自立型や自律型が存在するのと同時に、武器型のエレメンツドライバも当然のように存在していた。君は失われた技術から生まれたんだよ。神才が語り出す始まり。一度ね、滅ぼしたんだ、でも人間って、過ちを繰り返す。だからね、天才は危険なんだ。
でも、聖暦の天才も大したもんだよ。その言葉に嘘偽りはなかった。お姉ちゃんに、感謝しないと。私ニ姉ナド存在シマセン。片言の返答。可愛くないぞ。可愛サナド、必要アリマセン。そう、第六世代自律型ドライバが求めたのは、破壊衝動だった。
私はただの被験体だったんです。そう、彼女は統合世界では珍しい獣種だった為、拘束されていたのだった。でも、所長はそんな私を一人の助手として受け入れてくれました。偶然の出会いは少女を救った。だから私は、いつまでも所長の側にいますね。
彼は、ずっと待っている。まるで、あの雪の日のように。彼は、ずっと泣いている。そう、あの雪の日のように。だから、私は今、ここにいる。純粋な目で語る雪導犬。だが、魔術師が抱く疑問。聞かせてくれ、君のいう彼は、いったいどっちなんだ。
もうすぐやってくるからね。神才は、ゆっくりと未来を見つめていた。でも、あの子の相手は、私にやらせてもらいますよ。割って入ったのは原初の機体。予約制度なんてないからね。返す冗談。だって、残りの第五世代は奪われてしまったんですから。
美宮殿の近く、新たに「幸せの白兎研究所」が設立された。誰が、こんなふざけた名前を。答えは明白。所長、お客さんがいらっしゃいました。呼びかける助手兎。すぐ行くぴょんっ。笑顔で答える所長。そう、この所長にして、この研究所ありだった。
幸せが平等じゃないのなら、せめて自分の幸せを願うのは、いけないことですか。それは誰しもが思う願い。幸せの定義は人それぞれだぴょん。他人の幸せを、自分の幸せだと思えるか。自分の幸せを、他人の悲しみだと思えるか。答えはそこにあった。
世界が幸せで包まれるのなら、それはとっても幸せなことだぴょん。それは、ある種の歪んだ感情。私は、所長の考えることがわかりません。だが、聖光才は笑顔で研究を進めていた。私は完全世界を否定した。いや、そこに完全なんてなかったんだよ。
聖光才の口から語られたのは、不完全な完全世界。だから私は、みんなを解放してあげるんだ。言葉ではなく行動で示す意思。それが幼き過ちとの決別なんだぴょん。無理に浮かべた笑顔の裏側の、悲しみの心。私はずっと、所長についていきますね。
彼と彼女の出会いは牢獄だった。なぜ彼が私を助けたのかはわからない。ただ、協力者が欲しかったんだと思う。語られる聖者との出会い。あの人、相変わらず強引ね。くすりと笑う無の美女。だが、鋭さを増す雪導犬の眼光。あなたは選べるのかしら。
やっぱり、似合ってるわよ。急な土砂降り、濡れた身体、母狐が着替えさせたのは初瀬いづなの衣装。そして、ただ着替えのはずが、気がつけば青色の髪へ。お、お母さん。照れとも、怒りとも受け取れるイナリの表情。だが、それを笑顔に変えたのは、一人の男の一言だった。似合ってるよ。そう、父狐の温かさだった。
大切な人を守りたい、それは当然の想い。もし彼がそれを望まなかったら、あなたはどうするのかしら。相手の意思を尊重し、守ることを放棄するのか、それとも自分の意思を尊重し、それでも守り抜くのか。なぜ、そんな質問を。本質はそこにあった。
どちらかなんて、どうでもいいの。遮られた問い。彼は彼で、彼は彼、きっと、そういうことなのよね。無言で頷く雪導犬。そして発した言葉。彼と彼が出会う時、そこにはあなたが必要なの。だから、最後にもう一度、覚悟を問わせてもらえるかしら。
