降り立った光の正体はリリンだった。次はこの世界に絶望を与えようか。まさか、あいつらが負けたとか言わねぇよな。震えが収まらないヒスイの肩。嘘だよな、嘘だよな、嘘だよな。そして、込み上げた悲しみは怒りへと。だったら、俺が終わらせる。
力任せに棍を振るうヒスイ。何度リリンに弾かれようと、リリンへ立ち向かい続けるヒスイ。怒り、悲しみ、憎しみ。だが、そんなヒスイを我に返した言葉。オマエはひとりじゃない。いつもありがとう。そう、ヒスイの後ろから聞こえたふたりの声。
ヒスイの左側、立っていたのはヴラド。部下どもが、オレに生きろ生きろって、うるさくてさ。そう、魔界での死闘、ヴラドの決死の特攻を制止していたのはファティマだった。それに、オレはいつまでも助けられる側じゃイヤなんだ。なぁ、親友。
ヒスイの右側、立っていたのはオベロン。君がいたから、俺たちはここにいられる。だから、最後は共に並ぼう。俺たちは3人でひとつなんだよ。かけられた言葉。お前ら、やっぱり最高だよ。そして、始祖との戦いは常界へと場所を移し、再開された。
リリンに対して、3人横に並んだヴラド、ヒスイ、オベロン。場所は常界であれ、そこには各世界の希望が集まっていた。俺たちが3人揃えば、怖いもんはない。あぁ、そうだな。うん、そうだね。共に選ぼう、決して終わらせやしない、イマの世界を。
そして、天界、魔界の全勢力の戦いは無駄ではなかった。すでに創魔魂、創精魂を失っていたリリン。アイツらは、立派に仕事をしてくれた。そう褒め称えたヴラド。ありがとう、みんな。感謝を口にしたオベロン。だから、今度こそ決着をつけよう。
ここまでの働きとは、予想外だったよ。少し喜びをみせたリリン。そう、私は望んでいたのかもしれないな。その言葉は誰にも届かない。だがそれは、確かにリリンの口からこぼれた真実。始祖である彼女は、いったいなにを望んでいたのだろうか。
再び決定者の竜の血を解放したヴラド。そして、共に決定者の神の血を解放したオベロン。続いて、ヒスイが解放したのはかつて神界統一戦争の敗者となった世界を統べていた天空神の血。そう、3人が合わせた力は、決定者ひとり分の力を超えていた。
最初の攻撃を放ったのはオベロンだった。その手に集められた光の力。そして、その予想外の行動に、思わず笑みを浮かべてしまったヴラドとヒスイ。オレたちも、負けてらんねぇな。変色したヴラドの左腕。そして、まるで竜のように踊るヒスイの棍。
次々にリリンへと放たれる攻撃。そして、その攻撃をかわすことなく、一撃、一撃と丁寧にその体ひとつで受け止めたリリン。そして、リリンは確信した。この痛みこそが自分の生まれた存在理由だったと。私は嬉しい、嬉しいよ。もっと、全力でこい。
激化する戦い。交わされない言葉。だが、それでも交わされていた想い。神々が創る未来に、意味はあるのだろうか。たとえ、神々が創らずとも、世界は廻り続ける。その選択をするのは、私たちじゃなかった。そう、選択するのは彼らだったんだ。
それじゃ、オレから先に行ってくるわ。ヴラドが決めた二度目の覚悟。だから、コイツのこと頼むな。ヴラドがヒスイへ向けた言葉。ヒスイはヴラドの言葉の意味に気づいていた。そして、ヴラドを止めはしなかった。それが、お前の決めた道なんだな。
オレの身に宿る竜の血よ、オレにあの日と同じ「守る」力を与えてくれ。そう、ヴラドが選んだ「守る」べきイマの世界。そして、覚悟を込めた一撃。すかさず、後を追うオベロン。ううん、ひとりじゃ行かせない。共に行こう。共に「戦う」力を俺に。
昔々、ふたりの王様がいました。ひとりの王様は「変革なき平穏」を求めました。ひとりの王様は「犠牲の先の革命」を求めました。やがて刻は経ち、ふたりの王様が歩んだひとつの道、それは「イマを生きる者たちへ、終わることないイマの世界を」。
どうして…。立ち尽くしたヒスイ。どうしてなんだよ!返ってこない答え。自らの子らの成長と引き換えに、始祖リリンは最期を迎えた。そして、イマの世界と引き換えに、聖魔王ヴラド、聖精王オベロンは最期を迎えた。なんでだよ、なんでなんだよ!
