天候術を学んでいた彼女が手に入れたのは精杖型ドライバ【サニィ】だった。精霊議会直結の精霊士官学校では入学と共に名は消え、そして卒業と共に新しい名前が与えられる。それは妖精としてではなく、一人の兵という役割で生きることを意味していた。そう、平和であった天界にも、このような組織は存在していた。
晴術師サニィに手渡された写真は炎の魔将。私に似ている気がする。その晩彼女は眠れなかった。もし、同じ世界に生まれたら。もし、違う出会い方をしていたら。抗うことの出来ない運命、それは仕官した時に全て受け入れたはずだった。でも、私、この子と友達になりたい。そんな迷う彼女の元へ、炎の美女は訪れた。
士官学校の卒業と共に彼女に手渡された精杖型ドライバ【レイニィ】と名前。喜ばしい出来事にも関わらず、彼女の心は雨模様。もう、引き返すことは出来ないのね。それは初めからわかっていたこと。どうした、浮かない顔だな。そっと語りかけたのは水の美女。雨はいつか、止むのでしょうか。今もまだ、雨は降る。
精霊会議で報告されたのは人間の為に散った二人の妖精と、人間と共に生きる道を選んだ一人の妖精のことだった。旧知の仲間を三人同時に失った雨術師レイニィの心には更なる雨が降る。人間が、私から彼女達を奪ったのね。現天界の女王、現魔界の女王、全てに人の血が流れていると知った時、彼女は雨を受け入れた。
塗りたくるポマード、細めのコーム、最後の仕上げは温風を。その間1時間59分。今日のオレもイカスぜベイベ。向かう先は精霊仕官学校。跨ったバイシクルはカマハンカスタム。校門を抜けると、卒業式は閉会していた。オーマイガッ。だが、そんな彼へも卒業の証に精杖型ドライバ【ウィンディ】が用意されていた。
オレ、こいつ知ってるぜ。風術師ウィンディはキメ顔の写真に見覚えがあった。それは常界へ社会見学に訪れていた時のこと。あぁ、風が泣いている。そんな呟きが聞こえた。いや、今の風はファンキーだぜ。そんな些細な風議論から始まり、パーマとリーゼントの罵り合いで幕は閉じた。あの時の決着をつけるぜベイベ。
新たな組織を準備しているの。士官学校で教官を務めていたシャイニィにそんな話が持ちかけられた。いつか時代が巡った時、あの子の力になって欲しい。手渡された精霊議会直属天候術部隊【ウェザードリーズ】のロングベスト。受け取って、もらえるかしら。美人の頼みじゃ仕方ねぇ。それはまだ、美精王の時代の話。
精霊会議後に集められたウェザードリーズに説明されたとある計画。だが、それは光妖精王が席を離れた後の話。ちゃんと説明をしてくんねぇか。眩術師シャイニィは苛立っていた。ここから先は、大人の話だから。そう言ってみせた大人は、どう見ても少女だった。水色の前髪の向こう、眼差しは未来を見据えていた。
何列にも並んだ席の一番前、教卓の目の前が指定席となっていた少女がいた。学年一背が低く、体重も軽い小さな少女。だが、存在感は誰よりも大きかった。そして、そんな少女は卒業式で精杖型ドライバ【クラウディ】を手渡された。その時、入学以来初めて開いた口。これでやっと、魔物を葬っても罪に問われないわ。
ウェザードリーズが一同に集まる場であっても、曇術師クラウディが口を開くことは決して多くなかった。必要な時、必要に応じて、必要な言葉だけを発する。それが彼女だった。だが、そんな彼女が豹変したのはとある計画が説明された直後。二人の仲を引き裂いてやるわ。八つ裂きにしてやるわ。魔物は、死ねばいい。
天界の雪降る街出身の彼は、歳の離れた兄妹と無の美少女、捨てられた人間の男のことを良く知っていた。自由奔放に振舞う彼らが少し羨ましかった。だが、決してああなってはいけないと言い聞かせていた。何故なら、自分は妖精なのだから。そして仕官をし、卒業、精杖型ドライバ【スノウィ】を手に入れたのだった。
魔界勢力に対抗するのにウェザードリーズだけでは力が及ばないことは明白だった。そして声がかかった六人の美女。だが、一つ生じた誤算。それは天界から行方を眩ませ、音信不通となっていた無の美女の存在。ほら、やっぱり彼らったら。雪術師スノウィは飽きれていた。いいよ、僕達の邪魔をするのなら、その時は。