聖王代理のすぐ隣にいたのは樹杖型ドライバ【ブリージア】を手にしたマーリン。まだ彼の行方は掴めませんか。少し不安そうな声。大丈夫よ、私達の王は絶対に、死んでも死なないような男だから。それにね、うちの子達もあの頃より頼れるのよ。二人はにやりと笑う。そうでした、彼と、彼が選んだ部下達ですもんね。
僕は僕の出来ることをしなければならない。そして一人、向かった先は天界の外れ。やっぱり、ここにいる気がしたんだ。そこは在りし日の聖王と聖者がよく喧嘩をしていた川沿いの土手。彼女と話をさせてもらうよ。優しい表情のまま発した殺意、仕方なくその場を後にした雪術師。共に行こう、彼に、お帰りを言いに。
勝手についてきちゃ駄目だよ。そう言いながらも優しく頭を撫でる悪戯な神。だが、言葉を発することのないタマの視線は常に一人の男へと向けられていた。君たちは、似たもの同士なのかもしれない。言葉を発しないもう一人の男。彼のことが気になるのかな。なぜ少女が彼を気にかけるのか、全ては思い出の中だった。
狂騒獣タマは、彼らのやりとりをじっと見ていた。悪戯神のすぐ隣で綴り続ける少女、その隣で虚ろな目で空を見つめる堕王、そんな三人を気にせず研究に没頭する堕闇卿。更に四人を気にも止めないのは客人であるはずの神才。まだ、彼らは来ないみたいだね。悪戯神達は待っていたのだった。退屈は好きじゃないんだ。
魔物はみな、死ねばいいのよ。何が彼女をそこまで掻き立てるのか。裏切り者の闇精王も、あっちにいるのよね。闇の力が、魔物のものだなんて、誰が決めたのかしら。魔物がいなくなれば、私の両親は。それにもう、隠れて生きる必要もなくなるのよ。
もし、辛いことがあったのなら、いつでも遊びに来て良いですからね。そんな場所があれば、何人が救われただろうか。だが、そんな場所に、行きたくても行けない人もいた。だから僕は、もう後悔はしたくないんです。心優しい青年は、自分の戦いへ。
もう、君達に好き勝手動かれるわけにはいかないんだ。雪術師は無の美女へと語りかけた。君には、君の仕事をしてもらわないと。だが、縦に振られない首。だったら、ここで消えてもらう。その時現れたもう一人の男。彼女の仕事はね、他にあるんだ。
小鳥のさえずりが聞こえた朝14時、オベロンは目を覚ました。太陽が沈み始める昼15時、昼食。微かな夕暮れ、夜16時、就寝。そんな日々を繰り返すも、彼はいつも眠そうだった。一度癖になってしまった生活習慣はなかなか治らないのだった。
着替えごとき、一人で出来るといつも言っているだろう。朝から紅茶などいらん、水で十分だ。それは教祖にとっての当たり前の朝。だがそれを受け入れることは出来なかった。鳥籠の中の教祖は目を開けて夢を見る。砂上の楼閣がいつか崩れ去る夢を。
明日は月に一度の六聖人が集う会議の日。どうせ奴らは時間通りに来やしない。いつも時間通りにやってくるのは議長を除き、三人だけ。会議ごっこにはうんざりだ。おや、君はごっこ遊びは嫌いなのかい。招かれざる来客が、彼の休日を賑やかにした。
友達なんていらないよ。少女は変わりたくて夜の街へと逃げ込んだ。この喧騒とネオンは私に優しいのね。そこでは一人じゃなかった。そうよ、私は夜の蝶になるの。だったら、思う存分、甘い蜜を吸わせてあげようじゃないか。甘い誘いを求めた少女の存在は世界から消え、そしてクロンという少女が生まれたのだった。
愛想笑いが心地良いわ。ほら、みんなもっと笑って、笑って。ここに理性は必要ないわ。甘い、甘い、そんな蜜を、いつまでも吸い続けることが出来るのだから。私は、蝶になったの。それは偽風精クロンの望んでいた結果だった。ありがとう、私のことを変えてくれて。礼には及ばないよ。これが、正しい道なんだから。
人は、いつまでも変わらずにいることは難しい。だけど、簡単に変わることも出来ない。だからこそ、自分を簡単に変えることが出来る、そんな魔法の薬があるのならば求めてしまう人がいるのもまた事実。需要と供給、それは幸せな取引だったのだ。
