拳を交える中、機械の心が人間の温かさに触れた時、初めて鼓動を響かせるエレメンツハート。自立を超えた自律、それはまるで人間の様で。燃える魂、狼煙を上げる拳、温もりをくれたあの人の力になりたい。【シラヌイ:ホムラ】はお揃いの赤に袖を通した。全ては父から子へ、厳しさの先の優しさの贈り物だった。
崩れ落ちた聖銃士に手を差し伸べる水を留めた少年。その背後、聞こえた起動音。オリジナルを超えるにはオリジナルを倒すしかない、そこには【サミダレ】を従えた猫背の天才が立っていた。こんな偶然って、あるんだね。血相を変えた聖銃士と天才、水を留めた少年と自らを模した自律兵器の、四人の戦いが始まる。
四つの水の巡り合い、深き想いを込めた銃鎚は天才の初恋を打ち砕き、海神の魂は冷めた心を貫いた。止まるはずの鼓動が、聞こえる。いや、聞こえるはずのない鼓動が、聞こえた。エレメンツハートの稼働条件は満たされ、再起動<リブート>された【サミダレ:マブイ】は初めて言葉を口にした。どうぞ、ご命令を。
風精王へと届けられたのは戦友でもある風の美女が耳にした隠された裏側。直後、巻き起こる竜巻、両目が閉ざされた第五世代自律兵器型ドライバ【マイカゼ】の急襲。彼女が起こした竜巻は、悲しみに満ちていた。その悲しみは、数年前、天界の歪な平和の為に都合の良い犠牲にされた一人の妖精の悲しみにも似ていた。
彼女の破壊は、一人の妖精の存在の否定、風精王は身動きも取れずにいた。だけど、風を纏いし少女はあっさりと言う。友達だったら、間違いを止めなきゃ。風の龍が迷いを、全てを振り払う。再起動<リブート>の果てに目覚めた【マイカゼ:カグラ】を見つめ、少女は諦めたはずの夢を共に夢見た友を思い出していた。
やっぱり息抜きは大切、今日は女子だけでお買いもの。光を宿した少女と、常界の案内をしてもらう光精王、そんな主の身を守る戦乙女と、一途に見つめる太陽に咲く花。午後三時、川沿いのベンチ、並んだ四つのクレープ。せーの、で口にするはずだった甘さは、目にも止まらぬ速さで【ライコウ】の手へとさらわれた。
大切なものを取り返すため、四人の乙女は立ちあがる。優しい種族のはずの妖精達がみせた本気、それは一瞬の出来事だった。先走った三つの光に続き、眉間にしわを寄せた怒りの笑顔のままに振りまわされた光の大剣。再起動<リブート>を終えた【ライコウ:ナユタ】、ベンチにはクレープを持つ手が五つ並んでいた。
やっぱり一人が気楽でいいわ、死神は一人、ラウンジで休憩中。もしも退屈な時間をお過ごしならば、お相手をして差し上げましょう。投げられたサイ、始まったショータイム。示された「4」の枠を求め、名乗りをあげたのは癖の強い髪の悪魔、ハートの尻尾の悪乙女、そして無言で手を上げた【ムラクモ】だった。
オマエは罪な女だな、悪乙女へと鎌を振る闇刑者。あらあら、アタシはもっと罪な女よ。闇刑者へと杵を振る多元嬢。……。無言のまま死神へと襲いかかる自律兵器。私の時間を返してもらえるかしら、悪い夢なら魅せてあげるわ。その全てを薙ぎ払う死神。悪夢の曲芸は過ぎ去り【ムラクモ:オロチ】は目を覚ました。
手段は違えど目的は同じと、皆と同じ道を歩き始めたはずの一人の少年は、自分にしか出来ないことがあると言い残し、一人故郷の極東国<ジャポネシア>へ。枯れることを知らない桜の前で、諸行無常の響きの直後に聞こえてきたのは第五世代自律兵器型ドライバ【アワユキ】の機動音と、鞘から刀を引き抜く音だった。
圧倒的な破壊力を前に、止むを得ず力を共にした無の斧と刀。生憎と罪人以外を斬る趣味はないのでな。最期のひと振りを少年に預け、無刑者は一足先に刀を収めた。綺麗に咲き誇る桜の下、再起動<リブート>を終えた【アワユキ:ミヤビ】が自らの存在理由を口にした頃、無刑者の背中は既に夕日の先へと溶けていた。
