そして少年は「炎」に出会った。真っ赤に燃える炎、それは幼き日からいつも傍に感じていた様な暖かさ。亡き父から譲り受けた甲型エレメンツドライバ【イグナイト】はアカネの右腕、左腕へと収まり、炎を灯す。開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>、交わった世界、運命の火蓋が今、切って落とされる。
「炎」を灯す者として、聖なる出口<ディバインゲート>を目指し、統合世界<ユナイティリア>を自らの拳で壊すことを決心したアカネ。新たな炎を灯し、【イグナイト:セカンド】へ進化を遂げるドライバ。父が託した意味、それが仕組まれた運命だとも知らずに、戦いへの熱い闘志を燃やし、反逆の狼煙をあげる。
火竜さえも凌駕した「炎」は火花を散し、ドライバは【イグナイト:サード】へと進化した。自ら上げた狼煙は災いの火種となり襲いかかる。それはこの統合世界を正常化する為に発足された「世界評議会」にアカネの良く知る「ある男」が選ばれた影響であり、約束された未来の存在と黄昏の審判に気付き始める。
仕組まれた運命、歩かされてきた道、立ち塞がる壁、見せつけられた力の差、消えかける心の灯火。哀傷のままに誘われたのは火想郷<アルカディア>。全てを受け入れ、そして再び炎を灯すアカネ。生まれ変わった相棒【イグナイト:ホムラ】と共に、今度は自らの意思で、自らの拳で、新たな戦いの狼煙をあげた。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちる雫は「水」となり流れ込んだ。さざ波を立てることすら嫌うアオトと共に、刀型エレメンツドライバ【ワダツミ】は静かに動き出す。開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>を見つけ、世界の交わりを止める為に。
数多の戦いを経て、【ワダツミ:弐式】へと進化を遂げたドライバ。それは「水」を留める者として、聖なる出口<ディバインゲート>を目指す者としての願いの表れ。ただ1つだけ、けれども大きな、彼を戸惑わせる一言、青い下級悪魔が言い残した「君の罪」という、その一言だけが今もアオトを苦しませている。
天界<セレスティア>にて、水を司る精霊の試練を突破したアオトは進化を遂げたドライバ【ワダツミ:参式】を握りしめ、虹の架かる青い空を見上げた。けれどまだ、彼の心に残る決して洗い流してしまうことの出来ない罪の意識。いつまでも止む事を知らない大粒の雨は今もまだ、空いた心にだけ降り注いでいた。
間近に迫る審判の日を前に、自分へのけじめを、親殺しの罪の償いをつける為、向かうのは常界<テラスティア>に浮かぶ孤島、竜宮郷<ニライカナイ>。本島へ戻って来たアオトの手に握られた双刀型ドライバ【ワダツミ:マブイ】。洗い流すのではなく、留めることを選択した瞳は晴れ空の様に澄み切っていた。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。小さな体で軽々しく振り回す棍型エレメンツドライバ【フォンシェン】が巻き起こす風が止んだ頃にはもう、既に嵐の前の静けさに終わりを告げ、開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>へ駆け出したミドリはいない。
聖なる出口<ディバインゲート>へ駆け出したミドリ。「風」を纏う者は風に乗り、風になる。進化したドライバ【アル:フォンシェン】は新たな風を生んだ。だけど彼女は怖かった、この風が止んでしまうことが。だから今はただ駆け抜ける、置き去りの昨日に、諦めた夢を忘れる為に。例え、向かい風が吹こうとも。
大きな風を巻き起こす新たなドライバ【サン:フォンシェン】を手に、ひとり先に常界<テラスティア>へと向かったミドリ。そう、気付いてしまった約束された未来を変える為、誰よりも早く駆け出した。けれどその想いは焦りとなり、浮き足立つ心。地に足をつけることを忘れた彼女の前に、静けさの後の嵐が訪れる。
