世界って言うのはね、少しくらい歪んでないとつまらないのよ。閉じられた刻の狭間から追い出された調聖者・クランチは刻の隙間から新たに動き出そうとしている世界を覗き込んでいた。歪まないのなら、アタシが歪ませるわ。それこそが、世界を調整する為に生まれた彼女の役目だった。聖なる扉とか、関係ないわ。
統合世界に生きる数え切れない命、その中のたった一つの命が一人の人間を成長させ、そして世界を変えた。僅かな歪みは大きな歪みへ。だから炎調者クランチは一人の少年を見つめる。きっと彼がまた、歪みになると願い。アタシを、退屈させないでよ。自立型ドライバ【ドライブ】と共に、世界を覗き込み続けている。
少し綺麗で艶のある世界が私は素敵だと思うの。世界を調整する為に生まれた調聖者・コーラスは統合世界を覗き込みながらため息をついた。刻の隙間から観察する対象は愛すべき存在を失い、そして共に生きることを誓った一人の少年。なぜ、罪というものは生まれるのかしら。軽蔑の眼差しはどこか寂しそうだった。
水調者コーラスが自立型ドライバ【デプス】で奏でるのは世界の調律。だが、彼女に世界を自由に調整する権限は与えられていなかった。やっぱり、綺麗な世界が素敵だと思うの。その想いが強くなったのは、覗き込んだ世界の片隅に、汚れない瞳で、汚れない明日を求める少年がいたからだった。どうか、真直ぐな道を。
早すぎた死や遅すぎた生、そんな様々な事情が絡み合いうねりが生まれる、それこそが世界よ。調聖者・フランジャは一歩引いた位置から感想を述べた。あとね、この場所は狭すぎるわよ。それは刻の狭間が閉じられ、代わりに生まれた刻の隙間での出来事。兎に角、全てに意味はあるの、それがこの世界の成り立ちよ。
後少し早ければ、みな助かったかもしれないわ。風調者フランジャが自立型ドライバ【リジェン】と共に思い返していたのは道化竜にまつわる話。でも結果、若き竜が生まれたわ。出会いと別れを経て、竜界に匿われた一人の少女。だから全部、必然なの。覗き込んでいた統合世界、そこにはなぜか竜界も映り込んでいた。
世界なんて、幾つものズレが重なり合って生まれるんだよ。調聖者・フェイザが覗き込んでいたのは天界。やっぱり女の園は美しいね。視線が離さないのは光の乙女達。でもやっぱり、彼女達はどこかズレているよ。肯定的なズレと否定的なズレ、その二つのズレの意味は彼にしかわからない。でもまぁ、いんじゃない。
最初は、いつだって小さなズレなんだよ。光調者フェイザは続ける。だけどね、一度でもズレてしまったら、どんどんズレていくんだ。時間が経てば経つほど、ズレは大きくなるものなんだよ。自立型ドライバ【レゾナス】に問いかける。そろそろ、僕達も動かなきゃいけないのかな。刻の隙間は、少しざわめいてみせた。
もっともっと、過激に歪ませようよ、じゃなきゃ見ていてつまらないよ。調聖者・ファズに与えられた力は世界を激しく歪ませる力。だが、もちろんそれは必要な時にのみである。いつまで僕はここにいればいいのかな。覗き込んだ世界に刺激され、少年は今にも飛び出して行きそうだった。早く、遊びたいだけなんだよ。
うん、いいよ、そういう考え、いいと思うよ。闇調者ファズは不夜城での議決の瞬間を覗き込んでいた。もっとだよ、もっと歪ませていこうよ。足元に転がった自立型ドライバ【ゲイン】を強く踏みつける。それでこそ、世界だよ。これから起きる大きな歪みに心を躍らせる少年は、いてもたってもいられなくなっていた。
永遠に、追いかけっこ。遅くてもいい、速くてもいい、とにかく追い越さないように。調聖者・ディレイの言葉は常に一歩遅れていた。それこそが彼女の存在理由であるかのように。歴史は繰り返される、だから、どうか、負けないで。追い越すことの出来ない彼女だからこそ、いつか追い越せるようにと、願うのだった。
自立型ドライバ【リピート】を展開した無調者ディレイは、自分に与えられた調律する力は、何でもない力であると悟っていた。だから私は、応援するしかないんです。覗き込んだ世界、地位を得た代わりに自由を失った少年の眼差しに、その想いを応援するしか出来なかった。どうか、繰り返される世界に負けないで。