聖神への裏道を抜けた先に広がっていた景色、それはかつて聖王の根城とされていたアヴァロンそのものだった。やっぱり、寂しかったんじゃないか。アカネがこぼした言葉。そして、その言葉に応えるかのように現れた仮面の男。いらっしゃいませ。
そう、現れたのはロキだった。聖人のみなさまは、ご退場願えますか。鳴らされた指先。隔離されたニコラスとジャンヌ。それじゃあ、ボクは聖人のみなさまと遊んでくるよ。姿を消したロキ。そして、ロキの代わりに現れたのは北欧神の6人だった。
スルトと対峙したアカネ。下等な人間がいくら足掻こうと、世界の決定は覆らない。訪れるのは、約束された未来だけだ。否定するアカネ。いいや、違う。俺たちは不確かなイマを生きる。約束された未来なんかいらない。俺は、みんなと生きていく。
ふふふ、これで邪魔は入らないわね。アオトを前に、頬を紅潮させたシグルズ。そこをどいて。ただ睨みつけるアオト。僕たちは君たちを相手している場合じゃない。もっと先へ、イマの世界を進んでいかなきゃいけない。僕たちの足で歩いていくんだ。
私はあなたを憎んでいた。ヘズを見つめたミドリ。だけどね、憎しみはなにも生まないんだよ。私は過去を憎むことよりも、イマを一生懸命生きていきたい。私が出会ったみんなの、大切を守りたい。そう、私はみんなと生きる、イマを守りたいんだ。
ちょっとぶりだね。ヒカリと対峙し、嬉しそうなオーディン。でも、遊んでいる暇はないかな。構えられた槍。私も遊んでいる暇はないの。対するヒカリ。確かにイマの世界は完璧じゃないよ。でもね、それでも私は、イマの世界を愛してるんだから。
あら、いったいどうしたの。ヘグニは不思議だった。そう、それは再会を果たしたユカリの表情が以前とは違っていたから。そう、憎しみではなく、希望を宿していたユカリ。私は約束をした。私は過去に生きるんじゃない、私は私のイマを生きるって。
ねぇ、いま統合世界は大変なことになってるみたいだよ。ギンジへと語りかけるヘルヴォル。だから、どうした。決して動揺することのないギンジ。俺は、みんなに支えられてここまで来た。だから、俺は統合世界のみんなを信じる。それだけの話だ。
北欧神と対峙したアカネたち。そして、開いていた裏口から遅れて現れた妖精。これをアンタたちに、って。現れたのはモルガン。なんで、アタシなんかに託したのよ。モルガンがアカネたちに届けたのは聖剣の鞘ではなく、6つのドライバだった。
ありがと、お姉ちゃん。それじゃ、アタシは帰るから。そして、モルガンは裏口へ。そんな裏口ですれ違ったひとりの男は、アカネたちを飛び越え、北欧神の目の前へ。さぁ、北欧神の皆様へ魔法をおみせしましょう。種も仕掛けもない、僕の魔法を!
