なかなか悪くない出来ね。第四世代自立兵器型ドライバであるトラピゾイドに自律の心を、エレメンツハートを取り付けた天才は満足げな笑みを浮かべていた。笑ったその目は幸せそうに見え、また、悲しそうにも見えるのだった。そして浮遊する自律兵器を見て、天才は呟いた。あなたは、翼がなくても飛べるのね、と。
自律の心は考える。何故自分に心が与えられたのか。自律の心は悩む。何故自分に心が与えられたのか。自律の心は苦しむ。何故自分に心が与えられたのか。自律の心はやがて、考えることも、悩むことも、苦しむことも止めた。風波機トラピゾイドは自律の心に疑問を感じず、さも当たり前かの様に、風を集めていた。
悪魔と神の次種族<セカンド>であるサインは、ひとりぼんやり空を眺めていた。この空の向こうにあるのは、幸せな世界でしょうか、それとも悲しい世界でしょうか。それは子供の頃からよく聞かされていた言葉だった。私はいつまで、神のフリを続ければいいのでしょうか。それは、次種族<セカンド>の運命だった。
ぴょんぴょん、揺れるツインテール。お久しぶりです。光波神サインの目の前に現われたのは、幼い頃、一緒に遊んでくれた一人の悪魔だった。キミは辛くないのかぴょん。そう彼女は問いかける。もう、辛いという感情がわからなくなりました。その言葉に光の悪魔は答えをくれた。だったら、背けばいいんだぴょん。
次種族<セカンド>になることを望んだのか、それとも望まれたのか、人でありながら獣になることを望んだのか、それとも望まれたのか。目を覚ました時の彼女の満面の笑みをみれば、それはどちらも前者であることは一目瞭然だった。力を得たサトスが見つめた一枚の写真、そこには自分と同じ笑顔の闇の獣の姿が。
やっと同じ力を得ることが出来たわ。グリモア教団の力を借り、そして六波羅と呼ばれるまでに力をつけた闇波獣サトスは自由を手にした。やっとあなたに会えるわ。幾人からの話を頼りに向かった先は天界<セレスティア>の深い闇の洞窟。出迎えたのは解放された闇の妖精王、その隣、写真の獣は首輪を繋がれていた。
与えられた名前、引き換えに失った過去。場所はグリモア教団生態科学支部。沢山の視線を感じながら覚えた絶頂。おめでとう、次種族<セカンド>への改造実験は成功したよ。スクェアは目を覚ました。いや、正確には目を覚まされた。そして開かれたばかりの狂気に満ちた目、直後、辺りには血の海が広がっていた。
無波獣スクェアが訪れたのは破要塞<カタストロフ>だった。封鎖されたはずの要塞に灯った光。鍵のかかったドアをこじ開けた先、一体の自律兵器と天才が。それ、修理されちゃあ困るんだよね。力を解放しようとする獣。あなたの傷は、力に変わるから。そう、第五世代最狂の自律兵器が再び目を覚まそうとしていた。
人間は死んだらどこへ行くのだろうか。天国か、地獄か、それは生前の行いにより決められるのだろうか。だけど、その手前、生死の淵を彷徨う頃、生きるべき人間か、死ぬべき人間か、その判断を下す神がいるとしたら。そんな神に仕える病神・アムネジアは、約束された未来から弾かれた二人の男女に語りかけていた。
おい、じじい、起きろ。喪失神アムネジアは槌型ドライバ【アウェイクW01:セカンド】で初老の男性の頭を叩いた。まだ、あんたの王は待っている。続いて狙うは胸元の開いた緑色のスカートの女性。ちみは眠ったままでもいいぞ。にやつく口元。気持ち悪いんだけど。女性はそう悪態をつきながらも、目を覚ました。
その扉がどこに存在しているかはわからない。また、本当に存在しているかどうかすらも怪しい。だが、廃病棟から無事退院した、という者は存在していた。では、そんな彼らはいったいどうやって病棟へ入ったのだろうか。やはり、その扉は存在した。
