まだまだ、こんなもんじゃないよ。オリナが振り回す二対の棍。私だって負けないんだから。ミドリが振り回す大きな棍。ふたりは戦いの中にいた。楽しそうにも見え、辛そうにも見える。ふたりとも、互いの感情を戦うことで上書きしていたのだった。
ミドリは葛藤していた。アーサーが世界の敵であること。そして、アーサーがミドリの大切な人たちの大切を壊している事実。私だって、アーサーさんを処刑したいわけじゃない。だけど、私たちが止めなきゃ、他に誰がアーサーさんを止められるの。
その言葉が聞けて安心したよ。だが、オリナは知っていた。アーサーのすぐ側で活動してきたからこそ、アーサーの処刑に意味があるということを。だからこそ、アーサーを渡したくはなかった。最後の力を振り絞ってでも、決して渡したくはなかった。
潮風が気持ちのいい極東国の南の離島。オリナは二対の棍を手に、真っ白な砂浜で汗を流していた。いい動きをしている。オリナに話かけたのは査察に来ていたアーサーだった。お兄さん、本島の人かな。これはこの島に伝わる伝統の武器と武術なんだ。
手合わせを頼めるか。アーサーの好奇心。別にいいけどさ、怪我しても知らないからね。純真無垢で迷いのないオリナの拳。そして、その拳を楽しそうに受けとめるアーサー。勝敗が決めたオリナの未来。外の世界には、こんなに強い人がいるんだね。
与えられたラモラックのコードネームと、新しい世界。ラモラックにとってはすべてが新鮮だった。自分よりも強い仲間たちと共に鍛練し、切磋琢磨する日々はラモラックに充実を与えた。そう、ラモラックにとって世界が広がり始めたのだった。
世界が広がれば、視野は広がる。同じ世界評議会という組織に属しながらも、そこには様々な考えが存在していた。存在する足の引っ張りあい。だけど、アタシはボスを信じてるよ。アーサーはラモラックにとって、世界の中心に存在していたのだった。
広がったラモラックの世界の中の小さな世界。それは円卓の席についた仲間たち。少しずつ歳をとる。だが、それでも変わることない関係。この広い世界に、信じ続けられる居場所が出来たよ。気がつけば、そこはラモラックの第二の故郷となっていた。
世界評議会の職員でアーサーを知らない者はいなくなっていた。査察局勤めのリオもアーサーをよく知る存在であり、アーサーをよく思わない存在だった。そんなリオに下されたのが私設特務機関への異動辞令。その裏側には大いなる力が働いていた。
誰がどのような意図でリオを異動させたのか。その理由など、アーサーもリオも気にはしていなかった。アーサーはリオを受け入れ、そしてリオは自身をアーサーへ委ねた。与えられたコードネーム、モルドレッド。こうして、ふたりの関係は生まれた。
アーサーと行動を共にするようになり、モルドレッドの考えに変化が生じていた。いままでアーサーという存在に抱いていた理想主義という虚像。そう、アーサーは理想を掲げながら現実を見つめる。その中で常に理想へ近づく選択をしていたのだった。
機関の者だけが知っているアーサーの姿が存在していた。コードネームを与えながらも、ときとしてニックネームで呼ぶことがある。それは、アーサーなりの愛情表現なのだろう。そして、モルドレッドはそんなアーサーを微笑ましくも思うのだった。
最後の晩餐、誰かに参加を強制されたわけでもなく、自分の席についていたモルドレッド。だが、それでもモルドレッドはアーサーへ疑心を募らせていた。そう、彼は死ぬつもりでいるんじゃないかと、死に場所を決めたのではないかという疑心だった。