昇格試験、残り49人、見られた素顔、逃げ帰る魔界<ヘリスティア>。ウィンドエッジは誰であろうと素顔を見られることを許さない。見られた時には引き起こされる過呼吸。背中のボンベは猛毒ガス、ではなく緊急用の二酸化炭素。そう、ただの恥ずかしがり屋。クラスメイトでさえ、彼の素顔を見た者はいない。
ついにそのマスクを脱いだ彼。いや、見せた素顔は彼女だった。それは風の剣型ドライバ【ウィンドピア】と共に授けられた名前により、持つことが出来た自信の表れ。だけど今も、手放すことのない二酸化炭素ボンベ。未だに彼女を敵とみなす人間が住まう常界<テラスティア>へ赴く際に、マスクは欠かせない。
闇に生きる死刑執行人<エクスキューショナー>を目指しながらも、自分の存在を隠そうとすらしないライトエッジ。その大きさから余計に目立つ、夜であろうと外すことのないお気に入りのサングラス。交わった世界、縁起の悪い黒衣の中、フリルのシャツで決め込んで、ハニーを求めて天界<セレスティア>へと。
天界<セレスティア>でうつつを抜かして見つけたマイハニー、光の妖精は悪魔を拒んだ。いい格好を見せようと、外したサングラス、パスした昇格試験、手にいれた名前と光の剣型ドライバ【ライトブレード】。二等悪魔になろうとも、きっと彼女は振り向かない。それでも彼は、彼女を追い求めることを止めやしない。
誰よりも死刑執行人<エクスキューショナー>への憧れが強いダークエッジ。昇格試験も残り僅かたったの8人。訪れた常界<テラスティア>の死刑執行に衝撃を受け、以来、黒衣の中に好んで着るボーダー服。それが処刑される側だったということすら忘れてしまう程の衝撃は、人間の残酷性と共鳴<リンク>したから。
フードを外し現れた癖の強い髪、気にしていたその癖も恥ずかしくなくなったのは、自分だけが他の生徒とは異なる特別な闇の鎌型ドライバ【ダークサイズ】と名前を手にしたから。次に与えられた昇格試験、6日以内に6人を6回殺すこと。まずはその言葉の真意を知ることから、次の試験はもう、始まっていた。
そっと目を閉じ、心眼で相手を見定める。張りつめた空気、振り払う邪心、研ぎ澄ます無心、刃を抜く一瞬、刹那の居合、ゼロエッジは罪人を殺めた。常界<テラスティア>での試験の最中、訪れた極東国<ジャポネシア>、京の都での出会い、「誠を背負いし者達」が導いた武士道、彼は自ら信じる正義を全うする。
武士道を進むその姿は、彼だけにと無の刀型ドライバ【ムミョウガタナ】と共に名前を与え、そして魔界<ヘリスティア>への絶対なる忠誠を誓わせた。自らの正義こそが、この交わってしまった統合世界<ユナイティリア>を元に戻す鍵と信じて、今はただ無心に、目覚めたその正義を貫き通す為に刃を振るう。
キスミー、ダーリン。扉が開かれた夜、交わった世界の片隅で、青い瞳に恋をした。禁忌の出会いに炎を燃やす、一途な乙女の恋心。きっとこれが最期の恋。刺さるような冷たさ、ねぇもっと私のことを見つめてダーリン。その冷たい瞳になら、私は堕とされたっていいわ。炎の妖精プチドナは今日も恋に恋焦がれる。
恋に恋焦がれ火照らす身体、刺さる冷たいその視線、今は気持ちいい絶頂感。抱かれたい、貫ぬかれるならその氷の刃で。禁じられた恋だとしても、例え火遊びだとしても構わない。この火照った身体を冷ませられるのは、あなたのその刃だけ。より強くなる想い、燃える恋は少女をエキドナへと。キスミー、ダーリン。
お帰りなさいませ、ご主人様。お風呂にしますか、ご飯にしますか、それとも、ううん、なんでもないです。ご主人の帰りを待ちわびていた水の妖精プチメイド。尽くし、喜ばれることこそ、彼女の幸せ。黒いメイド服に純白のエプロン、頭に乗せたカチューシャ、清らかなる容姿とその心はご主人へ身も心も捧げた証。
ご主人と共に訪れた浜辺、焼けつくような暑さ、照りつける太陽は清らかな少女さえも大胆にした。透き通る海、晴れ渡る空、駆け出す砂浜、脱ぎ捨てた服、それは少し大人になった姿、水の妖精はマーメイドへと。今だけは仕事を、交わった世界を、全てを忘れ、その体を、どこまでも広がった青へとゆだねた。
