世界を変えるには、ふたつの力が必要だった。ひとつ、受け取るべきは絶望。そして、世界は半分開かれる。扉は絶望を差し出したことで、絶望の扉は天へと開かれるだろう。そう、傷を負わずして、世界を変えることなど出来やしない。その覚悟があるか否か。すべては想いを。訪れる決断のときは、間近に迫っていた。
世界を変えるには、ふたつの力が必要だった。ひとつ、差し出すべきは希望。そして、世界は半分開かれる。扉は希望を受け取ったことで、希望の扉は地へと開かれるだろう。そう、傷を負わずして、世界を変えることなど出来やしない。その覚悟があるか否か。すべては想いを。訪れる決断のときは、間近に迫っていた。
その瞳に映し出される世界。ひとりひとりにとっての世界。そんな世界が形作る世界。命あるものはいつか気づくだろう。自分が生きるべき世界を。たとえ小さな世界だとしても、それが大切な世界であると。そして、なぜ、その世界が大切なのか。なぜ、その世界を愛するのか。すべては自分を愛してくれる者のために。
そして、少年少女たちは歩き出す。聖なる扉が存在したからこそ争いは生まれた。それは、紛れも無い事実。だが、聖なる扉が存在したからこそ、多くの命は出会うことが出来た。そう、だから扉を開くでも、閉ざすでもない。それが俺たちの出した答えなんだから。俺たちは、扉を越えて生きていく、イマの世界を―。
世界の敵となった男は、最後まで信じていた。いや、信じていたからこそ、世界の敵となる道を選択した。こうする以外に、方法は存在していなかった。あの日見つめた大いなる希望。いつか、その希望が世界の決定を覆してくれることを信じていた。
そこにアーサーはいなかった。アカネたちを見つめていたのは愛を統べし者。彼はもういない、私は彼で、彼は私なのだから。だが、その語り口で伝わった真実。そう、アーサーは飲み込まれたという事実。私と共に、生まれ変わる世界を見届けようか。
ただ、立ち尽くすことしか出来ないアカネたち。愛を統べし者の背後、浮かんでいたディバインゲート。ねぇ、どうして。アオトが気づいた異変。徐々に、その体が光へと変わるタマ。アイツの心は、もう、どこにも存在しないってことなのかよ。
ふざけんなよ。怒りを隠すことの出来ないアカネ。あぁ、その怒りをぶつけてやればいい。アカネに寄り添うように現れたイフリート。俺が教えてやるよ、オマエが愛した世界は、やっぱり愛すべき世界だった、ってことを。この拳で、教えてやるよ。
大丈夫だよ、彼はきっと帰ってくる。そう声をかけたのはアオトに寄り添うウンディーネ。同じ血が、それを感じているの。ウンディーネに受け継がれた呪い。それもまたアーサーが受け継いでいた呪い。うん、だから僕たちは、僕たちのすべきことを。
ねぇ、師匠。私ちょっとワクワクしてるんだ。だって、私はいまから世界を救うんだよ。こんなことって、きっともう二度とない。ううん、二度と起こらないように頑張るね。それでこそ、ウチの一番弟子ネ。それじゃ、おもいっきり駆け抜けるよ!
