出会ってしまった炎と炎、彼は言った、大きく育ちやがったな。少年へと向けられた義腕型ドライバ【エルプション】は、59回目の起動実験の末の爆発事故の傷跡。炎に包まれた研究施設、死んだとされた彼は生きていた。そう、世界評議会の一員として、そして、パブロフという天才の名前を背負い、生きていた。
全ては計算通りだった。炎才は息子ですらも利用した。進化を遂げた【エルプション:ホムラ】の前に崩れ落ちるひとりの少年。男だったら、必ずやり返しに来いよ。炎才は、再会の言葉と、茜色のピアスを1つだけ残し、姿を消した。それが、少年の空いていた右耳を飾り、そして、再び立ち上がる力になると信じて。
言葉を発することに意味はあるのか。所詮、他人同士が通じ合うことなど出来やしないのに。猫背が故にシュレディンガーと呼ばれた天才は、義口型ドライバ【ディラック】でその口を塞いだ。丁度雪が降り始めた季節、言葉を超越した交流に覚えた初恋。それは、刃と化した水が踊り舞う悲劇のクリスマスの始まり。
一夜にして666人の人間が殺された。2年前の冬、あまりにも悲惨な出来事は「蒼のクリスマス」と呼ばれた。シュレディンガーが覚えた初恋、交流という名の大量虐殺。逮捕された水才は【ディラック・ポール】で言葉を、口を閉ざした。そんな彼が再び姿を現したのは、世界評議会主催の新型ドライバ発表会だった。
折れた翼、傷ついた背中、それは天界からの追放の烙印。罪状さえも告げられぬまま、少女は空に堕ちた。加速する度に遠のく意識、あぁ、翼を下さい。そんな彼女を受け止めたのは、柔らかな衝撃。月日は流れ、想いは形を成し、義翼型ドライバ【エール】が完成されると共に、彼女は聖暦の天才・ラプラスと呼ばれた。
風の妖精達が立て続けに行方をくらませていた。そして、その裏で噂をされたひとりの少女。全ての記録から抹消されたひとつの名前、それは昔、有り余る才能が危険分子認定され、不遇にも追放を余儀なくされた悲劇の少女の名前。妖精は、時として悪魔になる。風才ラプラスは【ディアブル・エール】で天界を翔けた。
世界の半分は幸せで出来ている。もう半分は、悲しみで出来ている。ひとりの天才は、繰り返される悲劇を前に、自らの左目を隠し、そして、彼女の世界は半分になった。聖暦のカルネアデスと呼ばれた彼女の右目が映したのは、幸せか悲しみか。左目の義眼型ドライバ【オプタルモス】は、何を見ようとしているのか。
幸せを求めた光才は、新たな刑罰を提唱した。人に悪意を忘れさせるには、罰を与えることではなく、幸せを与えることである、と。幸福刑が施行された第七監獄は、ただ幸せに満ちていた。それが、カルネアデスが右目に映したかった世界。そして、進化を遂げた【ピソ・オプタルモス】は、その裏側を見つめていた。
浴室に住まう光輝く美の妖精に恋破れ、彼の心は穴が空いた。だったらいっそ、心などいらない。ヘンペルと呼ばれた天才は、心の臓を失くした。そして、その空いた穴に、自らが開発した義臓型ドライバ【ヘルツ】を埋め込み、逃避した先は常界<テラスティア>の海岸線。そんな彼に、ひとりの男が手を差し伸べた。
差し出された手、招かれた世界評議会。与えられた研究施設と膨大な開発資金。繰り返されたのは、負の感情による闇の力の増幅実験。闇才となったヘンペルは、それが天界の脅威になると知りながら、あえて外しやすいリミッターを用意した。全ては、上位なる存在の為に。創り物の、【ヘルツ・リューゲ】を捧げた。
天才の出現に、世界が沸いた。予言により免れた事故や天災。彼女が聞いたのは、未来の声。そして、次に予言された聖なる扉。だけど、扉が開かれたその時、彼女は悪魔の子と呼ばれ、痛烈な批判を浴び、世界に裏切られた。後にメビウスの名で人前に現れた時、彼女は義耳型ドライバ【ループ】で耳を閉ざしていた。
彼女はひとり、怯えていた。聞こえなくなった未来の声。迫りくる不安、強化を施した【ループ・ループ】ですら聞こえない未来の声。最後に聞こえたのは、ドラゴンの解放による混血族<ネクスト>の訪れ。無才メビウスは、無数の監視役自立型ドライバと共に、もう一つの第五世代自律兵器型ドライバの開発を始めた。
計算が正しければ、第三世代自立型ドライバは正当進化を迎えるはずだった。その計算が狂ったのは、約束された未来の存在か、いや、約束された未来には、計算が狂うことすら約束されていたのかもしれない。これからを生きる世代の為に、愛する息子の為に、炎才は全ての【フィアトロン:ドライ】の破壊を始めた。