剣を手にした少女の一途な誓い、強すぎた想いが生み出した無自覚な嫉妬。眠れる獅子もまた、今もなお忘れ得ぬ親友へ抱き続けていたのは嫉妬にも似た憧れだった。その秘めたる嫉妬はやがて炎となり、そして二人の身体を焦がしていく。再び、灯った炎。病神・ゼロフィリアは、その様子をただじっと見つめていた。
燃える炎はやがて魂をも灼き尽くす程の大きさに。全身が包まれる中、閉じた瞼の裏で聞こえた言葉。あんたら、王様より先におネンネなんて、羨ましいご身分なこった。嫉妬神ゼロフィリアの皮肉に牙を剥くかの如く目を醒ました眠れる獅子と一途な少女。だが、彼らはまだ知らない。聖王がもう、聖王でないことを。
妬む想いはやがて身を滅ぼす。それでも人の欲は天井を知らず、所在不明のこの廃病棟で、今日も誰かがその身を焦がした。ここから退院した者は居るのだろうか。居るとすれば、その誰かは自分よりも大切な誰かに気付けたからなのかも知れない。
病神・パラノイアは、傷付いた二人を優しい妄想へと誘う。王の隣、並んで歩く少女。いつも見上げていた筈の顔が、今はこんなにも近くに。幼き少女は、そんな未来を抱いて眠る。傍らで、男は自分が欠けた未来を見つめていた。王の宝物を守ることが出来た。それが最後の仕事となったことを、男は誇りに思っていた。
ずっと居て良いんだよ。妄想神パラノイアは語りかける。君達の王は、もう帰って来ないんだから。辛い現実は忘れて、ずっとここに居ようよ。そんなの嘘だ。少女は抱いた妄想こそが現実だと信じ、壊れた宝物を抱いて走りだす。まだ、仕事が残ってたみたいだな。男は軋む身体を起こし、くわえた葉巻へと火を点けた。
パイモンがその場所に訪れた時、既に戦いは終わっていた。ハートの髪飾りは歪み、赤い薔薇は散り、ロングコートは凍りつき、シルクハットは焼け焦げていた。古の竜の血など所詮は敗者の、下等な血ね。吐き捨てた言葉。夢より素敵な魔法だなんて、聞いてあきれるわ。そこには、地面にうずくまった道化竜がいた。
南魔王パイモンが作りし陽炎、そこに映し出されたのは捕われた家族達だった。これは夢です。現実だ。夢を見ているんです。現実だ。なぜ、いつも世界は僕達を。世界など、始めから誰の味方でもなければ、裏切りなど存在しない。そして、更に映し出された一人の少女。直後、グリモア教団から南魔王の存在が消えた。
僕は約束をしたんです、家族だけは、守り抜くって。それは、魔法が使えなくなった魔法使いの涙。ならば、その約束を果たさずに死んでどうする。瀕死の道化竜を救ったのは、一族の王の孫娘だった。王から、僕を殺す役目を遣わされたのですか。その問いに、カナンは首をかしげた。なぜ、貴様を殺す必要があるのだ。
永久竜カナンは落ち着いた口調で語り始めた。それは世界の交わりを創り直すもう一つの方法。そして、その再創による犠牲の存在。王に会ったら伝えて下さい。生かしてくれて、ありがとう、と。そして、出来損ないで、ごめんなさい、と。傷だらけの道化竜は立ち上がり、一人、汚れた足で聖なる出口へと歩き始めた。
誰かが言った。そんな話、妄想だと。また誰かが言った。そんなことは無い、これは真実なんだと。だけど、ここに居る患者達には、妄想だとか、真実だとか、そんなことはどうだって良かった。自分達が患者であることさえ、気付いていないのだから。
一人の少年は、力を欲していた。一人の少女は、力を拒絶していた。それは遥か昔、古の竜の幼少期。壁に書かれた落書き、毎年増える白い線。だが、二人は並んで歩けなかった。そんな思い出の火想郷を、南魔王はいとも簡単に踏み躙ってみせた。
全ては王の目指す世界の為、時に傷つき、涙し、汚れた仕事でさえも引き受けてきた彼女は純白だった筈の手袋を外した。復讐を遂げた少年もまた、そこには何もなかった、復讐は何も生まなかったと目を反らしていた。そんな二人の頭の上、病神・マイソフォビアは【アウェイクA01】を逆さまにひっくり返していた。
