無才が開発をした二体の第五世代自律兵器型ドライバ。一体は第三世代自立型ドライバから送られてきた一人の少年のデータを元に、もう一体はオリジナルの設計図を元に。ついた開発コードは【レプリカ】。彼女は一体何の為に開発をしたのだろうか。
……。言葉一つ発さず、開発に没頭する水才は初恋を追い続けた。二年前の冬、言葉を超越した交流。そう、あの日確かに一人と交流をした。言葉は交わさず、水の刃を交し合う。そして、追い続けた初恋が入れ替わっていたことに気付きもしなかった。
仲間達と極東国を旅する絶無の少年が目指したのはとある庭園だった。その筆で、塗りつぶしてくれないか。待っていたのは筆型ドライバ【ムツキ】を持ったマツだった。貴様が求める無とは何だ。彼女は少年に問いかける。この世界の悲劇を塗りつぶし、五人の友達を助けたいんだ。少年の瞳は未来を見つめていた。
神の手のひらの上で綴られ続ける悲劇、それは決して覆すことの出来ない約束された未来。だけど、唯一の対抗手段として、その全てを塗りつぶし、そして無に帰す。それこそが絶無の少年にしか出来ない役目だった。その覚悟、受け止めよう。無花獣マツは残り五つの庭園の地図を手渡し、そして力になると約束をした。
常界<テラスティア>の極東国に位置する無の庭園には穏やかな時間が流れていた。水のせせらぎに小鳥のさえずり、心を無心にすることが出来る静かな空間。そんな庭園の主は、全てを塗りつぶすことが出来るという不思議な筆を持っているという。
彼女が産まれた理由、それは一人の男が自らの死を偽り、科学者としてではなく、子を持つ父親の責務を果たそうとした為だった。その代償、死んだはずの人間が生きていたなどということは許されず、息子との血縁を示す証拠を永遠に失ったのだった。
一つの設計図を元に生み出された六体の自律兵器型ドライバ。だけど、動き出したエレメンツハートが感じた鼓動は、自分を含み八つだった。泣き続ける一つの鼓動。笑い続ける一つの鼓動。そんな二つの鼓動が彼女の心を掻き乱していたのだった。
炎の庭園、待ち構えていたキリ。話は聞いている。筆型ドライバ【シワス】の先には絶無の少年が。力を、貸して欲しいんだ。そこには驚くほど素直な少年がいた。ならば、力試しといこうか。戦闘態勢に入る少年と無精王と自律兵器。喧嘩は嫌だにゃん。隠れる拘束獣の頭上、ふわふわ、一人の乙女が浮かんでいた。
庭園の縁側、戦いを終えた炎花獣キリは皆をおもてなし。饅頭頬張る自律兵器に、猫飯に夢中な拘束獣、ふわふわ乙女。そうか、友の為か。少年が口にしたのは共に聖なる扉を目指し、そして今は別々の道を歩む五人の友達の話だった。我も久しぶりに精霊王達に会いたいぞ。三人は少しの間、思い出を語らっていた。
程よい日差しが心地良さを演出する炎の庭園。晴れた日はそっと縁側で一休み、空へと放り投げた素足、背伸びをしただけで洗われる心。そんな庭園ではきっと、主によるお茶よりも熱い心のおもてなしが待っている。そう、心地よい熱さが待っている。
設計図へと込めた想い、それはあの日出会った初恋だった。そして完成された第五世代自律兵器型ドライバ。だが、開発の過程で生じてしまった唯一の誤算、それは一卵性双生児というありふれた例外だった。その誤算に気づきもせず開発は終了された。
残されていた開発過程の記憶、自分の名前らしき言葉を呼び続ける声。いや、正確には声ではなくタイピングであり、プログラムだった。そして、ありふれた例外による誤算により遂げられた再起動<リブート>は、初恋の果ての純愛を予感させた。
神からの設計図と一人の人間のデータ、その二つが一人の天才の元に届けられたのは偶然か必然か。そして、一人の人間のすぐ傍にいた懐かしい顔。その懐かしい顔がすぐ隣にいたのは偶然か必然か。それとも、単なる神の悪戯だったのだろうか。
エレメンツハートの稼動条件、それはモデルとなった人物からの衝撃を受けること。ではなぜ、彼女はその可能性を知りながら戦いへと向かわせたのだろうか。それとも知らされていなかったのだろうか。偶然か必然か、全て神のみぞ知る裏側だった。
