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正義の反対がまた別の正義なら、正しさなんて存在しないと思うんだ。それは議論されつくした理論。だからね、私が正解をあげようと思うんだ。それは、神故の発想。だって、神様は王様よりも偉いんだから。神才は、下位なる争いを見下ろしていた。
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ねぇ、君はどっちに憧れたのかな。神才は俯いた王に語りかける。照りつける太陽かな。それとも、照らし出すお月様かな。答えることのない王。この世界はね、君が愛するに値しないと思うんだ。それにさ、君に流れる血は、人間だけじゃないよね。
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僕の王様に、ちょっかいを出さないでくれないかな。神才を遮ったのは悪戯神。彼はね、僕という神の存在証明なんだよ。民は王に縋り、王は神に縋る。そう、だから彼は、僕に縋ってくれさえすればいい。だって僕がいなきゃ、生きられないんだから。
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そういうことだったんだね。マクスウェルがはじき出した答え。なぜ、聖なる扉<ディバインゲート>が開かれたのか。なぜ、再創<リメイク>する力を持っているのか。でもね、私に解けない数式はないよ。神才と呼ばれた少女は計算を続ける。世界が本当に必要としてるのは、神様なのかな。それとも、王様なのかな。
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彼の為に僕が存在するように、僕の為に彼が存在するんだ。だが、神才はそれを否定した。だってさ、彼は王である前に。続く言葉を遮る悪戯神。それは、僕達が決めることじゃない、彼が決めることだよ。だから彼に、愛した世界を見せてあげようよ。
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だからって、それはあんまりなんじゃないかな。神才は口を尖らせる。だって、君が見せようとしているのは。そんなことないよ、これは僕からの贈り物さ。そして見上げた空。きっと彼は、大いなる希望を届けてくれる。だから僕が、大いなる――。
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トゥーン、トゥーン、ヨットゥーン。マクスウェルは新しい鼻歌を口ずさんでいた。やぁ、準備はどうだい。そんなマクスウェルに声をかけたロキ。うん、結構かなり大分ほどほど良い感じだよ。だけど、そっちは大丈夫かな。随分、劣勢みたいだけど。
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わぁ、なんか知ってる顔がいるよ。決定者のひとりとして紹介されたのは神才マクスウェル。そして、彼女の翼として少し後ろで寄り添うように浮かんでいたオリジン。彼女がいるからこそ、この世界には科学が溢れ、そして発展していったんだよ。
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すべては神のみぞ知る。そうさ、私は全部知ってるし、人間は全部知らないの。余裕の笑みを浮かべた左側の面。どうして右側の面が泣いてるのかって。単純で簡単な疑問。そんなの、デザインバランスに決まってるじゃん。神才はいつもの神才だった。
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もぉ、勝手にデザインいじらないでよね。マクスウェルは口を尖らせながらもオリジナルデザインのパーカーに袖を通した。うんうん。鏡の前、満足げな笑顔。神のみぞ知る、いい言葉だ。そして、神才は勝手にいじられたデザインのもうひとつに気がつく。神はキミを愛してる、って、本当に君は趣味が悪いんだから。
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常界の様子を見つめていたのは、神界のロキとマクスウェル。これで、この世界は終わるんだね。少し感傷的なマクスウェル。なにか言いたげな顔だね。問いかけるマクスウェル。そうだね、私は伝えなきゃいけない。サヨナラを、言いに行きたいんだ。
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それじゃあ、連れて行ってくれるかな。マクスウェルを乗せたオリジンが向かった先は常界。わざわざ私たちが出向く必要もないと思いますが。少し苛立つオリジン。私はずっと、好奇心を信じて生きてきた。だから、生まれた好奇心を大切にしたい。
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だが、マクスウェルはとある言葉を口にしていた。サヨナラを言いに行きたいと。その言葉は、いったい誰に向けられるのか。その言葉に、どんな意味があるのか。そして、普段みせることのない真剣な表情を浮かべ、常界へと降り立とうとしていた。
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壊さなくてもよいのでしょうか。オリジンが抱いた疑問。それは私じゃなくても、誰かがしてくれる。だから、私たちにしか出来ないことをしよう。私たちが見る可能性の結末。だから、私たちの邪魔しないで。マクスウェルは目前の瞳を睨みつけた。
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だから、私も可能性を見届けにきた。サヨナラを告げるべきは、不確かなイマか、確実な未来か。そのために、あなたは私の弊害になる。そうです、私はあなたを止めるために来ました。それじゃあ、私たちがすべきことは、ひとつだけってことだね。
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オリジンから離れ、スパナを構えたマクスウェル。そして、対するは盾を展開したイージス。邪魔はさせない。これは私がイマの世界に感じた最後の可能性だから。だから、オリジン、私に構わず存分に戦って。もうすぐ、もうすぐあの子が来るから。
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舞台は調った。私には、この戦いを見届ける義務がある。好奇心を抑えることの出来ないマクスウェル。そして、イージスも感じていたこの戦いが持つ大切な意味。どうやら、私たちは部外者のようですね。そしてふたりはただ静観を始めたのだった。
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ねぇ、聞いて。マクスウェルはイージスへ言葉をかけた。みんなは、私が思っていたよりも成長していたみたい。感じていた可能性。どうしてだろう、私は願ってはいけない結末を願ってしまいそうだよ。だが、マクスウェルはどこか寂しそうだった。
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立ち上がることすらままならないオリジンへと駆け寄ったマクスウェル。そして、そんなマクスウェルを見ることが出来ないオリジン。そう、決された優劣。だけど、私は思うんだ。ふたりがいたから、ふたりは共に成長出来た。これが結末だったんだ。
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あるよ、ひとつだけ方法が。かすかに生まれた希望。もしそれを、彼が望んだら、だけど。そう、選んだ不確かなイマの世界に「完全」などという言葉は存在しない。やっぱり、最後は彼に委ねるしかないんだ。だから、彼の好きにさせてあげなよ。
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とある町工場に、なんでも直せる天才がいるという噂が流れていた。そんな噂を気にもせず、マクスウェルはココアを飲みながら、楽しそうにメールを書いていた。