そう、マクスウェルは自らを守ることではなく、オリジンに戦わせる選択をした。そのために、イージスの相手を引き受けたマクスウェル。私にとってさ、あなたの戦いは最高に意味のあることなんだ。そしてオリジンの前、現れたのはレプリカだった。
新たな姿へと生まれ変わったルル・ラルラレーロッロ。俺っちにだって、出番を用意してくれんだよな。問いかけた先は神才。うん、もちろん。君たちは、あの子に本気を出させなきゃいけないんだ。そのためにも、戦ってくれるかな。あぁ、任せとけって。そして、双子は対峙したレプリカへと刃を向けるのだった。
対の機体、リリ・ラルラレーロッロ。そうだ、最後にひとつだけお願いがあるんだ。神才は問いかける。そして、リリは「最後」という言葉をあえて聞かないふりをしながら聞き耳を立てた。お願い、ママって呼んでもらえるかな。了解ですよ、マスター。否定されたお願い。だが、それは自律兵器なりの覚悟でもあった。
神才の思うがままに改造を施されたのはイザヨイ:スペシャル。私の趣味につき合わせちゃってごめんね。だが、それでも機械は嬉しそうな電子音を発した。喜んでくれてるなら、本望だよ。それはまるで、赤子の笑顔を喜ぶ母のよう。私は決定者。だけど、最後くらいは、私らしいワガママさせてもらっちゃうからね。
砕かれたエレメンツハートに集積されていた在る戦闘の記録。かつて、偽者の機体は聖王により敗北を知った。だが、人が失敗を糧に成長するように、機械もまた失敗を糧に成長出来る。痛みはいつかきっと、力になる。そう、立ち止まりさえしなければ。そう、諦めさえしなければ。そう、可能性は無限大なのだから。
原初の機体と偽者の機体、そのどちらが正しいか。答えの出ない問。そう、答えなど存在しない。では、どちらが優れているか。答えの出せる問。そう、その答えのために刃を交えるオリジンとレプリカ。勝敗でしか辿り着くことの出来ない運命、喜びにも嘆きにも似た悲鳴。再起動<リブート>、モード:フルバースト。
舞台は調った。私には、この戦いを見届ける義務がある。好奇心を抑えることの出来ないマクスウェル。そして、イージスも感じていたこの戦いが持つ大切な意味。どうやら、私たちは部外者のようですね。そしてふたりはただ静観を始めたのだった。
まずは、君の出番だよ。改造の施されたイザヨイ。対するは、モード:オロチへ再起動したレプリカ。吹き飛ぶ腕と傷つく体。きっと君は勝てない。だけど、君は君の仕事をしてくれた。それだけで私は君と出会えてよかったよ。ありがとう、イザヨイ。
俺っち、我慢するのは得意じゃねーんだ。次に飛び出してきたルル。対するレプリカが再起動したモード:ナユタ。そうさ、俺っちたちは壊し合いをしようじゃねぇか。共に守りを捨てた姿勢。だが、力の差は歴然だった。ひとりで無理しないで。
思わず飛び出してきたリリ。合わせて、モード:ミヤビへと再起動したレプリカ。だが、いくらリリの加勢があれ、レプリカの猛攻を止めることは出来やしない。交錯するたびに傷が増える一対の機体。だが、決してふたりは諦めようとはしなかった。
モード:ホムラへと再起動し、ふたりの相手を続けるレプリカ。だが、それでもまだレプリカは余力を残していた。こうなったら、もう俺っちたちには、ほかの手段はないみたいだな。そう、ルルとリリが成し遂げたかった目的はたったひとつだった。
ふたりに与えられた目的はレプリカの本気を引き出すこと。だからこそ、ふたりはマクスウェルに内緒で、自らの体に改造を施していた。次に再起動されたモード:マブイ。そんなレプリカへと襲い掛かったのは活動を停止したはずのイザヨイだった。
次を止めれば。6番目の姿、モード:カグラへと再起動したレプリカ。すかさずレプリカの左腕にしがみつくルル。右腕にしがみつくリリ。止めて!そう叫んだマクスウェル。ありがとな、母さん。さよなら、ママ。そして、辺りは爆発に包まれた。