常界の仕来りに習い、天界ではハロウィンパーティーが行われていた。お忍びで参加する光妖精王ヒカリの目的はもちろん期間限定クレープ。妖精と人間の間に生まれた子が天界を治めることへの反発に耐える彼女に訪れたほんの一時の安らぎ。だが、彼女の父の存在に気づいてしまった妖精達は、ただ恐怖に怯えていた。
炎魔将は幼き頃を思い返していた。いつも隣にいた少女は、大人になった今も隣にいた。どうした、悩み事か。赤の女王は問いかける。私達以外に、もう一人いた気がするの。何故か思い出すことの出来ない一人の少女は、確かに美しき炎を灯していた。
水魔将は闇魔将と共に闇魔女王の警護にあたっていた。私達の世界を作る為よ。自分達の閉じた世界を作る為、彼女は刀を構える。閉じた世界で、永遠に愛し合う為に。くだらない戦争なんて、さっさと終わらせてしまいましょう。妹の手を握り締めた。
風魔将はふと空を見上げた。あぁ、今日も風は笑っている。そんな彼の真上に突如として人影が。そしてその影は瞬く間に彼の頭上へ。次の瞬間、彼は押しつぶされていた。悪いな、クッション助かったよ。空から降ってきたのは時を廻る配達人だった。
光魔将が過ごしたのは旧友との時間。君も戦争へ参加するのですか。そして旧友の答え。俺は、ハニーの為に生きると誓ったのさ。それは友情より愛情を選んだ結果。ならば君を殺めなければなりません。だが、彼は旧友に逃げる時間を与えたのだった。
水とは何か。その答えを渇望した少女は、幾つもの実験の果て、水のみを動力とする機体を創り出した。ケルビンと名付けられたその機体は、世界の気候を狂わせる程の性能を持ちながらも、戦争の表舞台に現れることは無かった。全ての水が、やがて海へと還る様に、この機体もまた、深い海の底へと沈んでいった。
あらゆる生命に満ち溢れた海の一角が、一夜にして死の氷海と化した。その現象を、人々は聖なる扉の出現に伴う異常気象と結論付けていた。全ての生物が活動を停止した静かな海の中で、水冷機ケルビンだけが優雅に泳いでいる。何故、再び彼女が目覚めたのか。それは、創造主のただの気まぐれだろうか。それとも。
水は空から降り、地を流れ、海へと還り、また空へ昇る。生命もまた、生と死を巡るもの。この近似性から立てられた仮説。検証の為に創られた機体は海の底で活動を停止した。それは失敗だったのか、知っていたのは神と呼ばれた天才ただ一人だった。
闇魔将は水魔将と共に闇魔女王の警護にあたっていた。私達の世界を作る為ね。自分達の閉じた世界を作る為、彼女は刀を構える。閉じた世界で、永遠に愛し合う為に。くだらない戦争が、私達の二人だけの時間を奪っていくのね。姉の手を握り締めた。
無魔将が背負っていたのは偽の一文字。そんな彼の元を訪ねて来た懐かしき弟子の無刑者。おめぇは東で何を見た。そして答えたのは誠の一文字。次に会う時は、刀を交えることになるでしょう。そりゃ、楽しみだ。そして師弟は別々の道を歩み出した。
幻奏者は盤上の駒を眺めていた。何を企んでいるのかしら。そんな彼女に問いかけたのは闇魔女王。終わらない、幻想よ。そして彼女はクイーンを斜め前へ進める。この世界に、足りないものがあるの。そして手の平から出して見せたのはキングだった。
何でみな争うのかしら。オリエンスは疑問を抱いていた。魔界も天界も、仲良くすれば良いのに。妖精である彼女は優しさや厳しさの風に吹かれ育った。四人の風の妖精達はいつも一緒だった。ねぇ、あなたはどう思うの。語りかけたのは共に育った一人の天才。よく言うわね。視線の先、そこに囚われのある家族がいた。
そいつらを返してもらう。教団本部、単身で乗り込んだのは永久竜。満面の笑みを浮かべる東魔王オリエンス。コイツらにもう用はないの。乱暴に解放される四体。喋れないコイツらは、永遠にあの日のお父さんを待つのね、けひひ。怒りを隠せない永久竜、一触即発の状況を制止したのは世界評議会を抜けた風才だった。