穏やかな昼下がり、聞こえる小鳥のさえずり、飛び交う蝶々、辺り一面の大草原。生い茂る草花の中、交わってしまった世界、天界<セレスティア>の平和を願い、探していたのは四つ葉のクローバー。風の妖精プチラウネは願いを風にのせ、芽吹いたばかりの新たな希望の緑へと、そっと、小さなその手を差し伸べた。
迷い込んだ森の中、抜け出せない迷路。心静かに、聞き耳を立てる。聞こえてくるのは草木や花々の声、届けられたその声は少女を出口へと誘う。迷いの森の出口に辿り着く頃には新しい姿で、アルラウネとして出て行けるように。緑に包まれた世界、僅かに差し込む木漏れ日は、少女を少し大人へと育ませた。
天界<セレスティア>の皆が楽しみにしていたのは、月に一度の光の大精霊のコンサート。乙女親衛隊は今日も警備に忙しい。光の妖精プチキューレは白い軍服に袖を通し、自らが仕える大精霊の安全の為に、その身を挺する。そして誰よりも近くで、その歌声を聴く為に、その光輝く力を分け与えてもらう為に。
親衛隊長へと昇進を果たし、その姿を変えたワルキューレ。これからも、命に代えても光の大精霊をお守りする、それが光の妖精の務めだからと言い放つ。だけど、それは果たして忠誠心か。いや、それは恋にも似た感情。彼女はその芽生えてしまった気持ちを、その気持ちの正体を、決して認めることはなかった。
そんなにひとりの夜が怖いのなら、私が一緒に眠ってあげる。月が照らす夜の狭間、窓が開けばそこには悪戯に笑う闇の妖精プチバスの姿が。浄化され、妖精になろうとも、忘れることのない、見る者全てを魅了する小悪魔な笑顔。彼女は悪魔か妖精か、その答えは一晩共に過ごせばわかるだろう、朝を迎える頃には。
もっと私を求めていいのよ、近づく唇、感じる吐息、香る色気、艶やかな髪、触れ合う肌、繋がれた小指、それは大人になったサキュバスの姿。気が付けば寝室へ、大人な夜を連れてくる。共に朝を迎えた者は皆、口を揃えたように言う、彼女は天使のふりした悪魔だと。だけど、その夜は、間違いなく天国だったと。
気が付いたら浮かんでいた。既に落としてしまった命にすら気付かずに。だけど無の妖精プチーストにとって、そんなことはどうでもよかった。ただ、最近気になることは、無くした足の行方。だけどそれも、空へ浮かび、ただ漂っていたら、どうでもよくなってしまった。自分が誰かなんて、そんなことに興味はない。
ふわふわ浮かび、揺れていた。このまま全て、忘れてしまう事が出来たらいいのに。気付けば頭に乗っていた黄色い輪、纏った羽衣、白いワンピース、それは少女が大人になり、ゴーストへと昇華したから。だけど彼女はそんなこと、どうでもよかった。黄色い輪に関してだけ言えば、少し可愛いと気にいっていたようだ。
燃える尻尾を持った魔界<ヘリスティア>の狐、コンコン。黒の森の狩人と呼ばれるほどの好奇心旺盛なその性格は、何人たりとも侵入を許さない。また、死した時には殺された者に憑き、末代までもその人生を狂わせ続ける。もしも手懐けさせることが出来た時、それは黒の森に住まう赤い王女への道標となる。
賑わう黒の森に立ちこめた煙。九つに割れた尻尾は悪しき炎を燃やした。クビギツネがもたらした幸福は赤の女王、魔界<ヘリスティア>を導く者の誕生。人間にとってその炎の力は紛れもない悪であり、そして履き違えた悪だった。役目を終えた黒の森の狩人が次に示した好奇心、それは約束された未来の行く末。
青に包まれた不思議の国、それは魔界<ヘリスティア>の一区画に出来たワンダーランド。氷のたてがみを持った狼、ワオンが遠吠えを上げた上弦の夜。それは侵入者を告げる合図。その声に導かれた狼達が集い、成した群れは侵入者を地の果てまでへと追い立てる。青の王女への謁見は、氷の世界を抜けた先に。
昼下がりのお茶会は終わり、夜を迎えたワンダーランド。昇った月を目指して上げた遠吠え、氷の狼の声が氷の世界に響き渡る。それは新たな青の女王の、新たなる戦いを知らせる合図。集いしは、開かれた扉への憎しみにも似た感情を抱いた悪魔達。それでもまだ足りない、ハティは再び、昇った月を追いかけ始めた。
光すら届かない眠れる森の張りつめた空気。風の体胴を持ったのは猪、周囲に警戒を促すブヒー。聞き慣れない足音、研ぎ澄ませた敏感な神経は大きなその体を隠した。いつまでも目覚めない緑の王女の、その眠りの妨げを取り除こうと鳴らす後ろ足。草木かき分け一直線へ、衝撃が揺らした命は音も立てず風に消える。