ねぇ、聞いて。マクスウェルはイージスへ言葉をかけた。みんなは、私が思っていたよりも成長していたみたい。感じていた可能性。どうしてだろう、私は願ってはいけない結末を願ってしまいそうだよ。だが、マクスウェルはどこか寂しそうだった。
イージスはマクスウェルの言葉の意味を理解していた。予想を超えた成長、それはイマの世界が促した成長。だからこそ、私は最後まで見届けたい。どんな結末が待っていても、私は好奇心を抑えることが出来ないんだ。サヨナラは、すぐそこみたい。
爆発が止んだとき、空に浮いていたのはレプリカだけだった。ついに翼を広げたオリジンはレプリカの前へ。あのときの続きを始めましょう。あなたの本気と私の本気、優劣をつけましょう。対するレプリカの言葉。モード:フルバースト、再起動。
これが、あなたの本気なのね。レプリカ:フルバースト、その姿はまるでかつての聖王のようだった。振り下ろされる大剣、受け止めることなくかわす体。楽しくなってきたわ。いったい、どちらが世界の光になれるかしら。原初と偽者、優劣を求めて。
続く二撃目。あえてかわさず、機械の左翼で受け止めたオリジン。すかさず、光の右翼はレプリカの体を襲う。だが、それを剣を持たぬ腕で受け止めたレプリカ。案外、丈夫に出来てるじゃない。そう、互いに一歩も引かない戦いは始まったばかり。
世界は日々進化する。一歩ずつ、前へと歩いていく。昨日は過去になる。私が歩んできた世界の速度に、あなたはついてこれない。そう、原初の機体が掲げたプライド。戦いの中で更なる進化を遂げるオリジン。その攻撃は、もう私には効かないのよ。
自らプログラムを書き換えるオリジン。そう、次の瞬間の私は、イマの私を越える。そして、その進化は止まらない。進化を繰り返すたび、新たな攻撃を繰り出すオリジン。防戦一方のレプリカ。所詮は偽者、やっぱり優れていたのは私のほうだったわ。
30秒毎、10秒毎、1秒毎に進化し続けるオリジン。私はその行き着く結末を知りたい。そうこぼしたマクスウェル。だが、マクスウェルが知りたい結末はそれだけではない。負けないで。そう、なぜかマクスウェルは優勢のオリジンへ言葉を贈った。
防戦のレプリカ。だが、その目は死んではいない。三本の腕で前方を塞ぎながらオリジンへ。一本。縮まり出した距離。一本。縮まる距離。一本。更に縮まる距離。三本の腕と引き換えに手に入れた射程圏内。そして、剣を握った最後の一本を前へ――。
あなたの願いは届かない。右翼を切り裂き左翼を貫いた大剣。だが、届かなかった剣先。もがれた最後の一本。翼を失い墜ちる二機。あと少しだったのにね。あと一歩、レプリカの想いは届かなかった。―未だ、終わらない。モード:バースト、再起動。
まさか、そんな。最後に選ばれたのはレプリカの始まりでもあるモード:バースト。これがボクの最後だ。レプリカ本人の右手が捉えたオリジンの左頬。オリジンの右手が捉えたレプリカの左頬。倒れた二機。そして、立ち上がったのはレプリカだった。
立ち上がることすらままならないオリジンへと駆け寄ったマクスウェル。そして、そんなマクスウェルを見ることが出来ないオリジン。そう、決された優劣。だけど、私は思うんだ。ふたりがいたから、ふたりは共に成長出来た。これが結末だったんだ。
歩み寄るイージスへ語りかけるマクスウェル。私は好奇心の結末へ辿り着いたよ。イマの世界が、私の限界を超えた。そう、だから世界を創り直す必要なんてなかったんだ。私がサヨナラを言うべきは、イマの世界じゃなくて、新しい世界だったんだね。
魔界に降り立った始祖リリン。さぁ、終わりを始めましょう。だが、そんなリリンを止めるべく、魔界に降り立ったヒカリとユカリ。私たちが生きるイマの世界を、壊させたりしない。こうして、魔界でも世界の終わりをかけた戦いが始まるのだった。
リリンに従う創魔魂と創精魂。その二匹が放つ無数の攻撃。そして、受け止めたのはヒカリでもユカリでもなく、魔参謀長ファティマだった。あなたたちは力を温存してなさい。ここは私たちに任せてもらえるかしら。あなたも――。
