ロキへと飛びかかる人影。真上に振り上げられた釘バット。振り下ろされると同時に起きる爆発。そうだよね、キミのパパは裏切ってたんだ。だとしたら、キミが処分されたという報告も当然偽造されてた、ってことだね。そうだろう、サンタクローズ。
ロキ、俺はアイツを返してもらいに来た。そう、現れたサンタクローズ。返すもなにも、この選択は彼自身が決めたことだよ。そう返したロキ。だとしたら、力ずくでアイツを連れ帰るだけだ。それは本当に、イマのアーサーが望んでいることなのかな。
アイツが望んでいなかったとしたら、俺が道を正してやるだけだ。サンタクローズの周囲に展開される無数のドライバ。そのドライバの群れと共に再びロキへと一直線に飛びかかる。一本、一本、ドライバを壊されながらも、決して攻撃を止めやしない。
ロキはすべての攻撃を防ぎながら、それでいて楽しそうな顔を続けていた。ねぇ、キミは気づいているよね。キミがつけたアルトリウスという名前、それがすべての始まりだったんだ。そう、アーサーを王にしたのはキミだ。神にしたのもキミなんだ。
少し、相手が悪かったですわ。いくら議長の使徒とはいえ、聖人であるジャンヌの攻撃を防ぐので精一杯のシャルラ。そして、攻撃の手を休めることなく、槍を振るい続けるジャンヌ。あなたも人間なら、わかるよね。それはジャンヌの希望でもあった。
さすがは、元天界の王といったところね。互いに、一歩も引くことなく互角の争いを繰り広げるラウフェイとニコラス。いや、俺は元天界の王として戦ってるわけでもなけりゃ、聖人として戦っているわけでもない。ただの父親として戦ってるだけさ。
ロキの言葉を受け、攻撃の手を止めたサンタクローズ。そうさ、俺がアイツの人生を狂わせた。そして、再びサンタクローズはドライバを展開する。だから、もっと狂わせてやる。あぁ、そうさ。俺がアイツを、神様から人間に堕としてやるんだよ。
だが、サンタクローズとロキの間に割って入った新たな人影。それはロプトだった。サンタクローズの攻撃を受け、壊れたロプトの仮面。露になったのは神になれなかった証。どうもありがとう、もうひとりのボク。そして、ボクになれなかったボクよ。
ロキへの攻撃を、すべてその身で受け止めるロプト。予期せぬ横槍に、苛立ちを隠せないサンタクローズ。だが、次の瞬間、ロプトへと襲いかかったのは無色の炎。この戦い、私にも介入させてもらう。無色の炎の正体は、続いて現れたカナンだった。
悪いが、そっちを任せてもいいか。ええ、構わないわ。私たちの最終目的は同じなのだから。そしてカナンの両手から生まれた無色の渦。その渦から飛び出してきた無色の竜。すべてを喰らい尽くしなさい。無色の竜は目の前のロプトを捉えていた。
迫り来る竜の猛攻をかわすことしか出来ないロプト。そう、ロプトは感じていた。この竜に触れただけで、その身が無に帰されると。だからこそ、カナンへ反撃する一瞬のチャンスを狙っていた。そして、カナンはその場を一歩も動こうとはしなかった。
訪れた一瞬の隙。カナンへ刃を投げつけたロプト。そして、その攻撃と引き換えに、その身を竜に喰われたロプト。そして、投げられた刃をその身で受けたカナン。かすかに切れた体から流れ出した血。あなたが生きた証、この身に刻んでおいてあげる。
なかなか、しぶといじゃない。シャルラを相手に、息を切らしていたジャンヌ。それは、ジャンヌがシャルラを殺さないように戦っていたからだった。その甘さが命取りだ。シャルラの体を貫き、そのままジャンヌを貫いた氷の刃。アンタって、最低ね。
そう、シャルラの背後から、シャルラごとジャンヌを貫いたのはラウフェイだった。急いで駆け寄るニコラス。もう、アタシなにしてんだろ。もういい、ゆっくり休んでろ。そして、悲鳴さえ上げることの出来ないシャルラ。人間の血は、絶えるべきね。
そして、再び対峙したラウフェイとニコラス。いい加減にしろよ、オマエら。ニコラスが展開した無数のドライバ。その数は、サンタクローズが展開したドライバ数を遥かに凌駕していた。なぁ、選べよ。自分で死ぬか、俺に殺されるか、どっちがいい。