共通化されていた第三進化の設計、そんな【ウォタトロン:ドライ】の目的に水才は気がついていた。もう既に自分の範疇ではない、だけどそれも好都合。思い通りにならないドライバが思い通りの世界を作ってくれる。だったらいっそ、行く末は誰かに任せようか。ばら撒いたドライバに、水才は多くの初恋を求めた。
優しい顔をした風才は可能性の探求という大義名分の元に動力源の限界を目指し、純度の高い風を集め続けていた。その過程で生まれた【ウィンドロン:ドライ】もまた、天界の風を求め、悲しみに囚われたままの風才の復讐道具へと。君は間違ってないよ、さぁ、もっと風を集めようか。世界評議会の黒い声が聞こえた。
光才が本当に見たかった世界は幸せな世界か、それとも悲しみの世界か。第三世代自立型ドライバ【ライトロン:ドライ】が照らす世界はいつも、悲しみの跡。右目が見つめる幸せとは反対の、ドライバ越しの左目に映した世界は、放たれた自立型ドライバから送られてくる悲しみの果てであり、光才の世界の裏側だった。
繰り返される罪の果てに、意味はあるのだろうか。辿り着いてしまった答えは叶わなかった恋の傷を癒せるわけもなく、闇才を失意の底へと突き落とした。そして産み出された【ダクトロン:ドライ】は誰かに命じられたわけでもなく、ただ淡々と命を刈り続ける。闇才の恋の傷は、いつか癒える日が訪れるのだろうか。
未来の声が聞こえなくなってしまった無才は、それでも開発を続けていた。阻まれた正当進化に気付かないフリをしながら、少しでも世界の情報を集める為に【ノントロン:ドライ】を作り続けた。自分は利用されている、そんなことは百も承知だった。いずれは暴走してしまう自立型ドライバに、僅かな希望を託した。
常界<テラスティア>の外れ、立ち入り禁止区域に指定された場所には六つの研究所が立ち並んでいた。幾重にも配置された鉄壁を越えた先、まず最初に姿を見せたのは火焔研フロギストン。一度は廃棄されたはずの研究所に、悪しき炎は灯っていた。
悪しき炎が囚われた監獄、そこには天才の飽くなき探究心も囚われていた。起動実験レポートに記載されていたのは、新たな炎の力の活路。世界評議会へ提出する直前、天才は最後の1ページを引きちぎり、そして書き足した偽りのレポートを提出した。
氷水研アモルフォス、ここでは悪しき水の研究が行われていた。繰り返される水の力での実験。人々の暮らしを豊かにする為でもなく、開かれた扉へ近づく為でもなく、さらにその先のとある目的の為に、この施設は存在し、そして研究がされていた。
起動実験レポートAに記載されていたのは水の力により活動をする自立型ドライバ達の開発経緯から、経過報告まで、その全てだった。走り書きのそのレポートの最後、それでも僕は初恋を追い求めるよ、そんな一言が添えられていた。
初恋に目覚めた天才は初恋を追い求めた。言葉を越えた交流の先で見つけた初恋。いつか恋は、愛に変わり、そして終わりを迎える。そう、天才の初恋はいつか、純愛へと変わる。終わりを迎えるまでに、あと何人が犠牲となるのだろうか。
極風研コリオリに閉じ込められていたのは無数の風。行き場を無くした風は、ただその場で吹き荒れていた。風を産み出す為だけに囚われたドラゴンは自由を奪われ、ただ風と共に、悲鳴をあげるだけの存在と化していたのだった。
提出を求められた起動実験レポートを丁寧に書きあげた天才は、更なる研究を計画していた。既に、純度の高い風による実験は十分だった。さらにその上位なる風を起こせる存在への道、それこそが、世界評議会に従う彼女の目的だった。
姿を見せたのは、風に魅せられし天才。復讐の過程で気付いてしまった純度の高い風の、その上の上位なる風の存在。彼女にとって、完全なる復讐を遂げる為に必要なことは何なのか、その答えは黄昏の審判のたったひとかけらだった。
眩い光が閉じ込められた研究所、幻光研ホログラフ。この施設は片目を閉ざしたひとりの天才へと、世界評議会が用意したものだった。次から次へと開発される自立型ドライバ達。片目の天才は、左目を閉ざしたまま、この世界の行く末を見つめていた。
一体誰がこの落書きを読み、最重要機密レポートだということがわかるだろうか。読み解くこと自体が困難な丸文字に、余白を埋めるかのような落書き。(´・ω`・)と(`・ω´・)で示された実験結果、ただ、楽しさだけは誰にでも伝わっていた。
