西魔神エギュン、彼もまた神格と引き換えに自我を失っていた。だが、神格を得ることと、自我を失うことはイコールではない。自我を失う、いや、自我を奪うという選択をしたのは終教祖だった。僕以外に、存在価値なんてないんだから。また、ご冗談を。相槌を打った執拗竜。だが、終教祖の目は笑っていなかった。
本当は笑いたかったのかもしれない。叶わない現実。本当は生きたかったのかもしれない。叶えられない現実。本当は、本当は、本当は。だが、終教祖により抑え込まれた本当。そう、嘘を突き通せば、それは本当になるんだよ。だから、東魔神サマエル、君は嘘を突き通してよ。ただ世界を壊したいという嘘を。
僕は君たちに約束しよう。終教祖が差し出した掌。必ず、新しい世界を創ってみせると。その約束は、終教祖の心からの想いだった。だが、その約束には犠牲が必要とされた。ねぇ、北魔神マハザエル。君に新しい世界を創ると約束したけどさ、新しい世界に連れて行くとは言ってないよ。可愛い可愛い、ボクの僕ちゃん。
やっと見つけた。天界のはずれ、ひとりで空を眺めていたモルガンの前に現れたのは聖精王だった。少しだけ、話をさせてもらえないかな。ふたりがどんな会話をしたのか、再会を果たした親子の会話に、聞き耳をたてるものはいない。だが、かすかに聞こえてきた言葉。ありがとう。ごめんなさい。そして、さようなら。
もう、僕たちの出番さ。常界に降り立ったメイザースとティルソン、与えられた神格にのみ生かされる4人の新魔王ならぬ新魔神。この世界に偽りの教祖など要らぬ、偽りの神など要らぬ、偽りの王さえいればいい。対峙したのはクロウリーたちだった。
アザエルと対峙したパイモン。私たちの王に、指一本触れさせやしない。広げた扇と共に、アザエルへと飛び掛るパイモン。だが、アザエルはほんの僅かな動きで、その攻撃をかわしてみせた。そう、それは植え付けられた神格がなせる動きだった。
パイモンを包み込むアザエルの炎。貴様のこれが、神が与えた力だというのなら、世界を滅ぼす力だというのなら。奪われるパイモンの体力。だが、それでも耐えてみせたパイモン。私の炎は、あの人のために、イマの世界を守るためにある力なんだ。
貴様は主から神の力を与えられたかもしれない。だが、私たちは主からそれ以上のものを与えられた。そう、私がいまここにいられるのは、あの人がいるからなんだ。異なる主を持ち、違う道を選んだふたりの旧魔王。さぁ、雌雄を決するとしようか。
燃え上がり、やがては消える炎。そう、アザエルの炎は消えた。そして、ときを同じくしてパイモンの炎も消えた。それでも、パイモンは決して倒れなかった。私は約束したんです。ずっと一緒にいるって。その言葉が、パイモンを生かしたのだった。
アリトンの刀が斬り裂くのは、エギュンから伸びた無数の触手。だが、いくら触手を斬り捨てようと、その触手は無限に生まれていた。これじゃあ、きりがない。対するエギュンは、ただ不敵な笑みを浮かばせていた。そっか、僕はここまでなんだね。
アリトンが決めた覚悟。そして、アリトンは自身に残された力をすべて解放し、纏ったのは大きな水竜。君ごと、すべてを飲み込もう。そして、ともに帰ろう。母なる海へと。悪くないよ、こんな終わりも。僕は僕なりに、楽しい人生を過ごせたんだ。
ハハハ、ハハハハハ。狂気を纏ったアリトン。そうだよ、僕は悪魔だ。この世界に、僕は必要ないんだ。そして、水竜を纏いしアリトンは空を泳いだ。次の瞬間、鳴り響く竜の咆哮。エギュンを飲み込みながら、水竜は地上の果てへ、母なる海へと。
そうさ、これでよかったんだ。海へと沈んだアリトン。その瞳に捉えたエギュンの最期。そして、アリトンは海の底へと沈み続ける。そう、アリトンにはもう這い上がる力は残されていなかった。だが、沈みゆくアリトンは、ある言葉を思い出していた。
違う、これじゃダメだ。そう、最高の現世は終わらない。イマの世界を僕たちは生きなきゃいけない。アリトンを生かしたのもまた、心に住まう散った少女の想い。そんなアリトンの体を優しく抱きかかえ、海から救出したのはサミダレ:グスクだった。
すでに始まっていたオリエンスとサマエルの死闘。けひひ。ケヒヒ。互いに発する狂気の風。その風が切り裂く身体。ねぇ、あんたらは神の力を得て、それで幸せなの。問うオリエンス。だから私は、そこがあんたらの居場所なのかって聞いてんのよ!
