聖なる扉へと向かう風を纏いし少女の前に立ち塞がったのは、鎧型ドライバ【リューベック】を纏いし乙女、ホルステン。もし、開かれた扉の真実を知る覚悟があるのであれば、その覚悟をみせなさい。ぶつかり合う二つの竜巻。ここは私ひとりで大丈夫だから。数多の戦いを潜り抜けてきた少女の瞳に、迷いはなかった。
竜巻が止んだ時、そこには【リューベック:ツヴァイ】を纏ったホルステンと、扉への片道切符を手にした少女がいた。風を乗せた夜汽車は空を翔ける。車中、自らをノアの一族だと名乗った彼女は告げる。聖王の扉到達の為の犠牲と、道化の魔法使いに拾われた少女の存在を。今なら、まだ。夜汽車は空へと加速した。
ここは、聖なる扉へと向かう風の夜汽車の発着駅。そして、扉へと到達する資格を持つ者の前にしか現われることのない、夢幻の駅。その扉行きの夜汽車に乗る為には、入り口に待ち構えている門番からの試練を突破しなければならないという。
見つめ合う妖精王と幻奏者、一列に並んだ六色の女王。ただ息を飲みながらその光景を見守ることしか出来ない光を宿した乙女達の前に突如して現われた大きな光。それは鎧型ドライバ【サロモン】を纏ったハールレムだった。さぁ、早く乗り込んで。光の夜汽車は空を翔ける。お待ちなさい。美しき声は遠くに聞こえた。
あなた、ノアの一族ね。核心をついた光精王。君を聖なる扉へ届けるのが、私の使命だから。ハールレムは光の少女を見つめていた。だとしたら、その前に寄って欲しい場所がある。光精王が語るのは歪な平和の歴史とその裏の都合の良い犠牲。【サロモン:トゥエイ】を身に纏った青年は、行き先を天界へと変えた。
大きな光の中から現われたのは、聖なる扉行きの夜汽車を止めた夢幻の駅。行き先は出口なのか、それとも入口なのか、それは辿り着くまで知らされることはなかった。何故ならそこは、人によっては出口でもあり、また入口でもあるからであった。
聖なる扉へ辿り着くことが出来れば、再び父に会うことが出来るだろう。そう確信した炎を灯した少年達の前に現われたのは、鎧型ドライバ【アカオニ】を纏ったサクラダだった。見かけによらず、ファザコンなのね。何て言われても構わないさ。父から譲り受けた甲型ドライバは、いつになく激しい炎を点火させた。
炎と炎はより強い炎となり、辺りを熱気で包んだ。揺らぐ視界の果て、そこには既に【アカオニ:弐式】を解いたサクラダと、消えることを忘れた炎を灯した少年がいた。もー、降参だってば。少年を乗せた夜汽車は聖なる扉へと。きっとそこに父がいる。いつかのお返しをする為に、右耳を飾った茜色は揺れていた。
燃える炎の果て、熱気で揺らぐ視界、微かに捉えることが出来たのは一つの駅。シンキロウでもカゲロウでもなく、そこに駅は存在していた。そう、夢幻の駅は存在していた。もし立ち入ることが出来れば、聖なる扉へと辿り着く足がかりとなるだろう。
無に帰すことが叶わなかった白い日の約束事、肩を落とした少年の前、何も無かったはずの空間に、何事も無かったかの様に夢幻の駅が存在していた。汽車から降り立ったのは鎧型ドライバ【イバラキドウジ】を纏ったラショウ。漢が何を落ち込んでおる。俺の気持ちがわかるのかよ。恋に破れた少年は、斧を振り上げた。
少年は恋に打ち破れ、そして【イバラキドウジ:弐式】を纏ったラショウを打ち破った。そなたを送り届けよと、我らが古の竜王より仰せつかっておる。男が差し出した手を拒み、決意の眼差しを返す少年。おかげで目が覚めたよ、俺にしか出来ないことをするんだった。少年は汽車に乗らず、自らのその足で歩き出した。
何も無かったはずの場所に、何事も無かったかのように、何の変哲も無い駅が存在していた。何故その場所に駅があるのか、何の為に駅が存在するのか、その理由は一体何なのか、その全てを知ることが出来た時には、聖なる扉へと辿り着けるだろう。
水を留めた少年達の前に現われたのは獣耳の少年。俺っち、アンタを聖なる扉へ届けるよう、竜王様から言われてるんだべ。鎧型ドライバ【レティーロ】を纏った獣耳のアルカラはそう告げた。その前にまず、試験だべ。小柄な体に大きな斧、水を留めた少年は、先に扉へと向かった一人の勇敢な少年を思い出していた。
アンタ、つえーな。【ドス:レティーロ】を解いたアルカラは少年達を夜汽車へ乗せた。揺れる景色、向かうは聖なる扉。そして車中、彼は少年へと扉付近で起きている出来事を伝える。それぞれが、それぞれの目的の為に、起き続けている悲劇を。そして、言葉は続く。そうそう、アンタの弟も聖なる扉へ向かってるべ。
水は幾つもの川を流れ、そして、やがて母なる海へと辿り着く。それと同じくして、この夢幻駅からの夜汽車は、幾つもの空を流れ、そして、やがて聖なる扉へと辿り着く。ただそれは、この駅に辿り着き、そして、夜汽車に乗ることが出来たらのお話。
自由と引き換えの約束を果たそうとする堕ちた獣と、闇を包んだ少女達の前、深く暗い紫から現われたのは、鎧型ドライバ【アッピア】を纏った第零世代人型ドライバ【ラティーナ】だった。アナタヲ、セイナルトビラヘ、ツレテイク。丁度良かったわ、その汽車、乗せて行ってもらえるかしら。少女の瞳に闇が見えた。
シケンノ、トッパヲ、ミトメマス。【アッピア:ドゥーエ】とその闇を引き裂いたのは奈落の大蛇だった。セイナルトビラヘ、ムカイマス。告げられた行き先。違うわ、魔界へ向かって頂戴。遮った行き先。闇を包んだ少女は、聖なる扉の真実ではなく、幼き日の約束を果たそうと、自らの失くした記憶を求めていた。
突如、深い闇が訪れる。それは朝であろうと、昼であろうと、夜であろうと、陽の光など関係なく訪れる。迷い込んでしまったら二度と出ることの出来ない闇。だけど、その闇の奥深く、聖なる扉行きの夜汽車を止めた夢幻の駅は確かに存在していた。