あなたは、あの時目を逸らした。それは紛れも無い事実。そんなあなたに、いったい何が出来るのかしら。だが、そんな問いにも、無の美女は穏やかに答えた。あの時、私は逃げ出した。だからもう、逃げない。例えこの命が尽きても、必ず取り返すわ。
見つからないようにと、姿を隠しながら行動する炎咎甲士のすぐ側に存在していた炎精王。向う先は堕王の玉座。嫌な予感がする。それは、彼と彼の父と、そして彼らを繋ぐ一つの機体を知っていたからこそ、感じた予感だった。炎が、泣き叫んでいる。
再会は、もうすぐだね。水精王は語りかける。弟君に会ったら、どうするつもりなのかな。水咎刀士は口を開く。あの日の真実と、向き合うまでだよ。それは、彼らの両親が命を落とした真実。だから、行こう。教団本部は目前まで迫っていたのだった。
風精王が語る幼き思い出。ウチら四人は、いつも一緒だったネ。きっと、私達みたいだったんだね。取り戻せない過去を想う風咎棍士。ウチは取り返すアル。そう、彼女達が向う先に待っている東魔王と堕風才。教団本部へと、追い風が吹いていた。
彼女と戦う覚悟は、出来ているんだよね。光精王の問いかけに、口を閉ざした光妖精王。お嬢ちゃんは、黙って見ててもいいんだぜ。堕魔王の優しさ。でも、これは私の責務だから。だが、そんな三人に隠れて、すでに動き始めた妖精が存在していた。
旅を続けていると、嫌な噂を聞くことが。人に対し稀に害をなす魔物達。その魔物達が、不思議と集まってくる恐怖の場所があるらしい。無数に吊るされたカラフルなテルテル達、悪運強くこの場所に辿り着いたものは、進化の祝福を受けられるらしい。
旅の狩人達が口にしていた噂話。彼らが狙うのは特殊な獣達。そんな獣達が大量に発生するという、非常に珍しい場所があるという。六色に輝く毛むくじゃらのもじゃもじゃ生物、そんな獣達に出会うことが出来れば、進化の祝福を受けられるらしい。
とある最近の噂話。人よりも高位の存在と言われる竜族。そんな竜族達が常界にて集会を開く秘密の場所があるという。運良くその場所を見つけることが出来ると、色彩豊かな無数の竜のぬいぐるみに出会うことが出来、進化の祝福を受けられるらしい。
長く旅を続けている中、人から人へと伝わる噂。あまり人前に姿を見せない妖精。そんな妖精達が不思議と集まる神秘的な場所があるという。なにやらゲコゲコと騒がしいが、運良くその場所を見つけた者は幸運により、進化の祝福を受けられるという。
機械マニアの間の噂。とある電気街の奥に営業日が不定期な秘密の店がある。そこには生産が難しいとされる機械が多く取引されているという。様々な色のボタン型ロボが陳列されている、そのお店を見つけられた者は、進化の祝福を受けられるらしい。
ある旅人は旅の途中で見たと言う。少し変わった妖精達が歌い、踊り、遊び明かす秘密の宴を。微かな光の下、そこは笑顔で溢れ返っていた。その秘密の宴に運良く参加できた者は、数多のポックル達により、進化の祝福を受けることができるだろう。
知り合いから聞いた噂。魔界から来るという正体不明の生物、そんな生物達には常界に溜り場があるという。カラフルに蠢くその生物達は見ていて気持ちのよいものではないが、その場所も例外ではなく、進化の祝福を受けることができるだろう。
堕ちること、堕とされること、それは似て非なるもの。私はあなたと同じなの。だからこそ、寄り添う二人。私は世界を敵にした。闇魔女王は優しく答える。ずっと一緒よ、世界を壊すまでは。だが、彼女は知らない。すでに戦争が始まっていたことを。