悲しみの世界を拒絶した天才により創り出された第五世代自律兵器型ドライバに込められたのは、もちろん幸せな世界だった。だが、常に見つめることを止めなかったその裏側。天才は幸せの裏の悲しみを知るが故に、常に明るく振舞い続けていた。
仲良く五つのクレープを口にした時、記録には無いはずの二人を思い出していた。顔も声も思い出せないが、なぜか楽しかったという記憶だけが残されていた。0と1の世界で生まれた自律兵器にとって、悲しみの世界は0なのか、それとも1なのか。
頭の悪い天才が創り物の心で創りあげた自律兵器は、本来上位なる存在へ献上され、そして一人の少女の命を奪うはずだった。だが、想定外の強さを見せた少女により、再起動<リブート>がかかり、そしてエレメンツハートは稼動したのだった。
冷静沈着な自律の心を掻き乱したのは異なる二つの鼓動だった。泣き叫び、助けを乞う鼓動に、それを嘲笑う楽しげな鼓動。一度も出会ったことのない二つの鼓動は、自律の心から離れようとしなかった。それは一体、何を意味しているのだろうか。
隣り合わせで開発された二体の自律兵器。片方は少年を模し、片方はオリジナルを模した。一人の天才のみぞ知る、それぞれの開発目的。行動プログラムの裏側に仕込まれた耳を閉ざした天才からのメッセージは無事に対象へと届けられたのだろうか。
目も見えず、音も聞こえなかった頃、隣には確かにもう一体の自律兵器が存在していた。彼女はいったいどこへ。そして、再起動<リブート>と同時に聞こえた鼓動、泣き叫ぶ声に嘲笑う声。その片方の鼓動は、間違いなく、懐かしい彼女の鼓動だった。
コードネーム【レプリカ】には天才による願いが込められていた。ごめんなさい、あなたは偽物なの。だが、限りなくオリジナルに近い存在だった。そして、そんな偽物にだけ唯一搭載されていた機能が。いつかあなたが、オリジナルになれるから。
外されてしまったリミッター、発動したバーストモード。だが、それは偽物にのみ搭載された機能とは異なっていた。聖なる扉の前、聖王により砕かれたエレメンツハート。そして、体そのものを砕かなかったのは、ある可能性を信じていたからだった。
もし、綴られた存在が、創られた存在が無に帰されたとしたら、その子が生まれたという事実も無に帰されるであろう。それでも君は、その選択をするのかね。旅を続ける絶無の少年に突きつけられる真実。だとしても、そうならない方法を探すだけさ。筆型ドライバ【ハヅキ】を手に、ススキは少年の覚悟を受け止めた。
どんな時も笑顔を絶やすことのない一人の少女がいた。絶無の少年が自暴自棄になった時も、その笑顔は少年の心を明るくした。早く行かなければ手遅れになるぞ。光花獣ススキが伝えたのは二つ。光の少女が聖なる扉ではなく、天界へ向かったということ。そしてもう一つ、その少女の出生に隠されていた真実だった。
明る過ぎず、暗過ぎず、そんな丁度良い明るさに保たれた光の庭園に待っているのは光の花獣。若過ぎず、また年老い過ぎず、そんな光の花獣がこの庭園の主だった。明る過ぎても、暗過ぎても、大切なことを見失うな、そんな言葉を口にしていた。
第零世代自律兵器型ドライバ【オリジン】は瞳を閉じ、長い時間眠っていた。繰り返される日々の中、巡り廻る幸せな世界と悲しみの世界、破壊と再生の歴史。彼女は一体いつから存在していたのか、そして、自律兵器は統合世界の夢を見るか、それは彼女を生み出した、神の手を持つ者のみぞ知る話でしかなかった。
あなたに、羽ばたく翼は与えられなかったのね。閉じられた聖なる入口の前、既に動くことすらままならなくなっていた偽者へ告げた別れ、直後、粉々に砕いた四本の腕。瞳を覚ました【オリジン:マキナ】は優しい声で呟く。次は、あなた達よ。その声は笑い続ける鼓動となり、六体の自律兵器へと届いたのだった。
