最古の竜の血が眠ると言われる祠、対峙していたのはドロシーとハム。例えその体に竜の血を宿そうと、所詮半分は下等な人間よ。ぶつかり合う闇と炎。だけど、あなたのその体の半分はなにかしら。ドロシーは知っていた。あなたは純血の竜じゃない。
だったらなんだって言うのよ。怒りを露にしたハム。そしてドロシーは続ける。あなたも竜界を裏切り、そして神へと懇願したの。だけど、あなたは信用されなかった。そして与えられたのが、半分の妖精の血。そう、それはあなたを縛る憎き血よね。
そして、あなたに唯一与えられた仕事は、この祠の最深部を守ること。なぜなら、ここには大切な血が眠っているから。ドロシーは活気付いていた。それがわかったところで、アンタはここで私に殺されんのよ。ハムもまた、活気付いていたのだった。
どうせ死ぬのなら、せっかくだし答えを教えてあげるわ。語り出したハム。確かにこの奥に眠っているわよ、最古の竜の血が、私たち竜界の「決定者だった裏切り者」の血が、ヴェルンの血が。肯定されたドロシーの行動。だけど、それだけじゃ無駄よ。
どういう意味よ。引き下がることのないドロシー。わかっているわ、アンタがしたいのは彼を再び呼び覚ますことよね、そう、哀れな綴られし道化竜を。教えてあげる。生まれながらにして彼に与えられた、決して抗うことの出来ない綴られし運命を。
神竜戦争の果て、オズは牽制を目的に綴られた。そして、それを受け入れざるを得なかった竜界。だが、オズはすでに人でいう成人に達していた。そう、彼に幼き日など存在しなかった。父母から命を授からず、ただ紙にインクで綴られた存在だった。
だが、なぜか竜界には彼の幼き日を知るものが存在していた。竜王として竜界を治めていたノアもそのひとりだった。そう、なぜなら彼は「彼女の幼馴染」として綴られたから。すべての記憶は偽り。そしてその偽りの記憶は、彼だけではなかった。
竜界にオズという竜がいた。その世界にはあたかも「オズ」という竜が初めから存在していた、それが彼が綴られた影響範囲。真実を知らず、オズは竜界の端で暮らしていた。そんな彼の許を、ひとりの神様が訪れるまでは。真実を知ってしまうまでは。
ボクは君に選ばせたい。仮面の男が伝えたオズの真実。そう、君の記憶は偽りだらけなんだ。本当の家族なんて存在しないよ。すべて創り物さ。それでも、この竜界はキミの居場所なのかい?もし、キミの居場所がないのなら、ボクが居場所を与えよう。
どうか、行かないでくれ。すべてを知ってなお、ノアはオズを引きとめようとした。だが、頷くことのないオズ。彼女に会ったら伝えてください。僕は竜界を裏切ったのだと。いつかの花飾りも、捨ててくれと。それがきっと、彼女のためなんです。
こうして、オズは竜界から姿を消した。そして訪れたのは、竜界より下位なる世界の常界。ようこそ、ボクの許へ。そう、オズを迎え入れたのは世界評議会の聖人会議長の息子であり、特別な役割を与えられたロキ。共に優しい世界を創ろうじゃないか。
偽りの温かな記憶ではなく、本物の家族を求めたオズ。そして集まったオズの家族たち。僕が優しい世界を創ってみせます。そう、オズは心からそう思っていた。だが、それでもオズは無力だった。そして、北欧の神々に縋ってしまったのだった。
後悔したときにはすでに遅かった。せめてもの償いにと、自分に残されていた時間と引き換えたオズ。そして、力を失くしたオズが運び込まれたのは竜界。そんなオズに対して、いつかと同じ右手を差し出したノア。それでもお前は、私の友なんだ。
居場所ならあった。それは偽りかもしれない。だが、それでも自分の居場所を作ってくれる存在がいた。過去を嘆き、そして過去への償い。オズは再び竜界の力になると誓う。だが、オズの居場所は竜界だけではなかった。まだ、オズの話は終わらない。
自ら告げたサヨナラ。頼りない父でごめんなさい。だが、そんなこと、誰も思っていなかった。そこに言葉はない。だが、それでも家族たちはオズの帰りを待っていた。イマも待っている。サヨナラは認めない。あなたは、私たちのお父さんなんだから。
そう、彼の記憶は偽りだらけ。そして、もう一度綴るなど不可能なこと。だが、決してドロシーは諦めはしなかった。私はあなたを倒して、最古の竜の血を手に入れる。なにを言ってるのかしら。血だけで、綴ることなど出来ないわ。頑張っても無駄よ。