ふぁあ、よく寝た。解放されてしまったオベロン。彼は綴られた存在でありながら、神になるという禁忌を犯した妖精であり、そして世界を敵に回した。おはよう、元気だったかい。目覚めた彼の前、一人の仮面の男は現れた。今ね、世界がとても、大変なんだよ。そして返す答え。世界なんざ、生まれた時から俺の敵だ。
久しぶりの再会に嫌悪を示す堕精王オベロン。目障りだ、消えてくれ。それは仮面の男に連れられたもう一人の男に向けられた言葉。綴られた存在に子供が存在していたとしたら、その子供に前世が存在しないということは、ごく当たり前の事実だった。悪いが、俺は好きにやらせてもらう。開いた掌に咲いた花は散った。
その薄い唇で何度儚げな言葉を囁いただろうか。何度儚げな夢を浮かべただろうか。何度儚げな希望を紡いだだろうか。そしてその薄い唇で、何度儚げな言葉を塞いだだろうか。何度儚げな夢を壊しただろうか。何度儚げな希望を壊しただろうか。
熱とは何か。少女の頭に浮かんだ一つの疑問は、やがてジュールと呼ばれる答えを創り出した。その機体内で熱が生まれ、その熱が機体を動かし、また新たな熱を生む。だけど、辿り着いた答えは、また幾つもの疑問を少女の中に炙り出す。結局、その機体に火が灯ることが無いまま、一つの争いが終わりを迎えていた。
また争いが始まるんだね。それは少女にとって諦めであり、喜びでもあった。人間が生み出した炎が、まさか神の領域にまで届くとは。あの頃とは、また違った答えが見つかるかもしれないね。炎熱機ジュールに初めて灯された炎は、機体の融点を遥かに超えた温度で燃え上がる。今回は最後まで、見届けることにするよ。
全ての生命は産まれた時に熱を持ち、死に絶える時に熱を失う。命は燃え、舞う火の粉がまた新たな命となり、世界を燃やす。熱は活力の象徴。かつて、永遠の命を模して作られた機体が、その熱量に耐えきれる器を持たされなかったのは何故だろうか。
音とは何か。音とは空気の振動であり、生ある者が動く時、必ず音が発生する。そこから定義されたのは、無音は死であるということ。その検証の為に創り出された機体がデシベルだったが、始められた検証には一つ誤算があったことに少女は気付いた。その後、機体は物音一つしない無音空間で、長い長い眠りについた。
神と竜が争っていた頃、世界に溢れていた悲しい音。だけど微かな音さえ、ここには届かなかった。この無音空間で眠っていた無音機デシベルを目覚めさせたのは、届かない筈の悲しい音。再び戦争が始まろうとしていた。さてと、実験の続きでもはじめよっかな。少女の隣、原初の機械もまた、不敵な笑みを浮かべた。
世界には幸せな音、悲しみの音、その全てが混ざり合い存在する。それは世界が生きている証明なのかも知れない。もし世界から音が消えたら、世界は死ぬのだろうか。それを検証する手段が考案されたが、一つの大きな懸念により、実験は見送られた。
黄昏の審判は幕を閉じ、落ち着きを取り戻した統合世界。だが、依然と三つの世界は交わったままだった。そして、そこに新たに交わってしまったのが竜界<ドラグティア>だった。新生世界評議会に常界代表として送り込まれたコードネーム・レディはレンズ越しに、姿を消した一人の王の行方を見つめていたのだった。
今日の会議はどうだったのかしら。世界評議員レディの元を訪れたのは眼鏡の聖銃士。相変らず、平行線よ。それは天と魔のいがみ合い。そっちこそ、どうなのよ。私達は待ち続けるわ。それは帰らぬ一人の王。でも、あの二人は。消えた二人の聖銃士。大丈夫、きっと彼らに考えが。だが、その瞳は地面を見つめていた。
魔界を代表して新生世界評議会の会議の場に現われたディアブロは口を閉ざしたままだった。魔界から天界への戦線布告に対し、未だ満足のいく回答を得ることが出来ない魔界。圧倒的に有利な戦力を揃えつつも、武力行使しない理由は不明だった。そして、そんな彼の元、水の悪魔と共に、神となった水の悪魔は訪れる。