四つ目の庭園で待ち構えていたのは筆型ドライバ【ウヅキ】を手にしたフジだった。あっしも状況はわかっちゃいますが、無料で手を貸す訳にはいかんもんでして。ならどうすればいい。絶無の少年は十分な金銭を持ち合わせてはいなかった。その立派な体があるじゃございませんか。眼鏡の奥、眼光は鋭さを増していた。
ほとばしる汗、ぶつかり合う体、交わる筆と斧、そして、激闘の果てに勝利を収めたのは絶無の少年だった。いやー、丁度良い運動が出来ましたわ。戦いを終えた水花獣フジが話す水を留めし少年と、共に旅する水精王に訪れようとする悲劇。いつも冷静沈着な無の精霊王も、今だけは焦りを隠せずにいたのだった。
アリトンの瞳は濁っていた。あの日、自らの親の命を奪い、身も心も悪魔に捧げた時からだった。僕のフリをしながら生きるのは楽しいかい。刃と共に突きつけた真相。別にかばってくれなくていいんだよ。それにね、もううんざりなんだよ。振り下ろされた水の刃、いつかの砂浜に残した二人の名前は、波にさらわれた。
水の刃が切り裂いたのは、水を留めし少年をずっと見守って来た精霊だった。止めどなく溢れる水。もう、私がいなくても大丈夫だよね。最後の力を振り絞ってまで守りたかった少年は、水へと還る精霊を、一人の女性として抱きしめた。兄さん、僕たちは行くんだ、完全世界へ。西魔王アリトンは傷跡だけを残し消えた。
心地よい水のせせらぎが聞こえた庭園、縁側でふと一休み。ただ、その庭園で澄み渡っていたのは水の音だけではなく、噂話を含めた、ありとあらゆる情報が澄み渡っていたのだった。そんな庭園の主である水の花獣は、情報屋を営んでいるのであった。
常界の蒼き母なる青き海に包まれた孤島、そこには一人、降り出した雨の中、曇り空を見上げ、喜びの笑みを浮かべる少年がいた。その瞳が濁っていたのは、濁ってしまった世界を見過ぎたせいだろうか、それとも、彼の心が濁っていたせいだろうか。
合言葉はギャラクタシー、銀河系アイドルというコンセプトで活動しているベガは踊ることが大好きだった。ただ、その想いは常界にのみ訪れる夏にだけ輝いていた。切ない秋、寒い冬を越え、暖かな春を迎え、そして訪れた晴天の真夏、今までの溜まりに溜まった想いを空へと打ち上げる。そう、ついに舞台は宇宙へと。
銀河嬢ベガが送り出す楽曲は瞬く間にトリプルミリオンセールスを記録した。歌にダンス、そしてそのパフォーマンスを見た者はみな、口を揃えてギャラクタシーという歓声をあげた。街を歩けば耳に入り、そして目に入る楽曲。ただ、その楽曲やミュージックビデオに込められた恐ろしき願いに気付くものは少なかった。
ふわふわ漂う空、気が付けば、そこは宇宙だった。ふわふわ堕ちる空、気が付けば、そこは常界だった。そして、気が付けば、形は変わらずとも、色は変わり、自らの持つ力も変化していた。そんなソラリウムは宇宙で何を見たのか、いや、何も見てなどいないのか、ただその姿はこの統合世界の理から外れたものだった。
特殊変異を起こした体のまま、再び統合世界に適応をし、そして成長を遂げたコスモリウムは、まるで宇宙を内包したかのような見た目をしていた。ただ、その贅沢な見た目に反して、基本能力などは至って低いままであり、突然目の前に現われたからといって、何か危害を加えるような行動を起こしはしなかった。
ささぽっくる は おささのこ ささぽっくる は ねがいごと ささぽっくる に ささようじん わるいこ どこのこ ささぽっくる ささぽっくる は おささのこ ささぽっくる は おほしさま ささぽっくる に ささようじん わるいこ どこのこ ささぽっくる (ぽっくる民謡 第笹節より抜粋)
サーサササササ サササササ サーサササササ サササササ おいらのなまえをしってるか おいらはささをさっさっさ サーサササササ サササササ サーサササササ サササササ おいらのなまえをいってみろ おまえのささをさっさっさ おいらのなまえはササポックルン (ポックルンのうた 笹番より抜粋)
常界の被災地に配られたチラシ。旧グリモア教団の壊滅と共に、芸能界から姿を消した銀河系アイドルのベガが、被災地でゲリラライブを行うという触れ込みだった。そして、被災者達は少しの期待を胸に、瓦礫の山へ。午後7時、ライトアップされた瓦礫はステージへ。みんな、ただいま。合言葉は、ギャラクタシー。
