一等悪魔に昇格してから、何年の月日が流れただろうか。肌身離さずにいた妖刀型ドライバ【ナキリ】は昇格の日に手渡された思い出の刀。そういや、ヤツは元気にしてるかな。思い出していたのは、昔稽古をつけていた少年。あなたのこと、探しましたよ。少し寂しそうにしていた彼の元へ、666議会の使いは訪れた。
六魔将の証を羽織った彼は、女王の間を訪れていた。これだけ召集されるってことは、ただ事じゃねぇな。見渡せば、色とりどりの女王と、色とりどりの魔将。久しぶりね。声をかけたのは幻奏者。天界の姫は、無事逃がしたわ。開かれた扉により統合された世界の中、魔界、天界、共に新たな歴史が始まろうとしていた。
無に帰すことが叶わなかった白い日の約束事、肩を落とした少年の前、何も無かったはずの空間に、何事も無かったかの様に夢幻の駅が存在していた。汽車から降り立ったのは鎧型ドライバ【イバラキドウジ】を纏ったラショウ。漢が何を落ち込んでおる。俺の気持ちがわかるのかよ。恋に破れた少年は、斧を振り上げた。
少年は恋に打ち破れ、そして【イバラキドウジ:弐式】を纏ったラショウを打ち破った。そなたを送り届けよと、我らが古の竜王より仰せつかっておる。男が差し出した手を拒み、決意の眼差しを返す少年。おかげで目が覚めたよ、俺にしか出来ないことをするんだった。少年は汽車に乗らず、自らのその足で歩き出した。
何も無かったはずの場所に、何事も無かったかのように、何の変哲も無い駅が存在していた。何故その場所に駅があるのか、何の為に駅が存在するのか、その理由は一体何なのか、その全てを知ることが出来た時には、聖なる扉へと辿り着けるだろう。
水を留めた少年達の前に現われたのは獣耳の少年。俺っち、アンタを聖なる扉へ届けるよう、竜王様から言われてるんだべ。鎧型ドライバ【レティーロ】を纏った獣耳のアルカラはそう告げた。その前にまず、試験だべ。小柄な体に大きな斧、水を留めた少年は、先に扉へと向かった一人の勇敢な少年を思い出していた。
アンタ、つえーな。【ドス:レティーロ】を解いたアルカラは少年達を夜汽車へ乗せた。揺れる景色、向かうは聖なる扉。そして車中、彼は少年へと扉付近で起きている出来事を伝える。それぞれが、それぞれの目的の為に、起き続けている悲劇を。そして、言葉は続く。そうそう、アンタの弟も聖なる扉へ向かってるべ。
母が子を想う様に、また子も母を想う。それはこの世界に生まれた親子にとって、少し恥ずかしくも、大切な事柄だった。白無垢を着たフシミが案内されたのは、真っ赤なカーネーションの咲き誇る花園。お母さん、私をこの世界に生んでくれてありがとう。晴れ渡った空の下、狐の嫁入りを告げる天気雨が降り出した。
母狐フシミの手を引いたのは少し歳の離れた伴侶となる男狐。これからは、僕があなたの傍にいます。天気雨は止み、そして舞い踊る花びら達。今日という日は、新たな旅立ちを迎えた母へ、娘からの些細な贈り物だった。私はもう大丈夫、だからお母さん、幸せになってね。二度目の嫁入りを、晴天は祝福していた。
よく晴れた日の午後、空から降り出したのは狐の面を模したコンリウム。狐の嫁入りに相応しいその姿は悪しき水であれ、祝福をしている証拠だった。頬を濡らす水と、地面を濡らす水、その二つは混ざり合い、いつかは母なる海へと辿り着く。そう、ある一人の少女の母を祝い、そして、大いなる母への祝福へと変わる。
大いなる母なる海、そんな海を彷徨っていたフォクスリウムが目にしたのは、波打ち際、寝そべりながら太陽を睨みつけていた一人の少年だった。金色の髪に、濁った蒼い瞳。その瞳は水を留めるのではなく、水を、罪を洗い流すことを選択した瞳だった。兄さんは本当に愚かだ。少年は立ち上がり、海へと刃をかざした。