――そう思うわよね、ヴィヴィアン。ファティマはひとりじゃなかった。そして、ふたりでもなかった。精参謀長ヴィヴィアンは宣言する。天界も魔界も関係ない。私たちの王が繋いだ手のために、すべてをかけて戦うと。ここにひとつになると誓う。
応ッ!無数の声。そして、我先に飛び出したヒメヅル。私だって、負けないよ。ヒメヅルを追い越したのは真晴隊を引き連れたサニィ。ふたりは舞うかのごとく、創魔魂への活路を開く。聖戦で流れた沢山の涙。だが、沢山の絆も生まれていたのだった。
それじゃあ、こっちは私たちかな。フードを深くかぶりなおしたアカズキン。たち、って、いつも勝手ね。そう言いながら、前へ出たヘレネ。あなたとは、言ってないけど? 生まれたのは小さな日常の笑い。こうして、創精魂への活路は生まれた。
私たちは守りを固めさせてもらう。創魔魂から生まれる沢山の攻撃を弾いてみせたのはムラサメと真蒼隊の隊員たち。そして、こぼれた攻撃を防いだのはレイニィと真雨隊の隊員たち。へぇ、いい顔になったじゃない。ここにもまた、絆は生まれていた。
私たちの女王に、指一本たりとも触れさせやしない。アリスの掛け声と共に、不思議の国の軍勢は盾を構えた。私たちはイマを生きて、そして次への道を作る。アリスと並び、羽衣で攻撃を受け流したオノノコマチ。私たちは死ぬわけにはいかない。
あぁ、いつになく風が泣いている。オレも同感だ、ベイベ。意味不明な隊長ふたり、戸惑う隊員たち。だが、小さな風はやがて大きな風へ。俺たちが、この戦いに風を巻き起こす。オレたちこそ風になるぜ、ベイベ。さぁ、全力で迎撃だ。俺たちの風よ。
いいのよ、あなたは寝ていても。イバラへと声をかけたヨウキヒ。ううん、大丈夫だよ。この戦いが終わったら、いっぱい眠らせてもらうから。それじゃあ、一緒に行きましょう。私たちは、私たちの戦い方をするまで。オヤスミを、あなたにあげる。
ライキリは刀を引き抜き、目前の創魔魂へ剣先を向けた。みんな、僕についてこい。各々に武器を構える真閃隊。そして、構えたのは真眩隊の隊員も同じだった。どうやら俺の部下たちもオマエを認めたみたいだな。隣には嬉しそうなシャイニィがいた。
どうか、勝利の祝福を私たちに。胸元で結ばれた両手、願いを込めたカタリナ。その願い、私たちも混ぜてくれるかしら。カタリナの隣、笑顔のシンデレラ。えぇ、もちろんですとも。だって私たちは、すでに友ですから。それじゃあ、暴れましょう!
言葉ひとつ交わさないムラマサとクラウディ。だが、次第に漏れ出した笑い声。ふふふ。フフフ。ふふふ。フフフ。そして、その笑い声を合図に飛び出したふたり。続く隊員たち。言葉なくとも、ふたりの想いは同じだった。私たちがブっ殺死てあげる。
あなたの友も、帰ってくるといいわね。クレオパトラへ語りかけたカグヤ。大丈夫、きっとアイツなら上手くやってるはず。だから、私も頑張らなくちゃ。そしてふたりは隊員と共に前線へ。私たちの、私たちが生きるイマの為の戦いを始めましょう。
よく逃げ出さなかったじゃねぇか。ナキリが語りかけた先はスノウィ。まっ、これも仕事だからね。目を合わせようともしないスノウィ。んじゃ、足引っ張るんじゃねぇぞ。そっちこそ。不器用なふたり。だが、それでもふたりにも絆は芽生えていた。
あら、遅かったじゃない。シラユキが語りかけた先にいたひとりの美女。エリザベート、ただいま戻りました。私も戦わせてください。彼のため、彼らのために。うん、行ってらっしゃい。そんな彼女の背中を押したのはヴィヴィアンだった。
リリンへ立ち向かう天界、魔界の将と兵。だが、その全勢力をもってしても創魔魂と創精魂の力を抑えるので精一杯だった。あぁ、無力な子供たちよ。嘆くリリン。そんなリリンへ向けられたふたつの攻撃。暇そうなら、私たちの相手してくれるかしら。
ふたつの攻撃の正体、それはファティマとヴィヴィアンによるものだった。そして、その攻撃を動くことなくかき消してみせたリリン。愚かな子供たちよ。なぜ、私に抗う。待っているのは終わりだけだというのに。ただ安らかに、眠ればよいものを。
