その路地裏は迫害された獣たちのたまり場だった。俺たちはこの箱庭でしか生きることが出来ないんだ。だが、ここだけは俺たちの楽園だ。そう言い残し、姿を消してしまった親友。そして、エジィが再びその姿を目撃したのは、光聖人に敗れ、配下となる道を選んだあとのこと。俺たちは、別々の場所を見つけたんだ。
光剣徒エジィは光聖人の剣だった。この剣はアイツを守る為だけに振るう。たてた誓い。なら、丁度よかった。あなたのその剣は私の為であり、友の為にもなるってことね。別々の主君を選び、別々の道へと進んだニ匹の獣。そして、二匹の獣の道は再び交わる。そう、英雄っていうのはね、討たれて初めて英雄になるの。
チャッピー、おいで。声をかけたのは闇聖人。君は、いつまでも私のそばにいてね。そんな寂しそうな闇聖人へと寄り添うチャッピー。安心シテ、チャッピーハトモダチ。シオンノコト、守ルダヨ。いつも、ありがとう。ふたりの時間を壊した第三の言葉。忘れないでね、君は「聖人」という一種の生き物だということを。
もちろん、わかってます。闇聖人は声の主を確認することなく、落ち着いた口調で答えた。私が聖人としての責務を果たすことこそ、私をこの場所へと育ててくれた恩返しなんです。たとえ、大切な家族を傷つけることになったとしても、それらも受け入れてくれる、大切な家族たちなんです。だから、私は裏切りません。
しばらくぶりだが、大きくなったな。背後から呼び止めた無聖人ニコラス。もっと驚いてくれよ。振り向いた顔が証明する血の繋がり。いまさら、父親面してんじゃねぇ。青年の瞳に映るのは自分へと突きつけられた銃口。たまには父親らしくさせてくれよ、だから、オマエにプレゼントだ。鳴り響く銃声。グッドラック。
なんだか、懐かしいな。色違いのスウェットに袖を通したのは、大人になったアーサーと、幼馴染の親友。昔、よくお揃いの洋服着せられてたっけ。蘇るのは、暖炉の橙色に染まった温かな思い出。そして聞こえてきたのは、優しい声と、優しすぎた嘘。だけど、俺たちが過ごした幾つもの時間は、きっと本物だったんだ。
お揃いの服なんて、着てたっけ。少しだけ照れてみせたサンタクローズ。だけど、なんだか不思議と落ち着くな。それはお揃いの服に袖を通していたからなのか、それとも、近くで胸の鼓動を感じていたからなのか。それはふたりだけが知る感覚。ふたりの間には他の誰にも知ることの出来ない、特別な時間が流れていた。
なんだ、寝てしまったのか。そっと、親友へ毛布をかけたアーサー。左肩に感じる体温、耳元をくすぐる寝息。親友の安らぎの妨げにならないよう、電源を切ったのは通信端末。こうなったら仕方がないな、今日は俺も臨時休暇とさせてもらうとするか。
ふぁ、よく寝た。目を覚ましたサンタクローズが覚えた違和感。コイツ、仕事のはずじゃ。隣から聞こえた寝息。んだよ、サボりか。再びかけられた毛布。それじゃ、俺は帰るからな。すれ違うふたり。だが、それでも、ふたりには大切な時間だった。