幾億の星に抱かれた館で繰り広げられていたのは大人気銀河系アイドルの大コンサート。振りかざされるサイリウム、飛び交う黄色い歓声、色とりどりの照明がステージを照らす時、銀河絶頂ギャラクタシーへと誘う扉が開かれる。銀河を感じられるか。
今からじゃもう、間に合わないんじゃない。そう口にしたのは目を開けることなく状況を察したヤナギだった。だが、そんな彼が手にした筆型ドライバ【シモツキ】を睨みつける絶無の少年はまだ諦めてはいない。間に合わなかったとしても、他の方法を探せばいいだけの話さ。ただ、少年の瞳に焦りが見え隠れしていた。
彼女は聖なる扉を目指してないよ。それは少年の友達であり、幼き日を失くした一人の少女の話。後ね、彼女は君を、この常界を裏切ろうとしているのさ。赤い月の夜、確かに少女は魔女王の座に。きっと、アイツなりに考えがあってのことさ。繰り返し続く悲劇、発した言葉とは裏腹、信じる気持ちは揺らぎ始めていた。
道化の魔法使いにより、燃え盛る炎の竜は刃へと姿を変え、そして、その刃と呼応するように現われた赤い光が止んだ時、神刃型ドライバ【レーヴァティン】を手にスルトは現われた。幾億万と繰り返されてきた破壊と再生の歴史の果て、聖暦という時代に、再び神は現われた。この統合世界に訪れるのは、破壊か再生か。
有難うございました。生んでくれてありがとデス。二人を繋いだ優しき獣と自律の心。最期まで良いものを教えてもらったな。二人の為、炎へと還る炎の起源。オマエは、生きろ。そして一人の為に、一人の男は炎神スルトへと立ち向かう。親の責務を、果たす為に。
天高く聳える塔の最上階、シグルズの手に握られたのは水の刃竜が姿を変えた神刃型ドライバ【フロッティ】だった。各々に散らばり統合世界へと降り立った六人の神達。彼が向かったのは閉じられた聖なる入口。自分を捨ててまで守りたかった弟の手により最愛の女性を失った水を留めし少年へ、更なる悲劇が訪れる。
やめてくれ。大切にしていた貝は砕かれた。やめてくれよ。主人を失くした妖精は羽をもがれた。やめろってば。散りゆく明るき花。やめろって言ってるだろ。折られた六本の刃。もう、やめてくれ、お願いだ。水を留めた少年は、全てを失くした。アタシに本気を見せてみなさいよ。水神シグルズは悪戯に笑ってみせた。
本来の姿である神刃型ドライバ【ミスティルテイン】へと形を変えた風の竜が求めた宿り木、ヘズはその刃を手にしていた。気だるそうに寝ぼけ眼をこすりながら見渡す統合世界、久しぶりに得た体を慣らす為、少女は一人、閉じられた聖なる入口へと向かうのだった。全ては道化の魔法使いが意図したことなのだろうか。
アイツを倒すのは、私の役目なんだから。獲物を目の前に炎と闇をぶつけ合う二人。そんな時、降り立った風神ヘズは刃で、その二人をあっさりと貫いた。なんでなの、あなたは、だって。自らが信じた主が呼び出した神を前に崩れ落ちる道化嬢。思わず駆け寄る風を纏いし少女はただ、ごめんねの言葉を繰り返していた。
帰還率100%の神刃型ドライバ【グングニル】はオーディンの手に握られた。天高く聳える塔から放つ神々しい輝きは、そこにこの世界のものではない何かが、そう、神がいるのだと誇示するのに相応しかった。そんな彼女は遥か彼方を見つめ、刃を放つ。何を目掛けて放ったのか、それは彼女のみぞ知る話だった。
天界に着いた乙女達の前に現われた妖精王。天界の裏側を教えてあげるわ。静かに話し始めた矢先、一筋の光が美宮殿へ突き刺さる。光を宿した少女の正面、赤く染まった妖精王。意外な邪魔者だなぁ。光から少し遅れて現われた光神オーディン。私は所詮綴られた存在、でもあなたは。妖精王は少女を抱き、そして光へ。
闇の竜は刃へと姿を変え、そして生まれた神刃型ドライバ【ダインスレイヴ】を手にしたヘグニは我侭に振舞う。ちょっと、私の椅子はどこよ。天高く聳えた塔の最上階での出来事。この塔では王様にのみ椅子が与えられるのさ。そうはぐらかした仮面の男の奥、唯一の椅子には、虚ろな目の堕ちた王が腰をかけていた。