植えつけられる神格。だが、それは確かなものではなかった。そう、その神格に耐えうる肉体、そして精神。幾度となく、植えつけられては死にゆく人間。そう、私は選ばれた。だが、私は選ばれなかった。堕愚者ロプト、それは悪戯神になれなかった男の成れの果て。だとしても、私は私の存在意義を見出すだけだ。
綴られし存在に本物の家族など存在していなかった。血の繋がりなど存在していなかった。だが、確かに本物の家族は存在していた。血の繋がりよりも、遥かに強い想いの繋がり。そして、沢山の想いが繋いだひとつの命。帰ってきたオズ。そう、たった四文字を、どれだけ待ちわびていただろうか。みんな、―ただいま。
本当に、いいんだね。そう問いかけたのは聖精王。あぁ、みんなそのつもりだ。そう答えたイフリート。揃って首を縦に振った精霊王たち。綴られし存在に与えられた禁忌の血。それは呪いだった。私たちにも、その呪いを背負わせて欲しい。私たちの心はひとつなんだ。共に、イマの世界のために戦わせて欲しいんだ。
ウンディーネたちは気づいていた。自分たちに禁忌の血が分け与えられる意味を。きっと、私たちは永遠の存在になるんだよね。だけど、それでいいの。私たちはこれから先も、イマの世界を守り続けなきゃいけない。そんな大切なお仕事が出来るなんて、とっても素敵だと思うんだ。やがて、永遠の孤独が訪れようとも。
ウチらの可愛い弟子たちのためアルネ。シルフはいつもどおりに笑ってみせた。もちろんあの子たちも、すべてをわかったうえで背中を押してくれたヨ。だから、ウチらは選択したネ。ううん、あの子たちがいたから、ウチらは選択出来たアルネ。それに、王様にだけ業を背負わせるなんて、そんなこと選択出来ないヨ。
ウィルオウィスプに与えられた禁忌の血。取り戻した体。だが、それは決して喜ばしいことではなかった。この呪いは、私たちで終わりにしましょう。じっと見つめ返した聖精王。いまにもこぼれそうな言葉。ううん、あなたがその言葉をいう必要はないんですよ。だからどうか、イマの世界だけを見つめていて下さい。
少しだけ、怖いかもしれない。そう溢したシャドウ。だけど、きっと怖いのは私だけじゃない。私たちだけじゃない。きっとみんな怖い。色々な恐怖と戦っている。だから、私が安らぎをもたらさなきゃいけない。そう、だから私は乗り越えてみせます。取り戻した笑顔。イマの世界のために、みんなの安らぎのために。
なぜだろう、呪いのはずなのに温かいのは。それは体を取り戻したからではなく、聖精王の想いがその体に流れ込んできたから。それじゃあ、行くとしようか。再びドライバへと戻った精霊王たち。どうか彼らに力を。終わる世界に抗う力を。願うことはただひとつ。私たちは生き続けよう、終わることないイマの世界に。
オズが空高く放り投げたシルクハット。そして、次々に現れる炎のシルエット。僕はひとりじゃなかった、そう、昔もイマも。被りなおしたシルクハット、亡き友のクラウンは友情の証し。次は僕がケジメをつける番です。まとめて相手をしましょう。
ありがとう、みんな。そう、ミドリの言葉はオズと共に現れた炎の家族たちへ。君たちは、君たちのすべきことを。そして、僕たちは僕たちのすべきことを。再び走り出したアカネたち。目の前の虚城で待っているであろう聖神。統合世界のイマを―。
行かせないわよ。一番に動き出したのは双剣を構えたシグルズだった。だが、そんなシグルズへと向かったのは、オズの背後から飛び出した炎で創られたトト。そう、オズの家族はここにはいない。だが、オズは家族の想いを連れてきていたのだった。
ねぇ、私のこと覚えているかしら。とでも言いたげなドロシーの炎。そして、その言葉は目の前のヘズへ。かつて、ヘズの槍が貫いたドロシーの体。訪れた再戦。何度でも、貫いてあげる。ヘズは槍を振り回し、そして瞳に捉えた獲物へと刃を向けた。
いつも不機嫌なヘグニが更に不機嫌な顔を見せたのは、目の前のオズが持つ力を気にしていたからだった。かつて、北欧神たちの力を奪ったオズ。それは北欧神たちの力を引き出すドライバが竜から創られていたから。そして、それはいまも変わらない。