【レプリカ】の名が与えられた第五世代自律兵器型ドライバは、光届かない破要塞<カタストロフ>に閉じ込められていた。止まったままのエレメンツハート。あぁ、ボクを呼ぶ声がする。ボクを求める声がする。迎えに来たよ、さぁ、聖なる入口<ディバインゲート>へ向かおうか。悪戯王はリミッターに手をかけた。
発動したバーストモード、終わらない暴走、全て神々のごっこ遊び。天界、常界、魔界、そんな三つの世界が交わり産まれた統合世界。更にその上位なる世界との扉を開く為に【レプリカ:バースト】は聖なる入口<ディバインゲート>へと。黄昏の審判の答え、聖なる扉に隠された真実の前、聖暦の王は引き金を引いた。
計算が正しければ、第三世代自立型ドライバは正当進化を迎えるはずだった。その計算が狂ったのは、約束された未来の存在か、いや、約束された未来には、計算が狂うことすら約束されていたのかもしれない。これからを生きる世代の為に、愛する息子の為に、炎才は全ての【フィアトロン:ドライ】の破壊を始めた。
共通化されていた第三進化の設計、そんな【ウォタトロン:ドライ】の目的に水才は気がついていた。もう既に自分の範疇ではない、だけどそれも好都合。思い通りにならないドライバが思い通りの世界を作ってくれる。だったらいっそ、行く末は誰かに任せようか。ばら撒いたドライバに、水才は多くの初恋を求めた。
優しい顔をした風才は可能性の探求という大義名分の元に動力源の限界を目指し、純度の高い風を集め続けていた。その過程で生まれた【ウィンドロン:ドライ】もまた、天界の風を求め、悲しみに囚われたままの風才の復讐道具へと。君は間違ってないよ、さぁ、もっと風を集めようか。世界評議会の黒い声が聞こえた。
光才が本当に見たかった世界は幸せな世界か、それとも悲しみの世界か。第三世代自立型ドライバ【ライトロン:ドライ】が照らす世界はいつも、悲しみの跡。右目が見つめる幸せとは反対の、ドライバ越しの左目に映した世界は、放たれた自立型ドライバから送られてくる悲しみの果てであり、光才の世界の裏側だった。
繰り返される罪の果てに、意味はあるのだろうか。辿り着いてしまった答えは叶わなかった恋の傷を癒せるわけもなく、闇才を失意の底へと突き落とした。そして産み出された【ダクトロン:ドライ】は誰かに命じられたわけでもなく、ただ淡々と命を刈り続ける。闇才の恋の傷は、いつか癒える日が訪れるのだろうか。
未来の声が聞こえなくなってしまった無才は、それでも開発を続けていた。阻まれた正当進化に気付かないフリをしながら、少しでも世界の情報を集める為に【ノントロン:ドライ】を作り続けた。自分は利用されている、そんなことは百も承知だった。いずれは暴走してしまう自立型ドライバに、僅かな希望を託した。
常界<テラスティア>の外れ、立ち入り禁止区域に指定された場所には六つの研究所が立ち並んでいた。幾重にも配置された鉄壁を越えた先、まず最初に姿を見せたのは火焔研フロギストン。一度は廃棄されたはずの研究所に、悪しき炎は灯っていた。
燃え上がる炎に引き寄せられて、昇格試験のことなど忘れてしまった炎刑者の姿が。悪しき炎や光を求め、悪魔達は幾重の鉄壁を突破していた。止まることのない赤への好奇心。燃え上がる赤こそ至高の色だと、炎刑者は満面の笑みを浮かべていた。
被験体056、左腕に貼られた番号。新たな自立型ドライバ開発の為に、多くの妖精がここへと連れられてきていた。より純度の高い炎は、悪しき炎へと変換される。そして、そんな悪しき炎すらも、自分の目的の為に利用しようとしていた天才がいた。
悪しき炎が囚われた監獄、そこには天才の飽くなき探究心も囚われていた。起動実験レポートに記載されていたのは、新たな炎の力の活路。世界評議会へ提出する直前、天才は最後の1ページを引きちぎり、そして書き足した偽りのレポートを提出した。