鍛練を怠らないのは、守りたいものがあるから。では、鍛練をしない人は、守りたいものがないのだろうか。決して、そんなことはなかった。ただ、自分の体を犠牲にすることでしか、愛情を表現することの出来ない不器用な存在がイージスだったのだ。
お米。パン。蕎麦。スパゲッティ。オムライス。カレー。ラーメン。パン。お寿司。バナナ。プリン。ヨーグルト。お米。ジンギスカン。鰻丼。パン。天丼。牛丼。カルツォーネ。お米。ピザ。ゴルゴンゾーラ。お米。アヒージョ。たこ焼き。おでん。
タマは果たして猫なのでしょうか。どう見ても人の姿をしている。だが、実際にコタツで丸くなっている。ならば、やはり猫なのでしょう。だが、猫じゃらしには興味がなかった。やはり猫ではないでしょう。そんな結論を導き出したのは堕闇卿だった。
極東国<ジャポネシア>には、とある言い伝えがあった。一年中枯れることなく咲き続ける桜の下には、桜の神様の死体が眠っていると。そして、そんな神様は、春になるとその桜の木の枝に座り、行き交う人々を羨ましそうに眺めているのだと。まったく、勝手に人の死体を埋めないで欲しいわ。サクヤは笑ってみせた。
舞い散る桜。だが、再び花開く桜。そう、一年中枯れることのない桜。別に、春にだけ咲くわけじゃないのにね。そう、桜花神サクヤはその桜から一年中、行き交う人々を眺めていたのだった。あれ、あの子は確か。桜の下、おめかしをした猫の様な子と、不機嫌な顔の少年がいた。悪い、やっぱり俺、我慢出来ねぇわ。
はなみぽっくる は はなみのこ はなみぽっくる は まんかいだ はなみぽっくる に はるかぜを わるいこ どこのこ はなみぽっくる はなみぽっくる は はなみのこ はなみぽっくる は まいちるぜ はなみぽっくる に はるかぜを わるいこ どこのこ はなみぽっくる (ぽっくる民謡 花見の唄)
ヒュールルルル ルルルルル ヒュールルルル ルルルルル おいらのなまえをしってるか おいらといっしょにおはなみだ ヒュールルルル ルルルルル ヒュールルルル ルルルルル おいらのなまえをいってみろ おまえといっしょにはなみする おいらのなまえはハナミポックルン (ポックルン 花見の唄)
そつぎょうぽっくる は なみだのこ そつぎょうぽっくる は ごうきゅうだ そつぎょうぽっくる に たびだちを わるいこ どこのこ そつぎょうぽっくる そつぎょうぽっくる は なみだのこ そつぎょうぽっくる は かなしいぜ そつぎょうぽっくる に じゆうを わるいこ どこのこ そつぎょうぽっ
ウーウウウウ ウウウウウ ウーウウウウ ウウウウウ おいらのなまえをしってるか おいらといっしょにそつぎょうだ ウーウウウウ ウウウウウ ウーウウウウ ウウウウウ おいらのなまえをいってみろ おまえといっしょにがらすわる おいらのなまえはソツギョウポックルン (ポックルン 卒業の唄)
にゅうがくぽっくる は おさないこ にゅうがくぽっくる は らんどせる にゅうがくぽっくる に おいわいを わるいこ どこのこ にゅうがくぽっくる にゅうがくぽっくる は おさないこ にゅうがくぽっくる は はじまりだ にゅうがくぽっくる に きぼうを わるいこ どこのこ にゅうがくぽっく
ルーララララ ラララララ ルーララララ ラララララ おいらのなまえをしってるか おいらといっしょににゅうがくだ ルーララララ ラララララ ルーララララ ラララララ おいらのなまえをいってみろ おまえといっしょにべんきょうだ おいらのなまえはニュウガクポックルン (ポックルン 入学の唄)
桜が咲く時、それは何かが始まる時、出会いの時。だが、桜が咲く時、それは何かが終わる時、お別れの時でもあった。始まりがあるから、終わりがあるのか。終わりがあるから、始まりがあるのか。今日もまた出会いと別れは繰り返されるのだった。
僕のことを捕まえてごらんよ。僕はみんなのモノだから。一番最初に捕まえた人のお願いを、何でも聞いてあげるよ。だから、ほら、早く僕を捕まえてよ。そんな平和な昼下がりを壊したのは一人の男だった。捕まえた。そう、彼を捕まえたのは想定外の男だった。言うこと、何でも聞くよ。そしてトニングは生まれた。