あげぽっくる は おあげのこ あげぽっくる は あげたべる あげぽっくる に あげようじん わるいこ どこのこ あげぽっくる あげぽっくる は おあげのこ あげぽっくる は あげなげる あげぽっくる に あげようじん わるいこ どこのこ あげぽっくる (ぽっくる民謡 第揚節より抜粋)
アーゲアゲアゲ アゲゲゲゲ アーゲアゲアゲ アゲゲゲゲ おいらのなまえをしってるか おいらはおあげがだいすきだ アーゲアゲアゲ アゲゲゲゲ アーゲアゲアゲ アゲゲゲゲ おいらのなまえをいってみろ おたぬきよりもきつねだろ おいらのなまえはアゲポックルン (ポックルンのうた 揚番より抜粋)
猫がコンっ、と鳴いた。狐の面をつけた猫、そう、生物学上は猫に分類されたフォック・スィー。だが、当の本人は自らを狐だとでも思っているのだろうか。そんな狐ではなく猫が沢山集まり、どこからか沢山の揚げを集めて来ていた日、その日はよく晴れた日にも関わらず、何の前触れもなく雨が降り出したという。
猫がコンコンっ、と鳴いた。狐の面を外すこと無く変化を遂げた姿のフォク・スィー。降り出した雨に喜び駆け回る猫は、止まない雨に濡れながら喜びの笑みを浮かべた一人の少年を目にした。もっともっと、どこまでも降り続いてよ。その少年の蒼い瞳が濁っていたのは、雨のせいではなく、罪から逃げたからだった。
水は幾つもの川を流れ、そして、やがて母なる海へと辿り着く。それと同じくして、この夢幻駅からの夜汽車は、幾つもの空を流れ、そして、やがて聖なる扉へと辿り着く。ただそれは、この駅に辿り着き、そして、夜汽車に乗ることが出来たらのお話。
晴れ渡った5月の空、ぽつり、雨が降り出した。天気予報は快晴、だけど降り出した雨は、小さな小さな狐の涙。新たな門出を迎えた母を想い、娘の喜びの涙は雨となり晴れ空から降り注ぐ。私はもう、大丈夫だから。狐の親子は愛に包まれていた。
ちょっとだけ、昔話をしてもいいかな。子供の頃のお兄ちゃん、夜になるまで絶対に帰って来なかったの。やっと帰って来たと思ったら全身傷だらけで、次は絶対に勝つんだって、アイツを止められるのは俺だけだって、いつも嬉しそうに笑ってたんだ。
小さかった妹ちゃんはお家でお留守番、それでいつも三人一緒に遊んでたの。一人だけ、生まれた世界や種族が違うからって白い目で見られる度に、本人よりも先に喧嘩ふっかけちゃうもんだから、ほんと毎日が大変だった。でも、とても楽しかったな。
急に海が見たいとか言われても、あんま外出んの好きじゃねーんだけどな。ったく、オマエはいつも突然だったよな。仕方ねーからアイツも誘って三人で行ったけどさ。俺が、世界一海の似合わない男だって知ってたくせに、一体何の嫌がらせだっつの。
あの人が帰ってから、お兄ちゃんいつも退屈そうだった。でも、仕事を継いでからは一年に一度だけ、楽しそうにしてる日があったの。二年ぶりに会ったっていうのに、とっておきのプレゼントを渡してきた、って。久しぶりなのに、あの人の話ばかり。
時に傷つき、傷つけ、笑い、笑われ、そして、私達は大人になっていった。幾つもの失敗を繰り返して、辿り着いたそれぞれの今。離ればなれになったけどね、いつかまた、三人で昔話に花を咲かせること、願ってた。でも、咲いた花は、違っていたの。
ったく、せっかくのプレゼント、無茶しやがって。いや、違うから、仕事を継いだのは常界に行きたかったとか、誰かさんが心配だったとか、そんなんじゃないから。でもさ、これは違わない、オマエを止められるのは、いつだって、俺だけなんだから。
自由と引き換えの約束を果たそうとする堕ちた獣と、闇を包んだ少女達の前、深く暗い紫から現われたのは、鎧型ドライバ【アッピア】を纏った第零世代人型ドライバ【ラティーナ】だった。アナタヲ、セイナルトビラヘ、ツレテイク。丁度良かったわ、その汽車、乗せて行ってもらえるかしら。少女の瞳に闇が見えた。