研究所の最深部、自らの死を偽った天才は研究を続けていた。そして、偽りのレポートを提出してまで成し遂げたかった目的、開発された第五世代自律兵器型ドライバに込めた願い。炎を灯した少年の元へ急げ、それが未完成品への唯一の命令だった。
氷水研アモルフォス、ここでは悪しき水の研究が行われていた。繰り返される水の力での実験。人々の暮らしを豊かにする為でもなく、開かれた扉へ近づく為でもなく、さらにその先のとある目的の為に、この施設は存在し、そして研究がされていた。
あぁ、また来てしまった。涼しいラウンジを無事に抜け、二等悪魔への昇格を果たした氷刑者は、次に凍える氷水研に迷い込んでいた。溢した白い吐息、かじかむ手で刃を握りしめ、震える唇を噛みしめる。少しにじんだ血に、次こそはと誓うのだった。
被験体105、左腕に貼られた番号。いったいこの施設には、何体の被験体が用意されているのだろうか。力を抜きとられ、そして使い捨てにされる被験体。利用される側と、利用する側、そのどちらかしか、この施設には存在していなかった。
起動実験レポートAに記載されていたのは水の力により活動をする自立型ドライバ達の開発経緯から、経過報告まで、その全てだった。走り書きのそのレポートの最後、それでも僕は初恋を追い求めるよ、そんな一言が添えられていた。
初恋に目覚めた天才は初恋を追い求めた。言葉を越えた交流の先で見つけた初恋。いつか恋は、愛に変わり、そして終わりを迎える。そう、天才の初恋はいつか、純愛へと変わる。終わりを迎えるまでに、あと何人が犠牲となるのだろうか。
極風研コリオリに閉じ込められていたのは無数の風。行き場を無くした風は、ただその場で吹き荒れていた。風を産み出す為だけに囚われたドラゴンは自由を奪われ、ただ風と共に、悲鳴をあげるだけの存在と化していたのだった。
風の力を使用した重罪人がいるという情報を聞きつけ、極風研へと足を踏み入れた風刑者。ただ、この施設は予想以上に風が強く、もしもの時にと頭に乗せたガスマスクが、風に吹き飛ばされてしまわないかということだけを気に病んでいた。
被験体341、左腕に貼られた番号。それは都合の良い犠牲にされた一人の悲しき天才の復讐の数。一体誰が彼女を責められるのだろうか。だけど、そんな彼女を、一人の天才をこのまま放っておくわけにはいかないのだった。
提出を求められた起動実験レポートを丁寧に書きあげた天才は、更なる研究を計画していた。既に、純度の高い風による実験は十分だった。さらにその上位なる風を起こせる存在への道、それこそが、世界評議会に従う彼女の目的だった。
姿を見せたのは、風に魅せられし天才。復讐の過程で気付いてしまった純度の高い風の、その上の上位なる風の存在。彼女にとって、完全なる復讐を遂げる為に必要なことは何なのか、その答えは黄昏の審判のたったひとかけらだった。
眩い光が閉じ込められた研究所、幻光研ホログラフ。この施設は片目を閉ざしたひとりの天才へと、世界評議会が用意したものだった。次から次へと開発される自立型ドライバ達。片目の天才は、左目を閉ざしたまま、この世界の行く末を見つめていた。
予期せぬ恋敵の出現に求愛を阻まれた光刑者は、どうしたら振り向いてくれるのかを考えていた。統合された世界とはいえ、魔界よりも常界の方が科学の進歩が速い。そう、光刑者は科学の力を頼りに、ひとり幻光研へと訪れたのだった。全ては愛の為。
被験体573、左腕に貼られた番号。幻光研に連れられてきた被験体は皆、力を抜きとられているにもかかわらず、とても幸せそうだった。力を抜きとる代わりに与えた幸せ、ただ、その与えた幸せは、天才にとって罰と同意義でもあった。
一体誰がこの落書きを読み、最重要機密レポートだということがわかるだろうか。読み解くこと自体が困難な丸文字に、余白を埋めるかのような落書き。(´・ω`・)と(`・ω´・)で示された実験結果、ただ、楽しさだけは誰にでも伝わっていた。
