その日、事件は起きた。なんと、修復中も不動間から出なかった炎杖刀が、その場所から姿を消したのだ。だが、なぜ姿を消したのか。それは彼によく似た少女の行動を見れば一目瞭然だった。彼に似たジャージに、彼に似たゴーグル。そして、彼に似た杖刀型ドライバ。そう、ヒナギクが彼を探し回っていたからだった。
フィアにはわかっていた。対峙したトニングが捨てられることを。だから、私はあなたを放っておくことは出来ない。それは、一度は捨てられたフィアだから。そして、もう一度立ち上がることの出来たフィアだからこその想いだった。全力で止めます。
なぁ、あのとき俺たちの王様はなにを見てたんだと思う。ランは背中越しの男に問いかける。いつも一緒のオマエのことすらわかんねぇのに、俺が知るかよ。投げ捨てた言葉には続きがあった。だからさ、今度はあいつがなにを見ようとしてたのか、見に行こうぜ。カラン、コロン、開かれたのは古びたパブの出口だった。
神界で我関せずなカノッサ。私はたいして復興に興味はない。だけど、まぁ、イマの感じは嫌いじゃないわね。
偽りは炎か竜か。あぁ、私はいつ生まれたのか。徐々に失われる記憶。そして、徐々に失われる人としての肉体。そう、肉体ですらも人間であることを忘れ、竜に成り代わろうとしていた。上出来じゃないか。そんな偽炎竜に拍手を送る男。ようこそ、完全世界へ。そこにいたのは、砂上の楼閣に苦しむ教祖ではなかった。
最後の晩餐、近づいたと思えば遠ざかる背中。まだ幼いブルーノは、いまここにいられる意味を考える。ボスが認めてくれたからオレはここにいるんだ。覚悟を決めたブルーノ。円卓の騎士として恥じぬよう、アーサーが誇る騎士でいられるように、と。
歩き始めたギンジを打ち付けた雨。だが、決して動揺することのないギンジ。優しさってやつは、オマエがいたから備わったのかもしんねぇな。そこには誰もいない。だが、ギンジには見えていたのだろう。共に歩んできた、大切な友と呼べる存在が。
ボクを迎えに来たってことは、きっとあのふたりにも召集がかけられているんだよね。その質問は質問ではなく、間を埋めるためだけのものだった。で、どこへ行くかも察してくれ、ってことかな。ターミナルに用意されていた特別列車。行き先に表示された「常界」の文字。少し長旅だね、仲良くやろうよ、水波卿くん。
少女は、お姫様に憧れていた。いつかきっと、白馬の王子様が迎えに来てくれる。自分はピンクのレースのドレスに身を包むんだ。そんな恋に恋する森乙女は一人、回転木馬に跨り、瞳を開けた夢を夢見ていた。そう、それはあくまでも、夢だった。