今動けば、積み重ねた時間が無に帰されるだろう。その言葉は、否定ではなく肯定だった。初めから、積み重ねるつもりなんてなかったけどな。だが、そんな覚悟を縛る鎖。忘れないでくれ、君に自由は存在しない。唇をかみ締める日々は、今も続く。
世界評議会の施設である訓練場から、一匹の竜が姿を消した。鳴り響くサイレン、下りたシャッター、だが、極楽竜ジョーイを止められる者はいなかった。あはは、あはははは。夜の街に響き渡る楽しげな笑い声。あはは、あはははは。加速する竜の血は止められない。竜なんかよりも、よっぽど楽しい人間がいたじゃん。
綴られし獣は運命に背いた。だが、それは同時に禁忌を犯すということ。これで君は、死ねなくなったよ。だが、神叛獣ロメオは知らなかった。運命に背いた結果、更なる運命に翻弄されることを。向った先は天界、そこに彼女はいなかった。見られちゃったね。彼女の代わりに見つかったのは、血に濡れた妖精だった。
綴られし竜は運命に背いた。だが、それは同時に禁忌を犯すということ。これで君は、死ねなくなったよ。だが、神叛竜ジュリエットは知らなかった。運命に背いた結果、更なる運命に翻弄されることを。向った先は魔界、そこに彼はいなかった。見るな。彼の代わりに見つかったのは、永遠の眠りについた魔物だった。
なぜ、そんなに悲しい瞳をしているんだい。教団本部の研究室、堕風才に問いかけたのは執事竜だった。君らしくないじゃない。だが、一向に返事はなかった。黙っていたって、わからないよ。そして、ようやく返ってきた返答。私にその女を受け入れろと言いたいのね。黙って頷くそのすぐ横に、サマエルは立っていた。
これはね、僕と君との秘密の約束だよ。だが、頷かない堕風才。だったら、君の居場所はないよ。それは約束ではなく、一方的な脅迫。東魔王サマエル、彼女こそ四大魔王に相応しい。悲しい瞳は、深みを増した。翼をもがれ、手足まで縛られる気分はどうだい。それでも、堕風才は悲しい笑顔を浮かべていた。けひひ。
物騒なもん、持ち出してんなよ。竜神が会いに向ったのは、刀型ドライバ【リヴァイアサン】を手にしたリヴィアだった。この力は、僕が授かったものだから。怒りの矛先は、神々の悪戯へ。だったら、どうするんだ。閉ざした瞳、微かな沈黙。僕が、斬り捨てるだけだよ。竜界でもまた、何かが動き出そうとしていた。
古竜衆の一人、流水竜リヴィアは刀に閉じ込められた力を解放しようとしていた。彼らが竜を刃に変えるなら、僕は刃を竜へと変える。竜でありながら、竜を従えた青年は、取り残された上位なる世界を見つめていた。だったら、お前はどっちにつくんだ。どっちでもいいよ、僕は彼を斬れるのなら、それだけでいいから。
神と竜が争っていたのは遥か昔、まさに神話の時代と呼ばれた時代だった。共に優れた知能、文明、そして力を持った異なる種族だからこそ、起きてしまった争い。どちらが優れているか、など、そんな答えを求めた者は、どこにも存在していなかった。
私達に、居場所なんてなかった。歪な平和が生んだ犠牲。だから私達は、居場所を求めた。妖精の涙をさらう風。やがて見つけた居場所。なんで、私達なのかな。誰も教えてはくれなかった。そんな居場所さえ、新しい風はさらおうとしていたのだった。
綴られた存在が自身の人生を謳歌するには二つの道しか許されなかった。台本通り、物語通りに演じきり、そして終わりを迎えるか。それとも、その運命に抗い、禁忌を犯し、永遠の苦しみを受け入れるか。どちらにせよ、幸せな結末は選べなかった。
