誰がどのような意図でリオを異動させたのか。その理由など、アーサーもリオも気にはしていなかった。アーサーはリオを受け入れ、そしてリオは自身をアーサーへ委ねた。与えられたコードネーム、モルドレッド。こうして、ふたりの関係は生まれた。
アーサーと行動を共にするようになり、モルドレッドの考えに変化が生じていた。いままでアーサーという存在に抱いていた理想主義という虚像。そう、アーサーは理想を掲げながら現実を見つめる。その中で常に理想へ近づく選択をしていたのだった。
機関の者だけが知っているアーサーの姿が存在していた。コードネームを与えながらも、ときとしてニックネームで呼ぶことがある。それは、アーサーなりの愛情表現なのだろう。そして、モルドレッドはそんなアーサーを微笑ましくも思うのだった。
最後の晩餐、誰かに参加を強制されたわけでもなく、自分の席についていたモルドレッド。だが、それでもモルドレッドはアーサーへ疑心を募らせていた。そう、彼は死ぬつもりでいるんじゃないかと、死に場所を決めたのではないかという疑心だった。
きっと、これがオレたちだったんだ。銃鎚を構えながらアスルが漏らした言葉。誤解から生じた一度目の偶然を経て、共闘を果たした二度目の偶然。そして、互いの意志で対峙した三度目の必然。ふたりにとっては、簡単に悪戯とは呼べない運命だった。
少年だったふたりはもういない。水に愛されたアオトとアスル。互いの想いを乗せた軌跡を描く。本当は戦いたくない。本当は一緒に戦いたい。本当は友でいたい。本当は笑い合いたい。だが、それが許されないのもまた、悪戯とは呼べない運命だった。
愛され方は違えど、ふたりはアーサーから新しい始まりをもらっていた。そんな始まりの象徴であるワダツミとマラディザンドはぶつかり合う。道を違えたふたり。僕は彼の為にも、進まなきゃいけないんだ。先に地に膝をついたのはアスルの方だった。
その日、月は蒼かった。ショッピングモール。炎の海。父を失ったアスル。そして、差し出された大人の手。アーサーとの始まりの日は、奇しくも父とのお別れの日だった。涙を堪えたアスル。だからこそ、アーサーはアスルを部下に加えたのだった。
悲劇がもたらした出会い。アスルに与えられたコードネーム、ブルーノ。そして、ブルーノの気持ちを汲んで与えられた銃鎚型ドライバ、マラディザンド。ブルーノはどんな日であれ、鍛練を欠かすことはなかった。いつの日か、父の仇を討つために。
父の仇を討つ、それはブルーノにとって大切な目的。そして、それと同じくらい大切な存在へと変わった特務機関の仲間たち。そして、新しい始まりをくれたアーサー。気がつけば、戦場で誰よりも先に前線へと飛び出す貴重な人材へと育ったのだった。
蒼のクリスマスの真相、アーサーは気付いていながらもブルーノにすべてを話すことはなかった。後になって知ることとなったブルーノ。だが、ブルーノは話してくれなかったアーサーを責めるのではなく、話してもらえなかった自分を責めたのだった。
最後の晩餐、近づいたと思えば遠ざかる背中。まだ幼いブルーノは、いまここにいられる意味を考える。ボスが認めてくれたからオレはここにいるんだ。覚悟を決めたブルーノ。円卓の騎士として恥じぬよう、アーサーが誇る騎士でいられるように、と。
少年に与えられた名前、アルトリウス。それはかつて存在したとされる偉大な王の名前。そして、少年にとっての新しい始まりの名前。少年はその名に恥じぬように、王になろうとした。その道は険しかっただろう。だが、それでも少年は王道を歩き続けた。それこそが、自分がこの世界に生まれた意味だと信じ続けて。
やがて時は経ち、少年は青年へ。青年が歩む王の道、付き従う12人の騎士たち。青年はかつて、自分が新しい始まりを与えられたように、12人へ新しい始まりを与えた。あぁ、俺はお前たちがいたから、ここまで歩いて来れたんだ。そして、それは騎士たちも同様。俺たちも、アンタがいたから、ここまで来れたんだ。
そこにはひとつの円卓があった。そこにはいくつもの想いがあった。そこにはいくつもの覚悟があった。そこにはひとつの誓いがあった。そこにはひとりの王様がいた。そこにはひとつの愛があった。そこには12人の騎士がいた。そこには沢山の笑顔があった。始めよう、俺たちの晩餐を。そこには最後の晩餐があった。
