私、ヒスイさんから聞いたことがあるの。世界評議会も、神様たちも、すべては「世界の決定」に従って動いている、って。いまその決定を下しているのが、アーサーさんだとしたら。深まるのは聖神への疑惑。だが、アオトはその疑惑を否定した。
だとしたら、真っ先に僕たちを、聖常王を止めているはずだよ。きっと、あの場所での会話はすべて聞こえていた。だから聖常王は、あえて、あの場で、あの話をしたんだ。思案による沈黙が流れる。そして、その沈黙を一番に壊したのはアカネだった。
俺は行ったんだ、常界の始まりの地と呼ばれる場所へ。それは聖戦の裏側の物語。そこで触れたのは聖なる扉<ディバインゲート>のすべてのひとつ。再び訪れた沈黙。きっと、ひとつなんだ。そして、すべてなんだ。ひとつであり、すべてだったんだ。
彼の瞳は、いまも真直ぐなまま。水調精コーラスはただ祈り続けていた。でも、刻の調べはそう優しいものじゃない。そして、いつかの悲劇を思い出す。彼が罪を選んだのか、それとも、罪が彼を選んだのか。でも彼は、その道を選んだことに違いない。訪れる不穏な予感。もし、そうなったとしたら、私がすべきことは。
うねりにうねる統合世界。まぁ、それが正しい世界ってやつよ。命持つ者すべてが意味を持ち、そしてそのひとつひとつが絡み合う。この世界は群像劇。だから、きっとあの子の行動にも意味は生まれる。それは、風調魔フランジャが追っていたはずの少女と共にいた少女のことだった。いったい、どうなることかしらね。
やはり、私はあなた様に相応しくないのでしょうか。恋に恋焦がれる攻甘竜イセ。だが、今日は一年に一度訪れる、女性による男性への愛の告白を後押ししてくれる日。こうしていても、仕方ありませんわ。思い立ったらキッチンへ。用意されていたのはチョコレートの原料と、無数の惚れ薬。今年こそは、捕まえます。
私は誓ったんです、本当のあの人をもう一度好きになる、って。それは乙女の祈り。だから、私は決めました。絶対にあの人を処刑させたりしない。本当のあの人を見つけるまで、あの人のことを守り抜きます。例え、この世界を敵に回したとしても。
私は初めから決めていたわよ。ヒルダはいつも通り、口を尖らせていた。だって、処刑なんてされちゃったら、あいつのこと殴ることが出来なくなっちゃうじゃない。そう、だからこれが私の決めた道。破られた世界評議会の職員証は、そっと風へ。
聞かないんだな。問いかけたロア。いまさら、お前に聞くこともないだろ。答えたラン。そこはいつもの古びたパブ。背中合わせのふたりは口を閉ざした。それじゃ、いまのうちに酔っ払っておくか。テキーラの注がれたショットグラスに手を伸ばす。
ランが差し出した左手。親指の付け根には好物の塩が。酔っ払ってなきゃ、やってらんねーだろ。そして、ふたりは流し込む。空になったグラスで交わす約束。それじゃあ、行こうか。ふたりが袖を通したのは懐かしの白い隊服。これが俺らの生き方さ。
私は彼の可能性を信じた。そして、彼は私のことを信じてくれた。ブラウンは出会った日のことを思い出していた。だから、残り少ない未来を彼に捧げると決めたのだ。私はいまでも、彼の可能性を信じている。彼を殺させるわけにはいかないのだ。
俺は世界評議会に雇われたわけじゃねぇんだ、俺の雇い主はボスだけだ。ローガンは昇る煙に想いを馳せる。ボスを死なせるなんて、俺の信念に反するってもんよ。だから、悪いな。走らせる筆。退職届けは、自分の手で、自分の意志で書かせてもらう。
パパが悪いことしてるのはわかってる。でもね、パパは私にとって、世界でひとりだけのパパなんだ。フェリスはぬいぐるみに語りかける。だからね、私は悪い子になるよ。みんな、いままでありがとう。私はやっぱり、パパのことが大好きだから。
どうしてなんだろ。オリナはずっと考えていた。ボスがいったいなにを考えているのか。きっとボスのことだし、色々と考えているんだろうな。だから、オリナの決断はひとつだった。やっぱり、ボスに教えてもらいたい。世界のこと、もっと知りたい。