そこに少しでも可能性があるのなら、私は諦めたりしない。いつか教えてもらった魔法。いまの私なら、あのときよりも強い。ドロシーの放つ闇は、魔法と呼ぶには小さく、限りなく純血の竜の放つ闇へと近づいていた。だから、私は負けたりしない。
いくら竜の血を得たところで、私に勝てるわけないじゃない。ハムの血の半分が妖精のものだとしても、残り半分の竜の血は、竜王家の血。ハムの炎がかき消すドロシーの闇。だが、それでも再び生まれたドロシーの闇。どうして、立ち向かえるのよ。
それは、あなたが言ったとおりよ。ドロシーに輸血された竜の血。そう、私の体に流れているのは、あなたと同じ竜王家の血。まさか、それじゃあ。だから、私はあの人のためにも、古竜王のためにも負けたりしない。だって、託してくれたんだから。
これで終わりにしましょう。竜王家の純血なる闇を纏ったドロシー。私にだって、意地があるのよ。竜王家の純血なる炎を纏ったハム。次の一撃で勝敗は決する。そう確信したのは両者共に。最古の竜の祠、小さくも大きな意味を持つ戦いは幕を下ろす。
そんな、まさか。先に倒れたのはドロシーだった。所詮は人間だってことよ。だが、ハムの息も上がりきっていた。よくも無駄に足掻いたわね、無駄だって言ったのに。ハムが口にしていた「無駄」の意味。例え血を手に入れても、誰が綴れるのかしら。
その役目は、ワタシに任せてもらえますかな。鳴り響く笛の音。現れたウサギのキグルミ。そんなキグルミの背後、ドロシーが会いたくて仕方のなかった者たちが。さぁさぁ、これで形勢逆転、ドラマチックなフィナーレをあなたへお届けしましょう!
トトが生み出した無数の水竜。天へと誘うかのごとく、ハムを取り囲み舞い踊る。パレードはまだ、始まったばかり。アナタの為の特等席で、水と風と光と無のショーをご覧ください。そう、オズのことを想っていたのはドロシーだけではなかった。
水竜をつきぬけ、風の刃が舞い踊る。急な竜巻にご用心。もちろん、その行動に言葉が乗ることはない。だが、その行動に乗せられていた想い。みんな、ありがとう。そんな彼らの姿に、ドロシーはただ胸が締め付けられる。そう、私だけじゃないんだ。
空を翔る獅子。それは空想上の生き物。だが、レオンはただ神々しく羽ばたいてみせた。突き抜けた天井。光届かぬ祠へ差し込む光。そして、降り注いだ光の羽が突き刺した体。それじゃあ、最後に仕上げといこう。不器用な君たちに相応しい仕上げさ!
現代の技術を以てすれば、第一世代であるブリキに言葉を与えることは出来た。けれど、そうしなかったのは、そうせずとも気持ちを伝えることが出来たから。そんなブリキの想い。最後は物理で押しつぶしちゃえ!それが、君たちらしさってやつさ。
立ち上がることの出来ないハム。そんなハムへと歩み寄るのは、片足を引きずったドロシーだった。これが、私たち家族の想いなんだよ。家族を裏切ったハムへと刺さる言葉。さっさと、さっさと私を殺しなさいよ!だが、ドロシーはそれを否定した。
あなたを殺したところで、私たちは嬉しくないよ。それに、あなたにもいつか、帰れるときが来るから。そして、ドロシーたちはハムの横を通り過ぎた。だが、そんな遠ざかるドロシーたちの背中へと向けられた言葉。最古の竜の血だけじゃ、無駄よ。
最古の竜の血、綴る力を持ったボーム。条件は揃ったはずよ。条件はそれだけじゃない。それはかつて竜王が説いた優しさであり、竜王家にのみ伝わる。その答えは、竜道閣の奥に眠ってる。いや、大切にしまっていた、と言った方が適切かもしれない。
そっか、ありがとう。ドロシーは笑顔だった。なんで笑っているのよ。ハムは不思議だった。竜道閣は多くの綴られし者が封じられた場所。最奥へ辿り着くことなんて出来るわけないわ。ううん、出来るよ。だって、そこにはあの子が向かったんだから。
あなたのよく知る、あの子だよ。ドロシーたちの背中へ近づく足音。まさか、あの子っていうのは……。ハムの瞳には近づく足音の正体が映し出されていた。そして、その正体の手には、一冊の分厚い本が握られていた。辿り着いたっていうの……!?
