは大蛇の名を関した自律兵器、不安な表情を浮かべたのは闇精王。お迎えにしては、ちょっと乱暴ね。闇を包みし少女は落ち着いた姿をみせたまま、差し出された手を見つめていた。
閉ざされた部屋、はめられた拘束具、繋がれた鎖、繰り返された生体実験。それにしても、今日はやけに静かな日だ。ナマリは鉛色の壁を見つめ、そっと呟いた。その矢先、鳴り響いた鈍い殴打音。悪いけど、ちょっと手伝ってくんねーかな。乱暴に壊された檻の鍵、開いた扉から差し伸べられたのは、聖者の手だった。
瞳に映る全てをなぎ倒す派手な脱獄、看守へ愛を届ける聖者に手を引かれていた拘束から解き放たれた無拘獣ナマリ。もう、時間がないんだ。こぼした焦り。なぜ、そんなに急ぐの。彼女の問いかけ。もしアイツが、鍵の使い方をわざと間違えでもしたら。それはもしもの話、だけど彼女はそれは確信であると悟っていた。
古の炎を燃やしたのは、炎の文明が閉じ込められた古宮殿。燃え盛る炎の中、自信満々な笑みを浮かべた一人の古の竜がいた。常界の外側の、統合世界の更にその外側、上位なる世界は存在していたのだった。それは例外でもあり、原則でもあった。
解放されたドラゴンの力、だがそれは古の竜の力を継いだ彼女にとって喜ばしいものではなかった。解放による上位なる存在の出現、始まった審判の日へのカウントダウン。竜王に命じられた統合世界行き、アンデルスは手始めに【ナノ・ヨルムンガルド】を自分のものにしてみせた。そしてそのまま、聖なる扉へと。
最期まで聖王の真意に反対しながらも、若き可能性を信じ、犠牲となった初老の男性がいた。最期まで笑顔を浮かべ、聖王の嫌いなところを百個並べた若き女性がいた。そして、そんな横たわった二人のすぐ隣り、【テラ・ヨルムンガルド】と共におどけてみせる風明竜アンデルスがいた。聖なる銃、あと残り、二人。
最近、なぜか周囲がざわついている。少年は不穏な空気に警戒をしていた。乙女心に気付かないフリするなんて、やっぱりあなたは嫌な男ね。水を留めた心にトゲが深く突き刺さる。いいからケーキでも買って来なさいよ。言われるがままに洋菓子店へと足を運んだ少年は気が付き、そして、コドラケーキを5つ注文した。
購入した時から姿を変えていたことにも気付かず、配られた4つのケーキ。それは水精王、水の美女、花の妖精、水の自律兵器へと。そして最後の一つは、水の獣へと。えっ、私の分もあるの。予想外の展開に、驚きを隠せず頬を染める少女。この時、もう直ぐドラケーキが暴れ出すことなど、知る由もなかった。
大きな鎌を携え、一人買い物を楽しんでいた少女は、ふとショーウィンドウに飾られていたコドラヨウカンに目を奪われた。なぜかしら。少女はヨウカンを好きでも嫌いでもなく、強いて言えば生きていく上で口にする必要のないものとして認識していた。だからこそ、何故目を奪われたのか、その理由が気がかりだった。
何となく買ったその甘味を見つめ、少女は物思いにふけていた。もしかして、無くした過去と関係が。瞳を閉じ、過去を問う。微かに浮かぶ紫のストールに包まれた笑顔、唐突に突きつけられた幼き日の約束。私はいったい。いつの間にかドラヨウカンへと姿を変えた甘味は、少女の苛立ちにより666等分されていた。
ホワイトデーはお返しの日だと誰が決めたのだろうか。そんなルールを無に帰すかの様に一人の少年はショッピングモールへ。そう、大切な人へと渡すプレゼントを買う為に。ただ、そんな想いとは裏腹の重い足取り。それでも必死に、一歩一歩前へ。遂に辿り着いた洋菓子店、コドラシェルチョコは飾られていた。
二人顔を合わせてから、既に20分が経過していた。渡すことの出来ない思春期の少年は、ただ頬を赤く染め立ち尽くしていた。神様、俺に勇気を。背中に隠したプレゼントを出そうとした時、訪れた時間切れ、暴れだすドラシェルチョコ。僕に嫌がらせだなんて、いい度胸してるにゃん。少年のホワイトデーは終わった。