開かれた扉が変えた眠れる森の風向き。魔界<ヘリスティア>の風に吹かれた猪は一直線に、風を巻き込みながら迷うことなく走り続ける。なぎ倒される草木、産まれる獣道、ベヒモスの後ろには一本の道が続いていた。それは、目を覚ましたばかりの緑の女王が、自分の足で、迷うことなく歩いて行けるようにと。
ガラスの城、舞踏会の夜。光の体毛を持った番犬ガルルが示した高貴なる者だけへの服従。しつけられた狩猟本能が向けられたのは、招かれざる来場者。振られた尻尾、外された首輪、解き放たれた鎖、剥かれた牙は最上級のおもてなしへと。全ては華麗な夜のフィナーレを、黄の女王の、光輝く誕生を迎える為に。
迎えたフィナーレ、鳴り止んだ音楽と共にケルベロスは目を覚ました。そして上がった歓声、喜びを見せるのは3つの首の、3つの表情。使命を果たした番犬は、与えられた焼き菓子に尻尾を振った。わかりやすい程の服従心、それは新たな黄の女王のものとなり、共に戦う光の牙となる。もう、番犬を縛る鎖は必要ない。
魔界<ヘリスティア>に昇る月に見守られた竹林、紫色の空を飛び交う闇の羽を持った鴉、カァーカ。発達した知能は人間をも凌ぎ、光輝くもの全てをそのくちばしでついばみさる。ゆれる葉音に重なる羽音、交じり合う好戦的な高い鳴き声、その全てが鳴り止んだ時、紫の王女の詠みあげる悲鳴にも似た歌が聴こえる。
鳴り止んだ雑音、響き渡る歌、それは欠けた月が満ちた夜。鴉は紫の女王の歌に乗り、漆黒の翼で天高く踊り舞う。紫色の空へ羽ばたいたヤタガラスは、三本の足で、三つの世界の行方を追いかけた。光は一体どこにあるのか、輝きを好んだ闇の行方こそ、この交わった統合世界<ユナイティリア>を元へと戻す鍵を示す。
止むことを忘れ、いつまでも降り積もる雪、溶けることのない、白銀の世界。くねらせた長い体、遊ばせた舌先、悪戯に噛み付く牙、流れ出す毒は死への誘い。無の鱗を持った蛇、シュルルは待っていた。訪れない春を、行方をくらませた白の王女の帰りを。雪に埋もれた空白の時を動かす、新たな女王が産まれる日を。
満月の夜、降り続けた雪は止む事を思い出した。思い出させたのは没落した女王、そして帰ってきた白の王女。無の蛇、バジリスクは王女の軌跡を辿る。半分に持ちあげた体が撒き散らかせた毒と、既に撒き散らかされていた毒は混ざり合い、苦難の道を苦しみの道へと変えた。もう誰にも、その道を辿らせないようにと。
審判の日へと向け、世界評議会の指示により開発された世界で唯一のワンオフ機、自立兵器型ドライバ【サラマンダー】の出現は常界<テラスティア>を恐怖へと陥れた。どんな軍事兵器も凌ぐその圧倒的な破壊力が人々へ向けられたら。そしてその本当の力が、今はまだ制限されている事実に気付く者はごく僅かだった。
発動されたバーストモード、何者かに外されたリミッター。【サラマンダー:バースト】は自制を忘れ、全てを焼き尽くす。恐れていた事態、常界<テラスティア>への脅威へと成り代わった破壊力。最悪の事態こそ、黄昏の審判の始まりに過ぎなかったことに気付いたのは、神の悪戯を目撃出来た者だけだった。
水中戦に特化した第五世代のワンオフ機、自立兵器型ドライバ【リヴァイアサン】の開発には海洋生物学者までもが参加した。サメの遺伝子構造がプログラムされ、攻撃的な人工知能を持ち、最も補食に適したフォルムを有している。今はただ、その攻撃性能が常界<テラスティア>へと向かないよう、祈るばかり。
外されたリミッター、バーストモードの発動、暴走した【リヴァイアサン:バースト】はどこまでも深く潜り続ける。その目的地が魔界<ヘリスティア>であるとわかり、安堵をこぼす人間達と総攻撃を開始する悪魔達。始まろうとする黄昏の審判、それは統合世界<ユナイティリア>全てを巻き込んだ戦争となる。
自立兵器型ドライバ【ヨルムンガルド】が踏み鳴らす常界<テラスティア>の大地。量産型自立式ドライバ数千体に匹敵するとも言われる世界で唯一の機体は希望の象徴であり、また恐怖の対象にもなった。ゆっくりと、だけど確実に進み出す足、その行き先が、向かう先が、約束された未来ではないことを人々は願った。
