父は幼き息子を残し姿を消した。父は父の道を進んだ。そこに後悔はあっただろう。だが、そんな父を唯一肯定してあげられるのは他ならぬ息子ただひとりだった。決して過去を否定せず、イマを肯定し、未来を信じる。それが炎の親子の形だった。
これはお守りよ。まだ言葉すら話すことの出来ない幼子に渡されたドライバ。いつかきっと、導いてくれるから。託した願い。そして、その願いは呪いでもあった。そして、幼子は常界のとある夫婦へ。あなたが歩む道に、沢山の幸せがありますように。
ひとりは永遠に子供だった。ひとりは永遠に子供のままではいられなかった。止まった刻と、止まらない刻。だが、ふたりが過ごした刻は永遠だった。だからね、私には嬉しいこともあるんだ。だってユカリのこと、永遠にだいすきでいられるんだもん。
僕は君で、君は僕。そこにいたのは幼き日にすれ違った双子。そして、そんな双子を再び結びつけたひとりの少女。傘に三人は入れない。だから私はずっとひとりでいいの。だって、最高の現世だったんだから。それにほら、もう、傘は必要ないんだよ。
常界への帰還を果たしたアカネたちを待っていたのは、瓦礫の山へと果てた光景だった。そして、そんなアカネたちに歩み寄るレディ。すでに各地で戦いは始まっています。そう、イマの統合世界の存亡をかけた戦い。だけど、私たちはひとりじゃない。
私の剣が、少しでも力になれば。レディと共にいた誠を背負いしムミョウガタナ。そしてアイスブランド。俺は君たちの力を知っている。だから、ここは俺たちに任せて欲しい。それとね、君たちの力になれるのは、決して俺たちだけじゃないんだから。
そして、優しくアカネたちを迎え入れたヤシロ。そんなアカネたちを襲う六つの力。あまりのんびりしている時間はないようですね。それでは、行きましょうか。きっと大丈夫、ここには彼らもいるんですから。さぁ、神々を冒涜するお時間です。
現れた六つの力、その力のひとつであるフェルノ。俺たちは決して強くない、だけどな、俺たちにだって意地があるんだ。立ち向かうアイン。俺たちは変われた。そしてフェルノへ突き出す拳。だから、オマエらも現実から逃げ出してんじゃねぇよ。
シュトロムと対峙したツヴァイ。すべてを洗い流すことなんて出来ない。僕は僕を受け入れた。そして、始まったんだ。そんな世界を、君たちに壊させるわけにはいかない。いっぱい、あるんだ。行きたい場所、話したいこと。だから、君は僕が止める。
私たちはひとりじゃない。ナンバーズの仲間と共に立ち向かうドライ。対峙するのはクロン。そんな偽りの風は、私には通じない。だって、私はもっと強い風の力を知ってる。だから、あなたなんかに負けたりはしない。かかってきなさい、私が相手よ。
フィアにはわかっていた。対峙したトニングが捨てられることを。だから、私はあなたを放っておくことは出来ない。それは、一度は捨てられたフィアだから。そして、もう一度立ち上がることの出来たフィアだからこその想いだった。全力で止めます。
クホールが生み出した闇の中、立っていたのはフュンフだった。あなたの心は泣いてる。そして、夜へと逃げ込んだのね。だからってさ、みんなを巻き込むのは間違ってるよ。そんなの子供のすること。夜の果てには光が差す。それを私が教えてあげる。
ダストと対峙したゼクス。あぁ、俺は世界のゴミだった。だけどな、そんなゴミにも居場所はあったんだ。でもな、俺はあんたみたいなゴミは嫌いだ。現実から逃げてんなよ。ゴミでも、ゴミらしく、輝いてみせろって。まだ、間に合うんだからさ。