綴られた存在が自身の人生を謳歌するには二つの道しか許されなかった。台本通り、物語通りに演じきり、そして終わりを迎えるか。それとも、その運命に抗い、禁忌を犯し、永遠の苦しみを受け入れるか。どちらにせよ、悲しい結末は選べなかった。
共に認め合い、そして競い合う関係、そんな両者を引き裂いたのは、予期せぬ例外の存在だった。僕は彼を、正しいとは思わない。だけど、間違っているとも思わない。曖昧な存在だからこそ、答えを求め、そして争いは起きた。だから僕は、許せない。
悲劇は台本通りに進む。そして人々は感動し、涙する。そう、人はその涙が創られたものだと知りながら、涙を流すのだった。だったら、俺達はどうしたらいいんだよ。その答えが、運命に抗うという、もう一つの運命だった。俺は、受け入れてみせる。
悲劇は台本通りに進む。そして人々は同情し、涙する。そう、人はその涙が創られたものだと知りながら、涙を流すのだった。だったら、私達はどうしたらいいのよ。その答えが、運命に抗うという、もう一つの運命だった。私は、受け入れてみせるわ。
争いはいつも、予期せぬきっかけで起きるのが世界の理だった。勝つか、負けるか、その勝敗にこだわるのは、決まって敗者だったからだ。僕は、勝ちたいんじゃない、負けたくないんだ。求めたのは、ありきたりな平穏。誰も、血は流したくないよ。
禁忌を犯すというのは、どういうことだろうか。自身を呪い、悲しみに暮れるのだろうか。だが、禁忌を犯した者は、自身の運命を嘆くことはなかった。自分より大切な何かを、守れるならそれでいい。それこそが、禁忌を犯す意味に通じる答えだった。
禁忌を犯すというのは、どういうことだろうか。自身を祝い、喜びに暮れるのだろうか。だが、禁忌を犯した者は、自身の運命を称えることはなかった。自分より大切な何かを、守れるならそれでいい。それこそが、禁忌を犯す意味に通じる答えだった。
なぜ、あのとき彼らは攻撃をしなかったのか。その答えは簡単だった。どうせ、世界は変わらない。だが、そんな世界に疑問を持つ一人の竜は考えた。だったら、楽しんだもの勝ちじゃん。だから彼は一人、動き出した。もっと、楽しませてくれるよね。
一つの争いは幕を閉じた。だけどね、僕は許すことが出来ないんだよ。それは竜への侮辱。僕らは、彼らに負けた。勝つ必要はなかった、だけど、負けたんだ。敗者の烙印に笑顔を歪めた青年。だからね、今度こそ、負けたくはない。新たな幕は上がる。
好きな人がいる。愛する人がいる。好きな場所がある。愛する場所がある。好きな世界がある。愛する世界がある。その全ては同意義だった。だから俺はこの世界に生きている。例え、綴られた存在であろうと、世界を愛することを、否定出来なかった。
嫌いな人がいる。憎い人がいる。嫌いな場所がある。憎い場所がある。嫌いな世界がある。憎い世界がある。その全ては同意義だった。だから私はこの世界で死んでいくの。例え、綴られた存在であろうと、世界を憎むことを、否定出来なかった。
極楽竜が引きずり出したのは、首筋に埋め込まれた生体管理チップだった。だって、見つかったらやっかいだもん。あの時、あの場所、一人の人間は竜に立ち向かっていた。僕はね、あの光景を忘れることが出来ないんだ。だから、今度は僕も混ぜてよ。
兄さんは、どうするつもりなの。問いかける流水竜。俺は、楽しくやらせてもらう。答えた竜神。彼らのことが、気になるんだね。問い詰める流水竜。嫉妬なら、女にしてろよ。はぐらかす竜神。そして二人は道を分かち、それぞれの道を歩き始めた。