ちょっと、やっかいな相手かもしれない。オーディンも状況を理解していた。そう、神により綴られた竜であるオズは、北欧神たちの力へ干渉出来るということを。だけど、せっかく帰ってきたのに、まさかそんな簡単に命を無駄遣いしたりしないよね。
そこに価値を感じるか、それは彼次第ってことだね。ヘルヴォルは襲いくる炎のブリキをいなしながら、オーディンの疑問に答えた。そして、いまの僕たちに言えることはただひとつ。そうさ、さっさと目の前の彼を殺してしまえばいいだけなんだ。
オズへと切りかかるスルト。そして、オズはステッキにも似た炎の剣で受け止める。僕は沢山の過ちを犯した。僕の犯した罪は僕が背負う。だから、僕は償いながら、イマの世界を生きるんです。そう、オズは真っ向から立ち向かう覚悟を決めていた。
どうかみんな、僕に力を貸してください。オズの背後を守るように集まった5つの家族の炎。そうです、僕はただの道化竜。最後まで、道化を演じさせてもらいます。さぁ、最上級の魔法を。みんながいるから、僕がいるんです。まずはこちらをどうぞ。
天高く掲げた左手、そしてその左手から更に天高く昇るのは真っ赤に燃える火竜。鳴り響く咆哮は、かつて完全なる落日の終焉に鳴り響いた竜の咆哮。そう、その昇りし竜は古竜王だった。あなたはずっと、私の中に生き続ける。共に燃やし尽くそう。
ノアの炎はあたりをたちまち炎の海へ。そこに言葉はなくとも、伝わる想い。終演のときまで、誰ひとり逃げ出すことは許しません。アカネたちを見失った北欧神たちは次々とオズへ刃を向ける。そして、一番最初に飛び出したのはオーディンだった。
その力の正体、確かめさせてもらうよ。オーディンの槍を弾いてみせたオズ。そう、力を持たず生まれたオズが、どうして対等に渡り合えるのか。そして、続く二撃目はヘルヴォルだった。手品っていうのはね、必ず種と仕掛けがあるもんなんだよ。
そんなヘルヴォルの刃さえ弾いてみせたオズ。だから言ったでしょう、種も仕掛けもありません、と。そして、右手から放った炎が貫いたヘズの体。左手からの炎はシグルズの足を貫く。これは僕の力じゃない、だけど、これが僕の役目だったんです。
無力なオズに綴られた物語の結末。解放されたオズの力。世界の終わりに最後まであがく命、それが僕です。次々とオズにより制される北欧神たち。そして、僕はその綴られし運命に従った。だが、それがなにを意味しているのかわかっているのか。
それはスルトからの問い。僕の運命の最後の頁を彼が閉じるまで、僕はあがき続けます。そして、その運命が絶たれることを信じて。そう、だからオズは前だけを向いていた。そして、その力は北欧神の力を凌駕したのだった。これが、僕らの魔法です。
すこし、悪戯が過ぎるんじゃないか。ロキの背後、現れたのはシャルラを引き連れたラウフェイ。ごめんね、ママ。口先だけで謝るロキ。そんなロキたちに対するは、ジャンヌ、ニコラス。私は貴様らに問う。自分の命より、なぜこの世界を選んだのだ。
いまさら、その問になんの意味もないわ。ラウフェイへと槍を手に飛び掛ったジャンヌ。ふたりの間に割って入ったシャルラ。そして、そんなシャルラへ銃口を向けたニコラス。次の瞬間、一歩でも動けば誰かの命が失われる。そんな緊張が訪れていた。
そして、そんな緊張を楽しげに眺めていたロキ。ねぇ、誰かボクのこともかまってくれないかな。だったら、オマエに俺からとっておきのプレゼントをやろう。ニコラスがロキへと放り投げた球体型ドライバ。そして、そのドライバから人影は現れる。
ロキへと飛びかかる人影。真上に振り上げられた釘バット。振り下ろされると同時に起きる爆発。そうだよね、キミのパパは裏切ってたんだ。だとしたら、キミが処分されたという報告も当然偽造されてた、ってことだね。そうだろう、サンタクローズ。
ロキ、俺はアイツを返してもらいに来た。そう、現れたサンタクローズ。返すもなにも、この選択は彼自身が決めたことだよ。そう返したロキ。だとしたら、力ずくでアイツを連れ帰るだけだ。それは本当に、イマのアーサーが望んでいることなのかな。
アイツが望んでいなかったとしたら、俺が道を正してやるだけだ。サンタクローズの周囲に展開される無数のドライバ。そのドライバの群れと共に再びロキへと一直線に飛びかかる。一本、一本、ドライバを壊されながらも、決して攻撃を止めやしない。