今の暮らしも、悪くはないね。偽光精トニングは、新しいもう一つの自我に飲み込まれないでいた。でもね、不思議なんだ。気がついたら羽が生えていた。やっぱり僕は妖精さんだったのかな。喜びの微笑み。あぁ、君は妖精だよ。そしてね、もう少しで完全な妖精になれるんだ。あはは、やった、やっと忘れられるよ。
反発する血には制裁を、受け入れる血には祝福を。そして次種族<セカンド>の運命は二つに別れる。どちらが幸せなのだろうか。それは人により、様々だろう。だが、それは自力で選ぶことが出来た時の話。そう、自由など、そこに存在しなかった。
かつて、世界評議会には聖暦の天才と呼ばれる六人の天才が所属していた。そして、新生された世界評議会には、聖暦の画伯と呼ばれる六人の天才が所属していた。レオナルドは筆型ドライバ【ヴェロッキオ】を無我夢中に振るう。それは世界の為か、それとも自分の為か。描かれた絵、その力に全てが込められていた。
レオナルドの元に届いたのは、世界評議会への推薦状と、神への推薦状だった。妖精が神になる、それは妖精ならば誰しもが知る禁忌であった。かつて、とある妖精が神になったことで、天界は滅びかけた。その過去を知りながらも、彼は神となり、そして炎画伯を名乗り、描き続ける。見たことのない絵を、神の為に。
魔界の片隅、マルクは自由に絵を描いていた。そんな彼の才能に目をつけ、筆型ドライバ【ベラ】を贈ったのは新生世界評議会の最高幹部の一人。君に未来を描いてもらいたいんだ。そうして、聖暦の画伯として、世界評議会に招かれ、ひたすら絵を描く。そう、約束された未来が終わった先の、新たな未来を描いていた。
未来を生み出す為に、前を向く必要はないんだよ。優しい声が水画伯マルクを支えていた。未来は、過去の積み重ねでしかないんだから。そう、過去が、未来を作るんだ。そして彼は、ひたすら過去を探し続け、やっと辿り着いたのは、かつての聖戦と呼ばれた一つの争いだった。そっか、僕はこの未来を描けば良いんだ。
誰かに銃で打ち抜かれた。フィンセントは、それが誰かわかっていた。今度は、私が都合の良い犠牲なんだ。全ては精霊議会による決定事項。そして天界を追放され、常界で療養をしていた彼女の元に、一通の推薦状が届けられた。私は、絶対に許すことは出来ない。その想いは、筆型ドライバ【アルル】により描かれる。
かつての天界と神の取引に関係していた一人の男。それは綴られた妖精でありながら、神の力を手に入れた堕精王。そして、王でありながらも、幽閉されていた。彼のせいで、私は。風画伯フィンセントは憎むべき対象を見つけた。だったら、彼のいない未来を、私が描いてみせます。それが新生世界評議会の狙いだった。
あら嫌だ、まったく。そう、クロードは知っていた。堕魔王が目覚めたことを。せっかく、平和が訪れていたっていうのに。世界評議会への推薦状と、手にした筆型ドライバ【ルァーブル】。これで私に、彼を塗り潰せっていうことなのかしら。そう、彼女は知っていたのだ。かつての聖戦と、争った二人の王の存在を。
例え私達が描いたとしても、目覚めてしまった彼らを止めることは出来ないと思うわ。光画伯クロードは落ち着いていた。あぁ、君達だけじゃないよ。そう声をかけたのは評議会最高幹部の男。あくまでも、俺達は周りを彩るんだ。それなら、それでいいわ。あぁ、役者は揃った。彼らが盛大に暴れる舞台を、描きだそう。
私の才能を欲するのであれば、それ相応の対価を用意したまえ。サルバドールが求めたのは名声ではなく、富だった。貴様らのことは多少知っているぞ、私の友人も、かつては属していたみたいだからな。類は友を呼ぶとは、このことだろうか。こうして、彼は多額の報酬と引き換えに、筆型ドライバ【ガラ】を手にした。
世界評議会とは、何を目的としているのかね。それは素朴な疑問だった。今も昔も、世界の常化だよ。そう説明したのは、闇画伯サルバドールを招き入れた最高幹部の一人。それでこの有様か。だから、あなたに声をかけたんだ。ふむ、君はなかなか話が出来る人みたいだな。彼は気付かずに、掌で転がされるのだった。