天高く聳える仙境、蓬莱郷<ホウライ>で流す汗。誰よりも早く駆けることが出来ていたら。風を止め、汗と共に流した悔し涙。やがて、風精王が起こした竜巻に乗り、皆の前に現れたミドリ。風と遊び舞い踊る竜が如く、生まれ変わった【フォンシェン:カグラ】を元気いっぱい振り回した少女は今、再び駆け出した。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女は「光」を宿していた。両手で持つのも大変な大きな剣型ドライバ【リュミエール】の剣先は開かれた扉から溢れた光を指し示す。ヒカリを導く様に、決してその笑顔を曇らせない為に。
格別な「光」の資質を見せるヒカリ。その宿した光を「あの方の様」と言い表した光の精霊との出会いを経て、進化を遂げた【リュミエール:ドゥ】は天界<セレスティア>を指し示した。戸惑いながらも今はただ、光が指し示す方へ。それが本当の自分と、知りたくない真実と、向き合う事になると気が付きながら。
光を司る精霊は告げる、お帰りなさい、と。それはヒカリが混種族<ネクスト>であると共に、皆とは異なる本当の人間ではないという証明。気付いていた真実、用意していた笑顔、新たなドライバ【リュミエール:トロワ】を手に笑ってみせる。だけどそれは、自分の為じゃなく、皆の笑顔を曇らせたくはなかったから。
訪れたのは天界<セレスティア>に浮かぶ、誰もが光溢れる笑顔をこぼす永遠郷<シャングリラ>。本当の笑顔を、その意味を探す為に。生まれ変わったドライバ【リュミエール:ナユタ】と共に、誰かの為じゃなく、自分の為の笑顔を浮かべるヒカリ。けれど、それでもその笑顔は、審判の日を前にした皆を笑顔にした。
少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。夜を、闇を愛するユカリと呼応するかの様に現れた鋭い刃を持つ鎌型ドライバ【アビス】を手にした時、浮かび上がるのは闇夜を切り裂きながら進む死神の姿。それは小さな死神、か細い死神、だけど間違いようのない、死神の姿。
【アビス:セカンド】を振りかざし、聖なる出口<ディバインゲート>へと闇雲に道を切り裂く。それは「闇」を包む者としてではなく、探し物を見つける為に。幼き日の僅かに残された記憶、闇に包まれた世界。その正体が知りたかった。真実へ近づき始めた頃、ユカリの足元に導かれたように闇猫が寄り添った。
闇を司る精霊はユカリを優しく包み込み、探していた過去に触れた。私と同じ匂いがする、と。それは喜ばしくも、悲しくも、堕ちた者への烙印。小さな死神は【アビス:サード】を掲げ、魔界<ヘリスティア>へ反旗を翻す。闇へと堕ちる悲劇の連鎖を止める為に。だけどまだ、彼女は憎しみの闇に捕われたままだった。
魔界<ヘリスティア>の外れ、闇夜に浮かび上がる死後郷<エリュシオン>。向き合う心の闇、抱いた憎しみ、無くした過去を問う。捕われた闇を包み込めた時、ドライバは【アビス:オロチ】へと生まれ変わる。今もまだ「闇」を包む者として審判の日へ向かう。だけどユカリは、抱いた闇こそ人間らしいと愛せていた。
やりたいこともない、夢なんてない、将来なんてどうでもいい。少年はいつも無関心。そしてそんな「無」を好んだ。斧型ドライバ【ヤシャヒメ】を振り回し、力こそが正義だと、力だけを信じた。自分さえよければ他はどうでもいい、全てに無関心なその刃は、残酷なまでに、自分以外の全てをこなごなに粉砕する。
力を増した【ヤシャヒメ:弐式】を手に暴れ倒す。全てを、交わった世界を無に帰す為に。このまま全て、無くなってしまえばいい。手にした「無」の力に酔いしれるがまま破壊を繰り返すギンジ。それが、その力が生まれた理由であるかの様に。無を求めるが故の、無による衝動は、全てを無に帰すまで終わらない。
我は想ふ、無とはこの世の理なり。我は問う、果たしてそれが真実か。無の起源<オリジン>でありながら、自分の出生すら知らない無を司る精霊に諭されるが如く、無の持つ意味に疑問を感じるギンジ。全てを無に帰すという黄昏の審判の真意を見極めに、【ヤシャヒメ:参式】と共に常界<テラスティア>へと。
無の生まれた真実を求め、地底郷<アガルタ>へ。他の5つとは異なる力、自分に与えられた力のみが持つ真実を。全てを知ったギンジは生まれ変わった【ヤシャヒメ:ミヤビ】を携え、皆と同じ道を歩み出す。それは、交わったこの統合世界<ユナイティリア>の、交わってしまった、という事象を「無」に帰す為に。