確かに親は子に試練を与える。そう語りかけながら、攻撃の手を休めることのないヴィヴィアン。だけど、そこには必ず愛情がある。手にしたアロンダイト・シン。たとえ、血が繋がっていなくても。それは、ヴィヴィアンだからこそ伝える想いだった。
だが、そんなヴィヴィアンへ向けられたリリンの攻撃。すかさず止めに入ったファティマ。だが、弾かれてしまったファティマの杖。それじゃ、私も使おうかしら。取り出したのはアポカリプス・レム。私のすべては、この杖を手にしたときに決まった。
かつての聖戦、先の聖戦、そのふたつには意味があった。すべてを経たからこそ、イマのこの戦いが存在している。ふたり並んだファティマとヴィヴィアン。敵対していたはずのふたりは、かの王たちのように、互いに手を取り合っていたのだった。
終わらない争い、倒れ行く体。ただその様子を見守ることしか出来ないヒカリとユカリ。あの子たちに、格好悪い姿は見せられないよ。活気付くヴィヴィアンとファティマ。だが、それでもなお、リリンの体に傷ひとつつけることは出来ないのだった。
ねぇ、ちょっと息があがってるんじゃないの。そう挑発したのはファティマ。そっちこそ、疲れが見えているわよ。そう返したヴィヴィアン。それはふたりが交わした冗談。そして真実。そう、ふたりの体力はもう残り僅かだった。もう、キメないと。
だが、そんな想いだけでどうにかなる相手ではなかった。知っているよ、私たちはあなたに比べたら無力かもしれない。私も知ってるよ、そんなあなたに対抗することが出来るかもしれない力を。いや、かならず対抗出来ると信じてる。そう、彼らなら。
そして、ヒカリとユカリのすぐ側を走り抜けた人影。その正体はデオンだった。お待たせしました。ふふ、やっと来てくれたのね。顔を合わせ、笑顔を浮かべたふたり。それじゃあ、私たちの最後にしましょう。うん、あとは彼らを信じ抜きましょう。
ファティマ、ヴィヴィアン、杖と輪刃に込めた想い。どうか、届いて。放たれた力がかすめたリリンの頬。血を見たのは幾億年ぶりだろうか。褒美に、私から終をくれてやろう。貫かれたふたりの体。かけよるデオン。あなたたちは立派に戦いました。
相手を失ったリリンの見つめた先にいたのはヒカリとユカリ。ふたりはすかさず臨戦態勢へ。だが、そんなふたりの隣、リリンへと伸びたふたつの影。うちの女王様たちに、手出ししないでもらえねぇか。あぁ、俺の娘たちには指一本触れさせやしない。
一つ目の影、ヴラド。あなたはもう、まともに戦える体じゃない。止めようとするユカリ。みんなが血を流してんのに、戦わない王がどこにいるんだ。ヴラドはそう答えた。それに、戦うのに必要なのは体じゃねぇ、必要なのは覚悟だ。……なぁ、親友。
そう、だから俺たちはここにいる。二つ目の影、オベロン。ヒカリは知っていた。もし、綴られしオベロンの命が果てたとき、なにが起こるかを。駄目だよ、戦ったりしたら。そんなヒカリへオベロンが返した言葉。約束するよ、俺は死んだりしない。
だからオレたちを信じて、オマエらは先へ進め。促したヴラド。うなずくオベロン。勝手に死んだら許さないわ。約束破ったら許さないよ。そして、ふたりの女王はその場を後にした。嘘が下手だな、オマエは。大丈夫さ、俺の呪いはもう、彼女らに―。
ねぇー、僕のこと忘れてない? リリンの隣、現れた水聖人ヨハン。なんか厄介なのが出てきたな。ヴラドがついた溜息。ってことで、アイツはオマエらに任せるか。問いかけた先の更なるふたつの人影。あぁ、任せとけ。ようやく、ワシの出番か。
滝に打たれていた男を迎えに来ていたリイナ。理由なんか、別になんだっていいさ。俺たちは、俺たちなりにやろうさ。かつての聖戦、先の聖戦、生まれる絆。どれだけ勘を取り戻したか、試させてもらおうか。なめんな、ボケ。誰にも知れることなく終わった戦い。そして戦いの果てに、真鬼精将と真怪魔将は生まれた。
