9回裏、3対0、2アウト、ランナー満塁、一打逆転の好機。告げられた代打。バッター、統合世界一バットの似合う男、サンタクローズ。沸き起こる歓声。1球目、立ちあがるキャッチャー。スタジアムの誰しもが察した敬遠。それでも俺は打ってみせる。2球目、振りぬかれたバット、白球はフェンスを越えて、今。
少年に与えられた名前、アルトリウス。それはかつて存在したとされる偉大な王の名前。そして、少年にとっての新しい始まりの名前。少年はその名に恥じぬように、王になろうとした。その道は険しかっただろう。だが、それでも少年は王道を歩き続けた。それこそが、自分がこの世界に生まれた意味だと信じ続けて。
やがて時は経ち、少年は青年へ。青年が歩む王の道、付き従う12人の騎士たち。青年はかつて、自分が新しい始まりを与えられたように、12人へ新しい始まりを与えた。あぁ、俺はお前たちがいたから、ここまで歩いて来れたんだ。そして、それは騎士たちも同様。俺たちも、アンタがいたから、ここまで来れたんだ。
そこにはひとつの円卓があった。そこにはいくつもの想いがあった。そこにはいくつもの覚悟があった。そこにはひとつの誓いがあった。そこにはひとりの王様がいた。そこにはひとつの愛があった。そこには12人の騎士がいた。そこには沢山の笑顔があった。始めよう、俺たちの晩餐を。そこには最後の晩餐があった。
目覚めなさい。聖暦という時代に、統合世界に生まれたロキ。いや、選ばれたというほうが適切だった。あなたは今日から私の息子よ。人間という身体に植え付けられた神格。あなたは自由に生きていい。その神格がすべてを教えてくれるから。そして創られた神は、存在しない証拠を隠すために仮面をつけたのだった。
ラウフェイは耳を澄ます。届けられる世界の決定。初めから決められていた時代の流れ。世界は何度も壊れ、そして修復されるたびに強くなる。そう、いまも昔も、こうやって私たちは世界を導いてきたのだから。それこそが、生きとし生ける者の最大の幸福だと信じて。犠牲のうえには、更なる未来が広がるものなの。
決定者たちがいつから存在していたのか、それは聖人会議長であるラウフェイですらも知らない。だが、誰が世界の決定を下しているのかは知っていた。創醒の聖者と、そのすぐ下に位置する2人。裏切り者の1人。そして、新たに生まれた例外である4人目の決定者。私は知りたい。新しい決定者が生まれたその意味を。
六魔将のひとり、ヒメヅルぼんだぼん。その名前は一等悪魔に昇格したときに貰った妖刀型ドライバと同じなんだぼん。だいたい同じタイミングで大事な友人も昇格して再会したんだぼん。昔の記憶によるともっと友達いた気がするけど、まぁ、細かいことはいいぼん。魔界の女王のために、まじめにいっぱい働くぼーん。
六魔将の美人姉妹のひとり、ムラサメぼんだぼん。妹と仲良く一等悪魔へ昇格したんだぼん。愛する妹と喜びを分かち合っていたのに、いきなり不夜城に呼びつけられたぼん。妹との逢瀬の邪魔は絶対許さないぼん。でも、新しい女王様も気に入ったぼん。ひとまず、妹と一緒に頑張ってみることにしたぼーん。
風の噂の六魔将、ヤスツナぼんだぼん。なんか顔は良いけど残念な悪魔と噂されてるぼん。きっと褒め言葉だぼん。集合時間に遅れて行ったら、その後の記憶を失くしたぼん。でも、きっと真実は風が教えてくれるはずぼん。出血が酷いけど、それもきっと風の涙だぼん。とりあえず言ってみたけど、よくわかんねぇぼん。
最年少で六魔将入りを果たしたライキリぼんだぼん。親友たちにも報告したぼん。そしたら、それよりも女の胸の方が百倍良いさって言われちゃったぼん。そ、そんなわけないぼん。そんなこと言ってるから昇格出来ないんだ、って言ってやったぼん。でも新しい魔女王様を見たら、少しだけその気持ちがわかったぼーん。
六魔将の美人姉妹のひとり、ムラマサぼんだぼん。妹のほうだぼん。愛する姉と一緒に一等悪魔へ昇格できて喜びを分かち合っていたら、なんか面倒な召集受けたんだぼん。激おこで姉妹揃って斬り込んだけど、新しい女王様は悪くなかったから許してあげたぼん。姉と一緒になら何も文句無いから仕えてやるぼーん。
渋い漢の六魔将、ナキリぼんだぼん。六魔将の中では最年長だぼん。年の功から、集合した面子を見て、ただ事じゃないと悟ったぼん。なんか戦争になりそうな雰囲気でやばいぼん。あと何処で何やってるか知らないけど、風来坊の愛弟子がいるぼん。戦争で相対しちゃったら、手加減なしで戦うと約束してるんだぼーん。
いつもどおり決まった席につく。その席は誰かが決めたわけではない。ただ、互いが互いを考え、そして自分という存在の役割を理解しているからこその席。ひとりひとりが組織と自分を理解している。そこには言葉に出来ない信頼関係が存在していた。
円卓を囲む沢山の笑顔たち。その笑顔には様々な意味が存在していた。過去を思い返す笑顔。いまを楽しむ笑顔。明日を信じる笑顔。各々が浮かべる笑顔。並んだ13個の笑顔。彼らは別々の13人という存在でありながらも、ひとつの存在だったのだ。
今日という日は特別だった。この中で、いったい何人が気づいていただろうか。今日という日を、彼が最後にするつもりだと。最後の晩餐にするつもりだと。だからどうか、いまという時間だけは心から楽しんで欲しい。最後の晩餐は彼の贈り物だった。
僕は彼の力になれたのでしょうか。膝をついたアサナは問う。あぁ、アンタは立派だったよ。ライルが投げた労いの言葉。アンタがいたから、みんながここにいる。それはきっと俺も同じだ。こうして、始まりの0人目は9人目によって敗れたのだった。
息をあげながらも倒れたミレンを見つめるリオ。最後までリオが袖を通すことのなかった新しい隊服。だけど、私たちは同じなのよ。道は違えど、あの人の為に精一杯戦ったんだから。1人目は倒れ、11人目は喜ぶことの出来ない勝利の中にいた。
ありがとうな、じーさん。ギンジは倒れたブラウンへ背を向けていた。そう、それでいいんだ。振り返らずに、真直ぐ進め。唇を噛み締めるギンジ。あぁ、俺には迷ってる暇なんてないんだ。こうして、2人目は戦場で青年に未来を託したのだった。
レオラの想いは、きっと伝わってたよ。アカネがかけた優しさ。そしていつかのように抱きしめる肩。ありがとうございます。俯きながら溢した言葉。敗北を認めた3人目は、涙を必死に堪えていたのだった。大好きなあの人を、よろしくお願いします。
銃砲を支えに、膝をつこうとしないローガン。どこにそんな力が残ってるんだよ。アミラスには理解出来なかった。ここで倒れでもしたら、ボスが帰ってきたときに顔向け出来ないからな。4人目は最後まで膝をつくことなく、瞳を閉じたのだった。
瞳を閉じていたフェリスの顔は喜びにも似ていた。きっと、夢を見ていたんだろう。最愛のパパとの出会いの日を。そして、5人目の幼い少女が夢に見続けていた日。最愛のパパとの再会の日を。パパ、私は最後までパパの立派な騎士だったんだよ。