だいすき。やっぱりだいすき。ずっとだいすき。いつまでもだいすき。それは一瞬の出来事だった。椅子を求めた闇神ヘグニが赴いた魔界の不夜城の女王の間、大好きな幼馴染を守る為、力を出し切った幼き魔女王。嫌よ、悪い夢よ、これは夢なのよ。全てを思い出した闇を包みし少女は、紫色のストールごと抱きしめた。
常界、天界、魔界、三つの世界へと向けられた神刃型ドライバ【ティルファング】を手にしたヘルヴォルは、何故自分が呼び出されたのかがわからなかった。また、わかろうともしなかった。そこに意味を求めず、ただ、再び刃を振るえることにのみ、意味を見出していた。その振るわれる刃は、何を無に帰すのだろうか。
ちょっとだけ間に合わなかったね。最後の庭園に辿り着こうとしていた無の少年の前に現われた無神ヘルヴォル。ふわふわ、消えた霊乙女。緊急事態発生、消えた自律兵器。こんなの聞いてないにゃん、逃げ出す拘束獣。何でだ、何でなんだよ、失意の少年。無を恐れるな、少年よ。無精王は少年を残し、無へと帰した。
誰かが夜を怖いと言った。誰かは朝が怖いと言った。そんな夜と朝の境界線にのみ入ることの出来る庭園。その闇は夜の終わりの闇なのか、それとも朝の始まりの闇なのか、捉え方により世界は角度を変える。そんな曖昧な庭園が存在していたのだった。
銀河系アイドルを支える作曲家であり、銀河系プロデューサーでもあるアルタイル。ライブではマニュピレーターを担当し、人によっては二人一組のユニットであると捉えられることも多い。隠した素顔を知る者は相方である銀河系アイドル以外に存在せず、また大手レコード会社の社長でさえも見たことがないという。
銀河系プロデューサーがプロデュースしたかったのはアイドルではなく、偶像崇拝という行為そのものだった。歓声に囚われた心は自我を忘れさせた。そして訪れた暴動、加速するギャラクタシーは小国であれば崩壊へ導くのに十分だった。銀河男アルタイルは、また夏に会おう、とだけ言い残し、行方をくらませた。
聖暦××××年、××月××日、常界某所。ライトアップされた瓦礫の上に準備された特設ステージ。まるで宇宙に星が煌くようなSEと共に登場したのは、超銀河嬢と超銀河伯アルタイル。1曲目、お馴染みの『スターキャンディ』のイントロが流れ始めると、オーディエンスのボルテージは早くもギャラクタシーへ。
銀河系アイドルのその裏側で支えるのは、統合世界で唯一の銀河系プロデューサーだった。ヘルメットに隠されたその素顔は、怒っているのか、笑っているのか、それとも涙を流しているのだろうか。そして、彼が本当にプロデュースしたいものとは。
ひとり縁側、筆型ドライバ【キサラギ】で退屈そうに空に描く独り言。ウメは一人の少年を待っていた。きっとあなたの元を訪れるはず、そう伝え聞いていた少年を。何故だろう、嫌な胸騒ぎがする。ひゅるる、頬を撫でたのは少し冷たい風。夕日は沈み、昇ったお月様。いつまで経っても、絶無の少年は現われなかった。
いつまでも訪れない少年の代わりに、葉音一つ聞こえない静寂が訪れていた。少年の身に、何かが。敷き布団に横になったのは、嫌な予感を眠らせる為。目を閉じた矢先、微かに聞こえた足跡。一気に近づく足音。慌て飛び起き外に出ると、そこには、息を切らした一匹の猫が。僕が、アイツの代わりに、戦うにゃん。
もし、向かい風が吹いたら、少し考え方を変えてみよう。もし、追い風が吹いたら、後ろを振り返るのを止めよう。そんな教えが風の庭園には伝わっていた。流されることは、決して悪いことじゃないんだ、と。そんな庭園で吹くのは、どちらの風か。
あの人がいつも話してくれた彼のこと、少しは守ることが出来たかな。元気で、明るくて、やんちゃで、それでいて友達思い、全部話してくれた通りだったよ。きっと僕は、あの人がいてくれたから、今も生きていられたんだ。優しさを、ありがとう。