ラウフェイの周囲の神魂をひとつ残らず消し去るニコラスの攻撃。だが、それでも表情を崩すことのないラウフェイ。私はただ決定に従うだけ。だからこそ、ラウフェイは死を恐れはしなかった。新しい世界、私は再び生まれることが出来るのだから。
じゃあ、俺に殺されろ。ラウフェイの体に突き刺さる無数のドライバ。これが、オマエへの最後のプレゼントだ。そう、ニコラスの「最後」には希望が込められていた。新しい世界なんか、もう必要ないんだ。決して、イマの世界を終わらせたりしねぇ。
再び、場面はロキとサンタクローズへ。ボクのこと、そんなに殺したいのなら、殺せばいいさ。そう言いながら、ロキはサンタクローズの攻撃をあえて受けてみせた。まだ、ボクにも赤い血は流れていたんだね。ハハハ、はははは、ハハハハははハハハ。
なにがおかしい。そして、サンタクローズは手にした刃をロキの首筋へと添えた。世界の決定は覆らない。だって、ボクは彼をさ、聖神アーサーを信じているから。だから、新しい世界でボクはまた生まれる。そうだよ、ボクは永遠の存在なんだから。
楽しかったな。色々と楽しかった。ボクはボクのやりたいようにやった。後悔はないよ。ボクはボクで、イマを生きたんだ。だって、キミたちはこんなにもボクたちを追い詰めた。だから、ボクの役目はそろそろお終いだよ。ありがとう、抗ってくれて。
それが、お前の遺言だな。そして、サンタクローズは刃を握り直した。お前の言う新しい世界なんか、訪れやしない。俺たちは誰もそんなこと望んじゃいないんだ。少しずつでいい、俺たちは少しずつ、確実によりよい未来へと歩いて行けるんだから。
それじゃあ、これでお別れだ。サンタクローズの刃が動き出した瞬間、辺りに響き渡った声。待ってください。そう、その声の正体はオズによるものだった。少し、待ってください。サンタクローズへと歩み寄るオズ。彼に、結末を見届けさせましょう。
ようやく見つけた。その言葉はずっと行方不明だったジョーイによるものだった。こんなときに、邪魔するんじゃねーよ。その言葉はライルのものだった。そう、ふたりの邂逅が果たされたのは天界の聖夜街の外れ。オレたちはいま、忙しいんだ。
だが、そんなライルの言葉が聞こえていないのか、聞こえていないフリをしているのか、ジョーイは本能の赴くままにライルへと刃を向けた。あー、もうイライラさせんじゃねぇよ。そんなジョーイの刃をいとも簡単に弾いたライル。少し遊んでやるよ。
やっぱり、殺し合いだよね。いつになく楽しそうなジョーイ。そして、いつになく不機嫌なライル。ここは、綺麗にしとかなきゃなんねぇんだよ。そう、ライルは聖夜街の外れで準備をしていた。せめて、最期はここがいいだろうと思ってさ。そこは―。
―かつての聖王であり、聖神アーサーの処刑場だった。真っ白な雪が降り積もる始まりの景色。それなら、終わりもここが本望だろう。だから、ここを汚すわけにはいかない。わぁ。ひと突きで訪れた終焉。ジョーイは、最期のときまで楽しそうだった。
終わったのね。そう言いながら現れたリオとモルガン。そして、モルガンが手にしていた聖剣の鞘。やっぱり、アイツを殺すのはオレの役目なんだ。だから、早く連れ帰ってこいよ。そう、すでに統合世界ではアーサーの処刑の準備が進められていた。
神界に模されて創られていた理想郷アヴァロン。その最奥の玉座にひとり腰をかけていた聖神アーサー。彼は終わる世界を見ながら、なにを考えているのだろうか。なにを想っているのだろうか。彼の心を知るのは彼ひとり。そして、最後の幕は上がる。
思い返せば、それは短い道のりだった。そして、長い道のりだった。始まりは雪降る聖なる夜。ふたりの優しさが生んだ親友との出会い。そして、その出会いが決定付けた彼の生きる道。選ばれた王道。王たるものは民に弱さを見せることは出来ない。
やがて王は闇へと堕ちた。堕ちようとも、王が見つめていた希望。その希望がもたらしたのは神への道。そう、神たるものは王に弱さを見せることは出来ない。だから俺は決して立ち止まることは出来ないんだ。それが、神という存在なのだから。