産まれたてのドラゴンが吐いた炎が村を一つ焼き尽くした。そんな伝承は昔の昔。進化した科学、化石修復、DNAの塩基配列分析、適合母体による遺伝操作。そして再び、炎の中から産声を上げた統合世界<ユナイティリア>の産物、ドラゴン。それは誰が何の為に。レヴァは何も知らず、今日も夢中に火を吐いた。
産み出されたドラゴンは炎を食べた。その事象すらも、交わった世界による産物として受け入れ始めた頃、ドラゴンは進化を遂げた。レーヴァンは産声と共に炎を吐き出す。研究所の一室をわずか数秒で灰にする程の、以前とは比べ物にならない熱量を誇る赤い炎。常界<テラスティア>にドラゴンが君臨する日は近い。
炎と炎の共鳴<リンク>は更なる姿、レーヴァティンへと。吐き出された炎は刃となり、人々へ襲いかかる。偶然にもドラゴンが産み落とされた統合世界<ユナイティリア>で生きていくには少し大きくなりすぎた体。そして現れる、その持て余した力を解放する者。約束された未来に、君臨するのは人間かドラゴンか。
ドラゴンの力はやがて、解放せし者に握られる。それこそが炎のドラゴン【レーヴァティン】がこの統合世界<ユナイティリア>に産み落とされた理由。裏切りの刃は神々の悪戯に向けられるのか、約束された未来を壊す為に向けられるのか。今はただ、審判の日へ、その姿を変えながら、灼熱の炎を燃やし続けた。
深海に眠るロマン、海にはまだ誰も目にしたことのない、新種の生物が沢山生息している。ただ、近年危険種として指定された深海の生物、たてがみの様な背びれ、発達した腕に鋭い牙と爪、フロスと名付けられた生物。それは魚類でも哺乳類でもなく、交わった統合世界<ユナイティリア>が産んだドラゴンだった。
最初に発見された深海よりもさらに深い海、優雅に泳いでみせるフロスト。研究の結果によりわかったことは、水のドラゴンの進化を遂げた姿だということ。母なる海の底、水に包まれたドラゴンは力を増した。その力は津波となり、決壊する防波堤。海岸沿いに暮らす人間は皆、この時ドラゴンの恐ろしさを知った。
新たなる姿への進化、それは水と水の共鳴<リンク>がもたらした事象。大海原の支配者として君臨したドラゴンは、神のみぞ起こせる天災を引き起こした。それは何者かに解放された力。水のドラゴン、フロッティはその力を発揮させてはなるまいと、再び深い海の底へ、深海よりも深い海へと帰っていった。
進化を遂げた深海の刃【フロッティ】の共鳴<リンク>は母なる海そのものへと。清らかな水の流れが、激しい海流へと飲み込まれると共に地上へ見せた姿、それは自然を生きる生物としてではなく、戦う為に生まれたかの様な姿。その獰猛な姿は、他のドラゴン同様、解放せし者の訪れと最悪の展開を予感させた。
昔はこの空を恐竜が、空を見上げ呟く科学者。「あの鳥」のような姿なのか、東の空を飛ぶ「あの鳥」を目で追いかける。第一発見の声、「あの鳥」はまるで恐竜の様な姿だった。開かれた扉、交わった統合世界<ユナイティリア>が産んだドラゴン、空を自由に飛び回る「あの鳥」ミストの捕獲計画が動き出した。
再び発見された自由に空を翔るドラゴン、その姿はかつての姿を上回る大きさへと成長していた。ミスティルと名付けられたドラゴンは、気持ち良さそうに風を切る。邪魔するものなど何一つない、広がる空に起こした風。その小さな風は、やがて大きな風へと、そして集まる風、気が付いた頃、既に竜巻は生まれていた。
天空の覇者、ミスティルテイン。解放された力が巻き起こす無数の竜巻。風と風の共鳴<リンク>は、交わった世界の偶然の産物であるドラゴンを、ここまで大きく育ませた。これは誰のせいでもない、全て神の悪戯だと、人間は研究することを止め、常界<テラスティア>の空は、風のドラゴンの狩り場と化した。
優雅に空を飛びまわる天空の覇者。そこが、この空が、自分の居場所だと、それが当たり前のことだと主張するかの様に。やがて飛びつかれた【ミスティルテイン】が求めたのは宿り木、それは解放せし者の腕。羽を休める場所を見つけた時、ドラゴンはその姿を更なる姿へと、本来の姿である風の刃へと変える。
長く伸びた首を、水たまりへと下し、乾いた喉を潤わせる。それは動物園でもよく見なれた光景。ただひとつだけ、その光景と違っていたこと、それはキリンではなくドラゴンだった。綺麗なたてがみに鳥の様な大きな翼、そして大きな蹄。グーンの現れと共に差す後光、幸福をもたらすドラゴンが産まれた。
