全てのはじまりの都で、悪さを繰り返すのは幼い水と風の2匹の妖精。水には風を、風には炎を、それぞれ対処をすれば、妖精達も悪さを止めて大人しくなるだろう。抵抗を繰り返す際は、1匹ずつ対処することで難なく倒すことが出来るはず。
開かれた扉が変えた世界に迷い込んできたのは水の力を得た子猫と風の力を得た子猫の2匹。迷子の子猫は身軽な身体で、俊敏な身のこなしをみせるが、まだまだ子猫。あやす様に優しく、けれど厳しく、心から接すれば、やがて心を開くだろう。
初都の最後に待ち受けていたのは、自らの意志で人々へ攻撃をする1体の反乱する機械。風の力を動力源にするその機械へは、炎の力で対抗するのが最善の策。風は炎を巻き上がらせ、そして炎は力を増す。決して焦らず、初都の最期に有終の美を。
炎を信仰し、そして賑いをみせる都、ファイアリア。そんな炎の都に現れたのは1匹の魔界<ヘリスティア>の火種。その悪しき炎はいくら小さくとも、災いの火種には変わりなかった。その火種が大きくならないよう、水の力に全てを込めて。
燃え盛る炎を力に変え、動き始めたのは進化をした機械、自立型ドライバ。人々の平和を守る為の力は、人々を傷つける力へと変わった。止めるべきは、制御の外れた燃える機動源。悲鳴と共に、真っ黒な煙が立ち昇ってしまう、その前に。
都に祭られた炎を求め、招かれざる客が訪れた。それは、この交わった統合世界<ユナイティリア>に産み出されてしまった小さな赤の幼竜。夕暮れ時、無邪気に吐き出す炎は街を更に赤く染めあげる。取り戻すは平穏、眠れない夜が来る。
母なる海のすぐ側で、水の加護を受けた水都アクアリアに滴る水滴。至る所に作られた水路は、時として悪しき水すらも流れ着かせてしまう。海から迷い込んだ1匹の水の悪魔が優雅に泳ぐ水路。封鎖された交通網を、当たり前の生活を取り戻す為に。
その静かで綺麗な清流は、水の力を動力源とした自立型ドライバの活動には十分過ぎた。ただ、その力が正しいことに使われている間は。循環する清流が産み出した負の循環。悪用された綺麗過ぎた水の力は、都市の加護を壊し、その平和を決壊させた。
綺麗な水に流されて、深海にいるはずの1匹の青の幼竜が都に姿を見せた。呼び起こす津波、突破された防波堤、海の脅威が都を襲う。その水の力を抑えることが出来るのは、巻き起こる風の力。その手に風を集めて、襲いかかる海の脅威に抵抗を。
穏やかで優しい風が吹いた。心を撫でるような、そんな心地よい風が1年中流れる風の都、ウィンダリア。そして、そんな優しい風に乗り、流され着いたのは風の悪魔。ただ、ふわふわと浮かぶその悪しき風の行方を追う為に、風の噂を頼りにして。
突如として巻き起こる旋風、それは風都に流れる優しい風ではなく、凶暴で強い荒ぶった風。1体の意志を持った機械が巻き起こした強風が、都の空気を変える。荒ぶった風へぶつけるべきは、燃え盛る炎の力。吹きつける向かい風の、その先へ。
遥か上空を自由に駆け抜けた緑色の影、それは緑の幼竜。小さな羽ばたきが加速し、集まり出す風、そして生まれた竜巻が風の都を襲う。起きてしまった竜巻よりも、この空をドラゴンが飛んでいる、そのことに人々は恐怖を覚えた。
眩しいほどの光溢れる都、ライラリア。輝きに満ちた光都に差し込む一筋の光は、開かれた扉が生んだ小さな矛盾、天界<セレスティア>で育ってしまった小さな光の悪魔。その悪意と化した光へは、悪意と化すことのない力で抵抗を。
徐々に失われつつある光都の喜びの光。それは、聖なる扉<ディバインゲート>が開かれてからのこと。度重なる災いは光の都も例外ではなかった。そして、事後処理として配属された光の自立型ドライバが、求めていない更なる危険な輝きをみせる。
曇り出した空、その隙間を先走る閃光、遅れて届く轟音。光輝く稲妻が光都を襲う。連続した光を背に、空から現れたのは黄の幼竜。幸福をもたらすとすら言われていたドラゴンの溢れる光の力を、上回る力で対処を。そう、これ以上、空が荒れる前に。
闇都ダクタリアの夜は長い。そんな夜の帳の中、暗闇から姿を見せたのは小さな闇の使者。そんな悪魔に怯える人間は闇都には数少なく、むしろ悪魔の方こそ人影に怯えていた。闇を打ち消すほどの眩い光で、弱気な悪魔に聖なる導きを。