へぇ、案外踏ん張ってんじゃん。雷鳴と共に常界に現れたイヴァン。だけど、滑稽だね、下等な生き物が必死になってんのは。指先を天に掲げるだけで、雷鳴が轟く。ほら、誰もアタシの指先ひとつに敵いやしないのにさ。ほーらほら、抵抗しなさい。
まったく、趣味が悪い人だ。イヴァンと共に現れたテンゲンとタシン。なに言ってんのよ、アタシらに与えられた仕事は常界を恐怖へと陥れること。そして、少しでも抵抗させることなんだから。せっかくなんだからさ、派手に暴れちゃいましょうって。
アインたちと抗戦するフェルノたち。まぁまぁ、私たちの出番は、彼らが失敗したときでいいじゃないですか。どうせ、彼らは使い捨てなんですから。高みの見物を続けるイヴァンたち。だが、そんな彼女らに一陣の風が。アンタらにお届け者です。
突然のジンソクの登場に驚きを隠せないイヴァンたち。っていうかさ、早くハンコくんないかな。重いんだよね、この荷物。ジンソクが担いでいた大きなふたつの袋。あー、もう無理!お前ら、早く降りやがれって!送料払え!こっちも商売なんだ。
そして、ジンソクが放り投げた袋は突き破られた。配達、どうもありがとな。姿を現した人影。よぉ、俺のこと忘れたとは言わせないぜ。一連の出来事にあっけにとられるイヴァンたち。そう、袋に潜んでいたのはショクミョウ。久しぶりだな、元同僚。
キマった、とでも言いたげな自信満々のショクミョウの表情。この俺が、道を間違えたオマエらの相手をしてやるよ。魂を燃やす男、ショクミョウ。そして、そんなショクミョウを、袋から頭だけ出した半目のままのサフェスが優しく見守っていた。
アンタら、あの塔で瓦礫の下敷きになったんじゃないの。フッ、俺たちは大いなる力を得たんだ。多くを語ろうとしないショクミョウ。俺たちを避難させたのはイージスだ。あっさりと答えを話したのは、大きな袋を脱ぎ捨てたばかりのサフェスだった。
んじゃ、俺は次の仕事があるから。そう言い残し、あっさりと姿を消したジンソク。それじゃあ、始めようぜ。ショクミョウのスイッチは入りっぱなしだった。貴様らは選択を誤った。俺たちについてくればよかったものを。それが賢い生き方なのにな。
私はいったん避難します。その場を離れようとしたタシン。だが、そんなタシンの背後に音もなく現れたサフェス。言葉を発することもなく、タシンの意識は失われた。アンタは、初めから裏切ってたのよね。怒りを露にしたのはイヴァンだった。
サフェスへと落ちる無数の雷。アンタの水と、アタシの雷、どっちが有利かは説明の必要もないわね。それは、当たったらの話だ。口を開いたサフェスは無数の雷をすべてかわしてみせた。もうっ、ウロチョロするんじゃないわよ、このチビ野郎。
その言葉にサフェスが反応を示したのかどうかはわからない。だが、次の瞬間、サフェスが放つ無数の水色の光の玉がイヴァンを取り囲んでいた。そして、そのすべてがイヴァンを襲う。時を同じくして、テンゲンもまた地に膝をついていたのだった。
ここはどこなんだろうか。真っ暗な空を見上げた傷だらけのギルガメッシュ。その後ろ、真っ暗な地面を見つめていたエンキドゥ。お前は私が間違っていたと言いたいのだろうか。ギルガメッシュは問う。だが、その問いにエンキドゥは答えなかった。
懐かしいな、こうしてお前とふたりきりになるのは。かつて、神界はいくつもの世界に分かれていた。そして、神界統一戦争の果てに、北欧の神々が神界の統治者となった。お前が奴らに従うなんて考えたくなかった。だが、その問いの答えもなかった。
そして、答えのないまま返ってきた問い。なぜ人間に加担する。それは、ギルガメッシュの体に流れる半分の人間の血を知ったうえでの問い。私は可能性を見出した。彼らなら、この幾度となく繰り返されてきた崩壊を、止められるんじゃないか、って。