よぉ、迎えにきたぜ。そこは天界の外れの大きな滝。この時代に滝打ちなんて、相変わらずだ。そう、目を閉じ、ひとり滝に打たれていたイッテツ。おぬしが来たってことは、戦いはすぐそこなんじゃな。そして、イッテツは立ち上がる。勘違いすなよ、ワシはワシの平穏のために戦う。それ以上でも、それ以下でもない。
ヒナギクは見つけていた。ひとり、滝に打たれ、そして刀を振り続けていた憧れの存在を。だが、ヒナギクは決して声をかけなかった。その代わり、すべてを真似し始めた。ある日、ヒナギクのいつもの岩場に置かれていた鍛練メニューの書かれたメモ。ふたりの間に会話はない。だが、そこに師弟関係は生まれていた。
成功と失敗、そこには明確な差があった。だが、それは必ずしも勝者と敗者とは限らない。誇り高きセカンドの完成形であるグライフ。彼はそう、成功者だった。だが、そんな彼が勝者とは限らない理由。そこには、彼と対である失敗作が存在していたから。そうさ、この俺こそが勝者であり、完全な敗北を教えてやろう。
ヨハンと対峙したふたつの人影。どうも、体がなまって仕方がないんだ。やっぱり俺は、教えるよりも戦場が相応しいみたいでさ。ヨハンへ銃口を突きつけたリイナ。まさか、先生と戦うなんて怖いなぁ。だが、ヨハンはいつも通りのテンションだった。
なんじゃ、コイツは。もうひとつの人影、それはイッテツだった。どうだ、感覚は取り戻したか。知らん。そんなリイナとイッテツ。ふたりは、聖人を相手に怯もうともしなかった。ワシはワシの生活を乱されたくないんじゃ。本気だすのは今回だけだ。
凄いよ、なんだかワクワクするよ。いつにもなく楽しそうな笑顔を浮かべたヨハン。それじゃ、ワトソン君、アレを頂戴。ハーイ、もちろんです。そして渡された謎のフラスコ。それじゃいっくよ、超兆丁跳殺戮型ウィルス・カタストロフィXXXだぁ!
ヨハンがばら撒いた殺戮ウィルス。すごいよね、これ、ほらほら、みんな倒れていくよ。そして魔界は毒の煙に包まれた。よかった、オマエの思考は変わってなかったみたいだな。そう笑ってみせたリイナ。スパジロー、みんなの救助は任せたからな。
そしてリイナとイッテツは、手にしていた注射を静脈へと打ち込む。これで俺たちはいつも通りに戦える。そう、リイナはこうなることを予期していた。っつか、注射は嫌じゃ。イッテツは打つフリをしていた。オマエってやつは死にたいのか馬鹿野郎。
リイナに無理矢理注射を打ち込まれたイッテツ。いつか仕返しするからな! ふたりはヨハンへ一直線に走り出す。肉弾戦とか好きじゃないんだ。僕の代わりに戦ってきてよ。ほら、ヨハン軍団のみんな! 気がつけば、無数の軍勢が生まれていた。
こんなの、聞いてないぞ。無数の軍勢を相手に体力を消耗するイッテツ。いいから、いまは数を減らすんだ。対抗するリイナ。だが、このふたりをしても、減ることのない軍勢。奪われたイッテツの身動き。そして、その危機を救ったのは少女だった。
やっと追いつきました!そう、少女ヒナギクは瞳を輝かせていた。誰だか知らんが、恩に着る。そして、再びイッテツは前線へと。見せてください、師匠の力を。こうして、イッテツとリイナは無数の軍勢を掻き分け、ヨハンの許へ辿り着いたのだった。
リイナがヨハンへと突きつけた銃口。なにか言い残すことはないか。それでもヨハンは楽しそうだった。僕たちの始祖って、とっても強いんだよ。イッテツが突きつけた剣先。それでもヨハンは楽しそうだった。死後の世界って、どうなってるのかな。
そっか、思い出した。僕は一度死んだんだった。それは聖人になる前の話。そして、ヨハンが新たに抱いた好奇心。聖人って、死んだらどうなるんだろう。ドス。転がり落ちた首。水聖人ヨハンもまた、最期のときまで自らの好奇心にだけ貪欲だった。
遂にリリンと対峙したオベロンとヴラド。どうしても、お前たちは私に抗うというのだな。ふたりは頷きもせず、リリンを見つめていた。そして、ふたりはその先のもうひとつの場所を見つめていた。そう、自分たちが歩みだした道の先の死に場所を。