今日もまた届いた恋文。延々と書き連ねられた愛の詩。その言霊が喜びから恐怖へと変わってどれくらいの月日が経ったのだろうか。アツヨシは頭を悩ませていた。15年前の約束、大人になったら結婚しよう。そんなありきたりな昔話。だけど、今年で約束を交わしたあの日から、15年の月日が経とうとしていた。
全ては男としてのけじめをつける為、甘男竜アツヨシは刀を手に15年前の約束の桜の下へと訪れた。その握られた刀は誰かを守る為でも、誰かを殺める為でもなく、自らの身を守る為に。太陽が沈み始めた頃、漂いはじめた甘い香り。それは彼の悩みの種の訪れの予感。15年の月日を経て、二人の男女は夕日へ溶けた。
甘味処グランメゾンに取り揃えられていたのは、ケーキにヨウカンにチョコにと、見た目も味も様々なイロトリドリの甘味達。幼き日の約束に囚われた甘男竜は、今日も派手やかな女性客へ瞳を輝かせながらも、訪れる15年目に不安を感じていた。
吹いたのは優しくも、厳しくもない風。そんな乾いた風は、張り詰めた空気をよりいっそう息苦しいものへと変えた。古宮殿に住まう古の竜にとって、空気に重いも軽いも関係なかった。そう、その空気を作り出していたのは古の竜本人だったのだから。
竜王はコウガニアに告げた。解放せし者が手にした六つの刃、それは自らが振るう為ではないと。そして、統合世界へと送り込まれた彼女の元に届いたのは大きなリボンで飾り付けられた特大の箱、中には【ナノ・ファーブニル】と一通の手紙が。「あとわよろしくぴょん(`・ω´・)」と、丸文字で書き記されていた。
また会える日を、楽しみにしてたのに。遠く離れた故郷と友への想いを胸に、二対の棍は砕け散った。口ほどにもないじゃない。眩い閃光は続く。生憎さ、オレを殺せる権利は、ヤツだけのものなんだ。光明竜コウガニアと【テラ・ファーブニル】の発した眩い閃光が止んだ時、一人の男は不敵に微笑み、キスを飛ばした。
一族を裏切った道化の魔法使いによる解放、対抗すべく訪れた古の竜、上位なる力の前に人間は為す術をなくしていた。戸惑う常界、光を宿した少女を想い、睨み合う二つの光。そんな時、奏でられた色彩。それが天界の答えなのね。幼き魔女王に代わり、六色の女王を引き連れたファティマは【アポカリプス】を構えた。
終わらない幻想を、奏でてあげる。形を変えた【アポカリプス・マリア】が指揮をとる六色の宴、そこに協調などはなく、また、その各々の独奏が美しくもあった。天界は神の怒りを恐れ、歪な平和を作り続けると言うのね。妖精王へ真意を問う幻奏者ファティマ。それが約束された未来よ。妖精王は美笑を浮かべていた。
遥か古、光はどのような形で存在していたのだろうか。光届かぬこの古宮殿の最果ての祭壇、辿り着くことが出来た時、その答えは見えてくるのだろうか。光が閉じ込められていたとするのなら、いったい誰が、何の為に閉じ込めたというのだろうか。
道化の魔法使いは統合の先の融合を見据え、六つの光を呼び出した。一人の王は融合という約束された未来を受け入れ、開かれた扉のその先の王であろうとした。そして、もう一人の王、古の竜の王ノアは、そんな二人を、世界評議会の企みを、融合を阻止すべく、【ナノ・アーク】と共に上位なる世界から舞い降りた。
【テラ・アーク】は銃輪を、一人の青年の心と体を縛っていた鎖を噛み砕いた。人間にしては、なかなかやるみたいだな。それは最後まで大好きな仲間達を想い、そして、大嫌いな王を信じて戦った一人の青年へと贈られた言葉。竜王ノアと青年、そんな二人をいつの間にか取り囲んでいた特務竜隊は一斉に武器を構えた。
丘の上に建てられた小さな神殿、それは微かな光しか通すことの許されない古神殿ヒルズアーク。ここでは、光は微かで十分だった。一筋の光はやがて、大きな希望へと変わる。そう、古の竜王は自らが方舟に、自らが希望の光になろうとしていた。