片目を閉ざした天才は言った。世界の半分は幸せで出来ている。もう半分は悲しみで出来ている。だけど、この世界は三つの交わりにより生まれた世界。彼女にとって、今の世界の隔たりなどは関係なく、ただ皆の幸せを願い、悲しみの裏側を見ていた。
日夜繰り返されていた闇の力の増幅実験。漆黒研クインテセンスを含むこの立ち入り禁止区域の周りには、無数の抜け殻が転がっていた。全ては悪しき闇への探求の為。失意の天才へと与えられたこの施設で、声にならない悲鳴がこだましていた。
常界こそ、悪意の塊ではないだろうか。脳裏から離れることのない常界の罪人への執行風景。闇刑者は一等悪魔への昇格を前に再び常界を訪れていた。多くの抜け殻の噂を頼りに訪れた漆黒研、そこでは彼の想像以上の異常事態が日常と化していた。
被験体411、左腕に貼られた番号。天才にとって、同族であることなど、何の意味もなさなかった。最愛の女性から受けた拒絶が、今も彼の創り物の心を苦しめる。なぜ私じゃダメだったのでしょうか。少し頭の悪い天才は、被験体での実験を続けた。
増幅された闇の力が自立型ドライバの稼働を加速した。もっと、もっと、もっと、止まらない欲求、止まらないペン、あっという間に書きあがる起動実験のレポート。だけど、それほどの天才でも、恋の方程式を紐とく頭脳は持ち合わせていなかった。
恋に敗れた天才にとって、この統合世界に存在理由など求めなかった。手を引いてくれた方へと捧げた創り物の心。全ては上位なる存在の為に。天才へと告げられた新たな研究、それは二文字の合言葉。たった二文字で、彼は全てを理解していた。
その研究施設には、生きていくうえで必要最低限のもの以外、何も用意されていなかった。研究者にとってはこの上のない、研究に没頭出来る施設。だけど、普通の人から見れば、この虚無研カルツァクラインは独房と何ら変わり映えしない施設だった。
常界へと降り立っていた無刑者にも、新たな白の女王の即位の話は届いていた。何故このタイミングで。何が起こるのかはわからない。ただ、何かが起ころうとしていることだけは確実だった。何かを知る為に、未来を知る少女の元へ、無刑者は急いだ。
被験体019、左腕に貼られた番号。ごめんね、これも全部、仕方がないことなの。虚ろな目の天才は、被験体へと謝りの言葉を述べた。抜き取られる無の力、せめてもの償いにと、天才はこの抜き取ったという事実を全て、無に帰した。
何も記載されていない白紙の起動実験レポートを受け取った男は問いかけた。これが君の答えかい。無言で首を縦に振る天才。今更、約束された未来を変えることなど出来やしないよ。無言で首を横に振る天才。虚ろな瞳に、微かな光が宿っていた。
無に魅せられし天才の部屋に配置された無数のモニター。天才は世界の全てを見ていた。そして、世界の監視結果により設計された自立ではない自律の兵器。聞こえなくなった未来への不安を振り払うよう、無心で僅かな希望の開発を進めるのだった。
実用化に成功した第三世代、エレメンツコアにより自立進化を可能にした第四世代、兵器として開発された第五世代、新たな動力源エレメンツハートが搭載されたもう一つの第五世代。では、宝石塔で発見された第零世代は誰が開発したのだろうか。
神の所業、そんな使い古された言葉で片付けられた第零世代。聖暦のスクープだと騒ぎ立てていたメディアは大人しくなり、次第に誰もこの第零世代の話題を口にしなくなっていた。解りやすい程の情報操作、だけど、確実に、開発者は存在していた。
もし、神が創ったのであれば、それは何の為に。そして、神が存在するのであれば、それは何処に。もしかしたらこの世界に、それとも別の世界に。ようやく追いつくことの出来た第零世代が遥か昔から存在していた。それは、紛れもない事実だった。