その歩みを止めることのないリミッターが解除された【ヨルムンガルド:バースト】。発動されたバーストモード、希望の象徴は一瞬にして絶望の象徴へと成り代わり、辺りを巻き込み、被害を増やしながら、約束された未来へ向かい出した。始まろうとする黄昏の審判の影で笑う、悪戯な神の手のひらの上で。
その長い身体をくねらせて、空から地上を監視する自立兵器型ドライバ【ファーブニル】は、世界評議会に名を連ねた絶対的ボスが君臨する理想郷<アヴァロン>のすぐ側で待機していた。異常事態が起こればすぐ現場へと、送り届ける為に。ただ、この待機自体が既に異常事態だということに気付く者は少なかった。
急降下を始めた【ファーブニル:バースト】の背中に絶対的ボスの姿はなかった。悪戯に外されたリミッター、暴走した光の力は全てを浄化せんと魔界<ヘリスティア>へ。異常事態は常界<テラスティア>だけでなく、この統合世界<ユナイティリア>全土を巻き込んだ戦争へ。そう、全ては黄昏の審判の序章。
【ニーズヘッグ】は旧約聖書に刻まれた黄昏を生き延びたと言われる魔界の蛇の名を冠した唯一無二の自立兵器型ドライバ。全ては黄昏の審判へと向けて、審判の日を無事に乗り越える為に世界評議会により開発が進められた。何故ここまでの兵器を、その真意を知る者は監査会以外には現存しない。
各地で突如暴走を始めた自立兵器型ドライバと時を同じくして、解除されたリミッター、【ニーズヘッグ:バースト】は天界<セレスティア>へと羽ばたいた。解き放たれた闇の力に、恐怖に怯え、混乱する精霊達。発動されたバーストモードは人間だけでなく、統合世界<ユナイティリア>全ての脅威となった。
古来より無限の象徴である【ウロボロス】の名が与えられた自立兵器型ドライバ。名前に込められた想い、それが何を意味するのか、始まりがなければ、終わりも存在しない。破壊と再生の歴史を辿ってきた世界の行く末は、黄昏の審判による破壊の未来か、聖なる出口<ディバインゲート>による再生の未来か。
穏やかな天界<セレスティア>に突如として出現した脅威、リミッターの解除された【ウロボロス:バースト】が始める暴走。そして繰り返される破壊、いつかは訪れるであろう再生、発動されたバーストモードは無限の、終わりでも、始まりでもない、黄昏の審判の、終わりの始まりのトリガーとなった。
天界<セレスティア>の炎を司る大精霊、イフリート。この世界に存在する炎の起源<オリジン>であり、その体は炎により形成されている。交わってしまった世界に業を煮やし、短い気を更に短くさせていた彼女。怒りの炎を燃やし、辺りが深紅に染め上げられた頃、その茜色を頼りに、新たな力を求めた甲士が訪れる。
炎を灯した少年との出会いが彼女を変えた。起源<オリジン>である自分の起源を知るために訪れた火想郷<アルカディア>、彼女は炎精王へと生まれ変わる。種族を超えた出会い、炎と炎の共鳴<リンク>が燃やす熱い炎。全ては審判の日の為に、自分を変えてくれた少年が愛する常界<テラスティア>を守る為に。
水の起源<オリジン>であり、水を司る大精霊ウンディーネは波打ち際、ただひとり、潮風に長い髪をなびかせた。寄せては返す静かな波が連れ去り、少しずつ崩れていく砂の城。きっと全てが流れ去った頃、彼女の元を訪れるであろう刀士を心待ちにして。母なる青き海の、その波打ち際で、彼女は彼を待っている。
竜宮郷<ニライカナイ>へと、それは、水を留めた少年との出会いを経て。母なる青き海に包まれた孤島、水と水の共鳴<リンク>は、全てを洗い流すのではなく、全てを受け入れ、そして留める力となり、彼女を水精王へと生まれ変わらせた。彼と彼女は歩き出す、波にさらわれぬよう、砂浜にふたりの名前を残して。
風の起源<オリジン>であり、風を司る大精霊シルフは天界<セレスティア>では今日も風を巻き起こす。振り回す足、巻き起こる風が運ぶ様々な花の香。それは常界<テラスティア>の四季を知らせた。まだ若い棍士が起こした風は、噂となり彼女の元へ。心躍るがままに、新たな風を起こす存在を楽しみにしていた。
シルフは風を纏いし少女と共に蓬莱郷<ホウライ>へ、そこは冷たい風が吹きすさぶ天高き仙境。その全ての風を集め、そして止んだ風、風と風の共鳴<リンク>は新しい時代の風を生んだ。風精王へ生まれ変わったシルフは愛弟子と可愛がる少女を送り届けようと、その新しい時代の追い風になるよう、竜巻を起こした。