シケンノ、トッパヲ、ミトメマス。【アッピア:ドゥーエ】とその闇を引き裂いたのは奈落の大蛇だった。セイナルトビラヘ、ムカイマス。告げられた行き先。違うわ、魔界へ向かって頂戴。遮った行き先。闇を包んだ少女は、聖なる扉の真実ではなく、幼き日の約束を果たそうと、自らの失くした記憶を求めていた。
突如、深い闇が訪れる。それは朝であろうと、昼であろうと、夜であろうと、陽の光など関係なく訪れる。迷い込んでしまったら二度と出ることの出来ない闇。だけど、その闇の奥深く、聖なる扉行きの夜汽車を止めた夢幻の駅は確かに存在していた。
あの日、白い雪が降ってた。天界に捨てられひとりぼっち、寒さに震えた体に、もう一度生きるという希望をくれたのはオマエだったな。そっか、俺が生まれた世界では一年に一度しか訪れない聖なる夜だったっけ。おっきな贈り物、もらっちまったな。
これで、良かったんだ。聖なる入口は閉じられた。俺の命なんて、安いもんさ。どうせあの冬の日に、一度は失くしたはずなんだから。聖なる出口はきっと、新しい季節を生きるアイツらが開いてくれる。あの冬の日の出会いに、ありがとう、さよなら。
すまない、私は彼らの王を見くびっていたようだ。理想郷からほど近い湖畔、向き合った竜王とヴィヴィアン。この子達を、連れて来てくれてありがとう。傷つき、倒れた十二人の聖銃士。きっと、あなた達の声は届くよ、だから、今は少しだけお休み。彼女は、その体に似つかわしくない、一本の大剣を握り締めていた。
あなたなら、わかるよね、私を神へ抗うあの塔へ連れて行きなさい。湖妖精ヴィヴィアンは聖剣型ドライバを手に、竜王と二人、とある塔を目指した。おや、そんな物騒なモノ、届けられてしまっては困るんですよ。立ち塞がったのは一人の男。僕の魔法で、全てを、消してさしあげましょう。シルクハットが空を舞った。
常界から捨てられながら、それでも常界を愛した一人の王の命と引き換えに、聖なる入口は閉ざされた。だが、既に道化の魔法使いが呼び出した六つの光は天高く聳え立つ塔に降り立っていた。そんな塔を睨みつけ、ギルガメッシュは呟く。この私の体に半分流れる、憎しみの血に制裁を。彼女は一人、塔を上り始めた。
聖なる入口が閉ざされ、本当の意味で統合されたこの世界に、聖なる出口など存在するのだろうか。閉ざされた入口の産物として完成してしまったのは統合世界と上位なる世界を繋ぐとある塔。下位なる種族と上位なる種族、人と神の混種族<ネクスト>である征服王ギルガメッシュが憎んだのは人か、それとも神か。
一人の風を纏いし少女達が辿り着いた聖なる扉、だけどもう、そこには扉はおろか、人も何もかも存在してなどいなかった。唯一残されていたのは、無残に破られた大きな袋。聖なる文字を継ごうとも、所詮は妖精ね。そう口にしたのは、ふいに少女達の前に現われたマクベス。失意の風は一人の悪しき炎を加速させた。
私はただ、演じるだけ。炎戯魔マクベスは続ける。聖なる出口を目指すあなた達を、殺す役目を演じるだけ。圧倒的な力の差を前に、次々と崩れ落ちていく風の少女達。最後の力を振り絞り、放たれるのは竜巻。あら、彼女は私の獲物なのよ。巻き起こした風と勢いを増した炎を掻き分け、姿を現したのは道化の闇だった。
辿り着いた時には閉じられていた聖なる入口。なに肩落としてんのよ。炎を灯した少年へと向けられた一言。きっと大丈夫だよ。優しき炎の獣。おい、来客だぞ。異変に気づいた炎精王。少年達の前に現われたオセロ。ワタシノタメニ、シンデクダサイ。懐かしい気配も感じるデス。自律の心は異なる来客を予感していた。
ワタシノヤクハ、アナタノセンメツ。自ら打ち抜いたこめかみ、水戯機オセロは炎をかき消した。水の戯れに成す術を失くした少年達。ソロソロ、シンデ。心の灯火が消えかけたその時、少年が感じた懐かしい暖かさ。よく見とけ、機械はこう支配すんだ。顔を上げた少年の瞳に映ったのは、温かい大き過ぎる背中だった。
