キスミー、ダーリン。扉が開かれた夜、交わった世界の片隅で、青い瞳に恋をした。禁忌の出会いに炎を燃やす、一途な乙女の恋心。きっとこれが最期の恋。刺さるような冷たさ、ねぇもっと私のことを見つめてダーリン。その冷たい瞳になら、私は堕とされたっていいわ。炎の妖精プチドナは今日も恋に恋焦がれる。
恋に恋焦がれ火照らす身体、刺さる冷たいその視線、今は気持ちいい絶頂感。抱かれたい、貫ぬかれるならその氷の刃で。禁じられた恋だとしても、例え火遊びだとしても構わない。この火照った身体を冷ませられるのは、あなたのその刃だけ。より強くなる想い、燃える恋は少女をエキドナへと。キスミー、ダーリン。
穏やかな昼下がり、聞こえる小鳥のさえずり、飛び交う蝶々、辺り一面の大草原。生い茂る草花の中、交わってしまった世界、天界<セレスティア>の平和を願い、探していたのは四つ葉のクローバー。風の妖精プチラウネは願いを風にのせ、芽吹いたばかりの新たな希望の緑へと、そっと、小さなその手を差し伸べた。
迷い込んだ森の中、抜け出せない迷路。心静かに、聞き耳を立てる。聞こえてくるのは草木や花々の声、届けられたその声は少女を出口へと誘う。迷いの森の出口に辿り着く頃には新しい姿で、アルラウネとして出て行けるように。緑に包まれた世界、僅かに差し込む木漏れ日は、少女を少し大人へと育ませた。
そんなにひとりの夜が怖いのなら、私が一緒に眠ってあげる。月が照らす夜の狭間、窓が開けばそこには悪戯に笑う闇の妖精プチバスの姿が。浄化され、妖精になろうとも、忘れることのない、見る者全てを魅了する小悪魔な笑顔。彼女は悪魔か妖精か、その答えは一晩共に過ごせばわかるだろう、朝を迎える頃には。
もっと私を求めていいのよ、近づく唇、感じる吐息、香る色気、艶やかな髪、触れ合う肌、繋がれた小指、それは大人になったサキュバスの姿。気が付けば寝室へ、大人な夜を連れてくる。共に朝を迎えた者は皆、口を揃えたように言う、彼女は天使のふりした悪魔だと。だけど、その夜は、間違いなく天国だったと。
気が付いたら浮かんでいた。既に落としてしまった命にすら気付かずに。だけど無の妖精プチーストにとって、そんなことはどうでもよかった。ただ、最近気になることは、無くした足の行方。だけどそれも、空へ浮かび、ただ漂っていたら、どうでもよくなってしまった。自分が誰かなんて、そんなことに興味はない。
ふわふわ浮かび、揺れていた。このまま全て、忘れてしまう事が出来たらいいのに。気付けば頭に乗っていた黄色い輪、纏った羽衣、白いワンピース、それは少女が大人になり、ゴーストへと昇華したから。だけど彼女はそんなこと、どうでもよかった。黄色い輪に関してだけ言えば、少し可愛いと気にいっていたようだ。
止まらない胸を焦がす想い、大人になれない恋心は今日も体を火照らせた。もし明日世界が終わるなら、その冷たい腕に抱かれて眠りたい。目標を失くしうつむく氷刑者の背中、色の消えかかった瞳、それでも彼女が貫く恋。そんな恋乙女エキドナに向けられた氷の刃。命懸けの恋が迎えるのは、終わりか始まりか。
身に纏いし穏やかな風が、刃となり森乙女の命を狙った。間一髪で危機を退けるも、目の前にはガスマスクをした一人の悪魔が。なぜ、私を。そう、彼女達死刑執行人学園の生徒には、罪人以外に手出しをしてはならない決まりがあった。シュコーシュコー、ガスマスクから僅かに零れた言葉、妖精達は皆、罪人なの、と。
終わってしまったショータイム、命懸けの戦いは彼女を悪乙女へと。そろそろ、天使のふりは止めちゃおっかな。片目を閉じた無言の合図は多元嬢へと投げられ、そして一人、天界<セレスティア>からの救いの手を振り切り、自らが生まれた魔界<ヘリスティア>へと。サキュバスは歪な平和より、正常な混沌を選んだ。
ふわり、ふわふわり。掛け違えた死装束に気が付くこともなく、霊乙女ゴーストはただ浮かんでいた。透明な空に映し出された未来、あぁ、もう行かなくちゃ。だけど面倒くさいなぁ。あれ、あの人なんで頭に尻尾が生えているんだろ。何にでもなれる無の力は、悪意ある無の力に引き寄せられ、そして京の都を後にした。