凍りつく程に冷たい水を全身に浴び、目を覚ました二人。潔癖神マイソフォビアは、寒さに震える二人に語りかける。その手が穢れたのなら、何度でも洗い流せば良い。その心に罪の意識があるのなら、無理せず留めておけば良い。濡れた隊服、冷え切った身体、駆け出した二人の吐く息は、真っ白に澄み切っていた。
星屑街<コスモダスト>を抜けた先、そこには一年中人工の月が昇る街があった。太陽に忘れられ、まるで世界の終着駅かの様な暗闇、そしてそんな地上を照らすのは微かな月明かり。だが、そんな街でも人々は生活をしていた。鉄屑に囲まれ、火花を散らした一人の少女はスパナを握り締め【イザヨイ】を起動させた。
うん、まだ動くみたいだ。少女は起動させたばかりの自立型ドライバに華麗な装飾を施した。今日から君は【イザヨイ:ニシキ】だ。そんな名前が名付けられた自立型ドライバに刻まれた第二世代の文字。本当に、懐かしいなぁ。思い出に耽る少女の上、第零世代自律兵器型ドライバが舞い降りる。お迎えに参りました。
♯include \nint main()\n{\n std::cout << ”Hello,kineworld!” << std::endl;\n}
ワレワレ ハ キネポックルン ウチュウカラキタ ダイアクトウ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ キネポックルン ウチュウカラキタ ダイアクトウ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ キネポックルン ウチュウカラキタ ダイアクトウ ダ コノ
♯include \nint main()\n{\n std::cout << ”Hello,sakeworld!” << std::endl;\n}
ワレワレ ハ サケポックルン ウチュウカラキタ ヨッパライ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ サケポックルン ウチュウカラキタ ヨッパライ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ サケポックルン ウチュウカラキタ ヨッパライ ダ コノヤロウ
♯include \nint main()\n{\n std::cout << ”Hello,susukiworld!” << std::endl;\n}
ワレワレ ハ ススキポックルン ウチュウカラキタ ススキ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ ススキポックルン ウチュウカラキタ ススキ ダ コノヤロウ メカ ハ ツヨイゾ コノヤロウ ワレワレ ハ ススキポックルン ウチュウカラキタ ススキ ダ コノヤロウ メカ
犯した罪を償ってなお、汚れてしまった自分自身を許せないでいる患者達。だが、この世界に産まれて、一度も汚れずに生きていけるのだろうか。彼等は忘れてしまったのかもしれない。かつて、両の手を泥だらけにして遊びに興じた、あの頃のことを。
十五夜の街で目覚めたのは十六夜の自立兵器。一日だけ未来の名前が名付けられたのは、未来へと向かう意思表示か、それともきまぐれか。名前に込めた意味を知ることが出来た時、初めて未来の一歩を歩めるのかもしれないし、歩めないかもしれない。
何も見えない、深い闇の中を彷徨う二人。忠誠を胸に掲げ走り続けた男は、かつて闇夜の中で見つけた光の行く末を案じていた。自らを否定してまで戦った女は、その戦いの未来を見つけ倦ねていた。そんな憂いな顔をして、何処へ行くんだい。闇の中、何処からか聞こえてきた声の主は、自らをメランコリアと名乗った。
憂鬱神メランコリアは語り始めた。それは光に包まれた世界の光景。男は光を輝かせる為、より深い闇になるべく、溶ける道を選んだ。君はどうするんだい。問われた女は何も答えないまま、男の背中を見送った。やがて踵を返した女の前には、長い影が伸びていた。気が変わったのよ。目を開けたのは、一人だけだった。