君は、戦争が嫌いだったよね。パブロの元を訪ねた評議会最高幹部は話し始めた。君も魔界にいるのなら、知っているだろう。それはかつての聖戦と、二人の王の存在。役者はね、揃ってしまったみたいなんだよ。だから君に、止めてもらいたいんだ。筆型ドライバ【パロマ】を手渡され、そのまま手を引かれたのだった。
女王達は、知っているですか。無画伯パブロは問う。知っているか、いないかの問題じゃない。全てを知ったうえで、どう動くかだ。だったら、私は描くです。結末は思惑通りだった。全ては世界の常化の為に。だが、その過程に、存在する犠牲。では、その犠牲は誰なのか。それは、筆先の行方でしかないのだった。
聖王代理を務めるミレンは、一部の隊員を鞘の奪還へ、一部の隊員を帰らぬ王の奪還へと向かわせた。仕事後の執務室、指でなぞったのは溶け出した氷。全員で、迎えたいのに。こぼした溜息。もし、あの子の言葉が本当ならば。彼女が気にしていたのは、隊服を脱ぎ捨てた一人の女の言葉だった。世界は、彼を許さない。
リオは淡々と話し始めた。温かい世界、それは彼にだけ冷たい世界。優しい世界、それは彼にだけ厳しい世界。肯定される世界、それは彼だけが否定される世界。信じられる世界、それは彼だけが裏切られる世界。だから私は、彼を殺す。生きていてはいけない。私は、彼の、あなた達の敵。それが、彼の為の世界だから。
かつて神と竜は争っていた。似たように天界と魔界も争っていた。だが、全ては聖なる扉が閉じられると共に、終焉を迎えた。そして今、再び聖なる扉は開かれた。やはり、歴史は繰り返されるのね。観測者は、繰り返される歴史を観測していた。
彼は、魔界の為に竜へ近づいたわけじゃない。現闇魔女王へ告げる魔界の歴史。だから私達は彼を追放した。でなければ、私達の世界は壊されていた。だからこそ、私達に今必要なのは、彼じゃなく、彼なのよ。そう、彼女の後ろには、堕精王がいた。
彼は、ただ綴られた存在だった。戦う為だけに、産まれた。そんな彼が、神になろうとした。湖妖精は、光妖精王に真実を伝える。でも、彼は私達を裏切った。そんな彼を止めるには、彼しかいないの。美宮殿の王の間、そこには堕魔王が君臨していた。
君は悪くないよ。見つめる空。何も悪くない。見つめる地面。悪いのはいつも世界だよ。遠ざかる空。だからね、こっちへおいでよ。近づく地面。次の瞬間、彼女の体には別の力が宿ったのだった。うん、お利口さん。生まれたのはクホールという人間。そして、今までの彼女は死んだ。君はね、生まれ変われたんだよ。
アタシはね、もう今までのアタシじゃないの。見つめる空。落ちる速度を、教えてあげるわ。見つめる地面。悪いのはアンタよ。遠ざかる空。最高のさようならをあげる。近づく地面。もう、あんまり悪さをしたら駄目じゃないか。偽闇魔クホールはただただ笑っていた。復讐よ。そう、復讐なのよ。ただの、復讐なの。
南魔王はもういない。その事実は、教団員達に伏せられていた。奴の仕事、絶対嫌だかんな。そう言い放つ北魔王。私、自信ないよぉ。続く東魔王。僕は僕のやるべきことが。最後に西魔王。教祖は肩を落としながら自室へ。だがその矢先、教祖の元を訪ねる二人が。彼女が、新しい南魔王だよ。そこにはアザエルがいた。
お初にお目に掛かります。だが、教祖はアザエルを認めはしなかった。私にとって、南魔王は奴だけだ。今も昔も、これからも。高ぶる感情。それでいいんだよ、君にとっての、南魔王は。崩れたのは砂上の楼閣ではなかった。そしてその日、教団全体にとある通達が。教祖は誰よりも先に、完全世界へと旅立たれました。
寝惚け眼を擦りながら起き上がったヴラド。おはよう、随分と眠ってたわね。覗き込む水色の前髪。冗談は止めてくれ。ついた悪態。こんなこと、冗談でしないよ。そして交わされた密約。オレ達はあの時、世界から弾かれた。でも、やり残したことがあるでしょう。そう、彼はただ、果たせなかった決着をつけたかった。
かつて、強大な力を誇る二人の王が存在していた。天界を統治する精王と、魔界を統治する魔王。二人は共に禁忌を犯し、世界から弾かれていた。そして時は過ぎ、二人の王は再び対峙する。だが、あの時と形を変えて。天界を率いるのは、堕魔王ヴラド。そして、魔界の王の席についていたのは、目覚めた堕精王だった。