サマエルは問に答えることなく、ただ狂気の風を発し続ける。いくらオリエンスとはいえ、神格を植え付けられたサマエルを相手に、無事ではいられない。奪われた両足の自由。空からの攻撃を受け続けるしかないオリエンス。もし、私に翼があったら。
それなら、貸してもらえばいいよ。そんな言葉とともに、オリエンスとサマエルの間に割って入ったニミュエ。先生!?久しぶりの再会。あのとき、私は君たちを救えなかった。だから、イマくらいは先生をさせて。ほら、お友達を助けてきたんだから。
オリエンスが振り返る間もなく、オリエンスの身体は上空へ。翼くらいになら、私にだってなれるわよ。そう、オリエンスの身体を抱え、空を飛んでいたのは先の戦いで傷ついたラプラスだった。さぁ、みせてあげてよ、あなたの狂気を孕んだ風を。
友達だったふたりの少女。別たれた道。ふたりが果たした再会。気持ちいいわね。風をかきわけ、空を飛ぶ。いつかさ、また4人で遊ぼう。交した約束。それじゃあ、さっさと殺ってやろうじゃん、けひひ。こうして、新旧東魔王の戦いは幕を閉じた。
それがオマエの忠誠だってんなら、俺が正面から受けてやるよ。マハザエルと対峙したアマイモン。響き渡る獣の唸り声と無数の銃声。いつになく振られる尻尾。なんで俺、こんなに興奮しているんだろうな。そう、それはただの興奮ではなかった。
そっか、わかったよ。アマイモンは気がついた。その尻尾が興奮だけではなく、近づく死の恐怖からきていることに。怖くねぇよ、恐くねぇ!必死に奮い立たせる心。そうさ、俺の命はあいつが拾ってくれた。だから、あいつに捧げるのが筋ってやつだ。
やがて、鳴り響く音は獣の唸り声だけへ。ここにきて、弾切れなんてな。マハザエルの攻撃を受け続けるしかないアマイモン。いいさ、俺が盾になる。あいつには、一歩も近づかせねぇ。だが、否定される言葉。それが本当に、聖常王の想いなのか。
俺の主は、俺を信じて送り出してくれた。そう、アマイモンの言葉を否定したのはエジィ。そして、ひとつだけ命令されたよ、絶対に死ぬんじゃない、ってさ。いつかの路地裏での別れは、戦場での再会へ。だから、共に生きよう。そう、俺が力になる。
重火器も似合うが、こっちのほうも似合ってた。エジィが手渡したナイフ。そんなナイフを手にしたアマイモンは、重火器を捨てた。懐かしいな、あの路地裏の日々が。俺たちは必死にあがいて生きるんだ、イマの世界で幸せを掴む。レッツ、ハッピー。
これを頼む。クロウリーが手にしていた聖剣の鞘。そして、その鞘を受け取ったモルガン。そう、クロウリーの体内の鞘は取り出されていた。よくも、アタシを信じる気になったわね。えぇ、姉のあなただからこそ、彼の最後の決断を見たいでしょう。
鞘を託したクロウリー。そして対峙したメイザース。ボクの可愛い僕たち、みーんなやられちゃったみたいだけど、君のところも、みーんな瀕死みたいだよ。そう、戦力として残されていたのはクロウリーただひとり。君ひとりで、なにが出来るかな。
始まった新旧教祖の戦い。君は邪魔しないで見ていてよ。仰せのままに。すぐ近くで待機を続けるティルソン。それじゃあ、僕からいかせてもらうよ。メイザースの背後に現れたソロモン:フェイクキング。そうさ、僕は王でも教祖でもない、神なんだ。
対するクロウリーの周囲、浮かんだのは無数の瞳。これを使うのも、きっと今日で最後だな。かつて、ふたりが見つめていた完全世界。そして、その先にふたりが見つめたのは、終わる世界とイマの世界。この一撃、すべてをかける。さぁ、共に散ろう。
クロウリーの周囲の瞳が放つ無数の光。そして、その光が止んだとき、メイザースの目の前にいたのは背の高い人影。な、なぜでしょうか。盾になってもらっただけさ。そん…な……。そう、メイザースはティルソンを盾に、すべてを防いだのだった。
貴様は従者すらも道具だというのか。怒りを抑えることの出来ないクロウリー。すでに横たわり、息絶えていたティルソン。従者?なにそれ?知らないね、僕の計画の道具に、そんな名前は与えられてないよ。浮かべた笑い。それじゃ、次は僕の番かな。