光輝く天界<セレスティア>のアイドル、光の大精霊ウィルオウィスプ。その歌声は聞くもの全ての心を明るくする。交わった世界に不安を感じる精霊達は皆、彼女の歌声を心の支えに、希望の笑顔を浮かべる。本当の笑顔を無くした剣士は、彼女の歌声で笑顔を取り戻せるのだろうか。彼女は剣士に届くように歌う。
自らの遺伝子を継いだ光を宿した少女の、その偽物の笑顔を輝かそうと、永遠郷<シャングリラ>へ。溢れた沢山の笑顔は皆、心からの喜びに満ちていた。辛いことがあれば泣けばいい、楽しい時だけ笑えばいい。光と光の共鳴<リンク>、取り戻した笑顔から溢れた光はウィルオウィスプを光精王へと生まれ変わらせた。
魔界<ヘリスティア>へと初めて堕ちた存在、闇を司る大精霊シャドウ。一度堕ちた存在だからこそ、闇の起源<オリジン>となり、そして産まれた闇の力。誰よりも深い悲しみを知る彼女は、皆が安らげるよう、安心して眠れるようにと、優しい夜を生みだした。その夜は、やがて訪れる堕ちた鎌士を癒せるのだろうか。
闇を包んだ少女を案じ、選んだのは自ら再び堕ちる道。かつて過した深い闇に包まれし死後郷<エリュシオン>、その中で行われた闇と闇の共鳴<リンク>は闇精王へと生まれ変わらせるのには十分だった。シャドウの生む夜を愛し、そしてその夜に包まれ眠る少女を見て、自分の産まれた本当の意味に気付かされた。
自分は何の為に産まれたのだろうか、産まれたことに意味はあるのだろうか、無の起源<オリジン>であり、無を司る大精霊でありながら、そのあまりにもはっきりしない存在理由に頭を悩ませていたゼロ。繰り返す自問自答、出ない答えと、出る疑問。ある仮説へ辿り着いた頃、その問いに相応しい斧士が訪れた。
無を好む少年と共に向かった地底郷<アガルタ>。そこには何も無かった。そう、自分の産まれたことに意味はなかった。無と無の共鳴<リンク>は繰り返される空白。そしてその空白が、選べる未来だと気付いた時、ゼロは無精王へと生まれ変わる。何者でもない彼女は、何者にでもなれる少年と共に、審判の日へと。
最も暑い地域と言われる火想郷<アルカディア>に生息する火の蛙、ヒノゲコー。精霊達の放つ炎を集め、オーブとして蓄える習性を持つが故、より多くの炎を蓄えているものが、優れたオスとして認められ、ハーレムを形成することが出来るが、オーブの熱さで舌を火傷してしまう為、優れたオスほど短命でもある。
綺麗な水辺でしか生息することの出来ない水の蛙、ミズゲコーは扉が開かれたことにより、自分達の棲家が汚れ始めて居ることに気付いた。僅かに残った綺麗な水をオーブに溜め込み、新たな居場所を求めて開始する移住。だけど、彼らはまだ知らない。もう今更、約束された汚れのない水辺なんてどこにも無いことを。
風の蛙、カゼゲコーは風を食べ、そしてオーブへと蓄える。高所に吹く強風を好んで食す為、彼等の食事は常に命懸け。気を抜けば崖の上から谷底へのダイブ。美味しい風を食べ、見事着地を成功する個体は2割程。残りの8割はそのまま風に煽られ、地面へと。それでも風を求め、今日も元気良く崖の上を跳ね回る。
良く晴れた日の午後、天界<セレスティア>の至る所で見かけるピカゲコー達の日向ぼっこ。光の蛙達は皆、光を湛えたオーブを大事そうに咥えていた。陽が一番高くなるのを合図に、蛙達は一斉にオーブを磨き始める。あのオーブが彼等にとって何を意味するのか、多くの学説が唱えられているが、真実は定かではない。
日陰を好み、繁殖を繰り返しては増殖し続ける闇の蛙、ヤミゲコー。その大きな口に咥えられた闇を集めたオーブは意味ありげだが、意外とそうでもない。僅かながらも蓄えられた闇の力は、冬を越える為、全ては冬眠の為、それは蛙ならではの習性。ただ、天界<セレスティア>に冬が訪れないことを知る由もない。
稀に何も無い空間から、ぴょこっと飛び出してくる無の蛙、ムゲコー。その生態は多くの謎に包まれており、何人もの学者が解明を試みたが、未だに何も分かっていない。最近、この蛙の目撃件数が急増しており、開かれた扉が原因であるとの説が学会で注目されているが、数千年に一度の繁殖期を迎えただけである。
何時の間にか民家に潜り込む赤い毛玉、ヒノモッフル。暑さを好み、勝手に暖房を高温へと変える習性がある為、人々から警戒されているが、その愛らしさに取り憑かれた愛好家達は、赤い毛玉が住みやすい様にと、夏でも暖房を絶やさずに棲みつくのを待ち構えている。だが、未だ飼育に成功したという例は無い。