久しぶりね、こうやってゆっくりふたりで話すのは。ミレンの隣にはリオがいた。私はときどき思うの、やっぱりあなたの考えが正しいんじゃないか、って。それは、自分を犠牲にする以外の生き方を知らない、かつての王を敬っての言葉だった。
でも、私はやっぱり彼には生きてほしいみたい。彼が愛した世界で、沢山の幸せに包まれてほしいのよ。無言のままのリオ。だから、あなたとはここでお別れね。そっと立ち上がるミレン、そしてそんな彼女の後姿を、リオはただ黙って見送るのだった。
オレが間違ってんのかな。アスルは少しだけ不安になっていた。チビが一丁前に悩んでんじゃねぇよ。ライルの冷たい言葉が押した背中。そうだよな、悩むなんて、オレらしくないよな。あぁ、オレはオレの思うように、オレの道を進ませてもらうよ。
それじゃ、楽しみにしててやるよ。アスルは右手を突き出した。俺は面倒くさいだけだけどな。だが、ライルも右手を突き出した。重なる拳と拳。どっちが勝っても恨みっこなしだ。その拳が意味していたのは反する想い。次に会うときは、きっと。
聖常王への謁見を許されたアサナ。これが僕たちの決断です。11通の退職届け。わかった、受理しよう。それがなにを意味しているのか。彼が世界の敵になるのなら、僕たちも世界の敵になる。そして、世界評議会から11人が姿を消したのだった。
一度はズレてたはずなんだ。光調魔フェイザはかつての聖戦のすれ違いを思い返していた。でも、まさかこんな結末になるなんてね。だからこそ、見出した希望。きっと彼女ならやれるんじゃないかな。もう、とっくにこの世界はズレてるんだ。僕たちにも、どうすることも出来ないくらいに。でもまぁ、いんじゃない。
彼は負けなかった。無調精ディレイが観測を言い渡された少年に訪れた結末。立派に耐えてみせた、彼は彼の戦いに勝利したんです。その事実を知る者は少ないだろう。その苦悩を知る者は少ないだろう。だけど、私はちゃんと知っています。水面下で起きていた出来事。だけど、それで彼は幸せになれるのでしょうか。
聖常王から通達された神界への遠征日まで残り1週間。アカネはとある研究所を訪れていた。無数のモニターに映し出されていたのは、いまも常界全土を覆うシールドを展開し続けるレプリカの稼働状況だった。もう、時間は残されてないってことか。
いまも、ディバインゲートは常界へ干渉し続けている。メビウスの解説。そして、そのディバインゲートはおそらく彼の手に。それじゃあ、やることはひとつってことだな。常界は私たちに任せて。だから、行ってらっしゃい。炎才の自慢の息子さん。
アオトが訪れたのは常界の自分が生まれ育った家。あの日から誰も住むことのないその家だけが、時代から置き去りにされていた。だけど、僕たちは時を経て、いまこうしている。そして、僕たちは罪を背負い続ける道を選んだ。隣にはアリトンがいた。
僕はアオトとして生きる。僕はアリトンとして生きる。ふたりが選んだ名前は、未来への肯定であり、そして普通に生きることを拒絶した証。兄さん、僕たちの足を引っ張らないでね。こぼれた冗談。その日、ふたりの心と体を濡らす雨は降らなかった。
常界での出来事を報告しに竜界へと向かっていたミドリ。すでに竜界はミドリの第二の故郷となっていた。そして、ミドリが竜界へと向かったもうひとつの理由。竜道閣へと消えたカナン。古の竜の血を探し続けるドロシー。そう、オズの行方だった。
私、ちゃんと知りたい。ミドリが問うたオズの過去。命を綴ることが神にだけ許されていたら。竜王家に生まれた存在しないはずの命。神と竜の確執。オズが迫害されるのは当然だった。彼は神へ縋り、神へ抗った。それじゃあ、ふたりがしてることは。
ヒカリはカルネアデスからとある6つのドライバを渡されていた。ちょっとだけ窮屈だけど、我慢してもらうぴょん。そして、5人から託された想いと共に天界へ。だけど、ちょっとだけ嫌な予感がするな。それは、同じ血を引くからこその予感だった。