ねぇ、痛いかな。痛いよね。いたぶられ続けるクロウリーの身体。君のことは、時間をかけて、たっぷり可愛がって殺してあげるからね。折れる右腕。誰も助けに来ないよ。そうさ、君はあとは死ぬだけだよ。黄金の夜明けなんて、なかったんだから。
女を痛めつけるなんて、随分と悪趣味な小悪党じゃねぇか。クロウリーの許、助けに現れたのは裏古竜衆を引き連れたヴェルンだった。どうも、元決定者さん。そう、決定者を裏切ったヴェルンを前に、ひるむことのないメイザース。君はもう、過去さ。
自信に満ちたメイザースへと、我先に攻撃を仕掛けたファブラ。だが、そのファブラの攻撃をいとも簡単に弾いてみせたメイザース。いまの僕は、決定者にも等しい力を得た。だから、君たちごときが僕にかなうはずはないんだ。そうさ、遊んであげる。
ファブラに続き、攻撃を仕掛けたのはウロアスだった。我らが紅煉帝は決定者を裏切った。だが、それは紅煉帝が竜界の民を想ってのこと。だが、貴様は竜界を裏切り、神へと加担した。我々は、貴様のことを許すことは出来ぬ。さぁ、罰を受けよ。
ニズルの指揮の下、ファブラとウロアスは休まず攻撃をし続ける。それでも傷ひとつつけることの出来ないメイザースの身体。こいつは、予定外だったな。だが、それでもふたりの攻撃を止めなかったのは、ヴェルンがふたりを信じていたからだった。
無傷のメイザースと、傷の増えるファブラとウロアス。それじゃあ、そろそろ君たちには死んでもらおうかな。拘束されたふたりの身体。思わず動き出したヴェルン。そして、そんなヴェルンを追い越したふたつの影。俺は左へ行く、お前は右を頼んだ。
まもなくして解放されたふたり。そして、そんなふたりを助けたのもまた、ふたりの竜だった。まさか、君に助けられるなんてな。ファブラの言葉はリヴィアへ。かたじけない。ウロアスはヒスイへ。そう、窮地を救ったのはリヴィアとヒスイだった。
雑魚が何人増えようと、僕にはかなわないんだから。依然、余裕をみせつづけるメイザース。対するは6人の竜。さぁ、いまは俺たちを使ってくれ。ヒスイはヴェルンへと投げかける。あぁ、じゃあ遠慮はしないぜ。そうさ、俺たちの本気をみせてやる。
そして、ヴェルンは左手を天高く掲げる。裏も表も関係ねぇ。俺たちは古に生まれ、そしてイマを生きる。そうさ、創竜衆だ。そしてヴェルンの左手が地面を叩きつけるのを合図に、一斉に飛び掛る5人の竜。塵ひとつ残すんじゃねぇーぞ、殲滅だ。
ファブラが狙ったのは、メイザースではなく、その背後に浮かんでいたソロモン:フェイクキング。わかってんだろうな。問いかけた先はリヴィア。言われなくても、そうするつもりさ。そう、ふたりは言葉で指示されなくとも、戦術を理解していた。
続いてリヴィアが狙ったのも、メイザースの背後のドライバ。ヴェルンが起した大きな揺れ。その揺れに乗ったふたりが奪ったのはメイザースの一瞬の動き。そして、すかさずメイザースに弾かれたふたり。いいんだ、僕たちはこれで。あぁ、上出来だ。
ふたりが作った一瞬の隙。その隙をつき、すかさず棍棒を打ち込んだウロアス。我が命は、紅煉帝の心と共にあり。そう、その決死の攻撃が稼いだ時間。あとは、任せました。そう、ウロアスたちもまた、ヴェルンのことを心から信じていたのだった。
そして、続いたヒスイが棍を振り回して生んだ風。そんな攻撃、僕に効くとでも思ったのかな。いいや、これは攻撃なんかじゃないさ。そう、ヒスイの風が奪ったのもまた、メイザースの身体の自由。いまだ、早く押さえつけろ。波状攻撃は終わらない。
ヒスイのすぐ後ろ、ニズルは印を結んでいた。そして、ニズルが発した闇の輪が縛り付けたメイザースの身体。だから、こんなものはすぐに解けるんだって。メイザースが壊した拘束。だが、その拘束を壊すまでの時間に、すでに勝敗は決していた。
みんな、ありがとな。全身から昇るのは殺気にも似た湯気。沸騰した、決定者であり最古の竜の血。そう、すべてはヴェルンの一撃の為に。そして、左手を振り上げたヴェルンは一直線にメイザースへと。これが俺様たちから、裏切り者への制裁だッ!