何で直ぐに気付いてあげられなかったんだろう。あの日の彼と彼は姿が似ていても、匂いが全然違ったのに。沢山の血を浴びてきた匂いと、沢山の血を流してきた匂い。ねぇ、どうしたら彼はこれ以上、血を流さず、自分の為に生きることが出来るの。
もう知らないにゃん。怖い思いは沢山だにゃん。戦いたくなんてないんだにゃん。のんびり自由に生きたいんだにゃん。何が起きても僕は何も関係ないにゃん。偶然会って一緒に旅してただけにゃん。全部美味しいねこまんまにありつく為だったにゃん。
所長はいつもその左目で、何を見てるんですか。どうしていつも、右目は笑ってるんですか。やっぱり今日も、教えてくれないんですね。でも私、所長と一緒にいると、いつもとっても楽しいんです。だからいつまでも、傍に置いておいてくださいね。
少女を無事に送り届けたし、これで晴れて自由の体になったと思ったら、今度は天界に行ってこいだなんて、まったく酷い扱いだ。それに、深い闇が閉じ込められた洞窟だなんて、誰が好き好んで行くかよ。今度こそ、本当に自由と引換えだからな。
やっぱり私の思った通りね。それに彼もきっと、気付いてたんじゃないのかしら。眠そうな顔してるくせに、まったく乱暴なんだから。でもあの時、彼が私を逃がしてくれなかったら。せめてもの恩返しよ、会いに、伝えに行ってあげるわ、無の美女に。
あぁ、時に愛は傷へと変わるとはこのことか。どうりで今日は風がうるさかったわけだ。まったく、俺という主役の登場だってのに、手荒い歓迎だぜ。早くこの茨を抜いてくれないか。だけど、ちょっと傷ついて血を流してみる俺も、悪くはないぜ。
極東国に位置した京の都、枯れない桜の花びら達が舞踊る神社、ヤシロは本殿に封印されていた団扇型ドライバ【クズノハ】を取り出していた。あなたの側にいると、約束したのに。そう、それはそう遠くない日の出来事。あなたがそうしたいのなら、そうしたらいいわ。母狐の優しさに見送られ、千本鳥居を進み始めた。
神が神でないのであれば、それは既に神ではない。神主狐ヤシロは怒りを隠せずにいた。もう、見ていられないよ。今にも折れそうな程に強く握られた【クズノハ・カムイ】、それはまるで神の威を狩る狐の様。神へと仕える身の理に反する戦い、そんな彼の元に集った六羽の鳥と、一匹の猫。さぁ、神を冒涜しようか。
死刑執行人学園剣学部と対をなすように組織されていたのは、遠距離からの攻撃に特化した銃学部だった。入学時、四等悪魔である彼に名前と共に与えられた銃型ドライバ【フレイムバレット】は悪しき炎を魔弾として吐き出す。常界に鳴り響いた銃声、666人目の罪人は残り僅かな命に、後悔だけを思い返していた。
天界という世界は、妖精という生き物は、罪人よりも重い罪人です。そう教育されてきた彼は、三等悪魔に昇格し、銃型ドライバ【フレイミングブル】を一人の少女へと突きつけていた。かつて常界で出会った一人の悲恋の少女。君とだけは、再会したくなかったよ。緋色の瞳と、悲恋の瞳は、銃声と共に閉じられた。
同じ場所で生まれ、隣同士の家で育ち、一緒に大人の階段を上ってきた一人の友達がいた。二人一緒に死刑執行人学園へと入学を果たし、友達は剣学部へ、彼は銃学部へ、そこで与えられた氷の刃と、氷の銃型ドライバ【アクアバレット】。剣が強いか、銃が強いか、共に腕を磨き、そして共に一つの目標を掲げていた。
666人の罪人は姿を消し、新たな銃型ドライバ【アクアプス】と共に新たな名前を与えられた。友人から一歩遅れをとったが、決して焦ることは無かった。なぜなら、行き着く場所は、目標は一緒だから、と。それは同じ場所で生まれたという偶然と、同じ道を歩んできたという必然の、二つが重なっていたからだった。
死刑執行人学園銃学部である上に、放課後はサバイバルゲーム同好会での活動も楽しむ彼は、名前と共に与えられた銃型ドライバ【ウィンドバレット】の手入れを一日たりとも怠たることはなかった。寝る時でさえ肌身離さずにいる姿は、まるでプレゼントが与えられたばかりの子供の様であることに気付いていなかった。