その加担が、なにを意味するかを知ってのうえで、だな。その問いで察したギルガメッシュ。まさか、こんな優しさをもらうだなんて、考えてなかった。エンキドゥはただ、ギルガメッシュを止めたかった。俺はいまでも君のことを、友だと思っている。
ありがとう。その言葉に嘘偽りはない。だったら、友として、私のことを見送って欲しい。私は私で選択したんだ、イマの世界で生きると。沢山の人間に出会った。彼らは弱い。ひとりではなにも出来ない。だけど、それでも決して諦めたりしないんだ。
だから私は、あの日戦いに敗れ、諦めてしまった私の続きを生きたいと思う。ギルガメッシュの心は決まっていた。たとえ神界に歯向かい、処刑されることになったとしても後悔はしないと。私はもう十分に生きた。だから、最後は人として生きたい。
それでも行くというのなら。立ち上がったエンキドゥ。俺にその覚悟を見せてみろ。掛け声とともに現れる無数の獣たち。今度は油断したりはしない。立ち上がり、無数のドライバを構えたギルガメッシュ。それじゃあ、ケンカを始めよう。子供の様に。
無数に飛び交う刃と咆哮。生まれては散りゆく無数の欠片。だが、ギルガメッシュは楽しそうだった。世界が大変だっていうのに、私たちはいったいなにをしているんだろうな。そして、それはエンキドゥも同じだった。これが俺たちらしい最後なんだ。
互いの体を傷つけることなく、欠片たちが散りゆく戦い。だが、その戦いも時間が経つにつれ、無数と思われていた刃も獣も減少していく。そして、初めてエンキドゥの頬に届いたのはギルガメッシュの拳。ふたりとも、体力の限界が近づいていた。
お互いの体ひとつでぶつかり合うふたり。その姿は、まるで武器を持たない人間のようだった。そして、時を同じくして地面へと倒れたふたり。口を開いたエンキドゥ。ようやくわかったよ、君が決めた道の意味が。私だけじゃないさ、共に行くんだ。
クロノスが単独で攻め入った神界。だが、すでにクロノスは刻命神により別の空間に隔離されていた。そして、それこそがクロノスの狙いでもあった。私がここに隔離された以上、あなたたちもここから出ることは出来ない。そう、互いに倒れるまでは。
私たち3人を相手に、いったいいつまで持つのかしら。ウルドが払った剣先がクロノスの頬を掠める。それは、あなたたちが3人がかりでないと、私のことを止められないのと同義ね。クロノスがみせた余裕。私は私の、止めていた刻を動かすまでよ。
隔離された刻の空間。その空間には現在、過去、未来、そのすべてが混在していた。それは即ち、世界の理から外れた空間。誰にも気づかれることのない戦い。いいさ、私は誰に観測されなくとも。そう、クロノスは自らの役割を嘆きはしなかった。
イマの世界を選択するなど、それは歩みを止めるのと同義だ。ベルダンディはその意味を誰よりも理解していた。それも、人間共に託すなど笑止千万。あぁ、私たちからしたら、彼らのイマなど、一瞬の出来事だろう。そして、クロノスは笑ってみせた。
だがな、その一瞬を彼らは生きている。私たちに頼らずとも、その一瞬の中で、よりよい未来へと歩き続けている。そんな彼らの想いを、私たちの意思で制していいのだろうか。いや、そんな権利など私たちにはないんだ。そうさ、神話の世界へ帰ろう。
私たちがいたからこそ、人間は生まれた。だから、彼らの未来を私たちが決めるのは当然のことだ。そんなウルドの言葉を否定するクロノス。それはすでに過去の話さ。そんな昔話に固執するなんて、お前らしいな。だから私たちは、変われないんだ。
私たちが決められた未来へと導く。そんなスクルドを否定するクロノス。未来には可能性があるんだ。決してひとつじゃない。力と力がぶつかり合うと同時に、想いと想いはぶつかり合う。ならば、次の一撃でどちらが正しいか、決するとでもしようか。
