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その研究施設には、生きていくうえで必要最低限のもの以外、何も用意されていなかった。研究者にとってはこの上のない、研究に没頭出来る施設。だけど、普通の人から見れば、この虚無研カルツァクラインは独房と何ら変わり映えしない施設だった。
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常界へと降り立っていた無刑者にも、新たな白の女王の即位の話は届いていた。何故このタイミングで。何が起こるのかはわからない。ただ、何かが起ころうとしていることだけは確実だった。何かを知る為に、未来を知る少女の元へ、無刑者は急いだ。
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被験体019、左腕に貼られた番号。ごめんね、これも全部、仕方がないことなの。虚ろな目の天才は、被験体へと謝りの言葉を述べた。抜き取られる無の力、せめてもの償いにと、天才はこの抜き取ったという事実を全て、無に帰した。
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何も記載されていない白紙の起動実験レポートを受け取った男は問いかけた。これが君の答えかい。無言で首を縦に振る天才。今更、約束された未来を変えることなど出来やしないよ。無言で首を横に振る天才。虚ろな瞳に、微かな光が宿っていた。
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無に魅せられし天才の部屋に配置された無数のモニター。天才は世界の全てを見ていた。そして、世界の監視結果により設計された自立ではない自律の兵器。聞こえなくなった未来への不安を振り払うよう、無心で僅かな希望の開発を進めるのだった。