幼き少女が手にした羽筆型ドライバ【ハサウェイ】が書き綴ったのは、数多の悲劇だった。綴られた戯曲は現実となり、対象へと襲い掛かる。誰がこの少女に書かせたのか、それとも自発的に書いたのか、どちらにせよ、シェイクスピアと呼ばれた少女は笑顔で悲劇を書き綴っていた。そう、それが喜劇であるかのように。
上手に書けたね。少女の頭を撫でたのは仮面を外した一人の男。戯曲は楽しいだろう。風戯者シェイクスピアは笑顔で答える。一度裏切った者は二度裏切る、だから彼も今のうちに殺してしまおうか。少女には意味がわからなかった。もう少しだけ今の世界を手のひらで見ていたくなってね。男は再び仮面に手を伸ばした。
美宮殿<コロッセオ>の寝室、ジュリエットは宝石の散りばめられたソファに腰をかけていた。あの方との約束、覚えているわよね。問いかけた先は妖精王。もちろん、わかっているわ。浮かべた不敵な微笑み。アナタが殺せないのなら、私が殺すわ。追い詰める一言。あの子だけは、私が。笑みを眉間のしわへと変えた。
光戯竜ジュリエットが手渡されたのは短剣型ドライバ【デッド・マキューシオ】だった。演じるだけの人生なんて、既に決められた未来が待っているだなんて。自ら首筋に当てた刃、閉じた瞳、次の瞬間、背後に聞こえた二種類の高い声。だったら、背けばいいんだぴょん。にんじん咥えた天才は、助手と共に現われた。
そんなに女を連れて、いいご身分なこった。閉じられた入口へと辿り着いた水を留めし少年達の前、刀型ドライバ【ファントム】を携えたハムレットは不機嫌そうに笑ってみせた。一人や二人、分けてくれよ。鞘から刃が抜かれた直後、一直線に地面を走る衝撃波、かろうじて受け止めることが出来たのは少年だけだった。
楽しく戯れようぜ。【ヴェノム・ファントム】を手にした闇戯精ハムレットと、水を留めし少年による闇と水の刃の戯れ。女共の前で負ける気分はどうだい。先に弾かれたのは少年が手にしていた刃。首元に突きつけられる刃、そして、その刃の主を貫いていた三つ目の刃。久しぶりだね、兄さん。その瞳は濁っていた。
赤い月が昇った夜、ロメオは短剣型ドライバ【マキューシオ】を腰に携え、背の高い木の枝から女王の間を覗き込んでいた。その日不夜城に起きた一つの改革、新たな歴史の始まりの瞬間を見届けた彼は、そのまま魔界を後にした。だけど、そんな彼は自分に数多の銃口が向けられていたことに、気が付いてはいなかった。
無戯獣ロメオに手渡されたのは仮死毒ではなく、嘘偽りの無い本物の毒だった。もう、演じるだけの人生には疲れたよ、どうせ私は彼女と結ばれない運命なんだ。自らが生まれた理由に気付き嘆く無戯獣ロメオ。君はどう思うんだい。それは、たった一人の名前を永遠に呼び続ける虚ろな目をした一人の青年に向けられた。
黄昏の審判が差し迫る中、辿り着くことが出来たいつかの炎、そう、自らを救った優しい暖かな炎。炎の聖地での、炎の起源との再会がもたらした新たな共鳴<リンク>により、更なる炎を灯したニャオ・ヒーは、自らの命のお礼にと、その灯した温かな炎と共に、開かれた扉へ、審判の日へ炎の起源の為に走り出した。
至高の一品を求めて、越え続けた荒波の果てに辿りついたのは水の聖地、竜宮郷<ニライカナイ>。偶然にも訪れていた水の起源との共鳴<リンク>がもたらした進化。それでもグルメな猫が示す興味は美味へだけ。だけど、偶然にも手にした力は海の幸を得るには好都合。ニャオ・スィーは再び美味を求めて東の海へ。
吹きすさぶ風に煽られて、気が付けば空高く。そして突如派生した竜巻に飲み込まれた体、失くした意識を取り戻したのは蓬莱郷<ホウライ>。風の起源による愛弟子へと向けた愛の鞭に巻き込まれ、そして保護を受けた風の猫が果たした進化。元気を取り戻したニャオ・フーは再び、ふわふわりと、空へと飛んでいった。
