燃えたぎる炎、それは炎の祝福。火想郷<アルカディア>で紅蓮に包まれたヘレネは、灼熱の炎浴を思う存分楽しんでいた。そんな時、遠く離れた魔界<ヘリスティア>の黒の森から届いた噂、新しい赤の女王の選出。幼き日、一度だけ交えた悪しき炎を思い出し、そして、その悪しき中に感じた正義を思い出していた。
魔界<ヘリスティア>から立て続けに届いた新女王の即位の知らせがヘレネの炎を燃やした。この統合世界<ユナイティリア>で何かが起ころうとしている。祝福を受けた炎の美女は、新しい女王の真意を確かめに、単身魔界<ヘリスティア>へと。そんな燃える彼女の紅蓮の赤色に誘われ、一人の炎刑者が刃を向けた。
火想郷<アルカディア>に位置した燃えたぎる炎に包まれた浴室、閉じたカーテンを開けばそこに、彼女が待っている。炎の美女が求めたのは、これから起きようとしている真実。温かなその手をとり、魔界<ヘリスティア>の新女王連続即位の真意へ。
全てを魅了するのは、わざと乱した着物からこぼれ出る色香、水も滴るいい女、オノノコマチは自らの麗しさに酔いしれていた。だけど、そんな天界の憧れの的はたった一人の、なびく素振りも見せない男への不満に口を尖らせた。そしていつか、その留めた水に自分を映すことを企て、尖らせた口で笑みを浮かべていた。
幼馴染でもあり、また良きライバルでもある水の大精霊と、一人の水を留めた少年をかけた勝負が始まった。どちらが先に、彼を振り向かせることが出来るのか。幼さの残る笑顔か、それとも大人の色気香る微笑か。当の少年の嫌そうな顔は、水の美女オノノコマチにとって、今となってはご褒美の様に感じるのであった。
滴り落ちる雫を辿り、招かれたのは水の美女の待つ浴室。火照った身体を落ち着かせる冷ややかな水の調べと、水も滴るいい女のおもてなし。だけどそれは、飛沫舞い踊る戦い。冷ややかな浴室が熱を帯びた時、浴室はただの戦場へと変わる。
数年前の出来ごと、精霊会議にて議決された一人の妖精の天界<セレスティア>追放。反対に票を投じるも、守ってあげることが出来なかった後悔が、今でもヨウキヒを追いつめていた。同じ優しさの風や厳しさの風に吹かれて育った仲間との別れ、彼女は大切な人を失って初めて、天界の作られた歪な平和に気が付いた。
犠牲の上に成り立っていた平和、それは外から見れば喜びに満ちた世界なのかもしれない。だけど、少なからず、都合の良い犠牲は存在していた。天界<セレスティア>の歪な平和の真実を追い求めた風の美女ヨウキヒに、ひとりの天才が囁く。だから私は片目を閉ざした、大切なのはいつも、隠された裏側だから、と。
心地良い風を感じることの出来る浴室に、突如として厳しい風が巻き起こる。天界<セレスティア>の平和の歪さに気付いた風の美女は、平和の裏に隠された全てを解き明かそうと、都合の良い犠牲を守ろうと、新しい風を、現実の風を起こしていた。
笑顔の絶えない永遠郷<シャングリラ>に位置した光の美浴室にて、カタリナは光の祝福に包まれていた。続く争いの最中、ひと時の休息、彼女にとってはこの上ない至福の時。そんな彼女だけの時間に訪れた、予期せぬ来訪者。紫色のバラの花束を抱えた男性、すかさず投げつける桶。彼女には、何の悪気もなかった。
カタリナが光の美女へと成長を遂げた頃、よく目撃していたはずの男を見かけることはなくなっていた。目が合えば頬を赤らめ、そしてすぐに姿を消していた一人の男。ただ、彼女はそんな男に一度も話しかけられたことはなかった。最後に見たのはいつだったか。辿った記憶、最後の場面は、浴室の湯気でぼやけていた。
訪れたのは、優しい光に包まれた浴室。待ち構えていた光の美女は、ただのんびりと日向ぼっこをしていた。彼女には何の悪気もなかった。ただ、時として悪気のない行為が、結果として大惨事になることを、彼女は後になって知るのだった。
優しさに包まれた天界<セレスティア>の夜、クレオパトラの友人が一人、行方をくらませた。彼は非常に頭が良かった。ただ、その分、頭が悪かった。単なる家出かもしれない、だけど、彼女の胸には嫌な予感がよぎっていた。彼の持つ純真な想いが、悪意に染められてしまったら、彼女の友人は、頭の悪い天才だから。
行方不明の友人の手掛かりを見つけたのは魔界、上位なる存在が彼の手を引いていた。そして、その上位なる存在が手を引いたのは彼だけではなかった。闇の美女クレオパトラは、もう一人の手を引かれた存在、常界へと甘い悪意を送り込んだ一人の悪魔を包む闇と、その闇に溶けた本当の闇へと辿り着こうとしていた。
しっとりとした闇の中で安らぎを提供していた浴室。そんな場所で待ち構えていた闇の美女は、行方をくらませた友人の捜索に大忙し。見つけた手掛かりが、単なる家出と思われていた事件の裏に潜む大きな闇に通じた時、彼女は既に浴室を離れていた。
二人のワガママ王子と共に育ったエリザベートにとって、波乱万丈な非日常こそが日常だった。些細なことで殴り合いの喧嘩をする二人と、それを止めようとする一人。だけど必ず、最後には一緒になって笑っていた三人。全ての争いが終わり、また三人揃って子供の様に笑い合える日を、彼女は心待ちにしていた。
自らの産まれた世界を守る為、一人の王子は常界へと帰った。そんな彼を気遣って、もう一人の王子も常界へと降り立った。しかし、届いてしまったのは一人の王子に仕えるはずだった妖精の開花の知らせ。無の美女エリザベートは焦る気持ちを落ち着かせる暇もなく、二人の王子を、大切な幼馴染を追いかけて常界へ。
無の浴室で待っていたのは二人の幼馴染の安否ばかりを気にかけていた無の美女。いつか子供の頃の様に全力で喧嘩をして、そしてまた、最後には笑い合うことが出来るのなら。そんな遠い日の思い出を守る為、彼女は戦いへの覚悟を決めたのだった。