ありがとう。その言葉で悲劇は終わりを迎えた。そして、彼が出会ったのは新しい始まり。血に濡れた妖精は語る。これが私に出来ること。あの子は彼を想う。彼は彼女を求める。だから彼女はここにいない。それなら、私が代わりを果たすまでだから。
ごめんなさい。その言葉で悲劇は始まりを迎えた。そして、彼女が出会ったのは新しい終わり。不夜城に届けられた差出人不明の棺、覗き込むのは五色の女王。施された死化粧、無数の蓮の花に包まれ、永遠の眠りについていたのは、白の女王だった。
あそこに行けば、もう一度彼に出会うことが出来るよ。そう、それは悪魔の囁きだった。だから極楽竜は施設を抜け出した。これで、まずは一匹の竜が消えてくれたね。悪魔の囁き、それは人であり、竜である男の囁き。すべては、屠竜者の描く未来へ。
どんなことして、楽しもうかな。極楽竜の頭の中は、彼への興味でいっぱいだった。殴り合いがいいかな、駆けっことかどうだろう、少しならお話してもいいかもね。だが、最後の行き着く答えは一つだった。でも、やっぱり、殺し合いが一番だよね。
知ってるよ、この匂い、知ってるよ。極楽竜は興奮していた。あの時のだよ、血が染みた、あの時の匂いだよ。極楽竜は興奮を抑えられなかった。さぁ、早く、もっと、早く。始めようよ、僕達の楽しいことを。極楽竜は興奮を解き放とうとしていた。
世界が廻り続けるように、また陽も廻り続ける。陽は沈み、やがて夜明けを迎える。それが歴史だと、繰り返される歴史は物語っていた。変わらないことが完全であるのなら、変わることは不完全なのだろうか。やはり、世界に完全など存在しないのだ。
彼らが来たみたいですよ。紅茶を注ぐ執事竜。見物をさせてもらおうよ。紅茶を舐める少年。それでは、始めましょうか、完全なる落日を。すべては、黄金の夜明けの為に。グリモア教団本部の本館の地下祭壇には、一部の教団員だけが集められていた。
ミドリとオリナが辿り着いたのは教団本部だった。そこは本館を中心に、東西南北の五つの館に別れていた。もぉ、どこから入ればいいのー。そんなミドリの迷いを振りほどいたのは、かつての仲間との再会だった。西館は、僕達に任せてくれないかな。
始まった演説。我らが教祖様は、完全世界へと旅立たれました。私達は、至っていなかったのです。教祖様のみが、完全だったのです。ですが、そんな教祖様に残されようとも、想い続ける三人の魔王達や、教団員達がいるではないですか。演説は続く。
友を東館へと見送り、アオト達は北館の前を通り過ぎようとしていた。西館にお連れしないと、怒られちゃいますからねっ。そうおどけてみせたのは流水獣。だが、そんなアオト達の後ろ、大剣を携えた影が忍び寄る。どうして、オマエらがいるんだよ。
続く演説。モニターに映し出された三人の魔王。私は彼らに賞賛を送りたい。残された彼らもまた、完全だったのだと。みなさん、どうかその目にしっかりと焼き付けて下さい。彼らの散り行く姿を。彼らは最期まで、完全なのです。演説は終わらない。
久しぶりだな、クソチビ。その言葉とは裏腹に、嬉しそうな表情を浮かべるライル。うっせーよ、チャラ男。怒りながらも笑ってみせたアスル。そんな二人を、優しい瞳で見つめるアオト。三人はそれぞれの想いを胸に、教団本部へと突入するのだった。
東館に突入したミドリとオリナの前に立ち塞がった二体の第四世代自律兵器型ドライバ。きっと、あの子のアル。だったら、壊しちゃっていいよね。構える三本の棍。そして、対峙した少女達を、堕風才は別室のモニターから静かに眺めていたのだった。