幸福をもたらすドラゴンの成長に、歓喜する人々。常界<テラスティア>に災いをもたらすことのない光のドラゴンは、グングの名で呼ばれた。時おり見上げる空はいつも決まって曇り空。降り出した雨、雲の隙間に僅かな光。音より先に届いた光は、光のドラゴンの成長した力。落ち始めた雷は、もう後光ではなかった。
荒れ狂った空、解放される力、天災を呼んだドラゴン、グングニル。それは光と光の共鳴<リンク>がもたらした新しい姿と力。明日世界が終わるのかも知れない、そう錯覚させる程の強い光の連続。遅れた音が届き終わった頃、割れた雲間から差し込む日差しを浴びて、羽ばたかせた大きな翼、北の空へと姿を消した。
絶対勝利、それは光の刃【グングニル】に与えられた二つ名。帰還率100%のドラゴンがその重い身体を空へと投げた時、標的とされた者は終わりを知る。ドラゴンにより次々と崩落を迎える都市、その都市全ては黄昏の審判への抵抗を表明していた。何者かが力を解放し、約束された未来の訪れを望んでいた。
とある村では、満月の夜が訪れる度に、神の使いと崇められているドラゴンへと特産品のブドウを献上していた。しかし、ドラゴンなど現れる訳もなく、それは月に一度の祭り行事として村人の楽しみと化していた。祭りの後、献上品を回収しに赴いた祭壇、そこには美味しそうにブドウを頬張るダーンの姿があった。
とある村ですくすくと育つ闇のドラゴンは、ブドウ以外は口にしなかった。それなのに段々と大きさを増していくその体。とある村人がある時気付いた異変。そう、徐々に短くなっていった夜の時間。夜を、闇を食べ終えたドラゴンが遂げた成長、変わる姿。ダーインへの進化と引き換えに、とある村は夜を失った。
夜を食べたドラゴンは、次に夜を産み出した。暗闇に覆われ始めた常界<テラスティア>に明けない夜が訪れる。闇と闇の共鳴<リンク>はより強い闇となり、そして闇のドラゴンを第三の姿、ダインスレイヴへ。解放された力が収まった頃、明け始める夜、昇り始める太陽。既にドラゴンの姿はそこにはなかった。
夜を食べ、そして夜を生む、それは悪意に満ちた世界。呪われし闇の刃【ダインスレイヴ】は次に世界中の闇を食べ始めた。その勢いは、まるでこの世界の闇を、全てを食べ尽くすまで、止まることを知らない。何の為に闇を食べるのか、それはその食べ尽くされた闇の力が解放された時、知らしめられることとなる。
進められていた湾岸沿いの埋め立て工事。網目上に組まれた鉄骨に、次々と流し込まれる強化コンクリート。順調に進んでいた建設は、ある日を境に途絶えた。埋立中の地面から這い出す一体の姿。雄叫びを上げたのは、無から生まれたドラゴン。そして次々とコンクリートから這い出す、無数のティルの姿が発見された。
無から生まれたドラゴンが、気が付けば食べ尽くしていたのは埋立地。ぽっかりと空いた穴に取り残されたのは姿を変えた新たな無のドラゴン、ティルファ。早すぎた成長は辺りに何も残さず、ただ衝撃だけを残した。崩れだす地盤、僅かとはいえ沈みだした常界<テラスティア>はドラゴンを無に帰す為に動き出した。
無のドラゴン、ティルファング。何一つ無い場所で、誰も知らない間に起きた無と無の共鳴<リンク>が引き起こした進化。そこには初めから何も無かったのか、それともドラゴンが無に帰したのか、知る者はいない。いや、知る者すらも無に帰されたのか。初めて無の恐ろしさを知った時には、その姿は無に帰していた。
生きる理由も、生きる意味も、何も持たない無のドラゴンが望んでいたのは、悪しき3つの願い。その全ては無の刃【ティルファング】の力を手にした「解放せし者」により叶えられようとしていた。解放せし者すらも叶えた際には無に帰すと言われるその3つの悪意は、統合された3つの世界へと、それぞれ向けられた。
魔界<ヘリスティア>に生まれた炎、僅かながらも芽生えたのは自我。小さくとも持って生まれた悪意は、開かれた扉により常界<テラスティア>では事故の火種へと。無数のアカリウムが集まり、共に燃やす炎、そんな時こそ出番の消火器。例え悪魔であろうと、最下級の力が及ぼせる影響範囲は決して広くはなかった。
無数のアカリウムが集まり、そして共に魂を燃やした炎から生まれた新たな生命、フレイリウム。一回り大きくなろうとも、自我は少なく、ただただ燃えている。常界<テラスティア>で増え始めた小火に山火事、僅かではあるが、下級であろうと、交わった世界による悪魔が及ぼす影響範囲は次第に広がり始めていた。