心に闇を抱えていない人間などは存在しない。もし、抱えていないというのなら、それこそが偽善という闇だろう。みんな、お利口さんのフリが上手ね。少女は言う。ならば、フリが出来ない人間はどうすればいいのか。闇は深くなるばかりだった。
右も左もわからない毎日、少女は気がつけば崇められていた。だが、そんな少女のすぐ傍にいつもいた一人の女性。みなみまおーは、ずっといっしょにいてくれますか。もちろんです、教祖さま。そんな幼き日の思い出を、新南魔王は踏み躙ろうとした。
可愛い女王サマだこと。天界の女王の隣りには堕魔王が。私はあなたのことを信じたわけじゃない。オレはヤツと戦えればそれでいい。なぜ彼女は彼を受け入れたのか、それは天界を滅ぼす力を持つとまで言われた彼が、悪人には見えなかったからだ。
元凶はあなたなのね。闇魔女王はその事実を知りながらも、堕精王を受け入れた。俺のこと、いつでも殺していいよ。ええ、この戦いが終わったら、そのつもりよ。互いに利用し合う二人。女王は友の復讐の為、王は自分を裏切った世界への復讐の為。
彼らは、今度こそ世界の為に戦ってくれるかな。悪戯神が口にする世界とは、どのような意味が込められているのだろうか。天界魔界のことなのか、統合世界のことなのか。それともまた別の世界のことなのか。世界って言葉は、本当に都合がイイネ。
右手で弾くレバー。そのまま、左、中、右の順番に押される赤いボタン。左下に止まったチェリーが、微かな希望。よし、次で。再び弾くレバー。その瞬間、大当たりを告げる音が鳴り響く。これだから、止められないんだ。そんな青年にそっと声をかける。人生のギャンブルを始めましょう。ダストは勝者か敗者か。
ゴミクズみたいな毎日に、飽き飽きしてたんだよね。ダストは生まれ変わった自分に惚れ惚れしていた。だが、気付かない、その心と体が蝕まれていくことに。悪魔で構わないさ、俺は、勝ったんだ。そうだよ、君は勝者だ。一人の人生は敗者になり、もう一人の人生は勝者に。彼にとって、負けることが勝つことだった。
人によっては、新たな血に飲み込まれることを望んでいた。今までの自分にさよならを告げ、これからの自分におはようを告げる。それは終わりが始まりであるのと同意義であり、喜ばしいこと。何が悪で何が正義か、それは本人が決めることだから。
私はいつまでも、傍にいますよ。そう囁きながら注いだ紅茶。僕が君を、助けてあげよう。そう囁きながら撒いた飴。オレに指図するな、キミは消えろ。そう囁きながら弾いた障害。本当に幸せです、教祖様が一人で先に旅立たれてしまうなんて。ティルソンは続ける。ここからは、完全世界の翻訳をしてもらいましょう。
完全世界の為に、教団員の心を一つにします。執事竜ティルソンは続ける。人は、悲劇に心を動かされる生き物です。上がった口角、下りた睫。ですから、彼らには、華麗に散ってもらいましょう。見つめたのは四大魔王の椅子。そして、悲しみの夜が訪れた後には、黄金の夜明けが訪れるのです。全ては、あの方の為に。
鞘を盗んだのは、あなただったのね。モルガンの元を訪ねた、隊服を脱ぎ捨てた一人の女。あんなの、要らないわ。投げ捨てた言葉。それは異母弟を生かす為かしら、それとも、殺す為かしら。問い詰めても、答えは出ない。なら、実妹を生かす為かしら、それとも、殺す為かしら。上がる口角、見えたのは八重歯だった。
あーあ、つまんないの。闇愛精モルガンは口を尖らせていた。アタシはね、パパが大嫌いなの。だから、パパから全てを奪うの。だったら、私と目的は一緒かしら。二人の女は手を組んだ。アンタも、堕ちた側なのね。そして続く言葉。人を堕とすのは、いつだって愛よ。いつの時代も、世界は、歪んだ愛で形成されるの。
とある遊園地の一角に、『希望ヶ峰学園』と掲げられた、とびっきりの絶望を体感出来るアトラクションが期間限定で設置されていた。開園を待つお客様の楽しげな表情に、ボームは堪えきれずに笑い出す。うぷぷぷぷぷぷ。何故なら、彼等はまだ知らない。最後に待つ、スペシャルなお仕置きを。さぁ、もうすぐ開園だ。