北館に突入したライルを待ち伏せていた無数の教団員。さぁ、派手にいこうぜ。大剣を手にした青年は、一人、五人、十人と切り捨てていく。面倒くせぇ、いっぺんに掛かって来い。そんな叫び声に呼応するかの様に姿を見せたのは、四人の男女だった。
続く演説。そして、ここに、旅立たれた教祖様の残した一通の推薦状があります。教祖様の意志を継ぐ、真教祖様の名が記されているのです。全ては落日の後に。さぁ、みなさん、その目に、完全を焼き付けるのです。そして、日は沈み始めるのだった。
ライルと別れ、向った西館。入口で待っていたのは、ただ一人の教団員だった。連れて来ましたわ。流水獣が駆け寄ったのは優しい笑顔の水通者。安心して、私は君の敵じゃない。ただ、会わせたい人がいるの。そしてアオトは、無言で頷いたのだった。
行って来いよ、目を覚まさせたいんだろ。アオトを見送ったアスルは、一人で西館を進み始めた。辿り着いた大広間、待ち構えていた無数の教団員。いいか、オマエら、オレが全員ぶっ潰す。そして、振り上げた槌は、無数の心を打ち砕こうとしていた。
アタシだってね、あの頃より強くなったんだよ。左手の棍で風波機を弾き、右手の棍で炎波機を防いだオリナ。だから先に進んで。だが、戸惑うミドリ。なんだか、嫌な予感がするの。解かれていた教団の警備と不穏な空気。大丈夫、すぐ追いつくから。
悪いけど、俺は光ってるヤツが大嫌いなんだ。ライルの大剣が薙ぎ払う光通者と光波神。俺達にも守りたい場所がある。そんなライルに立ち向かう炎通者と闇通者。だったら、守ってみせろって。決着は、一瞬にしてついた。甘ったれたこと言ってんな。
会いたかったよ、兄さん。隠し通路を抜けた先に待っていたのはアオトの血を分けた弟、西魔王だった。語られる真実。出来の悪いフリをしていた兄と、出来の良いフリをしていた弟。もう、僕に残された時間は少ない。だから、最後に決着をつけよう。
西館を進んだ先にいたのは、アスルの憎むべき堕水才だった。ボクガアイタイノハ、キミジャナイ。電子音声と共に立ち去ろうとする堕水才の前に立ち塞がったアスル。あっちには、行かせねーよ。構える槌。オレはずっと、オマエに会いたかったぜ。
オリナを残し、先へ進むミドリは嫌な風を感じていた。どうしてここの風は、悲しいんだろう。直後、目の前に現れた笑顔。一緒にいるんだよね、私にはわかるよ。その言葉が向けられたのはミドリではなく、風精王だった。そして笑顔は歪む。けひひ。
本館には行かせねぇよ。無数の銃声が鳴り響く。犬っころはお手でもしてろ。だが、差し出した左手には既に力が入っていなかった。勝てる戦いには興味ねぇが、これも俺の役目だ。振られ続ける尻尾は、興奮の表れ。始めようか、レッツ、ハッピー。
両親の歪んだ愛情を受け入れられるほど、あの日の二人は大人じゃなかった。愛を愛だと理解するのには、時間が必要だった。だから僕は、僕を肯定し続けるしかないんだ。研ぎ澄まされた水の刃が貫いた体。どうして、よけてくれないんだよ、兄さん。
堕水才が操る水がアスルの頬をかすめる。こんなの、痛くも痒くもねぇっての。振り回し続ける槌。アイツらは、きっと誰も負けない。だからオレも、負けるわけにはいかねぇから。互いに一歩も引けない攻防。だが、その戦局を新たな水が洗い流した。
また奪うんだね、私達の居場所を。再開を果した東魔王と風精王。師匠が話してくれた、友達だね。歪な平和の犠牲者は襲い掛かる。どうしてアル。私達はもう、ここしかないの。だが、東魔王は知っていた。もう、ここにも、居場所がなかったことを。