一列に並んだ刻命神。対して、ひとりで立ち向かうクロノス。誰も知らない、誰も気づかない空間で行われた戦い。刻命神の三つの針が重なり、現れた大きな時計の盤面にも似た魔法陣。さぁ、私たちの刻の波に飲まれるがいい。ならば私はその刻の―。
終わりを観測しよう。クロノスの周囲に現れた無数の時計。そのすべてが0時を指し示したとき、戦いは終わりを迎えた。これで、私はよかったのだ。壊れた刻の空間から空へと投げ出された4人の体。いいや、アンタだけは、まだ堕ちちゃいけない。
クロノスの体を受け止めた腕。それはグリュプスの両腕だった。だが、瞳を開けることのないクロノス。いいさ、少しだけ眠ってな、オレが連れてってやるから。さぁ、終わりを観測するんだ。アンタが観測したかった終わりは、アイツらの勝利だろ。
緊急事態発生、緊急事態発生。幸せの白兎研究所に鳴り響いた避難警告。現れた六人の画神たち。ここを潰せば、ディバインゲートの干渉は完全になる。そう、いまもなお被害を最小限に食い止めていたのはレプリカが稼動し続けていたからだった。
俺が滅すべき相手は、すでにこの世にはいないみたいだな。だが、そんなレオナルドの正面に自律兵器が立ち塞がっていた。私ニハ、彼ノ血ガ流レテイマス。かつて、炎才が提出した偽りのレポート。そして生まれたカゲロウ。ダカラ、私ガ戦イマス。
ガラクタ風情が、神の力を持つ俺たちに楯突くなどありえない。レオナルドが振るう筆。体の自由を奪われたカゲロウ。口ほどにもない。一歩たりとも動くことが出来ないのは、動くという未来が塗り変えられたから。それじゃあ、腕から潰してこうか。
ガシャン―。地に落ちたカゲロウの左翼の腕。まるで血飛沫のように流れだす燃料。だが、それでもカゲロウは膝をつこうとしなかった。残念デスネ、私ニ痛覚ハ実装サレテイマセン。だったら、粉々になるまで潰すだけだ。レオナルドは歩み寄る。
コノ時ヲ待ッテタ。ふいに動き出したカゲロウはレオナルドを羽交い締めに。なぜ動ける。アナタガ塗リ変エタノハ、私ノ望ンダ未来。ダカラ私ハ望マナカッタ未来ヲ選択スル。アリガト、アカネ、オ父サン。小さな爆発、それがカゲロウの最期だった。
久しぶりだね、先輩。マルクが詰め寄ったのは、そんなマルクに反応を示さず、ただモニターに文字列を打ち続けるシュレディンガーだった。ねぇ、僕のこと無視しないでよ。すでに、シュレディンガーの戦意は喪失されていた。先輩はお人形さんだね。
なら僕がお友達を用意してあげる。マルクの筆先が生み出す無数の化け物。お人形遊びをしよう。だが、それですら興味を示さないシュレディンガー。もう、怒っちゃうよ。だが、シュレディンガーの顔を覗きこむと同時に、マルクの表情は曇り出す。
まさか、君が打ち込んでいたコードは。だが、マルクが気づいたときにはすでに遅かった。直後、昂揚したシュレディンガーが力いっぱいに叩いたエンターキー。モニターに映し出されていたコードは、散ったはずの初恋へと。サミダレ:グスク、起動。
私たちの邪魔をしないでくれ。ついに言葉を発したシュレディンガー。そして、マルクの目の前に立ち塞がったサミダレ:グスク。私は初恋に恋焦がれ、初恋を求めた。そうさ、初恋は永遠の思い出。辿られたのは蒼のクリスマスの日の記憶だけだった。
あの日のアリトンとの交戦、シュレディンガーが追い求めて、一度は散った初恋。そして、再び見つけた思い出の中の初恋。この機体があなたに負けるはずがない。マルクを襲うサミダレ:グスクの刃。そんな……、僕がこんなところで……嘘だァ……!