古の竜の襲来に備え、世界評議会により秘密裏に組織されていた特務竜隊<SDF>へ出動要請が出された。解き放たれた喜びの業火を吐き出したのは人工竜デラト。これは全て、約束されていた未来。ただ、一人の聖暦を我が手中に収めようとした例外を除いて。そして、その例外による弊害が立ち塞がろうとしていた。
散った一途な誓い、眠りについた眠れぬ獅子、そして、首筋に不自然な赤い痕が残された古の炎竜。戦闘は既に終わっていた。自らの獲物が奪われた怒りは、より強い者と戦える喜びへ、炎喜竜デラトへと姿を変えた。そんな喜びの矛先が向けられたのは、一人の例外により生まれた、一人の鎖に縛られた弊害だった。
混種族<ネクスト>が先天性であるとしたら、アングは後天性である。そう、生まれたその後に混ざり合った異なる血液。どのような過程で混ざり合ったのか、どのような目的で混ざり合ったのか、その全ては明かされず、次種族<セカンド>という名前のみが与えられ、特務竜隊<SDF>として戦場へ駆り出された。
水怒竜アングは激しく怒っていた。唯一与えられていた命令、古の水竜の討伐。だけど、駆り出された先に待っていたのは、隊服を赤く染められた二人と、首筋を赤く染められた一人だった。既に奪われてしまっていた獲物、自らの、次種族<セカンド>としての存在理由は、何者かにより奪われてしまっていた。
人工竜に混種族<ネクスト>に次種族<セカンド>と、特務竜隊<SDF>は様々な竜により編成されていた。神に抗う存在が竜であるのならば、また竜に抗うのも竜であった。上位なる世界より訪れた古の文明竜の討伐命令に対して、竜との混種族<ネクスト>であるにも関わらず、ジョーイは楽しそうに戦場へ赴いた。
何故か、傷だらけながらも安らかな顔のまま横たわった二人の男女がいた。その隣、少しはだけた胸元に赤い痕が残された一人の少女がいた。そう、自らの討伐対象であった古の竜は既に倒れていた。あははは、古の竜なんて、大したことないんだね。混種族<ネクスト>である風楽竜ジョーイは、楽しそうに駆け出した。
数多の実験の失敗の積み重ねの果てに生み出された人工竜であるラブー。本来凶暴であると思われていた竜の中では格別に大人しく、また優しさを兼ね備えた慈愛の竜だった。ただ、その行き過ぎた優しさは、時として狂気へと。自らが生まれたことを嘆き、そして涙を流すその姿は、もはや人間よりも人間らしかった。
そこには二人の女性が横たわっていた。自らの討伐対象だった存在に対しても、目を閉じ、そしてそっと思いやる。そんな愛に溢れた光愛竜ラブーが思うことは一つ、この無益な戦いを、今すぐにでも終わらせたい。大きな翼で天高く舞い、例外により生まれた弊害の行方を捜し始めた。愛ゆえの衝動、優しさは狂気へと。
幾つもの失敗と言う名の犠牲の果てに生まれた竜、次種族<セカンド>のサッド。ようやく生まれることが許された存在は、幾つもの哀しみに包まれていた。以前自分がどのような人間だったのか、いや、どのような竜だったのか、彼女にその記憶は残されておらず、残されていたのはこの世界に対する哀しみだけだった。
辺りを覆いつくした深い闇をかき消したのは、目が眩むほどの激しい光だった。さぁ、あと、一人。そっと呟いたのは、傷だらけの男女を両脇に抱えた傷だらけの青年だった。そして、そんな青年の背後には横たわった一人の少女が。きっとこの場所で、とても哀しいことがあったのだろう。闇哀竜サッドは悲鳴を上げた。
裏切り者には死を。混種族<ネクスト>であり、また特務竜隊<SDF>に属するヘートは、討伐対象である古の無竜ではなく、世界評議会を裏切った一人の例外と、その直属の特務機関を憎んでいた。ようやく、裏切り者達を無に帰すことが出来る。その憎しみだけが、彼の存在理由であり、また、憎しみを愛していた。