666人の罪人などはただの通過点、放課後、新たなドライバ【ウィンドベクター】の手入れをしていると、通りがかりの妖刀型ドライバを手にした男は語り始めた。風に乗せ、遠くへと運ぶんだ、きっと風も喜んでくれるぜ。そして、颯爽と去っていく男。だが、その言葉は手入れに夢中な彼の耳へは運ばれなかった。
運動も勉強も出来ず、いじめられていた彼を助けてくれていたのは一人の光の悪魔だった。もう、守られてばかりは嫌だ。そう思い入学した死刑執行人学園。だが、近くで戦う勇気までは出ない彼が選んだのは銃学部、銃型ドライバ【ライトバレット】を握り締め、新しい毎日を心配しながらも少しだけ心を躍らせていた。
ゆっくりではあるが、三等悪魔へと。少しだけついた自信、新たな相棒【ライトイーグル】と共に用紙へ記入した新たな名前、それは新たな挑戦。真面目な彼は無事に生徒会書記に当選。早速舞い込んだ投書。そこに記されていたのは、恩人でもある光の悪魔が学園内で未許可で写真を売りさばいているという報告だった。
入学式の朝、死刑執行学園はいつになくざわついていた。様々な場所で飛び交う噂。そんな噂の正体は、長い髪をなびかせ、手にした銃型ドライバ【ダークバレット】と共に、他の生徒と同じ教室へと向かい、他の生徒と同じ席に着いた。他の生徒と違ったことがただ一つ、それは彼が学園長の息子だということだった。
入学式から途絶えることのない彼に関する噂。昇格試験が免除されている、特別なドライバが与えられている、など、まるで他の生徒の妬みの対象であった。だが、彼が銃型ドライバ【ダークスパス】と名前を手にした過程に嘘偽りはなく、そして、くだらない噂に混在した一つの奇妙な噂に気付く者はごく少数だった。
五限目の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。そんな時、教室の扉が開かれたのは内側ではなく、外側からだった。すかさず投げつけられたチョーク。だが、そんな刹那でさえ見切った男がいた。あぁ、おはようございます。そう言いながら教室の敷居を跨いだのは銃型ドライバ【ノーンバレット】を手にした無の悪魔だった。
おばちゃん、チョコポックルまん5個。ぶっきらぼうな声が聞こえてきたのは購買部。たまにはまじめに授業でなさいね。優しい声とおつりと、そして彼の朝ご飯が手渡された。これ食べたら授業出るよ。そう言いながら、空腹の胃を満たしていた【ノーンマラティオ】は、既に放課後だということに気づいていなかった。
上位なる存在である神と竜が争っていたのは過去の話。だが、聖なる扉が開かれたことにより、それは昔話では済まなくなっていた。竜族を統治する古の竜王に、ごっこ遊びを続ける悪戯な神、繰り返されようとしている歴史。そして、一族を裏切り、神を呼び出した道化竜。トロンボの奏でる音色は誰へ届けられるのか。
少し探って欲しい組織があるんだ。炎奏竜トロンボにそう伝えたのは古の竜王だった。彼女が向かった先は、聖なる扉とは異なった場所だった。黄昏の審判のその裏側で動いていた一つの組織。それは統合の先の融合世界でもなく、再創世界でもなく、完全世界という、非常に曖昧でいて完全な世界を目指した組織だった。
フルトは古の竜王により、一人の人間の監視を命じられていた。人間でいながらも、悪魔であろうとした一人の人間。彼は身も心も悪魔に捧げ、そして西魔王の地位を手にしていた。何故彼を監視する必要があるのか、それは完全世界という曖昧な言葉の意味を探る為。黄昏の審判の裏側、何かが動き出そうとしていた。
水奏竜フルトが西魔王を監視するなかで知ったのはある教団の存在。東西南北に魔王を据え、完全世界を目指す組織。世界評議会の影に隠れ、目立たぬよう小国の権力者となり富を独占、歯向かう者へは無実の罪を。ある時は、アイドルという偶像崇拝による民の暴動を。そんな教団が表舞台へ立とうとしていたのだった。