ロキはすべての攻撃を防ぎながら、それでいて楽しそうな顔を続けていた。ねぇ、キミは気づいているよね。キミがつけたアルトリウスという名前、それがすべての始まりだったんだ。そう、アーサーを王にしたのはキミだ。神にしたのもキミなんだ。
少し、相手が悪かったですわ。いくら議長の使徒とはいえ、聖人であるジャンヌの攻撃を防ぐので精一杯のシャルラ。そして、攻撃の手を休めることなく、槍を振るい続けるジャンヌ。あなたも人間なら、わかるよね。それはジャンヌの希望でもあった。
さすがは、元天界の王といったところね。互いに、一歩も引くことなく互角の争いを繰り広げるラウフェイとニコラス。いや、俺は元天界の王として戦ってるわけでもなけりゃ、聖人として戦っているわけでもない。ただの父親として戦ってるだけさ。
ロキの言葉を受け、攻撃の手を止めたサンタクローズ。そうさ、俺がアイツの人生を狂わせた。そして、再びサンタクローズはドライバを展開する。だから、もっと狂わせてやる。あぁ、そうさ。俺がアイツを、神様から人間に堕としてやるんだよ。
だが、サンタクローズとロキの間に割って入った新たな人影。それはロプトだった。サンタクローズの攻撃を受け、壊れたロプトの仮面。露になったのは神になれなかった証。どうもありがとう、もうひとりのボク。そして、ボクになれなかったボクよ。
ロキへの攻撃を、すべてその身で受け止めるロプト。予期せぬ横槍に、苛立ちを隠せないサンタクローズ。だが、次の瞬間、ロプトへと襲いかかったのは無色の炎。この戦い、私にも介入させてもらう。無色の炎の正体は、続いて現れたカナンだった。
悪いが、そっちを任せてもいいか。ええ、構わないわ。私たちの最終目的は同じなのだから。そしてカナンの両手から生まれた無色の渦。その渦から飛び出してきた無色の竜。すべてを喰らい尽くしなさい。無色の竜は目の前のロプトを捉えていた。
迫り来る竜の猛攻をかわすことしか出来ないロプト。そう、ロプトは感じていた。この竜に触れただけで、その身が無に帰されると。だからこそ、カナンへ反撃する一瞬のチャンスを狙っていた。そして、カナンはその場を一歩も動こうとはしなかった。
訪れた一瞬の隙。カナンへ刃を投げつけたロプト。そして、その攻撃と引き換えに、その身を竜に喰われたロプト。そして、投げられた刃をその身で受けたカナン。かすかに切れた体から流れ出した血。あなたが生きた証、この身に刻んでおいてあげる。
なかなか、しぶといじゃない。シャルラを相手に、息を切らしていたジャンヌ。それは、ジャンヌがシャルラを殺さないように戦っていたからだった。その甘さが命取りだ。シャルラの体を貫き、そのままジャンヌを貫いた氷の刃。アンタって、最低ね。
そう、シャルラの背後から、シャルラごとジャンヌを貫いたのはラウフェイだった。急いで駆け寄るニコラス。もう、アタシなにしてんだろ。もういい、ゆっくり休んでろ。そして、悲鳴さえ上げることの出来ないシャルラ。人間の血は、絶えるべきね。
そして、再び対峙したラウフェイとニコラス。いい加減にしろよ、オマエら。ニコラスが展開した無数のドライバ。その数は、サンタクローズが展開したドライバ数を遥かに凌駕していた。なぁ、選べよ。自分で死ぬか、俺に殺されるか、どっちがいい。
ラウフェイの周囲の神魂をひとつ残らず消し去るニコラスの攻撃。だが、それでも表情を崩すことのないラウフェイ。私はただ決定に従うだけ。だからこそ、ラウフェイは死を恐れはしなかった。新しい世界、私は再び生まれることが出来るのだから。
じゃあ、俺に殺されろ。ラウフェイの体に突き刺さる無数のドライバ。これが、オマエへの最後のプレゼントだ。そう、ニコラスの「最後」には希望が込められていた。新しい世界なんか、もう必要ないんだ。決して、イマの世界を終わらせたりしねぇ。
再び、場面はロキとサンタクローズへ。ボクのこと、そんなに殺したいのなら、殺せばいいさ。そう言いながら、ロキはサンタクローズの攻撃をあえて受けてみせた。まだ、ボクにも赤い血は流れていたんだね。ハハハ、はははは、ハハハハははハハハ。