闇都で発生した原因不明の連続失踪事件、その真相から零れた漆黒は多くの命を奪っていた。全ては闇の力により動く自立型ドライバの新たな発展の為に。連続した悲しみを止める為にも、進化を遂げたばかりの闇の機体の完全停止を。
気が付けば、短くなり始めた夜の時間。日が延びるにつれて、感じる不安は増していた。夜を食べる紫の幼竜、それが全ての原因だった。闇を、夜を求めダクタリアを訪れたドラゴンは夜を食べ、力を増す。夜の都に、明けない夜を取り戻す為に。
連なる区画、家々が連続した広大な無都、インファタリアの片隅に1匹の無の悪魔が現れた。何もなかったはずの空間から、何事もなく現れた悪魔には悪意もなく、その存在に害はなかった。だけど、そんな無の象徴は存在してはいけない存在だった。
無都を繰り返し巡廻する1体の自立型ドライバ、その巡廻の意味とは。普段は人間に危害を加えることのない機体が見せた攻撃姿勢。それは開かれた扉により統合した世界を元に戻す為、聖なる出口<ディバインゲート>を目指した者にだけ向けられた。
どこからともなく現れた銀の幼竜により繰り返し破壊される無都。それは何もかもを無に帰すかのような破壊活動。その無の力には意味もなく、そして意味がないからこそ、弱点も存在しなかった。全てが無に帰すまでに、自分の力だけを信じて。
聖なる出口<ディバインゲート>を目指して訪れたのは、連なった極彩監獄の中でも炎刑を与える第一監獄カーマイン。洋紅色に燃える炎に混ざり、脱走を試みる囚人達が逃げ出さないよう、扉の向こうで魔界<ヘリスティア>の炎は待ちかまえていた。
炎の監獄を監視し続ける、監獄を模した炎の自立型ドライバは、囚人リストに記されていない者を排除すべく、その全てを燃やし尽くす。そう、動力源は炎の監獄にはいくらでもある。その終わらない炎を消すことが出来るのは、流れる水の力。
時折発生する囚人達による暴動を抑える為に飼育されていた監獄の赤竜の炎は勢いを増した。その炎に抱かれ眠る囚人の数に反比例して増え続ける囚人。開かれた扉により統合された世界は、人間にさえ罪の意識を忘れさせてしまっていた。
命みじかし恋せよ乙女、黒髪の色が褪せぬ間に。心の炎が消えることのない天界<セレスティア>に住まう炎の妖精は洋紅色の監獄を訪れていた。その焦がした熱い胸を冷ますことが出来る、唯一の存在が訪れるであろう罪人の巣窟で、思いを馳せた。
終わることのない監獄の炎、その全てを生み出していたのは最後に待ち構えていた炎の成竜。燃え盛る灼熱の炎は、例え強風が吹こうとも、決して消えることはない。ただ、一度入り込んでしまったこの監獄を抜け出すには、その炎を消すほかなかった。
絶対零度の独房を備えた極寒の第二監獄コバルト。震えるほどの寒さの中で凍ることなく形を保ったままの水の悪魔は、常界<テラスティア>で見つけた居場所で本来の元気を取り戻した。監獄を泳ぐ優雅な姿はそこが水族館だと思わせるほどだった。
寒さに屈することなく起きる暴動を鎮火する為に配備されたのは、進化した水の第三世代自立型ドライバ。だけど、鎮火という大義名分の下に行われていたのは過剰な水の暴力。その行為は罪と何一つ変わりはなく、監獄の倫理は疑わしいものだった。
過剰な暴力の果てに姿を見せたのは水のドラゴン。監獄の青竜が吐き出す水は瞬時に凍り、冷たい刃となり囚人達を傷つけた。何故監獄にドラゴンが、そんな疑問を抱く暇もなく、氷の刃が襲いかかる。極寒の監獄に、心落ち着ける場所はなかった。
監獄を視察しに訪れた主人とはぐれてしまったのは1人の水の妖精。清らかな青い髪に、黒いメイド服は囚人達の注目の的となり、恥ずかしさのあまり、歩くことすらままならなかった。動揺したその心が引き起こした勘違いは、敵となり襲いかかる。
監獄の最下層、絶対零度の独房に閉じ込められていたのは水の成竜。解き放たれたドラゴンが思う存分振るった水の力は監獄全域に荒れ狂う波を呼び寄せた。その荒波を越えることが出来た時、極寒の先に待っている暖かな出口が見つかる。