神は存在する、それはあくまでも仮説に過ぎない。では、神が存在するとしたら、どのような姿をしているのだろうか。人や悪魔、妖精の様な容姿だろうか、それとも、獣の様な容姿だろうか、そもそも、姿形などを持たない存在なのだろうか。
どのような容姿であれ、神が存在したとする。また、神により第零世代が開発されたとする。そして、第零世代の破壊行動、自らが下さんとする審判。聖なる扉、黄昏の審判、約束された未来、その全ての集束。あくまでも、全て仮説でしかなかった。
光届かぬ破要塞<カタストロフ>に閉じ込められていたのは偽物の名前が与えられた第五世代自律兵器型ドライバ。外されたリミッター、発動したバーストモード、加速する暴走、全ては神々のごっこ遊び。全てが停止するまで、破壊活動は終わらない。
笑顔の絶えない永遠郷<シャングリラ>に位置した光の美浴室にて、カタリナは光の祝福に包まれていた。続く争いの最中、ひと時の休息、彼女にとってはこの上ない至福の時。そんな彼女だけの時間に訪れた、予期せぬ来訪者。紫色のバラの花束を抱えた男性、すかさず投げつける桶。彼女には、何の悪気もなかった。
カタリナが光の美女へと成長を遂げた頃、よく目撃していたはずの男を見かけることはなくなっていた。目が合えば頬を赤らめ、そしてすぐに姿を消していた一人の男。ただ、彼女はそんな男に一度も話しかけられたことはなかった。最後に見たのはいつだったか。辿った記憶、最後の場面は、浴室の湯気でぼやけていた。
訪れたのは、優しい光に包まれた浴室。待ち構えていた光の美女は、ただのんびりと日向ぼっこをしていた。彼女には何の悪気もなかった。ただ、時として悪気のない行為が、結果として大惨事になることを、彼女は後になって知るのだった。
優しさに包まれた天界<セレスティア>の夜、クレオパトラの友人が一人、行方をくらませた。彼は非常に頭が良かった。ただ、その分、頭が悪かった。単なる家出かもしれない、だけど、彼女の胸には嫌な予感がよぎっていた。彼の持つ純真な想いが、悪意に染められてしまったら、彼女の友人は、頭の悪い天才だから。
行方不明の友人の手掛かりを見つけたのは魔界、上位なる存在が彼の手を引いていた。そして、その上位なる存在が手を引いたのは彼だけではなかった。闇の美女クレオパトラは、もう一人の手を引かれた存在、常界へと甘い悪意を送り込んだ一人の悪魔を包む闇と、その闇に溶けた本当の闇へと辿り着こうとしていた。
しっとりとした闇の中で安らぎを提供していた浴室。そんな場所で待ち構えていた闇の美女は、行方をくらませた友人の捜索に大忙し。見つけた手掛かりが、単なる家出と思われていた事件の裏に潜む大きな闇に通じた時、彼女は既に浴室を離れていた。
二人のワガママ王子と共に育ったエリザベートにとって、波乱万丈な非日常こそが日常だった。些細なことで殴り合いの喧嘩をする二人と、それを止めようとする一人。だけど必ず、最後には一緒になって笑っていた三人。全ての争いが終わり、また三人揃って子供の様に笑い合える日を、彼女は心待ちにしていた。
自らの産まれた世界を守る為、一人の王子は常界へと帰った。そんな彼を気遣って、もう一人の王子も常界へと降り立った。しかし、届いてしまったのは一人の王子に仕えるはずだった妖精の開花の知らせ。無の美女エリザベートは焦る気持ちを落ち着かせる暇もなく、二人の王子を、大切な幼馴染を追いかけて常界へ。
無の浴室で待っていたのは二人の幼馴染の安否ばかりを気にかけていた無の美女。いつか子供の頃の様に全力で喧嘩をして、そしてまた、最後には笑い合うことが出来るのなら。そんな遠い日の思い出を守る為、彼女は戦いへの覚悟を決めたのだった。
西暦2013年9月30日、聖なる扉は開かれた。そして新たに生まれた聖暦という時代と統合世界<ユナイティリア>。炎を灯した少年、水を留めた少年、風を纏った少女、光を宿した少女、闇を包んだ少女、無を好んだ少年、6人の冒険は始まった。