そ、そんな、この僕が……。ヴェルンの紅煉を纏いし左手が貫いていたメイザースの身体。引き抜かれた左手。同時に燃え上がるメイザースの身体。幕が下ろされたかつての神竜戦争の因縁。同時に、ひとつの教団は本当の最後を迎えたのだった。
あー、疲れた。両手を広げ、そのまま地面へと倒れたヴェルン。そして、地面に倒れていたのはウロアス、ファブラ、リヴィアも同じだった。ヴェルンへと歩み寄るクロウリー。ありがとう、助かったよ。そう、交されていた密約は果たされたのだった。
俺たちは俺たちのやりたいように、ただ俺たちがすべきことをしただけだ。そう返したヴェルン。だが、俺たちはここまでみたいだな。未だ息の整わないヴェルン。決定者にも等しい存在との戦いで、ヴェルンはすべての力を出し切っていたのだった。
ってことだ、あとは頼むな。ヴェルンはヒスイへと声をかけた。そして、ヒスイはその言葉の意味を瞬時に理解した。そう、ヒスイが理解したのは、目の前に新たな光が降り立っていたから。こいつだけは俺がなんとかしなきゃならない。あぁ、そうさ。
降り立った光の正体はリリンだった。次はこの世界に絶望を与えようか。まさか、あいつらが負けたとか言わねぇよな。震えが収まらないヒスイの肩。嘘だよな、嘘だよな、嘘だよな。そして、込み上げた悲しみは怒りへと。だったら、俺が終わらせる。
力任せに棍を振るうヒスイ。何度リリンに弾かれようと、リリンへ立ち向かい続けるヒスイ。怒り、悲しみ、憎しみ。だが、そんなヒスイを我に返した言葉。オマエはひとりじゃない。いつもありがとう。そう、ヒスイの後ろから聞こえたふたりの声。
ヒスイの左側、立っていたのはヴラド。部下どもが、オレに生きろ生きろって、うるさくてさ。そう、魔界での死闘、ヴラドの決死の特攻を制止していたのはファティマだった。それに、オレはいつまでも助けられる側じゃイヤなんだ。なぁ、親友。
ヒスイの右側、立っていたのはオベロン。君がいたから、俺たちはここにいられる。だから、最後は共に並ぼう。俺たちは3人でひとつなんだよ。かけられた言葉。お前ら、やっぱり最高だよ。そして、始祖との戦いは常界へと場所を移し、再開された。
リリンに対して、3人横に並んだヴラド、ヒスイ、オベロン。場所は常界であれ、そこには各世界の希望が集まっていた。俺たちが3人揃えば、怖いもんはない。あぁ、そうだな。うん、そうだね。共に選ぼう、決して終わらせやしない、イマの世界を。
そして、天界、魔界の全勢力の戦いは無駄ではなかった。すでに創魔魂、創精魂を失っていたリリン。アイツらは、立派に仕事をしてくれた。そう褒め称えたヴラド。ありがとう、みんな。感謝を口にしたオベロン。だから、今度こそ決着をつけよう。
ここまでの働きとは、予想外だったよ。少し喜びをみせたリリン。そう、私は望んでいたのかもしれないな。その言葉は誰にも届かない。だがそれは、確かにリリンの口からこぼれた真実。始祖である彼女は、いったいなにを望んでいたのだろうか。
再び決定者の竜の血を解放したヴラド。そして、共に決定者の神の血を解放したオベロン。続いて、ヒスイが解放したのはかつて神界統一戦争の敗者となった世界を統べていた天空神の血。そう、3人が合わせた力は、決定者ひとり分の力を超えていた。
最初の攻撃を放ったのはオベロンだった。その手に集められた光の力。そして、その予想外の行動に、思わず笑みを浮かべてしまったヴラドとヒスイ。オレたちも、負けてらんねぇな。変色したヴラドの左腕。そして、まるで竜のように踊るヒスイの棍。
次々にリリンへと放たれる攻撃。そして、その攻撃をかわすことなく、一撃、一撃と丁寧にその体ひとつで受け止めたリリン。そして、リリンは確信した。この痛みこそが自分の生まれた存在理由だったと。私は嬉しい、嬉しいよ。もっと、全力でこい。
激化する戦い。交わされない言葉。だが、それでも交わされていた想い。神々が創る未来に、意味はあるのだろうか。たとえ、神々が創らずとも、世界は廻り続ける。その選択をするのは、私たちじゃなかった。そう、選択するのは彼らだったんだ。