グリモア教団の本部に設立された超常神通室に所属する六人の団員、彼らは通称サイキックスと呼ばれ、人知を超越した能力を身につけていた。ショクミョウと呼ばれる男が手にした能力は、自らの過去世を、そう、前世を知る能力だった。その力が、何を意味していたのか、それは深く考えずともわかることだった。
炎通者ショクミョウが手にした能力が意味していたこと、それは前世が存在する、ということだった。彼は前世からこの能力を持っていたのか、それとも後天的に手に入れたのか、それを知ることが出来た。そして、前世が存在するということは、輪廻転生の証明でもあり、また、彼自身が、その証明ともなるのだった。
少女は家を飛び出し、雨に打たれていた。ある日目覚めた不思議な力、それは自分の輪廻転生の最後を知る能力だった。もう、生まれ変わることはないんだね。その能力が本物だと信じたのは、その能力が本物だったから。こんな力、欲しくないよ。ならば、僕にくれないかな。彼女に手を差し伸べたのは西魔王だった。
西魔王に導かれ、そして訪れたグリモア教団の超常神通室。なんで、私なんかを。その答えは簡単だった。輪廻転生の証明に必要なのは二つ。前世の存在の証明と来世の存在の証明。君が失くした来世、それこそが来世の存在証明なんだよ。西魔王は水通者ロジンをお姫様の如く扱うのだった。共に、最高の現世を過そう。
えーと、次は、刻の狭間、って。ジンソクは配達先を確認して肩を落としていた。あの神、よっぽど通販好きなんだな。そんな彼が持っていた能力は自由自在に移動する力。それはまるで神の様な能力。その能力目当てにグリモア教団は彼を招き入れ、そして彼は籍を置く代わりに衣食住を保障してもらっていたのだった。
グリモア教団に籍を置き、そして超常神通室所属の風通者ジンソクになろうとも、彼のスタンスは変わっていなかった。配達の仕事って、意外と面白いんだよね。そう、彼は時を廻る配達人。そんな仕事であり遊びである配達を楽しむ為にも衣食住の保障が必要だったのだ。完全世界とか知らん。それが彼の口癖だった。
ねーねは、ここからいなくなっちゃうの。少女の疑問、それは遥か遠くの話声が聞こえたから。身寄りのない姉妹は教団で育ち、そして完全世界を目指していた。そして、後にテンニと呼ばれる少女が聞いた通り、姉は教団を去っていった。なぜ遠くの声が聞こえたのか、それは少女が能力を手にしていたからだった。
誰かの幸せは誰かの悲しみであり、誰かの悲しみは誰かの幸せである。少女の姉は常にその疑問に取り憑かれ、そして教団を抜け出した。幸せは悲しみであり、悲しみは幸せである。その事実に気付いたからこそ、神との次種族<セカンド>の道を進む光通者テンニに聞こえるように叫んだ。お姉ちゃんは、おこだぴょん。
君に視てもらいたい人がいるよ。東魔王の勅令を受けたテンゲンはとある人物を探していた。何となくだけど、完全世界の不安因子になる気がする。その言葉を思い出しながら辿り着いたのは、絶対王政を謳い、後に聖王と名乗る一人の男だった。覗き視た過去世、繋がる不安、なぜなら、何も視えなかったからだった。
闇通者テンゲンの役割には二つの意味があった。一つは輪廻転生の証明、そしてもう一つは例外の証明。幾億万と繰り返されてきた世界に輪廻転生が存在するのであれば、前世を、過去世を持たない存在が何を意味するのか、それが始まりを意味している事に気付いた時、その存在が存在している恐怖に気付くのだった。
教団が所有する千年書庫の司書を兼任するタシンが持つ能力は他人の心を知る能力だった。他人が何を考え、何を求め、何の行動をするのか、その全てが手に取るようにわかるのだ。それ故、その能力を知る者はごく一部に限られており、また教団の特秘事項に定められていたのだった。教祖は何時も、真っ直ぐですわね。