暴風吹き荒れるのは第三の監獄、ビリジアン。立っているのがやっとなほどの強い風が吹きつけ、その風に乗り届けられるのは収監予定にない悪意に満ちた者達。魔界の風も例外ではなく、風に揺らされ、気持ち良さそうに漂っていた。
脱獄者には容赦のない向かい風を吹かせる風の自立型ドライバ。誰しもが一度は試みる脱獄も、その向かい風を一度でも味わうと、二度と脱獄を企てなくなると言われる程の鉄壁の警備をみせるが、それは風力の最大出力実験でしかなかった。
暴風の監獄の中庭、わずかに覗いた空、そんな頭のすぐ上の狭い空を飛び交っていたのは監獄の緑竜。吹き荒れる風と遊び、悪戯に囚人をついばみ去る。まるでそれは当たり前の認められた行為かのようで、今更疑問を唱える者はいなかった。
暴風が運んだ噂は遠く離れた天界<セレスティア>にまで届けられた。非日常が日常と化した監獄へと訪れた風の妖精は、傷ついた囚人達へと癒しを届ける。あざといほどに潤わせたその弱気な瞳は、傷ついた囚人の心を掴み、そして離さなかった。
第三監獄の出口が開かれた。吹き荒れる暴風を抜けた先に出会えたのは、風ひとつない空。安心をし、胸を撫で下ろした直後、突然吹き荒れる空。待ち構えていたのは風の成竜。大空の覇者の大きな羽ばたきが、監獄最期の向かい風を吹かせた。
目を開くことすらも許されない閃光刑が与えられるのは第四監獄カナリヤ。そこが監獄であることが疑わしい程の溢れる光、だけど明る過ぎた光は罰へと変わった。そんな溢れた光の中で、小さな光の悪魔は思う存分光りを浴びていた。
溢れた監獄の光は、光の自立型ドライバの最大出力稼働を常時可能にした。その機体が発する光は、脱獄する気を起こさせないほどに現実を忘れさせた。ここは地獄か天国か、その微睡みを壊さない限り、現実への出口を見つけることは出来ない。
眩い光を切り裂くほどの閃光、稲妻を呼び寄せた監獄の黄竜は窮屈な檻を壊して抜け出した。自由になった体は喜びのあまり、更なる稲妻を呼び寄せる。重なり合う光と光が創り出した真っ白な世界に、光のドラゴンはその身を溶かした。
光の大精霊により、監獄への潜入捜査を一任されていた光の妖精は、天界<セレスティア>にも匹敵する程の強い光に戸惑いを隠せずにいた。ここは地獄か天国か、誰もが浮かべるその問いに悩ませる頭、その微睡みはすれ違った戦いを引き起こす。
連続した光の監獄を抜けた先で出会った眩い光。それは光の成竜が飼われた間。止まらない閃光、鳴り止まない耳鳴り、呼び出された光は視覚と共に、聴覚までをも奪い去る。この夢現を終わらせるには、光をも包み込む闇の力の解放を。
閃光の監獄を抜けた先に待ち構えていたのは、灰色がかった紫色の闇に包まれた恐怖の第五監獄モーブ。恐る恐る踏み入れたその監獄には囚人の悲鳴が絶えず響き渡る。そんな人間の怯える姿に、闇の小さな悪魔はほくそ笑んでいた。
恐怖に怯えた悲鳴、止まることのない負の感情が増幅させる闇の力。辿り着いたのは処刑場、許されることのなかった命を刈り取る度に、闇の自立型ドライバは力を増した。悲鳴と響き合い、増幅してしまったその闇を晴らせるのは、眩い光。
今が夜なのか、それとも朝なのか、それさえわからない闇の監獄に住まう1匹の闇のドラゴン。監獄の紫竜は夜を食べ、そして夜を生む。もしかしたらここは、1日中夜なのかもしれない。昇る朝日を、差し込む光を求めて、闇のドラゴンとの対峙を。
恐怖の監獄にお楽しみはあった。ただ、それが真実かどうかはわからない。まことしやかに流れる噂、寂しい夜、人知れず側に現れる闇の妖精の存在。いや、彼女はきっと闇の小悪魔だろう、そうも言われる噂の正体を、突き止める為に。
暗闇の監獄を抜け出した先に広がっていたのは終わらない暗闇、それは闇の成竜が生み出した夜の世界。集められた負の感情、響き合う闇、悲鳴にも似たうめき声を上げるドラゴン。監獄を抜け出そうとも、夜はまだ、終わらない。
足音一つ無い第六監獄チャコールが与えていた罰は無。一度でも収監されたが最期、その囚人が生きてきた証は全て消され、一生、何者でもない人生を歩ませ続けさせられる。そんな監獄の、何の変哲も無い場所に、何の理由もなく、無の悪魔はいた。