現世界評議員のディアブロにとって、元世界評議会所属の研究者である水才は見逃せない存在だった。口を閉ざした水才の代わりに言葉を発する水波神。離れていった聖暦の天才達の末路。もう世界評議会はお終いさ。行方不明の炎才と闇才、教団所属の水才と風才、天界についた光才、残された天才は無才だけだった。
喧嘩は良くないよ。新生世界評議会の会議の場、猫撫で声がこだまする。皆、仲良くしましょうね。その声の正体は第六世代自律猫型ドライバ、名前は【マダナイ】だった。調停役に就いた彼は常に平和を願っていた。だって喧嘩は必ず誰かが傷つくでしょ。偽りの笑顔、その言葉が偽善であることは、一目瞭然だった。
調停役マダナイがその役に就いた理由や経緯を知るものはごく僅かだった。各世界代表はおろか、最高幹部である三人にすら知らされず、その上位に位置する六聖人により選出されていたのだった。そんな彼の部屋に遊びに来た少女。私が第六世代、一番乗りっと。第零世代を生んだ神は、自らの手で新たな歴史を始めた。
何故、ロビンが天界代表として世界評議会に送り込まれたのか、それは世界評議員だけでなく、天界の妖精達も皆、頭を悩ませてしまうほどの事件だった。会議日時を間違えるだけでなく、会議場所の勘違いは毎度のこと、そして結果数時間の遅刻は当たり前だった。魔界と一触即発の最中、何故、彼女が選ばれたのか。
評議員にロビンを選んだのは紛れも無く光妖精王だった。彼女なりに考えがあってか、それとも何も考えずにか。ただ結果、魔界が武力行使に出ることはまだなかった。また、彼女は次の会議での報告事項が憂鬱だった。それは幽閉していた堕精王失踪の件。この事実を知る者は、天界でも僅か一部の妖精達だけだった。
黄昏の審判が終わった時、閉じられた聖なる入口の影響により統合世界に加わることになった竜界<ドラグティア>から代表して世界評議会に参加することになったのはナーガだった。ふんっ、下位なる世界など下らない。だがそれは皮肉ではなく、未だ上位なる世界に君臨する神界<ラグナティア>に対する嫉妬だった。
代表会議からの帰り道、ナーガが通りがかったのは評議会施設である訓練場。そこには相変らず汗を流し続ける特務竜隊の姿。変わった竜達がいたものだ。消えた文明竜、だが未だに彼らが訓練を続ける理由とは。それはあの時、竜王と聖銃士を取り囲みながらも、誰一人として攻撃することのなかった理由へ通じていた。
予定調和を狂わさないでくれないかね。会議室の窓が開いた時、そこに腰をかけていたのはスフィアだった。監視役として遣わされた彼はその後、一言も発することはなかった。彼が誰の推薦によりその役に就いているのか、それは調停役同様に、触れてはいけない真実だった。開かれた本は退屈しのぎなのか、それとも。
終わりを告げたのは監視役スフィアが閉じた本の音。会議室を後にした彼が声をかけたのは英雄。窮屈だろうに。答える英雄。全部ぶっ壊しちまいてぇよ。そこに招かれざる来客。邪魔をした君への罰さ。現れたのは元世界評議会の悪戯な神。面倒事を、起こさないでくれよ。監視役はその言葉を残し、常界を後にした。
廻る廻る、観覧車。廻る廻る、回転木馬。灯りの消えた遊園地、深夜に鳴り響くは筆の音。ボームは無我夢中に書き綴っていた。お疲れさま。でもまだ、この物語は終わらないよ。置いた筆、鳴らすは口笛。そして踊り出すキャスト、煌き出す景色。電飾に彩られた遊園地は、招待客への深夜営業が始まろうとしていた。
煌くパレードが持て成すのは行き場を無くした言葉無き四体。そんな四体に声をかけた初老の男。僕は、永久の魔法を信じることにします。最後の挨拶が、それでいいのかい。道化者ボームは語りかける。後はお願いします。そして男は姿を消した。少し未来の話、とある遊園地は、いつも多くの家族の笑顔が溢れていた。
風とは何か。時に風は冷たく、微かな命の灯火を吹き消してしまう。時に風は暖かく、木々が産んだ新たな生命を運んでいく。そんな風に興味を持った少女によって創り出されたガル。兵器でありながら、その機体は戦場ではなく、高い雲の上へ姿を消した。風に吹かれた生と死が、ゆらり揺れる世界を見下ろしながら。