不安因子を、完全に取り除きたいんだ。無通者タシンには特殊任務が下され、赴いた先には二人の青年の姿が。運命に抗おうと毒を捨てた青年の心は読まれた。死を恐れてはダメよ。そして言葉は続く。なぜ、なぜあなたの心は。目的だったはずの人物の心は読めなかった。いや、心が存在していなかったのかもしれない。
ねぇ、なんでよ。転がす錠剤。つまり、そういうことさ。描かされる絵。ここは、とある患者達を収容する廃病棟。あぁ、どうして。見つめる手首。だから、くだらないよ。そこは綺麗な景色の広がったお花畑。ねぇ、あぁ、もう、おやすみなさい。
眠るのも惜しんで、走り続けてきたんだね。それはようやく眠りにつこうとしていた一人の少女へと向けられた言葉。そんなに彼に拘っていたら、眠る暇も忘れちゃうよ。それはようやく眠りにつこうとしていた一人の青年へと向けられた言葉。病神・インソムニアはそんな二人に優しい言葉をかけた。おやすみなさい。
優しい枕より、厳しい言葉の方が、アタシは安心するんだ。そして目覚める一人の少女。君はどうするんだい。悪いけど、俺は降りさせてもらうわ。そして隊服を脱ぎ捨てた青年。だから言ったろ、俺はアイツのこと、大嫌いだから。だが、不眠神インソムニアは気付いていた。それが、彼なりに選んだ、王の為の道だと。
眠れない夜が続いた後、眠れない朝が続いた。ちょっと不眠症なんだ。眠れない夜が訪れた後、眠れない朝が訪れた。ただの恋わずらいだよ。眠れない夜が消えた後、眠れない朝が消えた。夢から覚めたみたいだね。眠れない夜は、いつまでも続いた。
天高く聳える塔の最上階、突如として開かれた扉から現れた一人の存在、扉の君。聖なる入口は聖暦の王により閉じられたはずだった。そこには悪戯に笑う一人の神が。だが、そんな神の笑顔が歪んでいたのは、自らを犠牲にし、愛する家族の為に全てを捧げようとした約束された未来に抗う一人の男がいたからだった。
やっぱり早く殺しておくべきだった。悪戯な神がこぼした言葉、それは自らの過ちを認め、そして償いに、家族を想い、北欧の神々の力を改変した道化竜へと向けられた。これが僕の再創です。いや、これは魔法です。そう、道化の魔法使いは最後の力を振り絞り、そして大切な魔法を、永遠に失うことになったのだった。
湖妖精と竜王が辿り着いた塔の最上階。相手をしてあげなさい。悪戯な神は、変わり果てた聖王に剣を握らせた。遠慮しないからね。湖妖精と竜王は全力で応戦。無駄な足掻きですよ。だが、余裕を見せていた悪戯な笑顔は曇り始める。はじめまして、神様。少し遅れ、その場に駆けつけたのは神の威を狩る神主狐だった。
応戦空しく、完全体へと変化を遂げた扉の君。焦りをみせる湖妖精と竜王、そして神主狐。さあ、黄昏の審判を始めましょう。笑顔を崩さない悪戯王と虚ろな堕王。笑ってんじゃねーよ。そう吐き捨てた天上獣は観測者を送り届け空へと消えた。そして隣りには、四人の男女が立ち並んでいた。さぁ、反撃を始めようか。
聖暦の王により閉じられた扉は悪戯王により再び開かれた。だが、道化竜の償いによる二度目の裏切り、想定よりも早い解放、現れたのは不完全な扉の君だった。神へ抗う塔の最上階、開かれた扉により始まった黄昏の審判は終焉を迎えようとしていた。
再会した三人の友達と、その身を力に変えた四人の大精霊と共に打ち破った聖なる入口。だが、評議会の策略により少年は咎人となり、その身を湖畔に隠していた。渡せなかった聖剣を抱き寄せた湖妖精は言う。聖戦に、行くんだね。炎咎甲士アカネは消えた大き過ぎる背中を見つめる。父さんの想いを、無駄にはしない。
千本鳥居の下、雨は少年を打ちつける。開かれた扉の神は消え、大切な仲間達も数多く消えた。終焉を迎えた黄昏の審判、新たに始まる聖戦、それは聖なる出口を賭けた争い。それでも君は、行くと言うんだね。見送る神主狐。再び罪人になろうとも、水咎刀士アオトは歩き出す。もう二度と、君を失くしたりはしない。