神は王へ、民へ恵みを与えると同時に、必ず試練を与える。それが正しいのか、間違っているのか。議論の余地はない。それが神の存在意義なのだから。イマの世界へ与える試練。そして、代わりに与えられる恵みは生まれ変わる世界。それが世界の理。
神話の時代から、世界は常に崩壊と再生を繰り返していた。そこに疑問を抱く神々は少なかった。そう、今回の世界が生まれ、イマのために戦う者たちが現れるまでは。だが、なぜ今回の世界はその輪廻の歯車から外れようとしているのだろうか。
数多の因果が絡まりあい、生まれてしまった禁忌の子。そして、沢山の愛情に包まれながら、生きてしまった禁忌の子。だからこそ、その子だけは理の外側にいた。そうさ、俺に出来ることは、もう少ししか残されていないんだ。それは、なんのためか。
それとも、誰のためか。ただ、アーサーは終わりゆく世界を見つめながら、自分のやるべきことを見据えていた。どうか、世界が平和でありますように。それは、いつか彼が抱いていた希望。どうか、世界に幸せが溢れますように。それもまた、希望。
少しずつ、近づく足音。その音は7つだった。ようやく、あいつらが来たみたいだ。真剣な表情だったアーサーの口角が少し上がる。彼らは、希望だろうか、絶望だろうか。そう言葉を口にしたのは、音もなく現れた創醒の聖者。さぁ、どっちだろうな。
世界の終わりというのは、いつも悲しいものだ。無表情のまま、似合わない言葉を口にした創醒の聖者。君はいま、どちらを見つめている。アーサーのほうを向くことなく、問いかけたのも創醒の聖者だった。俺が見たい景色は、昔もイマも変わらない。
そして、創醒の聖者は続けた。幾重にも連なった悲しみの連鎖、それを終わらせることなど出来はしない。だが、それでも君が望むのなら、その世界を見せよう。映し出された世界。これが君の理想とした世界だよ。そこにはひとつの扉が浮かんでいた。
ただ、なにもない空間。浮かんでいた扉。その扉は瞳にも似ていた。そして、その瞳にはなにも映ることはない。これが、私たち聖なる扉<ディバインゲート>が見つめる世界だ。私たちの瞳には、決してなにも映らない。世界の歩みは止まるのだから。
悲しみの連鎖が途切れること、それは世界の進歩を止めるに等しいこと。だから、その世界にはなにも存在していない。その世界は絶えるのだから。だからこそ、私たちは世界を創り直す必要がある。そう、これは生きとし生ける命のためなのだから。
そうだな、俺もそうだと思う。そう答えたアーサー。いや、思っていた、と言ったほうが適切かもしれないな。そう言い直したアーサー。いいや、いまさらなにを言っても変わりはしない。そう続けたアーサー。君はいったい、なにを思っているんだい。
俺は俺の、成すべきことをするだけさ。それが、この世界の終わりだと知ってのことか。あぁ、それでも俺は構わない。たとえ世界が果てようと、それでも新しい芽は生まれる。やがて、花は開く。俺はその可能性を信じる。それが俺の見た希望だ。
そんなことのために、君は自分を犠牲にするというのかい。アーサーから抜け落ちた感情。失われていた自己愛、残されていた慈愛。そう、それこそが世界の理の外側の存在であるがゆえ。ようやくわかったよ。君という存在は、世界に存在していない。
かつて、聖王アーサーという存在は間違いなく世界の中心に存在していた。だが、その心はその世界には存在しているようで、存在していなかった。創醒の聖者が世界そのものを形創るのだとしたら、アーサーが形創ろうとしていたのは、世界の外側。
理の外側、そう、唯一の世界の外側の存在であるアーサー。彼が成すべきこと。それは世界の外側から、世界の理に干渉すること。すなわち、世界の内側を司る聖なる扉への干渉。消滅。いまの俺なら、それが出来るだろう。そう、俺は成すべきことを。
かつて、堕ちし王が選んだ神への道。それは決して絶望の道ではなく、希望の道だった。やはり、この世界にディバインゲートなんて必要ないんだ。だからこそ、俺がこの繰り返された崩壊と再生の歴史に終止符を打とう。イマを生きる命をかけて。
