『聖学には俺たちがいるってこと、忘れないでもらえるかな』 聖学に存在する様々な派閥。そのひとつに武闘派集団の紅煉愚連隊が存在していた。そして、紅煉愚連隊の切り込み隊長であるファブラ。だが、切り込み隊長であるにも関わらず、愚連隊で隊列を組むときは必ず前から3番目だった。背の順が存在していた。
『……この制服はなんでしょうか、ちょっとよくわかりません』紅煉愚連隊の一輪の花、ニズル。なぜ一輪の花と呼ばれたのか。それは地面にひきずるほどの長いスカートが由来していた。そしてこの制服を与えた人物がいた。なぜ彼はこの制服を与えたのだろうか。愚連隊の背の順、その先頭はスケバンスカートだった。
『フンっ、フンっ、フンっ、……フンっ、フンっ、フン、フ!』ウロアスが手にした100kgの鉄アレイ。いつなんどきも、総長を守るために体を鍛えておくのは当たり前のことだ。紅煉愚連隊、背の順4番目の筋肉。その筋肉は総長のためではあるが、実は総長に少し引かれていることを、彼はまだ知らないのだった。
『ふぁっくゆーだぜ、このやろうども、おれさまはむてきだ』 誰にでも幼き日が存在するように、のちに紅煉愚連隊の総長になる男にも幼き日は存在していた。そう、聖門学園小等部の伝説に名を残した生徒ヴェルン。口を開けばスラング。だが、幼き日の彼は気づいていなかった。立てるべき指を間違えていることに。
『これでオレは自由だ、自由からの卒業だ、マリッジブルー!』ついに迎えた小等部の卒業式。色々と間違えていることに気がつかないまま、ヴェルンは小等部を卒業することになった。彼はすぐに中等部が待っていることを知らない。束の間の春休み、自転車に跨り旅に出た。やがて沈む夕日、お腹が空いて帰宅した。
『制服と言や、学ランに決まってんだろ、上等だぜコノ野郎』 聖門学園中等部へと進学を果たしたヴェルン。だが、なんのこだわりか、用意された制服ではなく、自分で用意した学ランに袖を通していた。そして、当然のように向かった屋上手前の踊り場。今日からここが俺サマの城だ。そして、ついに物語は動き出す。
『あぁ、かかってこいよ。俺サマは逃げも隠れもしねぇから』 ヴェルンに戦いを挑み、敗れたファブラは配下となった。また、スポーツ万能のウロアスもヴェルンに敗れ、道を踏み外した。答案用紙を盗むことに長けた知能犯であるニズルもまた、ヴェルンに気に入られた。こうして、紅煉愚連隊は生まれたのだった。
『俺サマたちこそが、この学園のテッペンに相応しいんだ!』 無事、4人揃って聖門学園高等部に進学を果たした紅煉愚連隊。そして入学式、一番に目指したのは屋上の踊り場。だが、そこには衝撃が存在していた。この学園、屋上への出入りが自由だと。その理由は屋上でいつも泣いている養護教諭がいたからだった。
『紅煉に燃ゆる夕日に誓おう、俺サマたちの永遠の青春を―』 青春は短い。春が告げる始まり、夏が運ぶ喜び、秋に気づいた切なさ、冬の雪の明かり。やがて訪れた聖門学園の卒業式。前代未聞の、全学年、全生徒、全教員の卒業。俺サマたちは、ここで終わりだ。いつかまた、会えると信じているぜ。グッバイ、青春。
なにをしてるんだい。ロキは夢中で鉛筆を走らせる神才へと声をかけた。やっぱりモノを作るのは楽しいね。神才が書き上げた一枚のイラスト。せっかくだから、君にもあげるよ。そして、あっという間に出来上がったパーカー。キミにはボクがこう見えていたのかな。パチン。悲しい顔のピエロは、とたんに笑いだした。
もぉ、勝手にデザインいじらないでよね。マクスウェルは口を尖らせながらもオリジナルデザインのパーカーに袖を通した。うんうん。鏡の前、満足げな笑顔。神のみぞ知る、いい言葉だ。そして、神才は勝手にいじられたデザインのもうひとつに気がつく。神はキミを愛してる、って、本当に君は趣味が悪いんだから。
金色の光が止んだとき、アカネは自分が生まれ育った家にいた。暖かな縁側、台所から響く包丁の音。そして、アカネが自分の死を直感したのは、目の前に懐かしい男が現れたからだった。久しぶりだ、アカネ。そこにいたのは、炎才パブロフだった。
縁側に並んだ親子。ここはどこなんだ。きっとここが再創された世界、誰しもが幸せになれる世界……から、外れた例外の世界だろう。アーサーが下した世界の決定、それはディバインゲートを使用し、世界を再び構築すること。じゃあ、なんで俺は。
なぜ、アカネが例外の世界に存在していたのか。それはきっと、オマエが知ったからだろうな。アカネが常界の始まりの地で知ったディバインゲートの真実。そう、扉そのものでもあるアイツが、オマエをこの世界へ隔離したんだ。次の季節の為へと。
俺はそんなこと、望んじゃいない。俺たちは一歩ずつ、それでも前に進んできた。道を踏み間違えることだってあったよ。だけど、俺たちはイマを生きたいんだ。扉がもたらす未来なんか知らない。俺たちの未来は、俺たちが作っていくもんなんだから。
パブロフが突き出した拳。派手に壊してこいよ、そのオマエの拳で。アカネが突き出した拳。あぁ、当たり前だ。茜色に燃える夕日が照らしだしたのは、親子によって交わされた最後の約束。これで、本当にお別れだ。アカネ、オマエはイマを生きろ。
神は人々を愛している。ボクはボクなりに愛しているつもりなんだけどね。ニヤリと笑う右側の面。そう、愛の形はそれぞれである。そんな想いが込められたグレーのパーカー。どうだい、似合ってるだろ。そんな姿を見て、左側の面は呆れていた。
すべては神のみぞ知る。そうさ、私は全部知ってるし、人間は全部知らないの。余裕の笑みを浮かべた左側の面。どうして右側の面が泣いてるのかって。単純で簡単な疑問。そんなの、デザインバランスに決まってるじゃん。神才はいつもの神才だった。