数多の因果が絡まりあい、生まれてしまった禁忌の子。そして、沢山の愛情に包まれながら、生きてしまった禁忌の子。だからこそ、その子だけは理の外側にいた。そうさ、俺に出来ることは、もう少ししか残されていないんだ。それは、なんのためか。
それとも、誰のためか。ただ、アーサーは終わりゆく世界を見つめながら、自分のやるべきことを見据えていた。どうか、世界が平和でありますように。それは、いつか彼が抱いていた希望。どうか、世界に幸せが溢れますように。それもまた、希望。
少しずつ、近づく足音。その音は7つだった。ようやく、あいつらが来たみたいだ。真剣な表情だったアーサーの口角が少し上がる。彼らは、希望だろうか、絶望だろうか。そう言葉を口にしたのは、音もなく現れた創醒の聖者。さぁ、どっちだろうな。
世界の終わりというのは、いつも悲しいものだ。無表情のまま、似合わない言葉を口にした創醒の聖者。君はいま、どちらを見つめている。アーサーのほうを向くことなく、問いかけたのも創醒の聖者だった。俺が見たい景色は、昔もイマも変わらない。
そして、創醒の聖者は続けた。幾重にも連なった悲しみの連鎖、それを終わらせることなど出来はしない。だが、それでも君が望むのなら、その世界を見せよう。映し出された世界。これが君の理想とした世界だよ。そこにはひとつの扉が浮かんでいた。
ただ、なにもない空間。浮かんでいた扉。その扉は瞳にも似ていた。そして、その瞳にはなにも映ることはない。これが、私たち聖なる扉<ディバインゲート>が見つめる世界だ。私たちの瞳には、決してなにも映らない。世界の歩みは止まるのだから。
悲しみの連鎖が途切れること、それは世界の進歩を止めるに等しいこと。だから、その世界にはなにも存在していない。その世界は絶えるのだから。だからこそ、私たちは世界を創り直す必要がある。そう、これは生きとし生ける命のためなのだから。
そうだな、俺もそうだと思う。そう答えたアーサー。いや、思っていた、と言ったほうが適切かもしれないな。そう言い直したアーサー。いいや、いまさらなにを言っても変わりはしない。そう続けたアーサー。君はいったい、なにを思っているんだい。
俺は俺の、成すべきことをするだけさ。それが、この世界の終わりだと知ってのことか。あぁ、それでも俺は構わない。たとえ世界が果てようと、それでも新しい芽は生まれる。やがて、花は開く。俺はその可能性を信じる。それが俺の見た希望だ。
そんなことのために、君は自分を犠牲にするというのかい。アーサーから抜け落ちた感情。失われていた自己愛、残されていた慈愛。そう、それこそが世界の理の外側の存在であるがゆえ。ようやくわかったよ。君という存在は、世界に存在していない。