夢から覚めたかな。それは少し前の話。目を覚ましたテンニを覗き込んでいた懐かしい顔。あそこは私たちの居場所じゃなかったの。いつもと雰囲気の違う聖光才。だけど、私たちはちゃんと幸せになれる権利を持って生まれたんだ。だから、もう一度一緒に生きていこう。手を取り合った姉妹は、ただ、幸せを目指して。
進軍を続ける魔界軍。オレたちの未来は、オレたちの手で作ろう。指揮をとるのは自ら先頭に立った魔王。その真直ぐな言葉を信じる配下達。流れ続ける血と涙。それでも、悲しむそぶりを見せぬ魔王の姿を、ファティマは羨望の眼差しで見つめていた。
おかえり。ヒカリを出迎えたオベロン。みんなを連れてきたよ。様子を伺いながら差し出されたドライバ。そして、そんなヒカリを察し、優しい眼差しを返すオベロン。どうもありがとう。だが、オベロンはヒカリの嫌な予感を否定することはなかった。
ユカリが乗り込んだ夜汽車が向かった先は魔界。窓に映った少女は少し疲れ顔。そして落ちた眠り。まどろみの向こう側で微笑む少女。無理しないでいいんだよ。幸せになっていいんだよ。だが、ユカリは否定をする。この生き方こそ、私の幸せだから。
まもなくして着いた魔界。向かったのは大好きな少女の眠る墓。そこにいたのはヴラド。コイツのこと、ちっとも可愛がってやれなかったな。後悔に込められた慈愛。それよりも、あなたは自分の体だけを可愛がりなさい。やっぱり気づいていたんだな。
ギンジが探し続けていたのは神界への進攻手段。だが、もはやギンジはひとりではなかった。近くに神がいるのを忘れるんじゃない。手を差し伸べたギルガメッシュ。そして、ふたりが目指した場所。共に行こうじゃないか、神へと抗ったかつての塔へ。
評議会により、立ち入り禁止区域に指定されていた塔の跡地へと足を踏み入れたふたり。やっぱり、来てくれたんだね。その言葉はふたりのものではなかった。お前にだけは、会いたくなかったんだがな。そう答えたのは、ギルガメッシュだった。
ねぇ、どこへ行っていたんだい。ダンテへと詰め寄る男の表情は、半分が仮面に包まれていた。その質問に答える義理はない。まさか、キミがボクを飛び越えちゃうなんて、そんな無粋なことはしないよね。そうだよ、キミはただ従えばいいんだから。
そう、キミは聖人という生き物なんだ。そこに個が存在してはいけない。ダンテは沈黙を続ける。ボクは知ってる、キミは規律を遵守する神様だってことを。ならば、俺も知っている。口を開いたダンテ。貴様はすでに、世界の決定に背いていることを。
先生、ファティマ様から謁見の申し出が来ております。もう魔界とか必要ないんだ、だから適当にあしらっといてよ。ヨハンは過去を拒んだ。いまの僕はなにも得をしない、だから取引としては不成立だね。彼女も随分丸くなったみたいでつまんないよ。
それにさ、世界の決定とか本当にくだらな
いよ。答えが出ている問いに、なにを求め
ればいいのかな。ヨハンが抱いていたのは
疑心とは異なる感情。その先に、もしかし
たら新しい解があるのかな。なぜだろう、
これは探究心じゃなく、好奇心みたいだ。
イージスが自身に蓄積されたライブラリから照合したのは、かつての争いの記憶。神界で起きていた各世界による争い。いまの世界が、貴方様の望んだ世界なのでしょうか。答えは解りきっていた。私の体の半分に流れる人の血の意味が解りました。
プログラミングされていた守るべき存在。そして、時代とともに変わるその存在。これをエラーと呼ぶべきか。だが、イージスにはわかっていた。人の心は機械仕掛けではない。亡き君主の願い。私が討つべき存在は、初めから決まっていたんですね。
六聖人の元へ届けられた映像。そこには聖神の処刑を宣言する聖常王の姿が映し出されていた。アンタの旗の振り方は間違っちゃいない。だけど、まだ青さは抜け切らないわね。それじゃあ、死にに行くようなものよ。歴史は常に正しいわけじゃないの。
英雄になって、その後はどうするつもりかしら。問いかけたのはモニターではなく、ジャンヌの後ろに立つ人影へ。悪意を集めたあと、死んで平和へと導く。そんなドラマは見飽きたのよ。だから生きて、そして償い続ける。アタシは信じてあげるから。