入口が存在するから出口が存在するかのように、内側が存在したからこそ存在した外側。ならば、私は君を喰らうことで、完璧な存在になれるのだろう。そして、俺はその言葉をそのまま返させてもらう。そう、共にひとつになろう。聖なる扉として―。
アカネたちが辿り着いた王の間への入口。重い扉から溢れ出した金色の瘴気。そう、この奥にアーサーがいる。意を決して開かれた扉。置かれていた玉座。たった「ひとり」の人影。ようこそ、聖なる扉の間へ。君たちを歓迎しよう、そう―この私が。
ひとつひとつの小さな愛が形作る小さな世界。そして、やがて生まれた大きな世界。真っ白な世界、飾られた地図、そして世界に恋をした少年。少年は歳を重ね、世界を愛した。やがて、世界のために命を差し出した。それもまた、小さな愛が作った世界。聖なる扉に包まれた命。すべては、聖なる扉を討たせるために。
聖なる扉が壊れれば、世界は扉が現れる前の状態に戻るだろう。だが、それはイマを否定するのと等しい行為。扉によりもたらされた沢山の悲劇。だが、それでももたらされた沢山の喜び。幾億の命のすべてを肯定するために、少年少女たちがすべきこと。さぁ、聖なる扉は開かれた。進もう、すべてを肯定するために。
世界を変えるには、ふたつの力が必要だった。ひとつ、受け取るべきは絶望。そして、世界は半分開かれる。扉は絶望を差し出したことで、絶望の扉は天へと開かれるだろう。そう、傷を負わずして、世界を変えることなど出来やしない。その覚悟があるか否か。すべては想いを。訪れる決断のときは、間近に迫っていた。
世界を変えるには、ふたつの力が必要だった。ひとつ、差し出すべきは希望。そして、世界は半分開かれる。扉は希望を受け取ったことで、希望の扉は地へと開かれるだろう。そう、傷を負わずして、世界を変えることなど出来やしない。その覚悟があるか否か。すべては想いを。訪れる決断のときは、間近に迫っていた。
その瞳に映し出される世界。ひとりひとりにとっての世界。そんな世界が形作る世界。命あるものはいつか気づくだろう。自分が生きるべき世界を。たとえ小さな世界だとしても、それが大切な世界であると。そして、なぜ、その世界が大切なのか。なぜ、その世界を愛するのか。すべては自分を愛してくれる者のために。
そして、少年少女たちは歩き出す。聖なる扉が存在したからこそ争いは生まれた。それは、紛れも無い事実。だが、聖なる扉が存在したからこそ、多くの命は出会うことが出来た。そう、だから扉を開くでも、閉ざすでもない。それが俺たちの出した答えなんだから。俺たちは、扉を越えて生きていく、イマの世界を―。
世界の敵となった男は、最後まで信じていた。いや、信じていたからこそ、世界の敵となる道を選択した。こうする以外に、方法は存在していなかった。あの日見つめた大いなる希望。いつか、その希望が世界の決定を覆してくれることを信じていた。
そこにアーサーはいなかった。アカネたちを見つめていたのは愛を統べし者。彼はもういない、私は彼で、彼は私なのだから。だが、その語り口で伝わった真実。そう、アーサーは飲み込まれたという事実。私と共に、生まれ変わる世界を見届けようか。
ただ、立ち尽くすことしか出来ないアカネたち。愛を統べし者の背後、浮かんでいたディバインゲート。ねぇ、どうして。アオトが気づいた異変。徐々に、その体が光へと変わるタマ。アイツの心は、もう、どこにも存在しないってことなのかよ。
ふざけんなよ。怒りを隠すことの出来ないアカネ。あぁ、その怒りをぶつけてやればいい。アカネに寄り添うように現れたイフリート。俺が教えてやるよ、オマエが愛した世界は、やっぱり愛すべき世界だった、ってことを。この拳で、教えてやるよ。
大丈夫だよ、彼はきっと帰ってくる。そう声をかけたのはアオトに寄り添うウンディーネ。同じ血が、それを感じているの。ウンディーネに受け継がれた呪い。それもまたアーサーが受け継いでいた呪い。うん、だから僕たちは、僕たちのすべきことを。
ねぇ、師匠。私ちょっとワクワクしてるんだ。だって、私はいまから世界を救うんだよ。こんなことって、きっともう二度とない。ううん、二度と起こらないように頑張るね。それでこそ、ウチの一番弟子ネ。それじゃ、おもいっきり駆け抜けるよ!