この世界を流れる様々な風。竜の吐息、悪魔の羽ばたき。各々の想いを抱えて疾駆する者達。数多の風が空へと舞い、その機体にこびり付いた錆を一つ残らず払い落としていく。風速機ガルの体内に再び風が宿る時、世界の風向きが変わり始めた。いや、風向きが変わり始めたからこそ、再び風が宿ったのかもしれない。
風は運んだ。小さな摩擦から生じた、小さな火花を。風は焚きつけた。その種火が、やがて炎になるまで。風は記憶した。かつて神と竜の間で起きた、大きな争いの傷跡を。そして、変わり始めた風向き。この世界もまた、大きく変わろうとしていた。
民は王に縋るとしたら、王は何に縋るんだろうね。悪戯神ロキは問いかける。神に縋るしかないよね。それは下らない自問自答。もっと無様に争えばいいよ。遥か彼方の神界<ラグナティア>から、美味しそうに見つめる統合世界<ユナイティリア>。どうせ聖なる出口<ディバインゲート>なんて存在しないんだから。
磁とは何か。それは異なるものが引き合い、同種のものが退け合う力。生と死は異なる事象であり、きっと引かれ合う。さて、その二つが一つになる位まで近付いた時、その中心には一体何があるのだろうか。少女は確証を得る為に一体の機械を創り出した。長く続いた戦争の中心で、テスラはずっと記録し続けていた。
出会う筈の無かった異なる世界に住まう異なる種族。偶然の出会いに引かれ合い、やがて近付き過ぎた両者は反発し合う。小さな反発はやがて大きな反発へ。そして今もまた、世界のバランスは崩れ、生と死が引かれ合う戦争が始まろうとしていた。闇磁機テスラもまた、再び動き出す。少女が求める答えを記録する為に。
生と死は近づいたり離れたり、何度も繰り返されてきた。そこに意味は有るのだろうか。未だ答えは見付からない。もし意味が有るのなら、多くの犠牲にも大義があったと言えるだろうか。その答えが見付かるまで、観察は続けられる。そう、何度でも。
来客だ。教祖は告げる。どうすんの。アマイモンは問う。殺さずに、連れて来い。彼はその意味が理解出来なかった。冗談は止めろ。多銃砲型ドライバ【ベルセルク】に詰める弾。ここは僕が。水通者と共に現れた西魔王。女連れがしゃしゃんなよ。向けた敵意。君には、特別な任務を与えよう。教祖は言葉と共に消えた。
道化竜の家族は解放された。だが、その裏には北魔王アマイモンが存在していた。手を上げてもらおうか。永久竜の背後、突きつけられた多銃砲型ドライバ【ベルセルク:ゴア】と、更にその背後に潜む無数の教団員。けひひ。笑顔を浮かべる東魔王。そいつらと、交換といこう。鳴り響く無数の銃砲。レッツ、ハッピー。
クロウリーは言った。世界は完全であるべきだと。完全という言葉が何を意味しているのか、それは団員でさえも確証を得てはいなかった。ただ、その真っ直ぐな瞳が見つめる未来を見たい、見てみたい、そんな想いが集まっていたのだった。神に救いを求めよ。だが、そんな言葉を発した少女は、紛れも無く人間だった。
創られた神格は彼女を苦しめ続けていた。でもそれが、私という人格なのだから。教祖クロウリーが右を向けば右を向く。あぁ、なんて健気なんだろうか。そして込めた皮肉。完全世界など、夢のまた夢。終わらせるのも、また私の役目か。砂上の楼閣に気付かない、愚か者達め。彼女の苦しみに、気付く者はいなかった。
そこに無は存在していた。それは悲しみでも、幸せでもない感情。人は悲しみを感じるからこそ、幸せを感じることが出来る。だったら、多くの幸せは、多くの悲しみから生まれんじゃね。それが北魔王の持論であり、決して間違った理論ではなかった。
神界から統合世界を見つめる男がいた。視線の先にはその身を隠していた湖畔を後にしようとする咎人が。もう一度だけ、相手をしてやろう。落ち着きながらも、その瞳には炎が灯っていた。炎と炎が再会を果たす時、そこには一体何が残るのだろうか。
ヒカリは光を宿した少女だぼん。人間と妖精の間に生まれた混種族<ネクスト>と呼ばれる特別な存在らしいぼん。そんなヒカリを仲間にすることが出来るチャンスだぼん!ちなみに、好物はオレンジだぼん。でも最近は、クレープに夢中らしいぼーん!
