私はいったい、誰に仕えればいいのかしら。まだ花開くことのない彼女は、無の大精霊に尋ねた。告げられたのは、聞き慣れたひとりの男の名前。プチユリが花開く時、それは仕えた者の最期の時。そして、それはその者が無に帰す時。彼女はそれが、何を意味するのかもわからず、ただ、告げられた男の元へと向かった。
告げられた名前を手掛かりに、ひとりの男へと辿り着いた時にはもう、遅かった。男が向かった先、それは、触れてはいけない聖なる扉<ディバインゲート>の真実。黒から白の隊服へと着替えたその意味を知り、自ら花開き、シラユリとなった妖精は、会うことの叶わなかった仕えるべき男へ、涙とその身を献げた。
2年前の聖なる夜、サンタクローズは姿を消した。彼が訪れた民家で、目にしたのは蒼い水の飛沫、聞こえたのは悲痛な叫び。初恋を覚えたひとりの天才を追いかけて、また、その裏に隠された真実を紐解く為、自らの仕事を投げ出した。怒りに震えた彼の袋型ドライバ【プレゼント】には、何が詰め込まれているのか。
2年間、それは決して無駄ではなかった。紐解いた真実、見つけた鍵。後はオマエに任せたから、そう言い残した聖者は、旧友に想いを託し、理想郷に別れを告げた。そろそろ妹の顔でも見に行くか、2年ぶりに思い出した存在、今日は丁度、聖なる夜。解けた【マッド・プレゼント】から溢れた玩具を連れて、家路へと。
閉ざされた部屋、はめられた拘束具、繋がれた鎖、繰り返された生体実験。それにしても、今日はやけに静かな日だ。ナマリは鉛色の壁を見つめ、そっと呟いた。その矢先、鳴り響いた鈍い殴打音。悪いけど、ちょっと手伝ってくんねーかな。乱暴に壊された檻の鍵、開いた扉から差し伸べられたのは、聖者の手だった。
瞳に映る全てをなぎ倒す派手な脱獄、看守へ愛を届ける聖者に手を引かれていた拘束から解き放たれた無拘獣ナマリ。もう、時間がないんだ。こぼした焦り。なぜ、そんなに急ぐの。彼女の問いかけ。もしアイツが、鍵の使い方をわざと間違えでもしたら。それはもしもの話、だけど彼女はそれは確信であると悟っていた。