一度無を与えられた者が次に何に興味を示すのか、また何者かになろうとするのか、無の監獄での過ごす様を監視し続けるのは無の自立型ドライバ。蓄積されたデータは何者かに送られ、何かに利用されている。ただ、今は何もわからないままだった。
生きる理由を持つことが罪とされた無の監獄で、罪を犯してしまった囚人は、無のドラゴンにより再び無に帰されていた。監獄の銀竜そのものに意味はなく、第三者がいて初めて、その存在に意味が生まれた。ただ、その意味すらも、意味はなかった。
幽霊を見た。無の囚人達は口を揃えてそう言った。目撃された時間は決まって丑三つ時、足のない少女、あどけない顔、何もない監獄に現れた幽霊。ただ迷い込んで来た無心のその少女の霊にとって、この何もない第六監獄は居心地が良かった。
監獄からの脱獄者はひとりもいなかった。脱獄に成功したという事実はひとつも残っていなかった。そう、全てを無かった事に出来たのは、監獄の出口に待ち受ける無の成竜がいたから。無の連鎖を終わらせるには、無を超えるしかない。
極彩監獄の最期を彩るのは複合の第七監獄スペクトル。7番目の天国とすらも言われるその極彩色は見る者全てを虜にする。人に悪意を忘れさせる方法は、罰を与えることではなく、幸せを与えることであると、ひとりの天才は唱えていた。
極彩色の世界に目を回した者の救護にと、配備されていたのは3体の進化した自立型ドライバ。争いも暴動もない、最期の監獄での非常事態と言えば、囚人達の幸せを妨げる者の侵入。それ以外に、この第七監獄には争いごとが起きることはなかった。
3匹の幼竜達の悪戯が監獄を燃やし、波を呼び、竜巻を起こした。幸せに慣れ過ぎてしまった囚人達は動くことを忘れ、逃げ惑う。また、逃げる意味を忘れ、その場で終わりを迎える者も。幸せ過ぎることは罪であると、そう唱えたひとりの天才もいた。
カーマイン、コバルト、ビリジアン、それぞれの監獄を抜け出し、第七監獄で落ち合うことが出来た3人の妖精達。お年頃の乙女3人が集まってすることと言えば、監獄での女子会。極彩色の幸せな空間で、しばし争いのことは忘れて休息を。
最後の監獄スペクトル、その最期に待ち構えていたのは極彩色に集いし成竜達。ほんの少しだけ、赤と、青と、緑の足されたその極彩色の景色を抜けた先に、7つ連なった監獄の出口が、真っ白な光の溢れる本当の出口が見つかる。
扉が開かれたことにより、常界<テラスティア>に現れた7つの宝石塔。それは天界<セレスティア>へと繋ぐ架け橋。その最初のフロアを守護するのは魔界<ヘリスティア>の彷徨える狐火。統合された世界にはもう、種族の垣根に意味はなかった。
赤く輝く柘榴塔ガーネットの第二階層でばったりと遭遇したのは、天界<セレスティア>への帰り道の燃える乙女。天高くそびえる塔に慣れることもなく、ついうっかり迷子に。今もなお、冷めることのない恋心が彼女に燃える炎の力を与える。
明りの消えた塔の片隅、27本の燃え上がる炎、それは群れた火狐。予期せぬ侵入者に柘榴塔の警戒レベルは3へ。解き放たれた獣、振られた尻尾は獲物と出会えた喜びの表れ。狩猟本能に火をつけて、思うがままに繰り広げられるのは狩りの時間。
予期せぬ侵入者を前に、プロテクトが解除され、その姿を現したのは秘密裏に開発されていた大型の自立型ドライバ。見せつけられるのは第五世代の圧倒的破壊力。その動きを停止しない限り、塔の最上階へと上る道が開かれることはない。
辿り着いた最上階、フロアに敷き詰められた赤く輝くガーネット。燃えるようなその赤さと呼応し、最上階の炎竜は目を覚ました。噛み砕かれ、食い散らかされる宝石、天界<セレスティア>へ繋がる道を遮るのは、進化を遂げた1匹のドラゴンだった。
藍色に輝くアクアマリンが散りばめられた藍玉塔から聞こえる小さな遠吠え。それは塔の上に昇る月を追いかけた氷の狼の鳴き声。遠く離れた故郷、魔界<ヘリスティア>に想いを馳せた狼は、行き場のないその想いを侵入者への牙へと変える。
長く綺麗な水色の髪、それは清らかな乙女の証拠。天界<セレスティア>へと戻る途中、立ち寄った藍玉塔で、警戒レベル2を告げる警報に気を動転させた乙女はいつもながらの勘違い。慌てふためき、呼び起こされる水の力は敵となり襲いかかる。
