植えつけられた神格と引き換えに、失われゆく自我。そうだよ、もうすぐ世界は終わるんだ。自我なんか持ってたら、死ぬとき怖いじゃないか。だから、僕が忘れさせてあげるんだ。ほくそ笑んだ終教祖。そして生まれた南魔神アザエル。君は神様なんだよ。神様は、世界を創るべき存在なんだ。さぁ、共に創り直そう。
西魔神エギュン、彼もまた神格と引き換えに自我を失っていた。だが、神格を得ることと、自我を失うことはイコールではない。自我を失う、いや、自我を奪うという選択をしたのは終教祖だった。僕以外に、存在価値なんてないんだから。また、ご冗談を。相槌を打った執拗竜。だが、終教祖の目は笑っていなかった。
本当は笑いたかったのかもしれない。叶わない現実。本当は生きたかったのかもしれない。叶えられない現実。本当は、本当は、本当は。だが、終教祖により抑え込まれた本当。そう、嘘を突き通せば、それは本当になるんだよ。だから、東魔神サマエル、君は嘘を突き通してよ。ただ世界を壊したいという嘘を。
僕は君たちに約束しよう。終教祖が差し出した掌。必ず、新しい世界を創ってみせると。その約束は、終教祖の心からの想いだった。だが、その約束には犠牲が必要とされた。ねぇ、北魔神マハザエル。君に新しい世界を創ると約束したけどさ、新しい世界に連れて行くとは言ってないよ。可愛い可愛い、ボクの僕ちゃん。
やっと見つけた。天界のはずれ、ひとりで空を眺めていたモルガンの前に現れたのは聖精王だった。少しだけ、話をさせてもらえないかな。ふたりがどんな会話をしたのか、再会を果たした親子の会話に、聞き耳をたてるものはいない。だが、かすかに聞こえてきた言葉。ありがとう。ごめんなさい。そして、さようなら。
研究所をあとにし、常界に訪れるであろう因縁へとの戦いに向かったヒスイとリヴィア。そして、そんなふたりの目の前に現れた少女。丁度いい、そろそろお前に会わなきゃと思っていたんだ。そして、ヒスイは目の前の少女、シオンへ棍を向けた。
兄さん、どういうつもりなの。妹であるシオンへと向けられた棍を前に、驚きを隠すことの出来ないリヴィア。いや、これでいいんだ。多くを語ろうとはしないヒスイ。そして、武器を構えることのないシオン。お兄様、どうして、なぜなのでしょうか。
なぜ自分に棍が向けられているのか、理解出来ないのはシオンも同じだった。どうしてって、そんなの答えは簡単だ。お前は聖人であり、世界の決定に従う。そして、俺はその決定に背いている。だからこそ、俺たちが戦うことになるのは必然だろう。
そっちがその気じゃないのなら、こっちから始めさせてもらうぜ。ヒスイは目にも留まらぬスピードでシオンへ距離を詰める。そして、シオンが咄嗟に起動させたドライバ。そうだ、それでいい。聖人として、俺を止めればいいんだ。全力で来いよ。
刃を交える兄ヒスイと妹シオン、そして止めることなく見つめるリヴィア。なぜ、互いに想い合う兄妹が争わなければいけないのだろうか。やがて、リヴィアが気づいた戦いの意味。だから、兄さんは。そう、この戦いには確かな意味が存在していた。
強くなったじゃん。シオンの鍵爪を受け止めたヒスイは嬉しそうだった。だったら、こっちも本気出さなきゃ失礼だよな。シオンを襲うのは多節に別れた棍。どうしてなんですか、お兄様。それでもなお、シオンはこの戦いを認めようとはしなかった。
お前は初めから生贄だったんだよ。ヒスイの告白。俺は俺のやりたいようにやる。そのためには、ウチから聖人を出す必要があった。だから、お前に生贄になってもらったんだ。その言葉に、思わず笑みを浮かべたシオン。お兄様は、嘘が下手ですね。
だが、その下手な嘘はシオンに戦う決意をさせるには十分だった。お兄様がそこまでして、私と戦うというのであれば、私は全力で戦わせてもらいます。そうだ、それでいい。再び交わる刃。ふたりは全力で戦いながらも、どこか楽しそうにみえた。
聖人と竜神の力のぶつかり合い、それはふたりが互いに集中していなければ、常界に多大なる被害をもたらしていただろう。だが、互いを想いやるふたりには、互いの姿しか瞳に映りはしない。さぁ、これで終わりだ。先に膝をついたのはシオンだった。
じゃあな。シオンを労ることなく去るヒスイ。シオンへ駆け寄るリヴィア。明かされる真意。闇聖人は裏切ることなく、世界の決定に従った。もし僕たちが決定者に敗れても、君は罪に問われない。そう、どう転んでも、兄さんは君を守りたかったんだ。