それじゃあ、先に行ってるね。ドロシーはその足音の正体を確認することなく、奥へと歩き始めた。そして、足音の正体はハムの正面で立ち止まる。久しぶりね。言葉を発した足音の正体。やっぱり、私に会いたくなかったのかしら。ねぇ、お母さん。
何年ぶりだろうか、何十年ぶりだろうか、何百年ぶりだろうか。果たされた再会。大きくなったじゃない。顔をあげたハム、瞳に映し出されたカナン。この竜界に、あなたの居場所はない。だけど、居場所は作れるの。それを、あの人は教えてくれた。
それじゃあ、行ってくるね。ハムへと向けられたお別れの言葉。決して振り返ることのないカナン。そして、カナンを呼び止めることの出来ないハム。そう、ハムはただ下を向き、後悔の涙を流していたから。それもまた、ひとつの家族の形だった。
お待たせ。ドロシーたちの横に並んだカナン。ドロシーはブリキに抱えられ、少し高い位置からありがとうを伝えた。ううん、お礼を言うのは私のほう。私じゃ、最奥を見つけることは出来なかった。そんなふたりの瞳には、希望だけが満ち溢れていた。
さぁ、到着だよ。祠の最深部、岩のくぼみには、枯れることのない最古の竜の血が。これでやっと、もう一度会えるんだ。目を輝かせていたドロシー。その前に、ワタシからお話をさせてもらってもいいかな。やけに真剣な声は、ボームのものだった。
彼を再び綴ったとしても、それは彼の物語の続きでしかない。その言葉がいったいなにを意味しているのか。そう、彼には綴られし者という、逃れることの出来ない運命が待っている。そんな過酷な運命に、彼を再び呼び戻しても、本当にいいのかな。
ボームは知っていた。この先、オズに与えられるべき運命の結末を。彼の命を握っているのはワタシじゃない。アイツの気分ひとつで、彼の結末は訪れてしまう。命は失われてしまうんだ。だからアイツは、彼を生かし続けた。いつでも殺せるんだから。
それなら、答えは簡単じゃない。自信満々の笑みを浮かべたドロシー。って、それは私の言葉じゃないか。そう言いながら見つめた先にいたのはカナン。約束する、そんな運命、私が壊してみせるって。そして、カナンは一足先にその場を後にした。
やっぱ、会うのは照れくさかったのかな。カナンを見送ったドロシー。それじゃあ、始めるよ。筆を手にしたボーム。書に綴られた文字は踊りだし、すべての文字が炎に包まれる。その炎が落とした竜の影。ドロシーの瞳に溜まった涙。…お帰りなさい!