片目を閉ざした天才は言った。世界の半分は幸せで出来ている。もう半分は悲しみで出来ている。だけど、この世界は三つの交わりにより生まれた世界。彼女にとって、今の世界の隔たりなどは関係なく、ただ皆の幸せを願い、悲しみの裏側を見ていた。
日夜繰り返されていた闇の力の増幅実験。漆黒研クインテセンスを含むこの立ち入り禁止区域の周りには、無数の抜け殻が転がっていた。全ては悪しき闇への探求の為。失意の天才へと与えられたこの施設で、声にならない悲鳴がこだましていた。
増幅された闇の力が自立型ドライバの稼働を加速した。もっと、もっと、もっと、止まらない欲求、止まらないペン、あっという間に書きあがる起動実験のレポート。だけど、それほどの天才でも、恋の方程式を紐とく頭脳は持ち合わせていなかった。
恋に敗れた天才にとって、この統合世界に存在理由など求めなかった。手を引いてくれた方へと捧げた創り物の心。全ては上位なる存在の為に。天才へと告げられた新たな研究、それは二文字の合言葉。たった二文字で、彼は全てを理解していた。
その研究施設には、生きていくうえで必要最低限のもの以外、何も用意されていなかった。研究者にとってはこの上のない、研究に没頭出来る施設。だけど、普通の人から見れば、この虚無研カルツァクラインは独房と何ら変わり映えしない施設だった。
何も記載されていない白紙の起動実験レポートを受け取った男は問いかけた。これが君の答えかい。無言で首を縦に振る天才。今更、約束された未来を変えることなど出来やしないよ。無言で首を横に振る天才。虚ろな瞳に、微かな光が宿っていた。
無に魅せられし天才の部屋に配置された無数のモニター。天才は世界の全てを見ていた。そして、世界の監視結果により設計された自立ではない自律の兵器。聞こえなくなった未来への不安を振り払うよう、無心で僅かな希望の開発を進めるのだった。
ぴょんぴょん。監獄の中庭を飛び跳ねていた一人の少女。ぴょんぴょん。髪の毛を揺らしていた一人の天才。両目を閉ざしたら何が見えるのか。天才の興味はそれだった。結果、何も見えなかった。では、両耳を塞いだら何が聞こえるのか。結果、何も聞こえなかった。コガネにとって、そんな実験もお遊びの一環だった。
ぴょんぴょん。研究室で飛び跳ねていた一人の少女。ぴょんぴょん。手紙を書いていた一人の天才。そのプレゼントは、一体誰にあげるんですか。被検体から助手へ昇格となった光拘獣コガネは尋ねた。にんじん咥えた天才が告げた名前に聞き覚えはなかったが、きっと世界の裏側を知る人なのだろうと彼女は思っていた。
興味深いデータね。風才は送られてきた一人の少女の行動を解析していた。まさか、その子の隣にいるのは。懐かしい顔に驚きを隠せないでいた風才。私の邪魔をするって言うのね。過去の憎しみに囚われ、そして彼女は神からの設計図を手にしていた。
あと少しで、完成する。炎に魅せられた天才は第五世代自律兵器型ドライバの最後の部品を組み立てていた。きっとアイツの力になるはずだ。その瞳は輝いていた。しかし、何故完成させることが出来たのだろうか。それは一つの設計図が関係していた。
1日目の実験結果だよん (´・ω`・)
2日目の実験結果だよん (・´ω`・)
3日目の実験結果だよん ´・(ω`・)
4日目の実験結果だよん (´・`・)ω
5日目の実験結果だよん (´・)ω・`
6日目の実験結果だよん (`・ω´・)
あぁ、どうか神様お助けを。闇才は痛まない胸を痛ませていた。君にイイものをあげよう、神様からの贈り物だよ。そして闇才に手渡された【オリジン】の設計図。これを元に、創ってごらん。そして闇才は第五世代自律兵器型ドライバの開発を始めた。
無才が開発をした二体の第五世代自律兵器型ドライバ。一体は第三世代自立型ドライバから送られてきた一人の少年のデータを元に、もう一体はオリジナルの設計図を元に。ついた開発コードは【レプリカ】。彼女は一体何の為に開発をしたのだろうか。
……。言葉一つ発さず、開発に没頭する水才は初恋を追い続けた。二年前の冬、言葉を超越した交流。そう、あの日確かに一人と交流をした。言葉は交わさず、水の刃を交し合う。そして、追い続けた初恋が入れ替わっていたことに気付きもしなかった。
所長はいつもその左目で、何を見てるんですか。どうしていつも、右目は笑ってるんですか。やっぱり今日も、教えてくれないんですね。でも私、所長と一緒にいると、いつもとっても楽しいんです。だからいつまでも、傍に置いておいてくださいね。