自分のことを語らず、引き続き研究所に籍をおいていたラプラス。どうしてあなたが人間の味方をしているのかしら。問いかけたフィンセント。それをあなたに話して、なにか変わるのかな。返された言葉。苛立つフィンセント。私たちは同類なのに。
かつて天界は神々と通じ、そして排除された「都合の良い犠牲」という存在たち。私は天界を憎んでいた。創りモノの翼を広げたラプラス。そして、いまも憎んでいる。そう、ラプラスの気持ちは変わってはいない。だけど、もっと憎むべき存在がいた。
そう、それがあなたたちよ。ラプラスの翼から生まれた悲しみの風。だから、私はあなたたちが嫌がることをする。それがいまの私のすべて。フィンセントが放った弾丸は風に逆らい飛んでいく。私は失言した。あなたは、私と同類なんかじゃない。
少なくとも、神へ縋り、神の血を頼ったあなたとは同類じゃないわね。一度は偽りの神へと縋ろうとしたラプラス。だが、彼女は最後まで妖精として生きる道を選んだ。だから、私の意地をみせてあげるわよ。排除されるほどの、私の狂気をね。
ラプラスに直撃した無数の弾丸。ちっとも痛くないわ。どうして。帰るべき場所を失った心に比べたら、ちっとも痛くないって言ってんの。ラプラスが塗り変えられた未来に逆らえた理由もまた、望まない未来を選択したからだった。みんな、元気でね。
あなたが最期に見たいのは、きっと幸せな光景よね。クロードが振るう筆。みんな、逃げるぴょん。妹と助手を逃がすことで精一杯のカルネアデスが捕らわれた花園。知っているかしら、白い兎が逃げ込んだ小さな穴を。それがどこへ繋がっているかを。
カルネアデスを襲ういくつもの幻想。まるであなたは少女のよう。幼き日の幸せを、思い出させてあげるわ。そして、いつまでも幼き日という永遠に閉じ込められたらいい。それがきっと、あなたが本当に望んでいた争いのない幸せな世界なんだから。
人はね、みんな幸せな世界に生まれるの。そして歳をとり、知恵をつけ、汚い世界を知る。そして、幸せを願うようになる。だけど、そんなの無理よ。だって、歳をとることは、幸せから一番遠ざかることなんだから。さぁ、そろそろ永遠におやすみ。
瞳を閉じたカルネアデスの精神は永遠の夢の中へと。ねーね!所長!届くことのない妹と助手の声。だが、瞳を閉じたままのカルネアデスの口角は上がっていた。どうして。焦り始めるクロード。そして開かれた唇。私は世界を半分に分けて考えてた。
クロードが見せた幸せな未来の世界。その世界の中へ行ったのは右目が見つめていた幸せ。あっちに行ったのは私の半分だけ。もう半分の私はここにいる。外した義眼型ドライバ、開いていた左目。そう、あなたに悲しみを与え、そして見届けてあげる。
私の相手はいないようですね。退屈そうに髭を撫でたサルバドール。そんなサルバドールの背後から聞こえた足音。皆様、いままで本当に申し訳ございませんでした。振り返ったサルバドールの瞳に映ったひとりの男。聖暦の闇才、ただいま戻りました!
懐かしい顔だ、これで退屈は満たされる。見詰め合うふたりの妖精。私は過ちを犯した。だが、こんな私でも、帰りを待ってくれている人がいた。だから今度はそんな人たちの力になりたい。大きな聖戦の中の、小さなひとつの戦いはヘンペルを変えた。
それじゃあ、さっさと裏切り者を始末しようか。未来を描き変えることの出来るサルバドール。だが、そのサルバドールはヘンペルを前に立ち尽くしていた。なぜだ、なぜ私の力が効かない。そう、サルバドールは知らなかった。ヘンペルの命の秘密を。
サルバドールへとにじり寄るヘンペルの少しはだけた胸元。光輝いていたのは義臓型ドライバ。そうか、そういうことだったのか。だが、サルバドールがヘンペルの命の秘密に気づいたときには、すでに手遅れだった。私は聖暦の天才と呼ばれたが―。
よく頭の悪い天才と言われたものだ。さらににじり寄るヘンペル。その昔、私は自らの心臓を失くした。だから私は、死者も同然。死者に未来など存在しない、描き変えることなど、出来やしないのだよ。こうして、争うことなく戦いは終わりを迎えた。
そこを、どくです。メビウスが守っていたのはレプリカに繋がれたメインコンピューター。だめだよ、それだけは出来ない。だったら、どかすだけです。パブロが振るう筆に合わせて、メビウスの真下に現れた大きな穴。逃げることは、出来ぬのです。
この子には、まだ役目があるんだから。必死に対抗するメビウス。その役目が、厄介なんです。原初の機体を元に創られたレプリカ。そして、様々な経験を経て、レプリカは偽者でありながら、オリジンを凌駕した。ここで、ぶっ壊させてもらうです。
この子を壊すというのなら、まずは私を壊してからにして。血の繋がらない魔物と機械。だが、芽生えていた親心。この子は私の大切な子供よ。子供を守ることの出来ない親なんて、親を名乗る資格はない。そして、メビウスは義耳型ドライバを外した。
もう私は怖がったりしない。イマなら、きっと聞こえるから。そう、ディバインゲートが干渉し始めた世界、メビウスの耳に届く未来の声。あなたが未来を塗り変えるのなら、私はその先の未来を聞くだけ。未来に干渉出来るのは、あなただけじゃない!