幸せを蓄えた光の猫は審判の日を前に、連れ戻された永遠郷<シャングリラ>で光精王との共鳴<リンク>により新たな姿、ニャオ・ピーへと。更にたくましくなったその体を抱きしめ、笑顔を浮かべる少女がひとり。ふてぶてしい表情さえも、愛らしいと思えるのは、それが人々の幸せの形だからなのかもしれない。
終わらない夜の世界、叶わなかった小さな願いに、拒絶された世界に、悲しみに打ちひしがれていた。そんな失意の闇の猫を優しく抱きしめるか細い腕。それは身に覚えのある温かさ、そう、初めて触れられた時に感じた優しさの温度。愛した夜の眠りから覚めた少女の腕の中、ニャオ・ミーは安らかな寝息を立てた。
意味もなく歩き続け、そして迷い込んだ地底郷<アガルタ>。遭遇した無と無の強い共鳴<リンク>、そして巻き込まれた無の猫は新たな姿、ニャオ・ムーへ。偶然居合わせたことに意味などは無く、だけどその意味の無いことの意味を、強すぎた共鳴から感じた無の猫は、1匹、開かれた扉へと意味ありげに歩き始めた。
道化の魔法使いは、一体何の為に六体のドラゴンを呼び出したのだろうか。また、何の為に刃へと姿を変えさせたのだろうか。そして、その刃を手にするのはいったい、誰なのだろうか。その全ては「魔法」という都合のいい言葉に隠されていた。
一度は落としかけた命、それを助けたのは炎の起源だった。ずっと、探していた出会い。炎の共鳴<リンク>により成長した炎の猫は、微力ながらも、聖なる炎へと通じる道を探すのであった。小さな猫の恩返しは、大きな希望へと変わり始めた。
あの日向けられた氷の刃、その時感じた冷たさは、寂しさ故の冷たさ。ジェットコースターの待ち時間、フードコートでのお昼のひと時、腕を組んだ後ろ姿。その全てが眩しく見えた。そして、恋乙女は凍てついた彼と描きたい暖かな未来を重ねていた。
なぜ人は偽るのか。なぜ人は演じるのか。きっとそれは、弱い自分を隠したいから。許されたいから。それは古の竜も同じ。彼はいつも、踊ってみせた。誰かの手のひらで、踊ってみせた。踊ることしか出来ない彼は、踊らない彼のことが嫌いだった。
出来損ないの魔法使いに、居場所なんてなかった。だから、そんな魔法使いは居場所を求めた。家族という温もりを感じたかった。ただ、それだけだった。暖かさの炎に包まれ、復讐の炎を燃やす一人の道化竜、少し歪んでしまった、道化竜がいた。
成長した水の刃は、目の前に存在する全てを突き刺そうとしていた。鋭さを増した水は、刃となり、全てを突き刺す。そう、それが自らが統合世界に存在する理由だと言わんばかりに。刃と化すその水は、留まるのか、流されるのか、それともまた。
成長した水の猫の頭には、美味しい食べ物のことしかなかった。だけど、それは正常なこと。生きる為には食事をし、そして食事をするのであれば、美味しいに越したことはない。食いしん坊の猫は、売店のハワイアンソフトクリームに興味津々だった。
彼と一緒に、来たかったな、そんな想いを巡らせていたのは癒乙女。少し長いはずの丈、少し背伸びをした背中が大きく見えたのは、きっと、誓いを果たしたから。だけど、その背中に感じた不吉な予感は、彼女の知らない場所で現実として訪れていた。
浅い眠りの中、よく見る夢があった。そこは綺麗で平和な世界。だけど、なぜか自分だけはその世界からはみ出していた。なんでこんなに平和な世界なのに、自分の居場所はないのだろうか。目が覚めると、いつもの暖かな腕の中、その夢は忘れていた。
噛み付こうと思えばいつでも噛み付けた。引っ掻こうと思えばいつでも引っ掻けた。逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せた。だけど、それでも主人の傍にいたのは、外された手袋だけじゃなく、時折見せる寂しそうな笑顔があったからだった。