ユカリは闇を包んだ少女だぼん。魔界で生まれ常界に堕ち、そして人間として育ったという過去を持った少女だぼん。そんなユカリを仲間にすることが出来るチャンスだぼん!ナスの浅漬けが好物ぼん。渋いんだぼん。羊羹好きだという噂もあるぼーん!
ギンジは無を好んだ少年だぼん。宿したわけでも、包んだわけでもないぼん。つまり一般人だぼん。そんなギンジを仲間にすることが出来るチャンスだぼん!本当は強いぼん。無だから弱点がないぼん。更なる秘密もあるぼん。銀杏が好きらしいぼーん!
光とは何か。降り注ぐ光に、目を細めながら少女は問う。何者にも等しくその恵みを分け与える光を、もし自由に操ることが出来たなら。光を動力とする機体が創り出された頃、長引く戦争に空は閉ざされ、その機体が動くことは叶わなかった。今は、おやすみなさい。少女の優しい言葉に、ルクスはその目を閉じた。
降り注ぐ光の中、すやすやと眠り続ける光明機ルクス。長く続いた神と竜の争いは終わり、再び空には光が満ちていた。やがてその目覚めは、新たな戦争の始まりと共に。ママはどこ。目を擦りながら彼女は呟く。目覚めたばかりの兵器は、母を求めて初めて外の世界へと向かう。自らに課せられた役目も知らぬままに。
始まりは闇だった。この世界に光は無く、闇が世界の全てだった。それは一説。始まりは光だった。この世界に闇は無く、光が世界の全てだった。それも一説。だが、互いに、それを光だと、闇だと認識出来たのは何故だろうか。始まりは無だったのに。
あの時よりもイイ男になったじゃない。艶やかな視線の先には千本鳥居を通り抜けた咎人が。何度だって奪ってあげる。口元は緩んでいた。アタシは罪に濡れた男が好きなのよ。そう言いながら視線を移した先、そこにはもう一人の罪に濡れた男がいた。
何故あの時、あの少女を手にかけたか、その答えをもらってなかったね。悪戯な神は問いただす。あの少女って、誰。寝ぼけ眼のまま返す風の神。あの少女を、助けにきた。そう言いながら指差した竜界、だが指差したはずの少女は既に姿を消していた。
光の神は羨ましそうに天界を眺めていた。やっぱり、若いってイイねぇ。必死に走り回る光妖精王は汗を流しながらも笑顔を振りまいていた。でも、若さって残酷よ。それは幾度となく繰り返される争いを見てきた彼女だからこそ、こぼした言葉だった。
あー、マジでイラつくわ。闇の神は二人の少女を思い出していた。今、あの椅子には片っぽが座ってるね。遠くから眺めていたのは魔界に位置する終わらない夜の城。でもいいわ、希望を失った王は、神に縋るしかなくなるのよ。だから、希望を奪えば。
縛り付けて監視するだなんて、本当に趣味が悪いんだから。無の神が眺めていたのは常界だった。英雄という言葉に、何の意味があるのかな。その答えは簡単だった。そっか、みんな肩書きを求めては、肩書きに溺れてしまう、哀れな生き物だったんだ。
いつの時代も、手のかかる人達だ。だが、悪戯な神様は喜びの笑みを浮かべていた。でも今はまだ、その時じゃないから。鼻へとかざす人差し指。聞こえるかい、かすかな希望が。見つめる手のひら。大いなる絶望の為には、大いなる希望が必要なのさ。
隊服を脱ぎ捨てた青年は育ての親から聖剣を託されていた。どんな使い方をしても、良いってことだよな。わざと吐き捨てた言葉。大丈夫だよ、私はあなたを、あなた達のことを、信じているから。湖妖精に見送られ、一人先に湖畔を後にしたのだった。
青年は自分のせいで大切な親友を失った。ずっと一緒にいたのに。誰よりも一緒にいたのに。なぜ、気がつかなかったのか、彼ならきっと、わざと間違った使い方をすると。そんな失意の青年の目を覚めさせたのは封印されし聖剣による鈍い一撃だった。
隊服を脱ぎ捨てたライルは光さえも脱ぎ捨てた。そして一人向かった先。どけよ。殺意を向けられた無通者と無戯獣。おい、立てよ。虚ろな目の聖者に向けられた言葉。俺が殺したいのは、今のアイツじゃないんだ。突きつけたのは聖剣型ドライバ【カリブルヌス】だった。待ってんだよ、アイツは今も、一人で、ずっと。