まずは邪魔な古の無竜を消そうか。言われた場所へ向かうと、そこには遠くを見つめる一人の青年と、横たわった一人の少女が。視界に捕らえた憎しみの対象、無憎竜と化したヘートは刃を向けた。だけど、そんな彼を見向きもせずに青年は言い放つ。オマエ邪魔だから、そこどけよ。青年は王の帰還だけを見つめていた。
聖なる扉へと向かう風を纏いし少女の前に立ち塞がったのは、鎧型ドライバ【リューベック】を纏いし乙女、ホルステン。もし、開かれた扉の真実を知る覚悟があるのであれば、その覚悟をみせなさい。ぶつかり合う二つの竜巻。ここは私ひとりで大丈夫だから。数多の戦いを潜り抜けてきた少女の瞳に、迷いはなかった。
竜巻が止んだ時、そこには【リューベック:ツヴァイ】を纏ったホルステンと、扉への片道切符を手にした少女がいた。風を乗せた夜汽車は空を翔ける。車中、自らをノアの一族だと名乗った彼女は告げる。聖王の扉到達の為の犠牲と、道化の魔法使いに拾われた少女の存在を。今なら、まだ。夜汽車は空へと加速した。
ここは、聖なる扉へと向かう風の夜汽車の発着駅。そして、扉へと到達する資格を持つ者の前にしか現われることのない、夢幻の駅。その扉行きの夜汽車に乗る為には、入り口に待ち構えている門番からの試練を突破しなければならないという。
見つめ合う妖精王と幻奏者、一列に並んだ六色の女王。ただ息を飲みながらその光景を見守ることしか出来ない光を宿した乙女達の前に突如して現われた大きな光。それは鎧型ドライバ【サロモン】を纏ったハールレムだった。さぁ、早く乗り込んで。光の夜汽車は空を翔ける。お待ちなさい。美しき声は遠くに聞こえた。
あなた、ノアの一族ね。核心をついた光精王。君を聖なる扉へ届けるのが、私の使命だから。ハールレムは光の少女を見つめていた。だとしたら、その前に寄って欲しい場所がある。光精王が語るのは歪な平和の歴史とその裏の都合の良い犠牲。【サロモン:トゥエイ】を身に纏った青年は、行き先を天界へと変えた。
大きな光の中から現われたのは、聖なる扉行きの夜汽車を止めた夢幻の駅。行き先は出口なのか、それとも入口なのか、それは辿り着くまで知らされることはなかった。何故ならそこは、人によっては出口でもあり、また入口でもあるからであった。
王の帰還、様変わりした姿。世界評議会を代表して、彼に新しいコードネームを授けよう、さぁ、エビルアーサーよ。それは、お揃いの仮面をつけた一人の男から発せられた。アンタの帰りを、待ってたのに。傷だらけの聖銃士があげた悲痛な叫び。そして、その声を終らせたのは腹部を貫いた【エビルカリバー】だった。
貫いた銃剣型ドライバは【エビルカリバー:バースト】へ姿を変えた。扉の前、聖王は死んだのさ。悪戯に笑う仮面、咲いた白百合、生まれた堕王エビルアーサー。少し人間を侮っていたようだな。空へ離脱する竜王。そんな戦場に遅れて現れたのは、聖王へではなく、幼馴染へ、昔からの名前で呼びかける聖者だった。
聖なる扉へ辿り着くことが出来れば、再び父に会うことが出来るだろう。そう確信した炎を灯した少年達の前に現われたのは、鎧型ドライバ【アカオニ】を纏ったサクラダだった。見かけによらず、ファザコンなのね。何て言われても構わないさ。父から譲り受けた甲型ドライバは、いつになく激しい炎を点火させた。
炎と炎はより強い炎となり、辺りを熱気で包んだ。揺らぐ視界の果て、そこには既に【アカオニ:弐式】を解いたサクラダと、消えることを忘れた炎を灯した少年がいた。もー、降参だってば。少年を乗せた夜汽車は聖なる扉へと。きっとそこに父がいる。いつかのお返しをする為に、右耳を飾った茜色は揺れていた。
燃える炎の果て、熱気で揺らぐ視界、微かに捉えることが出来たのは一つの駅。シンキロウでもカゲロウでもなく、そこに駅は存在していた。そう、夢幻の駅は存在していた。もし立ち入ることが出来れば、聖なる扉へと辿り着く足がかりとなるだろう。