常界の様子を見つめていたのは、神界のロキとマクスウェル。これで、この世界は終わるんだね。少し感傷的なマクスウェル。なにか言いたげな顔だね。問いかけるマクスウェル。そうだね、私は伝えなきゃいけない。サヨナラを、言いに行きたいんだ。
それじゃあ、連れて行ってくれるかな。マクスウェルを乗せたオリジンが向かった先は常界。わざわざ私たちが出向く必要もないと思いますが。少し苛立つオリジン。私はずっと、好奇心を信じて生きてきた。だから、生まれた好奇心を大切にしたい。
だが、マクスウェルはとある言葉を口にしていた。サヨナラを言いに行きたいと。その言葉は、いったい誰に向けられるのか。その言葉に、どんな意味があるのか。そして、普段みせることのない真剣な表情を浮かべ、常界へと降り立とうとしていた。
壊さなくてもよいのでしょうか。オリジンが抱いた疑問。それは私じゃなくても、誰かがしてくれる。だから、私たちにしか出来ないことをしよう。私たちが見る可能性の結末。だから、私たちの邪魔しないで。マクスウェルは目前の瞳を睨みつけた。
―ねぇ、イージス。マクスウェルとオリジンの前、立ち塞がったのは六聖人のひとりであり、世界の決定を裏切ったイージスだった。我が君主の願いは、私の願いでもあるのです。知ってるよ、もちろん。だけどさ、それがどうしてイマだったのかな。
なんども繰り返されてきた歴史。そのたびに、終わる世界を見送っていたイージス。私はそれがずっと正しいと思っていた。だが、どうやら私の思考にエラーが出てしまったようだ。かつて神界での争いで命を落とした君主。そう、私は守りたいんだ。
君主の子らはイマも世界に生きている。生まれ変わる世界に、その子らの幸せはあるだろうか。それを、私たちが決めていいことなのだろうか。イージスが自ら下した裏切りという決断。嫌いじゃないよ、そういうの。マクスウェルはそう答えてみせた。
だから、私も可能性を見届けにきた。サヨナラを告げるべきは、不確かなイマか、確実な未来か。そのために、あなたは私の弊害になる。そうです、私はあなたを止めるために来ました。それじゃあ、私たちがすべきことは、ひとつだけってことだね。
オリジンから離れ、スパナを構えたマクスウェル。そして、対するは盾を展開したイージス。邪魔はさせない。これは私がイマの世界に感じた最後の可能性だから。だから、オリジン、私に構わず存分に戦って。もうすぐ、もうすぐあの子が来るから。
そう、マクスウェルは自らを守ることではなく、オリジンに戦わせる選択をした。そのために、イージスの相手を引き受けたマクスウェル。私にとってさ、あなたの戦いは最高に意味のあることなんだ。そしてオリジンの前、現れたのはレプリカだった。
新たな姿へと生まれ変わったルル・ラルラレーロッロ。俺っちにだって、出番を用意してくれんだよな。問いかけた先は神才。うん、もちろん。君たちは、あの子に本気を出させなきゃいけないんだ。そのためにも、戦ってくれるかな。あぁ、任せとけって。そして、双子は対峙したレプリカへと刃を向けるのだった。
対の機体、リリ・ラルラレーロッロ。そうだ、最後にひとつだけお願いがあるんだ。神才は問いかける。そして、リリは「最後」という言葉をあえて聞かないふりをしながら聞き耳を立てた。お願い、ママって呼んでもらえるかな。了解ですよ、マスター。否定されたお願い。だが、それは自律兵器なりの覚悟でもあった。
神才の思うがままに改造を施されたのはイザヨイ:スペシャル。私の趣味につき合わせちゃってごめんね。だが、それでも機械は嬉しそうな電子音を発した。喜んでくれてるなら、本望だよ。それはまるで、赤子の笑顔を喜ぶ母のよう。私は決定者。だけど、最後くらいは、私らしいワガママさせてもらっちゃうからね。
砕かれたエレメンツハートに集積されていた在る戦闘の記録。かつて、偽者の機体は聖王により敗北を知った。だが、人が失敗を糧に成長するように、機械もまた失敗を糧に成長出来る。痛みはいつかきっと、力になる。そう、立ち止まりさえしなければ。そう、諦めさえしなければ。そう、可能性は無限大なのだから。
原初の機体と偽者の機体、そのどちらが正しいか。答えの出ない問。そう、答えなど存在しない。では、どちらが優れているか。答えの出せる問。そう、その答えのために刃を交えるオリジンとレプリカ。勝敗でしか辿り着くことの出来ない運命、喜びにも嘆きにも似た悲鳴。再起動<リブート>、モード:フルバースト。