私は信じてる。それがなにか、ウィルオウィスプは尋ねなかった。私が聞きたい言葉は、さよならじゃないんだよ。私が聞かせたい言葉も、そんな言葉じゃない。みんなで一緒に笑い合うんだ。私とパパとママ、父と母と姉、そして、お兄ちゃんと。
そんな表情が出来るようになったんだね。ユカリを優しく見つめたシャドウ。ええ、きっと私は変わった。だからみんな、変わることは出来るの。沢山の涙があった、だから私はいまここにいる。そんな沢山の涙を、無駄にするわけにはいかないもの。
ドライバを構えたギンジ。みんなが作ってくれた道、最後はめちゃくちゃにぶっ壊してもいいよな。あぁ、いままでよく我慢したな。となりで優しく微笑むゼロ。俺たちは真実を見届ける義務がある。こんな俺でも、イマの世界の希望なんだからよ。
始めようか、終わりの始まりを。最後の審判を。世界に訪れる終わり。生まれ変わろうとする世界。一斉にドライバを構えたアカネたち。俺たちの旅はこれでお終いだ。みんな、いままでありがとう。それじゃ、行こうか。イマの世界を生きるために。
やりたいこともない、夢なんてない、将来なんてどうでもいい。少年はいつも無関心だった。そんな少年が見つけた夢。見つめた将来。俺はイマを生きる。振り下ろされた斧。込められた最高幹部としての責務。それが、あの日の少年のイマの姿だった。
少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。だが、刻は過ぎ、少女は優しい闇に包まれていた。死神のごとく、振り払う鎌が切り開く未来。あの日の少女は夜明けを求めた。そう、夜明けの先のイマを求めた。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女。そんなあの日の少女は、最後まで笑顔だった。振り回される大剣。すべてはそう、イマの世界で笑い合うために。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。あの日の少女が巻き起こした小さな風は、やがて大きな風に。構えられた棍はイマの世界への風穴を開けるために。世界さえも変えるほどの、大きな風へと。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちていた雫。だが、その雫がもたらした恵み。あの日の少年が振るった一対の刀。悲しみの雨空を切り開き、イマの世界へ希望という虹をかけるために。
そして少年は「炎」に出会った。そして少年は「みんな」に出会った。いっぱい転んだ。だけど楽しかった。いっぱい泣いた。だけど楽しかった。思い出すのは、楽しかった出来事ばかり。俺たちはイマを生きるよ。行こう。開かれた扉の、その先へ―。
オズたちが駆けつけたとき、すでに戦いは幕を下ろしていた。立ち尽くすアカネたち6人。目の前に浮かぶディバインゲート。その間に横たわるひとりの男。はは、そんな、嘘だ、嘘でしょ、ボクは認めないよ。ねぇ、どうしてだい、ボクは、ねぇ―。
横たわったひとりの男へと駆け寄ったサンタクローズ。そして、呼び続けたのは、あの日に与えられた伝説の王の名前。あの日の僕らはもういない。俺たちはこれからを生きるんだ。お前はもう、頑張らなくていいんだ。だから一緒に帰ろう。聖夜街へ。
アーサーの最後の決断。創醒の聖者に取り込まれ、内側から封じた力。だからこそ、開かれた道。これがキミの描く物語だったんだね。嬉しいよ、結末が見れて。高揚したロキ。それなら、もう満足でしょう。そして、ロキの首に突き立てられた炎の剣。
それじゃあ、行ってくる。アカネたちは、振り返ることなく目の前のディバインゲートへ。行ってらっしゃい、少年たち。待っているのは、希望かな、絶望かな。その言葉と共に、燃え上がるロキの体。あぁ、認めよう。ボクたちの負けだよ。サヨナラ。
いつかまた会おう。アカネたちが見送ったのは、扉の中へ消える精霊王。それは差し出した希望であり、受け取った絶望。金色の光と共に消滅するディバインゲート。零れ落ちる涙。泣いてもいいじゃないか。俺たちは、不確かなイマを選んだんだから。