藍玉塔の第三階層、上がり続ける警戒レベル、解き放たれた獣達。響き渡る警報と、重なる遠吠え。止まらない音で埋め尽くされたフロアの気温は下がり続けた。3匹の氷の狼があげた遠吠えは冷気となり、凍てつく刃と化した牙を光らせていた。
地上より遥か高くにそびえた塔のとあるフロア、そこには広がる海があった。空中の海に飼われていたのは大型の自立型ドライバ。何者かに運び込まれたその機体は、人間を守る為の機体。だけど今、人間を守る為の対人実験が行われようとしていた。
階層を繋ぐエレベーターのランプは【P】を灯した。長い戦いの果てに辿り着いた最上階、閉じた扉をこじ開けたのは荒れ狂う大津波。姿を見せた最上階の水竜は、優雅に空を泳いでいた。まるでそこが、どこまでも広がる大海原であるかのように。
翠玉色の輝きを魅せたのは翠玉塔エメラルド。風を集めたその宝石は予期せぬ侵入者に対して絶望するほどの強風を吹かせる。塔の入り口を開いたが最期、吹き荒れる風に乗り、猪突猛進のごとく、魔界<ヘリスティア>の風の猪が全速力で襲いかかる。
風に負け、傷を負う侵入者達。だけどそれでも、敵、味方、関係なく、統合世界<ユナイティリア>に生きる全ての者の傷を癒そうと、安らかな乙女は四苦八苦。自らの身を危険に晒しながらも、誰も傷つかなければそれでいい、そう願っていた。
昇り続ける翠玉塔、更に強さを増した風。それは塔が起こしたのか、それとも猪突激進の如く砂埃を撒き散らしながら襲いかかる3匹の猪が起こしたのだろうか。どちらにせよ、吹き荒れる強風を抜けない限り、次の階層への扉が開かれることはない。
重い風が吹いたのは第四階層。そこにいたのは秘密裏に開発されていた大型の自立型ドライバ。圧倒的進撃力を見せつけたその機体は、今までとは違う、重い風を吹かせた。吹き荒れる重圧、かいくぐるべきは止まることを知らない進撃。
数多の風をかいくぐりながら辿り着いた最上階。待っていた空の覇者。最上階の風竜は風に乗り、風を起こし、そして風に揺れた。侵入者に臆することもなく、ここが自らの庭だと言わんばかりに、最上階の空を自由に飛び回っていた。
黄玉塔トパーズ、そこは光で満ちていた。誰もが迷うことなく最上階へと辿りつけるようにと散りばめられた光を放つ宝石。そんな塔にも迷える子犬が1匹。ただ、決して道に迷っていたわけではなく、この世界の、存在理由に迷っていた。
トパーズの黄色い輝きの光に負けないほどの輝きを魅せていたのは光の妖精、聖なる乙女。常界<テラスティア>と天界<セレスティア>に住まう者が安全に行き来出来るようにと、その聖なる力で予期せぬ侵入者にのみ、光の刃を向けていた。
第三階層で聞こえた鳴き声、それは幾重にも重なって聞こえた。怒り声、悲しみ声、喜び声、怒り声、悲しみ声、喜び声、怒り声、悲しみ声、喜び声、聞こえてきたのは3種類の9つの鳴き声。気がつけば、3つ首の光の番犬が、すぐ側まで来ていた。
度重なる戦いに呼応して、塔の警戒レベルが4を突破した時、鳴り響いた警報に混ざって聞こえた大きな機動音。圧倒的旋回力で侵入者の前に現れる大型の自立型ドライバ。長い身体をくねらせながら、予期せぬ侵入者を、どこまでも追い続ける。
止まったエレベーター、開いた扉、差し込む光、それはここが最上階であると共に、すぐそこに絶望があるということを知らしめた。鳴り響いたのは遅れた轟音。音よりも早く届いたその光は、最上階の光竜が呼び寄せた雷鳴だった。
紫色の輝きは、満たされない欲求を加速した。紫晶塔アメジストを飛び交う闇の鴉は自らの欲求に素直に、光輝くもの全てをついばみさる。紫色が惑わすこの塔では、欲しいものは力ずくであろうと、手に入れた者こそが正義となる。
小悪魔の様な笑顔を浮かべ、背後に忍び寄るのは闇の妖精。魅惑的な笑顔、魅惑的な身体、その姿を目にしたもの全てを魅いらせる乙女は天使か悪魔か。欲求不満が加速するこの紫色の塔で、闇の乙女は自らの持てる愛情を解き放とうとしていた。