悪意に満ちた水滴、アオリウム。それは魔界<ヘリスティア>に降る雨粒に吹き込まれた生命。交わった世界は小さな悪魔を常界<テラスティア>へ招き入れた。地面に出来た水たまり、汚れた手を流す洗面台、食器を洗うキッチン、疲れた体を温めるバスルーム、あらゆる水場に潜む下級悪魔が行き着く先は、母なる海。
母なる海へと流された無数のアオリウムは、魔界<ヘリスティア>とは異なる独自の進化を遂げた。小さなクジラと並び、気持ちよさそうに大海原を泳ぐウォタリウムの群れ。見よう見まねで行う潮吹き、それが自らの体を消費する自滅行為であろうと構わない。自由を手にした下級悪魔は、母なる海にその命をゆだねた。
魔界<ヘリスティア>の瘴気、吹きすさぶ幾つもの風、そんな重なりあう悪しき風が産み出したミドリウム。扉が開かれたことにより、毒素を含んだその体は、緩やかな風に運ばれて常界<テラスティア>へと辿りついた。どこまでも広がる空、時折吹きつけるつむじ風、気が付けば、どこまでも遠くへ運ばれていた。
午前0時36分、地上の遥か彼方、上空を飛ぶ大型旅客機が異常気象を観測した。上空に浮かぶ緑色の雲、常界<テラスティア>の大気と混ざり合い、発生した大量のウィンドリウム。上空を、視界を、緑色で閉ざすだけの、害を与えることのない存在。ただ空を漂うだけ、だけどそれでも、紛れもない異常気象。
開かれた扉が生んだ、小さな矛盾。天界<セレスティア>へと迷い込んだ下級悪魔の群れ。その多くが降り注ぐ光の眩さに耐え切れず死滅してしまう中、浄化されたまま生き長らえ、その光に適応した個体、ピカリウム。悪魔の体に宿ってしまった光の心。この小さな矛盾は、統合世界<ユナイティリア>の小さな光。
眩い光を浴び続け、その頭上に光輝く大きな輪を浮かべたシャイリウム。それは悪魔の体でありながら、天界<セレスティア>で生き抜く為に適応し続けたピカリウムの新たな姿。だけど、限りなく精霊に近い悪魔。少しずつ、確実に大きくなり始めた小さな矛盾がもたらすのは、光輝く未来か悪しき闇の未来か。
狂気、絶望、虚脱、悪しき感情が渦巻いた魔界<ヘリスティア>の奥深く、数多の悪魔が生み堕とされる揺り籠から、今日も新たな産声が聞こえた。まだ歯も生えていない下級悪魔、ヤミリウムが触れた魔界の空気、初めて上げた小さな歓喜。泣き疲れた幼い悪魔は、やがて大きな闇になることを夢見て眠りについた。
交わった3つの世界が交わらせた3つの闇、集まった多くの闇をその体に受け、膨れ上がった小さな体のヤミリウムは、闇の塊ダクリウムへと成長を遂げた。受け止め続けた闇、支配されてしまった感情、ナイーブな心、自らの存在を、悪魔ではなく雑菌扱いする常界<テラスティア>への復讐を、世界征服を夢見ていた。
無が形を成し、無が命を持ち始める。だけど、生まれた意味も、理由も持たない、ただ空白を、隙間を埋める為だけの存在であるかのような悪魔、ムリウム。常界<テラスティア>の様々な場所に存在する排水溝、壁の隙間、覗き穴、もしそれが急に塞がれた時、それは存在理由を見つけた無の下級悪魔が挟まっている。
生まれ続けた小さな無、結合され、大きくなろうとも、それは大きな無でしかなかった。ムムリウムの誕生に意味はなく、また理由もなかった。存在するだけの存在。ただ、無意味な存在は、存在するだけで他者へと影響を与え、そこに意味が生まれた。認識され始めた無の意味の、本当の意味はまだ、定かではない。
ひのぽっくる は ほのおのこ ひのぽっくる は かじおこす ひのぽっくる に ひのようじん わるいこ どこのこ ひのぽっくる ひのぽっくる は ほのおのこ ひのぽっくる は やけどする ひのぽっくる に ひのようじん わるいこ どこのこ ひのぽっくる (ぽっくる民謡 第一節より抜粋)
メーラメラメラ ボボボボボ メーラメラメラ ボボボボボ おいらのなまえをしってるか おいらにふれるとやけどする メーラメラメラ ボボボボボ メーラメラメラ ボボボボボ おいらのなまえをいってみろ おまえのこころにひをつける おいらのなまえはヒノポックルン (ポックルンのうた 一番より抜粋)