開かれた扉の神に抗った少女もまた、戦犯者として指名手配されていた。竜王により逃がされた先は竜界。失った仲間達を思い出しては、逸る気持ちを抑えていた。そんな彼女を尋ねる初老の男性。その腕輪、見せてくれませんか。力失き声と穏やかな笑顔。風咎棍士ミドリの時は動き出す。今度こそ、一緒に走るんだ。
黄昏の審判は終わり、天界と神の繋がりは途絶えた。綴られし妖精王は消え、辿り着いた歪な平和の真実。美宮殿で難しい書類に目を通すのは妖精王の座を継いだ光妖精王ヒカリ。その直ぐ傍、世界評議会を抜け、幸せな世界を求める天才の姿が。新たな女王は告げる。今度こそ、私がみんなを幸せな世界へ連れて行くよ。
終焉を迎えた黄昏の審判、平穏を取り戻した統合世界。だが、それは束の間の平穏だった。新たに即位した魔界の女王は大好きな幼馴染を抱きしめていた。あなたと私は、二人で一人。闇魔女王ユカリが口にした宣戦布告。神へと加担した歪な平和を壊す為に始まるのは、魔界と天界の聖戦。そうよ、戦争を始めましょう。
神様のごっこ遊びは幕を閉じた。世界評議会から悪戯王と聖王は消え、道化竜は戦犯者として統合世界全土へ指名手配に。また、黄昏の審判を阻止した一人の英雄も存在していた。その男の名前は無英斧士ギンジ。彼は全てを知りながら全てを語ることなく、世界評議会最高幹部の席へと就いた。まだ、終わってないんだ。
物心がついた頃、部屋から出る事は許されなかった。壁に貼られた世界地図を眺める毎日。そして、突然だった。気付けば雪降る世界に。そして出会えた大切な親友。そんな親友が笑顔にさせる世界、そんな広がる世界を、俺はきっと守りたかったんだ。
今日もあの子が泣いていた。昨日もあの子は泣いていた。明日はあの子に笑ってもらいたい。どうして、あの子はいつも一人なの。堕ちたからとか、人間だからとか、そんなの私は知らない。だって私は、泣き虫なあの子のことが、だいすきなんだから。
美しき世界の為に、許されざる偽りを続けた。それが正しいと、皆の為だと思っていた。でも、所詮私は綴られた存在だった。最初から踊らされていた。だから、最後にあの子に伝えることが出来て良かった。嘘偽りない、幸せな世界になりますように。
刻を司る神様が遅刻だなんて、そんな話聞いたことねーよ。あーあ、やってらんね。どっかの誰かさんが犠牲になって閉じた扉もこのざまだ。でもさ、人間にしては結構やるじゃん。きっちりと時間は、稼げたみたいだな。さっさと終わらせちまおうぜ。
魔法が使えなくなった魔法使いなんて、無様ですね。でも、それでいいんです。僕は所詮道化です。だから、最後は盛大に踊らせてもらいますよ。夢より素敵な、自作自演の魔法をご覧下さい。きっと、家族のみんなも笑顔になってくれるはずですから。
終わらない旅の中で、共に歩む幾つもの炎と炎の共鳴<リンク>がもたらす進化により、炎はより強い炎となる。その胸に灯した熱い炎を絶やさぬよう、開かれた扉のその先を目指す者へ、汝が歩まんとするその道に、炎の祝福があらんことを。
少年は炎に出会い、旅を始めた。繰り返される数多の出会いと別れ、そして、聖なる扉を目指していたはずの旅は、いつしか大きな背中を目指す旅へと変わっていた。いつか追いつきたい、そんな願いを込めた茜色のピアスは、今も左右で揺れていた。
目の前で消える大き過ぎた背中。間に合わなかった。駆けつけたのは筆を手にした花獣。最後の約束、受け取ったよ。少年は立ち上がり、そして拳に炎を灯す。だから俺は、生きるんだ。その炎は反撃の狼煙となる。だって俺は、炎才の息子なんだから。
全ては、自分を変えてくれた少年の為。炎の大精霊は炎に還りながら、それでも少年の側を離れなかった。そなたと彼が親子であれば、そなたと妾は何であろう。重ね合わせる拳、預け合わせる背中。戦友って呼ぶんだよ。二人はニヤリと揃えて笑った。