目覚めなさい。聖暦という時代に、統合世界に生まれたロキ。いや、選ばれたというほうが適切だった。あなたは今日から私の息子よ。人間という身体に植え付けられた神格。あなたは自由に生きていい。その神格がすべてを教えてくれるから。そして創られた神は、存在しない証拠を隠すために仮面をつけたのだった。
ラウフェイは耳を澄ます。届けられる世界の決定。初めから決められていた時代の流れ。世界は何度も壊れ、そして修復されるたびに強くなる。そう、いまも昔も、こうやって私たちは世界を導いてきたのだから。それこそが、生きとし生ける者の最大の幸福だと信じて。犠牲のうえには、更なる未来が広がるものなの。
決定者たちがいつから存在していたのか、それは聖人会議長であるラウフェイですらも知らない。だが、誰が世界の決定を下しているのかは知っていた。創醒の聖者と、そのすぐ下に位置する2人。裏切り者の1人。そして、新たに生まれた例外である4人目の決定者。私は知りたい。新しい決定者が生まれたその意味を。
いつもどおり決まった席につく。その席は誰かが決めたわけではない。ただ、互いが互いを考え、そして自分という存在の役割を理解しているからこその席。ひとりひとりが組織と自分を理解している。そこには言葉に出来ない信頼関係が存在していた。
円卓を囲む沢山の笑顔たち。その笑顔には様々な意味が存在していた。過去を思い返す笑顔。いまを楽しむ笑顔。明日を信じる笑顔。各々が浮かべる笑顔。並んだ13個の笑顔。彼らは別々の13人という存在でありながらも、ひとつの存在だったのだ。
今日という日は特別だった。この中で、いったい何人が気づいていただろうか。今日という日を、彼が最後にするつもりだと。最後の晩餐にするつもりだと。だからどうか、いまという時間だけは心から楽しんで欲しい。最後の晩餐は彼の贈り物だった。
僕は彼の力になれたのでしょうか。膝をついたアサナは問う。あぁ、アンタは立派だったよ。ライルが投げた労いの言葉。アンタがいたから、みんながここにいる。それはきっと俺も同じだ。こうして、始まりの0人目は9人目によって敗れたのだった。
息をあげながらも倒れたミレンを見つめるリオ。最後までリオが袖を通すことのなかった新しい隊服。だけど、私たちは同じなのよ。道は違えど、あの人の為に精一杯戦ったんだから。1人目は倒れ、11人目は喜ぶことの出来ない勝利の中にいた。
ありがとうな、じーさん。ギンジは倒れたブラウンへ背を向けていた。そう、それでいいんだ。振り返らずに、真直ぐ進め。唇を噛み締めるギンジ。あぁ、俺には迷ってる暇なんてないんだ。こうして、2人目は戦場で青年に未来を託したのだった。
レオラの想いは、きっと伝わってたよ。アカネがかけた優しさ。そしていつかのように抱きしめる肩。ありがとうございます。俯きながら溢した言葉。敗北を認めた3人目は、涙を必死に堪えていたのだった。大好きなあの人を、よろしくお願いします。
銃砲を支えに、膝をつこうとしないローガン。どこにそんな力が残ってるんだよ。アミラスには理解出来なかった。ここで倒れでもしたら、ボスが帰ってきたときに顔向け出来ないからな。4人目は最後まで膝をつくことなく、瞳を閉じたのだった。
瞳を閉じていたフェリスの顔は喜びにも似ていた。きっと、夢を見ていたんだろう。最愛のパパとの出会いの日を。そして、5人目の幼い少女が夢に見続けていた日。最愛のパパとの再会の日を。パパ、私は最後までパパの立派な騎士だったんだよ。
こんなことになるなら、もっとまともに鍛練しとくんだったぜ。ユカリの前、すでに力を入れることすらままならないロア。あんたに殴られちゃ、あいつも目を覚ますかもな。こうして、6人目もまた少女に未来を託したのだった。ありがとな、ボス。
ランの油断が生んだ隙、そして両手は銃を離していた。ありがとう、ランさん。ヒカリが述べた感謝。どういう意味か、聞かせてもらおうか。私の兄のことを、想ってくれたことだよ。7人目はニヤリと笑う。やっぱり、アンタらには勝てねぇわ。降参。
地上へと降り注ぐ無数の矢。それは、倒れたヒルダに覆いかぶさったポストルの背中へも。ボクはキミが羨ましい。誰かの為に命をかけられるなんて。だが、ヒルダはそれを否定した。私はね、そんなに可愛くないの。それが8人目の最後の言葉だった。