みずぽっくる は おみずのこ みずぽっくる は なみおこす みずぽっくる に みずようじん わるいこ どこのこ みずぽっくる みずぽっくる は おみずのこ みずぽっくる は あめふらす みずぽっくる に みずようじん わるいこ どこのこ みずぽっくる (ぽっくる民謡 第二節より抜粋)
ピーチピチピチ ピチチチチ ピーチピチピチ ピチチチチ おいらのなまえをしってるか おいらのおうちはみずたまり ピーチピチピチ ピチチチチ ピーチピチピチ ピチチチチ おいらのなまえをいってみろ おふろだいすききれいずき おいらのなまえはミズポックルン (ポックルンのうた 二番より抜粋)
かぜぽっくる は おかぜのこ かぜぽっくる は かぜおこす かぜぽっくる に かぜようじん わるいこ どこのこ かぜぽっくる かぜぽっくる は おかぜのこ かぜぽっくる は ふきとばす かぜぽっくる に かぜようじん わるいこ どこのこ かぜぽっくる (ぽっくる民謡 第三節より抜粋)
フールリルルル ルリルルル フールリルルル ルリルルル おいらのなまえをしってるか なんでもかんでもふきとばす フールリルルル ルリルルル フールリルルル ルリルルル おいらのなまえをいってみろ かぜにさらわれどこまでも おいらのなまえはカゼポックルン (ポックルンのうた 三番より抜粋)
ぴかぽっくる は ひかりのこ ぴかぽっくる は ひかりだす ぴかぽっくる に ぴかようじん いいこは どこのこ ぴかぽっくる ぴかぽっくる は ひかりのこ ぴかぽっくる は かがやくの ぴかぽっくる に ぴかようじん いいこは どこのこ ぴかぽっくる (ぽっくる民謡 第四節より抜粋)
ピーカピカピカ ピカピカリ ピーカピカピカ ピカピカリ あたしのなまえをしってるか あたしはかがやくあいどるよ ピーカピカピカ ピカピカリ ピーカピカピカ ピカピカリ あたしのなまえをいってみろ あたしはあなたのあいどるよ あたしのなまえはピカポックルン (ポックルンのうた 四番より抜粋)
やみぽっくる は おやみのこ やみぽっくる は でんきけす やみぽっくる に やみようじん わるいこ どこのこ やみぽっくる やみぽっくる は おやみのこ やみぽっくる は よるにする やみぽっくる に やみようじん わるいこ どこのこ やみぽっくる (ぽっくる民謡 第五節より抜粋)
ヤーミヤミヤミ ヤミミミミ ヤーミヤミヤミ ヤミミミミ おれのなまえをしってるか おれのこころはいつもやみ ヤーミヤミヤミ ヤミミミミ ヤーミヤミヤミ ヤミミミミ おれのなまえをいってみろ おまえのやみにつけこむぜ おれのなまえはヤミポックルン (ポックルンのうた 五番より抜粋)
ころぽっくる は おころのこ ころぽっくる は ころころと ころぽっくる に ころようじん ころころ どこのこ ころぽっくる ころぽっくる は おころのこ ころぽっくる は ころころり ころぽっくる に ころようじん ころころ どこのこ ころぽっくる (ぽっくる民謡 第六節より抜粋)
コーロコロコロ コロコロリ コーロコロコロ コロコロリ ぼくのなまえをしってるの なにもないのがとりえだよ コーロコロコロ コロコロリ コーロコロコロ コロコロリ ぼくのなまえをいってみて なにもないけどなんかよう ぼくのなまえはコロポックルン (ポックルンのうた 六番より抜粋)
開かれた扉は子猫の居場所すらをも奪った。寒さに凍え、今にも倒れそうな迷子の子猫が最後の力を振り絞り、辿りついたのは暖かな炎の社、天界<セレスティア>の炎を司る精霊の通り道。消えゆく命に注がれた炎、目覚めた深紅の瞳に、真紅の毛皮。炎の子猫、キャット・ヒーは自らを救った炎を探し求め歩き出した。
辿り着いたいつかの炎、だけどそれは似て非なる炎、天界<セレスティア>に灯された炎を司る精霊が産み出した多くの炎。そして、今まで感じたことのない温かさ。ケット・ヒーへの進化の炎となり注ぎ込まれた炎と炎の共鳴<リンク>、いつかの炎を再び目指し、炎の聖地、火想郷<アルカディア>へと足を向けた。
ただ、大好きな魚が食べたいだけだった。お腹を空かせた子猫が覗き込んだ水面、映し出された顔、泳ぎ回る魚、伸ばした前足、滑らせた後ろ足。沈む体、薄れゆく意識、好奇心が猫を殺した。殺したはずだった。自由に水面を泳ぎ回る猫、キャット・スィーは大好きな魚と、新しい身体で楽しそうに戯れていた。