ったく、おかげで目が覚めたよ。そして聖者は無数のドライバを手に。今年も仕事は休業か、オマエはどうすんだ。問いし相手は隊服を脱ぎ捨てた男。俺は別の道を行く。そっと見つめる聖剣。今宵、サンタクローズは聖叛者へ。例えこの命が尽きても、必ず取り返す。全ては青すぎた春の為、さよならの冬を越えて、今。
平穏を保っていた統合世界に不協和音が鳴り響く。突如として炎に包まれる常界の地方都市。俺はただ、言われたことをしているまでだ。アインはまだ少年だった。燃やすだけの、簡単なお仕事さ。勢いを増す炎。どうせ俺達に、居場所はない。そして、彼の力は増幅型ドライバ【コード:F】に閉じ込めたままだった。
炎が辺りを燃やし尽くした時、そこに炎咎甲士が立っていた。派手に騒いだかいがあったぜ。拘束を外し力を解放するアイン。ぶつかり合う炎。オマエを殺して自由を手にする。だが、その戦いを静止したのは髪を短く切り揃えた女だった。貴方を守るよう、仰せ付かりました。甲と銃剣は横に並び、悪しき炎と対峙する。
不協和音の正体は炎だけではなかった。地方都市が炎に包まれると時間を同じくして、また別の場所では街が水に飲み込まれていた。全て、流してしまえばいいんだ。ツヴァイは増幅型ドライバ【コード:A】から、ただ水を溢れさせていた。どうせ、僕らには名前すら与えられない。その溢れ出る水は、涙にも似ていた。
全てを水に流させてはくれないんだね。ツヴァイの前に立ち塞がったのは水咎刀士だった。流そうとする者、留めようとする者、そんな二つの想いの流れはぶつかり合う。そして、そんな流れを壊したのは銃槌だった。まさかだよ、護衛の対象がアンタだったとは。再会を果たす二人。こんな偶然って、二度もあるんだね。
常界で発生した災害は炎と水だけではなかった。巨大な竜巻が街を襲う。ほら、ここは誰かと誰が育った大切な街なんでしょう。災害は咎人を誘い出す手段にしか過ぎなかったのだ。家族とか、友達か、馬鹿じゃないの。ドライは吐き捨てる。所詮人は、どこまでいっても一人なのよ。生まれた時から、彼女は一人だった。
一人じゃないよ、ずっと一緒なんだ。風咎棍士は左手首を握り締めた。創られた少女が起こす風と闇を纏いし風。そんな二つの風はもう一人の少女を運んだ。聖王代理の命により、助太刀参上っと。元気良く飛び出してきた少女は一対の銃棍を手にしていた。詳しい話は後でね。棍と棍は思い出を守る為、立ち向かう。
不協和音は常界だけではなく、天界魔界、そして竜界にも鳴り響いていた。妖精さん、ごめんなさい。フィアは轟音を響かせる。空を割り、大地へと落ちる無数の稲妻。増幅型ドライバを与えられた少年少女は、力と引き換えに自由を失った。いや、初めから自由の意味など知らなかったのだった。あぁ、ごめんなさい。
突き刺さる落雷。ごめんなさい。悲鳴と共に勢いを増す雷鳴。ごめんなさい。ただフィアは謝ることしか出来なかった。だが、そんな少女の愚考をある女が制止した。ごめんなさいとありがとうは、同じ数だけ言えと教わらなかったかしら。その女は、ありがとうだけを残して消えた男の、ごめんなさいを待ち続けていた。
いつもより深い闇に包まれた魔界。フュンフはそれが何を意味しているかはわからなかった。ただ、言われたようにしたに過ぎなかった。いいよ、朝なんて来なくて。少女は未来を見ようとしなかった。いや、未来という言葉の意味を知る機会すらなかった。増幅型ドライバ【コード:D】は、そんな彼女の御守りだった。
あなたにも、生の希望が必要みたいね。天界を後にした女は魔界へ辿り着いていた。あなた達は何も悪くはないわ。フュンフへと伸びていた長い影。ただ、私の邪魔だけはさせないわ。そして魔界は、いつもの闇に覆われていた。彼女達の裏には、誰が。女は休む暇もなく、たった一人で竜界へと向かうのだった。
ゼクスが訪れたのは竜界だった。増幅型ドライバ【コード:N】を手に、辺りを無へと誘う。ほぼ同時刻に六ヶ所で起きた災害、それは表向きは統合世界に竜界が加わることになった黄昏の審判の二次災害と言われた。だが、実際にはその裏に創られし六人の子供と、その糸を引く神の手を持つ天才少女がいたのだった。