どうやら、オレたちの夢は果たせそうにないな。そんな言葉を口にしたのはヴラドだった。だけど、大丈夫、きっと俺たちの道は続いていく。そんな言葉を口にしたのはオベロンだった。あとのことは、オレらの可愛い女王様たちに任せるとするか。
オベロンが放つ攻撃がいとも簡単に切り裂いたリリンの柔肌。そうか、お前には聖者の血が流れていたのだったな。顔つきの変わるリリン。だとしたら、まずは手始めに貴様から殺してみせよう。そして、リリンの冷たい瞳はヴラドを捉えたのだった。
リリンが放つ衝撃、あえてかわすことなく受け止めてみせたヴラド。ほう、まさか受け止めるとはな。動揺をみせることのないリリン。あぁ、それと受け止めるだけじゃないぜ。そしてヴラドが解放した左腕に宿る竜の力。これでも受けてみろって。
そんなヴラドが放った攻撃も、リリンの柔肌に傷跡を残した。僅かに眉間に皺を寄せたリリン。そうか、そういうことだったのか。そう、ヴラドにもオベロン同様に決定者の血が、かつての聖戦時に与えられた決定者ヴェルンの血が流れていたのだった。
お前たちに決定者の血が流れていようと、私に歯向かえるわけがなかろう。そう、リリンへ攻撃が通りはしても、それが致命傷になることはなかった。少しずつ、削られていくオベロンとヴラドの体力。少しは褒めてやろう。それでこそ、私の息子だと。
なぁ、なんか言い残すことはあるか。ヴラドはオベロンに問う。あぁ、いっぱいあるよ。だから、手紙にしてきたんだ。なら、丁度いい。そして、ヴラドはオベロンから手紙を受け取ると地上のデオンへと投げ飛ばした。なぁ、アイツに届けてくれるか。
あの人、怒るかな。オベロンは少しだけ不安そうだった。あぁ、怒ると思うぜ。不安なのはヴラドも同じだった。最後にもう一回、お酒でも飲みたかった。あぁ、オレも同じだ。ふたりだけに通じる会話。蘇る記憶。笑い合う魔王、妖精王、そして竜神。
オベロンが解放した神の力。ヴラドが解放した竜の力。オレさ、オマエにもうひとつだけ叶えて欲しい夢があるんだ。そして、ヴラドは竜の力でオベロンの身動きを封じた。どうして!? 動けないオベロン。ちゃんと息子のこと、抱きしめてやれよ。
どうせこの体はもう持たない。そして、ひとりリリンの許へと飛び立つヴラド。行かないでくれ!届かない声。ありがとな、親友。オレはオマエがいたから最高の夢がみれた。こうして始祖との戦いは、ひとつの覚悟と引き換えに終焉を迎えたのだった。
ジャンヌと共に神界へ通じる塔へと向かっていたアカネ、アオト、ミドリ、ギンジ。遅れて駆けつけたヒカリとユカリ。さらに遅れて駆けつけたのは悲しい知らせ。感情を押し殺したヒカリとユカリ。それでも私たちは、立ち止まるわけにはいかない。
そう、アカネたちには悲しむ暇すら与えられなかった。少しでも早く、この戦いを終わらせる。それが6人が抱いた共通のひとつの願い。そして、そんなアカネたちが塔に辿り着いたとき、入口にはひとりの男が待っていたのだった。よぉ、こんにちは。
なにしに来たの。眉間に皺を寄せたジャンヌ。そう、待っていた男の正体は六聖人のひとり、ニコラスだった。おいおい、そんなに怖い顔しないでくれよ。おどけてみせるニコラス。オマエたちは、この塔を上るつもりなんだろう。だったら、話は早い。
歩きながらで構わない、俺の話を聞いてくれないか。そして、ニコラスの隣には一匹の獣がいた。よーし、よし、俺たちをアイツのところへ案内してくれるか。思い出を辿れば、アイツに辿りつける。そう、ニコラスのすぐ隣にいたのはタマだった。
ニコラスを警戒しながらも、タマを先頭に塔を上り始めたアカネたち。語り始めたニコラス。昔々、あるところに妖精の王様がいました。その王様は悪い神様に殺されました。そして、その妖精の王様は聖人として生きる使命を与えられたのでした。