ここが室内であることを、ましてや塔内部であることを忘れされる程に聞こえた羽ばたきの音。フロアに舞い踊る黒羽。まだ空が見えることのない第三階層を埋め尽くしていたのは闇の鴉の羽。自らの欲求に素直に、光輝く光に満ちた者へと襲いかかる。
深い紫が続く塔、アメジストの第四階層、他の宝石塔同様に配備されていた大型の自立型ドライバ。天井のあるフロアであろうと、その羽でみせる圧倒的機動力。地面から僅かに浮かせたその身体で、地面すれすれを、全速力で飛び回る。
辿り着いた頃にはもう夜になっていた。ふと目をやる時計、今はもう午前の中ごろ。もう、夜は明けている時間なはず。的中するのは嫌な予感。明けない夜に、ここ紫晶塔に、夜を生みだす闇のドラゴンが、最上階の闇竜が君臨していた。
白い輝きを魅せるのは水晶塔クォーツ。その輝きにまぎれてにじり寄る銀は魔界<ヘリスティア>の無の蛇。巻き散らかされる毒、綺麗なはずの水晶塔は毒されていく。眩いほどの輝きと、その蛇の毒と、どちらに毒されるのが先か。
塔に迷い込んでしまったのは無の妖精、それは迷える乙女。自らの居場所を無くし、ただ彷徨うだけのその乙女は、白く輝く水晶にほんの少しだけ興味があった。その純粋な興味を邪魔した時、今まで見たことのない怒りの表情をみせる。
水晶塔の第三階層、毒牙から巻き散らかされた毒、それは限界を超える致死量。襲いかかる毒をかわしながら、急いで次のフロアへと。水晶塔に迷い込んだが最期、輝きに見とれる暇もなく、無の蛇の毒牙の餌食となるだろう。
第四階層に待っていたのは圧倒的躍動力をみせる大型の自立型ドライバ。解除されたプロテクト、猛獣の様な4つの足で駆け回る姿は、獲物を捕らえる解き放たれた野生動物の様。予期せぬ侵入者に対し、自らの意志で、地の果てまでへ追いたて続ける。
白い輝きと共に、銀の輝きを魅せた最上階の無竜。水晶塔の最期を飾るに相応しいほどの大きな身体は、見るもの全てを圧倒する。戦う為に生まれたかのような姿、大きな背びれに刻まれた無の力が、この塔からの脱出者を無にしていた。
7色の輝きを魅せる極光塔オーロラの第一階層、そこは獣達の隠れ家。襲いかかるのは群れた獣。魔界<ヘリスティア>の炎の狐、氷の狼、風の猪、三者三様のいで立ちで、最期の宝石塔への予期せぬ侵入者を、最上階へと昇らせまいと一掃していた。
第二階層でちょっと一息、極光塔の女子会は乙女達の談議の場。乙女が顔を寄せ合って話すことと言えば、今も昔も噂話。花を咲かせたのは、誰かと誰かが付き合ってるとか、誰が誰を好きとか。人間も精霊も、乙女心は大して変わらないものだった。
警戒レベル3の警報が聞こえた時、もはや聞き慣れてしまったプロテクトの解除音が聞こえた。そう、再び現れたのは光の大型自立型ドライバ、第五世代の天昇る機竜。予期せぬ敵の出現に、宝石塔の警戒態勢が予測出来ないものへと変わった。
警戒レベル4、真っ先に聞こえてきたのはプロテクトの解除音。光の天昇る機竜に続き、現れたのは闇の空翔る機竜。闇の力を蓄えたその機械の身体は、自らの意志で予期せぬ侵入者へと、終わりを、永遠に続く闇を与えようとしていた。
警戒レベル5、9回目のプロテクトの解除音。地走る機竜の出現はもはや予測の範疇となっていた。7つ連なっていた宝石塔の最期、目にも止まらぬ速さで繰り広げられる攻防、加速したその先に、天界<セレスティア>への道が待っている。
開かれた扉により、訪れようとしていたのは黄昏の審判。噂ばかりが先行しているその真実を目指し、その足を赤帝楼閣スザクへと。待ち構えていたのは始まりの炎を司る大精霊。真実へ近づかせるか計る為の、精霊による力試しが始まる。
精霊に認められた者だけが進むことの許された楼閣で、次に待っていたのはきまぐれな炎の妖精。口ずさむ歌、放たれる炎、妖精の火遊びが行く手を遮る。だけどそんな火の妖精には、水を浴びせて一網打尽にしてしまえばいいだけのことだった。
赤帝楼閣に伝わる伝承、狐の嫁入りになぞらえた3匹の炎狐。炎の精霊により、以前よりも力を増した炎の狐が燃やす炎。燃え盛るのは赤く染められた楼閣。炎を越えたその先に、炎が浮かび上がらせた道へと辿り着くことが出来る。