それじゃ、オレから先に行ってくるわ。ヴラドが決めた二度目の覚悟。だから、コイツのこと頼むな。ヴラドがヒスイへ向けた言葉。ヒスイはヴラドの言葉の意味に気づいていた。そして、ヴラドを止めはしなかった。それが、お前の決めた道なんだな。
オレの身に宿る竜の血よ、オレにあの日と同じ「守る」力を与えてくれ。そう、ヴラドが選んだ「守る」べきイマの世界。そして、覚悟を込めた一撃。すかさず、後を追うオベロン。ううん、ひとりじゃ行かせない。共に行こう。共に「戦う」力を俺に。
昔々、ふたりの王様がいました。ひとりの王様は「変革なき平穏」を求めました。ひとりの王様は「犠牲の先の革命」を求めました。やがて刻は経ち、ふたりの王様が歩んだひとつの道、それは「イマを生きる者たちへ、終わることないイマの世界を」。
どうして…。立ち尽くしたヒスイ。どうしてなんだよ!返ってこない答え。自らの子らの成長と引き換えに、始祖リリンは最期を迎えた。そして、イマの世界と引き換えに、聖魔王ヴラド、聖精王オベロンは最期を迎えた。なんでだよ、なんでなんだよ!
聖神への裏道を抜けた先に広がっていた景色、それはかつて聖王の根城とされていたアヴァロンそのものだった。やっぱり、寂しかったんじゃないか。アカネがこぼした言葉。そして、その言葉に応えるかのように現れた仮面の男。いらっしゃいませ。
そう、現れたのはロキだった。聖人のみなさまは、ご退場願えますか。鳴らされた指先。隔離されたニコラスとジャンヌ。それじゃあ、ボクは聖人のみなさまと遊んでくるよ。姿を消したロキ。そして、ロキの代わりに現れたのは北欧神の6人だった。
スルトと対峙したアカネ。下等な人間がいくら足掻こうと、世界の決定は覆らない。訪れるのは、約束された未来だけだ。否定するアカネ。いいや、違う。俺たちは不確かなイマを生きる。約束された未来なんかいらない。俺は、みんなと生きていく。
ふふふ、これで邪魔は入らないわね。アオトを前に、頬を紅潮させたシグルズ。そこをどいて。ただ睨みつけるアオト。僕たちは君たちを相手している場合じゃない。もっと先へ、イマの世界を進んでいかなきゃいけない。僕たちの足で歩いていくんだ。
私はあなたを憎んでいた。ヘズを見つめたミドリ。だけどね、憎しみはなにも生まないんだよ。私は過去を憎むことよりも、イマを一生懸命生きていきたい。私が出会ったみんなの、大切を守りたい。そう、私はみんなと生きる、イマを守りたいんだ。
ちょっとぶりだね。ヒカリと対峙し、嬉しそうなオーディン。でも、遊んでいる暇はないかな。構えられた槍。私も遊んでいる暇はないの。対するヒカリ。確かにイマの世界は完璧じゃないよ。でもね、それでも私は、イマの世界を愛してるんだから。
あら、いったいどうしたの。ヘグニは不思議だった。そう、それは再会を果たしたユカリの表情が以前とは違っていたから。そう、憎しみではなく、希望を宿していたユカリ。私は約束をした。私は過去に生きるんじゃない、私は私のイマを生きるって。
ねぇ、いま統合世界は大変なことになってるみたいだよ。ギンジへと語りかけるヘルヴォル。だから、どうした。決して動揺することのないギンジ。俺は、みんなに支えられてここまで来た。だから、俺は統合世界のみんなを信じる。それだけの話だ。
北欧神と対峙したアカネたち。そして、開いていた裏口から遅れて現れた妖精。これをアンタたちに、って。現れたのはモルガン。なんで、アタシなんかに託したのよ。モルガンがアカネたちに届けたのは聖剣の鞘ではなく、6つのドライバだった。
ありがと、お姉ちゃん。それじゃ、アタシは帰るから。そして、モルガンは裏口へ。そんな裏口ですれ違ったひとりの男は、アカネたちを飛び越え、北欧神の目の前へ。さぁ、北欧神の皆様へ魔法をおみせしましょう。種も仕掛けもない、僕の魔法を!