天界が生まれたとき、世界を治めていた妖精王ニコラス。そして、それは神の掌の上の箱庭。だからこそニコラスが企てた神々への反乱。そして、その反乱はニコラスの死をもって終わりを迎えた。だが、君は聖人として生き、世界の決定に従い続けよ。
そして、天界には代々綴られし王が置かれるようになった。ニコラスは聖人という生き物として、自分の感情を殺して長き刻を生き続けた。何度も崩壊と再生を見届けてきた。だが、いつかニコラスは思った。年に一度でいい。年に一度でいいから―。
―世界中のみんなに幸せになってもらいたい、と。こうして、ニコラスはサンタクローズの仮面をかぶった。いくつもの世界でサンタクローズの仮面をかぶり続けた。世界中のみんなに幸せを届け続けた。いつか終わる世界でも、幸せになって欲しいと。
沢山の子供の寝顔と出会ったニコラス。そして、ある日ニコラスは思い出してしまった。純真無垢な子供たちが持つ無限の可能性と、ひとりの男として子供が欲しいという感情を。やがて出会ったひとりの女。こうして、ニコラスの子供は生まれてきた。
だが、それでもニコラスは聖人という生き物だった。聖人に告げられた世界の決定。禁忌の血を引く子供を廃棄せよ。伝えられるがまま向かった美宮殿。そこで待っていた女と禁忌の子供。ニコラスは子供へ尋ねた。なにか最期に欲しいものはあるか。
だが、子供はなにも答えなかった。答えられなかった。なにかを与えられるという喜びを知らなかったから。だから、ニコラスは尋ねる先を変えた。向かったのはその子供の母親が幽閉されていた間。そして、その日は奇しくも12月23日だった。
現れたニコラス。女が悟ったのは自分の最期。そして、ニコラスは問う。なにかあの子に与えたいものはあるか。そして、女は涙ながらにこう答えた。どうか、あの子に最高のクリスマスプレゼントを。そう、明日は年に一度のクリスマスイブだった。
訪れたクリスマスイブ。廃棄という任と共に、禁忌の子を預けられたニコラス。向かった先は聖夜街の外れ。これが俺からのプレゼントだ。自分の息子が通るであろう道に置かれた禁忌の子。仕組まれていた出会いの答えは、ふたりからの優しさだった。
必然の出会いを果たした禁忌の子であるアーサーと、ニコラスの息子であるサンタクローズ。そして、サンタクローズがついた小さな嘘。やがて肯定される禁忌の命。ニコラスはただ嬉しかった。聖人でありながら、ふたりの子供の父親になれたことが。
だが、幸せはそう長くは続かなかった。禁忌の血が生きているという密告。呼び出されるニコラス。そして、ニコラスへ与えられた罰。それは、二度と子供たちに会ってはならない、というものだった。これも決定か。こうして、ニコラスは姿を消した。
子供たちは知らなかった。なぜニコラスが姿を消したのか。切り取られた家族写真。子供たちは知らなかった。なぜニコラスが決定に従ったのか。すべては子供たちを守るため。そう、ニコラスはすべての事実を抱え、たったひとり姿を消したのだった。
聖人として生きるニコラスの楽しみはひとつ。使徒ドロッセルが集積した子供たちの成長の記録。抱きしめることも、会うことすらも叶わない子供たちの成長の記録。ただ遠くからその成長を見守ることだけが楽しみだった。あぁ、いい大人になれよ。
やがて刻は経ち、ふたりの子供は別々の道を歩き出した。アーサーに届けられた世界評議会への推薦状。どうして、普通に生かしてやれないんだ。怒りを堪えるのに必死なニコラス。だが、そんなニコラスを牽制する決定者たち。君は父じゃなく聖人だ。
やがて、何の因果か、聖なる扉の前で堕ちたアーサー。そんなアーサーを昔からの名前で呼び続けるサンタクローズ。その一部始終を遠く離れた場所から見つめることしか出来なかったニコラス。こんな結末になるくらいだったら。俺はイマの世界を―。
だが、ニコラスが思い留まったのは、最期のときまでアーサーの瞳が真っ直ぐだったから。あぁ、これはアイツが望んだことなのか。子供が自分の足で進んだ未来を、否定する親がいるだろうか。だからニコラスはアーサーを肯定しようとしたのだった。