魔界<ヘリスティア>の深い黒の森の中心に聳え立つ御城に席を構えた赤の王女、アカズキン。使役するのは自立型ドライバ【ヴォルフ】。思春期の少女は願っていた。そう、普通でいたいと。繰り返されるありきたりな、だけど楽しい日常。しかし、そんな彼女の日常は、審判の日が近づくにつれ、崩れ去っていく。
666議会により、新たな王として選出されたアカズキン。賑いを見せる黒の森。きっとこの宴が最後の宴。そう、皆気付いていた。審判の日を阻止出来ない限り、選べる未来はないと。赤の女王は玉座で待っている。自分を超えてゆく、共に審判の日に立ち向かう人間を。ドライバの【ヴォルフ・シザー】と共に。
魔界に位置した黒の森の奥深く、人知れずそびえ建った赤き城がみせた賑わい。それは新たな赤の女王が666議会により選出されたから。さぁ、生まれたばかりの赤の女王を、共に審判へと抗う仲間へと。女王は玉座でその時を待っている。
黄金色の昼下がりに、おいでなさいませ不思議の国へ。自立型ドライバ【チェシャ】が刻む時間さえ忘れさせるお茶会。スペードのスプーンにクラブのカップ、ハートのクッキーにダイヤのシュガー、女子の嗜みは世界共通。跡継ぎ問題なんて、角砂糖と一緒に溶けちゃえばいいのに。アリスは午後の紅茶に手を伸ばした。
青いドレスに身を包み、青い瞳を輝かし、青い春を終えたばかりの、青の女王はカップへと手を伸ばす。走る緊張、静寂の間。【チェシャ・クロノ】の刻む秒針だけが王広間に鳴り響く。審判の日へと、集結した不思議の国の全兵力は思い出にふけ、家族を想い、最期の覚悟を胸へ問う。そう、アリスの紅茶が空く前に。
黄金色の昼下がりに、迷い込んだワンダーランド、一面氷の世界を抜けた先に待っていたのは青き城。覚悟を決めた全兵力、その力の使い道を誤らせない為にも、青い春を終えたばかりの青の女王が、最後の紅茶を飲み干すその前に。
幾億種の魔界植物が生い茂る眠れる森の最深部、緑に覆われた御城の最上階。バラの薫り包まれたイバラが立てる穏やかな寝息。彼女の眠りを妨げまいと、幾重にも茨を張り巡らせる自立型ドライバ【ブランブル】。即位問題なんて露知らず、今日も彼女は夢を見る。深い、深い、眠れる森の、深い、深い、眠りの中で。
今日も眠れぬ夜がくる、緑の女王がこぼした溜息。開かれた扉、漏れ出した光が育ませたドライバ【ブランブル・ソーラー】。そしてイバラを深い眠りから、夢の世界から呼び覚ました。眠れる森の眠れる夜を求め、重い体を持ち上げて、彼女は審判の日へと歩き出す。深い、深い、眠りの為に、深い、深い、茨の道を。
深い、深い、眠れる森の最深部、茨に覆われた緑の城の最上階。開かれた扉から溢れた光が、眠れる姫を、緑の女王へと目覚めさせた。寝起きでおぼつかないその足取りで、審判の日へと向かってしまわぬよう、半分夢を見ているうちに、新しい夢を。
ガラスの城の舞踏会、それは魔界で最も華麗な夜、フィナーレに選ばれるのは新たな黄の王。綺麗なドレスに憧れて、ガラスの靴に想いを馳せる、そんなシンデレラは自立型ドライバ【トゥエルブ】と共に、掃除に洗濯に大忙し。だけど、彼女の前に現れた魔法使い、輝く世界、煌めく夜、少女は大人の階段を上り始める。
12時の鐘が鳴り響き、舞台の幕は降ろされる。けれどひとり、置き去りの少女。それはガラスの靴に選ばれし新たな王。降ろされた幕は再び開かれる。新たな時代の、黄の女王シンデレラの時代の幕開け。12は0へと意味を変え、【トゥエルブ・ゼロ】と共に新しい時代を。華麗な夜、女王は舞台の階段を下り始める。
終わりを告げた華麗な舞踏会、そして生まれたのは、ガラスの靴に選ばれし新たな黄の女王。黄の城から湧き上がる歓喜、始まる0時、それは新しい時代の、新たな女王の時代の幕開け。眩い光に照らされた舞台の階段を下り始めた女王を、いざ迎えに。
魔界<ヘリスティア>の竹林、月御殿で夜涼みをするカグヤ。ドライバの【ミタラシ】と共に、月を頼りに歌を詠む。それは遠き故郷、月への想い歌。いずれ訪れる十五夜、逃れ得ぬは恐怖と不安、曇らせる心。やがて明け始める空を見上げ、彼女は再び歌を詠む。どうか夜よ明けないで。願い虚しく、沈み始める月と空。
竹を揺らす風、わずかな葉音だけが響き渡る静寂の夜、欠けた月が満ちる頃。受け継がれた紫の王衣に袖を通した彼女が【ミタラシ・ゲッコー】と共に詠みはじめる歌。月下に舞い踊る願いの言の葉。今宵、十五夜に紡ぎ出された歌、それは、満ちたての月が照らし出した、紫の女王カグヤの、はじまりの歌。
生い茂った魔界の竹林の中、月夜に照らされた月御殿、故郷の月へと想いを寄せ、詠みはじめた歌。それは新たな紫の女王のはじまりの歌。十五夜のお月様が照らす言の葉を頼りに、満ちた月が欠けるより早く、生まれたての女王の、すぐ傍へと。
7匹の自立小型ドライバ【ピグミーズ】と共に暮らす少女、シラユキ。くだらない女の嫉妬が彼女をひとりにした。吐き出す毒はせめてもの反抗。復讐の夜、阻害された過去を、過ごした孤独の足跡を消しさるよう、深々と白い雪が降り積もる。すぐに消える小さな足跡、そしてすぐ生み出される、迷いのない深い足跡。
鏡よ鏡、この世界で最も美しい女性は誰かしら。亡骸と化した女王の間で、満面の笑みを浮かべた少女は問いかける。7つの鏡に7人の、1人の幼い新たな女王を映し出した【ピグミーズ・ミラー】。復讐を遂げた朝、晴れ渡る空、輝く白銀、刻まれる新たな足跡。白の女王シラユキが刻む足跡を消す雪はもう、降らない。
辺り一面白銀世界、だけど、雪は降り止んでいた。まるで、新たな一歩を踏み出し、開かれた扉へと向かおうとする、ひとりの少女の足跡を消さない為かのように。遂げた復讐、鏡が映した新たな姿、それは小さいながらも、新たな白の女王だった。