ぷかぷか、水面を漂う毛玉、青いもふもふ、ミズモッフル。人間に対する恐怖心は無く、子供達と一緒に混じって水遊びをする姿が見かけられるが、尻尾に触れられることだけは嫌がり、無理やり触れようとすると、拗ねて巣に戻ってしまうという気難しい一面も有る。が、そもそも巣がどこにあるかは定かではない。
カサカサ、カサカサ、草原にうごめく影、緑色のもふもふ、カゼモッフル。常界<テラスティア>で目撃されるようになったのは扉が開かれてから。天界<セレスティア>からの使者なのか、魔界<ヘリスティア>からの使者なのか、それともただの毛玉なのか、正体不明の獣は尻尾をカジカジするだけだった。
天界<セレスティア>産まれの光のもふもふは、開かれた扉の奥から溢れ出す光に誘われ、常界<テラスティア>へと足を踏み入れた。都会の光の下に、もそもそと集まる金毛のピカモッフル。眩いほどの人工の光を浴び続けたもふもふ達は、異常な速度で増殖し始め、やがて周囲の人工的な光を食べ尽くしてしまった。
深夜の市街地に、大量に蠢く影。常界<テラスティア>へ突然放り出されたヤミモッフル達は困惑した。輝くネオン、煌めくビル群、いつまでも消えない灯り。この世界の夜は、もふもふ達にとっては明るすぎた。光を拒み、彷徨い歩くのはその身を隠せる死角を求めて。尻尾に刻まれた闇の刻印を抱きしめながら。
世界のほんの片隅から産まれた無のもふもふ、ムモッフル。その尾に輝く無の刻印を、虚ろな目で見つめ、大きな無に誘われるまま歩き出すが、その行動に意味は無く、何かを産み出すこともない。だけど、その無意味な行進を眺めていると、不思議と心が癒されると、一部の人間の間では流行の兆しを見せていた。
僅かな火さえあれば、それを動力源として活動することの出来るヒノロボタン。ドライバ開発より先行して実用化が期待されていたが、開発費の高騰により試作機段階で開発中止となってしまった。収集家達の間では、その機体の持つレトロな雰囲気が話題になり、オークションでは法外な値段で取引が行われている。
自らの意思を持ちながらも、自立型ドライバとは異なる独自の電子回路を持ったミズロボタン。確認された動力源は水、その事実には間違いもなく、また、いつの時代からか、気が付けば常界<テラスティア>に存在していた。タンクの水が消費し尽くされれば直ちに活動を停止し、修理を受け付ける工場も極僅か。
心地良い風が吹く丘で、畑を耕す小さな機械達。風を動力源として動くカゼロボタンは、農村において長い間重宝されていたが、風が止むと即座に停止してしまうことから、徐々に利用する地域は減ってきていた。ただし、その独自機構や、使われている部品には希少価値があり、近年、再び科学者達の注目を集めていた。
ドライバが開発される以前、光を動力源に動く機械として、世界で初めて開発されたのがピカロボタン。出力が安定しないため、実用化には至らなかったが、その画期的な動力機構は、現代科学の発展に大きく貢献した。今では入手困難な素材が使われていた為、新たなドライバの開発素材として再利用が検討されている。
暗い倉庫の中、数十年もの間、スリープ状態のまま格納されていたヤミロボタン。だけど、扉の向こうから漏れだす闇が、その動力炉を再び灯した。錆びた体を軋ませながら、彼等は動き出す。既に焼き切れた思考回路、受け付けない緊急停止コード。ただ闇に誘われるまま、何処かに向かい、ただ歩みを進めていた。
壊れた部品が寄せ集められ開発が進められたムロボタン。動く筈の無い機体を動かしているのは、有る筈の無い動力源。ちょっとした衝撃でバラバラになる程に脆い体は、周囲のガラクタを取り込んでは再び動き出す。この機体の仕組みが解明された時、人類の科学はまた新たな一歩を踏み出す、のかもしれない。
極東国<ジャポネシア>で大流行、女子高生から絶大なる人気を誇るヒノテルテル。窓に吊るせば雨は止み、鞄に吊るせば沈んだ気持ちを照らす太陽に。そんな都市伝説じみた噂も、扉が開くまでのこと。真夜中、目撃されたひとりでに踊り出す姿、迷信は真実へ。学校への持ち込みが禁止された時にはもう遅かった。