―あれから、少しの月日が流れた。私たちが選んだイマの世界。閉ざされた聖なる扉は、反発しあう呪いのもと、消滅が観測された。そう、争いは終わった。多くの犠牲と引き換えに、長きにわたる争いは終わったんだ。ひとりの男の最期だけを残して。
俺は納得出来ない。ギンジは声を荒げた。だが、これがアイツの望んだ結末だ。ギンジを見つめ、そう答えたダンテ。悪いが、俺も納得出来ない。ダンテに対して、そう言葉にしたニコラス。ええ、アタシも出来ないわ。そう続けたのはジャンヌだった。
僕は、少しだけわかる気がします。そう口にしたのはオズ。僕はずっと、彼を好きになれなかった。だけど、彼がいたから僕たちの未来は生まれた。そう、これが彼の望みであれば、叶えてあげるべきではないでしょうか。本当に、彼が望むのであれば。
いまさら、誰が本当のことを信じてくれるのかしら。口を挟んだユカリ。彼は世界の敵だった。そう、だった。だけど、彼がしたことに、弁解の余地はない。それ以外の方法がなかったとはいえ、彼は多くの犠牲を生んだのだから。それは消せない事実。
じっと俯いていたヒカリが溢した言葉。私は生きて欲しい。一生懸命、これからを生きて欲しい。たとえ、彼がそれを望まなかったとしても、それを望む人は沢山いるんだよ。そして、零れた涙。もう、私は嫌だよ。誰にもいなくなって欲しくないよ。
ヒカリを優しく抱きかかえたミドリ。どうにか出来ないんでしょうか。そんな言葉を口にしたミドリはわかっていた。たとえ、自分たちがその決断を下さなかったとしても、彼は自らこの決断をしてしまうと。やっぱり、こんな最後なんて、私は嫌です。
訪れた沈黙。交錯するそれぞれの想いと彼の想い。ひいては、生きとし生ける命すべての想い。そんな沈黙を壊したのはイージス。どうか、彼を救ってあげることは出来ませんでしょうか。そう、彼女が救いを求めた先。そこに神才マクスウェルがいた。
あるよ、ひとつだけ方法が。かすかに生まれた希望。もしそれを、彼が望んだら、だけど。そう、選んだ不確かなイマの世界に「完全」などという言葉は存在しない。やっぱり、最後は彼に委ねるしかないんだ。だから、彼の好きにさせてあげなよ。
これが、僕たちの選んだイマなんだね。そう、わかっていた。イマの世界でも、決して止まることのない涙。僕たちは選んだんだ。そして、僕たちに選ばせてくれたのも彼なんだ。だから、僕たちに出来ることはひとつだけ。初めから、そうだったんだ。
俺はわからない。なにが正しいのか、なにが悪いのか。だけど、きっとそういうものなんだと思う。俺たちはこれからも、迷いながら、悩みながら生きていく。そうする以外、道はない。それが俺たちの選んだイマなんだから。あぁ、最後を見届けよう。
しんしんと降り積もる粉雪。コンコン。扉の鳴る音がした。ガチャ。扉の開く音がした。お待ちしてましたよ。そう優しくエリザベートが出迎えたのは11人の人影。ご案内しますね。そして、エリザベートは歩き始めた。行きましょう、彼が待つ丘へ。
雪積もる丘の上、互いに預けあう背中。あの日、世界でいちばん近いふたりは、世界でいちばん遠い場所を見つめ合いながら、ひとつの約束を交わした。そして果たされた片方の約束。次は俺の番だな。立ち上がった片方の男。それじゃ、行ってくるよ。
残された男はひとり、静かに世界を眺めていた。そんな男の許へ歩み寄る11人。思わず涙が溢れ出たレオラ。お疲れさまでした、ボス。そして、男は振り返った。金色の瞳に映し出された11人の円卓の騎士。ありがとう、最後まで俺を信じてくれて。
思わず抱きついたフェリス。ずっと、ずっと、ずっとずっと会いたかった。そんなフェリスを優しく抱き締めかえした男。ふたりを見て、優しい笑顔を浮かべたローガンとブラウン。長生きはするもんですな。あぁ、おかげで素敵な光景を見れました。
あんたが見たかったのは、イマの世界だったんだな。そう溢したロア。ったく、格好つけやがって。同調したラン。だけど、もういいさ。俺たちはいつだって、あんたが見たい景色を見たいんだから。そう、いまも昔も、それは変わってなかったんだ。