恋に恋焦がれた乙女の恋談議。世界の情勢に興味がないわけじゃないけれど、それよりもやっぱり身近な恋にばかり興味があるのはお年頃の炎の妖精。火傷する程の燃える恋を、冷たく冷えた水で冷ましてあげない限り、ここから先へは進めない。
非常警報を告げる鐘が鳴り響いた。鈍く、重い、その鐘の音が告げたのは破壊力の暴走。リミッターの解除された第五世代の大型ドライバによる破壊力の暴走。今、赤帝楼閣は、上位なる存在の悪戯により、脆くも崩れ去ろうとしていた。
辿り着いた青帝楼閣セイリュウ、最初にお出迎えをしてくれたのは水を司る大精霊。そんな始まりの水の起源<オリジン>が優しく語りかけるのは黄昏の審判の始まりの始まり。母なる海の様な優しさは、時として厳しさへと変わった。
降り出した雨、楼閣の縁側でしばしの雨宿り。そんな雨の中、嬉しそうに歌って踊るのは水の妖精。出来たばかりの水溜まりで飛び跳ね廻る。降り続き、勢いを増した雨は、ただの水遊びだった妖精の悪戯を、悪意のない悪意へと変えた。
降り止むことのない強い雨、雨漏りすら出来てしまった青帝楼閣。滴る雫を浴びながら、その水弾く毛並みは氷の狼。むしろ浴びれないことに残念な表情を浮かべた狼達は、そのうっぷんを晴らすよう、晴れない空へと遠吠えを上げる。
しばらく楼閣を進んだ先で、お出迎えをしてくれたのは水の妖精、清らかな乙女。疲れた者を癒す為に尽くすことこそが、乙女の嗜み。そして、それはこの統合世界<ユナイティリア>に生きる全ての男性の、憧れの的となっていた。
響き渡る鐘の音は、降りしきる雨音でさえも消すことは出来なかった。聞きたくなかった非常警報。止まない雨の中、リミッターの解除された第五世代自立型ドライバの潜水力の暴走。雨の中を泳ぐ機竜に、青帝楼閣は押し流されかけていた。
緑帝楼閣に吹いた風、それは始まりの風。天界<セレスティア>からお目見えした風を司る大精霊は向かい風を吹かせた。そして、この強い向かい風を見事止ませることが出来た時は、更に強い追い風を吹かせると、そう約束をして。
風に乗ってゆらゆらと、住み着いてしまったのは悪戯な風の妖精。楼閣の居候は何をするでもなく、ただ風の行方をぼんやりと眺めていた。開かれた扉により変わってしまった風が、また、更に変わり始めたことに、気がついていたのかも知れない。
風を司る大精霊が作り出した追い風に乗ったのは、開かれた扉<ディバインゲート>を目指した者達だけではなかった。そう、風に乗り、猪突神進の如く追いかけてくる風の猪達。追いつかれるよりも前に、楼閣を抜けることが出来るか。
吹きつける風が少し冷たく、だけど心地よい昼下がり。緑帝楼閣の一角、緑色のコートに袖を通した乙女の昼下がりは優しい緑の香りがした。摘んだばかりの四つ葉に、審判の訪れを、阻止できるようにと、ただそれだけを願っていた。
遠くから音が聞こえた。そしてその音は、徐々に大きく、大きすぎる程に。非常事態に気が付き、警報の鐘が鳴らされた頃にはもう、その鐘の音は轟音にかき消されていた。進撃力の暴走は、避難する時間さえも与えてはくれなかった。
黄帝楼閣に差し込んだのは始まりの光。天界<セレスティア>からお目見えした光を司る大精霊が発した光は輝かしく楼閣を包みこんだ。優しい光の、その優しさに甘えることなく、自らの足で歩きだせた時、開かれた扉の真実へ近づくことが出来る。
光に導かれ、やってきたのは悪戯な光の妖精。光に包まれた鮮やかな楼閣に、またひとつ、小さな光が集った。その眩さに、目を眩ませることなく、しっかりと前を見る大切さ、それもまた、光を司る大精霊が与えようとした優しさだった。
光に集ったのは妖精だけではなかった。3つ首の3匹、そう、魔界<ヘリスティア>の番犬もまた、眩い光に導かれて、この黄帝楼閣へやってきたのだった。首輪の外された番犬は眩い光に惑わされて、忘れられた自制心、鋭い牙を剥いた。
溢れた光に気が付き、光を憎む者すらも訪れる黄帝楼閣で、光の妖精、戦乙女は自らの、乙女の戦いを繰り広げていた。全ては我が主の為に、その身を呈して放つ光は、楼閣を輝かせ、そして更なる光となり、楼閣全てを包み込んだ。