生き長らえた水の猫は、毛繕い代わりに水を浴びた。昨日は西の川で舌鼓、今日は南の海へ潮干狩り、明日は北の湖の珍味を求めて、呑気な猫は水を泳ぎ食に溺れ、気が付けばケット・スィーへと進化を遂げた。開かれた扉がもたらした、新たな美味だけに示された興味、まだ見ぬ逸品を求め、今日も荒波を越えていく。
僕も自由に飛びたいな、夢見る子猫は浮かぶ雲を見上げ願った。無垢で無謀な挑戦、決行は強い風の吹いた日、恐る恐る空へと踏み出した前足。ふわり、浮いたその体、直後、叩きつけられた小さな体。けれど決して諦めない、いつかあの雲と友達になる日まで。風が叶えた無垢なる願い、キャット・フーは産まれた。
叶った願い、新しい友達、その尻尾はその身体と共に風に運ばれて、天高く広がった空をふわふわり、呑気に漂う風の猫。大きさを増した雲を模した尻尾はケット・フーへの進化の証。交わった世界の風向きがいくら変わろうと、空の匂いが変わろうとも、ふわふわり、ただそこに風が吹いてさえいればよかった。
光の精霊達の笑顔こぼれる永遠郷<シャングリラ>に聳え立った宮殿、陽光降り注ぐその庭で、寄り添った子猫達が漏らした金色のあくび。その寵愛は幸運の象徴故に、放たれるのは闇さえも照らす光。降り立った常界<テラスティア>を所狭しと駆け回るキャット・ピーは、開かれた扉に怯えた皆に幸せを振りまいた。
沢山の愛を受け続けた光の猫の末路、ふくよかに育ったその身体は幸せの証。ケット・ピーは重くなった身体を人間にあずけた。自分の意志とは関係なく、撫でられ、抱きかかえられようとも動じることはない。自らに触れるもの全てが幸せになってくれればそれでいい、達観した視線はその先の光だけを見つめていた。
闇の匂いに導かれ、辿り着いた小さな死神。闇の子猫が寄り添うのは自分と同じ匂いの主、それはやっと見つけた安らげる場所。受け入れざるをえなかった闇の力、キャット・ミーは怖かった。だけどもう、大丈夫。差し出されたミルク、暖かい毛布、触れられる優しさ、堕ちたのは、自分だけじゃないとわかったから。
優しさをくれた主の側に、いつまでも寄り添っていられたらどんなに幸せか。堕ちた猫が願った唯一の、普通すぎる小さな願い。だけどそんな、小さな願いの邪魔をする受け入れ続けた闇の力。拒絶された天界<セレスティア>への道、遠ざかるのは安らげる場所、ケット・ミーは、叶わない願いの果てに、再び堕ちた。
常界<テラスティア>で自由に暮らす子猫にさえ影響を与えた交わった世界。どこへ行くでもなく、何をするでもなく、誰かに懐くこともなく、無を受け入れたその姿は変化を遂げたキャット・ムー。その首輪に意味は無く、皆に忘れられた路地裏で、隠した爪を研ぎながら、ただただニャーオと鳴き声をあげた。
受け入れ続けた無の力、誰も通らない路地裏の隅で、鳴き声をあげるケット・ムー。主人のいない猫は、外されることのない首輪を嫌う。無の力に取り込まれつつある心、もはや悪魔と見分けがつかない体、だけど自由に暮らす猫にとって、そんなことに興味は無い。研いだ爪を隠しながら、ただただニャーオと鳴き叫ぶ。
59回、それは第三世代自立型ドライバ【フィアトロン】の起動実験の数。動力源に悪しき炎を利用した実験は成功した。直後、機体を中心として発生した大規模爆発、炎に包まれた研究施設。凍結された計画、封鎖された施設、動力源に関する詳細な情報は伏せられた。そう、実験は失敗という嘘の真実を残して。
封鎖されていたはずの施設から漏れ出した橙色の明かりは燃える炎。その炎が溶かした計画の凍結。更なる強化が施され、牢獄を模した【フィアトロン:ツヴァイ】は開発された。その檻に囚われたのは、科学者が燃やした飽くなき探求心。全てを超越した動力源に魅せられて、願っていたはずの平和は忘れ去られた。
人間の過失、悪魔の所業、精霊の悪戯、あらゆる火種から発生する火災。街中に配備された自立型ドライバ【ウォタトロン】はいち早く現場へ急行し、消火作業を遂行する。扉が開かれたその日から、増え続ける火災の件数は消しきることの出来なかった争いの火種。もう、水だけで解決出来ることはなくなっていた。