私は信じてる。それがなにか、ウィルオウィスプは尋ねなかった。私が聞きたい言葉は、さよならじゃないんだよ。私が聞かせたい言葉も、そんな言葉じゃない。みんなで一緒に笑い合うんだ。私とパパとママ、父と母と姉、そして、お兄ちゃんと。
そんな表情が出来るようになったんだね。ユカリを優しく見つめたシャドウ。ええ、きっと私は変わった。だからみんな、変わることは出来るの。沢山の涙があった、だから私はいまここにいる。そんな沢山の涙を、無駄にするわけにはいかないもの。
ドライバを構えたギンジ。みんなが作ってくれた道、最後はめちゃくちゃにぶっ壊してもいいよな。あぁ、いままでよく我慢したな。となりで優しく微笑むゼロ。俺たちは真実を見届ける義務がある。こんな俺でも、イマの世界の希望なんだからよ。
始めようか、終わりの始まりを。最後の審判を。世界に訪れる終わり。生まれ変わろうとする世界。一斉にドライバを構えたアカネたち。俺たちの旅はこれでお終いだ。みんな、いままでありがとう。それじゃ、行こうか。イマの世界を生きるために。
やりたいこともない、夢なんてない、将来なんてどうでもいい。少年はいつも無関心だった。そんな少年が見つけた夢。見つめた将来。俺はイマを生きる。振り下ろされた斧。込められた最高幹部としての責務。それが、あの日の少年のイマの姿だった。
少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。だが、刻は過ぎ、少女は優しい闇に包まれていた。死神のごとく、振り払う鎌が切り開く未来。あの日の少女は夜明けを求めた。そう、夜明けの先のイマを求めた。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女。そんなあの日の少女は、最後まで笑顔だった。振り回される大剣。すべてはそう、イマの世界で笑い合うために。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。あの日の少女が巻き起こした小さな風は、やがて大きな風に。構えられた棍はイマの世界への風穴を開けるために。世界さえも変えるほどの、大きな風へと。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちていた雫。だが、その雫がもたらした恵み。あの日の少年が振るった一対の刀。悲しみの雨空を切り開き、イマの世界へ希望という虹をかけるために。
そして少年は「炎」に出会った。そして少年は「みんな」に出会った。いっぱい転んだ。だけど楽しかった。いっぱい泣いた。だけど楽しかった。思い出すのは、楽しかった出来事ばかり。俺たちはイマを生きるよ。行こう。開かれた扉の、その先へ―。
オズたちが駆けつけたとき、すでに戦いは幕を下ろしていた。立ち尽くすアカネたち6人。目の前に浮かぶディバインゲート。その間に横たわるひとりの男。はは、そんな、嘘だ、嘘でしょ、ボクは認めないよ。ねぇ、どうしてだい、ボクは、ねぇ―。
横たわったひとりの男へと駆け寄ったサンタクローズ。そして、呼び続けたのは、あの日に与えられた伝説の王の名前。あの日の僕らはもういない。俺たちはこれからを生きるんだ。お前はもう、頑張らなくていいんだ。だから一緒に帰ろう。聖夜街へ。
アーサーの最後の決断。創醒の聖者に取り込まれ、内側から封じた力。だからこそ、開かれた道。これがキミの描く物語だったんだね。嬉しいよ、結末が見れて。高揚したロキ。それなら、もう満足でしょう。そして、ロキの首に突き立てられた炎の剣。
それじゃあ、行ってくる。アカネたちは、振り返ることなく目の前のディバインゲートへ。行ってらっしゃい、少年たち。待っているのは、希望かな、絶望かな。その言葉と共に、燃え上がるロキの体。あぁ、認めよう。ボクたちの負けだよ。サヨナラ。