西暦2013年10月26日、そう、聖暦ではなく、西暦。この時、この瞬間、6人の少年少女と共に統合世界で、聖なる扉を目指す仲間達が100万人を突破した。数多の苦楽を共に、手を取り合い、共鳴し、そして今もまだ仲間達は増え続けていた。
西暦2013年11月6日、とある事件が観測された。四次元広報・ミスター☆ディバインのツイッターフォロワー数1万人突破を記念して、イベントまで開催していたのだ。500の顔のうちの1つ、その満面の笑みは今も脳裏を駆け巡り続けている。
西暦2013年12月22日、年の瀬に新たな事象を観測した。それは、6人の少年少女と共に、聖なる扉を目指す仲間達が150万人を突破したという事象であり、紛れもない真実だった。彼らに代わり、私から礼を述べさせてもらう。ありがとう。
西暦2014年1月21日、それが皆の生きる現在。次に、こうして、時代を、世界を跨いで言葉を届けることが出来るのはいつになるだろうか。1日も早く訪れることを、遥か彼方の刻の狭間で願うとしよう。
記・観測者クロノス
止まらない胸を焦がす想い、大人になれない恋心は今日も体を火照らせた。もし明日世界が終わるなら、その冷たい腕に抱かれて眠りたい。目標を失くしうつむく氷刑者の背中、色の消えかかった瞳、それでも彼女が貫く恋。そんな恋乙女エキドナに向けられた氷の刃。命懸けの恋が迎えるのは、終わりか始まりか。
激戦の果ての運命の傷痕でさえ、癒乙女は癒してみせた。それは訪れた常界<テラスティア>での、自らの誓いを貫き通した少年とのひと時、そんなひと夏が、少女を大人にした。背伸びした小さな背中に感じた不吉な未来、だけど未来を信じて進む彼を、例え少年であろうと、マーメイドには止めることは出来なかった。
身に纏いし穏やかな風が、刃となり森乙女の命を狙った。間一髪で危機を退けるも、目の前にはガスマスクをした一人の悪魔が。なぜ、私を。そう、彼女達死刑執行人学園の生徒には、罪人以外に手出しをしてはならない決まりがあった。シュコーシュコー、ガスマスクから僅かに零れた言葉、妖精達は皆、罪人なの、と。
光精王への想いを隠しながらも、使命を全うする戦乙女ワルキューレ。度重なる危険に遭遇しようとも、自らが盾となり命に代えてもお守りする、そう決めていたはずだった。天界<セレスティア>の成り立ちを、歪な平和の片鱗を知ってしまった時、彼女の中で何かが、信じていた大切な何かが崩れ去ろうとしていた。
終わってしまったショータイム、命懸けの戦いは彼女を悪乙女へと。そろそろ、天使のふりは止めちゃおっかな。片目を閉じた無言の合図は多元嬢へと投げられ、そして一人、天界<セレスティア>からの救いの手を振り切り、自らが生まれた魔界<ヘリスティア>へと。サキュバスは歪な平和より、正常な混沌を選んだ。
ふわり、ふわふわり。掛け違えた死装束に気が付くこともなく、霊乙女ゴーストはただ浮かんでいた。透明な空に映し出された未来、あぁ、もう行かなくちゃ。だけど面倒くさいなぁ。あれ、あの人なんで頭に尻尾が生えているんだろ。何にでもなれる無の力は、悪意ある無の力に引き寄せられ、そして京の都を後にした。
さぁ、今夜は世界評議会から皆さまに希望を届けましょう。オズは五体の仲間と共に終わりのファンファーレを鳴らした。そう、終わりから全てが始まる。空へと投げたシルクハット、鳴らす指先、目の前に呼び出されたのは六体のドラゴン。種も仕掛けもございません、これはただの魔法です。悲鳴は歓声となり届いた。
呼び出されたドラゴンを包む大きなマント。次の魔法をお見せしましょう。翻したマントから姿をみせたのは獰猛な姿を捨て、刃と化した六体。炎、水、風、光、闇、無、それぞれの力と呼応するかのように、六つの光が舞い降りた。これは全部、ただの魔法ですよ。道化竜オズは深いお辞儀で終わりの夜を締めくくった。