砕けた二対の棍。そして、砕けなかったのは友情。オリナへ手を差し出すミドリ。だが、オリナはその手を拒んだ。最後まで、格好つけさせて欲しいと思って。アタシはボスと一緒に、世界の敵でいたいんだ。10人目はそれでも自分を貫いたのだった。
アスルが右腕で隠した眼。アオトはそれがなにを意味していたか気づいていた。オレは、最後まで立派な騎士でいられたかな。かすれる涙声。アオトはそれを否定する。僕が必ず、最後にしないって約束する。12人目の3度目の運命は終わりを告げた。
アーサーを信じ、アーサーの為に戦った騎士たちは敗北した。そして、アカネたちも決して無傷ではいられなかった。この先に待つであろう障害。それでも、俺たちは進むって決めたんだ。そして、そんな彼らの動きは大きな動きへと繋がるのだった。
俺も邪魔させてもらうぜ。後ろの扉からやってきたのはアマイモン。なんだ、オマエは無事だったのか。いつか対峙していたはずのライル。まぁ、そう簡単に負けられちゃ俺も困るからな。その言葉はアマイモンなりの皮肉交じりの喜びの言葉だった。
そして、アマイモンに続きやってきたのはアリトンだった。僕も待っているのは苦手みたいでさ。目を合わせた兄弟。もう、引くことは出来ない。だから、僕たちだけでも戦わなきゃいけないんだ。その瞳には大きな意志が宿っていた。少しでも、前へ。
少ないながらも揃った足並み。だが、次の瞬間フロアに響く爆発音。みんな伏せろ。それは塔の外側からの爆撃だった。開いた風穴。聞こえたアラート音。砂塵に浮かび上がるシルエット。そこには4つの人影が浮かんでいた。緊急事態発生みたいだよ。
エジィを引き連れたジャンヌ。それが2つ分の人影だった。ったく、みんな派手に暴れたんだね。そのみんなには、倒れた円卓の騎士たちも含まれていた。エジィ、まずは傷ついた人たちを外へ連れてったげて。いい、絶対に誰も死なすんじゃないわよ。
安心して、アタシはアンタたちの敵じゃない。ただね、もうちょっと器用にやりなさいよ。って、こいつの隣りでそんなこと言えないか。ジャンヌの横、そこにいたのは派手な爆撃の張本人だった。名前くらいは聞いたことあるわよね。そう、彼女が―。
イージスだ。自ら名乗ったイージス。そして更に隣にいたポタ。突如現れた六聖人のふたりを前に、驚きを隠すことの出来ないアカネたち。手荒な真似をしてすまなかった。緊急を要していたんだ。そして、ポタへも負傷者の搬送を命令するのだった。
説明してくれるんだろうな。ギンジの瞳は真剣だった。あぁ、すぐにわかるさ。イージスの一言。あぁ、もうちゃんと説明したげなさいって。頭を抱えるジャンヌ。いまのアンタたちじゃ分が悪い。アンタたちじゃ役に立たないって言ってんのよ。バカ。
まさか、六聖人のおふたりが出てくるとは思いませんでした。アカネたちの正面、音もなく現れたベオウルフ。つまり、あなたたちは、世界の決定に背くということでいいんですね。ベオウルフが掲げた右手。さぁ、未来を描き変えるとしましょう。
屠竜者の掛け声と共に現れた画神たち。世界は俺たちに描かせてもらおう。それこそが神の意思であり、世界の決定なのだから。空に描かれた絵が色付き始める。もう、変わらない。なにも変わらない。ただ、描かれた絵に従えばいいんだ。そこにこそ、生きとし生ける者が進むべき本当の未来が存在するのだから。
知ってるかな、君たちは僕らの手のひらの上なんだよ。マルクが描く未来。決定者の意思に逆らうことは出来ないんだから。未来へ進んでいるようで、進まされている。歩いているつもりで、歩かされている。偶然のようで、必然である。都合の悪い絵は塗り変えちゃえばいいんだ。そんな力を僕らは持ってるんだから。
いまの世界に私の居場所はなかった。だけど、いまならわかる。フィンセントが受け入れていた都合の良い犠牲。私を追放した意味を。世界の決定が私を許した。だから私は世界の決定に従う。あなたたちは世界の決定からはじかれた。私たちが描く未来に存在しない存在なのだから。ここで消えてもらうことにします。
なぜ、世界の決定に背くのかしら。クロードが問いかけたのは聖人のふたりへと。あなたたちなら、わかっているはずよ。世界の決定に背くのが、なにを意味しているのか。真剣な表情の風聖人と睨みつける光聖人。アタシたちは聖人よ。わかっているからこそ、ここに来たの。だから、旗くらい振らせてもらうつもりよ。