植えつけられる神格。だが、それは確かなものではなかった。そう、その神格に耐えうる肉体、そして精神。幾度となく、植えつけられては死にゆく人間。そう、私は選ばれた。だが、私は選ばれなかった。堕愚者ロプト、それは悪戯神になれなかった男の成れの果て。だとしても、私は私の存在意義を見出すだけだ。
綴られし存在に本物の家族など存在していなかった。血の繋がりなど存在していなかった。だが、確かに本物の家族は存在していた。血の繋がりよりも、遥かに強い想いの繋がり。そして、沢山の想いが繋いだひとつの命。帰ってきたオズ。そう、たった四文字を、どれだけ待ちわびていただろうか。みんな、―ただいま。
本当に、いいんだね。そう問いかけたのは聖精王。あぁ、みんなそのつもりだ。そう答えたイフリート。揃って首を縦に振った精霊王たち。綴られし存在に与えられた禁忌の血。それは呪いだった。私たちにも、その呪いを背負わせて欲しい。私たちの心はひとつなんだ。共に、イマの世界のために戦わせて欲しいんだ。
ウンディーネたちは気づいていた。自分たちに禁忌の血が分け与えられる意味を。きっと、私たちは永遠の存在になるんだよね。だけど、それでいいの。私たちはこれから先も、イマの世界を守り続けなきゃいけない。そんな大切なお仕事が出来るなんて、とっても素敵だと思うんだ。やがて、永遠の孤独が訪れようとも。
ウチらの可愛い弟子たちのためアルネ。シルフはいつもどおりに笑ってみせた。もちろんあの子たちも、すべてをわかったうえで背中を押してくれたヨ。だから、ウチらは選択したネ。ううん、あの子たちがいたから、ウチらは選択出来たアルネ。それに、王様にだけ業を背負わせるなんて、そんなこと選択出来ないヨ。
ウィルオウィスプに与えられた禁忌の血。取り戻した体。だが、それは決して喜ばしいことではなかった。この呪いは、私たちで終わりにしましょう。じっと見つめ返した聖精王。いまにもこぼれそうな言葉。ううん、あなたがその言葉をいう必要はないんですよ。だからどうか、イマの世界だけを見つめていて下さい。
少しだけ、怖いかもしれない。そう溢したシャドウ。だけど、きっと怖いのは私だけじゃない。私たちだけじゃない。きっとみんな怖い。色々な恐怖と戦っている。だから、私が安らぎをもたらさなきゃいけない。そう、だから私は乗り越えてみせます。取り戻した笑顔。イマの世界のために、みんなの安らぎのために。
なぜだろう、呪いのはずなのに温かいのは。それは体を取り戻したからではなく、聖精王の想いがその体に流れ込んできたから。それじゃあ、行くとしようか。再びドライバへと戻った精霊王たち。どうか彼らに力を。終わる世界に抗う力を。願うことはただひとつ。私たちは生き続けよう、終わることないイマの世界に。
オズが空高く放り投げたシルクハット。そして、次々に現れる炎のシルエット。僕はひとりじゃなかった、そう、昔もイマも。被りなおしたシルクハット、亡き友のクラウンは友情の証し。次は僕がケジメをつける番です。まとめて相手をしましょう。
ありがとう、みんな。そう、ミドリの言葉はオズと共に現れた炎の家族たちへ。君たちは、君たちのすべきことを。そして、僕たちは僕たちのすべきことを。再び走り出したアカネたち。目の前の虚城で待っているであろう聖神。統合世界のイマを―。
行かせないわよ。一番に動き出したのは双剣を構えたシグルズだった。だが、そんなシグルズへと向かったのは、オズの背後から飛び出した炎で創られたトト。そう、オズの家族はここにはいない。だが、オズは家族の想いを連れてきていたのだった。
ねぇ、私のこと覚えているかしら。とでも言いたげなドロシーの炎。そして、その言葉は目の前のヘズへ。かつて、ヘズの槍が貫いたドロシーの体。訪れた再戦。何度でも、貫いてあげる。ヘズは槍を振り回し、そして瞳に捉えた獲物へと刃を向けた。