ふーん、仕方ないんじゃない? 自業自得ってやつよね。だって彼ったら、我侭だしさ、自己中だし、乱暴だし、もう嫌いなところをあげたらきりがないわ。でも、もうそんな彼には会えないの? ねぇ、目を覚ましてよ、ねぇ、もっと嫌いにさせてよ。
もう、アナタは十分戦ったわ。なんて、私の口から言えるわけないじゃない。アナタにはもっと働いてもらわなきゃ困るのよ。だから、早く帰ってきて。それまで、私がアナタの代わりを務めるから。今でも、いつまでも、私はアナタだけの右腕なのよ。
人の姿をしながらも黒い翼を持ち、頭に獣耳を生やした。左肩に見えるのは「000」の三文字。そう、それは次種族<セカンド>のプロトタイプを意味する三文字。手にした手袋型ドライバ【ソロウ】が壊すのは、自らが生まれた悲しみか、それとも、この世界に対する悲しみか。今、閉じていた翼は広がる。
お迎えありがとう。上品な声が聞こえてきたのは遥か彼方の刻の狭間。天上獣がお迎えに上がったのはたった一人の神様だった。さぁ、行こうか。差し出される【ソロウ:セカンド】、観測者を乗せた風は変わり始めてしまった未来の行方を目指す。彼らに背負わせるには荷が重過ぎる。大きな時は、動き始めた。
アタシを誘ってくれて、ありがとね。おかげさまで外の世界を知ることも出来たし、新しい友達も出来たんだ。なのにさ、アタシ、まだ何の恩返しも出来てないよ。もっと戦いたいんだよ、もっともっと世界のこと教えてよ。だから、早く帰ってきてね。
勅令だとか、真意だとか、そんなのもうどうだっていいんだよ。わかったんだ、全ては世界の為だったってこと、自分を犠牲にしてまで新しい道を開きたかったんだろ?だけど、いつまでも輝いていてくれよ。俺はいつだって、光あっての闇なんだから。
夢幻の駅が聖なる出口行きであるのなら、この無限の駅は聖なる入口行きであろう。限られた無の力、そして、そんな聖なる入口へと向かう夜汽車を走らせるのは、ノアの一族ではなく、天上から舞い降りた1人の、いや、1体の獣だった。
戦うことしか知らなかった俺を拾ってくれて、生きる意味と居場所を与えてくれて感謝してます。そして、一番伝えたかったことがあります。あの子の宝物は守れなかったけど、あなたの宝物は守ることが出来ました。だから早く、帰って来て下さいね。
何をそんなに行き急いでおるのだ、死ぬにはまだ早すぎるわ。そういった役目は老い先短い私に任せればいいものを。まぁ、今更言っても仕方ないがのう。さて、スープでも作って気長に待っているとでもしようかのう。冷める前に、帰って来るのだぞ。
無事に親父の仇を討つことが出来たのは、きっと機関がオレを受け入れてくれたからなんだ。いつかはきっと、この丈の長い隊服が似合うくらいオレは大きくなる。だからさ、その時までオレ達の絶対的ボスでいてくれよ。オレもっと、大きくなるから。
私はまだ、来るべき日の約束を果たせていないんです。なのに、あなたがいないとはどうゆうことでしょう。私は、あなたがいてくれるだけで、あなたの側にいられるだけでいいんです。どうか約束を果たさせて下さい。ずっとあなたを、待っています。
やっぱり、そうゆうことだったのね。だけど、らしいっちゃ、らしいんじゃない? もう、私には何の関係もないんだけどね。だけど、責任くらいはとってくれないかしら? 私だって、それなりに戦ってあげたのよ。まぁ、期待しないでいてあげるわ。
パパ、ごめんなさい。パパからもらった宝物、壊れちゃったの。でもね、パパ、私頑張って戦ったんだよ。少しでも、パパの力になれたかな? そうだったら嬉しいな。早く帰ってきて、いっぱいいっぱい遊んでね。頑張ったご褒美だよ、絶対だからね!
あーそろそろ眠ってもいいかな? え、ダメ? 仕方ねえなぁ。でもさ、だったらそっちこそ、さっさと目を覚ましてくれないかな。いったいいつまで、目を開けた夢を見てるつもりなのさ。ほら、さっさと起きろ、お眠の眠れぬ獅子様もお怒りだぜ?