気付いてんだろ。ライルは問いかける。あぁ、全部な。北魔王の口から語られる、教団の今。だから俺は、守るんだよ、あいつが帰って来られるように。だったら、迎えに行けっての。そして、そんな戦いを一匹の竜が引き裂いた。ねぇ、僕も混ぜてよ。
君はもう自由だ。見つめ合う蒼い瞳。アオトは優しい声で語りかける。君の罪は、僕が留め続けるよ。差し出された手に視線を落とした西魔王。君は、その手を掴むのかい。その声はいない筈の三人目の男の声。危ない。刃が貫く体。僕が、西魔王です。
手を貸すよ。新たな水の正体は、堕水才の隣りに現れた水波神だった。相手は、子供一人か。布越しに聞こえた声。うるせぇ、チビ。オマエら、まとめてぶっ潰す。全身全霊を注ぐアスル。二人めがけて振り下ろされた槌は、三人を支える地面を砕いた。
知ってるよ、完全世界なんて存在しないって。ぶつかり合う風と風。だけど、私はあの子を信じた。あの子の目は真っ直ぐだった。私は、完全が欲しかった。そう言ってもらえるだけで嬉しかった。溢れる本心。心安らげる居場所を求めて、何が悪いの。
こんなの、聞いてねーよ。あはは。左足に突き刺さる極楽竜の槍。勝ちだ。右足を打ち抜いた北魔王の弾丸。オレ、格好悪ぃ。崩れ落ちるライル。だが、そんな傷だらけの体を支えたのは火竜を連れた竜だった。人間にしては、なかなかやるみたいだな。
引き抜かれた刃から滴り落ちる血。駆け寄る西魔王。あの日、あなたは私の手をとってくれた。なんで。だから次は、あなたがお兄さんの手をとる番だよ。どうして。あなたと過ごせて、私の現世は最高でした。西魔王の腕の中、水通者は瞳を閉じた。
崩壊した西館、重なった瓦礫から這い出したアスルは辺りを見回した。かすかに灯された光。ここは地下か。二人を探し歩き出したアスルが見つけたのは、地下道の先の一つの扉。そして、扉から漏れて聞こえたのは、無数の声が呼ぶ一人の名前だった。
退避した極楽竜と、逃げることのない北魔王。その覚悟に、恥じぬ最後をくれてやろう。燃え盛る炎。これが、オマエの覚悟なんだな。ライルの問いに、ニヤリと返した炎。そして、力なき聖剣が切り裂く北魔王の信念。尻尾振る相手を、間違えんな。
居場所を求めることを、否定しない。語り掛けるミドリ。あの子も、そうだった。巻き起こした風に乗せる想い。だけど、居場所はきっと、この場所じゃない。近づく決着。なら、どこだっていうのよ。棍が打ち砕いた心。場所じゃなくて、人なんだよ。
教団地下祭壇のモニターに、西館から続く隠し部屋の様子が映されていた。横たわった金髪の男が流す血は、身にまとった黒いスーツを赤に染めていた。皆さん、失踪していた西魔王も、教祖様の為に、我々の為にと、最期まで戦ってくれていたのです。
この日、教祖クロウリーはグリモア教団の過去となった。そして、旧教祖に仕えていた南魔王パイモンは行方不明のまま、北魔王アマイモン、東魔王オリエンス、西魔王アリトンの三人は敗れ去った。こうして、完全なる落日は終わりを迎えたのだった。
グリモア教団には、名も無き教団員が存在していた。少年が、いつの時代から所属していたのか、いつの時代から存在していたのか、その事実を知るものは少なかった。気がついたら、その少年は教団に存在していた。僕は、初めから存在していたんだよ。そう、教団設立時から、少年はずっと存在していたのだった。
教団設立当時から仕組まれていた計画。人は悲劇を乗り越え、強くなる。だったら、悲劇の当事者が必要だよね。それは、教祖という記号だった。数多の教祖が死を迎えるたびに、創り出される偽りの教祖。だけど、それも今日までだよ。見届けようか、完全なる落日を。推薦状にはメイザースという名前が書き込まれた。