なにがおかしい。そして、サンタクローズは手にした刃をロキの首筋へと添えた。世界の決定は覆らない。だって、ボクは彼をさ、聖神アーサーを信じているから。だから、新しい世界でボクはまた生まれる。そうだよ、ボクは永遠の存在なんだから。
楽しかったな。色々と楽しかった。ボクはボクのやりたいようにやった。後悔はないよ。ボクはボクで、イマを生きたんだ。だって、キミたちはこんなにもボクたちを追い詰めた。だから、ボクの役目はそろそろお終いだよ。ありがとう、抗ってくれて。
それが、お前の遺言だな。そして、サンタクローズは刃を握り直した。お前の言う新しい世界なんか、訪れやしない。俺たちは誰もそんなこと望んじゃいないんだ。少しずつでいい、俺たちは少しずつ、確実によりよい未来へと歩いて行けるんだから。
それじゃあ、これでお別れだ。サンタクローズの刃が動き出した瞬間、辺りに響き渡った声。待ってください。そう、その声の正体はオズによるものだった。少し、待ってください。サンタクローズへと歩み寄るオズ。彼に、結末を見届けさせましょう。
ようやく見つけた。その言葉はずっと行方不明だったジョーイによるものだった。こんなときに、邪魔するんじゃねーよ。その言葉はライルのものだった。そう、ふたりの邂逅が果たされたのは天界の聖夜街の外れ。オレたちはいま、忙しいんだ。
だが、そんなライルの言葉が聞こえていないのか、聞こえていないフリをしているのか、ジョーイは本能の赴くままにライルへと刃を向けた。あー、もうイライラさせんじゃねぇよ。そんなジョーイの刃をいとも簡単に弾いたライル。少し遊んでやるよ。
やっぱり、殺し合いだよね。いつになく楽しそうなジョーイ。そして、いつになく不機嫌なライル。ここは、綺麗にしとかなきゃなんねぇんだよ。そう、ライルは聖夜街の外れで準備をしていた。せめて、最期はここがいいだろうと思ってさ。そこは―。
―かつての聖王であり、聖神アーサーの処刑場だった。真っ白な雪が降り積もる始まりの景色。それなら、終わりもここが本望だろう。だから、ここを汚すわけにはいかない。わぁ。ひと突きで訪れた終焉。ジョーイは、最期のときまで楽しそうだった。
終わったのね。そう言いながら現れたリオとモルガン。そして、モルガンが手にしていた聖剣の鞘。やっぱり、アイツを殺すのはオレの役目なんだ。だから、早く連れ帰ってこいよ。そう、すでに統合世界ではアーサーの処刑の準備が進められていた。
神界に模されて創られていた理想郷アヴァロン。その最奥の玉座にひとり腰をかけていた聖神アーサー。彼は終わる世界を見ながら、なにを考えているのだろうか。なにを想っているのだろうか。彼の心を知るのは彼ひとり。そして、最後の幕は上がる。
思い返せば、それは短い道のりだった。そして、長い道のりだった。始まりは雪降る聖なる夜。ふたりの優しさが生んだ親友との出会い。そして、その出会いが決定付けた彼の生きる道。選ばれた王道。王たるものは民に弱さを見せることは出来ない。
やがて王は闇へと堕ちた。堕ちようとも、王が見つめていた希望。その希望がもたらしたのは神への道。そう、神たるものは王に弱さを見せることは出来ない。だから俺は決して立ち止まることは出来ないんだ。それが、神という存在なのだから。
神は王へ、民へ恵みを与えると同時に、必ず試練を与える。それが正しいのか、間違っているのか。議論の余地はない。それが神の存在意義なのだから。イマの世界へ与える試練。そして、代わりに与えられる恵みは生まれ変わる世界。それが世界の理。
神話の時代から、世界は常に崩壊と再生を繰り返していた。そこに疑問を抱く神々は少なかった。そう、今回の世界が生まれ、イマのために戦う者たちが現れるまでは。だが、なぜ今回の世界はその輪廻の歯車から外れようとしているのだろうか。
数多の因果が絡まりあい、生まれてしまった禁忌の子。そして、沢山の愛情に包まれながら、生きてしまった禁忌の子。だからこそ、その子だけは理の外側にいた。そうさ、俺に出来ることは、もう少ししか残されていないんだ。それは、なんのためか。
それとも、誰のためか。ただ、アーサーは終わりゆく世界を見つめながら、自分のやるべきことを見据えていた。どうか、世界が平和でありますように。それは、いつか彼が抱いていた希望。どうか、世界に幸せが溢れますように。それもまた、希望。