いつも不機嫌なヘグニが更に不機嫌な顔を見せたのは、目の前のオズが持つ力を気にしていたからだった。かつて、北欧神たちの力を奪ったオズ。それは北欧神たちの力を引き出すドライバが竜から創られていたから。そして、それはいまも変わらない。
ちょっと、やっかいな相手かもしれない。オーディンも状況を理解していた。そう、神により綴られた竜であるオズは、北欧神たちの力へ干渉出来るということを。だけど、せっかく帰ってきたのに、まさかそんな簡単に命を無駄遣いしたりしないよね。
そこに価値を感じるか、それは彼次第ってことだね。ヘルヴォルは襲いくる炎のブリキをいなしながら、オーディンの疑問に答えた。そして、いまの僕たちに言えることはただひとつ。そうさ、さっさと目の前の彼を殺してしまえばいいだけなんだ。
オズへと切りかかるスルト。そして、オズはステッキにも似た炎の剣で受け止める。僕は沢山の過ちを犯した。僕の犯した罪は僕が背負う。だから、僕は償いながら、イマの世界を生きるんです。そう、オズは真っ向から立ち向かう覚悟を決めていた。
どうかみんな、僕に力を貸してください。オズの背後を守るように集まった5つの家族の炎。そうです、僕はただの道化竜。最後まで、道化を演じさせてもらいます。さぁ、最上級の魔法を。みんながいるから、僕がいるんです。まずはこちらをどうぞ。
天高く掲げた左手、そしてその左手から更に天高く昇るのは真っ赤に燃える火竜。鳴り響く咆哮は、かつて完全なる落日の終焉に鳴り響いた竜の咆哮。そう、その昇りし竜は古竜王だった。あなたはずっと、私の中に生き続ける。共に燃やし尽くそう。
ノアの炎はあたりをたちまち炎の海へ。そこに言葉はなくとも、伝わる想い。終演のときまで、誰ひとり逃げ出すことは許しません。アカネたちを見失った北欧神たちは次々とオズへ刃を向ける。そして、一番最初に飛び出したのはオーディンだった。
その力の正体、確かめさせてもらうよ。オーディンの槍を弾いてみせたオズ。そう、力を持たず生まれたオズが、どうして対等に渡り合えるのか。そして、続く二撃目はヘルヴォルだった。手品っていうのはね、必ず種と仕掛けがあるもんなんだよ。
そんなヘルヴォルの刃さえ弾いてみせたオズ。だから言ったでしょう、種も仕掛けもありません、と。そして、右手から放った炎が貫いたヘズの体。左手からの炎はシグルズの足を貫く。これは僕の力じゃない、だけど、これが僕の役目だったんです。
無力なオズに綴られた物語の結末。解放されたオズの力。世界の終わりに最後まであがく命、それが僕です。次々とオズにより制される北欧神たち。そして、僕はその綴られし運命に従った。だが、それがなにを意味しているのかわかっているのか。
それはスルトからの問い。僕の運命の最後の頁を彼が閉じるまで、僕はあがき続けます。そして、その運命が絶たれることを信じて。そう、だからオズは前だけを向いていた。そして、その力は北欧神の力を凌駕したのだった。これが、僕らの魔法です。
すこし、悪戯が過ぎるんじゃないか。ロキの背後、現れたのはシャルラを引き連れたラウフェイ。ごめんね、ママ。口先だけで謝るロキ。そんなロキたちに対するは、ジャンヌ、ニコラス。私は貴様らに問う。自分の命より、なぜこの世界を選んだのだ。
いまさら、その問になんの意味もないわ。ラウフェイへと槍を手に飛び掛ったジャンヌ。ふたりの間に割って入ったシャルラ。そして、そんなシャルラへ銃口を向けたニコラス。次の瞬間、一歩でも動けば誰かの命が失われる。そんな緊張が訪れていた。
そして、そんな緊張を楽しげに眺めていたロキ。ねぇ、誰かボクのこともかまってくれないかな。だったら、オマエに俺からとっておきのプレゼントをやろう。ニコラスがロキへと放り投げた球体型ドライバ。そして、そのドライバから人影は現れる。