西魔王が横たわる西館の隠し部屋、東魔王の心が打ち砕かれた東館、北魔王の信念が切裂かれた北館。そんな三つのモニターに、教団員の視線と心は釘付けだった。そして、誰の興味の対象でもなかった平和で静かな南館に設置されたカメラが一瞬だけ捕らえた人影。直後、モニターが映し出したのは、ただの砂嵐だった。
君の行動は、想定内だったよ。メイザースは少し遅れて映されていた西館から続く隠し部屋をモニター越しに見つめていた。君の役目は、果されたんだ。西魔王に差し向けられた西魔王。そして君は、永遠に語り継がれるだろう。教団の為に死んだ、完全な存在としてね。あがいても無駄さ、逃げ道はどこにもないんだよ。
メイザースのすぐ近く、新たな東魔王はそこにいた。君の代わりは、すでに用意してあるから。見つめた先は東館を映したモニター。こうなることは、初めから知っていただろ。なのに、どうしてそんな瞳をしているんだい。その問いは、共にモニターを見つめる堕風才に向けられていた。さぁ、お別れの言葉を贈るんだ。
ドラマは、こうじゃなくちゃ。北館を映すモニターには、予期していた乱入者の姿があった。やっぱり、姫様を取り返しに来たんだね。浮かべたのは余裕の笑み。それとも、僕を始末しに来たのかな。崩れない笑み。いいよ、もっと派手に暴れてよ。抑えることの出来ない笑み。僕はずっと、君達に会いたかったんだから。
そして再び、執事竜の演説が始まる。彼らは、最後まで完全でした。モニターを見つめる瞳。だけど皆さん、心配することはありません。陽が沈もうと、我々には真教祖様がついています。我々を、完全世界へと導いてくれる真教祖様が。祭壇に姿を現した少年。始めましょう、黄金の夜明けを。真教祖メイザースと共に。
名も無き教団員は告げる。完全世界という不確かさは、翻訳する必要があるんだよ。黄昏が終わり、迎えた落日。そして、次に訪れるのは夜明け。せっかくの夜明けが、真っ暗じゃ寂しいよね。共に、黄金の夜明けを。そして、新たな教祖は生まれる。
正義の反対がまた別の正義なら、正しさなんて存在しないと思うんだ。それは議論されつくした理論。だからね、私が正解をあげようと思うんだ。それは、神故の発想。だって、神様は王様よりも偉いんだから。神才は、下位なる争いを見下ろしていた。
ねぇ、君はどっちに憧れたのかな。神才は俯いた王に語りかける。照りつける太陽かな。それとも、照らし出すお月様かな。答えることのない王。この世界はね、君が愛するに値しないと思うんだ。それにさ、君に流れる血は、人間だけじゃないよね。
そういうことだったんだね。マクスウェルがはじき出した答え。なぜ、聖なる扉<ディバインゲート>が開かれたのか。なぜ、再創<リメイク>する力を持っているのか。でもね、私に解けない数式はないよ。神才と呼ばれた少女は計算を続ける。世界が本当に必要としてるのは、神様なのかな。それとも、王様なのかな。
僕の王様に、ちょっかいを出さないでくれないかな。神才を遮ったのは悪戯神。彼はね、僕という神の存在証明なんだよ。民は王に縋り、王は神に縋る。そう、だから彼は、僕に縋ってくれさえすればいい。だって僕がいなきゃ、生きられないんだから。
彼の為に僕が存在するように、僕の為に彼が存在するんだ。だが、神才はそれを否定した。だってさ、彼は王である前に。続く言葉を遮る悪戯神。それは、僕達が決めることじゃない、彼が決めることだよ。だから彼に、愛した世界を見せてあげようよ。