舞台は調った。私には、この戦いを見届ける義務がある。好奇心を抑えることの出来ないマクスウェル。そして、イージスも感じていたこの戦いが持つ大切な意味。どうやら、私たちは部外者のようですね。そしてふたりはただ静観を始めたのだった。
まずは、君の出番だよ。改造の施されたイザヨイ。対するは、モード:オロチへ再起動したレプリカ。吹き飛ぶ腕と傷つく体。きっと君は勝てない。だけど、君は君の仕事をしてくれた。それだけで私は君と出会えてよかったよ。ありがとう、イザヨイ。
俺っち、我慢するのは得意じゃねーんだ。次に飛び出してきたルル。対するレプリカが再起動したモード:ナユタ。そうさ、俺っちたちは壊し合いをしようじゃねぇか。共に守りを捨てた姿勢。だが、力の差は歴然だった。ひとりで無理しないで。
思わず飛び出してきたリリ。合わせて、モード:ミヤビへと再起動したレプリカ。だが、いくらリリの加勢があれ、レプリカの猛攻を止めることは出来やしない。交錯するたびに傷が増える一対の機体。だが、決してふたりは諦めようとはしなかった。
モード:ホムラへと再起動し、ふたりの相手を続けるレプリカ。だが、それでもまだレプリカは余力を残していた。こうなったら、もう俺っちたちには、ほかの手段はないみたいだな。そう、ルルとリリが成し遂げたかった目的はたったひとつだった。
ふたりに与えられた目的はレプリカの本気を引き出すこと。だからこそ、ふたりはマクスウェルに内緒で、自らの体に改造を施していた。次に再起動されたモード:マブイ。そんなレプリカへと襲い掛かったのは活動を停止したはずのイザヨイだった。
次を止めれば。6番目の姿、モード:カグラへと再起動したレプリカ。すかさずレプリカの左腕にしがみつくルル。右腕にしがみつくリリ。止めて!そう叫んだマクスウェル。ありがとな、母さん。さよなら、ママ。そして、辺りは爆発に包まれた。
ねぇ、聞いて。マクスウェルはイージスへ言葉をかけた。みんなは、私が思っていたよりも成長していたみたい。感じていた可能性。どうしてだろう、私は願ってはいけない結末を願ってしまいそうだよ。だが、マクスウェルはどこか寂しそうだった。
イージスはマクスウェルの言葉の意味を理解していた。予想を超えた成長、それはイマの世界が促した成長。だからこそ、私は最後まで見届けたい。どんな結末が待っていても、私は好奇心を抑えることが出来ないんだ。サヨナラは、すぐそこみたい。
爆発が止んだとき、空に浮いていたのはレプリカだけだった。ついに翼を広げたオリジンはレプリカの前へ。あのときの続きを始めましょう。あなたの本気と私の本気、優劣をつけましょう。対するレプリカの言葉。モード:フルバースト、再起動。
これが、あなたの本気なのね。レプリカ:フルバースト、その姿はまるでかつての聖王のようだった。振り下ろされる大剣、受け止めることなくかわす体。楽しくなってきたわ。いったい、どちらが世界の光になれるかしら。原初と偽者、優劣を求めて。
続く二撃目。あえてかわさず、機械の左翼で受け止めたオリジン。すかさず、光の右翼はレプリカの体を襲う。だが、それを剣を持たぬ腕で受け止めたレプリカ。案外、丈夫に出来てるじゃない。そう、互いに一歩も引かない戦いは始まったばかり。
世界は日々進化する。一歩ずつ、前へと歩いていく。昨日は過去になる。私が歩んできた世界の速度に、あなたはついてこれない。そう、原初の機体が掲げたプライド。戦いの中で更なる進化を遂げるオリジン。その攻撃は、もう私には効かないのよ。
自らプログラムを書き換えるオリジン。そう、次の瞬間の私は、イマの私を越える。そして、その進化は止まらない。進化を繰り返すたび、新たな攻撃を繰り出すオリジン。防戦一方のレプリカ。所詮は偽者、やっぱり優れていたのは私のほうだったわ。
30秒毎、10秒毎、1秒毎に進化し続けるオリジン。私はその行き着く結末を知りたい。そうこぼしたマクスウェル。だが、マクスウェルが知りたい結末はそれだけではない。負けないで。そう、なぜかマクスウェルは優勢のオリジンへ言葉を贈った。