少女が感じていた違和感。私は誰なのだろうか。与えられた本に記されていた父、母、家族という存在。そのすべてが自分には当てはまらなかった。真実ではない真実。受け入れる以外の道はなかった。そう、私はクロウリー。教祖として生まれた存在。そして、少女は違和感を抱えながら、偽りの道を歩き続けていた。
立ち入り禁止区域に指定されていたはずの神へと抗う塔。エンキドゥはその禁を破ったわけではなかった。その塔が神界と常界を繋ぐ存在であれば、常界から神界への通行は確かに禁止されていた。最初からこいつは、そっち側の存在だってことさ。そう、彼にとって、常界へ来るのに、禁などは存在していなかったのだ。
ただ征服神を見つめる呪罰神エンキドゥ。私の言葉が届かないのか、それとも、言葉そのものを失ってしまったのか。ふたりに訪れた最悪の再会。呼び覚まされた無数の獣。お前は逃げろ。征服神のただならぬ覚悟を察し、その場を離れた無英斧士。お前は人形なんかじゃない、だからどうか、目を覚ましてくれ。
で、あなたはいくら賭けるの。幾元嬢は問う。ここは魔界の賭博場。俺はいつだって、でかいもんを掴みたいんだよ。預けられたのは大量のチップ。そんなあなたに、これをサービスよ。差し出されたブルームーン。ふざけやがって。そのカクテルが意味したアストの敗北。そして、うな垂れた男の許を訪ねる女がいた。
やったじゃない、でかいのが来たわよ。炎魔獣士アストが顔をあげると、そこには大きな胸が揺れていた。赤ら顔のまま、さらに顔をあげる。オマエに召集命令だ。男の許を訪ねてきたのは南従者だった。もちろん、聖魔王の許可を得ている。そして、召集されたのは男だけではなかった。俺たち三魔獣士全員が召集だと。
集まっていた視線。テラス席でひとり、ゆっくりとページをめくっていたのは才色兼備なポストル。ようやく、休息が訪れたと思っていたんだけどな。その言葉とともに閉じられた本。いいよ、わざわざキミが来たってことは、それなりの用事なんだろう。視線を交わすことなく一方的に進む会話。それじゃあ、行こうか。
ボクを迎えに来たってことは、きっとあのふたりにも召集がかけられているんだよね。その質問は質問ではなく、間を埋めるためだけのものだった。で、どこへ行くかも察してくれ、ってことかな。ターミナルに用意されていた特別列車。行き先に表示された「常界」の文字。少し長旅だね、仲良くやろうよ、水波卿くん。
大きな欠伸をしていたアミラス。眠いなら、私の膝を使っていいよ。左の女がそう言った。ずるーい、私の胸を使ってくれてもいいんだよ。右の女はそう言った。眠るなら、私と一緒にベッドへ行きましょう。後ろの女はそう言った。男を取り囲む無数の美女たち。どうせなら、みんなで一緒に楽しくベッドへ行こうよ。
移動した先はベッドルーム。だが、すでにそこには先客がいた。天蓋に映し出された豊満な体のシルエット。あれ、新しい僕の彼女かな。油断した一瞬、風魔獣士アミラスを襲う無数の蔦。間一髪、構えた【バンザ:セカンド】。だが、蔦に殺意はなかった。そして翠風魔将は寝たまま、召集命令の手紙を渡したのだった。
少年はひとりだった。小さな部屋、与えられた「世界」の地図。少女もまたひとりだった。小さな部屋、与えられた「教祖」の肩書き。そして、歩く道は違えど、同じ場所に立ったふたり。ならば、このまま少女が歩き続けるのだとしたら、その結末は。
六聖人へと届けられた聖常王の声明。シオンもまた、例外ではなかった。薄暗い部屋で、何度も見返す映像。込められていたメッセージの意図を理解出来ないほど、愚かではない。ただ、避けることの出来ない現実を、見つめるほかなかったのだった。
そんなシオンの部屋の窓を叩いた風。それはふたりの間でだけ通じる合図。なに浮かない顔してんだよ。そう、現れたのはヒスイだった。お前のことを、俺たちは信じている。だから、絶対に逃げ出すなよ。世界の決定に背くのは、俺だけで十分なんだ。
ニコラスはただ筆を進める。報告書に記されたのはサンタクローズの名前。これは世界の決定なんだ。自分の息子へと突きつけた銃口。一発の銃声が鳴り響いた夜。そこに下されていた排除という世界の決定。あーぁ、つまんない大人になっちまったな。