常界<テラスティア>の各地で局所的に降る雨、落ちる気象予報士の評判。雨天中止となった体育祭、笑みを浮かべるひとりの少年。その手に握りしめられたミズテルテル。彼は知っていた。この人形が、雨を呼び寄せる力を持つことを。だけど、彼は知らなかった。それが人形なんかではなく、悪魔だということを。
客足は既に遠のき、シャッター街と化していたとある商店街。だけどある日、街は驚くほど活気に満ち溢れた街へと生まれ変わった。一様に店先にカゼテルテルが吊るされた繁盛店。それは商売繁盛のおまじないとして。元来、この街には一つ難点があった。いつ来ても強い風が吹いていて、とても歩きにくかったのだ。
最近流行りのおまじない。ピカテルテルに想い人の名前を記し、三日三晩肌身離さず居れば、やがて想いが成就するという。どうせ迷信と思いつつも、試さずには居られない乙女心。けれど、くれぐれもおまじないを途中で止めてはいけない。気付いた時には遅かった三日目の夜。彼女は想い人を深く憎むこととなる。
最近流行りのおまじない。ヤミテルテルに恨み人の名前を記し、三日三晩肌身離さず居れば、やがて呪いが成就するという。どうせ迷信と思いつつも、試さずには居られない恨み心。けれど、くれぐれもおまじないを途中で止めてはいけない。気付いた時には遅かった三日目の夜。彼は恨み人と結ばれることとなる。
過去をやり直せるんだよ、そんな謳い文句で始まるおまじない。ムテルテルを窓辺に吊るしておくと、無かったことに出来る過去の失敗。瞬く間に広がる噂、街中に吊るされる無の人形。だけどある日、窓辺からその姿が一斉に消え、誰もこの噂を口にしなくなった。そう、まるで最初から何事も無かったかのように。
火山口付近でだけ採れる、一年中熱を湛えた特殊な綿を詰めて作られたヒノドラグルミ。そのぬいぐるみはとても暖かく、寒い冬の夜も抱いて寝ればぐっすり熟睡。だけど、素材となる綿が火山口付近でしか採れない為、ぬいぐるみの制作は文字通り命懸けであり、ぬいぐるみ職人達は後継者不足に頭を悩ませていた。
万年雪に咲く花から取れる種は、熱しても冷気を保ち続ける特性を持っていた。その種を綿代わりに詰めて作られたミズドラグルミはひんやり冷たく、熱帯夜でも心地よさを保つ優れものの安眠グッズとなり人気を博した。だけど近年、材料となる種の収穫量は落ち込んでおり、ぬいぐるみの価格は高騰し続けていた。
風船の様にフワフワと浮かぶのは、精霊が風を吹き込んだカゼドラグルミ。穏やかな風に運ばれ、どこかの子供の手に渡り、遊び相手として長い時を過ごし、やがて、子供が大きくなると、また別の子供の元へと、風に流され旅立っていく。その糸が綻び、中に詰められた風がなくなるまで、子供達に幸せを運び続ける。
精霊達が悪戯に作り出したのは、光を吹き込んだぬいぐるみ。その愛らしい姿はドラゴンへの憧れを込め、ひとつひとつ手作りで作られた。数多く存在するが、ひとつひとつ、縫い目や形が微妙に異なり、稀に存在する星の形の縫い目を持ったピカドラグルミは一部マニアの間で、非常に高価な金額で取引されている。
幼い闇の精霊達が見つけたのは、扉の向こうから転がり込んだドラゴンを模したぬいぐるみ。精霊達はその綿を抜き取り、代わりに闇を吹き込んだ。自我の芽生えたヤミドラグルミは、闇の息吹を吐き、自らを闇のドラゴンだと信じて疑わない。やがて大きく羽ばたくことを夢見るが、小さな羽が育つことはなかった。
100個限定で生産された、ムドラグルミ。生産完了後、問題が起きたのは出荷前の数量確認の時。何度数えても、ぬいぐるみが101個ある。そんなまさかと、再び数える。今度は102個ある。疲れてるんだと言い聞かせ、再度数え始めた矢先、目の前に広がる光景。数え切れない無数のぬいぐるみ達が蠢いていた。
積み重ねた実戦データが【ソードアーム】に与えた自信、引き起こされたのは予想出来ていたはずの偶発事故。その剣先は人間へと向けられた。止まることのない攻撃欲求、満たされることのない承認欲求、感じることの出来ない達成欲求。終わりのない成長を続ける自立型ドライバは、終わりのない剣を振い続けた。
どこからともなく飛んでくる無数の矢、それは銃弓から放たれた一筋の風。測定不能の戦力を前に、成長し続ける自立型ドライバは自らの意思で姿を変えた。炎のエレメンツコアが進化させた【ソードアーム:セカンド】に芽生えた求知欲求により、目覚めた解明欲求を満たす為、その剣先を風の始まりへと向けた。