観測者に導かれるように向かった塔、そこではまさに最後の審判が行われようとしていた。そして顔を合わせる四人の友達。その場にいない二人のことを思いながら、そんな二人の為にも、最後の力を振り絞るのだった。全ては、聖なる入口を壊す為に。
少年が見つめていたのは重なったネックレス。失った仲間達。だけど、少年に休む暇などなかった。聖なる出口を求め、始まろうとする聖戦。今度こそ、全てを終わらせるんだ。再び炎を灯した少年の背中は、やがて追い越す背中を予感させたのだった。
水の少年は、罪を被ることは、弟の為だと言い聞かせてきた。だが、誰かが殺さなければ、自分が殺されていたかもしれない。少年は、弟に助けられた。そして、弱い自分のせいで、弟は罪人になった。罪を被ることは、自分勝手な償いでしかなかった。
再会した弟、少年は殺されることを願っていたのかもしれない。だが、そんなことは周りの誰一人も願ってはいなかった。最愛の女性を失い、初めて気付いた事実、自分はいつも、生かされてきたのだと。そして少年は、初めて生きようとしたのだった。
傷つき倒れる仲間達、最後に一人残された少年。無我夢中に振るう刃、失われた落ち着き。そんな時、心に留めた水から聞こえた声。やっぱり、私がいないと駄目みたいだね。優しき水は少年を優しく抱きしめ、そして、少年は最愛の女性を抱きしめた。
神へと抗う最上階、再会した四人の少年少女。少年は傷ついた三人を癒し、また、その行為に言葉は必要なかった。僕たちは、生きるんだ。あぁ、そのつもりだ。うん、もちろんよ。おう、ったりめーよ。鞘から抜かれた刀、それが総攻撃の合図だった。
戦いは終わり、少年は黄昏の審判を引き起こした戦犯の一人として追われることとなった。すれ違ってしまった二人の友達、罪を重ね続ける弟、そんな三人の為、再び降り出した雨の中、少年はその身を戦いに投じるのだった。いつか、晴れますように。
二人の少女はいつも一緒だった。だがある日、些細なことでしてしまった大喧嘩。離れてしまった距離、しばらくして少女が一人、姿を消した。伝えることの出来なかった四文字の言葉。残された少女は、ただその言葉を伝える為に走り出したのだった。
何度も繰り返す四文字。それは、私のセリフよ。解ける三つ編み、閉じゆく瞼。絶対に、許さない。そして少女は一人、神へと抗う。その時、神が力を失っていたのは、瞼を閉じた少女を大切に思う、もう一人の存在が最後の力を振り絞ったからだった。
全てを出し切った少女の頬を撫でた優しい風。傷ついた愛弟子を、放っておくわけにはいかないネ。巻き起こる竜巻。戦いの中で風に還った風精王、そんな風の起源を纏い、少女は駆け出す。置き去りの昨日を忘れる為ではなく、共に明日を迎える為に。
みんな、風に乗って。塔の最上階、少女が巻き起こした竜巻は、四人を開かれた扉の神の元へと。風向きは変わり、そして、その風は戦局を変えた。吹き続ける追い風。激しい嵐が過ぎ去った時、四人の少年少女は束の間の喜びを分かち合ったのだった。
竜王により逃がされた竜界。私の知り合いが、君の元を訪ねるだろう。でもどうか、責めないでやって欲しい。そんな少女の元を訪ねたのは、力失き初老の男性。そして少女は気が付く。彼こそが、共に一人の少女を思い続ける存在だったということに。
少女は自分が普通ではないことを知っていた。本当のお父さんは、お母さんは誰。全て偽者なの。だが、少女は育ての両親を、みんなを悲しませたくはなかった。だから少女は、笑顔だった。そして、苦難を乗り越え、本当の笑顔を手に入れたのだった。
天界の裏側を教えてあげるわ。そんな前置きから始まった妖精王の独白と、それを遮る光の刃。だが、僅かに知ることが出来た真実。光へと消える妖精王が言い残した言葉。でもあなたは、私の愛した人の娘だから。そして少女は、作り笑顔で見送った。