パブロが未来を塗り変え、そしてその先の未来へと動くメビウス。決着のつかないふたりの戦い。こうなったら体力勝負です。だが、そんなパブロを背後から制したヘンペル。あなたたちは、なに遊んでいるんですか。……ありがとう、お帰りなさい。
この姿、みんなには見られたくなかったんだ。ドロシーの瞳の形は変わる。ごめんね、私は嘘をついていた。私がもう一度戦うには、これ以外の方法はなかったから。馬鹿な真似をしたものね。だが、言葉とは裏腹にたじろぐ古詛竜。そう、私はもう普通の人じゃない。生死の淵から帰ってきた体には竜の血が流れていた。
画神の襲撃を退けた聖暦の天才たち。だが、すでに天才たちの戦力の大半は失われていた。それじゃあ、最後の仕上げといきましょうか。現れたベオウルフ。まずは、裏切り者の君から。飼いならされた竜が襲う堕闇卿。少し遊んであげてください。異なる竜が襲う生まれたての自律兵器。命乞いするなら、いまだけだよ。
かつての神竜戦争、そして敗者である竜界が受け入れざるを得なかったのは、牽制という目的で綴られた火竜。だが、その役目を彼は知らされていなかった。そして、その事実を知るものはごく一部。ふつうの竜のように歳を重ねたオズ。だから、ボクはずっと楽しみだったんだよ。キミがその運命にどう抗い生きるのか。
そろそろ、来る頃だと思ってた。ここは空なのか、宇宙なのか、地上なのか。右も左も上も下もわからない不可思議な空間で、静かに刻を眺めていたウラノス。そして、そんな彼に対する来訪者は、彼と同じくフェイスペイントが施された男。俺はオマエに力を与えた。そして、その意味がようやく果たされる刻さ。
俺はあなたに感謝しています。天空神ウラノスへ頭を下げた来訪者、創竜神。あなたが俺を選んでくれた、だから俺はふたりの友を守ることが出来た。そして今度は、そんなふたりが手をとり共に歩き始めたイマを守りたい。だからどうか、俺に力を貸して欲しいんです。返された言葉。俺に神界を裏切れ、ってことか。
綴られた存在。だが、そこには確かに命が存在していた。過ごした時間が存在していた。なぜ、僕に力を与えてくれなかったのでしょうか。嘆き。憂い。だが、その感情が突き動かした心。そう、僕は道化竜。だから、最後まで道化を演じるだけです。
感動の再会はそこまでです。研究所に現れたベオウルフ。彼らもよく頑張ってくれましたよ。その言葉は横たわった画神たちへと。それでは、二回戦を始めましょうか。その体で、いったいいつまで持つでしょうか。本当は回収したかったのですが――。
――壊してしまいましょう。殲滅対象、研究所及び、レプリカ。さぁ、存分に暴れるがいい。飛来した5つの影。先陣をきって炎を撒き散らしたのは、すでに自我の失われたデラト。竜を手なずけるのは、やはり楽しいものだ。パーティーを始めようか。
デラトに続き現れたアング。そしてアングもまた、自我は失われていた。君たちの残りの体力で、いったいいつまで持つだろうか。そう、先の戦いで研究所の戦力は半減していた。命乞いの時間は終わったんだ。ただ這い蹲り、己の無力さを嘆くがいい。
ラブーもまた、自我は失われていた。そして、ただ滅びゆく現状に涙を流す。どうか来世は愛に包まれますように。涙すら流さないように、決して苦しむことのないように、逝かせてあげるから。安らかな死、それこそが彼女の愛の形の最終形だった。
一方、世界の悲しみを叫び続けるサッド。どうして自分がこうなってしまったのか、いまとなっては考える思考回路すら残されてはいない。だが、それでもサッドは本質的に感じていた。いま世界を襲う悲しみこそ、イマの世界における最後の悲しみと。
憎しみにとらわれたヘート。引きずりだすことすら出来なくなった生体管理チップ。憎むべきは己か世界か。だが、そんなことはいまのヘートにとってはどうでもよかった。憎しみの答えにすら興味を示さず、ただ目の前の獲物を狩りたいだけだった。