そこには、ずっと探していた宿り木があった。そして、風の竜は刃へと姿を変える。解放せし者が握り、そして空へと捧げた贈り物。舞い降りた光と共に起きた竜巻は、空高く昇り続けていた。まるで、空の上から世界を見下ろす神へと変わるかの様に。
偶然にも巻き込まれた竜巻は、風の猫と共鳴<リンク>した。いくら向かい風が吹こうとも、いくら追い風が吹こうとも、自らの雲に乗り漂う猫は、のんびりと空中散歩を楽しんでいた。次はあの飛行機雲を目指そうか、興味の対象はいつも雲だった。
少女は、お姫様に憧れていた。いつかきっと、白馬の王子様が迎えに来てくれる。自分はピンクのレースのドレスに身を包むんだ。そんな恋に恋する森乙女は一人、回転木馬に跨り、瞳を開けた夢を夢見ていた。そう、それはあくまでも、夢だった。
案山子に心などなかった。あるとしたら、使い捨てられた荒んだ心。だけど、そんな心に差し込んだ一筋の光。それは、あぁ、今日は風が喜んでいる、などという訳のわからない供述ではなく、くたびれた手を握ってくれた、一人の魔法使いだった。
蔦の様に固く絡まった想いは、使い古された自分を必要としてくれた魔法使いへと捧げられた。勘違いしないで下さい、僕は君を使う訳じゃない、家族として迎え入れるだけですよ。それは、ずっと一人だった彼に、初めて家族が出来た瞬間だった。
何故、誰も気がつかなかったのだろうか。光の竜に、神の持つ槍の名が与えられている意味に。全て初めから、約束されていた未来。解放された力、刃へと、本来の姿へと変わる光の竜を手にする者、脅えていたのは歪な平和に彩られた天界だった。
幸せの光猫は永遠郷<シャングリラ>に位置する光の浴室で、光の祝福に包まれていた。それは光の共鳴<リンク>の果てに。偶然浴室に居合わせた天界の歌姫と光の美女に挟まれ、少し頬を赤く染めながらも、満足そうな笑みを浮かべる光猫だった。
あの時のクレープ、美味しかったな。思い出すのは息抜きの日の出来事。賑わう遊園地、だけど何故か寂しかった。それは、天界の歪な平和の片鱗を知り、そして、未だ伝えられない想い人が遠くへ行ってしまいそうな、そんな気がしていたからだった。
百獣の王であれ、檻に閉じ込められてしまっては手も足も出せなかった。ただ人前に出され、そして観客を喜ばせる。そこには沢山の笑顔が溢れていた。だけど、そんな客席に、一人だけ、寂しい顔をした魔法使いがいたことを、ずっと覚えていた。
欲しかった翼、広がる空、それでも魔法使いの傍にいた一匹の獣。それは、夜空に散りばめられた、申し訳程度に光る星屑よりも、魔法使いの魔法の方が輝いて見えたから。そして、きっと、自分のことを信じ、翼を与えてくれたと思えたからだった。
闇の竜、それは必ず誰かを死に至らしめる上位なる世界に存在していた呪われし剣の名前を冠していた。既に剥かれていた牙、抜かれてしまった刃、復讐に燃える魔法使い、浮かべた憎たらしい笑顔、既に「魔法」では片付けられない状況となっていた。
再び堕ちた猫を救い上げたのは、あの日出会った安らぎだった。あなたのことを、もう、一人にはさせないわ。一人でいることを好んだ少女に傍にいることを願われた闇の猫は再び寄り添い、そして二人きりの優しい夜の果て、眠りに落ちたのだった。
妖精でありながら、魔界で生まれた悪乙女が求めていたのは、歪な平和ではなく、正常な混沌だった。そう、いつまでも終わらない悪夢の行進こそが、規則正しく放たれる輝きよりも美しく見えたから。それこそが、正常であると認識したからだった。
いつか二人で、一等賞になろうね。そう遠くない日の約束、忘れるはずのない約束、だけど少女は、サヨナラを告げた。女同士の友情、嫉妬、そして表裏一体の憎しみと愛。全て、忘れることが出来たなら。それは、願ってもいないはずの、願いだった。
あとどれくらい走ればいいんだろう。どうすれば、忘れることが出来るんだろう。履きつぶれた靴、すりむいた膝、そんな彼女の目の前に置かれた白い靴。なぜ彼について行ったかを思い返して辿り着いた答え。私より、寂しそうに笑うからだった、と。