ニコラスが思いを馳せるのはいまから20数年以上前、ニコラスがサンタクローズと呼ばれていた頃の話。そして、一日たりとも忘れたことのない、とある人間の女の最後の言葉であり、最後の願い。どうか、あの子に最高のクリスマスプレゼントを。
一週間後、再び聖常王の下へと集まったアカネたち。だが、集まっていたのは一週間前より少ない数だった。その理由を問う者はいない。各々が持つ、各々の世界。そこへ口を挟むことは許されない。それでは、始めようか。偉大なる神様への反乱を。
初めに聖常王の口から伝えられたのは、最高幹部のひとりであるベオウルフの失踪、そしてギルガメッシュの詳細だった。神へと抗う塔に現れた正体不明の新たな神。無数の刃が飛び交い続ける戦場。だが、聖常王はトーンを変えることなく話し続けた。
触れられたのは六聖人について。謁見の場で承認を得たという事実。そう、「事実」のみが簡潔に伝えられた。これで準備は整った。そして紹介されたのは、魔界からの援軍である三魔獣士。聖常王は静かにアカネたちへと最後の問いを始めたのだった。
俺にはなんもなかった。ずっと空っぽだった。そして俺は俺の力ではなく、みんなの力でここにいる。じゃあ、いまの俺にはなにが出来るんだろう。この世界が間違っているとは言わない、正しいとも言えない。だから俺は、世界の為に世界を見極める。
この世に生きる者はみな、大切な想いを抱いているの。それが大きいか、小さいかは関係ない。私はただ、いまも大好きな想いを大切にしたい。そのために世界を正す。そう、私はちっぽけな女よ。だけどね、この想いは誰にも負けないくらい大きいの。
幸せって、なんだろう。私にとっての幸せは、みんなにとっての幸せじゃないかもしれない。だけど、いまのまま多くの命が不幸になる。私はだまって見過ごすことは出来ない。これは女王としての責じゃない。私個人の想い。だから、行かなきゃ。
私はさ、みんなと違って、時代に流されてここまで来たんだ。大切な友達とも再会出来た。でもね、私が出会った大切な人たちの「大切」を守りたい。それじゃあダメかな。いまはまだ、立ち止まりたくはない。だからね、まだ走り続けていたいんだ。
本当の僕は、もうこの世界に存在していない。アオイという本当の名は、どこにも存在していない。僕はアオトとして生き続ける道を選んだ。だから、僕の戦いはまだ終わってない。僕は僕を肯定する。罪の清算は、この世界の歪みを正すことなんだ。
ディバインゲートが生まれ、世界は生まれた。そう、この世界は箱庭なんだ。ディバインゲートが運んだ幸せもある。だけど、翻弄される人たちも大勢いた。俺の家族だってそうだった。だからそう、悲しみを知ってる俺が、壊さなきゃいけないんだ。
各々が掲げた目的。その想いの規模が小さくとも大きさに関係はない。それぞれが苦悩の果てに辿り着き、抱いた大きな想い。聖神と、そして聖神が手にしたであろうディバインゲート。振られた夜明けの旗。いま、収束された道しるべを胸に歩き出す。
人間たちが始めた神界への侵攻。当然、神界へもその話は伝わっていた。ただ、玉座で口を開くことなく待ち続ける聖神。その隣にいた悪戯神。ねぇ、神様になったキミは、どんな役割を持っているんだい。キミを知りたい。だから、ボクから話そうか。
かつて、世界の誕生と共に生まれた神々。それは統合世界でも例外ではなかった。幾重にも連なった世界に存在した、幾千の神々。そんな神々にはそれぞれ役割が与えられていた。太陽を司る神、海を司る神、その他多くの役割。ボクはなんだったかな。
世界に混乱が生まれる。そして、生きとし生ける者たちはみな、その混乱を乗り越える。そう、だからボクはいつもかき乱していたんだ。これは、ボクからみんなへのプレゼント。ボクみたいな存在がいたから、みんなひとつになることが出来たんだよ。
ボクは混乱を好んだ。生まれたときから、その役割を持っていた。だから、統合世界に再び生まれたときも、その役割は変わらなかった。だって、それこそが世界の決定だったんだから。だけどね、ボクはあの日から、おかしくなっちゃったみたいでさ。