いつかまた会おう。アカネたちが見送ったのは、扉の中へ消える精霊王。それは差し出した希望であり、受け取った絶望。金色の光と共に消滅するディバインゲート。零れ落ちる涙。泣いてもいいじゃないか。俺たちは、不確かなイマを選んだんだから。
―あれから、少しの月日が流れた。私たちが選んだイマの世界。閉ざされた聖なる扉は、反発しあう呪いのもと、消滅が観測された。そう、争いは終わった。多くの犠牲と引き換えに、長きにわたる争いは終わったんだ。ひとりの男の最期だけを残して。
俺は納得出来ない。ギンジは声を荒げた。だが、これがアイツの望んだ結末だ。ギンジを見つめ、そう答えたダンテ。悪いが、俺も納得出来ない。ダンテに対して、そう言葉にしたニコラス。ええ、アタシも出来ないわ。そう続けたのはジャンヌだった。
僕は、少しだけわかる気がします。そう口にしたのはオズ。僕はずっと、彼を好きになれなかった。だけど、彼がいたから僕たちの未来は生まれた。そう、これが彼の望みであれば、叶えてあげるべきではないでしょうか。本当に、彼が望むのであれば。
いまさら、誰が本当のことを信じてくれるのかしら。口を挟んだユカリ。彼は世界の敵だった。そう、だった。だけど、彼がしたことに、弁解の余地はない。それ以外の方法がなかったとはいえ、彼は多くの犠牲を生んだのだから。それは消せない事実。
じっと俯いていたヒカリが溢した言葉。私は生きて欲しい。一生懸命、これからを生きて欲しい。たとえ、彼がそれを望まなかったとしても、それを望む人は沢山いるんだよ。そして、零れた涙。もう、私は嫌だよ。誰にもいなくなって欲しくないよ。
ヒカリを優しく抱きかかえたミドリ。どうにか出来ないんでしょうか。そんな言葉を口にしたミドリはわかっていた。たとえ、自分たちがその決断を下さなかったとしても、彼は自らこの決断をしてしまうと。やっぱり、こんな最後なんて、私は嫌です。
訪れた沈黙。交錯するそれぞれの想いと彼の想い。ひいては、生きとし生ける命すべての想い。そんな沈黙を壊したのはイージス。どうか、彼を救ってあげることは出来ませんでしょうか。そう、彼女が救いを求めた先。そこに神才マクスウェルがいた。
あるよ、ひとつだけ方法が。かすかに生まれた希望。もしそれを、彼が望んだら、だけど。そう、選んだ不確かなイマの世界に「完全」などという言葉は存在しない。やっぱり、最後は彼に委ねるしかないんだ。だから、彼の好きにさせてあげなよ。
これが、僕たちの選んだイマなんだね。そう、わかっていた。イマの世界でも、決して止まることのない涙。僕たちは選んだんだ。そして、僕たちに選ばせてくれたのも彼なんだ。だから、僕たちに出来ることはひとつだけ。初めから、そうだったんだ。
俺はわからない。なにが正しいのか、なにが悪いのか。だけど、きっとそういうものなんだと思う。俺たちはこれからも、迷いながら、悩みながら生きていく。そうする以外、道はない。それが俺たちの選んだイマなんだから。あぁ、最後を見届けよう。
しんしんと降り積もる粉雪。コンコン。扉の鳴る音がした。ガチャ。扉の開く音がした。お待ちしてましたよ。そう優しくエリザベートが出迎えたのは11人の人影。ご案内しますね。そして、エリザベートは歩き始めた。行きましょう、彼が待つ丘へ。
雪積もる丘の上、互いに預けあう背中。あの日、世界でいちばん近いふたりは、世界でいちばん遠い場所を見つめ合いながら、ひとつの約束を交わした。そして果たされた片方の約束。次は俺の番だな。立ち上がった片方の男。それじゃ、行ってくるよ。