保健所までの記憶はなかった。自分の両親が誰なのか、飼い主が誰だったのか。ただ一つだけの記憶、自分は他の犬とは異なっていたという事。君の居場所はこんな場所じゃないんですよ、今日からは僕が君のお父さんになりましょう。差し出された右手、わざわざ外された手袋を見つめ、トトは彼を信じることに決めた。
家族の温もり、解かれた力、それは全て道化の魔法使いが教えてくれた。忌み嫌っていた特別な力が、大好きな主人を守る力となる。道化犬になろうとも、家族と暖かなミルクとクルミパンさえあれば他には何もいらなかった。ただ、トトが未だに正せずにいた間違い、そう、今でも自分を犬だと思い込んでいたのだった。
眠れる森の西の果て、緑の女王の目覚めと共に、夢から覚めた使い古された案山子は溢れ出した光に手を伸ばした。誰も届かない森の中へと訪れた道化の魔法使いとなら、この光の正体へと辿り着けるんじゃないか。ずっとひとりぼっちだった彼の手を引いてくれた魔法使いの為に、カカシは迫り来る全ての害を退ける。
道化の魔法使いにより新たな力を授かり、道化魔へと進化を遂げたカカシ。ただ彼は、自らの手を引いてくれた存在の為だけに存在する。そこに言葉はなく、あるのは蔦の様に固く絡まった想いだけ。使い古されていた案山子に芽生えた感情は、自らを使い捨てた統合世界<ユナイティリア>への害へと変わり果てた。
大都会に解き放たれたレオンは、憧れていたはずの外の世界に愕然とした。立ち並ぶビルの隙間から見上げた紫には申し訳程度に光ってみせる星屑達。そして、そんな星屑にさえ前足の届かない自分を嘆いた。もしも翼が生えていたら。その願い、僕が魔法で叶えましょう。獅子に翼を、百獣の王は引き換えの枷に応じた。
枷と引き換えに得た翼、道化獣レオンは大空を翔けた。そう、この翼で再び自由な世界へと帰ることも出来た。だが、百獣の王は道化の魔法使いの側に。枷なんて何の役にも立たないこと、そんなことはきっと始めからわかっていた、なのに自分に翼を与えてくれた。枷よりも固い信頼、一人と一匹は種族を超えた家族へ。
晴れ、ときどき、向かい風。彼女は風が嫌いだった。風の力は彼女から夢を、全てを奪った。目を覚ました魔界<ヘリスティア>の空を見上げ、堕ちた自分へとこぼした嘲笑。ここにアイツはいないんだ。新しい世界、駆け出す体。ここなら私が1番になれるんだ。置き去りの昨日にサヨナラを告げ、ドロシーは産まれた。
道化の魔法使いと行動を共にする彼女にはもう、恐れるものなどなかった。生まれ変わった自分なら、今の自分ならきっとアイツに負けることもないと。道化嬢ドロシーにとって、吹きすさぶ風はみな追い風。だが、彼女は気づいていなかった。いつまでも一人の少女に囚われたままでいる事に。晴れ、ときどき、竜巻。
星屑街<コスモダスト>の片隅、存在そのものを忘れ去られ深い眠りについていた第一世代自立型ドライバ【ブリキ】は、世界評議会に属する道化の魔法使いの手により、永遠の眠りから解き放たれた。そんな彼は、誰が作ったのか、第何世代なのか、そんなことよりも、自分と共に生きる家族が欲しいだけだった。
進化することのない第一世代自立型ドライバは、道化の魔法使いにより新たな力が与えられ、道化嬢により装飾が施された。そして道化機【ブリキ】は自分を永遠の眠りから解き放ってくれた主人の為に稼動する。種族を越えた主従関係、それは機械ながらに感じた家族の温もりであり、そしてまた、異常事態でもあった。
ショーウィンドウに並べられたコドラチョコタルトの外壁が溶け出し、ひょっこりとハート型の目が辺りを見渡した。もうすぐ1年に1度のバレンタインデー、それは大好きな人へチョコレートと共に想いを伝える乙女の日。皆、瞳を輝かし、胸をときめかせていた。誰かが自分を買っていく、そんなことを夢見ていた。