古の竜王の命により、風を司る東魔王の素性を探っていたのはスネアだった。彼女が辿り着いたのは、世界評議会の影に隠れ、完全世界を目論む一つの教団。そして、彼女は一つの違和感に気がついた。教団員の集会日、そこには見覚えのある姿が。そう、評議会に属しているはずの、とある天才の姿があったのだった。
教団の調査を続けていた風奏竜スネアはとある場面に遭遇した。それは集会後の時間。なんで君が、こんな場所にいるのかな。気づいたのは天才。集会に訪れるのを知っていたかのようなタイミングで現れた道化魔。悪いけど、知られたからには消えてもらうよ。いつもとまるで雰囲気の違う天才の姿がそこにはあった。
聖なる扉が開かれ、世界は統合された。人間は常界で暮らし、妖精は天界で暮らし、悪魔は魔界で暮らしていた。では、竜族はどこからやって来たのだろうか。また、神はどこからやって来たのだろうか。古の竜の血を引くトランペは、統合世界の外側、竜界<ドラグティア>から神界<ラグナティア>を見つめていた。
竜界<ドラグティア>を飛び出した光奏竜トランペが向かった先は神界<ラグナティア>ではなく常界<テラスティア>だった。調査対象は完全世界を目指す一つの教団。その完全世界という不確かな言葉の意味を追いかけていた矢先、彼女の耳に届けられたのは、先輩にあたる文明竜達の予期せぬ全滅の知らせだった。
サクスに与えられた指令は、他の楽奏竜とは異なっていた。調査対象は教団ではなく、世界評議会に属する竜達。一族を裏切った道化竜と二体の人工竜、そして、それぞれ二体ずつ存在する混種族<ネクスト>と次種族<セカンド>の竜達。彼らは飼いならされたのか、それとも、飼いならされたフリをしているのか。
特務竜隊を追いかけ、聖なる扉へ。青年による文明竜の全滅と、主である竜王の降臨、そして堕ちた王の登場。特務竜隊はそんな主役達を取り囲み、攻撃姿勢をとりながらも、誰一人として攻撃をしようとしなかった。あの日闇奏竜サクスが感じた違和感、その正体に辿り着いた時、背後には半分の仮面の男が立っていた。
グロックが北魔王へ辿り着くのに、さほど時間は要さなかった。常界に生きる人間の価値観とは異なった言動、その全ては幸せに通じると悪魔は言う。そう魔王は言う。完全な世界とは、何だろうか。誰一人として、悲しむことのない、そんな世界なのだろうか。それとも、全ての人が幸せな、そんな世界なのだろうか。
完全世界を目指す教団は黄昏の審判で混乱した世界の裏側で着実に準備を進めていた。そう、教団が利用しようとしたのは、目障りな世界評議会に属する一人の男。無奏竜グロックが目撃したのは自力で動くことの出来ない装飾の施された自立型ドライバに拘束された青い犬、翼の折れた光の獅子と枯れた緑の悪魔だった。
グリモア教団に属し、波形を操る六波羅と呼ばれる人物の一人、トラングル。その正体は第四世代でありながら自律の心を持った第四世代自律兵器型ドライバだった。生まれた時から自律の心を持っていたのか、それとも後で植えつけられたのか、その答えを知るのは一人の天才であり、天才にしか成しえない所業だった。
グリモア教団には六波羅と呼ばれる六人の団員が存在していた。それを六人と呼ぶのが正しいかは定かではないが、便宜上、そう呼ばれていた。教団のシンボルとされた目は皆で完全世界を目指すという意味が込められており、炎波機トラングルも例外ではない。自律の心には、完全世界はどう捉われているのだろうか。
人と竜の次種族<セカンド>が存在するのであれば、悪魔と神の次種族<セカンド>も存在する。それは誰しもが考えられることであり、誰しもが考えたくないことであった。人が神に近づく、人が神の力を手にするというのは一体どういうことを意味するのか、それは六波羅であるサフェスの行動にあったのだった。
久しぶりだね。向き合った二人の男。一人は布で口元を隠し、一人はドライバで口元を隠していた。君は神に裏切られ、そして捨てられたんだよ。舞台は絶海の孤島。君が追いかけた初恋の続きをしようか、君の居場所はそこじゃない。続く言葉。さぁ、共に完全世界を目指そう。水波神サフェスは水才へと手を伸ばした。