残された男はひとり、静かに世界を眺めていた。そんな男の許へ歩み寄る11人。思わず涙が溢れ出たレオラ。お疲れさまでした、ボス。そして、男は振り返った。金色の瞳に映し出された11人の円卓の騎士。ありがとう、最後まで俺を信じてくれて。
思わず抱きついたフェリス。ずっと、ずっと、ずっとずっと会いたかった。そんなフェリスを優しく抱き締めかえした男。ふたりを見て、優しい笑顔を浮かべたローガンとブラウン。長生きはするもんですな。あぁ、おかげで素敵な光景を見れました。
あんたが見たかったのは、イマの世界だったんだな。そう溢したロア。ったく、格好つけやがって。同調したラン。だけど、もういいさ。俺たちはいつだって、あんたが見たい景色を見たいんだから。そう、いまも昔も、それは変わってなかったんだ。
ただ見つめていたヒルダ。いいんですか、彼のこと殴らなくて。そう笑ってみせたアサナ。ふんっ、私だって空気くらい読めるわよ。ふふ、らしくないですね。思い出したかのように、ヒルダは右手を強く握り締め、そして俯きながら肩を震わせていた。
ミレンとオリナ、ふたりは肩を並べ、優しく男を見守っていた。ありがとう、アタシはボスが守ってくれた世界を、広い世界を大切にするよ。ええ、とっても素敵な目標じゃない。そして、ミレンがひとり溢した言葉。それならきっと、彼は報われるわ。
なんて声をかけたら良いかわからないアスル。そんなアスルへ向けられた一言。こんなに、背が伸びていたんだな。それは、近い距離だからこそ言えた言葉。ようやく訪れた幸せな時間。だが、その幸せは長く続くことはない。そろそろ、いいかしら。
現れたリオ。リオの姿を見てもなお、優しい顔の男。リオの訪れがなにを意味しているか、わかっているのにも関わらず、男は優しい顔をしていた。俺の望みを叶えてくれて、ありがとう。君は決して裏切り者ではなかった。君を迎え入れて良かった。
もう、思い残すことはないか。その言葉とともに現れたライル。あぁ、ないと言えば嘘になるな。男はそう答えた。なら、その選択をすればいい。目を合わせようとしないライル。そう、ライルはその選択をさせたかった。―行こうか、処刑の時間だ。
聖夜街の外れ、雪降り積もる世界。沢山の人が見守る中、処刑台へと上ったひとりの男。愛する世界のため、世界の敵となることを選んだ男、コードネーム・アーサー。俺がすべての責務を果たそう。そして消えよう、聖なる扉の最後の欠片として―。
ライルの持つ聖剣が貫いたアーサーの体。その聖剣を持つ手は震えていた。引き抜かれると同時に、真っ赤に染まりゆく真っ白な雪。そして、ライルは俯きながらアーサーに聖剣の鞘を差し出した。……なぁ、選択しろよ、お前が本当にどうしたいかを!
いつその力が暴走するかもしれない聖なる扉の欠片であったアーサーを救う唯一の方法、それは鞘の力を使い、その体を普通の人へと修復すること。鞘を受け取ったアーサーは残された命を振り絞りながら、世界を見つめていた。あぁ、俺は決めていた。
そう、決めていたはずなんだ。だが、どうして。俺は死ぬのが怖いのだろうか。瞳から零れ落ちた涙。そうか、俺が恋した世界は、みんながいたから愛せたんだ。もし、許されるのなら、いや、許されなかったとしても、俺はイマの世界で生きたいんだ。
あの日、否定され続けた命は肯定された。そして刻は経ち、再び肯定されたその命。アーサーを包み込んだ鞘の光。みな、口を揃えてこう言った。世界の敵だったアーサーは処刑された、と。そして、みな、口を揃えてこう続けた。お帰りなさい、と。
西暦2017年5月28日、聖なる扉の消滅を観測した。終わりを迎えた聖暦という時代、終わることのないイマの統合世界<ユナイティリア>。炎の少年、水の少年、風の少女、光の少女、闇の少女、無の少年、6人の長き冒険の旅は終わりを迎えた。