私が欲しいのは富と名誉。サルバドールはひげを撫でていた。そのためにも、邪魔な存在にはここで消えてもらわなきゃいけないのでね。だが、少しやっかいな人がいるみたいだ。見つめていたのは風聖人。絶対の力を持った私たちと、力比べをさせてもらおうか。決定者たちも、遠くで私たちを見ているだろうからね。
私は、ただ描くです。私に、意思はないです。ただ、決定に従うです。パブロが構えた筆。世界の決定に従い、邪魔な存在を排除しに現れた画神たち。どうか、綺麗な未来で会えるようにです。そして、一斉に描き出される未来。抵抗、無用です。大人しくしていて欲しいです。痛くしないです。でも、消えてもらうです。
ベオウルフと共に現れた六人の画神。彼らは立派に戦った。そう、いい駒だったよ。そう言い放ったのはレオナルド。誰のことを言ってるんだ。怒りで顔を歪ませたアカネ。だが、事実として、アカネたちの体力は先の戦いで消耗されていたのだった。
フィンセントが地面へと放った弾丸。だが次の瞬間、弾丸はアオトのすぐ後ろから現れた。間一髪、かすかに血が滲む。下へ放たれたという現実が、次の瞬間、背後から放たれたという未来へと塗り替えられる。安心して、楽に死なせてあげるから。
ドライバを握りなおすアカネたち。だが、次の瞬間、ドライバは地面へと突き刺さっていた。この程度のこと、私にはなんの造作もない。サルバドールが浮かべたいやらしい笑み。そしてまた、六聖人であるイージスも表情ひとつ変えてはいなかった。
絶対防盾アマルテイア、展開。イージスの言葉に呼応する大きな盾。その盾はすべてを守る盾であり、未来を描き変えることなど許さない絶対の盾。お前たちは逃げる準備をするんだ。だが、その言葉に素直に従うことの出来ないアカネたちがいた。
マルクの筆から生まれる大量の化け物。切り裂くユカリ。だが、その化け物が消えることはない。消えたという現実、消えなかったという未来。いつまでも遊んでればいいよ、あはは。君たちじゃ、絶対に僕たちに勝てないんだから。それが未来だよ。
私の彩りをみせてあげるわ。突如、色の消えたヒカリの瞳に映る美しい花畑。綺麗でしょう、それがあなたの死ぬ未来よ。残酷ゆえに、綺麗な未来。幻なんかに惑わされないで。未来はこの手で変えられる。ヒカリを呼び戻したのはジャンヌの声だった。
だけど、残念です。退路という未来は消えましたです。そう、いつの間にか、この場所からの出口は消えていた。そして、ひとつだけ豪華な扉が存在している。この扉は違うです。あなたたちのような存在が、通っていいような扉じゃないのですから。
さすがに庇いながらはしんどいわね。ヒカリたちを庇いながらも、3人を相手しているジャンヌ。アンタたち、どうにか上手く逃げなさいって。だが、出口のないこの場所に、もうひとりのよく知った顔が現れたとき、ジャンヌの表情は曇り始める。
パブロが描いた扉から現れたのはラウフェイだった。イージス、ジャンヌ、あなたたちふたりは、世界の決定に背くことがなにを意味しているのかわかってのことよね。走る緊張。わかっているのなら、彼らのように従っていればいいだけのことよ。
ラウフェイに続き、その場に現れた4人。そのうちのひとりがダンテだった。あぁ、わかっていたさ、いつか貴様らが裏切るということを。イージスとジャンヌ、ふたりに共通していた「人間」の血。やはり、こういう選択になってしまったのだな。
少しだけ、面白くなってきたよ。ダンテの隣、そこにはヨハンがいた。世界の決定に背くのは、決定じゃない。例外行動を君たちは起した。いったい、彼らはそれをどう思うのかな。喜ぶのかな、笑うのかな、楽しむのかな、それとも、悲しむのかなぁ。
ヨハンの隣に立つシオン。そして、シオンは冷たい瞳をしているようで、悲しい瞳をしているようにも見えた。裏切りへの否定か悲しみか。言葉ひとつ発さない。ただ、自分の聖人としての責務を果たす為だけにここにいる、とでも言いたげな瞳だった。
深めにかぶられた帽子。シオンの隣のニコラスもまた、別の理由で感情を読み取ることは出来なかった。だが、帽子で隠し切ることの出来ない唇。少しだけ上がった口角がなにを意味しているのか。それはニコラスだけが知る、ニコラスだけの真実。