聖者という完璧な存在の血を引きながら、人間という不完全な女の血を引いた存在。そう、まさにキミを知った時、体中の血が躍ったよ。こんなにも面白い生き物がいるんだ、って。だからボクはずっとキミを見ていた。それはボクの役割だったのさ。
キミという絶対的な王様が生まれる。そして、その王様が悪意に包まれることにより混乱が生まれる。そう、ボクは楽しかったよ。だって、混乱に乗じて、キミを手に入れることが出来たんだから。そう、ボクは世界の決定に背いてなんかいなかった。
ボクはもっとキミを見ていたかった。それはボクという存在の肯定よりも、強い想いになったんだ。だからもう、キミに縋られなくてもいい。あぁ、いつからか、ボクがキミに縋っていたみたいだ。そして、アーサーは聖神として生きる道を選択した。
ねぇ、アーサー。キミはボクが思っていた以上に成長したね。だけど、ちょっとやり過ぎちゃったみたいだ。これからキミがとる選択しだいで、ボクが世界の決定に背いたことになるみたいなんだ。それがいったい、なにを意味しているかわかるかな。
でも、ボクは後悔してないよ。それこそがボクの存在理由さ。きっと、世界は混乱する。それは常界だけじゃなく、神界も。アーサー、キミはいったいどんな役割を担うつもりなんだい。ボクはそれが知りたい。それさえ知ることが出来ればいいんだ。
これでボクの話はお終いさ。だから、キミの話を聞かせてよ。ううん、違ったかな。そうさ、キミの物語を見せてよ。一番の特等席で。だから、安心してね。いつだってボクはキミのすぐ側にいるんだから。ずっと、いつまでも、きっと、終わる刻も―。
15年の果て、夕日に溶けたふたり。一瞬の隙に逃亡を図ったアツヨシ。だが、今年こそはと再び赴いた約束の桜の下。遠くからでも香る甘さ。待ち焦がれていた女。いざ、真剣勝負。引き抜いた刀。そんな刃物に臆することなく走りよる少女。そして転ぶ。決まったダイレクトアタック。こうしてふたりは結ばれました。
聖魔王の指示の下、水魔獣士を常界へと案内した水波卿。それにしても長年の潜入任務お疲れさま。で、巡り巡って、また彼女の下に派遣されるわけだね。かつての教祖であり、現聖常王である者の下に就いていたのは聖魔王直々の命令。まぁ、キミが一番の適任だね。そんなこと、言われなくても誰よりわかってるさ。
聖常王と共に残った四大従者。対して、神界へと向かうアカネ、アオト、ミドリ、ヒカリ、ユカリ、ギンジ。ライル、リオ、三魔獣士、旧教団員。少ない戦力であり、大きな覚悟。そして彼らとは別に、また別の動きを始めた者たちも存在していた。
辿り着いた神へと抗う塔。違う、ここはあのときの塔じゃない。そう、かつての塔とは様変わりしていた。そして、アイツもいないみたいだ。見当たらないギルガメッシュの姿。みんな油断するなよ。開かれた塔の扉、そこには無数の怨念が蠢いていた。
踏み入れた塔。灯されていた明かり。僕はこの場所を知っている。アオトが口にした言葉。あぁ、よく似ているな。口を挟んだのはショクミョウだった。ただ静かに辺りを見回すサフェス。そう、かつての教団を模していた内部。気をつけろ、誰かいる。
直後、明かりに照らされたのは横たわった人影だった。どうも先客がいるみたいだ。油断と警戒、切り替わる感情。そして、無数の人影は起き上がる。腕が折れようと、足が折れようと、ただ意志もなく起き上がる。どうやら教団員が地に堕ちたようだ。
虚ろな目で襲い掛かる無数の教団員たち。すべては終教祖の為に。虚ろな瞳、そこに意志は存在しない。コイツらの後始末は俺たちがする、だからオマエらは行けよ。ショクミョウとサフェスは、かつての同胞たちへ終わりを与える選択をしたのだった。
無数の教団員が蠢くフロアを抜けたアカネたちは息をついていた。それはライルも同じだった。そして、ついた息の意味を誰よりも理解していたリオ。そんな瞳で、俺を見るんじゃねぇーって。あなたのいつもらしくない顔が、ただ珍しかっただけよ。