少女の目の前、散り逝く仲間達。光神の力は絶対だった。そして、今だ笑顔のまま立ち尽くす少女を目覚めさせたのは少女を見守り続けた光精王だった。手を、繋ごう。いつまでも、解けないように。伝わる輝きは、少女の中、生き続ける光となった。
決死の思いで光神を退けた矢先、少女の元に現れた観測者達。お迎えよ。同時刻、駆けつけた一人の天才。見つけたぴょん。そして少女は決断する。幸せな世界を創りたい。だから私は、聖なる入口へは向かわない。そして光妖精王は生まれたのだった。
黄昏の審判が終わり、取り戻した平穏。妖精議会の席に立つ光妖精王には様々な視線が向けられた。幼さの残る容姿、強すぎた例外の血筋、指名手配犯との交友関係、そして側近の一人の魔物。それでも少女は、幸せな世界の為、日夜奮闘するのだった。
失くした記憶の在り処、その存在そのものが堕ちた者への烙印だった。そう、少女は堕ちたのだ。ただ一つだけ、少女には例外が存在していた。誰が堕ちるのは魔界へだけだと決めたのだろう。魔界で生まれ、常界へと堕ちるということを考えもせずに。
今日もあの子が来てくれた。昨日もあの子は来てくれた。明日もあの子は来てくれるかな。目の前で散った魔女王。思い出される記憶。少女は魔界で生まれ、常界に堕とされた。そして決める覚悟の刻。だって私は、あの子のことが、大好きなんだから。
怒りに身を任せた少女の振るう鎌は空を切り裂く。まるで刃の立たない闇神。そんな時、闇に溶けた少女の影。あなたの闇は、私が包むから。闇精王が選んだ道は天界ではなく、堕ちた少女と共に生きる道。そして少女の影となり、寄り添うのだった。
戦いは終わり、赤い月は沈んだ。迎えた朝は魔界の新たな歴史の始まり。訪れた観測者に、少女は視線を投げ返す。いつかあなたを、世界から弾くことになるわ。それでも少女は視線を投げ返す。少女が立ち会うことなく、黄昏の審判は終わりを告げた。
平穏に包まれた常界で開かれた新生世界評議会の会議の場に送り込まれた魔界代表はそっと一通の手紙を読み上げた。それは天界に対する宣戦布告。黄昏の審判を引き起こした神々と通じた罪人達への報復。全ては、大好きだった、あの子の世界の為に。
少年には何もなかった。周りが羨ましかった。だが、少年は旅を続け、自分の存在の理由に気がついた。そして、そんな少年と友達になってくれた五人がいた。友達ってヤツも、悪いもんじゃないな。だから少年は、一人、別の道を進んで行くのだった。
仲間達と旅する極東国。出会い、別れ、目指すべき終着点。この旅が終われば、自分の役目は終わる、少年はそう思っていた。やっと、無に帰れるんだ。だが、少年は少し寂しかった。何も持たなかったはずの少年に、大切な友達が出来てしまったから。
悲劇を塗り潰す力に辿り着こうとした矢先の突然の襲来により消えゆく仲間達。無くした心、流れない涙。残ったのは無神と少年の二人。そして、消えたはずのもう一人の存在。安心しろ、我は姿無くとも傍にいる。それは、存在しえない証明だった。
少年の旅は終わり、無事に辿り着くことの出来た聖なる入口。だが、揃ったのは四人だけだった。きっとアイツらも、自分の戦いをしているんだ。その場の敵に、開かれた扉の神へと意識を集中する少年。例え、全てを、無に帰すことが出来なくても。
新生世界評議会最高幹部の席に就いた少年は全てを知っていた。あの時あの場所で、何が起きたのか。だが、少年は何も語らなかった。今のうちに、どうかあの二人を。それは現れなかった二人。あの三人なら、きっと。それは咎人の三人のことだった。
私が、もっと早く動き、そして気付けていたら。大切な配下を失った竜王は後悔を口にしていた。共に戦った湖妖精に別れを告げ、咎人となった少女を連れて竜界へと。そして竜界代表が新生世界評議会の会議から戻って来た時、新たな物語は動き出す。