たまにはと思って本気出してやったのに、もー最悪だわ。約束通り、アンタに殺されてやるよ。でもさ、なんだよその顔。なんで泣いてんのよ。悲劇の王でも演じてるつもりかよ。男の涙なんかに、興味はないんでね。やっぱアンタのこと、大嫌いだわ。
一等悪魔昇格の際に彼女へ手渡されたのは妖刀型ドライバ【ヒメヅル】。長いその刃を振るう度にほとばしる悪しき炎、何人もの罪人を闇へと葬り去ってきた。そんな彼女に、666議会から一通の手紙が届く。赤い月が昇る夜、不夜城を尋ねよ。不吉な予感に胸を弾ませた彼女は、これから始まる宴を心待ちにしていた。
赤い月の昇る夜、不夜城の女王の間、そこには懐かしい友の姿があった。一人は赤き女王に、一人は炎の魔将に、各々の道を進んだ少女達の再会。集まった六魔将、そして戻ったばかりの六色の女王を前に幻奏者は告げる。幼き魔女王に代わり、この魔界<へリスティア>を統べる新たな女王の名を、常闇の死神の名前を。
愛する妹と二人、同じ日に一等悪魔へと昇格を果たした彼女が受け取ったのは、対となる二刀のうちの片方、妖刀型ドライバ【ムラサメ】だった。悪しき水の力は、悪しき闇の力と共に、二人の仲を引き裂こうとする者達を葬り去ってきた。あなたさえいれば他に何も要らないわ。二人は世界を閉ざし、愛を確かめあった。
二人きりの世界を邪魔するのは、あなたね。赤い月が昇る夜、不夜城に招かれた水の魔将は機嫌を損ねていた。妹との時間を邪魔するなんて、ただじゃおかないわ。愛する妹と共に、一人の少女へと斬りかかる。そうゆう態度、嫌いじゃないわ。奈落の大蛇が弾いた二対の妖刀。少女は六魔将を従え、女王の玉座に着いた。
妖刀型ドライバ【ヤスツナ】を手にした一等悪魔は、悪しき風に吹かれていた。あぁ、風が泣いている。そっと呟いた独り言。だけど、一体誰に風の気持ちがわかるのだろうか。死刑執行人学園では、顔は良いが、少し残念な悪魔がいる、という噂が常に囁かれていた。そんな風の噂にさえ、彼は口元を緩めるのであった。
666議会からの勧誘、六魔将に選ばれるのに時間はかからなかった。風の魔将として、一段と風を吹かせる彼ももちろん、赤い月の夜、不夜城へ招かれていた。主役ってのは、遅れて登場するもんだぜ。計画的な遅刻、開いた女王の間。直後、寝ぼけた緑の女王の自立型ドライバにより、赤い月より赤く染められていた。
君みたいな軽い男が嫌いです。光刑者へと軽蔑の眼差しを向けた彼が一等悪魔昇格の際に手渡された妖刀型ドライバは二刀の【ライキリ】だった。女を知らないなんて、人生の九割損してるのと同じさ。嫌味な言葉を思い出す。その九割を惜しんだから、僕に抜かれたんだ。彼は女という幻想を悪しき光で斬り裂いていた。
六魔将の中でも最年少の彼は、魔物の中でも特に礼儀正しく、また常に周囲に気を配っていた。そう、それは赤い月が昇った夜も同じ。そんな、真面目を絵に描いた様な女を知らずに育った彼の前、薄手の紫色のワンピースの少女が横切る。大胆な胸元から慌てて逸らした視線。女王の間、伏せた体、彼は君主に恋をした。
愛する姉と二人、同じ日に一等悪魔へと昇格を果たした彼女が受け取ったのは、対となる二刀のうちの片方、妖刀型ドライバ【ムラマサ】だった。悪しき闇の力は、悪しき水の力と共に、二人の仲を引き裂こうとする者達を葬り去ってきた。お姉さま、いつまでも側にいて下さい。二人は世界を閉ざし、愛を確かめあった。
二人きりの世界を邪魔するのは、あなたね。赤い月が昇る夜、不夜城に招かれた闇の魔将は機嫌を損ねていた。姉との時間を邪魔するなんて、ただじゃおかないわ。愛する姉と共に、一人の少女へと斬りかかる。そうゆう態度、嫌いじゃないわ。奈落の大蛇が弾いた二対の妖刀。少女は六魔将を従え、女王の玉座に着いた。