でも、安心するのはまだ早いんじゃないかしら。その言葉が意味していたのは、塔へと侵入していた先客。近づく足音。一つ、五つ、九つ、十。そして最後の足音。計十一の影。やっぱり、先客はあなたたちだったのね。ふたりの嫌な予感は的中した。
姿を表したのはアーサーへの忠誠を貫き通した十一人の騎士たちだった。これが僕たちの選択だ。次々に起動されるドライバ。君たちが彼の敵になるのであれば、僕たちは君たちの敵になる。僕たちの王は、いまも、昔も、これからも、彼ひとりだけだ。
対峙する想い。話をするだけ無駄よね。ミレンが天高く掲げた槍。各員に告ぐ。それぞれの想いをぶつけなさい。訪れる緊張。大丈夫、私たちは強い。だって、あの人が選んだ私たちなんだから。王を守る騎士として、恥じない戦いをすればいいだけよ。
君の相手は僕がするよ。ライルが大剣を構えると同時に目にも止まらぬ速さで薙いでみせたアサナ。一度アンタとは、戦ってみたかったんだ。体勢を崩しながらも、その攻撃を弾いたライル。アンタの話は聞いてたよ、随分と古い付き合いなんだってな。
僕はただ、彼に幸せになってほしいだけです。それはアーサーの幼き日を知っているからこその想い。杖に集積された風は荒れ狂う。だったら、俺は俺の幸せのために、アイツを殺すだけだ。ライルを縛り続ける鎖、それがいまも彼のすべてだった。
続く攻防。力任せに振られる大剣をいなした風。そして、風が解いた大剣を握るライルの右手。僕の勝ちです。振るわれる杖。次の瞬間、流れ出す赤い血。悪いな、武器はこれだけじゃないんだ。アサナの体を貫いたのは、ライルが手にした銃輪だった。
ここは日差しの温かな聖導院。僕の名前はアサナ。少年は少年へ手を伸ばした。君の名前は。見た目とは裏腹に、少し緊張した面持ちの少年。俺の名前はアルトリウス。そして握り返した手。もしわからないことがあったら、僕に何でも聞いて下さいね。
アサナは聖導院の職員から、アーサーの事情を聞かされていた。僕が力になってあげないと。それは心からの善意。少し年上のアサナなりの距離感、それは少し遠くから見守ることだった。また、その距離はアーサーにとっても心地の良いものだった。
少し危なっかしく、ついつい目が離せなくなる。アーサーはそんな子供だった。そして、アサナはいつも優しく見守っていた。怪我をしたら手当てをした。わからなければ勉強を教えた。それはアーサーが常界へ向かってからも、変わることはなかった。
評議会入りしたアーサーの活躍は天界のアサナの耳にも届いていた。そして、いつしかアーサーはアサナにとっての憧れにも近い存在となっていた。だが、そんなアサナにアーサーは言った。俺にとって君は君だけだ。いまも昔も、きっと、これからも。
僕は君に、生きる強さを教えてもらった。同じ天涯孤独の身でありながら、それでも強く生きるアーサーの姿。だから、僕は君の力になりたい。そして、アーサーが与えたマーリンというコードネーム。君は俺の部下じゃない。だけど、俺たちは仲間だ。
リオの前、立ち塞がったミレン。やっぱり私とあなたは、同じ道を歩むことは出来ないみたいね。無言で太ももの小刀に手を伸ばすリオ。さぁ、最後の戦いを始めましょう。この戦いは彼の為であり、彼の為じゃない。そうよ、彼を想う私たちの為に。
リオが周囲へと投げた小刀、そして展開された亜空間フィールド。そして生まれたいくつもの人影。そのすべてがリオの姿へと変わる。そして複数のリオは一斉にミレンへと襲い掛かる。私を誰だと思ってるの。あなたの戦い方は、すべて把握してるわ。
でも、腕をあげたわね。そこに存在していた無数のリオ。削られるミレンの体力。次で最後にしましょう。あえて受けた一撃。見つけたわ、本当のあなたを。一撃を受けていたのはリオも同じだった。どうして、わかったの。副官として、当然じゃない。
ミレンの右手が扉を4回鳴らした。失礼します。開かれた扉の先、そこは机がふたつだけ置かれた小さな執務室だった。本日からお世話になります、ミレンと申します。近づく人影。伸ばされた右手。そして、その手を握った右手。始まりは右手だった。