エレメンツコア、それは第四世代自立型ドライバに搭載された新たな動力源。水の起源<オリジン>により産み出された純度の高い天界<セレスティア>の水は自立型ドライバに革新をもたらした。開発の軸とされた槍と共に持って生まれた騎士道精神、自らの意思で【ランスアーム】は常界<テラスティア>を駆け巡る。
信仰心、道徳心、浪漫心、常軌を逸した騎士道は聖暦の天才の為であり、絶対の忠誠はその体が朽ちようとも、消えることはなかった。銃槍に貫かれ、一度は停止した機能類。エレメンツコアが施す自動修復、再び4つの足で立ち上がったのは、窮地におかれてもなお抗うべく進化した【ランスアーム:セカンド】だった。
新たなる自立型ドライバの開発へと、天界<セレスティア>に住まう精霊達は捕獲の対象とされた。抽出された風の力、悲鳴が生んだのは新たな起動源、風のエレメンツコア。第四世代のお披露目も兼ねた【アローアーム】により行われたデモンストレーション、3キロメートル先に用意された的は簡単に打ち抜かれた。
繰り返される射撃訓練、回を重ねるごとに伸び続ける飛距離。伸び悩み始めたのは5キロメートル手前、越えることの出来ない距離。それでも繰り返し続けられた射撃訓練、2週間後、越えられなかった5キロメートルの壁を突き抜けたのは、自らの意思で進化をした【アローアーム:セカンド】の放った矢だった。
崩れ落ちた瓦礫の山を、悲劇の跡地を更地へと均す自立型ドライバ。光ある未来への第一歩。だけど、いくら瓦礫と化そうとも、それは皆が生まれ育った家、青春の笑顔をくれた校舎、生きる厳しさを教えてくれた会社、沢山の思い出が詰まった、大切な瓦礫の山。その全てを、表情もなく【アクスアーム】は粉砕した。
ただ業務的に、振り下ろされる大きな斧、そこに何の感情もなかった。第四世代自立型ドライバ最大の欠陥を呼び起こしたのは、崩れ去った故郷を前に、泣き止んだばかりの小さな少女が振り回した銃斧。【アクスアーム:セカンド】への進化、それは受け止めきれない想いの重さに耐えるため、初めて見せた自らの意思。
より実戦向きに開発された第四世代の自立型ドライバは全ての戦いを記録し、動力源とされるエレメンツコアに学習させた。鋭利な鎌を軸に開発された【サイズアーム】にとって、その鎌で刈り取った命の数はデータでしかなく、より豊富なデータを得るために、人間も精霊も悪魔も関係なく、命を刈り取り続けた。
刈り取った多くの命、蓄積されたデータ、エレメンツコアは自らを新たな姿、【サイズアーム:セカンド】へと進化させた。自立進化は第四世代の最大の特徴であり、最大の欠陥。意思を持ち、学び、そして成長するドライバ。刈り取られる命、開かれた扉により進化しすぎた科学は、悪魔と見分けがつかなくなっていた。
その両腕のドリルは地に穴を開ける為に、それとも分厚い壁を貫く為に、まさか天へと突き上げる為では、様々な憶測が生まれた無のエレメンツコアを動力源にと開発された自立型ドライバ【ドリルアーム】。無の力を動力源とした第三世代の自立型ドライバと同様に、開発経緯、行動理由、その全ては伏せられていた。
安易に生まれた憶測、その全てが答えだった。交わった3つの世界、その全てに、穴を開け、貫き、突き上げる。突如として開始された破壊行動と共に報告された姿、それは既に自ら【ドリルアーム:セカンド】へと進化を遂げた後の姿。そう、第四世代の開発された本当の理由が、求めてもいない形で解き明かされた。
カチ、カチ、カチ、カチ、静かな音を立てながら廻り続ける長い針。時計通りの世界は相も変わらず、退屈な未来へと幾つもの季節を巡らせる。この世界の行く末を、ただ退屈に傍観する彼女。でもそれは、ディバインゲートが開かれるまでのこと。【タイムレス】が知らせる世界の異変、クロノスは傍観を止めた。
幾億万と繰り返されてきた破壊と再生の歴史。その全てを傍観し続けてきたクロノスは、開かれた扉が変えた世界を、動き始めた新たな歴史を、傍観ではなく観測し始めた。【タイムレス・ワールド】と共に、遥か彼方の刻の狭間から観測する。それは決して約束されることのない、変わりはじめてしまった未来の行方。