ただ見つめていたヒルダ。いいんですか、彼のこと殴らなくて。そう笑ってみせたアサナ。ふんっ、私だって空気くらい読めるわよ。ふふ、らしくないですね。思い出したかのように、ヒルダは右手を強く握り締め、そして俯きながら肩を震わせていた。
ミレンとオリナ、ふたりは肩を並べ、優しく男を見守っていた。ありがとう、アタシはボスが守ってくれた世界を、広い世界を大切にするよ。ええ、とっても素敵な目標じゃない。そして、ミレンがひとり溢した言葉。それならきっと、彼は報われるわ。
なんて声をかけたら良いかわからないアスル。そんなアスルへ向けられた一言。こんなに、背が伸びていたんだな。それは、近い距離だからこそ言えた言葉。ようやく訪れた幸せな時間。だが、その幸せは長く続くことはない。そろそろ、いいかしら。
現れたリオ。リオの姿を見てもなお、優しい顔の男。リオの訪れがなにを意味しているか、わかっているのにも関わらず、男は優しい顔をしていた。俺の望みを叶えてくれて、ありがとう。君は決して裏切り者ではなかった。君を迎え入れて良かった。
もう、思い残すことはないか。その言葉とともに現れたライル。あぁ、ないと言えば嘘になるな。男はそう答えた。なら、その選択をすればいい。目を合わせようとしないライル。そう、ライルはその選択をさせたかった。―行こうか、処刑の時間だ。
聖夜街の外れ、雪降り積もる世界。沢山の人が見守る中、処刑台へと上ったひとりの男。愛する世界のため、世界の敵となることを選んだ男、コードネーム・アーサー。俺がすべての責務を果たそう。そして消えよう、聖なる扉の最後の欠片として―。
ライルの持つ聖剣が貫いたアーサーの体。その聖剣を持つ手は震えていた。引き抜かれると同時に、真っ赤に染まりゆく真っ白な雪。そして、ライルは俯きながらアーサーに聖剣の鞘を差し出した。……なぁ、選択しろよ、お前が本当にどうしたいかを!
いつその力が暴走するかもしれない聖なる扉の欠片であったアーサーを救う唯一の方法、それは鞘の力を使い、その体を普通の人へと修復すること。鞘を受け取ったアーサーは残された命を振り絞りながら、世界を見つめていた。あぁ、俺は決めていた。
そう、決めていたはずなんだ。だが、どうして。俺は死ぬのが怖いのだろうか。瞳から零れ落ちた涙。そうか、俺が恋した世界は、みんながいたから愛せたんだ。もし、許されるのなら、いや、許されなかったとしても、俺はイマの世界で生きたいんだ。
あの日、否定され続けた命は肯定された。そして刻は経ち、再び肯定されたその命。アーサーを包み込んだ鞘の光。みな、口を揃えてこう言った。世界の敵だったアーサーは処刑された、と。そして、みな、口を揃えてこう続けた。お帰りなさい、と。
西暦2017年5月28日、聖なる扉の消滅を観測した。終わりを迎えた聖暦という時代、終わることのないイマの統合世界<ユナイティリア>。炎の少年、水の少年、風の少女、光の少女、闇の少女、無の少年、6人の長き冒険の旅は終わりを迎えた。
彼らの冒険を、最後まで見届けてくれてありがとう。彼らに代わり、私から礼を述べさせてもらおう。きっと、彼らはこれから過去になるだろう。だが、どうか彼らのことを忘れないであげて欲しい。イマを生きることを選び、必死に戦い抜いた彼らを。
不確かなイマ、それは決して完全なものではなく、脆く儚い世界。悲しいこともあるだろう。傷つくこともあるだろう。涙することもあるだろう。だが、それが生きるということなのだから。もし、辛くなったら思い出して。必死に生きた彼らのことを。
彼らが生きた記憶は、みなの心の中で生き続けるのだから。そう、観測はここで途切れる。だが、それは決して終わりではないんだ。そうさ、イマの世界は続いていく。共に、不確かなイマを生きていこう。大丈夫さ、私たちと出会えた君なら、きっと。
そして、扉を越えた彼らになにが待っていたのか、もう少しだけ彼らの未来を覗いてみようか。それが、私から君への最後の贈り物だ。またいつの日か出会えることを願って、再会を約束しよう。さよなら。 記・観測神クロノス