不協和音の正体は炎だけではなかった。地方都市が炎に包まれると時間を同じくして、また別の場所では街が水に飲み込まれていた。全て、流してしまえばいいんだ。ツヴァイは増幅型ドライバ【コード:A】から、ただ水を溢れさせていた。どうせ、僕らには名前すら与えられない。その溢れ出る水は、涙にも似ていた。
全てを水に流させてはくれないんだね。ツヴァイの前に立ち塞がったのは水咎刀士だった。流そうとする者、留めようとする者、そんな二つの想いの流れはぶつかり合う。そして、そんな流れを壊したのは銃槌だった。まさかだよ、護衛の対象がアンタだったとは。再会を果たす二人。こんな偶然って、二度もあるんだね。
オレもアンタと一緒で、目を覚まさせたい人がいるんだ。アスルが告げた聖王代理の計画。聖戦を止める鍵となる聖王奪還へと向かった炎咎甲士と円卓の仲間。そして水を留めた少年は双子の弟との決着を、新しい隊服に袖を通した少年は帰らない王の為の鞘を、二人はそれぞれの思いで、教団本部へと向かったのだった。
聖王代理のすぐ隣にいたのは樹杖型ドライバ【ブリージア】を手にしたマーリン。まだ彼の行方は掴めませんか。少し不安そうな声。大丈夫よ、私達の王は絶対に、死んでも死なないような男だから。それにね、うちの子達もあの頃より頼れるのよ。二人はにやりと笑う。そうでした、彼と、彼が選んだ部下達ですもんね。
もうすぐだよ、もうすぐ彼がここに来る。そう語りかけたのは水波神。堕水才シュレディンガーは、蒼き兄弟が再会する、その時を心待ちにしていた。あの日に溺れた初恋、彷徨い続ける狂気の海、二つに割れた恋が一つに重なり合う時、沈む先は空か海か。そして、溺れ続けた初恋に、最後の答えを出そうとしていた。