引き抜かれた刃から滴り落ちる血。駆け寄る西魔王。あの日、あなたは私の手をとってくれた。なんで。だから次は、あなたがお兄さんの手をとる番だよ。どうして。あなたと過ごせて、私の現世は最高でした。西魔王の腕の中、水通者は瞳を閉じた。
崩壊した西館、重なった瓦礫から這い出したアスルは辺りを見回した。かすかに灯された光。ここは地下か。二人を探し歩き出したアスルが見つけたのは、地下道の先の一つの扉。そして、扉から漏れて聞こえたのは、無数の声が呼ぶ一人の名前だった。
退避した極楽竜と、逃げることのない北魔王。その覚悟に、恥じぬ最後をくれてやろう。燃え盛る炎。これが、オマエの覚悟なんだな。ライルの問いに、ニヤリと返した炎。そして、力なき聖剣が切り裂く北魔王の信念。尻尾振る相手を、間違えんな。
居場所を求めることを、否定しない。語り掛けるミドリ。あの子も、そうだった。巻き起こした風に乗せる想い。だけど、居場所はきっと、この場所じゃない。近づく決着。なら、どこだっていうのよ。棍が打ち砕いた心。場所じゃなくて、人なんだよ。
教団地下祭壇のモニターに、西館から続く隠し部屋の様子が映されていた。横たわった金髪の男が流す血は、身にまとった黒いスーツを赤に染めていた。皆さん、失踪していた西魔王も、教祖様の為に、我々の為にと、最期まで戦ってくれていたのです。
この日、教祖クロウリーはグリモア教団の過去となった。そして、旧教祖に仕えていた南魔王パイモンは行方不明のまま、北魔王アマイモン、東魔王オリエンス、西魔王アリトンの三人は敗れ去った。こうして、完全なる落日は終わりを迎えたのだった。
親子の話に水をささないで頂戴。ファティマの前に割って入ったのはリオだった。その後ろ、ヴィヴィアンを後ろから抱き止めたライル。天界の平和だとか、因果を断つとか、こんなやり方しか出来なかったのかよ。それは怒りであり、悲しみだった。
オレさ、全部知ってたよ。アイツとの出会いも。歳が近いオレを育てたのも、オレに戦い方を教えたのも、すべてはアイツを、誰かの子供を守る為だったんだろ。ごめんね、私の汚れた手で育てちゃって。それこそが、ヴィヴィアンの罪の意識だった。
だけど、最後くらいは世界の為に戦った立派なお母さんでいさせてもらえるかな。そして、ヴィヴィアンが振り払うライルの両腕。もう、頑張らなくていいんだ。えっ。そして両膝から崩れ落ちるヴィヴィアン。今まで育ててくれてありがとう、母さん。
大剣を握り直し、合図を送るライル。約束を忘れないで。共に同じ男を殺すと誓った約束。あぁ、オレは自由になるんだ。消えるリオの影。そして、なぜか目を見開いているファティマ。それはライルの背後に、更なる影が生まれていたからだった。
ひとりの女王は、光り輝く理想を掲げた。それは誰しもが幸せになる世界。誰かが言った。それは現実から目を逸らしているだけだと。だが、それでも理想だけを追い求める女王がいたとしたら。それは誰しもが出来ることではなかった。
ひとりの女王は、闇をはらんだ現実を掲げた。それは誰しもが辛さに耐える世界。誰かが言った。それは理想を諦めてしまっているだけだと。だが、それでも現実だけを追い求める女王がいたとしたら。それは誰しもが出来ることではなかった。