子守から解放された執事竜は、一人きりで朝の紅茶を堪能していた。ようやく、黄金の夜明けが訪れる。全ては、教祖の為であり、教祖の為ではなかった。僕が信じていたのは、最初から教祖様だけさ。教祖は偶像であり、象徴でしかなかったのだった。
ご機嫌いかがかしら。再会を果たした幾元嬢コスモ。よく、ここまで辿り着けたわね、妖精のあなたが。そう、ここは不夜城。とっておきの、ゲームを始めるのでしょう。彼女にとって、戦争はゲームでしかない。私は賭けたの、あなたが生きる未来に。そして、黒いウサギだけが生き残り、白いウサギが死ぬ未来に。
もうすぐだよ、もうすぐ彼がここに来る。そう語りかけたのは水波神。堕水才シュレディンガーは、蒼き兄弟が再会する、その時を心待ちにしていた。あの日に溺れた初恋、彷徨い続ける狂気の海、二つに割れた恋が一つに重なり合う時、沈む先は空か海か。そして、溺れ続けた初恋に、最後の答えを出そうとしていた。
私は、神に選ばれたのですね。堕闇卿ヘンペルの創り物の心は囚われていた。美しい神よ、美しい心よ、あぁ、今日も世界は美しい。同士も、そうは思わないかね。問いかけた先、堕王は虚ろな目で世界を眺めるのではなく、ただ映していた。そうか、同士も美しく感じるか、それは良かった。独り言は、響き続いた。
部外者を推薦するなど、悪趣味な神もいたものだな。軽蔑の眼差しの征服神ギルガメッシュ。君は、歴史の目撃者なんだ。そう言い残し、消えた悪戯神。いつの時代も、歴史は美化され、そして英雄は作られる。仕方ない、掌で踊ってやろう。征服神ギルガメッシュは、新生世界評議会の最高幹部の席に就いたのだった。
死刑執行学園の剣学部、銃学部、薬学部、弓学部、槍学部、斧学部、その他全ての学部を束ねるリイナには大きな理念があった。死んでいい者に、死んでもらう、それの何が悪い。だが、それは彼なりの優しさでもあった。誰かの命を奪うこと、その重みを俺達が背負ってやってんだ。だからこそ、学園は存在していた。
執行対象者に、情けをかけんな。それが学園長リイナの教えだった。誰だって、死にたくて生まれたわけじゃねぇ。だが、そんな彼には、唯一理解出来ない男がいた。俺のこと、殺したければ殺せ。どうせ、死ぬ為に生まれたんだ。その極端な考えに、彼はなにを思ったのか、こう返した。死に損ないは、生きて罪を償え。
どの世界にも、結婚式はあるのだな。ウェディングドレスを纏った炎精王。なにも、こんな格好じゃなくたっていいじゃん。黒いタキシードを纏った炎咎甲士。ふたりとも、とっても似合ってますよ。隣で眺める聖銃士。変装は、関所を突破するために。指名手配って、面倒くさいな。そして、彼らは先へと進むのだった。
たまには、正装するにゃん。無英斧士に手渡された白いタキシード。これ、違くねーか。そう言いながらも、袖を通した。ならば我も楽しむとするか。神父へと化けた無精王。これで、会議に行くにゃん。そして出席した最高幹部会。沸き起こる歓声。いったい、なんの冗談だ。征服神は、いつまでもお腹を抱えていた。
可愛い子には、旅をさせよ。それは、古来より極東国に伝わることわざ。大丈夫、あの子はもう、ひとりで歩けるから。【クズノハ・カムイ】を手にした神威狐イナリは、千本鳥居を歩き出す。暖かな想いを、背中に感じながら。彼女が向かう先に待つのは、神であり、神ではない存在。それじゃあ、神を冒涜してくるね。
与えられた衣食住、そこに不満はなかった。だが、いつまでも満たされない心。なんでだにゃん。秘書猫トキワの瞳に映るのは、慌ただしい毎日と、煮え切らない誰かの横顔。そっか、わかったにゃん。だから、彼は少年に寄り添った。そして、探り始める世界評議会に隠された真実。別に、誰かのためじゃないにゃん。
あなた様に、ずっとお会いしとうございました。そんな言葉と共に、水咎刀士の前に現れた少女マリナ。わたくしが、あなた様のお力になってみせます。そして、ぶんぶんと碇型ドライバ【アンクル】を振り回してみせた。なぜ、僕のことを。わたくしは、知っているんですよ。あなた様の、お父様を、お母様を、弟様を。
