収獲魔が支配する魔界に位置するハロウィンランド、音もなく24時間稼働するお菓子工場、次々と生産されるのは悪意を持ったお菓子達。全ては子供を楽しませようと、それとも大人を驚かせようと、もしくは何かを収獲しようとしているのか。クッキャーは、そんなマスターの盾となる。例えその身が割れようと。
割れた盾に割れた頭、それでも挫けずに立ち上がったのは、一度死を迎え、そして生き返ったデッドクッキャー。全ては自らのマスター、収獲魔の為に。常界を勇ましく歩くその割れた姿はまさに漢。本当のハロウィンを、収獲魔が望むハロウィンを始める為に、死した戦士はその身が割れようとも、盾になり続ける。
ハロウィンランドに位置するお菓子工場の1区画、充満した甘すぎる程の甘い匂い。それは誰もが好きな美味しい匂いを漂わせ、ハニートラップを仕掛ける甘いレディ、キャンディアの生産ライン。常界へと出荷される甘い悪意は、10月31日、人々に驚きと恐怖を与える為、暴れ回る。例えその身が砕けようと。
出荷された甘い悪意は、常界にとびきり甘い匂いを撒き散らかした。一度は砕けた頭、だけどそれは、デッドキャンディアへの進化の始まりに過ぎない。再び撒き散らす甘い匂い、繰り返すハニートラップ、甘い悪意は甘い恐怖となり、本当のハロウィンを起こし始める。マスターが望む、ハロウィンを叶える為に。
キーンと冷えた大型冷凍庫、そこには出荷を控えた無数のチョコラ達で溢れかえっていた。我こそ先に、人々に恐怖を与えんと奮い立つ。ただ、彼らはまだ、冷凍庫の外の世界を知らなかった。そして我が身に訪れようとしている滅びの運命を。それでも、彼らはマスターの為に戦うだろう。例えその身が溶けようと。
訪れた常界、初めて体験する冷凍庫の外の世界、触れた常温、そして時間と共に溶け始めた頭、甘い悪意はデッドチョコラへと進化を迎えた。時限式の進化、それはマスターが本当のハロウィンを、収獲魔による収獲を始める合図だった。人々へと襲い掛かる甘い悪意は、その体全てが溶け終わるまで、終わることはない。
魔界に送り届けられた棺。これは、警告と受け取るべきなのかしら。それとも、挑発と受け取るべきなのかしら。その意味を知るのは、その棺の差出人のみだった。それなら私は、好きに解釈させてもらうわ。そして、その行為を解釈したのは魔参謀長ファティマだけではなかった。僕の解釈だと、警発かな。挑告かな。
ほら、見てください。南従者の一声は、旧教祖の視線を誘導するに十分だった。西から男が一人、北から男が一人、東から女が一人、装いを新たにした三人が、再び一つの場所へと集まろうとしていたのだった。そしてほら、もうじき、夜が明けますよ。
気がついたら、この格好をしていたんだ。狼男に扮したリヴィア。そして、そんなリヴィアを物陰から見つめるシオン。ふふ、私の目に狂いはありませんでした。あまりにも似合うその姿を見つめ、シオンはひとり、満面の笑みを浮かべていた。