燃える尻尾を持った魔界<ヘリスティア>の狐、コンコン。黒の森の狩人と呼ばれるほどの好奇心旺盛なその性格は、何人たりとも侵入を許さない。また、死した時には殺された者に憑き、末代までもその人生を狂わせ続ける。もしも手懐けさせることが出来た時、それは黒の森に住まう赤い王女への道標となる。
賑わう黒の森に立ちこめた煙。九つに割れた尻尾は悪しき炎を燃やした。クビギツネがもたらした幸福は赤の女王、魔界<ヘリスティア>を導く者の誕生。人間にとってその炎の力は紛れもない悪であり、そして履き違えた悪だった。役目を終えた黒の森の狩人が次に示した好奇心、それは約束された未来の行く末。
青に包まれた不思議の国、それは魔界<ヘリスティア>の一区画に出来たワンダーランド。氷のたてがみを持った狼、ワオンが遠吠えを上げた上弦の夜。それは侵入者を告げる合図。その声に導かれた狼達が集い、成した群れは侵入者を地の果てまでへと追い立てる。青の王女への謁見は、氷の世界を抜けた先に。
昼下がりのお茶会は終わり、夜を迎えたワンダーランド。昇った月を目指して上げた遠吠え、氷の狼の声が氷の世界に響き渡る。それは新たな青の女王の、新たなる戦いを知らせる合図。集いしは、開かれた扉への憎しみにも似た感情を抱いた悪魔達。それでもまだ足りない、ハティは再び、昇った月を追いかけ始めた。
光すら届かない眠れる森の張りつめた空気。風の体胴を持ったのは猪、周囲に警戒を促すブヒー。聞き慣れない足音、研ぎ澄ませた敏感な神経は大きなその体を隠した。いつまでも目覚めない緑の王女の、その眠りの妨げを取り除こうと鳴らす後ろ足。草木かき分け一直線へ、衝撃が揺らした命は音も立てず風に消える。
開かれた扉が変えた眠れる森の風向き。魔界<ヘリスティア>の風に吹かれた猪は一直線に、風を巻き込みながら迷うことなく走り続ける。なぎ倒される草木、産まれる獣道、ベヒモスの後ろには一本の道が続いていた。それは、目を覚ましたばかりの緑の女王が、自分の足で、迷うことなく歩いて行けるようにと。
ガラスの城、舞踏会の夜。光の体毛を持った番犬ガルルが示した高貴なる者だけへの服従。しつけられた狩猟本能が向けられたのは、招かれざる来場者。振られた尻尾、外された首輪、解き放たれた鎖、剥かれた牙は最上級のおもてなしへと。全ては華麗な夜のフィナーレを、黄の女王の、光輝く誕生を迎える為に。
迎えたフィナーレ、鳴り止んだ音楽と共にケルベロスは目を覚ました。そして上がった歓声、喜びを見せるのは3つの首の、3つの表情。使命を果たした番犬は、与えられた焼き菓子に尻尾を振った。わかりやすい程の服従心、それは新たな黄の女王のものとなり、共に戦う光の牙となる。もう、番犬を縛る鎖は必要ない。
魔界<ヘリスティア>に昇る月に見守られた竹林、紫色の空を飛び交う闇の羽を持った鴉、カァーカ。発達した知能は人間をも凌ぎ、光輝くもの全てをそのくちばしでついばみさる。ゆれる葉音に重なる羽音、交じり合う好戦的な高い鳴き声、その全てが鳴り止んだ時、紫の王女の詠みあげる悲鳴にも似た歌が聴こえる。
鳴り止んだ雑音、響き渡る歌、それは欠けた月が満ちた夜。鴉は紫の女王の歌に乗り、漆黒の翼で天高く踊り舞う。紫色の空へ羽ばたいたヤタガラスは、三本の足で、三つの世界の行方を追いかけた。光は一体どこにあるのか、輝きを好んだ闇の行方こそ、この交わった統合世界<ユナイティリア>を元へと戻す鍵を示す。
止むことを忘れ、いつまでも降り積もる雪、溶けることのない、白銀の世界。くねらせた長い体、遊ばせた舌先、悪戯に噛み付く牙、流れ出す毒は死への誘い。無の鱗を持った蛇、シュルルは待っていた。訪れない春を、行方をくらませた白の王女の帰りを。雪に埋もれた空白の時を動かす、新たな女王が産まれる日を。
満月の夜、降り続けた雪は止む事を思い出した。思い出させたのは没落した女王、そして帰ってきた白の王女。無の蛇、バジリスクは王女の軌跡を辿る。半分に持ちあげた体が撒き散らかせた毒と、既に撒き散らかされていた毒は混ざり合い、苦難の道を苦しみの道へと変えた。もう誰にも、その道を辿らせないようにと。