光に包まれた楼閣が更なる光に包まれる。そして、直後に鳴り響く轟音。それはリミッターの解除された第五世代の自立型ドライバが落とした雷鳴。バーストモードの発動、機動力の暴走が呼び寄せた光は、誰も望まない、悪意ある光となった。
紫色の夜が訪れた時、紫帝楼閣への入り口が開かれた。少し弱気に見える幼い姿、だけどその目には力を宿し、未来を見据えた始まりの闇を司る大精霊は、審判の先にある、約束された未来を、辿りついてはいけない未来を、知らせようとしていた。
楼閣の隅っこで、闇に紛れて悪戯をしていたのは闇の妖精。誰にも気付かれないように、ただひとり遊びをしていたいだけだった。だけど、闇を司る大精霊の訪れに共鳴してしまった闇の力は、隠しておくことが出来ないくらい大きなものになっていた。
訪れた紫色の夜、活動を始めた闇の鴉達は羽音を頼りに集い始める。ここは何かが違う、野生の勘は闇を司る大精霊の訪れを察知した。大きくなる闇の力、闇と闇の共鳴<リンク>はご褒美となり、そして、行く手を遮る大きな脅威にもなった。
闇に包まれた楼閣は、闇の妖精、魅惑な乙女にとって最高の楽園だった。繰り広げられるのは誘惑。魅了された者はこの世界に二度と戻ってくることが出来ないほどの乙女の誘惑は、時として、闇だとわかっていながらも、幸せを感じさせるものだった。
何故誰も気が付かなかったのか。飛翔力の暴走は、闇に紛れ、鐘を鳴らす暇さえ与えず、紫帝楼閣のすぐ側まで来ていた。解除されたリミッターにより増した飛翔力は、全て、予想を遥かに上回っていた。夜の帳の中で、闇に紛れた闘いが始まる。
全ての始まりは、何もない。そう、無から全てが始まる。そんな始まりの無を司る大精霊が伝えようとするのはこの世界の理。自らの産まれた理由も、その存在理由すらも知らない大精霊が、無の起源<オリジン>がいう、この世の理とは。
何も無い楼閣に、理由も無く現れる無の妖精。自らの意志とは関係のない場所で、産まれてしまった存在理由。自分の存在を隠してしまいたい、誰にも見つからずに、ただひとりで遊びたい、そんな悪戯好きの妖精に、悪意はなかった。
無の力が集まり始めた無帝楼閣に、にじりより、剥かれた毒牙は魔界<ヘリスティア>の無の蛇のもの。これから何かが、大きな何かが起きようとしている、その前触れを気付かせた野生の勘、防衛本能は毒を更なる猛毒へと進化させた。
何が起きようと、無の妖精、幽霊の乙女にはそんなこと、どうでもよかった。ただちょっとお祭り気分、そんな慌ただしい世界を眺めているのは嫌いじゃなかった。薄らと浮かべた乙女の微笑、それは少しだけでも世界に興味を持てた表れ。
予定調和な大型ドライバの訪れ。そして当然、何者かに外されていたリミッターに、発動されたバーストモード。激化する統合世界<ユナイティリア>に訪れようとしている黄昏の審判を前に、無の力が集った無帝楼閣は窮地に陥っていた。
最後の楼閣は白帝楼閣シュラだった。炎、水、風、光、闇、無、その全てを司るその楼閣に住まう無数の獣達。魔界<ヘリスティア>の光の犬、闇の鴉、無の蛇は種族を越えて集い、そして審判の日へと向かう統合世界<ユナイティリア>を盛り上げる。
発動されてしまったバーストモード、永遠に繰り返される止まらない暴走、大型ドライバは約束された未来へと、その足を止めることはない。解除されてしまったリミッターにより、止まらないその動きを止めるには、無理矢理にでも破壊するしかない。
炎の狐、氷の狼、風の猪、その全てが牙を剥く。幾つもの牙が織りなす獣達の宴。野生の血を身体中に巡らせ、研ぎ澄まされた狩猟本能が踊り出す。それがいったい何の為なのか、獣達に問いかけても、答えなど返ってくるはずもなかった。
次第に明るみになるのは「黄昏の審判」の真実。混乱が増し始めた統合世界<ユナイティリア>を制止する者達の訪れ。冷静さを欠如したこの世界ではもう、敵も味方も関係なく、ただ、各々が信じる道を、ただひたすらに進むしかなくなっていた。
再び姿を見せた無の大精霊は、自らが生まれた意味に何もなかったことを告げた。そして、何もないからこそ、新しい道へと歩き出せると。何も持たないことは、恥じることではない、何も無いからこそ、約束されることのない未来を、掴みとれると。