防戦のレプリカ。だが、その目は死んではいない。三本の腕で前方を塞ぎながらオリジンへ。一本。縮まり出した距離。一本。縮まる距離。一本。更に縮まる距離。三本の腕と引き換えに手に入れた射程圏内。そして、剣を握った最後の一本を前へ――。
あなたの願いは届かない。右翼を切り裂き左翼を貫いた大剣。だが、届かなかった剣先。もがれた最後の一本。翼を失い墜ちる二機。あと少しだったのにね。あと一歩、レプリカの想いは届かなかった。―未だ、終わらない。モード:バースト、再起動。
まさか、そんな。最後に選ばれたのはレプリカの始まりでもあるモード:バースト。これがボクの最後だ。レプリカ本人の右手が捉えたオリジンの左頬。オリジンの右手が捉えたレプリカの左頬。倒れた二機。そして、立ち上がったのはレプリカだった。
立ち上がることすらままならないオリジンへと駆け寄ったマクスウェル。そして、そんなマクスウェルを見ることが出来ないオリジン。そう、決された優劣。だけど、私は思うんだ。ふたりがいたから、ふたりは共に成長出来た。これが結末だったんだ。
歩み寄るイージスへ語りかけるマクスウェル。私は好奇心の結末へ辿り着いたよ。イマの世界が、私の限界を超えた。そう、だから世界を創り直す必要なんてなかったんだ。私がサヨナラを言うべきは、イマの世界じゃなくて、新しい世界だったんだね。
魔界に降り立った始祖リリン。さぁ、終わりを始めましょう。だが、そんなリリンを止めるべく、魔界に降り立ったヒカリとユカリ。私たちが生きるイマの世界を、壊させたりしない。こうして、魔界でも世界の終わりをかけた戦いが始まるのだった。
リリンに従う創魔魂と創精魂。その二匹が放つ無数の攻撃。そして、受け止めたのはヒカリでもユカリでもなく、魔参謀長ファティマだった。あなたたちは力を温存してなさい。ここは私たちに任せてもらえるかしら。あなたも――。
――そう思うわよね、ヴィヴィアン。ファティマはひとりじゃなかった。そして、ふたりでもなかった。精参謀長ヴィヴィアンは宣言する。天界も魔界も関係ない。私たちの王が繋いだ手のために、すべてをかけて戦うと。ここにひとつになると誓う。
応ッ!無数の声。そして、我先に飛び出したヒメヅル。私だって、負けないよ。ヒメヅルを追い越したのは真晴隊を引き連れたサニィ。ふたりは舞うかのごとく、創魔魂への活路を開く。聖戦で流れた沢山の涙。だが、沢山の絆も生まれていたのだった。
それじゃあ、こっちは私たちかな。フードを深くかぶりなおしたアカズキン。たち、って、いつも勝手ね。そう言いながら、前へ出たヘレネ。あなたとは、言ってないけど? 生まれたのは小さな日常の笑い。こうして、創精魂への活路は生まれた。
私たちは守りを固めさせてもらう。創魔魂から生まれる沢山の攻撃を弾いてみせたのはムラサメと真蒼隊の隊員たち。そして、こぼれた攻撃を防いだのはレイニィと真雨隊の隊員たち。へぇ、いい顔になったじゃない。ここにもまた、絆は生まれていた。
私たちの女王に、指一本たりとも触れさせやしない。アリスの掛け声と共に、不思議の国の軍勢は盾を構えた。私たちはイマを生きて、そして次への道を作る。アリスと並び、羽衣で攻撃を受け流したオノノコマチ。私たちは死ぬわけにはいかない。
あぁ、いつになく風が泣いている。オレも同感だ、ベイベ。意味不明な隊長ふたり、戸惑う隊員たち。だが、小さな風はやがて大きな風へ。俺たちが、この戦いに風を巻き起こす。オレたちこそ風になるぜ、ベイベ。さぁ、全力で迎撃だ。俺たちの風よ。
いいのよ、あなたは寝ていても。イバラへと声をかけたヨウキヒ。ううん、大丈夫だよ。この戦いが終わったら、いっぱい眠らせてもらうから。それじゃあ、一緒に行きましょう。私たちは、私たちの戦い方をするまで。オヤスミを、あなたにあげる。
ライキリは刀を引き抜き、目前の創魔魂へ剣先を向けた。みんな、僕についてこい。各々に武器を構える真閃隊。そして、構えたのは真眩隊の隊員も同じだった。どうやら俺の部下たちもオマエを認めたみたいだな。隣には嬉しそうなシャイニィがいた。
どうか、勝利の祝福を私たちに。胸元で結ばれた両手、願いを込めたカタリナ。その願い、私たちも混ぜてくれるかしら。カタリナの隣、笑顔のシンデレラ。えぇ、もちろんですとも。だって私たちは、すでに友ですから。それじゃあ、暴れましょう!