冷やしトマトを頬張っていた少年へと届けられた化粧箱、半信半疑に解いたリボン、外した蓋から覗いたのは、殻を壊したドラチョコタルトだった。ひび割れたハートに突き刺さった矢、添えられた手紙に記された告白。君のことを初めて見た時から好きでした。だけど、そこには差出人の名前が記されてはいなかった。
桜の花びらが添えられた化粧箱から目を覗かせていたのはコドラマッチャ。駆られた好奇心、じっとしていることが出来ず、外の世界への憧れを隠しきれずにいた。ただ、外の世界へ羽ばたこうにも、最後の勇気が出ない。君も体がうずいちゃって仕方がないんだね。ひとりの少女が、そっと拾い上げてレジへと向かった。
仲直りの為に、友情の証にと友達へと買ったはずのプレゼントは渡せないままでいた。自分と似ていた気がした、だから友達へと渡したかった。そんな願いが叶うこともなく、箱から飛び出すまでに成長を遂げたドラマッチャ。いつかきっと、渡せる日が訪れることを願って、風を纏いし少女は未来へと駆け出した。
5つ下さーい。笑顔の少女はみんなの為にとコドラチョコバーを買って帰った。疲れた時や悲しい時、落ち込んだ時の味方はやっぱり甘くて美味しいチョコレート。きっとみんな喜んでくれるよね。笑顔の仲間を思い浮かべ、少し小走りになっていた頃、5つのチョコバーがしまわれたカゴバッグは不吉に蠢いていた。
みんなー、お土産買って来たよー。くつろいでいた4人に渡そうとカゴバッグに手を入れるも、掴むことが出来たのは空白。そんな少女の背後、姿を現したのは、自らを閉じ込めていたチョコレートを食い散らかしていたドラチョコバー。怒りをあらわにする乙女5人、食べ物の恨みが恐ろしいことは言うまでもなかった。
あぁ、今日も会えないわ。あなた様はいつになったら会いに来てくれるの。愛しい人への想いを募らせるイセ。今日も大好きなチョコレートを作って待っているというのに。甘味処ショコラティエのカウンター、両肘をつき待ちぼうけ。そんな時、来客を告げる鐘の音が。いらっしゃいませ、笑顔で入口へと視線を向けた。
訪れたのは恋乙女に戦乙女、太陽に咲く花、皆、恋する乙女達だった。いつまでも想い人は会いに来ない、募らせた想いはやがて彼女を本来の姿である甘女竜イセへと。解き放たれたドラゴンの姿に呼応したかの様に訪れた次の来客。やっと来てくれたのね。期待の眼差しを向けた先には、鎌を携えた悪魔が立っていた。
外されてしまったリミッターにより暴走を余儀なくされた機体、第五世代自立兵器型ドライバは失敗だった。だが、それは始めから計算されていた暴走。計算の上で計画されていた小型化、【ナノ・リヴァイアサン】を引き連れた幼き竜インダストラは、満面の笑みを浮かべ、統合世界全土へと、終焉の言葉を口にした。
聖王の邪魔はさせまいと、立ち塞がったのは銃槍と銃鎚を構えた二人の聖銃士。人間がおもちゃを手にしたくらいで、古の竜に勝てるわけなんてないのにね。水明竜インダストラは幼き笑顔を絶やさぬまま、指先一つで【テラ・リヴァイアサン】を解放、聖銃士二人の放った水を可憐に泳ぎ、白い隊服を赤へと染めた。
ここはイロトリドリのチョコレートが取り揃えられた甘味処ショコラティエ。カウンターでお客様のおもてなしをするのは、未だ会いに来ることのない愛しき人へと想いを馳せる甘女竜。今年こそは、世界で一番甘い、聖・バレンタインデーを。
聖なる扉が開かれるより遥か以前、古より栄えていた水の文明。そんな水の文明を司る古宮殿への扉が開かれた時、水の竜が産声をあげた。天界、常界、魔界、そのどこにも属すことのない統合世界にとっての例外は何故、この時に開かれたのだろうか。
降り出した雨、ザザ降り。だけど、いつしか少年はそんな雨を愛せるようになっていた。降り止んだ雨、ハレ晴れ。都合よく架かる虹なんてないけれど、それでも少年は空を見上げた。母なる海の青さをその瞳に映し、留めた罪と共に、聖なる扉へと。