あの日の私たちの王様は正しかった。私はこの戦争に勝って、それを証明する。そして、いまの彼は間違っていると証明する。今も昔も、ファティマの心はかつての魔王の姿に縛られていた。だから、鞘を探していたのね。ヴィヴィアンはそっと呟いた。
ファティマが鞘の力を使い、再生させたかったのは、かつての魔王そのものだった。だが、それを待たずして蘇った堕魔王。そして、そのヴラドの体も、命も、すべて仮初に過ぎなかった。私の手で、彼を蘇らせるのよ。そう、気高き魔界の王として。
だとしたら、やっぱり負けるわけにはいかないね。ヴィヴィアンはファティマの理想を否定した。いつかは、こうなるってわかってた。だけどね、私にもね守らなきゃいけない子たちが沢山いるの。だから、いまこそすべての因果を断ち切らせてもらう。
もし魔界が敗北し、今度こそ完全なる敗北が訪れたら。それは、統合世界における古から続く争いの終結であり、平穏へと繋がる。だから、私達にけしかけさせたのね。ヴィヴィアンの無言が意味した肯定。きっと、あの日の彼もそれを望んでいたから。
開かれたのは王の間の扉。一歩ずつ、一歩ずつ、響き渡る足音。うつむくことなく、ただ真っ直ぐに前を見つめ、紫色のストールだけが揺れる。久しぶりね。うん、久しぶり。こうして、ふたりの女王の再会は、ひとしれず静かに果たされたのだった。
単刀直入に言うわ、いますぐ負けを認めなさい。ヒカリを見つめる視線。断るわ。ユカリを見つめる視線。交わったふたつの視線の間に生まれる緊張。言葉で分かり合えないのなら、することはひとつしかないわね。ユカリは大鎌を構えるのだった。
私はユカリちゃんの本当の想いを知りたいの。ヒカリが取り出した大剣。私の想いなんて、私の中には存在しない。そう、私の中に存在するのは、女王としての想いだけよ。ユカリを締め付けるのは、大好きだったひとりの小さな女王の想いだった。
私は女王として、いまここにいる。それなら、私も同じだよ。そこにいたのはまぎれもなく、幼いながらも、女王としての責務を全うしようとするふたりの女王だった。だから、お互いのすべてをかけて争いましょう。どちらの女王が、正しいのかを。
その大口、いつまで叩けるかな。マダナイの研がれた爪が狙う首。余計な仕事を増やさないでくれ。スフィアが奪った手足の自由。食べちゃっていいよ。手綱を離したシャルラ。さぁ、我々は進みましょう。ロプトはロキの進むべき道を示すのだった。
さすがの竜神も、これだけの数が相手じゃ惨めなものだね。だが、それでも立ち上がるヒスイ。だから、誰も邪魔するんじゃねぇって。なに言ってるんだい、邪魔をしているのは君じゃないか。そうだよ、これも世界の決定のひとつなんだから。
誰が世界を決めるのか、それは個の意志であり、また全の意志である。どうせ掌の上なんだから。明日を創るのは、いつだって神様なの。ロキが踏みにじるヒスイの心。だから、君は退場してよ。それじゃ、オヤスミ。だったら、ワシも眠らせてくれよ。
ったく、ワシの寝室の隣でドンパチせんでくれ。そこに現れたのはイッテツだった。いいんだよ、わざわざ起きてこなくて。こんな状況で誰が寝れんだよ、ボケが。イッテツが引き抜いた刀。目を見りゃわかる、ワシが斬るべき敵は、おぬしらの方だな。
ねぇ、どうしてそんな顔をしているの。ミドリが声をかけたのは、ただ立ち尽くしていたカナン。そして、カナンはただ首を横に振る。途切れた希望。オマエら、ずいぶん懐かしい御伽噺を知ってんだな。そこには、更なる招かれざる客がいたのだった。
探したぜ、久しぶりだな、お姫様。現れたヴェルンはカナンを見つめる。棍を構えたミドリの背後、突きつけられたファブラの刃。安心しろ、危害は加えねぇよ。俺達は連れて行って欲しい場所があるだけだ。だから、少し道案内をしてくれねぇかな。
ちゃんと説明してもらえるかしら。コスモはそこにいなかったはずの登場人物を睨んでいた。その説明なら、もう必要ありません。デオンが咄嗟に構えた刃。だって、今から刈られるのですから。そして、ベオウルフは六人の画伯を残し消えたのだった。
デオンの前に立ち塞がったレオナルド。この筆の前では、未来は意味をなさない。レオナルドが左へ払えば左を向く。右へ払えば右を向く。身動きのとれないデオン。だけど、あなたが縛っているのは過去の僕に過ぎません。神の力を過信し過ぎるな。
直後、レオナルドの首筋に突きつけられた対の短刀。我らが王の秘密機関をあなどらない方がいい。あなた達は神へと屈した。だが、僕らの王は、神へと反旗を翻した勇敢な王様なんだ。デオンが仕える王は、立場が変われど、ヴラドただ一人だった。
こんにちは、先輩。シュレディンガーへ向け、陽気にお辞儀をしてみせたマルク。僕が探した過去に先輩はいたよ。だけどね、僕の描く未来に、先輩は必要ないんだ。そう、もう先輩は過去の登場人物なんだよ。だから、早く退場してもらえないかな。
シュレディンガーの戦意は失われていた。自分がなぜここにいるのか、自分がなにをすべきなのか、そのすべてが抜け落ちていたのだった。ほらほら、先輩。もっともっと、いたぶってあげるからね。そんな二人の間に割って入ったのはサフェスだった。