やぁ、六聖人のみなさま。まさか全員が勢ぞろいするなんて、さぞかし大変なことが起きているのでしょう。その声は、更に別の方角から聞こえた。そんな大切な場面なら、是非ともボクにも立ち合わせておくれよ。そう、新たに現れたのはロキだった。
お友達も連れてきたんだ。ロキの隣、並んで近づくのはメイザース。無様な存在が淘汰される瞬間を、この瞳に焼き付けておきたかったんだ。特に、そこのふたりのことをね。見つめた先にいたアリトンとアマイモン。これもまた、世界の決定なんだね。
そして、ロキはその言葉を続けた。もちろん、彼らも招待しておいたよ。どうしてもさ、ひとりだけは来てくれないみたいなんだ。だけどもう時間だから、みんなに紹介させてもらおうかな。開かれた空、降りる光。そう、彼らが「世界の決定者」さ。
過去を司る女神ウルド。そう、いつだって過去は美しいのだ。人はみな、過ぎ去りし日々へと思いを馳せる。長い時が経てば経つほど、過去は美しくなる。だからこそ、過去を司る女神は光輝いていた。過去は変わらない。過去は絶対。過去は美しい。だからこそ、私に縋ればいい。与えてみせよう、美しく素敵な過去を。
過刻神ウルドが動き出したのには理由があった。刻を司るのは、私たちだけじゃなかったな。剣先が狙うのはただひとり。もうすぐ、いまの世界は終わるんだ。それは世界の決定。そして、もう一度歴史を作る。だから、邪魔をしないでくれ。そして、その言葉を否定する言葉。違うわ、私はただ終わりを観測するだけ。
未来を司る女神スクルド。そう、未来には死が待っている。それは長き刻の終わり。それを始まりと呼ぶ者もいるだろう。だが、確実に終わりは訪れ、始まりは訪れないこともある。だから私は闇を纏った。そうさ、私は終わりという未来を与えることが出来る。それは神であるあなたも例外じゃない。わかっているよね。
神界には様々な神々が暮らしている。そして、なぜその神界がラグナティアと呼ばれているのか。そう、神の中にも勝者と敗者が存在していたから。あなたの世界は、私たちに負けたのよ。未刻神スクルドが突きつけた現実。だから、私たちに従っていればいいの。刃向かうことは許されない。たとえ同じ刻神だとしても。
未来と過去の間に存在する現在という不確かな時間。存在した次の瞬間、そのイマは過去になる。だから、私は無を司る。現在を司る女神ベルダンディはそう述べた。だが、私という存在は必要とされた。刹那のために。そして、刻が歩みを止めないために。世界は終わる。終わらせる。そして、新たに始めましょう。
現刻神ベルダンディとふたりの姉妹、刻命神が一堂に会したそのとき、目の前にいたのは、かつての神々の争いの敗者であり、同じく刻を司る神だった。あなたは、また私たちの邪魔しようっていうのね。以前に現れた聖なる扉。封印された扉の君。その裏の立役者、観測神。私が観測すべき終わりは、彼らの勝利だから。
わぁ、なんか知ってる顔がいるよ。決定者のひとりとして紹介されたのは神才マクスウェル。そして、彼女の翼として少し後ろで寄り添うように浮かんでいたオリジン。彼女がいるからこそ、この世界には科学が溢れ、そして発展していったんだよ。
マクスウェルの隣りにいたのは始祖リリンだった。そう、彼女が妖精と魔物の祖であれば、それは最も神に等しい存在だと言えるよ。世界の決定者になるには、十分すぎる理由さ。リリンはただ一言も発することなく、ただ目の前の事象を見つめていた。
そして、君たちは本当に運がいいね。ロキは紹介を続ける。そう、彼は創醒の聖者。近づけそうで近づけない、逃げられそうで逃げられない、その異様な佇まい。顔を曇らせたのはジャンヌとイージス。あぁ、君たちふたりのその顔が見たかったんだ。
最後にもうひとり紹介しよう。彼が例外の決定者さ。なびく金色の髪。みんなが会いたかったアーサーの登場だ。そしてアーサーは剣を天高く掲げた。俺が君たちへ、最後の決定を下そう。突き立てられた剣。あたりは金色の光に包まれたのだった。
姿を消したままの聖王アーサー。そんな王の奪還に向かった者たち。降り出した雨のなか、彼らが辿り着いたのは王都ティンタジェル。数多の死線を潜り抜け、目の前に現れたひとつの玉座。だが、その玉座に待っていたのは、彼らにとっての――。