ベオウルフと特務竜隊を前に、抵抗すらままならない残された天才たち。壊れ行く研究設備と、失われゆく血。だが、そんな形勢を逆転させる一太刀。僕は君たちを竜だとは認めない。そう、研究所に現れたのは竜の血を誇りに思うリヴィアだった。
怪我人が出てきたところで、なにも変わりやしないよ。リヴィアをあざ笑ってみせたベオウルフ。それでも、君たちくらいの相手なら、いまの僕でも十分だよ。僕を昔の僕だと思わないでね。リヴィアがみせた自信。僕は決して鍛練を怠りはしなかった。
リヴィアへと襲いかかる5匹の竜。炎や、爪、牙、すべてをかわしながら、軽やかに抗戦してみせるリヴィア。僕にはなさなきゃならないことがある。だから、こんな場所で終わるわけにはいかないんだ。君らにみせてあげる、古竜衆の意地ってやつを。
鞘から引き抜かれたリヴァイアサン。この竜刀をもって、竜を制し、竜の威厳を示させてもらう。右への太刀。引き裂かれるは炎。前への太刀。飛沫へと散る水。左への太刀。終わる愛。後への太刀。途絶えた悲しみ。そして上への太刀。憎しみは終へ。
横たわった5匹の竜。響いたのは乾いた拍手。おめでとう、君は彼らに勝利した。だが、劣勢のはずのベオウルフの表情が曇ることはなかった。それじゃあ、三回戦を始めようか。再び起き上がる5匹の竜。どうして。彼らの痛覚を、遮断しただけさ。
何度切られようと、再び立ち上がり、リヴィアへと襲いかかる5匹の竜。ほら、逃げてばかりいたら、決着はつかないよ。ベオウルフは高みの見物。徐々に消耗されるリヴィアの体力。君はひとつのミスすら、許されないのだから。必死に足掻けばいい。
疲れを感じることのない5匹の竜と、怪我が完治してはいない1匹の竜。どちらが有利かは一目瞭然。そして、リヴィアの足を捉えたアングの刃と、腕を捉えたヘートの刃。退屈な三回戦だったけど――。直後、ベオウルフは背後に殺気を感じていた。
俺の弟を、随分と可愛がってくれたみたいじゃないか。ヒスイが振るう棍。自由を取り戻したリヴィアの体。いつも裏でこそこそしやがって、俺はオマエみたいなヤツが大嫌いだ。ヒスイはベオウルフを睨みつけた。あのときも、オマエの仕業なんだろ。
そんな古い話は忘れたよ。かつての聖戦、魔王に敗北を与えた部外者の一刺し。それに、もう過去に興味はないんだ。ベオウルフが見つめていたのは生まれ変わる世界。だが、丁度よかった。俺も狩り忘れた首があってな。それだけが心残りだったんだ。
ベオウルフの合図、ヒスイを襲う飼いならされた竜型ドライバ。そのすべてを言葉を発することなく叩き潰すヒスイ。そして一歩一歩、ベオウルフへと歩み寄る。だが、再びヒスイを襲うドライバ。そして、やはりそのすべては叩き潰されたのだった。
な、なぜなんだ。顔を歪めたベオウルフ。そして、ベオウルフに顔を近づけながら言葉を発したヒスイ。だから言ったろ、俺はオマエみたいなヤツが大嫌いなんだ。ヒスイの棍が貫いたベオウルフの体。あの世で一生、あの日のあいつらに詫び続けろ。
果てたベオウルフ。だが、まだ終わりではなかった。再び起き上がる特務竜隊。そして、研究室の各所に爆発が起きる。もう、この研究所は持たない。そして、メビウスが下した決断。どうか、私たちを守って。レプリカ:フルバーストモード、再起動。
それじゃあ、俺たちは次の戦いへ行くとしようか。ヒスイが差し出した掌はリヴィアへと。そして、リヴィアはその掌が嬉しかった。ふたりの間に多くの言葉はない。だが、リヴィアはヒスイに必要とされた。それがリヴィアは嬉しかったのだった。
先に次の戦場へと向かったヒスイとリヴィア。それじゃあ、あなたも行ってらっしゃい。そして特務竜隊を殲滅したレプリカもまた、次の戦場へ。だけど、あの姿ってまるで。そう、あの子には、彼との記憶もある。彼があの子に与えた、敗北の記憶が。