統合された三つの世界に向けたられた悪しき三つの願い。そう、統合世界を形成する三つの世界全てに悪しき願いは向けられていた。刃と化した無の竜は、全てを無に帰し、そして、新たな世界へと再創<リメイク>せんとしているかの様だった。
この世界全てに、意味は有るのか。いや、意味の無いものも存在はしているだろう。無の猫に存在理由などは無く、そして誰かに必要ともされず、そして不必要ともされなかった。もしかしたらその様な存在は、本当は存在していないのかもしれない。
ふわふわ、ふわふわわ。ふわふわ、ふわふわり。ふわふわ、ふわふわわ。ふわふわ、ふわふわり。ふわふわ、ふわふわ。ふわふわ、ふわふわ。ふわふわ、ふわふわ。ふわふわ、ふわふわわ。ふわふわ、ふわふわ。ふわふわ、手にした綿菓子に夢中だった。
機械はいつか壊れ、そして捨てられる。それは自立型ドライバも同じ。切れた油、止まった鼓動。だけど、魔法使いは放ってはおけなかった。まるで、いつかの居場所を無くした自分を見ているようだったから。そして、自分の居場所を求めていたから。
魔法使いにより施された塗装、道化嬢により飾られた装飾、それは新しく迎え入れた家族への愛情表現。そう、居場所を無くした皆は寄り添い、そして、一つの家族になった。不器用が故に、素直に気持ちを伝えられない、だけど暖かな家族だった。
この翼は、空を飛ぶ為ではなく、皆を運ぶ為に使おう。そう、百獣の王は既に、欲しかった輝きは手に入れていた。後はこのまま、ずっとみんなと一緒に暮らせればそれでいい。その為にも、戦う。そう、守りたいものは、人それぞれに、存在していた。
外敵から身を挺して家族を守る、そこに言葉はなく、ただ行動のみが存在していた。そう、言葉などなくても、家族は絆で結ばれている。なのに何故、同族同士で、言葉も通じるのに、争い続けるのだろうか。案山子には理解することは出来なかった。
朝方、目が覚めるとそこにはいつもの腕がなかった。まどろみの中、探した温もり。だけど、見つけたのは空を見つめる寂しげな笑顔だった。起こしちゃいましたか、さぁ、もう一度寝ますよ。いつまでも、この人の傍にいよう、そう思った朝だった。
新しい自分になりたかった。でも、いつまでも忘れることの出来なかった昨日。人は簡単に忘れられない生き物です。そう言いながら魔法使いは隣に腰をかけた。家族には弱みを隠さなくてもいいんですよ。少女の頬を伝ったのは、一筋の涙だった。
僕が裏切ったんじゃありません、世界が僕を、僕達を裏切ったんです。そして続く言葉。だからこんな世界、再創<リメイク>すればいいんです。新しい世界を、再び創るのです。そう、魔法使いが口にした言葉は、黄昏の審判の答えを意味していた。
パンドラは全てを諦めていた。生きる屍と化した自分に愛など、結婚などという愚かで美しい行為は適さないと。それでも彼女は結婚がしたかった。愛する人と一つに結ばれる契約、そう、ただの契約でしかないその行為を、その証を誰よりも欲していたのであった。魔界の奥深く、一人、誓いの指輪に腰掛けていた。
そっと、ベールはめくられた。待ちわびていた時、覗いたのは、少し伏し目がちな瞳、不安げな表情。ずっと待っていたはずなのに、なぜ涙が溢れるのだろう。嬉しいから、楽しいから、感動したから、そんなありきたりの理由ではなかった。花嫁パンドラは薬指で、体温を、温もりを、生を感じられなかったからだった。
エピメテウスはずっと探していた。神の裁きにより堕とされた最愛の恋人を。もう、何年探し歩いただろうか。それでもまだ辿り着くことの出来ない薬指。彼が手にしていたのは、大切な想いの詰まった一つの箱。いつか、彼女に届けることが出来た時にはきっと。遠のく意識と戦いながら、それでも彼女を探し続けた。