あなた様は気付いていたんでしょう。ご両親の歪んだ愛情に。出来の悪い兄と、出来の良い弟。虐待される兄と、優遇される弟。だから弟様は。ただ、気付いていないことが、一つだけ残っているんです。続く一人言を遮る一言。君は誰だ。わたくしは、水先案内人です。誰の差し金だ。それはまだ、言わない約束です。
一人の魔物は、世界の為に竜になった。一人の妖精は、世界の為に神になった。そして一人の男は、竜であり、神だった。竜が神になったのか、神が竜になったのか、その答えを知るものはいない。ただ、そこに竜であり、神であるヒスイが存在していたことに変わりはなかった。あいつら、本当に昔から、変わんねぇな。
俺より先に、老けてんなよ。竜神ヒスイが声をかけた初老の竜。その言葉から伝わる二人の関係。久しぶりに帰ってきたのにさ。多節棍型ドライバ【ズアオ:リミン】を手にした姿は、言葉とは逆に楽しそうだった。早く囚われの姫を、助けてやれって。視線の先は、竜王の玉座。当たり前だ。そして、竜王は立ち上がる。
誰が世界を創ったのか。それは、神なのだろうか。では、誰が神を創ったのか。それは、世界なのだろうか。始まりと終わりが、表裏一体であるように、神と世界もまた、表裏一体なのではないだろうか。では、世界を愛する男は、神を愛することが出来るのだろうか。難しい話は、止めようぜ。ベニはそう言った。
弱いから、負けたのか。いや、強いから、勝ったのか。炎獣神ベニはいつかの戦いを思い出していた。予期せぬ炎神の強襲と、その身を犠牲にしてまで我が子を守った炎才の一戦。結果、どうなったんだ。誰が、一番悪かったのか。考えごとは、そのくらいにしておきましょう。優しく声をかけたのは、神主狐だった。
世界は破壊と再生の歴史を繰り返し続けていた。そう、世界は何度も滅びていたのである。それを、震災と呼ぶ人もいれば、神災と呼ぶ人もいた。では、種族間の争いはどうだったのだろうか。自分達で、世界を破壊したのだろうか。そういう時はな、決まってうさんくさい神様が手引きしてんだよ。ヘキはそう言った。
2人の蒼き少年が、すれ違ってしまったのは、単なる偶然だったのだろうか。それとも、神の悪戯だったのだろうか。そんなの、俺の知ったことじゃない。水獣神ヘキは飽き飽きとしていた。だけどな、俺はひとりだけ知ってるよ。そうやって楽しむ、悪趣味な神をな。思い出される顔。あのカマ野郎、いつか、ぶっ殺す。
歪な平和の手引きを、誰が責められるのだろうか。判断を下すことの出来ない弱き存在が、判断を下すことの出来た強き存在へ、抱いてしまった嫉妬心なのだろうか。結果、救われたのは、弱き存在達だったにも関わらず。いつの時代も、民は横柄だった。違うよ、横柄だから、民なんじゃないかな。サナエはそう言った。
あの時、どうして風神さんは、勝手な行動をとったのかな。民は王に縋り、王は神に縋る。だとしたら、神は世界に縋るのか。世界が、神に縋るのか。そう考えたら、納得がいくんだよね。例外行動は自己主張、それを縛る存在はいない。神様なんだから、それが正しい行動だったんだ。ひとつの行動は、肯定された。
この世界は生きとし生ける者達に優しき世界なのか、それとも厳しき世界なのか。誰もが追い求める答え。この世界は人によって優しくもあり、また厳しくもある。誰もが辿りつく答え。では、どう生きるのが正しいのか。ありのままに、優しさも厳しさも受け入れましょう、それが神の教えなのです。ソガはそう言った。
天界での光神の行いは、優しさだったのだろうか。それとも、厳しさだったのだろうか。尊い事実に、変わりはありません。光獣神ソガは複雑な表情で言う。未来を重んじて輝く若い光を考えての行動。世界はそうやって成り立っているんです。それは、とても優しく、とても厳しい現実。だから、未来は動き出しました。
世界の理と現神の関係は複雑怪奇に絡み合っている。世界を創造するのが神であったとしても、その世界を彩り、形成するのは神ではなく、人なのだから。故に、神は概念でしかないという証明だった。神は、神という役割を、概念は、概念という役割を、ただ行使すればいいだけの話だから。キキョウはそう言った。