増え続ける火災、その火種を消すために強化された自立型ドライバ【ウォタトロン:ツヴァイ】は追加の製造を中止された。裏社会で行われていた取引、戦闘兵器としての利用価値、動いてしまった不透明な外貨、自らがなってしまった争いの火種。そして、聖暦の天才の元へ舞い込んだのは、次なる世代の開発資金。
風の力を動力源へ変え、自立型ドライバ【ウィンドロン】が上げた悲鳴、響き渡るサイレンは風に乗り、遠く離れた街まで届く。危険と隣り合わせの日常、起き続ける事故、守るべきはずの人間が上げた悲鳴、膨れ上がる自立型ドライバへの不信感。音も無く崩れさろうとする日常、そこには不穏な風が吹きつけていた。
第三世代の自立型ドライバ【ウィンドロン:ツヴァイ】、交わった世界は科学までをも急激に進化させた。だけど、その技術は全て開かれた扉がもたらしたもの。そう、人類の進歩でさえも約束された未来に。次第に科学者達は抗うことを止め、手を休め始める。ただ6人の、「聖暦の天才」と呼ばれた科学者達を除いて。
怖いよ、暗いよ、痛いよ、みんなどこにいるの。明りを失くした夜、被災地にもたらされた僅かな光、自立型ドライバ【ライトロン】が発した光は多くを失くしてしまった人間の希望。だけどまだ、明けない夜。だけどそれは、明けて欲しくない夜。目の前の現実を、その悲劇の跡地を、浮かび上がらせる光は拒まれた。
絶望の光と忌み嫌われた光。進化した自立型ドライバが姿を見せるのは、決まって明りを失くした夜。辺りを照らす光は、自らが正義だと言わんばかりの眩しさ。そして、いつも悲劇の夜を終えた被災地に昇る太陽が最初に照らし出したのは、汚れひとつ見当たらない【ライトロン:ツヴァイ】の無傷な姿だった。
辿り着いたひとつの答え、負の感情により闇の力は増幅する。それはひとりの天才が行なった実験の結果。新たな発見に物議をかもしだす世間。ニュースが知らせる多数の行方不明者、研究所付近で見つかった身元不明の無数の抜け殻。その全ては闇の力を動力源とした自立型ドライバ【ダクトロン】の開発の礎となった。
繰り返された闇の力の増幅、強化の施された【ダクトロン:ツヴァイ】は罪のない人間の命を奪った。負の感情により増幅される闇の力、それは正しくも間違った答え。一時的に増した闇の力は制御出来ず暴走し、闇に魅入られ、そして収縮する。繰り返された罪、それこそが、辿り着いたひとつの、本当の答えだった。
各地で目撃された所属不明の自立型ドライバ【ノントロン】。その開発経緯は不明であり、行動理由も不明である。唯一判明した開発コードでさえも、存在しないことを示す「ノーン」が与えられていた。人畜無害な機体でありながら、稀にとる攻撃態勢は決まって、約束された未来を壊そうとする者達へ向けられた。
少しだけ判明したその存在理由、それはこの統合世界<ユナイティリア>の監視役。交わってしまった世界の、より近くで、より正確に、その全てを監視し、記録し続ける為に生まれた自立型ドライバが進化した姿が【ノントロン:ツヴァイ】。この世界が無に帰すその時まで監視を続け、そしてその妨げを排除する。
不吉な黒衣をはおり、不似合いなキャップがトレードマーク、耳元で流れるトラックにリリックを乗せながら人間観察。死刑執行人学園から課せられた三等悪魔への昇格試験は常界<テラスティア>の「罪人」を666人殺すこと。キャップもシャツも、ヘッドホンも血の様な赤を好む彼、フレイムエッジはテストも赤点。
三等悪魔への昇格を果たし、炎の剣型ドライバ【フレイムタン】と共に名前を授かったものの、未だに止まることのない赤への執着、定期試験でのきなみ叩き出す赤点。情熱の男はきっと、これからも赤への飽く無き探究心を燃やす。学園を無事卒業し、一人前の死刑執行人<エクスキューショナー>になれる日はいつか。
365日、いくら暑かろうが、マフラーに手袋、ニット帽にモフモフ耳あて、ムートンブーツを外すことのない、芯まで冷えた冷徹な四等悪魔のアイスエッジ。いつもクールなその姿は女子生徒からの人気も高い。極度の低血圧な異常体質であり、驚くほどの寒がりであるということを知ってしまった者は消された。
その手に握られているのは、昇格の際に名前と共に授けられた氷の剣型ドライバ【アイスブランド】。冷酷無残なその手に持つのが相応しいと授かったが、氷の剣は非常に冷たく、彼が気にしたのはますます外せなくなった手袋。そして、その刃で、昇格試験で唯一逃した青い瞳をした「罪人」の行方を今も追っている。