言葉ひとつ交わさないムラマサとクラウディ。だが、次第に漏れ出した笑い声。ふふふ。フフフ。ふふふ。フフフ。そして、その笑い声を合図に飛び出したふたり。続く隊員たち。言葉なくとも、ふたりの想いは同じだった。私たちがブっ殺死てあげる。
あなたの友も、帰ってくるといいわね。クレオパトラへ語りかけたカグヤ。大丈夫、きっとアイツなら上手くやってるはず。だから、私も頑張らなくちゃ。そしてふたりは隊員と共に前線へ。私たちの、私たちが生きるイマの為の戦いを始めましょう。
よく逃げ出さなかったじゃねぇか。ナキリが語りかけた先はスノウィ。まっ、これも仕事だからね。目を合わせようともしないスノウィ。んじゃ、足引っ張るんじゃねぇぞ。そっちこそ。不器用なふたり。だが、それでもふたりにも絆は芽生えていた。
あら、遅かったじゃない。シラユキが語りかけた先にいたひとりの美女。エリザベート、ただいま戻りました。私も戦わせてください。彼のため、彼らのために。うん、行ってらっしゃい。そんな彼女の背中を押したのはヴィヴィアンだった。
リリンへ立ち向かう天界、魔界の将と兵。だが、その全勢力をもってしても創魔魂と創精魂の力を抑えるので精一杯だった。あぁ、無力な子供たちよ。嘆くリリン。そんなリリンへ向けられたふたつの攻撃。暇そうなら、私たちの相手してくれるかしら。
ふたつの攻撃の正体、それはファティマとヴィヴィアンによるものだった。そして、その攻撃を動くことなくかき消してみせたリリン。愚かな子供たちよ。なぜ、私に抗う。待っているのは終わりだけだというのに。ただ安らかに、眠ればよいものを。
確かに親は子に試練を与える。そう語りかけながら、攻撃の手を休めることのないヴィヴィアン。だけど、そこには必ず愛情がある。手にしたアロンダイト・シン。たとえ、血が繋がっていなくても。それは、ヴィヴィアンだからこそ伝える想いだった。
だが、そんなヴィヴィアンへ向けられたリリンの攻撃。すかさず止めに入ったファティマ。だが、弾かれてしまったファティマの杖。それじゃ、私も使おうかしら。取り出したのはアポカリプス・レム。私のすべては、この杖を手にしたときに決まった。
かつての聖戦、先の聖戦、そのふたつには意味があった。すべてを経たからこそ、イマのこの戦いが存在している。ふたり並んだファティマとヴィヴィアン。敵対していたはずのふたりは、かの王たちのように、互いに手を取り合っていたのだった。
終わらない争い、倒れ行く体。ただその様子を見守ることしか出来ないヒカリとユカリ。あの子たちに、格好悪い姿は見せられないよ。活気付くヴィヴィアンとファティマ。だが、それでもなお、リリンの体に傷ひとつつけることは出来ないのだった。
ねぇ、ちょっと息があがってるんじゃないの。そう挑発したのはファティマ。そっちこそ、疲れが見えているわよ。そう返したヴィヴィアン。それはふたりが交わした冗談。そして真実。そう、ふたりの体力はもう残り僅かだった。もう、キメないと。
だが、そんな想いだけでどうにかなる相手ではなかった。知っているよ、私たちはあなたに比べたら無力かもしれない。私も知ってるよ、そんなあなたに対抗することが出来るかもしれない力を。いや、かならず対抗出来ると信じてる。そう、彼らなら。
そして、ヒカリとユカリのすぐ側を走り抜けた人影。その正体はデオンだった。お待たせしました。ふふ、やっと来てくれたのね。顔を合わせ、笑顔を浮かべたふたり。それじゃあ、私たちの最後にしましょう。うん、あとは彼らを信じ抜きましょう。
ファティマ、ヴィヴィアン、杖と輪刃に込めた想い。どうか、届いて。放たれた力がかすめたリリンの頬。血を見たのは幾億年ぶりだろうか。褒美に、私から終をくれてやろう。貫かれたふたりの体。かけよるデオン。あなたたちは立派に戦いました。