温かな薬指に触れた時、花婿エピメテウスは全てを察した。この温もりこそが愛、そして生きる者全てに与えられた最高の権利。愛すべき者の頬を伝った涙、それは哀しみの涙であり、生きている証でもあった。そして触れたのは自らの頬。そこに涙は流れていなかった。そうか、死んでいたのは、僕の方だったんだね。
堕聖式場<イナーシャ>の端の方、セイカピカリウムは待ちわびていた。自分へ優しくしてくれた花嫁に、最高の聖歌を届けたいと、考えることはそれだけだった。いつ、どこで覚えたのかわからない歌を口ずさむ。それを聖歌だと疑わずに。ただの昔の流行歌かもしれない。それでも歌うことを止めようとはしなかった。
死してなお、愛の為に生き続けた一人の男がいた。涙も流せないその姿に、セイカシャイリウムが贈ったのは心からの聖歌。魔物でありながら、天使の様な姿のまま天界へと昇り、そして目にしたのは、何者かに創り出された存在である妖精王の苦しみ。創られた王であれば、その子もまた、創られた存在なのだろうか。
魔物であるにも関わらず、その頭には優しい花冠が乗せられていた。花嫁により乗せられ、そしてフラワヤミリウムと名付けられた生き物は、その手に更なる花びらを集めていた。それは新しい花冠を作ってもらう為ではなく、優しさの恩返しにと、いつか必ず訪れると信じている結婚式の為に集められたものだった。
闇の魔物でありながらも、祝福の優しい哀しみに包まれて天界へと昇ったフラワダクリウム。辿り着いたのは優しさが溢れる天界ではなく、歪さが溢れた天界の裏側だった。ちょっと、そこの鍵を開けてもらえないかな。深い闇が閉じ込められた洞窟の奥、幽閉されていたのは、もう一人の創られた男の妖精王だった。
使い古された誓いの言葉。汝は、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、添うことを、堕聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか。シンプムリウムは来るべき結婚式の為に、何度も何度も繰り返し心の中で読み上げていた。
愛し合う二人は誓った。だが、たった一つだけ、誓うことの出来なかった言葉が。死が二人を分かつまで。そう、既に死により引き裂かれた二人。それでも、二人は愛を誓った。例え、愛する人が死のうと、二度と会えなくなろうと、それでもそこには、確かに愛は存在する。シンプムムリウムはそんな二人を見送った。
光の花嫁は、闇の花婿をずっと、ずっと、待っていた。闇の花婿は、光の花嫁をずっと、ずっと、探していた。神の裁きにより引き裂かれた二人は、再び出会い、そして堕聖の愛を誓うことが出来るのだろうか。誓いの指輪はまだ、輝き続けていた。
興味深いデータね。風才は送られてきた一人の少女の行動を解析していた。まさか、その子の隣にいるのは。懐かしい顔に驚きを隠せないでいた風才。私の邪魔をするって言うのね。過去の憎しみに囚われ、そして彼女は神からの設計図を手にしていた。
あと少しで、完成する。炎に魅せられた天才は第五世代自律兵器型ドライバの最後の部品を組み立てていた。きっとアイツの力になるはずだ。その瞳は輝いていた。しかし、何故完成させることが出来たのだろうか。それは一つの設計図が関係していた。
1日目の実験結果だよん (´・ω`・)
2日目の実験結果だよん (・´ω`・)
3日目の実験結果だよん ´・(ω`・)
4日目の実験結果だよん (´・`・)ω
5日目の実験結果だよん (´・)ω・`
6日目の実験結果だよん (`・ω´・)
あぁ、どうか神様お助けを。闇才は痛まない胸を痛ませていた。君にイイものをあげよう、神様からの贈り物だよ。そして闇才に手渡された【オリジン】の設計図。これを元に、創ってごらん。そして闇才は第五世代自律兵器型ドライバの開発を始めた。