天界と魔界、そして竜界に起きた災害を収めたのはあなただったのね。意識を失ったゼクスの隣にいた女へと、隊服を脱ぎ捨てたかつての仲間へと向けられた銃槍。あなたに、あの人の代理は務まらない。投げ返す殺意。戻って来なさいとは言わないわ。眼鏡越しに返す真意。私達は今も信じている。必ず、帰ってくると。
殺したいほど憎かった。いつか殺すと思っていた。だが、それが愛情の裏返しであると気付いていた。ただ、気付かないフリをしていた。アイツさえいなければ、オレは今頃。聖剣を手に、青年は鞘を捜し求めて旅立つ。オレが殺すまで、待ってろよ。
袋に詰め込んだ数え切れない夢と希望。これでもまだ、足りないな。そして、聖剣を手にした男と一つの約束を交わした。一人の男は殺す為に、一人の男は生かす為に、異なる想いを抱きながらも交わした約束。それは、聖王の奪還という約束だった。
666議会に属する裁判官であるビアンカは公平無私を体現したような性格で、一切私情を挟まず物事を判断する。仕事だけでなく日常的に公平な判断をするため、感情や表情に乏しい。問題や事件が発生した時は、天秤型ドライバ【スタッカート】で罪の重さを量り、有罪か無罪を判決する。 デザイン:Garnet
天秤により有罪と判断された者へは罰という名の攻撃が加えられる。感情という不確かなものではなく、事実という確かなもののみで判決を下す為、たとえ裁かれる対象が家族や友達であっても容赦はない。ビアンカの感情が乏しいのは裁断者のせいか、裁断者が彼女から感情を奪ったのか。 デザイン:Garnet
この世界は地獄か天国か。ダンテは常日頃考えていた。ある人にとっての地獄は、ある人にとっての天国であり、ある人にとっての天国は、ある人にとっての地獄である。その答えに辿り着いた時、三つ目のドライバが彼の前に現れた。そして勢揃いした自立型ドライバ【トリオ】の指揮を執り、聖人の道を歩むのだった。
貴様の奏でる曲は何だ。炎聖人ダンテが現れたのは幻奏者の前。貴方ほどの人が動くとはね。だが、彼女は動じてはいなかった。聖人の椅子は退屈だったのかしら。質問に、答えろ。そして、この時彼は気が付いた。彼女の背後のある男の存在に。そういうことよ。また、この時、天界でもとある邂逅が果たされていた。
あら、珍しいなぁ。蘇生院<リヴァイア>の呼び鈴は滅多に鳴らない。慌てて白衣を纏うネクロスは楽しそうだった。死者蘇生のどこがいけないのよ。彼女の研究は糾弾され、そして教団を追放された。それが神への冒涜だと言うなら、神になっちゃえばいいのよね。そして彼女は次種族<セカンド>になったのだった。
死医者ネクロスの元に届けられたのは綺麗な顔をした男だった。そして、添えられていた一通の手紙。彼は魔物かしら。だが少し様子が違っていた。もしかしたら、竜なのかしら。ただ、そんなことは彼女にとってどうでもよかった。そして、この時彼女が蘇らせた男が、聖戦に必要不可欠な最後の欠片となるのだった。
蘇生院を訪れる者達は、いったい何を求めているのだろうか。もう一度会いたい、そんな優しい願いを叶えてくれるような、都合の良さを求めているのだろうか。永遠の眠りから目を覚ました時、そこには苦痛や恐怖、絶望しか待っていないというのに。
うん、良く似合ってるよ。それはお正月の出来事。息抜きも必要ですから。狐の一家に匿われたアオトは晴着に袖を通していた。そんな彼は石段から行き交う人波を眺めていた。もう、全部終わりにしてしまいたい。何度そう考えただろうか。でも、まだ、終われない。そして、この戦いで最後にすると誓ったのだった。
新たな隊服を纏ったレオラが髪を切ったのは覚悟の為などではなかった。気付いたんです、恋だったって。それは甲士と共に悪しき炎を退けた後の告白。でも、本当の想いに気付けなかった。見上げた先はかつての理想郷。だから、これは失恋です。溢れる笑顔。そしてもう一度、本当のあの人を、好きになりたいんです。