少しずつ、近づく足音。その音は7つだった。ようやく、あいつらが来たみたいだ。真剣な表情だったアーサーの口角が少し上がる。彼らは、希望だろうか、絶望だろうか。そう言葉を口にしたのは、音もなく現れた創醒の聖者。さぁ、どっちだろうな。
世界の終わりというのは、いつも悲しいものだ。無表情のまま、似合わない言葉を口にした創醒の聖者。君はいま、どちらを見つめている。アーサーのほうを向くことなく、問いかけたのも創醒の聖者だった。俺が見たい景色は、昔もイマも変わらない。
そして、創醒の聖者は続けた。幾重にも連なった悲しみの連鎖、それを終わらせることなど出来はしない。だが、それでも君が望むのなら、その世界を見せよう。映し出された世界。これが君の理想とした世界だよ。そこにはひとつの扉が浮かんでいた。
ただ、なにもない空間。浮かんでいた扉。その扉は瞳にも似ていた。そして、その瞳にはなにも映ることはない。これが、私たち聖なる扉<ディバインゲート>が見つめる世界だ。私たちの瞳には、決してなにも映らない。世界の歩みは止まるのだから。
悲しみの連鎖が途切れること、それは世界の進歩を止めるに等しいこと。だから、その世界にはなにも存在していない。その世界は絶えるのだから。だからこそ、私たちは世界を創り直す必要がある。そう、これは生きとし生ける命のためなのだから。
そうだな、俺もそうだと思う。そう答えたアーサー。いや、思っていた、と言ったほうが適切かもしれないな。そう言い直したアーサー。いいや、いまさらなにを言っても変わりはしない。そう続けたアーサー。君はいったい、なにを思っているんだい。
俺は俺の、成すべきことをするだけさ。それが、この世界の終わりだと知ってのことか。あぁ、それでも俺は構わない。たとえ世界が果てようと、それでも新しい芽は生まれる。やがて、花は開く。俺はその可能性を信じる。それが俺の見た希望だ。
そんなことのために、君は自分を犠牲にするというのかい。アーサーから抜け落ちた感情。失われていた自己愛、残されていた慈愛。そう、それこそが世界の理の外側の存在であるがゆえ。ようやくわかったよ。君という存在は、世界に存在していない。
かつて、聖王アーサーという存在は間違いなく世界の中心に存在していた。だが、その心はその世界には存在しているようで、存在していなかった。創醒の聖者が世界そのものを形創るのだとしたら、アーサーが形創ろうとしていたのは、世界の外側。
理の外側、そう、唯一の世界の外側の存在であるアーサー。彼が成すべきこと。それは世界の外側から、世界の理に干渉すること。すなわち、世界の内側を司る聖なる扉への干渉。消滅。いまの俺なら、それが出来るだろう。そう、俺は成すべきことを。
かつて、堕ちし王が選んだ神への道。それは決して絶望の道ではなく、希望の道だった。やはり、この世界にディバインゲートなんて必要ないんだ。だからこそ、俺がこの繰り返された崩壊と再生の歴史に終止符を打とう。イマを生きる命をかけて。
入口が存在するから出口が存在するかのように、内側が存在したからこそ存在した外側。ならば、私は君を喰らうことで、完璧な存在になれるのだろう。そして、俺はその言葉をそのまま返させてもらう。そう、共にひとつになろう。聖なる扉として―。
アカネたちが辿り着いた王の間への入口。重い扉から溢れ出した金色の瘴気。そう、この奥にアーサーがいる。意を決して開かれた扉。置かれていた玉座。たった「ひとり」の人影。ようこそ、聖なる扉の間へ。君たちを歓迎しよう、そう―この私が。
ひとつひとつの小さな愛が形作る小さな世界。そして、やがて生まれた大きな世界。真っ白な世界、飾られた地図、そして世界に恋をした少年。少年は歳を重ね、世界を愛した。やがて、世界のために命を差し出した。それもまた、小さな愛が作った世界。聖なる扉に包まれた命。すべては、聖なる扉を討たせるために。
聖なる扉が壊れれば、世界は扉が現れる前の状態に戻るだろう。だが、それはイマを否定するのと等しい行為。扉によりもたらされた沢山の悲劇。だが、それでももたらされた沢山の喜び。幾億の命のすべてを肯定するために、少年少女たちがすべきこと。さぁ、聖なる扉は開かれた。進もう、すべてを肯定するために。