降り出した雪、色めく街並み、恋人や、大切な家族と、各々が愛しき人達と過ごす聖なる夜、スノウマンはひとりぼっちだった。きっと君は来ない、わかっていながらも、用意したプレゼント。目の前を横切る人波に探した後ろ姿、それは、いつかマフラーを巻いてくれた、笑顔の似合う金色の髪した大人の女性だった。
セイントスノウマンになることが許された聖なる夜、今年も渡せないプレゼントを、いつまでも手放せないでいた。手放してしまったら、全てが終わってしまいそうだったから。初めて優しさをくれたあの人に、伝えたかった感謝の想い。そんな時、通りがかった笑顔の少女、感じた面影、15年の想いは、世代を越えた。
きらきら、きらきら、粉雪を照らす星の煌めきの下で、ティンクルは恋焦がれていた。恋人がサンタクローズ、だなんて言うことが出来たら。2年前に姿を消した想い人を、いつまでも想い続ける星の妖精は、既に自分が忘れ去られてしまっているだなんて、考えもしなかった。それでも彼女は、今も想い人を待っている。
乙女にとって、好きな人がいる、たったそれだけが、力になる。聖なる夜、セイントティンクルとなった星の妖精は、今もまだ帰らないでいる想い人を待っていた。今年こそはきっと、自分に会いに来てくれると信じて。そして、20時を越えた頃、鳴り響いたチャイム、それは、隣のおしゃれな妹が待つ家だった。
流れ出したクリスマスキャロル、未だに出せないでいた答え。降り出した粉雪に、消える足跡。それはまるで、自分の存在理由が消されるような感覚だった。頭に乗せたプレゼント、本当にこれでよかったのか。今から行われる裏切り、薄れていく存在理由、ブーツンは未だ、答えを出せず、その場から踏み出せずにいた。
悪魔にも似た牙、それは裏切りの代償。聖なる夜、選んでしまったのは、救いの手ではなく、悪魔の手だった。堕ちた心、薄れる意識。だけど、それでも聖女は彼を見放さなかった。悪しき力を浄化する為に、自らを傷つけた聖女。その代償に、戻ることの出来た世界。セイントブーツンのプレゼントは、ようやく届いた。
12月24日、聖なる夜、彼女は鐘型ドライバ【ジングル】を鳴らし、自立型ドライバ【レインディア】と共に、粉雪舞う空へ。蒼のクリスマスから行方をくらませた兄に代わり、恵まれない子供達へプレゼントを運ぶ。今もまだ帰らない兄の無事を想い、イヴは星に願いを込めた。今年こそは、ただそんな気がしていた。
ひとりきりの聖なる夜、不意に鳴ったチャイム、だけど、玄関には誰もいなかった。そして、玄関とは反対の部屋の奥、聞こえてきた物音。【ジングル・ベル】を鳴らし、【レインディア・ホーリー】と共に駆け出す。煙突から転がり落ちた2年ぶりの兄を見て、今までで一番の笑みを浮かべたイヴは、まさに聖女だった。
降り始めた粉雪、煌めいた街燈、踊り出した街並み。今日は1年に1度の聖なる夜。穏やかに行き交う人々は皆、幸せを浮かべていた。今日こそ、サンタクローズに会えるんだ。ありきたりな願い、だけど、それは少女にとって、心からの願いだった。