かつて、椅子に固執し、そして一つの歴史を終わらせた闇神。あの行いは、良くないと思うよ。闇獣神キキョウは不機嫌そうに言い放つ。概念が意志を持ったとき、それは神と呼べるのか。あの行動には明確な意思があり、神の行いから逸脱しているのではないか。僕は、あの神嫌いだね。ただ、これも一種の意志だった。
私にとっての世界。僕にとっての世界。誰かにとっての世界。世界は、幾つも生まれ続ける。世界を創ったのが、神だとしたら。それぞれの世界を創ることが出来た時、誰しもが神になれるのだろうか。世界とはなにか、その定義次第では、誰しもが神になれる。だったら、勝手に神様名乗ってろよ。スズはそう言った。
その行いは、善意か悪意か。それにより、全ての意味が異なる。神の行動もまた、例外ではない。都合が悪けりゃ、なんでも悪意なのかよ。無獣神スズは楽しそうに呟く。前向きに捉えりゃ、あれは試練だろ。そんな彼が思い出していたのは、無神によるかつての行い。そのうち、俺が相手してやっから、待ってろよ。
立入禁止区域を抜けた先に、遊水洞は存在していた。涼しげな風、穏やかな日差し、生い茂る緑、そこはまるで、秘密基地のようだった。ここを、2人だけの内緒の場所にしよう。そんな約束をしたのは、金髪碧眼の幼き兄弟。水は2人を祝福していた。
始まり告げる朝の風鈴、握り締めた小銭、跨る自転車、目指した蜃気楼、蝉の輪唱、見上げる入道雲、畦道の向日葵、辿り着いた隣町、すれ違う通り雨、一休みの駄菓子屋、香るアスファルトの匂い、橙色の帰り道、着替えた浴衣、裏山を彩る雪洞、賑わう神社、終わり告げる夜空の花、ユカリはあの夏を思い出していた。
今度は何の研究でしょうか。助手兎コガネはとある研究に興味津々だった。これは、幸せになる研究だぴょん。聖光才は瞳を輝かせていた。だが、いつも側にいた存在だからこそ感じた不安。その幸せに、所長は含まれているのでしょうか。そんな問いに、輝きは途切れた。誰かの幸せの材料はね、誰かの悲しみなんだよ。
ついて来てくれるわよね。雪導犬ナマリの前、無言で頷く二人の男女。初対面の彼らが、なぜ一言で全てに気付けたのか、それは彼女が二体の自立型ドライバを引き連れていたからだった。いつも一緒だった三人が、離れ離れになっていた三人が再び集う時、そこに訪れるのは冬か、春か。止まっていた季節は動き始める。
やっぱり、あいつは最高幹部に相応しくなかった。ベオウルフが腰をかけたのは空いた椅子。火竜はね、神話の時代から、始末される運命にあるんだよ。財宝ではなく、家族を守るだなんて、竜にしては愚かな行為だ。そこで姿を現した話し相手。だからね、キミを推薦したんだ。その言葉には、未来が暗示されていた。
世界評議会最高幹部のベオウルフに与えられた異名、屠竜者。それは、竜を殺す者の証明。だが、彼は人でありながらも、竜の血を引いていた。その手にかけた数多の同胞、そして手に入れた名誉と地位。次にキミは、何を欲しがるのかな。昔にね、狩り忘れた首があるんですよ。そこには、歪な密約が存在していた。
ほら、妹が出来たよ。喜ぶ神才。似てませんよ。不機嫌な原初の機体。まったく、悪趣味なことを。隣で笑う悪戯神。彼の研究成果を生かしてあげたんだ、感謝して欲しいくらいさ。おどけた神才は目の前の新しい機体に声をかける。君の名前は【カゲロウ】だよ。動き出した鼓動、それはとある親子の絆を歪ませていた。
第六世代の自律兵器型ドライバは、再起動<リブート>を必要としていなかった。殲滅対象ハ、炎才ノ息子。人の心を持ちながらの、人らしからぬ言葉。そうだよ、天才の血はね、根絶やしにしなきゃいけないの。炎咎甲士は知らない。自分の向かう先に、数多の想いを踏み躙る【カゲロウ:ホムラ】が待っていることを。
かつて、評議会には道化の最高幹部が存在していた。そんな彼が評議会を裏切り、罪人となった後に最高幹部の席に就いたのもまた、竜の血を引く者だった。新しく席に就いた男に、竜殺しの異名が与えられていたのは、偶然だったのだろうか。